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414 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 18:48:36.26 ID:nWCh/QEr0
【ゆらゆらタイム】
あれ、財布がない。おかしいなぁ、確かにここに入れたのに。
私はがさがさと鞄の中を探ってみた。…やっぱり見つからない。
そうだ、みんなに聞いてみるか。
「ねぇ、誰かあたしの財布しらない?」
近くでギ―太を片づけていた唯が顔をこちらに向けた。いつもと同じ、何か気の抜けた表情である。
「うーん、私は見てないよ」「…そっか」
澪とムギと梓にも聞いてみたが、返ってくる返事はみんな同じ「知らない」である。
「どこかで落としたのかもしれないぞ」
だが私は生まれてこのかた財布など無くしたことは無いのだ。
そもそもそんなにおっちょこちょいじゃない。
「唯じゃあるまいし、そんな簡単には落とさないぞ」
「むぅ~。りっちゃんに馬鹿にされたぁ」
唯はかわいらしい顔で私に向かって野次を飛ばした。
それを横目に見つつ、澪はそうだ、と切り出した。
「もしかしたら、家に置いてきたのかもしれないんじゃないか」
確かに私は今日学校に来てからお金を使っていない。それもあり得る話だ。
418 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 18:50:34.34 ID:nWCh/QEr0
「ん~そうかもなっ。とりあえず家で探してみる」
「無かったらみんなで探した方がいいかもしれませんね」
ムギがいつもと変わらない、おしとやなかな口調でそう言った。
やっぱり持つべきものは仲間さ。と心の中で私はつぶやいていた。
梓が心配そうに近づいてきた。いつもツインテールだがたまには髪型でも変えればいいのにと思う。
「お財布には、いくらぐらい入ってたんですか?」
「えっと…5000円ぐらいかな」
「け、結構な大金ですね。まずいですよ、やっぱり今日みんなで探した方がいいと思います」
梓は心配そうな視線を私に向け続けている。だがもう外は夕焼け色に染まっている。
早く帰らないと危ない気もするのだが…
「いや、でももう部活も終わりだし…」
「いや、下校時間ギリギリまで探すよ」
澪が真剣なまなざしで私を見詰めてきた。こういう時の澪の目は、女の私がいうのもなんだけど、ホントにカッコいい。
可愛さと恰好よさを持つ不思議な奴だなと昔から感じていた。
「あたしもっ」
「わたしも協力しますわ」
唯もムギも心配そうに私のことを見ている。ここまで言われたら断る方が酷だろう。
420 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 18:56:56.17 ID:nWCh/QEr0
「みんな…迷惑掛けてごめんな」
「いいのいいの。困った時はお互い様だろ」
そう言えば私も澪に困った時は色々とアドバイスをした覚えがある。
「困った時はお互い様」といういかにも日本人じみた言葉が、好きになった気がする。
「じゃあ、音楽室の中を一通り探してみましょう」
私たちは5人で手分けして音楽室の中を捜しまわった。だが、財布は見つからなかった。
すでに下校時間まであと5分を切っていたので、私はみんなに声をかけることにした。
「みんな、ホントに今日はありがとなっ!もう遅いし、私も家で探してみるから、今日はここまでにしよ」
「あぁ、そうだな」
引き出しを開いていた澪が手を止めた。梓はテーブルの下を探していた。
ムギは教室の隅を。そして…唯は掃除用具入れの中を探していた。正直言ってそこにあるとは思えないのだが。
私たちはそそくさと学校を出て帰った。私は帰り道澪と雑談をして、家に着いた。
さっそく自分の部屋をくまなく探す。だが、やっぱり見つからない。やはり学校なのだろうか。
そういえば夏休みに入ってからもう10日か。そろそろ宿題にも手を付けないとやばそうだ。
私はなんとなく勉強机に向かったものの、5分ほどで意識を失った。
423 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 18:58:45.27 ID:nWCh/QEr0
