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603 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 18:38:42.93 ID:hOTfj7LY0 【田井中律の奔走】 「あぁ、今日も日差しが暑い…」 ある夏の早朝のこと。 私はいつものようベランダに出て朝一番の日差しを体一杯に受けていた。 「何やってんだ、ねーちゃん」 全く…いつものことながら聡は察しが悪い 「日光浴」 「にっこーよく?ねーちゃん植物だったの?」 「だーっ!んな訳ないだろっ!こうしてると目が覚めるの!」 「でもさぁ、下着姿でベランダなんて出てたら恥ずかしいだろ」 そう言って聡は部屋に戻って行った。 …って下着姿っ? 「あちゃーっ!」 まぁいっか。誰も見てなかったみたいだし。 でも、恥じらいを持たないと唯みたいになっちゃうよな。気を付けないとっ。 609 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 18:50:47.39 ID:hOTfj7LY0 「そだそだ、澪はもう来てるかな?」 学校の支度を済ませた私は階段をぱたぱたと降りて行った 「おーい、律」 あ、もう来てるみたいだ 急いで玄関の扉を開くと、目の前には澪が立っていた いつもと同じ黒のストレート。それが澪のトレードマークなのだ 「ごめんごめーん、遅くなっちった」 「全く…まぁ、今日はあたしも来るの遅かったし」 「あら、珍しいことね、みおちゃん」 私は思わずおどけてみせたつもりなんだけど 「もう…オマエとは違うんだよ」 と、軽く頭に打撃を食らってしまった。いてて… 615 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 18:56:18.36 ID:hOTfj7LY0 「そうえいば、新しい歌詞はまだ出来ないの?」 「まだ…そうだ、たまには律が書いてみたらいいんじゃないか?」 「そうやって話をそらさないっ!」 「うぅ…りつぅ…おねがい…」 そう言って澪は目をうるうるさせながらこっちを見てくる 可愛いんだけど…なんか締め切り間際の漫画家みたいだ 「書いてやらないこともないけど」 「ほ、ほんとっ?」 「その代わり、次の本番は澪がボーカル担当しろよ」 いい加減澪の恥ずかしがりを直してやらないと、こっちまで困るからな… 「そ、それならやっぱり自分で歌詞書くよ…」 はぁ…なら最初から他人を頼らずに自分で書いてほしいもんだ。 「とりあえず、今週中には完成させないと曲が作れないんだぞ」 「わかってるよ。頑張るから」 「はぁ、これじゃ田井中律の憂鬱だな」 「?」 何を言ってるんだ、私は。 618 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:06:25.14 ID:hOTfj7LY0 ほどなくして、学校についた。澪とは2年の時からクラスが違うから、下駄箱でおわかれだ。 「さびしいと思うけど、がんばれよ~っ!」 「なっ!そんなことないからな!」 またまた、強気になっちゃって。 あ、向こうからやってきたのは唯とムギか 「おはよー!りっちゃん!」 「おはようございます」 「おっはよーっ!」 朝の挨拶がわりに、唯が抱きついてきた 「一日ぶりのりっちゃんだ!」 「おいおい、一晩ぶりだろっ」 「夜を越したのですね…」 って、ムギは何妄想してるんだ。まったく 「昨日はギ―太と夜を越したんだよ」 「まぁ、唯のことだから、そんなもんだよな」 唯に連れられてクラスに向かって歩きだしたはいいけど、ムギはまだ妄想の中のようだ 「ムギっ!いくぞっ」 「はっ!私としたことが。ぼーっとしてました」 私たちはクラスに入ると、それぞれの席に座った 今日も一日の授業が始まる。ってわけだ。あぁ…早くドラムが叩きたい。 619 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:08:58.23 ID:hOTfj7LY0 それは4時間目のことだった 「先生…すいません」 唯が突然手を挙げた。どうしたんだろう 「なんだ平沢。具合でも悪いのか」 「ちょっと…お腹が…トイレ行ってきます」 「そうか、気を付けて行けよ」 あの唯が、珍しい…でも結構顔色悪そうだ 教室のドアを開ける間際、丁度私の前を通る唯に声をかけた 「大丈夫か?なんなら付き添うけど」 「だ、大丈夫だよ。ははは…」 どう見ても大丈夫には見えなかったけど、まぁ本人が大丈夫っていうならいいか。 と、私は唯を見送った。 620 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:10:48.27 ID:hOTfj7LY0 数分後、唯は戻ってきた。 「戻りました~」 「おぉ、大丈夫か」 「はい~」 なんか前よりも顔色が悪くなったような気がするが… とりあえず授業が終わったら声を掛けるか 「唯、大丈夫か?」 「うん…」 「音楽室に行きましょう。お菓子が待ってますわ」 「あれ…?もう授業終わりだっけ?」 「今日は四時間だぞ。ホントに大丈夫か?唯」 どこかをボーっと見つめるうつろな瞳。朝の唯とは絶対違う。 623 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:13:21.03 ID:hOTfj7LY0 「保健室連れてくぞ?」 「音楽室…行きたい」 「よしっ、じゃぁ音楽室に行くか」 音楽室でくつろいでお菓子でも食べれば治るだろう。 私たちは音楽室に向かった。着くと、もう梓と澪は来ていた。 「ゆ、唯先輩、大丈夫ですか?」 梓がすぐに駆け寄ってきた。可愛いやつだ。 「あ、あずにゃん…大丈夫だよっ」 「顔色悪いですよ、やっぱりまずいんじゃ…」 「ぎ、ギ―太」 「えっ?」 「ギ―太弾きたい…」 私はすかさず唯の代わりに持ってきたギ―太のケースを開き、ギ―太を唯に渡した。 625 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:18:06.96 ID:hOTfj7LY0 「ほらっ!」 「はわわっ!」 さっきまでとは全然違う。唯は軽やかにギターを弾き始めた。 「ど、どうしたんだ唯!いきなり元気になっちゃって」 「ギ―太を弾いてると、元気出てくるんだっ!」 なるほど…私がドラムを叩いてないと、だらだらしちゃうのと同じ現象か。 じゃあ… 「ギ―太を取ると?」 「うぅ…お腹痛い…」 「渡すと?」 「ジャンジャン♪」 「取ると?」 