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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1247988782/l50 651 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:43:49 ID:QLNVTiX7 「うい~アイス~」 唯先輩の部屋の方から、間延びした声が聞こえてくる。 ようやく起きたんだ、と談笑していた私と憂は顔を見合わせる。 「はーい、ちょっと待って~」 憂は、そっちに顔を向けて返事をすると、しょうがないなあという笑みを浮べて見せた。 「憂も大変だね」 「そうでもないよ、アイス持って行ったときのお姉ちゃんの顔、ホントに可愛いんだから」 あー、それはそうかも、と浮かんできた唯先輩スマイルビジョンに私は納得する。 「…梓ちゃんも、随分お姉ちゃんに素直になってきたね」 そんな私の様子を見て、憂がくすっと笑った。 「な、ちがっ!別に今のは、唯先輩のことを可愛いと思ったわけじゃなくて―なくて、ええと…」 「はいはい」 憂は私の抗議を笑い流すと、席を立って台所へと向かって行った。 「もう…」 抗議する相手もいなくなり、私はせめてもと溜息をついてその代わりにしてみる。 確かに―ちょっとは可愛いかなーと思わなかったわけじゃないけど―でも別にそんなあっさり読み取られるほど露骨には思っていなかったはず。 でも、私がそう思ってただけで別にそうでも無かったのかな。 「あーもう、いいけど、別に」 大きく伸びをして、思考を振り払う。振り払ったところで、どうせ消えてくれないんだけど。 それより、話し相手がいなくなったせいで、何となく暇になってしまった。 さすがに台所まで着いて行くのは失礼だし、暇つぶしにと勝手に部屋を漁るのはもっと失礼だし。 そういえば憂のことだし、アイスを持っていったら、なんだかんだで暫く向こうにいついちゃいそう。 ううん、というより唯先輩が起きてきたからには、三人ってことになるだろうし。 先に唯先輩の部屋に行っておこうかな。今日はまだ全然話せてないから― ―確かに憂と遊びに来たって名目だったけど、まさか寝てるとは思わなかったから―なんか物足りない。 ―いや、別に禁断症状とかじゃないですよ。 聞こえもしない突っ込みにそう返して、私は溜息をつく。ひょっとしたら本当にそうなのかもしれない。このなんともいえない感覚は、そういってしまえばあっさり説明が付く。 「そうしよう…」 席を立ち、憂の部屋を後にする。勝手知ったる他人の家、唯先輩の部屋は確かこっちだ。時間的に、憂ももう着いている頃だろうから、向こうで合流しよう。 「うーん」 そんなとき、不意に憂の声が聞こえた。発生源は台所の方。おかしいな、まだそんなところにいるなんて。 「どうしたの、憂?」 ひょいっと首だけ突っ込んで、尋ねる。見ると憂は冷蔵庫の前、お盆にグラスを載せたままうーんと唸っていた。 「うん…アイス切らしちゃってたの忘れてて…どうしようかなって」 「そうなんだ…」 冷凍庫の前で思案気な顔の憂。うんうん悩んでる。だって、アイスがないと知ったときの唯先輩は、それこそ悲しそうな顔をするに違いない。 それを目にするのは、唯先輩スキーな憂にはとても辛いことだろうから。 ―私も、それはちょっと嫌かも。 出来れば先輩には笑っていてほしいし―って、だんだん思考が憂に侵されているなあ… 652 名前:アイスゆいあず2/4[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:45:07 ID:QLNVTiX7 「あ!」 不意に声を上げる憂。なんだろう、何かいい案でも浮かんだのかな。 そう思って憂に目を向けた瞬間、びしゃりと何かが私の服を濡らした。 ―え?なにこれ…水? 「ご、ごめん梓ちゃん!