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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1247988782/l50 363 :ちょ(ryあずゆい:2009/08/13(木) 01:33:51 ID:vJH3rBFk 箸安め代わりに、ちょこっとした奴を。 タイトルが付けにくい…ちょっとした日常の一コマあずゆい…とかで ぷちん、と軽く小さな音と共に、手の甲に刺すような痛みが走った。 反射的に手を引っ込めると、今まさに纏めようとしていた髪がばさりと広がる。 やり直しか、と小さくため息をついて、そして私は初めて床に落ちる切れたヘアゴムに気がついた。 「…そっか、切れちゃったんだ」 実際、いつもの形に髪を纏め上げるなんて毎日繰り返していることであり、傍から見るよりずっとたやすいことだ。 だから、そういうアクシデントでも起こらない限り、ミスを起こしてしまうなんてことはまずない。 つまりは、最初からその可能性に思い当たるべきだったはずなのに。 「お気に入り、だったんだけどな」 別に特別なもの、というわけではなく、中学のころからずっと使っていたというだけの理由だけど。 そろそろそれが寿命を迎えることもわかっていたし、だからあらかじめ替えのゴムを用意していたりもしている。 そういうドライな自分にほんの僅かな嫌悪感を感じたりしたものの、適切な行為であることもまた確かで。 そう結論付けてしまうということは、その程度のお気に入りだったということなのだろう。 引き出しからそれを取り出して、髪を両側で結い上げる。 いつもよりも少し固めのそれは、私の髪型をいつもの形に固定してくれた。 「…そろそろ行こう。遅刻しちゃうし」 かばんを持ち、立ち上がる。最後にもう一度だけ振り返った、鏡の中の私は、いつもと変わらぬ姿で、それでも何処かやはり違って見えた。 放課後、私はいつもどおり音楽室へと向かって、廊下を歩く。 窓から差し込む光は、私の影を床に作り上げる。私の歩みに合わせて、ふわふわ動く黒い影。 丁度頭の部分の両側で、二本の尻尾がゆらゆら揺れている。 この髪形の私だからこそできる、いつものことだけど、少しだけ楽しく思えてしまう光景。 そっと、私の影をその形にしている二本のヘアゴムに触れる。 今朝下ろしたての、新しいヘアゴム。だけど、作る形は昨日までと同じ。 じっと見比べてみても、それをいつも見慣れてる私の目を持ってしても、その違いを見出すことはできない。 だけども、確かに昨日とは違うはずのそれ。 「誰も気付かなかった…な」 当たり前だけど。たとえばこれがきらきら光ってたり、特徴的な飾りでも付いていれば話は違ったのだろうけど。 少しだけ色が違うけど、それはもともと同じ色だったものの経年変化という些細なもので。 そう、スペアとして用意していたのは同じ種類のゴムだった。別に違うのでもよかったけど、そうしてしまう程度にはお気に入りだったということ。 そして、スペアになってしまったこのゴムは、私がお気に入りだと思っていたものと同じだけど違うものだということ。 ―違いといえるものは、その程度のことで。むしろ、気づくほうがおかしい、というべきなんだろう。 私でさえも、もし昨日の私と今の私をひょいっと置き換えてみたとしたら―今朝の記憶のない私を持ってきたとしたら―きっとこの変化には気付くことはないのだろうと思える。 それは何か、変な気分だった。何かもやもやしたような、そんなものが胸の底のあたりにたまっている。 だけど、それが何なのかはわからない。何かすっきりしないとしか言いようがなくて、その対処法なんてかけらも浮かんでこなかった。 仕方がない、とため息でそれを打ち消そうとして―そこで初めて私はその気配に気がついた。 今にも私を包み込もうとする、暖かくて柔らかくて、優しいものに。 364 :ちょ(ryあずゆい2/3:2009/08/13(木) 01:35:13 ID:vJH3rBFk 「あずにゃんっ!」 耳を打つその声は、何故かいつもよりもずっと心地よく私に響いていた。 同時にぎゅっと抱きしめられる感覚。直前にそれに気がついていたこともあったけど、私の体はまるでそれを、その感触を待ち望んでいたかのように、ようやく与えられたそれに小さく震えをあげる。 細胞の一つ一つがそれを最大に感じようと、ふわりと開いていくような、そんな気持ち。 「あれ、あんまり驚いてない…?おかしいなあ」 「…びっくりさせようとしてたんですか」 唯先輩らしい言動に、思わずくすりと笑みが漏れる。本当に子供っぽい理由。耳元でえへへ、なんて笑ってる顔もきっとそんな表情なんだろう。 その全てが、不思議なほど暖かく感じていた。いつもなら恥ずかしがって逃げてしまうのに、今この瞬間は自分でも驚くほど素直になっている。 同時に、胸の奥のもやもやが、いつの間にかすうって薄まっていくを感じていた。あんなに離れてくれなかったのに、こんなにもあっさりと。 まるで魔法みたい、なんてそんな感想がぼんやりと浮かんできた。ああでも、とすぐにそれは訂正される。 