「寒い…寒いよぉ」 「渡すと?」 「ジャジャーン♪」 「取ると?」 「こらっ!」 ゴチン!と澪からげんこつを食らってしまった。あいてて…そういえばいたのか… 626 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:24:30.77 ID:hOTfj7LY0 「唯で遊ぶなっ!」 「あ、遊んでないよ。ちょっとやってみたかっただけ、興味本位ってやつ」 とは言ってみたものの、澪に睨まれてしまうと、なんだか悪い気がするんだよなぁ。 「ごめん…」 「まったく…それにしても唯。朝はそんなことなかったのに、どうしたんだ?」 「なんだか、今日の4時間目ぐらいから急に気分が悪くなっちゃって」 「そういえば、唯ちゃんトイレに行ってましたね」 そうだそうだ。あの時の光景がよみがえる。 「トイレ行って何してたんだ?」 と、純粋な疑問をぶつけてみた。 「とくに…あっ、でも」 「でも?」 「鏡を見たら、後ろに誰かいたんだ♪」 627 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:27:13.58 ID:hOTfj7LY0 あっ、マズイ!と思ったけど、遅かったみたいだ。 気が付いたときには、澪はもう教室の端っこでしゃがみ込んでいた。 「こわい…こわい…」 無理もないか。 「唯、もしかして呪われてるんじゃないのか?」 私は素直な疑問を唯にぶつけてみた。 「…そうかなぁ?」 「もしかしたら、誰かの見間違いかもしれませんよ?」 ムギはそう言うけど… 「授業中だったんだし、他の生徒が来るなんてことありえないだろ」 「そうですよねぇ…オカルトなこともあるんですねぇ」 ムギの眉がハの字型になっていた。まったく、この眉の動きのほうがよっぽどオカルトだ。 628 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:33:40.53 ID:hOTfj7LY0 「じゃ、お菓子食べよ♪」 そう言って唯はギターを降ろした。って、おい。 「大丈夫なのか?唯」 「え?何が」 驚いた…ピンピンしている。 「さっきまでのは、なんだったんですか?」 梓も気が気でないようだが… 「へ?なんのこと?」 「ま、いっか。」 私たちはいつも通りの放課後ティータイムを始めたのだった。 だけど、何か嫌な予感がするんだよなぁ。 842 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:09:03.74 ID:uQQ89ds20 どうやら嫌な予感が的中したようだ。 唯の症状が変わった。今度はギターを持つと、体調が悪くなるみたい。 「ギ―太っ、ギ―太ぁ!」 澪がギ―太を唯から引き離す…あぁなんて罪深き女よ… …なんて考えてる場合じゃないっ。なんとかしないと… 「と、とりあえず唯の体に何か起きてるかもしれないから、調べてみようぜっ」 そう言って私は唯の体をまさぐる。 「ふむ…特に問題は無いみたいだな…」 …っと、ちょっと待った。なんだなんだ、いつの間にこんなに大きくなっちゃって。 私と梓と唯の3人で結んだ同盟はどこへ行ったんだ。この、このっ。 「はぁん…りっちゃん…だめぇ」 「バカ律!」 いてて…今日で3度目。こりゃいつか私の頭がお米みたいになるのも時間の問題だな。 844 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:11:05.12 ID:uQQ89ds20 「唯自体に特に異状がないとすると、やっぱり何か外からの影響…ってことか」 「やっぱり、トイレで唯先輩が見た『誰か』が、何かに関わっているのかも」 「あ、梓、止めてくれ…」 全く…澪は怖がりすぎなんだよっ 「澪、いい加減に怖がるのはやめよっ。大体おばけだって決まった訳でもないし」 「そ…そうだけど」 「後問題があるとすれば…やっぱギ―太か」 そう言って私は澪がテーブルの向こうへ持って行った、ギ―太をチラリと見た 「さっき触った時は何とも無かったんだけどな」 「万が一、ってことでさ」 私はギ―太を一通り見回した。特に問題は無さそうだ。 今度は裏返しにしてみる。ここにも問題は… 「あった!」 845 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:13:23.06 ID:uQQ89ds20 「どうしたんですか?」 「ほらっ!これこれ」 私はギ―太の裏に、くすんだ色のクレヨンで描かれたような文字を見つけた。 「なんて書いてあるんだ?」 「えっと…『ミューズの怒りの元に、罰を下す』…なんだこれ」 「罰というのはもしかして…」 ムギの眉毛がいつにもまして真剣度を高めている。 「唯にかかった呪い…?」 今度ばかりはムギのオカルトも通用した訳だ。なるほど、そういうことか。 「で、ミューズって何?誰?」 「ミューズとは音楽をつかさどる、ギリシャの女神様ですわ」 「ミュージックの語源だ」 さすが澪とムギ。成績優秀者は知識が豊富だ。 「てことは、唯は音楽の神様を怒らせたってことか?」 「そいうことになるな…女神か…」 なんだなんだ。 お化けの話だと怖がる癖に、女神様の話になると全然平気ってか。 さすが澪だな。 848 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:17:51.45 ID:uQQ89ds20 「でも、何で唯が女神様を怒らせたんだ?」 「いや、むしろ今まで罰が下って無かったことがおかしいんじゃ…?」 あらら、今日の梓は辛口なんだな。 「あ、あずにゃんっ!?」 唯泣きそうだぞ。 「唯先輩は天性の音楽的な素質はあるんです」 あ、ニコニコし始めた。 「ただ、あまりにも楽器のことや音楽のことに関して知らなすぎる…」 また泣きそうになってるぞ、オイ。 「もしかして、その才能は女神さまから与えられたのかもな」 なるほど。ってことは… 「その与えられた才能を腐らせていた唯に罰を…?」 「ありえる話ですわ」 こりゃ~大変なことになってきたみたいだ。 849 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:21:35.29 ID:uQQ89ds20 「てことは、呪いを解くには一生懸命練習すればいいのか?」 「いや、まずは音楽の基礎知識から学びなおさなきゃだめだな」 「っていうと?」 「楽器の扱い方・楽譜の読み方をしっかりとマスターしてからじゃないとギターは弾けないな」 「ええっ!?」 