つまずいちゃって!」 謝られて、何ごとかと思ったら、どうやら憂が手にしてたお盆のコップが倒れて、その中身私に向かってきたと言うことらしい。 お茶とかだとまずかったかもだけど、どうやらただの水だし、少し冷たいけれど、これくらいなら問題ない。 「いいよ、気にしないで―」 「本当にごめん!すぐ洗うから…これに着替えて?」 そういうと憂はてきぱきと向こうからシャツを持ってきて、私に手渡す。 さすがにそこまではと思ったものの、そのてきぱきに押され、私は言われるままシャツを脱ぐと憂に渡した。 憂は何度も私にごめんね、といいながら洗濯機の方に去っていく。 ―あんなに謝らなくてもいいのに。でも、憂があんな失敗するなんて珍しいな。少しだけ、貴重な体験だったのかも。 とりあえず、上半身下着姿のままじゃあれだし、と私は憂に渡されたシャツに袖を通した。 ん…これ、憂のじゃない。唯先輩のシャツだ。何か、唯先輩の匂いがする― ―って何で匂いで判別付けてるのかな、私! 「はあ…とりあえず唯先輩のところに行こ…アイスがないことも伝えないとだし」 一人で考えていると、なんか変な方向に思考が進んでいきそうだし。 私はてくてくと唯先輩の部屋に向かった。 とんとんとドアをノックすると、「アイス~」と声が返ってきた。それは挨拶か何かのつもりなんですか。 ドアを開けると、ベッドの上でゴロゴロしている唯先輩が出迎えてくれた。 相変わらずだ。本当にこの人は。でも、なんか今、ほっとした。 「あ~あずにゃん~」 私の姿を認めて、むくりとベッドの上で上体を起こす唯先輩。 「来てたんだ~おはよう!」 「おはようございます…もう昼ですけどね」 にっこりとした笑顔をむけてくる唯先輩。 寝起きのせいか、ふら~と今にもまた倒れこみそうに揺れている唯先輩。 「…かわいい…」 「え?」 「な、なんでもないです!」 もう、口に出てたよ。やばい、すっかり憂が移ってる、これ。 何とか気を取り直さないと―そうそう、そうだ。アイスがないこと伝えないといけなかったんだ。 それで何とか話題を広げて、体勢を立て直そう。 「あーえっと、そうでした。アイス切れていて、もうないそうです」 「えーーー!!」 そう伝えると、全く予想通りのレスポンスが帰ってきた。まるで世界の終わりを迎えたかのような、愕然とした表情の唯先輩。 ああ、憂だと真っ先にごめんねお姉ちゃんと泣きついちゃいそうな様子だ。 私は―アイスくらいでなんですか、という常識的な思考のおかげで、まだ耐えることが出来てるけど。 「うぅ…アイスぅ…」 唯先輩はパタリとベッドに倒れこむ。大げさだと思わなくもないけど、唯先輩の場合、これが本気だから。 「はい、元気出してください、先輩」 「うぅ、あずにゃん…」 ベッドにうずくまる唯先輩の隣に腰を下ろし、よしよしと頭を撫でてあげる。唯先輩はひょこりと顔を上げ、のそのそこちらに近付くと、ぺたりと私の膝の上におさまった。 大体、想定の範囲内の行動。だから驚いたりはしない。なんか、私もなれてきたな、って思う。 そのままよしよしは継続。やがて、先輩はゴロゴロ私の膝の上で喉を鳴らし始めた。 653 名前:アイスゆいあず3/4[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:46:36 ID:QLNVTiX7 「機嫌直りましたか?」 「…うん~ありがとう、あずにゃん」 のそりと小さく首だけ上げて答える唯先輩。その表情には、随分と安らかさが戻ってきていて、私はほっとする。 そのまま、いつもの唯先輩に戻るれるように、再びその頭を撫でようと手を伸ばして― ふと、その様子がおかしいことに気がついた。先輩は少し首を上げた姿勢のまま、ぴたりとその動きを止めている。 私の予想だと、またふにゃりと私の膝の上に崩れると思ったのに。 「見つけたぁ…」 あれ?と口にしようとした私の耳には、そんな先輩の声。見つけたって、何を?