いつだってこの人は―唯先輩は、私にとって魔法みたいなことを何事でもない顔をしてたやすくやってのけてくれていたのだから。 それに身を委ねるように、全身の力を抜いて唯先輩にもたれかかった。 唯先輩は突然の重みによろけて、それでも私を離したりしなかった。それはわかっていたことだったけど。 今はそれを確かな形として感じたかった。 「わっ…とっ…よいしょ」 ふわりとゆれた私の体が、きゅっと確かなものに支えられる。 先輩は私を抱えたまま、何とか体勢を整えると、とすんと音を立てて廊下の壁にもたれかかった。 「どうしたの、あずにゃん?」 私の重みを支えたまま、唯先輩はそう問いかけてくる。笑顔交じりの優しい声。 私の唐突な―私を受け止めてくれようとする先輩の形を感じたいと思うただそれだけの理由で行われた、我侭な行動にも先輩は変わらない。 それに気付いているのかそうでないのか、そんなもの全てを包み込んでしまっている。 「…なんでもありません」 だから私は、今このときだけはと言い訳をつけて、それに甘えることにした。 それ以上言葉を続けず、だけど退く気配も見せず、私は先輩にもたれかかった。 小さく小首を傾げる気配と、その一瞬後に伝わる、より強く私を抱きしめてる感覚。 壁に身を預けているせいでそれに集中できるのか、いつもより深く、私は先輩に包み込まれていた。 「あれ?あずにゃん、髪留め変えた?」 「…え?」 唯先輩分の吸収に集中していた私は、ふいっと投げかけられた言葉にきょとんとさせられる。 「うん、何かいつもと違うなーって思ってたんだけど、ほら、やっぱり新しいゴム使ってる」 私を抱いていた先輩の手がひょいっと離れ、くいっと私の髪を持ち上げた。 「あ、はい…今朝切れてしまったので」 「そっかぁ…」 ぱさりと私の髪が肩を打つ。先輩がそれを離したのだろう。そう思うのと同時に、私はさっきよりも強い力でぎゅーっと先輩から抱きしめられていた。 それにびっくりして、私は思わず首だけで後ろを振り返ろうとする。そんな私の頬に、ぴたっと先輩の頬が合わせられた。 365 :ちょ(ryあずゆい3/3:2009/08/13(木) 01:35:55 ID:vJH3rBFk 「だから、あずにゃんは寂しそうにしてたんだね…」 「え…?」 ほっぺの感触にとろんと溶けそうになった私の思考に、先輩の言葉がとくんと響く。 「あずにゃんずっと同じヘアゴムだったもん。お気に入りだったんだよね?」 「ええ…そうです」 まるでそれは答え合わせのよう。そしてそういう時、先輩はいつも…満点を取ってしまうんだ。 「私の胸で泣いていいんだよ~」 「もう…そこまでじゃありませんから」 多分、それは嘘だったんだと思う。本当なら、私はきっと泣いてしまいたかったんだろう。 だけど、それくらいでそうしてしまうなんてとか、そんな思いが私を押しとどめていて。 だからどこにも行けなくなってしまった気持ちが私の中でもやもやを作り出してたんだと思う。 でも、今はもうそんな気持ちはなくなってしまっていた。先輩にぎゅっとされて、それでほとんどは解消されていたんだけど。 ―今こうしてそれに気がついてもらえたところで、もうそれは完全に無くなってしまったみたい。 そう、正しくはきっと、私がそういう気持ちになっているということに気がついて欲しかったんだろう。泣いてしまいたかったのは、きっとそういうことで。 そして今、一番気が付いてほしかった人は、こんなにあっさりとそれを私に投げかけてくれた。 誰にも気付かれないはずの、そして私ですらすぐに忘れてしまいそうなそれを、唯先輩はちゃんと拾い上げてくれたから。 「もー、そんなこといって。無理しちゃ駄目だよ」 「無理してませんよ…それはもう大丈夫です」 そう、それはもう本当に大丈夫で。今じわりと溢れ出てくるものは、それとは違う理由によるもの。 唯先輩の手が、それをぬぐおうと私の目元に伸び―その隙に私はくるりと体を反転させると、きゅっとその胸にしがみついた。 「これは…ただ嬉しかったから、です」 「そっかぁ…えへへ」 少し驚かせようという思いはあったけど、唯先輩にはやはり効かなかった。突然の行動にも動揺することなく、そうっと今度は優しく私の頭を抱え込んでくれた。 ひょっとしたら読まれてたのかも、そう思うと少し悔しくもあったけど。 だけどそれ以上に嬉しかったから、私は甘える子猫のように、先輩の胸に顔を擦りつけた。 「あずにゃん」 「…なんですか?」 「新しいのも、似合ってるよ」 「…もう」 先輩はやはり、魔法使いだと思う。そうじゃないと、こんなに私を嬉しくさせてしまえることに、理由が付かないから。 ―だから、唯先輩。きっと魔法にかけられた私は、ずうっと先輩の虜なんですよ。 口にはしたりしないけど、そんな想いを精一杯こめて、先輩を抱きしめる。先輩はそんな私の頭を優しくなでてくれていて。 それはとても気持ちよくて、そして愛おしい。 だからいつか、と思う。そんな想いを一杯こめて、私も先輩に魔法をかけられたらいいな、と。 そう思いながら、先輩の胸の中、今はまだ伝えきれない言葉を小さく囁いた。

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