唯はそういうの面倒くさがるからな…やってけるのだろうか? でも、ここは部長として一言言わないと。 「ということだ、唯。まずはギ―太のことをちゃんと知って、それから楽譜をしっかり読めるようにしよう」 「うぅ…いまさらそんな…」 だよなぁ。女神さまの気まぐれなのかな、コレ。 「大丈夫よ唯ちゃん。私たちがしっかりと教えるから」 「そうですっ!一日でも早く呪いが解けるように頑張りましょう!」 「みんな…」 うんうん。良い方向にまとまってきてる。部長として鼻が高いぜっ。 「よしっ!そうと決まれば、音楽勉強会の始りだっ!」 「おーっ!」 あ…てことはしばらくドラムを叩くのはお休み…? うぅ、禁断症状が出そうだ。ま、これも唯のためだなっ! 頑張るぞ! 681 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:34:25.25 ID:NRdf7GFR0 「じゃぁ、まず楽器の使い方だっ!梓先生お願いします!」 私は梓をこちらに招いた。 照れながら梓がやってくる。 「それじゃ、ギターの扱い方講座を始めたいと思います。唯先輩、準備は大丈夫ですか?」 「おっけい!」 唯はギ―太を自分の目の前に置いて膝立ちしながら決めポーズをした。 梓と唯は向かいあっていた。私たちはそれを遠巻きにティータイムを楽しむ。といった格好だ。 「メンテナンスの仕方から教えたいと思いますっ」 「はいっ!」 「ギターを弾くということは、それだけ人の汗や油が付くということになります。特に唯先輩の場合は  一緒に寝たり、抱きかかえたりするので、なおさらです」 「うぅっ、それはギ―太にとって良くないの?」 唯が悲しそうな表情を浮かべる。 「それをすること自体は別にいいと思います。愛情表現は人それぞれですからっ」 なんだ、梓も意外と唯と同じようなことしてるのかも。 682 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:36:28.05 ID:NRdf7GFR0 「こまめにお手入れをすれば、全然大丈夫です。ギ―太さんも喜んでくれますよ」 「よかったぁ。じゃぁあずにゃん、どうすればいいのかな?」 梓は空のケースから小物を4つ取り出した。 唯が珍しそうに眺める。 「それ何?」 「これはそれぞれ、クロス、ギターポリッシュ、クリーナー、レモンオイルっていいます」 「始めて見たぁ」 梓があきれた表情を見せる。 「唯先輩…ギター買ったときに付いてきたと思うんですけど…」 「あれ?そうだっけ?」 …さすが唯だ。 685 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:43:14.23 ID:NRdf7GFR0 「じゃ、さっそく始めますね。あ、これ唯先輩の分のクロスです」 そう言いながら、梓は唯にピンク色のクロスを渡す。 物珍しそうに唯がクロスを触る。 「これ、普通のタオルと違うんだね」 「えぇ、特殊な布でできてるんです」 「じゃぁ、まずはギターの本体のお手入れから始めます」 梓はクロスを左手に、ギターポリッシュを右手に持った。 「まずは、クロスにポリッシュを吹きかけます」 「ほほいっ」 シュッシュッと2人はクロスにポリッシュを吹きかけた。 「そしたらそしたら?」 「そのままギター本体を磨きます」 687 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:45:34.40 ID:NRdf7GFR0 梓はギターを磨き始めた。 唯も同じように…ってちょっとゆっくり過ぎないか? 「唯、それじゃ綺麗にならないぞ」 澪が唯に声をかける。 「えっ、だって…」 「しっかり磨かないと、汚れは取れませんよ」 「でも…ギ―太痛くないのかな?」 んなわけないだろ! と、っつ込みたくなったが、ここは抑えよう。 「大丈夫だよ。唯に磨かれて、ギ―太も喜んでるぞ、きっと」 「ふふ、そうですわ」 おいムギ。変な意味で言ったんじゃないからな。 「そっか!じゃぁ磨くぞぉ」 唯はごしごしとギ―太を磨き始めた。 691 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:50:15.63 ID:NRdf7GFR0 「わあっ!すっごい綺麗になったよ、あずにゃんっ」 ここで見てても分かるくらい、ギ―太はピカピカになっていた。 「その調子です!じゃぁ、次に指板のお手入れを始めましょう」 「指板?なにそれ」 「ここの部分ですよっ」 ギターを構えて、弦の押さえながら梓が言った。 「あっ、指を置くところだからかぁ~」 「そういうことですっ」 再びギターを床に置いて、梓が続ける。 「弦を外すのは面倒くさいので、軽く緩めましょう」 2人は弦を緩め始めた。 694 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:55:07.81 ID:NRdf7GFR0 「今度は、レモンオイルをクロスに付けます」 そう言いながら、梓はレモンオイルを取りだした。 「じゃ、やってみましょう」 「は~い」 さっきと同じ感じで、2人は指板を磨き始めた。 「わっ、ここもすっごい綺麗になるんだね!」 唯が拭いた後と拭いた後では、色が違っていた。 きっと、よっぽど汚れていたんだろう…苦しかったろうな、ギ―太。 「良い感じですっ。じゃぁ最後に弦を磨きましょう!」 695 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 22:00:00.74 ID:NRdf7GFR0 梓はクリーナーをギターの横に置いた。 「レモンオイルで指板を磨いた後は、必ず弦を磨いてください。   レモンオイルが弦に付くと、錆びる原因になっちゃいますからっ」 「ほ~いっ」 2人はそれぞれクロスにクリーナーを吹きかける。 「こうやって、一本一本丁寧に磨いていくと良い感じに出来ますよっ」 梓がやるのを見よう見まねで、唯が始める。 「こ、こうかなっ?」 「良い感じですっ!」 唯は丁寧に弦を磨いていた。 696 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 22:06:17.70 ID:NRdf7GFR0 「これで、メンテナンスは終わりですっ!お疲れさまでしたっ、唯先輩」 「おつかれ、あずにゃん」 唯はメンテナンスが終わったギ―太を眺めていた。 「ギ―太が…ギ―太が生まれ変わったみたいだよ」 「すっごい綺麗になりましたね」 「買ったばっかりのこと、思い出すなぁ」 唯は1人、思い出にふけっているようだった。 