にこーっと笑顔になった先輩の視線は、真っ直ぐ私の胸元へ向かっている。 「アイスぅ…」 アイス?それでなんで私の方を見て…? そこで私は初めてその文字に気が付いた。私の胸元、正確には私の着ているシャツに書いてある「アイス」の文字に。 ―ええ、確かにアイスって書いてありますけど―書いてあるからって別に私がアイスを持ってるって…わわわっ!? 「アイス~!」 突然、先輩はガバっと身を起こすと、がしっと私に抱きついてきた。不意を突かれた私は、その勢いのままもつれ合うようにベッドに倒れこんでしまう。 違う、勢いなんかじゃなくて、これは。偶然なんかじゃなくて、唯先輩は確かな意思を持って―私を押し倒した? ―何か、やばい気が。そう、早くここから抜け出さないと―とんでもないことになってしまいそうな。 抜け出そうと、ずりずりと唯先輩の下で動く。だけど、そんな私の動きに合わせて、唯先輩は巧みに重心を変え、逃がしてくれない。 仮定が、確定に変わっていく。やはり唯先輩は確信犯的に私を押し倒していて―でもだとしたら、何のために? 疑問が浮んで、だけどそれはじわじわと薄れていく。思考に白い靄のようなものがかかっていくように、ゆっくりとでも確実に溶かされていく。 だって、仕方がない。こんな風に先輩に抱きつかれて、それもベッドと先輩の間に挟まれて、体中を隙間泣く先輩のぬくもりに包まれて、こんな状態で― ―私が正気を保てるわけないじゃないですか… 正直、この瞬間昏倒してないだけでも奇跡に近い。でも、それも時間の問題―だってもう、何も考えずこのままこうして身を委ねていたいなんて思ってしまってるから。 そう、それも悪くな― 「はんむっ」 「ひゃあっ!?」 ゾクゾクと全身の神経を走り抜けた刺激に、私は思わず声を上げた。 自分のあげた声の滑稽さが気になったけど、それを悔やんでいる余裕なんてなかった。 だって、それはいまだ絶賛継続中。発生源は―ええと首筋で…丁度唯先輩がはむっと甘噛みのようなことをしてるところで― 「―ってぇ!何してるんですか、唯先輩!」 「え?なにって―」 ひょいっと顔を上げて、答えてくる唯先輩。その感覚から開放されて、一瞬ほっとしたのも束の間。 「…!?」 まるで神経を直接なで上げられたような感触に、声にならない声が上がる。ばちばちっと頭の中でスパークが走り、びくびくと体が震える。 「ニャ、にゃに…を…っ」 それでも何とか意識を繋いで、おそらくはその犯人に目を向けると、唯先輩は満面の笑みでぺろりと舌なめずりをして見せた。 発祥は鎖骨のちょっと上辺りから耳の付け根辺りまで。今はひんやりとした感覚が走るそこ。 ―気化熱、ということはそこに水分が乗せられているということで、現状それに該当するのは一つしかない。 眼に出来なかったその光景が、何故か頭の中で鮮明に再生され、ぼっと私の頬を熱くする。 654 名前:アイスゆいあず4/4[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:47:24 ID:QLNVTiX7 「アイスを舐めてるだけだよ~♪」 「へ?」 ―ひょっとしてまさか、アイスってかかれたシャツを着てるから―ってこと? 「いやいやいやいや、違います、違いますから!ただシャツにアイスって書いてあるだけで、私はアイスじゃないです!」 「うそだぁ~」 「んにゃっ!?」 私の正当な抗議をあっさり否定してくれた先輩は、またぺろぺろと私を舐め始める。 「ま、まって…ふにゃ…ぁ」 私の抗議なんて何処ふく風と、 まるで猫みたいにぺろぺろと、私に先輩の跡を残していく。 ひんやりと冷まされるはずのそこは、何故か焼け付くように熱くなって、それはどんどんと増えて行き、私と言うものを溶かしていこうとする。 「だって、こんなにおいしいんだもん。これがアイスじゃないはずないよ~」 先輩の声。それを耳にした私は―もう溶解寸前で、まともに反応を返すことも出来ない。 