「タイトル未定 あとがき ID:4Z9SIohi0」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

タイトル未定 あとがき ID:4Z9SIohi0」(2009/08/06 (木) 22:44:26) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

113 :タイトル未定:2009/08/04(火) 00:05:14.80 ID:4Z9SIohi0 ――ザパーン この音を聞くのは、何度目になるのだろう。 途中から回数を数えるのにも飽きて、でも他にできることもなく。 俺は無情に過ぎていく時間を恨んだ。 「……どうしてこうなった」  この台詞を言うのにも、もう飽きてきた。  状況を認識してから、何度も言い続けてきたためだろう。   「……一体どういうことなのでしょう?」  声に振り返ると、そこには金髪の美少女が立っていた。  どうやら、彼女も状況の認識を終えたらしい。 「気は済んだか?」 「はい……もう受け入れざるをえませんね」  お手上げ、というジェスチャーをしてみせる少女。  俺はそんな彼女に溜息をついてみせる。  そう。疑問を抱きながらも、理不尽を認めなくてはいけないときが  あるのだ。 「意外に諦めがいいんだな」 「仕方ないじゃありませんか」  どちらからともなく、苦笑を洩らす。  もう、仕方無いのだ。どうにもならないのだ。  オーケー、はっきりと言おう。  俺たちは、無人島にいた。 129 :発端:2009/08/04(火) 00:23:58.86 ID:4Z9SIohi0 「……続きまして、次のニュースです。琴吹グループの社長である――」  ブチッ!  テレビのスイッチが切られた。 「なにすんだよ、親父! 俺、ニュース見てるところなのによ!」 「ふん、琴吹の名前など聞きたくないわ!」  グビッとビールを飲み干す親父。  そんなふるまいを見て、俺は軽く舌打ちをする。    親父が琴吹グループを何で敵視しているのか?  その理由は単純明快。自分たちのグループの目の上のたんこぶのような存在だからだ。 「自分のグループがトップに立てないからってそんな風にされてもなあ……」  俺は親父に聞こえないように、ひとりごちる。    トップに立つということ。それを目指すのは決して悪いことではない、はずだ。  しかし、親父のようにトップの座に固執しすぎるというのは、無しではないか。  いくらなんでもみっともない。 「……部屋に行くよ」  いまだビールをグビグビとやっている親父に声をかけ、ドアへと向かう。 「――なあ、息子よ」  ドアを開けて廊下に出ようとしたところで、ふと声をかけられた。 「なんだ?」 「……何が起きても、戸惑うなよ。とにかく考えろ」 「はあ? いきなり何を――」  しかし、親父はもう答えてはくれなかった。 133 :発端:2009/08/04(火) 00:29:42.71 ID:4Z9SIohi0 「いったいなんなんだか」  無駄に広い廊下を歩きながら、俺は溜息をつく。  親父のおかしな発言は今に始まったことじゃない。  それは重々承知だ。  しかし、それでも彼の発言の突飛さはどうにかならないものか。 「……わけわからねえ」  部屋に入って、ベッドに寝転がりながらも俺の気分は晴れなかった。 「――ピアノでも弾こうかな」  そう考えたりもしたが、やめた。  とにかく、だるい。親父の発言、琴吹グループ……全てが億劫だ。 「そう、寝ちゃお―」  言うやいなや、ベッドへとダイブ。そのままスースーと寝入ったわけだ。 140 :発端:2009/08/04(火) 00:34:36.89 ID:4Z9SIohi0  今思うと、このとき俺は騒動に巻き込まれたことになる。  そう、親父の発言、あの日の報道……全ては繋がっていたのだ。  そして、以上二つが発端だった。  しかし、その時の俺は考えるのをやめて、グッスリと眠ってしまった。  このとき、もう少し考えておけば、あんな状況にはならなかったのか?  いくら考えても、堂々巡り、だ。 159 :急転:2009/08/04(火) 00:48:43.29 ID:4Z9SIohi0   その日の朝、俺はいつもどおりの時間に目を覚まし、食堂へと向かう。 「おはようございます、お坊ちゃま」  食堂に入ると、コックや執事と言った面々が俺に頭を下げてくれる。  