確かに、思い出のギターだもんなぁ。 「唯先輩、チューニングは絶対音感で済ませちゃいますから、教えなくていいですよね」 「うんっ、よくわかんないからいいやっ」 「おいっ」 澪が思わず突っ込む。 697 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 22:07:10.51 ID:NRdf7GFR0 「それこそ基礎の基礎じゃないのかっ」 「まぁいいじゃんか澪。それがミューズさんがくれた才能なんだから」 「………まぁ、そういうことになるのか」 私の言葉を聞いて、澪はしばらく唯を見ていた。 「うらやましいの?」 「うらやましくなんかないぞ」 「またまた~澪は負けん気強いもんな」 「律には言われたくないな」 あちゃ、言われちゃった やっぱ澪は可愛いな。 125 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:37:16.53 ID:KwtkSVC00 その時、唯がすっとんきょうな声を上げた。 「ギ―太が、ギ―太がぁ!」 私がギ―太の方に目やったとき、すでにそこにギ―太はいなかった。 「な…こんなことって…」 私は自分の目を10回ぐらいこすった気がする。 おかげで少し目から涙が出てきたぐらいだ。 他のみんなも驚きのあまり目が点になっていた。 なんでそんなに驚いてるのかって? だって、ギ―太のあったその場所には 女神さまが立っていたのだから。 126 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:40:03.04 ID:KwtkSVC00 息もつかせぬほどの美しさだった。 なんたって、女の私が美しいと思うんだから、それはそうとうな美しさだ。 うん。そうに違いないぞ。 梓が恐る恐る、その女神さまに声をかけた。 「あの…ミューズさんですか?」 その女神はいかにも女神らしい丁寧な言葉遣い… というわけでもなく、普通に言葉を返した。 「はい。私が女神ミューズです」 「ほ、ほんとですか?」 「えぇ、本当です」 「ほんとんほんとに?」 「本当の本当です」 梓は目をぱちくりぱちくりさせながら、これまた目を点にしている唯の方を向いた。 127 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:41:38.33 ID:KwtkSVC00 「唯先輩、ほら、呪いを解いてもらいましょうよ」 「はわわっ!そうだったぁ」 はっと我に返った唯が、ミューズ様にお願いする。 「あの、私、またギターを弾きたいんです。だから、呪いを解いてくださいっ!」 たどたどしい言葉遣いだなぁ… でも、唯の目は真剣そのものだった。 「おねがいしますっ」 唯は思い切り頭を下げた。 そして、しばらくそのまま下げていた。 128 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:48:00.54 ID:KwtkSVC00 ミューズ様も、しばらく黙って唯を見ていた。 そして私達は、はらはらしながら2人を見ていた。 突然、ミューズ様がにっこりと笑った。 「分かりました。そなたの願い、受け入れましょう」 「ほ、ほんとですかっ?」 「えぇ。ちゃんと反省して、こんなにギターも綺麗にして…」 そう言いながら、ミューズ様はギターを取り出した。 なんだか女神さまがエレキギターを持っているなんて、ちょっと可笑しい。 だけど、不思議なことに合っている。それもなんだか面白い。 129 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:51:14.18 ID:KwtkSVC00 ミューズ様は唯にギ―太を手渡した。 「構えてみなさい」 そう言われて、唯はすかさずギ―太を構える。 「やった!持てますっ!」 再びギ―太を構えることができた唯は、歓喜の声を上げた。 まったく、子供みたいだ。 って、私達はまだ未成年か。 「なにか弾いてみなさい」 優しそうな目をしながら、ミューズ様が言った。 130 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:55:05.88 ID:KwtkSVC00 「唯、ふわふわ時間なんてどうだ?」 澪が唯にリクエストした。 うん、私もちょうどそれを思いついたんだ。 「じゃ、弾きますっ!」 唯は自分のタイミングで弾き始めた。 「~♪」 不思議だ。なにが不思議って、すごく心のこもった演奏に聞こえる。 ただ、今までの唯の演奏が心のこもった演奏じゃなかったんじゃなくて… なんだか言葉にできないや。でも、すごく聞きやすくなってる。 131 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:58:22.49 ID:KwtkSVC00 「ジャジャーン」 唯の演奏はあっという間に終わった気がした。 それは、きっと私達が演奏に引き込まれていたからだろう。 パチパチパチパチ 音楽室内に拍手が鳴り響いた。 みんな拍手していた。 もちろん私もしていたし、ミューズ様もしていた。 「すばらしいわ…」 ミューズ様がぽつりとつぶやいた。 133 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 23:02:45.28 ID:KwtkSVC00 「私は、いつでもあなた達を見守っています。これからも頑張ってね」 そう言うと、ミューズ様の周りが白い煙に包まれた。 煙が消えると、そこにミューズ様はいなかった。 「いっちゃったね…」 「あぁ…なんだか夢みたいだったなぁ」 みんな、目がトロンとしていた。 多分、私もしていた。 「私…感動しましたわ」 ムギだけ目から涙を流していた。 いやいや、感動しすぎだろっ。 134 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 23:06:30.96 ID:KwtkSVC00 「この出来事は、私達だけの秘密にしようねっ!」 「そうだな。さわちゃんにも秘密だな」 「うんっ。ここにいた、5人だけの秘密」 私達は改めて約束した。 絶対に武道館ライブを成功させよう。 そして、もう一度ミューズ様に会おうと。 なんだかウソみたいな、ホントの話。 えっ?ホントだってば。 あっ、そうそう。 これで、おしまい。 Fin #popular(today,ignore=トップページ,ignore=メニュー,30) #popular(yesterday,10) #popular(50,total) #popular(50,total,count) #popular()