美味しそうに―本当にそうなんじゃないかって勘違いしてしまいそうなそんな仕草で、唯先輩は舌を動かし続けてるから。 先輩にそんなにされて、いまだ限界が来てないって方がおかしいくらいだ。むしろ、とっくに限界なんて過ぎているはずなのに。 「…ねえ?」 私を繋ぎとめてるのは、私の目をじっと見つめ続ける先輩の眼差し。 こんなふざけた悪戯じみた行為をしているのに、先輩の目はびっくりするほど真っ直ぐで、そして―熱い。 それは私を溶かすものではあるけど、また同時に強くひきつけるもので―私はそこから逃げられないまま、とろとろに溶かされていく。 しっかりと掴まえられ、絡め取られたまま、とろとろに―本当にもう、どうしようもないくらいに。 「…食べちゃってもいいよね?」 先輩が確認してくる。どうせ、いやって言ってもやめる気なんてないくせに―私がいやなんていえないことを知ってるくせに。 「…いいですよ、私は先輩のアイスですから」 折角だから、それを言い訳にしてみよう。 ―そんな理由がなくても、私はきっと食べられていたけど。 「ふふっ、それじゃいただくね…―あずにゃん」 そんなの全てお見通しだよって先輩は笑って―だから私は細かいことは全部置いておいて、ふいっと体の力を抜いた。 すばらしい作品をありがとう
このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1247988782/l50 651 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:43:49 ID:QLNVTiX7 「うい~アイス~」 唯先輩の部屋の方から、間延びした声が聞こえてくる。 ようやく起きたんだ、と談笑していた私と憂は顔を見合わせる。 「はーい、ちょっと待って~」 憂は、そっちに顔を向けて返事をすると、しょうがないなあという笑みを浮べて見せた。 「憂も大変だね」 「そうでもないよ、アイス持って行ったときのお姉ちゃんの顔、ホントに可愛いんだから」 あー、それはそうかも、と浮かんできた唯先輩スマイルビジョンに私は納得する。 「…梓ちゃんも、随分お姉ちゃんに素直になってきたね」 そんな私の様子を見て、憂がくすっと笑った。 「な、ちがっ!別に今のは、唯先輩のことを可愛いと思ったわけじゃなくて―なくて、ええと…」 「はいはい」 憂は私の抗議を笑い流すと、席を立って台所へと向かって行った。 「もう…」 抗議する相手もいなくなり、私はせめてもと溜息をついてその代わりにしてみる。 確かに―ちょっとは可愛いかなーと思わなかったわけじゃないけど―でも別にそんなあっさり読み取られるほど露骨には思っていなかったはず。 でも、私がそう思ってただけで別にそうでも無かったのかな。 「あーもう、いいけど、別に」 大きく伸びをして、思考を振り払う。振り払ったところで、どうせ消えてくれないんだけど。 それより、話し相手がいなくなったせいで、何となく暇になってしまった。 さすがに台所まで着いて行くのは失礼だし、暇つぶしにと勝手に部屋を漁るのはもっと失礼だし。 そういえば憂のことだし、アイスを持っていったら、なんだかんだで暫く向こうにいついちゃいそう。 ううん、というより唯先輩が起きてきたからには、三人ってことになるだろうし。 先に唯先輩の部屋に行っておこうかな。今日はまだ全然話せてないから― ―確かに憂と遊びに来たって名目だったけど、まさか寝てるとは思わなかったから―なんか物足りない。 ―いや、別に禁断症状とかじゃないですよ。 聞こえもしない突っ込みにそう返して、私は溜息をつく。ひょっとしたら本当にそうなのかもしれない。このなんともいえない感覚は、そういってしまえばあっさり説明が付く。 「そうしよう…」 席を立ち、憂の部屋を後にする。勝手知ったる他人の家、唯先輩の部屋は確かこっちだ。時間的に、憂ももう着いている頃だろうから、向こうで合流しよう。 