次の日、いつも通り私たちは音楽室に集まった。
だが、私が音楽室に入った瞬間、唯のなさけない声が聞こえてきた。
「おさいふ、なくしちゃったよぉ」
唯は開いた鞄の近くでしゃがみ込み、その様子を他の3人が困った顔をして見ていた。
「家に置いてきたんじゃないのか?」
「でも、昨日みんなと別れて、コンビニに入った時にはもう無くて…」
「じゃぁ、どこかで落としたとか」
「今日の朝、来た道をずっと探したし、交番のお巡りさんにも聞いたんだけど、無いって言われちゃった…」
唯は目に涙をためていた。痛いほど気持ちが分かる。
「そっか…唯まで…悲しいよな、財布無くすと」
「うぅ、りっちゃん。大好きだよぉ」
私たちは同じ境遇を悲しみ、抱き合った。心なしかムギの視線を感じる。まぁ無視だ無視。
しかし、困ったな。まさか2日続けて財布がなくなるなんて。いくらなんでも怪しい。
「唯先輩、きっとお巡りさんが見つけてくれますよ。そんなに心配せずに、練習しましょう。気も晴れますよ」
梓が唯を見ながら言った。ったく、練習熱心なのは相変わらずだ。
まぁ、ずっとこのまま悲しんでいてもしょうがない。部活をやりに学校に来たのだから、部活しなきゃな。
「よしっ、はじめるかっ!」
私は唯の背中をポンポン叩いて音頭を取った。
426 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:02:17.25 ID:nWCh/QEr0
練習はいつものように終わった。
5人はそれぞれ楽器を片づけ始める。私とムギはここに据え置きなので、いつもそれを眺めている。
ムギは隣で膝の上に鞄を置いて中に楽譜をしまっているようだった。
突然、ムギに声を掛けられた。
「り、りっちゃん」
声が震えている。眉も心なしか震えているように見える。
「どした?」
「お、お財布がないの…」
分かった。眉は怒りで震えているのだ。ピクピクと痙攣しているようにも見えた。
って、そんな顔面観察している場合ではない。
「えっ!?マジかよ」
「今日はこの帰りにお買いものがあるから、40万円程持ってきていたのに…」
ムギは口を閉じると涙を流し始めた。だが私はそれよりも40万円という価格に驚いていた。
「よ、よんじゅうまん…?」
「どうしましょう…今日朝来るときには確かにあったのに…」
「だ、大丈夫?ムギちゃん」
ギ―太を背負った唯がムギに話しかける。これで3人。あまりにもおかしい。
どう考えても部員の犯行としか思えない。だが…誰がそんなことするのか、ありえない。絶対にありえない。
仮にあったとしても認めたくなかった。
428 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:06:08.38 ID:nWCh/QEr0
「と、とりあえず今日はもう行かなきゃいないので、帰ります」
「あ、おいムギっ」
私の呼びかけにも答えずにムギは音楽室を去って行った。嫌な感じになってしまった。
「最近、多いよな。梓も澪も気をつけろよ」
とりあえず言ってみた。沈黙が続くのを我慢できなかった。
「今度さわ子先生に相談してみたほうがいいと思います」
梓がギターを背負いながら言った。その通りだ。ここまで来たら学校の先生に頼るしかない。
「そ、そうだな。てかもう暗くなってきたし、みんな帰ろうぜ」
私たちはいつになく暗い雰囲気で学校を後にした。昨日と同じように駅で別れると、私と澪の2人になった。
そういえば、さっきか気になるのだが澪があまりしゃべらない。どうしたのだろうか。
「澪…調子でも悪いのか?」
私は澪の顔を覗き込んだ。だが、澪の目はどこか遠いところを見つめていた。
また沈黙が続いた。私たちは自然と速足になった。
「じゃ、また明日」
いつもの別れ道で私は再び澪に声を掛けた。
そして、そのまま歩きだした。
「待って、律」
430 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:09:23.31 ID:nWCh/QEr0
私は澪を見た。
じっと私を見つめている。
「話したいことが、あるんだ」