603 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 18:38:42.93 ID:hOTfj7LY0 【田井中律の奔走】 「あぁ、今日も日差しが暑い…」 ある夏の早朝のこと。 私はいつものようベランダに出て朝一番の日差しを体一杯に受けていた。 「何やってんだ、ねーちゃん」 全く…いつものことながら聡は察しが悪い 「日光浴」 「にっこーよく?ねーちゃん植物だったの?」 「だーっ!んな訳ないだろっ!こうしてると目が覚めるの!」 「でもさぁ、下着姿でベランダなんて出てたら恥ずかしいだろ」 そう言って聡は部屋に戻って行った。 …って下着姿っ? 「あちゃーっ!」 まぁいっか。誰も見てなかったみたいだし。 でも、恥じらいを持たないと唯みたいになっちゃうよな。気を付けないとっ。 609 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 18:50:47.39 ID:hOTfj7LY0 「そだそだ、澪はもう来てるかな?」 学校の支度を済ませた私は階段をぱたぱたと降りて行った 「おーい、律」 あ、もう来てるみたいだ 急いで玄関の扉を開くと、目の前には澪が立っていた いつもと同じ黒のストレート。それが澪のトレードマークなのだ 「ごめんごめーん、遅くなっちった」 「全く…まぁ、今日はあたしも来るの遅かったし」 「あら、珍しいことね、みおちゃん」 私は思わずおどけてみせたつもりなんだけど 「もう…オマエとは違うんだよ」 と、軽く頭に打撃を食らってしまった。いてて… 615 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 18:56:18.36 ID:hOTfj7LY0 「そうえいば、新しい歌詞はまだ出来ないの?」 「まだ…そうだ、たまには律が書いてみたらいいんじゃないか?」 「そうやって話をそらさないっ!」 「うぅ…りつぅ…おねがい…」 そう言って澪は目をうるうるさせながらこっちを見てくる 可愛いんだけど…なんか締め切り間際の漫画家みたいだ 「書いてやらないこともないけど」 「ほ、ほんとっ?」 「その代わり、次の本番は澪がボーカル担当しろよ」 いい加減澪の恥ずかしがりを直してやらないと、こっちまで困るからな… 「そ、それならやっぱり自分で歌詞書くよ…」 はぁ…なら最初から他人を頼らずに自分で書いてほしいもんだ。 「とりあえず、今週中には完成させないと曲が作れないんだぞ」 「わかってるよ。頑張るから」 「はぁ、これじゃ田井中律の憂鬱だな」 「?」 何を言ってるんだ、私は。 618 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:06:25.14 ID:hOTfj7LY0 ほどなくして、学校についた。澪とは2年の時からクラスが違うから、下駄箱でおわかれだ。 「さびしいと思うけど、がんばれよ~っ!」 「なっ!そんなことないからな!」 またまた、強気になっちゃって。 あ、向こうからやってきたのは唯とムギか 「おはよー!りっちゃん!」 「おはようございます」 「おっはよーっ!」 朝の挨拶がわりに、唯が抱きついてきた 「一日ぶりのりっちゃんだ!」 「おいおい、一晩ぶりだろっ」 「夜を越したのですね…」 って、ムギは何妄想してるんだ。まったく 「昨日はギ―太と夜を越したんだよ」 「まぁ、唯のことだから、そんなもんだよな」 唯に連れられてクラスに向かって歩きだしたはいいけど、ムギはまだ妄想の中のようだ 「ムギっ!いくぞっ」 「はっ!私としたことが。ぼーっとしてました」 私たちはクラスに入ると、それぞれの席に座った 今日も一日の授業が始まる。ってわけだ。あぁ…早くドラムが叩きたい。 619 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:08:58.23 ID:hOTfj7LY0 それは4時間目のことだった 「先生…すいません」 唯が突然手を挙げた。どうしたんだろう 「なんだ平沢。具合でも悪いのか」 「ちょっと…お腹が…トイレ行ってきます」 「そうか、気を付けて行けよ」 あの唯が、珍しい…でも結構顔色悪そうだ 教室のドアを開ける間際、丁度私の前を通る唯に声をかけた 「大丈夫か?なんなら付き添うけど」 「だ、大丈夫だよ。ははは…」 どう見ても大丈夫には見えなかったけど、まぁ本人が大丈夫っていうならいいか。 と、私は唯を見送った。 620 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:10:48.27 ID:hOTfj7LY0 数分後、唯は戻ってきた。 「戻りました~」 「おぉ、大丈夫か」 「はい~」 なんか前よりも顔色が悪くなったような気がするが… とりあえず授業が終わったら声を掛けるか 「唯、大丈夫か?」 「うん…」 「音楽室に行きましょう。お菓子が待ってますわ」 「あれ…?もう授業終わりだっけ?」 「今日は四時間だぞ。ホントに大丈夫か?唯」 どこかをボーっと見つめるうつろな瞳。朝の唯とは絶対違う。 623 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:13:21.03 ID:hOTfj7LY0 「保健室連れてくぞ?」 「音楽室…行きたい」 「よしっ、じゃぁ音楽室に行くか」 音楽室でくつろいでお菓子でも食べれば治るだろう。 私たちは音楽室に向かった。着くと、もう梓と澪は来ていた。 「ゆ、唯先輩、大丈夫ですか?」 梓がすぐに駆け寄ってきた。可愛いやつだ。 「あ、あずにゃん…大丈夫だよっ」 「顔色悪いですよ、やっぱりまずいんじゃ…」 「ぎ、ギ―太」 「えっ?」 「ギ―太弾きたい…」 私はすかさず唯の代わりに持ってきたギ―太のケースを開き、ギ―太を唯に渡した。 625 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:18:06.96 ID:hOTfj7LY0 「ほらっ!」 「はわわっ!」 さっきまでとは全然違う。唯は軽やかにギターを弾き始めた。 「ど、どうしたんだ唯!いきなり元気になっちゃって」 「ギ―太を弾いてると、元気出てくるんだっ!」 なるほど…私がドラムを叩いてないと、だらだらしちゃうのと同じ現象か。 じゃあ… 「ギ―太を取ると?」 「うぅ…お腹痛い…」 「渡すと?」 「ジャンジャン♪」 「取ると?」 「寒い…寒いよぉ」 「渡すと?」 