「うーん」 そんなとき、不意に憂の声が聞こえた。発生源は台所の方。おかしいな、まだそんなところにいるなんて。 「どうしたの、憂?」 ひょいっと首だけ突っ込んで、尋ねる。見ると憂は冷蔵庫の前、お盆にグラスを載せたままうーんと唸っていた。 「うん…アイス切らしちゃってたの忘れてて…どうしようかなって」 「そうなんだ…」 冷凍庫の前で思案気な顔の憂。うんうん悩んでる。だって、アイスがないと知ったときの唯先輩は、それこそ悲しそうな顔をするに違いない。 それを目にするのは、唯先輩スキーな憂にはとても辛いことだろうから。 ―私も、それはちょっと嫌かも。 出来れば先輩には笑っていてほしいし―って、だんだん思考が憂に侵されているなあ… 652 名前:アイスゆいあず2/4[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:45:07 ID:QLNVTiX7 「あ!」 不意に声を上げる憂。なんだろう、何かいい案でも浮かんだのかな。 そう思って憂に目を向けた瞬間、びしゃりと何かが私の服を濡らした。 ―え?なにこれ…水? 「ご、ごめん梓ちゃん!つまずいちゃって!」 謝られて、何ごとかと思ったら、どうやら憂が手にしてたお盆のコップが倒れて、その中身私に向かってきたと言うことらしい。 お茶とかだとまずかったかもだけど、どうやらただの水だし、少し冷たいけれど、これくらいなら問題ない。 「いいよ、気にしないで―」 「本当にごめん!すぐ洗うから…これに着替えて?」 そういうと憂はてきぱきと向こうからシャツを持ってきて、私に手渡す。 さすがにそこまではと思ったものの、そのてきぱきに押され、私は言われるままシャツを脱ぐと憂に渡した。 憂は何度も私にごめんね、といいながら洗濯機の方に去っていく。 ―あんなに謝らなくてもいいのに。でも、憂があんな失敗するなんて珍しいな。少しだけ、貴重な体験だったのかも。 とりあえず、上半身下着姿のままじゃあれだし、と私は憂に渡されたシャツに袖を通した。 ん…これ、憂のじゃない。唯先輩のシャツだ。何か、唯先輩の匂いがする― ―って何で匂いで判別付けてるのかな、私! 「はあ…とりあえず唯先輩のところに行こ…アイスがないことも伝えないとだし」 一人で考えていると、なんか変な方向に思考が進んでいきそうだし。 私はてくてくと唯先輩の部屋に向かった。 とんとんとドアをノックすると、「アイス~」と声が返ってきた。それは挨拶か何かのつもりなんですか。 ドアを開けると、ベッドの上でゴロゴロしている唯先輩が出迎えてくれた。 相変わらずだ。本当にこの人は。でも、なんか今、ほっとした。 「あ~あずにゃん~」 私の姿を認めて、むくりとベッドの上で上体を起こす唯先輩。 「来てたんだ~おはよう!」 「おはようございます…もう昼ですけどね」 にっこりとした笑顔をむけてくる唯先輩。 寝起きのせいか、ふら~と今にもまた倒れこみそうに揺れている唯先輩。 「…かわいい…」 「え?」 「な、なんでもないです!」 もう、口に出てたよ。やばい、すっかり憂が移ってる、これ。 何とか気を取り直さないと―そうそう、そうだ。アイスがないこと伝えないといけなかったんだ。 それで何とか話題を広げて、体勢を立て直そう。 「あーえっと、そうでした。アイス切れていて、もうないそうです」 「えーーー!!」 そう伝えると、全く予想通りのレスポンスが帰ってきた。まるで世界の終わりを迎えたかのような、愕然とした表情の唯先輩。 ああ、憂だと真っ先にごめんねお姉ちゃんと泣きついちゃいそうな様子だ。 私は―アイスくらいでなんですか、という常識的な思考のおかげで、まだ耐えることが出来てるけど。 「うぅ…アイスぅ…」 唯先輩はパタリとベッドに倒れこむ。大げさだと思わなくもないけど、唯先輩の場合、これが本気だから。 