俺はそんな彼らに挨拶を返しながら、席についた。 「どうだ? 今日の調子は」  前方にいる親父が、そう問いかけてきた。 「いつもどおりだな。良くもないし、悪くもない」 「そうかそうか。それは何より」  ククッと笑う親父。見ていて気分の良いものではない。 「なんだよ、何かあるってのか?」  しかし、親父はそういった類の質問には答えてくれなかった。  ただ、意味ありげな表情を向けてくるだけだ。  結局、わけのわからないまま朝食を終える。 (なんだってんだ……)  自室で学校の支度をしながら、妙にいらいらした。  何を考えてんだ、あの男は? 「じゃあ、行ってくるよ」  俺は見送りに来た使用人たちにそう告げた。 「行ってらっしゃいませ、お坊ちゃま!」  そう言って頭を下げてくる彼らに、いつも感動する。  俺には絶対に出来ない仕事だ。 163 :急転:2009/08/04(火) 00:54:21.94 ID:4Z9SIohi0 もはやここまでくると、どこがけいおんSSだと突っ込まれてしまいそうですね。  そんな彼らに手を振りながら、俺は門を通る。 「あーっ、気持ちいい!」  体を伸ばしながらそんなことを言った。  無駄に広い屋敷から出ると、いつもちょっとした開放感を味わえるのだ。 (やっぱり、俺は普通の学生がいい)  学校の仲間を思い浮かべてみる。  どいつも俺より財力は劣っているだろう。  しかし、各々の表情から滲み出るその充足感ときたら! (はあ……こんな立場)  正直、俺は窮屈だ。  それとも金持ちになりすぎると、誰でもこんな風に思うものなのだろうか? 170 :急転:2009/08/04(火) 00:58:37.61 ID:4Z9SIohi0  テクテクと道を歩いていく。  俺の通う学校はそう遠くない。徒歩20分、というところだろうか。 「これくらいは歩かないと、な」  ふと運転手の悲しそうな顔を思い浮かべ、俺は再び溜息をついた。  俺が学校までの送迎を遠慮しているためか、彼はいつも手持ち無沙汰、らしい。 「悪いな、こんな俺がお坊ちゃまで」  自嘲する。こういうことを考えるだけでも、自分の立場は……厄介だ。 179 :急転:2009/08/04(火) 01:06:44.62 ID:4Z9SIohi0  でも、その日。  俺は哀れな運転手に送迎を頼まなかったことを、心の底から後悔することになる。 「……近道、するか」  俺は人気の無い路地裏を通ることにした。  この道を出れば、学校は目と鼻の先なのだ。  特に躊躇せず、俺はそこを通っていった。  突如、口元に何かが当てられた。 「――ッ!」  反射的に、声をあげそうになる。  しかし、それは叶わなかった。  なにせ、グイグイと強い力で押しつけてくるのだ。  考えてみれば。  もともと機会を窺って待ち構えていた者と  油断して弛緩しきっていた者とが相手になるはずもない。 「……」  自分の意識が薄れていくのを感じる。  最後の瞬間、俺が思い浮かべたのは。  ――何が起きても、戸惑うなよ。とにかく考えろ  にっくき親父の顔、だった。 189 :動転:2009/08/04(火) 01:20:28.06 ID:4Z9SIohi0  ――ザパーン、ザザ~ 「う、うう……?」  そんな音を聞いて、俺は目を覚ました。目覚めはあまりよくない。 「こ、ここは?」   起き上がり、状況を把握することにする。 「えーと、まずは周りの風景から……」    あたり一面、真っ青な海。おまけに後ろには欝蒼と茂った森。 (……)  俺は夢だと思い、再度寝た。間違ってないはずだ、うん。 191 :動転:2009/08/04(火) 01:25:15.61 ID:4Z9SIohi0 ――ツンツン (……) ――ツンツン、ツンツン 「……うわっ!」  俺は身をよじらせた。頬に感じるこの感触は一体なんだ! 「あっ、良かった。やっと起きた!」  どこか聞き心地の良い声がする。ゆっくりと、そちらの方を見た。  そこにはまるで、今まで動かなかったおもちゃがやっと動いたときのような  嬉しそうな顔をした少女がいた。  ちなみに、金髪で眉毛が太い。 200 :動転:2009/08/04(火) 01:37:08.63 ID:4Z9SIohi0 「……君は、いったい?」 「よかったー、起きなかったらどうしようかとー」  ほんわりとした声。どうやら、非常にマイペースだとお見受けした。 「とりあえず、質問に答えてほしい。君は、誰だ?」 「あっ、す、すみません。