「ジャジャーン♪」 「取ると?」 「こらっ!」 ゴチン!と澪からげんこつを食らってしまった。あいてて…そういえばいたのか… 626 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:24:30.77 ID:hOTfj7LY0 「唯で遊ぶなっ!」 「あ、遊んでないよ。ちょっとやってみたかっただけ、興味本位ってやつ」 とは言ってみたものの、澪に睨まれてしまうと、なんだか悪い気がするんだよなぁ。 「ごめん…」 「まったく…それにしても唯。朝はそんなことなかったのに、どうしたんだ?」 「なんだか、今日の4時間目ぐらいから急に気分が悪くなっちゃって」 「そういえば、唯ちゃんトイレに行ってましたね」 そうだそうだ。あの時の光景がよみがえる。 「トイレ行って何してたんだ?」 と、純粋な疑問をぶつけてみた。 「とくに…あっ、でも」 「でも?」 「鏡を見たら、後ろに誰かいたんだ♪」 627 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:27:13.58 ID:hOTfj7LY0 あっ、マズイ!と思ったけど、遅かったみたいだ。 気が付いたときには、澪はもう教室の端っこでしゃがみ込んでいた。 「こわい…こわい…」 無理もないか。 「唯、もしかして呪われてるんじゃないのか?」 私は素直な疑問を唯にぶつけてみた。 「…そうかなぁ?」 「もしかしたら、誰かの見間違いかもしれませんよ?」 ムギはそう言うけど… 「授業中だったんだし、他の生徒が来るなんてことありえないだろ」 「そうですよねぇ…オカルトなこともあるんですねぇ」 ムギの眉がハの字型になっていた。まったく、この眉の動きのほうがよっぽどオカルトだ。 628 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/19(水) 19:33:40.53 ID:hOTfj7LY0 「じゃ、お菓子食べよ♪」 そう言って唯はギターを降ろした。って、おい。 「大丈夫なのか?唯」 「え?何が」 驚いた…ピンピンしている。 「さっきまでのは、なんだったんですか?」 梓も気が気でないようだが… 「へ?なんのこと?」 「ま、いっか。」 私たちはいつも通りの放課後ティータイムを始めたのだった。 だけど、何か嫌な予感がするんだよなぁ。 842 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:09:03.74 ID:uQQ89ds20 どうやら嫌な予感が的中したようだ。 唯の症状が変わった。今度はギターを持つと、体調が悪くなるみたい。 「ギ―太っ、ギ―太ぁ!」 澪がギ―太を唯から引き離す…あぁなんて罪深き女よ… …なんて考えてる場合じゃないっ。なんとかしないと… 「と、とりあえず唯の体に何か起きてるかもしれないから、調べてみようぜっ」 そう言って私は唯の体をまさぐる。 「ふむ…特に問題は無いみたいだな…」 …っと、ちょっと待った。なんだなんだ、いつの間にこんなに大きくなっちゃって。 私と梓と唯の3人で結んだ同盟はどこへ行ったんだ。この、このっ。 「はぁん…りっちゃん…だめぇ」 「バカ律!」 いてて…今日で3度目。こりゃいつか私の頭がお米みたいになるのも時間の問題だな。 844 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:11:05.12 ID:uQQ89ds20 「唯自体に特に異状がないとすると、やっぱり何か外からの影響…ってことか」 「やっぱり、トイレで唯先輩が見た『誰か』が、何かに関わっているのかも」 「あ、梓、止めてくれ…」 全く…澪は怖がりすぎなんだよっ 「澪、いい加減に怖がるのはやめよっ。大体おばけだって決まった訳でもないし」 「そ…そうだけど」 「後問題があるとすれば…やっぱギ―太か」 そう言って私は澪がテーブルの向こうへ持って行った、ギ―太をチラリと見た 「さっき触った時は何とも無かったんだけどな」 「万が一、ってことでさ」 私はギ―太を一通り見回した。特に問題は無さそうだ。 今度は裏返しにしてみる。ここにも問題は… 「あった!」 845 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:13:23.06 ID:uQQ89ds20 「どうしたんですか?」 「ほらっ!これこれ」 私はギ―太の裏に、くすんだ色のクレヨンで描かれたような文字を見つけた。 「なんて書いてあるんだ?」 「えっと…『ミューズの怒りの元に、罰を下す』…なんだこれ」 「罰というのはもしかして…」 ムギの眉毛がいつにもまして真剣度を高めている。 「唯にかかった呪い…?」 今度ばかりはムギのオカルトも通用した訳だ。なるほど、そういうことか。 「で、ミューズって何?誰?」 「ミューズとは音楽をつかさどる、ギリシャの女神様ですわ」 「ミュージックの語源だ」 さすが澪とムギ。成績優秀者は知識が豊富だ。 「てことは、唯は音楽の神様を怒らせたってことか?」 「そいうことになるな…女神か…」 なんだなんだ。 お化けの話だと怖がる癖に、女神様の話になると全然平気ってか。 さすが澪だな。 848 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:17:51.45 ID:uQQ89ds20 「でも、何で唯が女神様を怒らせたんだ?」 「いや、むしろ今まで罰が下って無かったことがおかしいんじゃ…?」 あらら、今日の梓は辛口なんだな。 「あ、あずにゃんっ!?」 唯泣きそうだぞ。 「唯先輩は天性の音楽的な素質はあるんです」 あ、ニコニコし始めた。 「ただ、あまりにも楽器のことや音楽のことに関して知らなすぎる…」 また泣きそうになってるぞ、オイ。 「もしかして、その才能は女神さまから与えられたのかもな」 なるほど。ってことは… 「その与えられた才能を腐らせていた唯に罰を…?」 「ありえる話ですわ」 こりゃ~大変なことになってきたみたいだ。 849 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/20(木) 10:21:35.29 ID:uQQ89ds20 「てことは、呪いを解くには一生懸命練習すればいいのか?」 「いや、まずは音楽の基礎知識から学びなおさなきゃだめだな」 「っていうと?」 「楽器の扱い方・楽譜の読み方をしっかりとマスターしてからじゃないとギターは弾けないな」 「ええっ!?」 