「はい、元気出してください、先輩」 「うぅ、あずにゃん…」 ベッドにうずくまる唯先輩の隣に腰を下ろし、よしよしと頭を撫でてあげる。唯先輩はひょこりと顔を上げ、のそのそこちらに近付くと、ぺたりと私の膝の上におさまった。 大体、想定の範囲内の行動。だから驚いたりはしない。なんか、私もなれてきたな、って思う。 そのままよしよしは継続。やがて、先輩はゴロゴロ私の膝の上で喉を鳴らし始めた。 653 名前:アイスゆいあず3/4[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:46:36 ID:QLNVTiX7 「機嫌直りましたか?」 「…うん~ありがとう、あずにゃん」 のそりと小さく首だけ上げて答える唯先輩。その表情には、随分と安らかさが戻ってきていて、私はほっとする。 そのまま、いつもの唯先輩に戻るれるように、再びその頭を撫でようと手を伸ばして― ふと、その様子がおかしいことに気がついた。先輩は少し首を上げた姿勢のまま、ぴたりとその動きを止めている。 私の予想だと、またふにゃりと私の膝の上に崩れると思ったのに。 「見つけたぁ…」 あれ?と口にしようとした私の耳には、そんな先輩の声。見つけたって、何を?にこーっと笑顔になった先輩の視線は、真っ直ぐ私の胸元へ向かっている。 「アイスぅ…」 アイス?それでなんで私の方を見て…? そこで私は初めてその文字に気が付いた。私の胸元、正確には私の着ているシャツに書いてある「アイス」の文字に。 ―ええ、確かにアイスって書いてありますけど―書いてあるからって別に私がアイスを持ってるって…わわわっ!? 「アイス~!」 突然、先輩はガバっと身を起こすと、がしっと私に抱きついてきた。不意を突かれた私は、その勢いのままもつれ合うようにベッドに倒れこんでしまう。 違う、勢いなんかじゃなくて、これは。偶然なんかじゃなくて、唯先輩は確かな意思を持って―私を押し倒した? ―何か、やばい気が。そう、早くここから抜け出さないと―とんでもないことになってしまいそうな。 抜け出そうと、ずりずりと唯先輩の下で動く。だけど、そんな私の動きに合わせて、唯先輩は巧みに重心を変え、逃がしてくれない。 仮定が、確定に変わっていく。やはり唯先輩は確信犯的に私を押し倒していて―でもだとしたら、何のために? 疑問が浮んで、だけどそれはじわじわと薄れていく。思考に白い靄のようなものがかかっていくように、ゆっくりとでも確実に溶かされていく。 だって、仕方がない。こんな風に先輩に抱きつかれて、それもベッドと先輩の間に挟まれて、体中を隙間泣く先輩のぬくもりに包まれて、こんな状態で― ―私が正気を保てるわけないじゃないですか… 正直、この瞬間昏倒してないだけでも奇跡に近い。でも、それも時間の問題―だってもう、何も考えずこのままこうして身を委ねていたいなんて思ってしまってるから。 そう、それも悪くな― 「はんむっ」 「ひゃあっ!?」 ゾクゾクと全身の神経を走り抜けた刺激に、私は思わず声を上げた。 自分のあげた声の滑稽さが気になったけど、それを悔やんでいる余裕なんてなかった。 だって、それはいまだ絶賛継続中。発生源は―ええと首筋で…丁度唯先輩がはむっと甘噛みのようなことをしてるところで― 「―ってぇ!何してるんですか、唯先輩!」 「え?なにって―」 ひょいっと顔を上げて、答えてくる唯先輩。その感覚から開放されて、一瞬ほっとしたのも束の間。 「…!?」 まるで神経を直接なで上げられたような感触に、声にならない声が上がる。ばちばちっと頭の中でスパークが走り、びくびくと体が震える。 「ニャ、にゃに…を…っ」 それでも何とか意識を繋いで、おそらくはその犯人に目を向けると、唯先輩は満面の笑みでぺろりと舌なめずりをして見せた。 発祥は鎖骨のちょっと上辺りから耳の付け根辺りまで。今はひんやりとした感覚が走るそこ。 ―気化熱、ということはそこに水分が乗せられているということで、現状それに該当するのは一つしかない。 