一言一言、確認するように澪はしゃべり始めた。
「…見ちゃったんだ」
「何を?」
「あ、あずさがさ…」
梓がどうしたというのだ。彼氏と歩いていたのを目撃したとでも言うのだろうか。
「デートしてたのか?」
「バカ、違う」
「じゃぁ何だよ」
「梓が…財布を盗んだんだ」
私はその時ゆらゆらと周りの情景が歪んでいくのを感じた。認めたくなかった。
435 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:15:20.41 ID:nWCh/QEr0
「昼の時、ムギの財布の中からそっと財布を抜いてた」
「なんでその時言わなかったんだ!」
「…言えるのか?もしお前が私の立場だったら言えるのか?」
「うっ…」
澪の言う通りである。もしその場で私が見ていても、きっと言えなかっただろう。
すでに2人の財布が無くなっている。だからきっと見間違いだと思うだろう。
「それは、確かなのか?」
「私も最初は嘘だと思いたかった。でも、これは嘘じゃない。確かに見たんだ…」
まただ、ゆらゆらし始めた。もういやだ。なんで、なんで…どうして…
「なんでだよ…なんで梓なんだよ…」
「…………」
その時、澪の携帯が鳴り始めた。
澪は鞄の中から携帯を取り出し、青ざめた。
「梓…からだ…どうしよう…」
439 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:23:24.62 ID:nWCh/QEr0
「どうしようって…出るしかないだろ」
何というタイミングだろう。もしや私達のことを見ているのでは?
だが、周囲を見回しても誰もいる様子は無かった。
澪がボタンを押して通話を始める。
「もしもし」
『もしもし。澪先輩ですか?』
周りが静かなこともあり、梓の声も聞こえた。
「あぁ、そうだ」
『先輩、今日見ましたよね』
「…何を?」
『とぼけないでくださいよぉ、財布ですよ、財布』
澪の話、本当だったのか…
「…あぁ、見たよ」
『まさか、誰かに話したりとかしてませんよね』
澪が訴えるような視線で私を見つめる。私は首を横に振った。
「あぁ、話してないよ」
『よかったぁ。さすが澪先輩』
「律や唯の財布も梓が盗んだのか?」
『えへへっ、ばれちゃいました?正解ですぅ』
こいつ…本当に梓か?
441 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:26:47.75 ID:nWCh/QEr0
『でも、澪先輩のことは信じてたんで、盗みませんでした』
「そ、そうか」
『秘密にしてくれたんで、今度お礼に少しお金あげますねっ』
「いや、別にお金には困ってないし」
『先輩、もしかしてまだ律先輩とか唯先輩とかと一緒に音楽したいんですか?』
「…は?」
『私、いいバンド見つけたんですよ。最近そこに入ったんです』
「そんなの聞いてないぞ」
『えぇ、秘密にしてましから。それで、そのバンドでスタジオ使う時にお金足りなくなっちゃったんで、財布盗んだんです』
もう澪は何も喋らなかった。
『澪先輩にも、ぜひバンドに入ってほしいんですよ。やめちゃいましょ?あんな糞軽音部』
私は思い切り叫びたかった。だけど、今は手をぎゅっと握って耐えるしかない。
『返事は明日聞きます。じゃ、さよならっ♪』
そこで電話は切れた。澪は電話を耳に当てながら涙を流している。
「畜生ッ!!」
私は閑静な住宅街に響き渡るには十分な声量で叫んだ。
そして、私も目から涙が流れていることに気付いた。
「ううっ…」
短い嗚咽を吐いた後、私はひざまずいた。体の自制はとっくに利かなくなっている。
442 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:29:59.27 ID:nWCh/QEr0
頭の中には今までの軽音部での思い出が走馬灯のように蘇ってきた。
唯が音楽室にやってきてくれた日。楽しかった夏合宿。初めての文化祭ライブ。
もう、いくつもいくつも浮かんでは消えた。頭が破裂しそうだ。周りの風景がゆらゆらする。立てない。
私たちは何をしてきたのだろう?何がしたかったんだ?なんのために今まで5人で過ごしてきたんだ?