唯はそういうの面倒くさがるからな…やってけるのだろうか? でも、ここは部長として一言言わないと。 「ということだ、唯。まずはギ―太のことをちゃんと知って、それから楽譜をしっかり読めるようにしよう」 「うぅ…いまさらそんな…」 だよなぁ。女神さまの気まぐれなのかな、コレ。 「大丈夫よ唯ちゃん。私たちがしっかりと教えるから」 「そうですっ!一日でも早く呪いが解けるように頑張りましょう!」 「みんな…」 うんうん。良い方向にまとまってきてる。部長として鼻が高いぜっ。 「よしっ!そうと決まれば、音楽勉強会の始りだっ!」 「おーっ!」 あ…てことはしばらくドラムを叩くのはお休み…? うぅ、禁断症状が出そうだ。ま、これも唯のためだなっ! 頑張るぞ! 681 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:34:25.25 ID:NRdf7GFR0 「じゃぁ、まず楽器の使い方だっ!梓先生お願いします!」 私は梓をこちらに招いた。 照れながら梓がやってくる。 「それじゃ、ギターの扱い方講座を始めたいと思います。唯先輩、準備は大丈夫ですか?」 「おっけい!」 唯はギ―太を自分の目の前に置いて膝立ちしながら決めポーズをした。 梓と唯は向かいあっていた。私たちはそれを遠巻きにティータイムを楽しむ。といった格好だ。 「メンテナンスの仕方から教えたいと思いますっ」 「はいっ!」 「ギターを弾くということは、それだけ人の汗や油が付くということになります。特に唯先輩の場合は  一緒に寝たり、抱きかかえたりするので、なおさらです」 「うぅっ、それはギ―太にとって良くないの?」 唯が悲しそうな表情を浮かべる。 「それをすること自体は別にいいと思います。愛情表現は人それぞれですからっ」 なんだ、梓も意外と唯と同じようなことしてるのかも。 682 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:36:28.05 ID:NRdf7GFR0 「こまめにお手入れをすれば、全然大丈夫です。ギ―太さんも喜んでくれますよ」 「よかったぁ。じゃぁあずにゃん、どうすればいいのかな?」 梓は空のケースから小物を4つ取り出した。 唯が珍しそうに眺める。 「それ何?」 「これはそれぞれ、クロス、ギターポリッシュ、クリーナー、レモンオイルっていいます」 「始めて見たぁ」 梓があきれた表情を見せる。 「唯先輩…ギター買ったときに付いてきたと思うんですけど…」 「あれ?そうだっけ?」 …さすが唯だ。 685 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:43:14.23 ID:NRdf7GFR0 「じゃ、さっそく始めますね。あ、これ唯先輩の分のクロスです」 そう言いながら、梓は唯にピンク色のクロスを渡す。 物珍しそうに唯がクロスを触る。 「これ、普通のタオルと違うんだね」 「えぇ、特殊な布でできてるんです」 「じゃぁ、まずはギターの本体のお手入れから始めます」 梓はクロスを左手に、ギターポリッシュを右手に持った。 「まずは、クロスにポリッシュを吹きかけます」 「ほほいっ」 シュッシュッと2人はクロスにポリッシュを吹きかけた。 「そしたらそしたら?」 「そのままギター本体を磨きます」 687 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:45:34.40 ID:NRdf7GFR0 梓はギターを磨き始めた。 唯も同じように…ってちょっとゆっくり過ぎないか? 「唯、それじゃ綺麗にならないぞ」 澪が唯に声をかける。 「えっ、だって…」 「しっかり磨かないと、汚れは取れませんよ」 「でも…ギ―太痛くないのかな?」 んなわけないだろ! と、っつ込みたくなったが、ここは抑えよう。 「大丈夫だよ。唯に磨かれて、ギ―太も喜んでるぞ、きっと」 「ふふ、そうですわ」 おいムギ。変な意味で言ったんじゃないからな。 「そっか!じゃぁ磨くぞぉ」 唯はごしごしとギ―太を磨き始めた。 691 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:50:15.63 ID:NRdf7GFR0 「わあっ!すっごい綺麗になったよ、あずにゃんっ」 ここで見てても分かるくらい、ギ―太はピカピカになっていた。 「その調子です!じゃぁ、次に指板のお手入れを始めましょう」 「指板?なにそれ」 「ここの部分ですよっ」 ギターを構えて、弦の押さえながら梓が言った。 「あっ、指を置くところだからかぁ~」 「そういうことですっ」 再びギターを床に置いて、梓が続ける。 「弦を外すのは面倒くさいので、軽く緩めましょう」 2人は弦を緩め始めた。 694 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 21:55:07.81 ID:NRdf7GFR0 「今度は、レモンオイルをクロスに付けます」 そう言いながら、梓はレモンオイルを取りだした。 「じゃ、やってみましょう」 「は~い」 さっきと同じ感じで、2人は指板を磨き始めた。 「わっ、ここもすっごい綺麗になるんだね!」 唯が拭いた後と拭いた後では、色が違っていた。 きっと、よっぽど汚れていたんだろう…苦しかったろうな、ギ―太。 「良い感じですっ。じゃぁ最後に弦を磨きましょう!」 695 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 22:00:00.74 ID:NRdf7GFR0 梓はクリーナーをギターの横に置いた。 「レモンオイルで指板を磨いた後は、必ず弦を磨いてください。   レモンオイルが弦に付くと、錆びる原因になっちゃいますからっ」 「ほ~いっ」 2人はそれぞれクロスにクリーナーを吹きかける。 「こうやって、一本一本丁寧に磨いていくと良い感じに出来ますよっ」 梓がやるのを見よう見まねで、唯が始める。 「こ、こうかなっ?」 「良い感じですっ!」 唯は丁寧に弦を磨いていた。 696 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 22:06:17.70 ID:NRdf7GFR0 「これで、メンテナンスは終わりですっ!お疲れさまでしたっ、唯先輩」 「おつかれ、あずにゃん」 唯はメンテナンスが終わったギ―太を眺めていた。 「ギ―太が…ギ―太が生まれ変わったみたいだよ」 「すっごい綺麗になりましたね」 「買ったばっかりのこと、思い出すなぁ」 唯は1人、思い出にふけっているようだった。 