「ゆいあずで帰り道とか ◆/BV3adiQ.o」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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いつもどおりの帰り道。唯先輩と二人、肩を並べて道を歩く。
「唯先輩、最近上手になってきましたね」
「そう?」
「はい。最初の頃と比べたら段違いです」
「そっかぁ……」
褒めてあげると、素直に頬をほころばせる唯先輩。
「でも、それはあずにゃんが教えてくれてるからだと思うよ?」
「へ?」
「私がわからないところをあずにゃんが手取り足取り教えてくれるから、私も覚えられるんだよ~」
「手取り足取りって……ただ押さえ方を教えてるだけじゃないですか」
それのどこが手取り足取りなんだろうか?
「だって、あずにゃん私の指を持って教えてくれるでしょ」
「そうですね」
「だから、手取り足取りなんだよ」
「???」
どうやら、唯先輩の考え方では、体を触れ合って教える=手取り足取りみたいだ。
いや、まぁ意味としてはそうなんだろうけど、どうにも納得できない……。
「とにかく、あずにゃんが教えてくれるから私も上達してるんだよ。あずにゃん、ありがと~」
「いえ、そんな……」
面と向かってお礼を言われるとなんだか気恥ずかしい。
だから、ついついごまかしてしまう。
「べ、別に私限定じゃなくて、澪先輩やさわ子先生に教えてもらっても唯先輩は上手になると思いますよ?」
その場しのぎで言ってみただけだけど、これは普通にあり得る話かもしれない。
だって、唯先輩は一度教えただけで、ほぼ完璧に弾けるようになるような人なんだから。
誰が教えたって変わらないんじゃないかな……。
「それは無いと思うけどな~」
「どうしてですか?」
「そうだね……。その前に、ジュース買わない?」
「ジュースですか? 実は私、お金が無くて……」
「それぐらいなら奢ってあげるよ」
「そ、そんな、悪いですよ」
「いいのいいの。先輩の厚意は素直に受け取っておくものだよ?」
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
「任せなさい!」
ポンと胸を叩く唯先輩と一緒に、道路脇の自販機に歩み寄る。
「それじゃ、どれがいい?」
私にそう尋ねながら、財布をがさごそする唯先輩。
そうですねぇと私が考え始めると、「あ」と呟いてその動作がストップしてしまった。
「どうしたんですか?」
「ご、ごめんあずにゃん……。私もお金持ってなかったよ……」
そう言って財布の中身を見せてくる先輩。全部あわせてもジュース一本すら買えない。
唯先輩らしいなぁと思わず頬を緩めると、唯先輩はあたふたとし始めた。
「あ、あずにゃん。今私のこと馬鹿にしたでしょ?」
「してませんよ」
「うそっ。絶対馬鹿にしたよっ」
ぷくぅと頬を膨らませながら怒る仕草は、まるで子供みたいだ。
どうやって宥めようかと考えて、ひとついい方法を思いついた。
財布を確認してみる……うん、よし、大丈夫。
「それじゃ、ワリカンでどうですか?」
「ワリカン?」
「はい。唯先輩のと私のを足せば一本ぐらいは買えますよ?」
言いながら小銭を数枚差し出す。
「で、でも……」
「二人で半分ずつ出してそれを二人で飲めば誰も損しませんよ?」
あくまで強気でそう言うと、唯先輩は少し考えてるみたい。
「でも、私が奢るって言ったのに」
「それなら、気にしませんよ。感謝の気持ちですから」
私がそう言うと、唯先輩は目をまんまるくして、あははと笑い出した。
「それもそうだね、それじゃワリカンにしよっか」
「はい」
唯先輩に小銭を渡す。それを受け取って、自販機に自分の分も一緒に投入する唯先輩。
「それにする?」
「先輩の選んでものでいいですよ」
「それじゃ、これかな」
唯先輩がボタンを押して、私は出てきたペットボトルを取り出す。
「どうぞ」
「ありがと~」
蓋を開けてから、唯先輩に渡す。こういうのはやっぱり先輩からだよね?
「ごくごく……それで、何の話だったっけ?」
「ごくごく……私が教えるのと、澪先輩やさわ子先生に教えられるのでは違うって話です」
「お、そうだったね~」
最後に一口含んでから、唯先輩は語り始める。
「やっぱり、教える人によって癖が違うんだよね」
「癖……ですか」
「そう、癖。例えば澪ちゃんだったら、弦の弾き方に力を入れて教えてくれるけど、さわちゃんだと速く弾くコツを教えてくれるんだ」
「そうですか。それじゃ、私はどうですか?」
ごくごくと飲みながら、気になるところを質問してみる。
「う~んと……わかんないや」
「って、何ですかそれ」
思わず突っ込んでしまう。
「よくわかんないけど、なんだか私に合ってる気がするんだ」
「はぁ……そうですか」
最後に一口飲んでから、残りを先輩に渡す。
「でも、でもね? ひとつだけ確かな理由があるんだよ?」
「何ですか?」
少し考え込んでいる唯先輩。残りのジュースを喉に流し込んで、口を開く。
「それはね……。好きな人が教えてくれるから、だよっ」
「――へ?」
唯先輩はえへへと照れくさそうに笑っている。
……もう、唯先輩はずるすぎますよ……。
Fin