疑問が浮かんでも答えは浮かんでこない。だめだ、このままじゃだめだ。
「律…?」
気がつくと澪が私の顔を覗き込んでいた。まだ涙を流していた。
「梓…どうしちゃったんだろうな?」
止めろ、その話はもう終わりにしよう。
「私たちがダメな先輩だったからなのかな?」
もういい。もういい。もういい。やめて澪。もうやめよう。
「もう、やめよう?…」
気がつくと、声が出ていた。
澪が目の前で泣き崩れる。そうだ、苦しいのは私だけじゃない。
445 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:34:10.64 ID:nWCh/QEr0
「とりあえず…帰ろう?」
私は立ち上がり、澪の背中を撫でた。
「うっ、うっ」
短い嗚咽と共に、澪は立ち上がる。
「ほらっ、梓のことは今は忘れて」
「うん……」
「いつも私をたたく元気はどうしたんだっ」
「うるさいっ…うぐっ」
長い髪で顔は見えなかったが、ちょっとは元気になったみたいだ。よかった…
私たちは家に帰った。辺りはすっかり暗くなっていた。
446 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:41:05.39 ID:nWCh/QEr0
次の日、私は澪と一緒に学校に向かった。
私は恐る恐る、梓のことを口に出した。
「どうする?やっぱり梓には…」
「うん。言った方がいい。梓がこうなったのも私達に責任があると思うんだ」
昨日と違い、今の澪は決心を固めたような表情をしていた。よかった、いつもの澪が戻ってきてくれた。
私達は梓に本当のことを話してもらうことにした。きっと何か訳があるに違いないと思ったからだ。
学校に着くと、もう私たち以外の3人は来ていた。いつもと変わらぬ様子だった。
澪が震える声で梓に話しかけた。
「梓、ちょっといいか?」
「えぇ、いいですよ」
梓はそそくさとこちらにやって来た。
だが、私を一瞥して言った。
「律先輩、練習しないんですか?」
その目には軽蔑の色が現れているのが分かった。今日までこれに気付かなかったのか…私は。
448 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:49:18.80 ID:nWCh/QEr0
「いいからちょっと来い」
澪は階段を降りて行こうとした。
「嫌ですよ」
「いいから来い!」
「み、澪先輩…?」
澪は真剣な眼差しで梓を見ていた。私には分かった。澪は相当本気で怒っている。
梓はとたんに怯えだした。事を察したのだ。慌てて逃げようとする。
「おいっ!待てっ!」
私は梓の腕をつかんだ。
「やだっ!離してっ!」
「離すもんか。唯とムギと私の財布、どこにやったんだ」
「なんのことですか!そんなの知りませんっ!」
じたばたしている梓の元に、澪が近寄っていき、大きく手を挙げた。
バシッ!
廊下に響き渡る大きな音がした。澪は梓の頬を叩いていた。
450 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 19:54:37.55 ID:nWCh/QEr0
「どうして…どしてこんなことしてしまったんだ?」
「…………」
梓はそっと自分の頬に手を触れた。だが何も喋らない。
「梓…本当のことを話してくれないか…」
「………いやですぅ」
「梓!」
「…………こんなバンド嫌いですぅ」
私はもう抑えきれなくなった。
「あずさァ!!!」
「ビクッ!」
思わず出してしまった大声に梓は驚いているようだった。
「私たちと過ごした時間は嘘だったのか?5人で武道館ライブしようって約束は嘘だったのかッ!?」
梓はうつむいたままだった。
453 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 20:01:43.45 ID:nWCh/QEr0
何事かとムギと唯が音楽室から出てきた。
「…どうしたの?あずにゃんが何かしたの?」
「唯…財布を盗んだのは梓だったんだ」
「え…?違うよね?そんなはずないよね、あずにゃん」
私は唯の不自然な作り笑顔は直視できなかった。
「…えぇ、違います…」
「ほらっ!違うって!ねぇ澪ちゃん、何かの間違いだよっ!」
梓の台詞で唯はとたんに明るくなった。だが、梓はうつむいたままだ。
そして、突然泣き崩れた。
「うぅっ…うう、うぐっ、えぐっ」
「ど、どうしたの?あずにゃん?」
「私が…私が盗んだんです…」
無垢な唯の様子に、耐え切れなくなったようだった。
「えっ…!?」
唯は固まってしまった。無理もない、あれだけ可愛がっていた梓なんだから…
456 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 20:09:21.88 ID:nWCh/QEr0
「みんな、責めやしない。梓がこういうことをするのに、何か理由があったはずだ。それを話してくれないか」
澪は梓が落ち着いたのを見計らって、落ち着いた声で尋ねた。
梓はぽろぽろと言葉を漏らし始めた。
「全部…嘘なんです…新しいバンドも…全部、全部…嘘なんです」
「じゃぁ、どうしてそんな嘘ついたんだ」
「私……最初に律先輩の…盗んでしまってから…よく分からなくなっちゃったんです」
「…どうして律の財布を盗んだんだ」
「律先輩…がうらやましくて…」
「うらやましい…?」
澪は不思議そうに梓を見つめる。
「律先輩が…いつも澪先輩と一緒にいて…仲良さそうで…それで…」
「そういうこと、か…」
澪は納得したようだ。
「私…澪先輩のこと…好きなんです…」
嫉妬心。私はそう思った。無理もない。ここは女子高で、この部活でまともなのは澪ぐらいだったからな。
それに、今改めて見ると思うが、こういう澪はやっぱり恰好いい。はぁ…男女なんて関係無いのか…
人間の心っていうのは、不思議なものなんだな…
ってこコラ。目をキラキラさせるのはやめろ、ムギ。
459 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 20:15:46.74 ID:nWCh/QEr0
「あずにゃんに、振られた…」
って、唯は唯で悲しんでるし…
「そっか。嬉しいよ、梓」
「澪先輩…!」
梓は澪の返事に期待を込めた声をあげた。
「でもな…こんなことしてまで私を好きなるのは、やめてくれ」
「……」
再び梓は沈黙した。
「私だって、普段から熱心に練習を頑張る梓が好きだ。でも、こんなことする梓は嫌いだ」
「はい…」
「ちゃんとみんなに謝って、財布を返してあげてくれ。それが私からのお願いだ」
「分かりました…」
梓は音楽室に入って行った。
しばらくすると、3つの財布を両手に持って出てきた。
間違いない、確かにあれは私の財布だ。
460 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 20:21:24.94 ID:nWCh/QEr0
「本当に、すみませんでした…うぐっ、うっ」
それぞれ3人に財布を渡し終えると、梓はまた泣きだしてしまった。
「よし、よし…」
澪は優しく梓を撫で始めた。あれは澪だけの特権だな。そう思った。
私たちの方を振り返り、澪は言った。
「梓もこれだけ反省してるんだ。財布も帰ってきたんだし、許してやってくれないか」
間髪入れずにムギが答えた。
「もちろんですわ……いいもの見せてもらいましたし」
「あずにゃんっ!あずにゃんのこと愛してるよッ!!!」
もうこいつらは財布のことなどどうでもいいらしい。
462 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/21(金) 20:30:40.18 ID:nWCh/QEr0
私たちは音楽室に戻った。
「ティータイム、始めましょっか?」
ムギが微笑みながら、紅茶を入れ始める。
「そうだなっ。ほら梓、座りなよ」
「はいっ…」
澪に進められて、梓はソファーに座った。だが、まだ表情は暗い。
よし、元気づけてやるか。
「いつまでくよくよしてんだよっ。みんな梓のこと大好きなんだからな」
「…律先輩」
「お前が悲しい顔してると、こっちまで悲しくなってくるよ。ホラ、元気出して」
そう言って私は、軽く梓の背中をポンポン叩いた。
「律先輩、唯先輩、ムギ先輩、澪先輩…」
「んっ?なんだ?」「なに?あずにゃん?」「何?梓ちゃん?」「どうしたんだ?梓」
梓は一呼吸置いて言った。
「みんな、大好きですっ!」
その日の紅茶は、今までで一番おいしかったことだけは覚えている。
Fin