確かに、思い出のギターだもんなぁ。 「唯先輩、チューニングは絶対音感で済ませちゃいますから、教えなくていいですよね」 「うんっ、よくわかんないからいいやっ」 「おいっ」 澪が思わず突っ込む。 697 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/23(日) 22:07:10.51 ID:NRdf7GFR0 「それこそ基礎の基礎じゃないのかっ」 「まぁいいじゃんか澪。それがミューズさんがくれた才能なんだから」 「………まぁ、そういうことになるのか」 私の言葉を聞いて、澪はしばらく唯を見ていた。 「うらやましいの?」 「うらやましくなんかないぞ」 「またまた~澪は負けん気強いもんな」 「律には言われたくないな」 あちゃ、言われちゃった やっぱ澪は可愛いな。 125 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:37:16.53 ID:KwtkSVC00 その時、唯がすっとんきょうな声を上げた。 「ギ―太が、ギ―太がぁ!」 私がギ―太の方に目やったとき、すでにそこにギ―太はいなかった。 「な…こんなことって…」 私は自分の目を10回ぐらいこすった気がする。 おかげで少し目から涙が出てきたぐらいだ。 他のみんなも驚きのあまり目が点になっていた。 なんでそんなに驚いてるのかって? だって、ギ―太のあったその場所には 女神さまが立っていたのだから。 126 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:40:03.04 ID:KwtkSVC00 息もつかせぬほどの美しさだった。 なんたって、女の私が美しいと思うんだから、それはそうとうな美しさだ。 うん。そうに違いないぞ。 梓が恐る恐る、その女神さまに声をかけた。 「あの…ミューズさんですか?」 その女神はいかにも女神らしい丁寧な言葉遣い… というわけでもなく、普通に言葉を返した。 「はい。私が女神ミューズです」 「ほ、ほんとですか?」 「えぇ、本当です」 「ほんとんほんとに?」 「本当の本当です」 梓は目をぱちくりぱちくりさせながら、これまた目を点にしている唯の方を向いた。 127 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:41:38.33 ID:KwtkSVC00 「唯先輩、ほら、呪いを解いてもらいましょうよ」 「はわわっ!そうだったぁ」 はっと我に返った唯が、ミューズ様にお願いする。 「あの、私、またギターを弾きたいんです。だから、呪いを解いてくださいっ!」 たどたどしい言葉遣いだなぁ… でも、唯の目は真剣そのものだった。 「おねがいしますっ」 唯は思い切り頭を下げた。 そして、しばらくそのまま下げていた。 128 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:48:00.54 ID:KwtkSVC00 ミューズ様も、しばらく黙って唯を見ていた。 そして私達は、はらはらしながら2人を見ていた。 突然、ミューズ様がにっこりと笑った。 「分かりました。そなたの願い、受け入れましょう」 「ほ、ほんとですかっ?」 「えぇ。ちゃんと反省して、こんなにギターも綺麗にして…」 そう言いながら、ミューズ様はギターを取り出した。 なんだか女神さまがエレキギターを持っているなんて、ちょっと可笑しい。 だけど、不思議なことに合っている。それもなんだか面白い。 129 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:51:14.18 ID:KwtkSVC00 ミューズ様は唯にギ―太を手渡した。 「構えてみなさい」 そう言われて、唯はすかさずギ―太を構える。 「やった!持てますっ!」 再びギ―太を構えることができた唯は、歓喜の声を上げた。 まったく、子供みたいだ。 って、私達はまだ未成年か。 「なにか弾いてみなさい」 優しそうな目をしながら、ミューズ様が言った。 130 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:55:05.88 ID:KwtkSVC00 「唯、ふわふわ時間なんてどうだ?」 澪が唯にリクエストした。 うん、私もちょうどそれを思いついたんだ。 「じゃ、弾きますっ!」 唯は自分のタイミングで弾き始めた。 「~♪」 不思議だ。なにが不思議って、すごく心のこもった演奏に聞こえる。 ただ、今までの唯の演奏が心のこもった演奏じゃなかったんじゃなくて… なんだか言葉にできないや。でも、すごく聞きやすくなってる。 131 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 22:58:22.49 ID:KwtkSVC00 「ジャジャーン」 唯の演奏はあっという間に終わった気がした。 それは、きっと私達が演奏に引き込まれていたからだろう。 パチパチパチパチ 音楽室内に拍手が鳴り響いた。 みんな拍手していた。 もちろん私もしていたし、ミューズ様もしていた。 「すばらしいわ…」 ミューズ様がぽつりとつぶやいた。 133 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 23:02:45.28 ID:KwtkSVC00 「私は、いつでもあなた達を見守っています。これからも頑張ってね」 そう言うと、ミューズ様の周りが白い煙に包まれた。 煙が消えると、そこにミューズ様はいなかった。 「いっちゃったね…」 「あぁ…なんだか夢みたいだったなぁ」 みんな、目がトロンとしていた。 多分、私もしていた。 「私…感動しましたわ」 ムギだけ目から涙を流していた。 いやいや、感動しすぎだろっ。 134 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/02(水) 23:06:30.96 ID:KwtkSVC00 「この出来事は、私達だけの秘密にしようねっ!」 「そうだな。さわちゃんにも秘密だな」 「うんっ。ここにいた、5人だけの秘密」 私達は改めて約束した。 絶対に武道館ライブを成功させよう。 そして、もう一度ミューズ様に会おうと。 なんだかウソみたいな、ホントの話。 えっ?ホントだってば。 あっ、そうそう。 これで、おしまい。 Fin

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