眼に出来なかったその光景が、何故か頭の中で鮮明に再生され、ぼっと私の頬を熱くする。 654 名前:アイスゆいあず4/4[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:47:24 ID:QLNVTiX7 「アイスを舐めてるだけだよ~♪」 「へ?」 ―ひょっとしてまさか、アイスってかかれたシャツを着てるから―ってこと? 「いやいやいやいや、違います、違いますから!ただシャツにアイスって書いてあるだけで、私はアイスじゃないです!」 「うそだぁ~」 「んにゃっ!?」 私の正当な抗議をあっさり否定してくれた先輩は、またぺろぺろと私を舐め始める。 「ま、まって…ふにゃ…ぁ」 私の抗議なんて何処ふく風と、 まるで猫みたいにぺろぺろと、私に先輩の跡を残していく。 ひんやりと冷まされるはずのそこは、何故か焼け付くように熱くなって、それはどんどんと増えて行き、私と言うものを溶かしていこうとする。 「だって、こんなにおいしいんだもん。これがアイスじゃないはずないよ~」 先輩の声。それを耳にした私は―もう溶解寸前で、まともに反応を返すことも出来ない。 美味しそうに―本当にそうなんじゃないかって勘違いしてしまいそうなそんな仕草で、唯先輩は舌を動かし続けてるから。 先輩にそんなにされて、いまだ限界が来てないって方がおかしいくらいだ。むしろ、とっくに限界なんて過ぎているはずなのに。 「…ねえ?」 私を繋ぎとめてるのは、私の目をじっと見つめ続ける先輩の眼差し。 こんなふざけた悪戯じみた行為をしているのに、先輩の目はびっくりするほど真っ直ぐで、そして―熱い。 それは私を溶かすものではあるけど、また同時に強くひきつけるもので―私はそこから逃げられないまま、とろとろに溶かされていく。 しっかりと掴まえられ、絡め取られたまま、とろとろに―本当にもう、どうしようもないくらいに。 「…食べちゃってもいいよね?」 先輩が確認してくる。どうせ、いやって言ってもやめる気なんてないくせに―私がいやなんていえないことを知ってるくせに。 「…いいですよ、私は先輩のアイスですから」 折角だから、それを言い訳にしてみよう。 ―そんな理由がなくても、私はきっと食べられていたけど。 「ふふっ、それじゃいただくね…―あずにゃん」 そんなの全てお見通しだよって先輩は笑って―だから私は細かいことは全部置いておいて、ふいっと体の力を抜いた。 656 名前:アイスゆいあずおまけ[sage] 投稿日:2009/09/01(火) 16:56:55 ID:QLNVTiX7 ―少女は、すっと扉から身を離す。 それまでの振る舞いとは打って変わった無造作なもの。 何故なら彼女は知っているから。多少気配を振りまこうとも―もう扉の向こうの二人にそれが気づかれることはないということを。 「―計画通り、かな」 少女は小さく笑い、扉に背を向けてトンと足を踏み出すと、一度だけ肩越しに振り返った。 「それじゃ、今のうちにアイス買いに行ってくるね」 尤も、もう要らないかもしれないけど―だって、それを欲しがっていた人物はそれよりももっと甘いモノを口にしているだろうから。 ううん、でもきっと二人ともすごく熱くなってるだろから―冷たいものは必要だろうと考え直す。 くすくすと笑う。本当に嬉しそうに、くすくすと。 親友の姉への想い、姉の親友の想い、どちらにも気付いていた少女にとって、それを叶えることは喜び以外の何者でも無かったから。 そしてまた、二人が仲睦まじくなることは、少女にとってとても都合のいいことだったから。 「…これで梓ちゃんとも姉妹になれる日も近いかな」 いつか表札に、平沢の苗字の跡に三人の名前を並べられるように―それが少女の夢だったから。 (終わり) すばらしい作品をありがとう

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