私、琴吹紬っていいます」  ふふっとほほ笑む少女――いや、琴吹。  そんな表情が堂に入っていて、どこかお嬢様っぽい。 「……あなたは?」  そう言って、まじまじとこちらを見つめてくる。 「俺は……」  そこで、一旦言葉を切る。  言っていいのか、この名前を……? 「うん?」 「俺は……」 1呼吸。そして―― 201 :動転:2009/08/04(火) 01:37:53.13 ID:4Z9SIohi0 「斎藤……それだけでいいか?」  苗字だけでいいか、という意味だ。 「うん、構わないわ……って斎藤!?」  彼女は、そこで驚いた表情を浮かべる。 「ううん、違う。どこにでもある苗字だものね……」  そして、なにやらぶつぶつと言い始めた。 (……そうだ。こんな平凡な名前のグループだから)  俺は、嬉しい。  これが奇抜な名前だったら、苗字を言っただけで大いに驚かれてしまう。 「あの、グループの!?」などと言った感じに、だ。  しかし、かの「斎藤グループ」と俺をそう簡単には結び付けられないだろう。  そう。どこにでもある苗字なのだから。 203 :動転:2009/08/04(火) 01:42:02.34 ID:4Z9SIohi0  しかし、目の前の彼女は―― (……なんでこんなに動転してるんだ?)  まさか感づいたのだろうか……いや、どこにでもある名前だ。  まず俺はお坊ちゃまっぽくは見られないはずだ。  普段の立ち振る舞いとか、その他もろもろから。  なのに、いまだにあたふたとしている目の前の少女。 「なあ、いったいどうした?」  俺はついに見かねて、そう訊いてしまった。 「い、いや! 別にどうということは……!」  絶対に何かありそうな口調で、琴吹は言ってのけた。 「わ、私の知り合いに同じ苗字の人がいるから、その」 「……斎藤なんて、どこにでもいるんじゃ」 「で、でも! 雰囲気とかが、あまりにも……」  またなにやらごにょごにょとやり始めた。  これじゃ話が進展しない。  205 :動転:2009/08/04(火) 01:46:09.78 ID:4Z9SIohi0 「なあ、少し落ち着いて聞いてくれないか」  俺は琴吹に語りかけた。 「は、はい! すみません……」   彼女も動転しすぎだと感じたのだろう。しゅんとしてしまった。 「じゃ、まず一つ目。ここはどこか、見当つく?」 「えっ……ここって、普通に島じゃ?」 「うん、確かに島だ。でもさ、ただの島なのかな?」  俺の発言に首を傾ける琴吹。 「わ、わかりません……な、何を言いたいのか」 「ここは、無人島とかじゃないか?」  俺は認めたくなかった言葉を、告げた。 209 :動転:2009/08/04(火) 01:50:19.50 ID:4Z9SIohi0 「……えっ?」  一瞬、琴吹の顔が青ざめる。しかし、すぐに取り繕い 「そ、そんなわけないですよー!」  俺に言った。 「嘘だと思うなら、島を回ってみようか?」  俺はそう言って、琴吹を誘った。  ちなみに俺自身、実際に回ったわけではない。  ただ、確信していた。この気配のなさ……ただごとでは、ない。 「わ、わかりました! い、行きましょうっ!」  琴吹の声は裏返っていた。それが彼女の動転を示している。 「よし、行くか」  こうして、俺と琴吹は島を回り始めた。 218 :動転:2009/08/04(火) 02:00:22.41 ID:4Z9SIohi0  島はそこまで大きくはなかった。一周するのに、約1時間程度。  森林の中にはたくさんの樹木が生い茂っており、自然は豊かだと言える。  森林のどこから出ても浜辺に至ることから、森林は島の中心に位置していると分かった。  ただ、そんなことが分かっても―― 「動物一匹いねえな……」  収穫は無いに等しい。 「……そ、そんな」  琴吹の声も弱々しい。俺の腕にしがみつきながら、震えている。 「わかっただろう? 認めよう」  そんな彼女を見ていると、逆に俺は穏やかな気分になる。  自分よりも動揺している人を見ると、落ち着くという心理、だ。 「し、信じられません! わたし、もう一回周ります!!」  俺の腕から離れ、彼女は森林へと戻っていった。 「あんまり遠くへ行くなよ~!」  無駄と知りながらも、俺は彼女に声をかけた。まあ、動物がいないことも  確認できたし、危険なことはないだろう……たぶん。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: