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340 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:35:30.19 ID:+MG46Btp0 【さよなら!?軽音部】 それは、夏休みが終わったばかりのことだった。 桜高の文化祭は9月下旬。 軽音部の5人は日々の練習に励む…ことなく、いつものように放課後ティータイムを過ごしていた。 「はぁ…私達ももう受験を考える時期かぁ」 澪が窓の外を見ながら、ぽつりとつぶやいた。 そんな澪の横顔を見ながら、律が紅茶をすする。 「夏は思ったように勉強できなかったなぁ」 律もまた、遠くを見るような眼をしていた。 「みなさん、もう第一志望は決めたんですか?」 梓は3年生4人に軽く目配せをして、尋ねた。 342 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:40:57.62 ID:+MG46Btp0 「第一志望?どこにしようかなぁ」 唯がのんきな表情でクッキーをかじる。 「大学ってどこにあるんだろう」 ポリポリとおいしそうにクッキーを食べている。 「おい唯。まさかオープンキャンパスに一回も行ってないのか…?」 澪は心配そうな顔をして、近くにあったケーキに手を出した。 わずかながら、手が震えている。 「うん!」 澪の手が一際大きく震えた。 ガチャン!と音がしてフォークがテーブルの上に落ちた。 「じゃぁ、受験勉強も?」 「うん!もちろん!」 澪は今度はケーキをテーブルの上に落とした。 344 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:43:46.44 ID:+MG46Btp0 ムギからもらった台拭きでテーブルを拭きながら、澪は唯に言った。 「追試の時みたいに、教えるなんてことはできないんだぞ」 さすがの唯も、心配そうな顔をしていた。 「受験勉強はそれぞれの志望大学にあわせて勉強をする」 「うん」 「だから、唯につきっきりでは教えられないんだ」 「そんなぁ…」 唯は悲しげな眼を閏わせて澪を見つめた。 その表情に、澪は自分まで悲しくなってしまった。 「今からでも遅くないよ。少しづつでいいから、勉強する習慣をつけよう」 「ホント!?私頑張るよっ!」 精一杯の励ましの言葉を掛けた甲斐があった。 どうやら唯は勉強する気になってくれたようだ。 とりあえず、今はそれでいい。澪はそう心の中でつぶやいていた。 346 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:47:29.77 ID:+MG46Btp0 「ところでさ、文化祭のことだけど」 律が二人の間に割って入る。 「私達4人の最後の舞台なんだ。今まで一番のにしようぜ!」 「そうですわ!まずは文化祭ライブを最高のものにしましょうよ」 ムギも律に加勢する。 残りの3人もそれに頷く。 「決まりだな!よし、そうと決まれば練習だっ!」 その時、音楽室のドアが開いた。 347 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:48:13.17 ID:+MG46Btp0 入ってきたのはさわ子先生だった。 律はテンションの高いまま、さわ子に声をかけた。 「おっす!さわちゃん!」 だが、律の元気のいい挨拶は、スル―された。 5人は拍子抜けしてしまった。 さわ子の表情は暗かった。 「今日はね、みんなに大事な話をしなくちゃいけないの…」 さわ子は5人の近くの椅子に腰を下ろした。 そしてすこし下を向いてためらっていたが、決心したように顔を上げ、言った。 「軽音部は今日で廃部になります」 348 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:53:34.00 ID:+MG46Btp0 最初、5人はさわ子が何を言ったのか理解出来なかった。 少し経ってから、澪がさわ子に尋ねた。 「それは、本当なんですか?」 「えぇ、本当よ」 間を置いてさわ子は答えた。 澪の表情が曇る。 「ちょっと説明が必要なの。いいかしら」 「はい」 5人を見回してから、さわ子は説明を始めた。 「ご存知の通り、私はあなたたちの顧問。つまり軽音部の顧問よ。     でも、吹奏楽部の顧問でもあるわ。それも知ってるわよね?」 5人は頷いた。 349 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:54:25.62 ID:+MG46Btp0 「その、私が顧問をしている吹奏楽部が、今年全国大会へ出場するのよ」 「ぜっ、全国大会?」 「全日本吹奏楽コンクールよ。今年は10月の25日にあるわ」 「すごい!全国大会なんて!」 息を弾ませて喜ぶムギを見ながら、さわ子は複雑な表情を浮かべた。 「吹奏楽部への指導は、私ではなく外部講師の先生がしてくださっているの」 「さわ子先生は教えてはいなんですか?」 「えぇ、主に私は裏方ね。お金のこととか、連絡とか」 「でもそれが廃部と関係あるの?」 ずっと黙っていた唯が口を開いた。 少しの間、沈黙が流れた。 「これからは、吹奏楽部が音楽室を独占することになったの」 ぽつりと、さわ子が言った。 350 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:58:26.18 ID:+MG46Btp0 「え、なんで…?」 律は色を失った。 「学校として、これまで高い実績を出してきた吹奏楽部を支援していこうと決めたのよ」 「でも、独占なんて!」 梓が声を荒げた。 「吹奏楽部は部員が100人以上いるのよ。かたや軽音部は5人。勝ち目は無いわ」 「でも、さわ子先生」 ムギが手を上げながら、おしとやかに言う。 「それなら音楽室以外の教室を使えば練習は出来ます。存続はできるわ」 だが、さわ子の表情が一段と暗くなった。 「言い忘れていたわ…私は今日で軽音部の顧問をやめるの」 音楽室は凍りついた。 351 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:59:07.13 ID:+MG46Btp0 「ど…どういうことですか?それ…」 澪の声は震えている。 「外部講師の意向なのよ。吹奏楽部に専念してほしいと」 「そ、そんなの断れば!」 「そんなことしたら、私はこの学校を辞めさせられるわ!」 「え…?」 突然のさわ子の大声に、5人はたじろいだ。 「吹奏楽部はこの学校の顔なの!校長先生も、ぜひ吹奏楽部だけに熱意を注いでほしいと…」 「そんな…私達はどうなるの?」 5人は泣きそうになった。 352 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:59:57.87 ID:+MG46Btp0 「ごめんね…ごめんね…」 だが、5人が泣く前に、さわ子は泣き崩れた。 「ホントに、ごめんね…何も出来なくてごめんね…」 「さわ子先生のせいじゃないよ。私達頑張るから」 唯はさわ子の背中をさする。 その唯も涙を流していた。 「私物は、出来れば今日中に撤去してくれると嬉しいわ」 さわ子は涙を拭きながら、そう言った。 そして、出て行った。 「私も、出来るだけ頑張ってみるから」 そう言い残して。 353 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:05:13.67 ID:+MG46Btp0 残された5人は、無言で音楽室の片付けを始めた。 沈黙の嫌いな律は、スネアドラムをケースにしまいながら、ため息をつく。 「今度から、ティータイムはムギの家でやるしかないなっ」 冗談のつもりだったのだが、誰も笑ってはくれなかった。 律も自分で言っていて、虚しくなったので、喋るのをやめた。 「今日、みんなで食事しよう」 一通り片付いたのを確認して、澪が言った。 4人は黙って頷いた。 澪を先頭にして、5人は音楽室のドアまで歩いて行く。 澪がドアを開けた。 ドアの前には、1人の女の子が立っていた。 354 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:08:09.31 ID:+MG46Btp0 その女の子は、すらりとした身長で、黒ぶちのメガネをかけていた。 「あなた達、軽音部?」 突然の質問に、5人はたじろいだ。 「そ、そうですけど…」 「私は吹奏楽部の部長です。少し話があるんですが、いいですか?」 「いいですけど…」 5人はドアから出ることなく、またテーブルの近くに腰を下ろした。 少し離れた所に、吹奏楽部の部長が座った。 「今、お茶入れますから」 ムギはその場を離れた。 かまわず、部長はいきなり切り出してきた。 355 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:09:56.49 ID:+MG46Btp0 「山中先生から、話は聞きましたよね」 「はい」 山中先生。そう、さわ子の名字だ。 普段下の名前で呼んでいたので、4人は違和感を感じた。 「はっきり言いましょう。私達吹奏楽部は、あなた達に対して不満を持っています」 部長はは続けた。 「私達は、毎年毎年夏のコンクールに向けて、休みなしの練習を続けてきました。    あなた達のように、だらだらと過ごすことなんてとんでもない。怠慢です。   そして、今年はついに全国大会へと出場を果たすことができました。    今まで関西大会止まりだった私達の悲願です。それが達成されたんです」 部長は目を輝かせていた。 だが、すぐにまた汚いものを見るような目で、4人を見た。 356 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:15:23.64 ID:+MG46Btp0 「私達が今まで音楽室を必要としてなかったと思っているんですか?  あなた達はふざけたことにしか使っていませんでしたよね?  もう我慢できませんよ。こんなだらだらとしか活動していない弱小部が何で音楽室を使えるんですか?  山中先生はあなた達の顧問をしてくださっていたようだけれど、それも、どれだけ私達の迷惑になったことか…」 ムギが横から恐る恐る紅茶を置いた。 それを無視して部長は続ける。 「今すぐにでもここを出て行って下さい。と、言いたいところだけど…」 部長は指を組み、不敵な笑みを浮かべた。 「条件を飲むなら、あなた達は部活を続けられるわ」 5人は顔を上げた。 「ホントに!?」 「本当よ」 「ど、どんな条件なの?」 357 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:17:19.94 ID:+MG46Btp0 「文化祭の、お手伝いよ」 「お、お手伝い?」 唯がすっとんきょうな声を上げた。 「そう、お手伝い。文化祭では、もちろん私達吹奏楽部も演奏するわ。  でも、今年はコンクールの全国大会が10月にあるの。  だから、コンクールメンバーはそっちにつきっきり。練習時間はあまりないわ」 「それで私達にどうしろと…」 部長はまず律の方を見た。 「あなた、ドラムやってるのよね?」 「あ、あぁ。そうだけど」 「ポップスステージでドラムやってもらうわ」 「えぇ!?」 律の反応を無視して、今度は澪とムギを見た。 358 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:19:15.88 ID:+MG46Btp0 「あなたはベースね。そのままベースをやってちょうだい。そっちのあなたはピアノね」 2人はすごすごと頷いた。 部長は最後に梓と唯を見た。 「あなた達ギターはいらないわ。いろんな雑用をやってもらうから、よろしく」 「ざ…雑用…」 梓は放心状態になってしまった。 「ギター弾いちゃだめなの?」 「あなた、往生際が悪いわよ。部活を続けたいなら、おとなしく言うことを聞いていればいいのよ」 部長は唯を一蹴した。 365 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:38:25.14 ID:+MG46Btp0 最後に5人を見回して、部長は言った。 「最初の合わせは3日後にあるわ。譜面はこれ。ちゃんと練習してこなかったら、承知しませんからね」 部長はテーブルの上に沢山の譜面を置くと、音楽室を出て行った。 部長が出て行った後の音楽室は、台風が通過した後のように静かだった。 5人は顔を見合せた。 「とりあえず…首は繋がったってことだよな?」 律が一言一言確認しながら言う。 それに頷きながら、澪が答える。 「あぁ…よし、譜面見てみようか」 366 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:40:32.61 ID:+MG46Btp0 澪はいくつかベースの譜面を取って開いた。 曲は全部で三曲。よくあるメドレーものや、最近流行った曲などがあった。 決して難しはなかった。だが、時間がもう無い。 それに、吹奏楽部と合わせるなんて初めての経験だ。 澪は焦り始めた。 「2人とも、すぐにでも練習を始めよう。今は出来ることをやるしかない」 律とムギが頷く。 澪は梓と唯の方を向いた。 「2人はどうする?」 「私達は…」 梓は言いかけて、唯の顔を見た。 今にも泣きそうだった。 まずい、と梓は思った。 「今日の所は帰ります」 「そうか」 「澪先輩、律先輩、ムギ先輩、頑張ってください!」 2人は音楽室を出た。 368 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 22:06:36.95 ID:+MG46Btp0 学校を出た2人は無言のまま、駅前を歩いていた。 梓は唯の顔を見たいと思った。 だが、唯の顔は髪に隠れて見えない。 結局、2人は別れ道まで無言で来てしまった。 道の真ん中で、なんともなしに歩みを止める。 最初に口を開いたのは、唯だった。 「私達、嫌われてるのかな?」 「えっ?」 いきなりだったので、梓は反応できなかった。 「前に、クラスで吹奏楽部の子が話してるのを聞いたことがあるんだ」 「…なんて言ってたんですか?」 聞きたくなかった。でも会話が途切れるのはもっと嫌だった。 「吹奏楽部の敵、自己満足の迷惑部。とか言われてた…」 「ひ、ひどいですぅ!あの人達は何も分かってないんですぅ」 そう言いながらも、梓は心のどこかで『やっぱり…』とつぶやいていた。 369 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 22:12:17.53 ID:+MG46Btp0 無理もない。 思い返してみれば、彼女達はちゃんとした部活動をしてこなかった。 それでも、文化祭のライブはちゃんと成功させてきた。 人気もそれなりに出ていた。 しかし、現実は酷だった。 「とりあえず、今日はゆっくり休もう」 「はい。唯先輩、お手伝い頑張りましょうね」 「うん…じゃぁね、あずにゃん」 そう言って、唯はとぼとぼと歩き始めた。 背中に背負ったギターが、なんだかとても悲しげに見えた。
340 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:35:30.19 ID:+MG46Btp0 【さよなら!?軽音部】 それは、夏休みが終わったばかりのことだった。 桜高の文化祭は9月下旬。 軽音部の5人は日々の練習に励む…ことなく、いつものように放課後ティータイムを過ごしていた。 「はぁ…私達ももう受験を考える時期かぁ」 澪が窓の外を見ながら、ぽつりとつぶやいた。 そんな澪の横顔を見ながら、律が紅茶をすする。 「夏は思ったように勉強できなかったなぁ」 律もまた、遠くを見るような眼をしていた。 「みなさん、もう第一志望は決めたんですか?」 梓は3年生4人に軽く目配せをして、尋ねた。 342 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:40:57.62 ID:+MG46Btp0 「第一志望?どこにしようかなぁ」 唯がのんきな表情でクッキーをかじる。 「大学ってどこにあるんだろう」 ポリポリとおいしそうにクッキーを食べている。 「おい唯。まさかオープンキャンパスに一回も行ってないのか…?」 澪は心配そうな顔をして、近くにあったケーキに手を出した。 わずかながら、手が震えている。 「うん!」 澪の手が一際大きく震えた。 ガチャン!と音がしてフォークがテーブルの上に落ちた。 「じゃぁ、受験勉強も?」 「うん!もちろん!」 澪は今度はケーキをテーブルの上に落とした。 344 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:43:46.44 ID:+MG46Btp0 ムギからもらった台拭きでテーブルを拭きながら、澪は唯に言った。 「追試の時みたいに、教えるなんてことはできないんだぞ」 さすがの唯も、心配そうな顔をしていた。 「受験勉強はそれぞれの志望大学にあわせて勉強をする」 「うん」 「だから、唯につきっきりでは教えられないんだ」 「そんなぁ…」 唯は悲しげな眼を閏わせて澪を見つめた。 その表情に、澪は自分まで悲しくなってしまった。 「今からでも遅くないよ。少しづつでいいから、勉強する習慣をつけよう」 「ホント!?私頑張るよっ!」 精一杯の励ましの言葉を掛けた甲斐があった。 どうやら唯は勉強する気になってくれたようだ。 とりあえず、今はそれでいい。澪はそう心の中でつぶやいていた。 346 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:47:29.77 ID:+MG46Btp0 「ところでさ、文化祭のことだけど」 律が二人の間に割って入る。 「私達4人の最後の舞台なんだ。今まで一番のにしようぜ!」 「そうですわ!まずは文化祭ライブを最高のものにしましょうよ」 ムギも律に加勢する。 残りの3人もそれに頷く。 「決まりだな!よし、そうと決まれば練習だっ!」 その時、音楽室のドアが開いた。 347 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:48:13.17 ID:+MG46Btp0 入ってきたのはさわ子先生だった。 律はテンションの高いまま、さわ子に声をかけた。 「おっす!さわちゃん!」 だが、律の元気のいい挨拶は、スル―された。 5人は拍子抜けしてしまった。 さわ子の表情は暗かった。 「今日はね、みんなに大事な話をしなくちゃいけないの…」 さわ子は5人の近くの椅子に腰を下ろした。 そしてすこし下を向いてためらっていたが、決心したように顔を上げ、言った。 「軽音部は今日で廃部になります」 348 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:53:34.00 ID:+MG46Btp0 最初、5人はさわ子が何を言ったのか理解出来なかった。 少し経ってから、澪がさわ子に尋ねた。 「それは、本当なんですか?」 「えぇ、本当よ」 間を置いてさわ子は答えた。 澪の表情が曇る。 「ちょっと説明が必要なの。いいかしら」 「はい」 5人を見回してから、さわ子は説明を始めた。 「ご存知の通り、私はあなたたちの顧問。つまり軽音部の顧問よ。     でも、吹奏楽部の顧問でもあるわ。それも知ってるわよね?」 5人は頷いた。 349 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:54:25.62 ID:+MG46Btp0 「その、私が顧問をしている吹奏楽部が、今年全国大会へ出場するのよ」 「ぜっ、全国大会?」 「全日本吹奏楽コンクールよ。今年は10月の25日にあるわ」 「すごい!全国大会なんて!」 息を弾ませて喜ぶムギを見ながら、さわ子は複雑な表情を浮かべた。 「吹奏楽部への指導は、私ではなく外部講師の先生がしてくださっているの」 「さわ子先生は教えてはいなんですか?」 「えぇ、主に私は裏方ね。お金のこととか、連絡とか」 「でもそれが廃部と関係あるの?」 ずっと黙っていた唯が口を開いた。 少しの間、沈黙が流れた。 「これからは、吹奏楽部が音楽室を独占することになったの」 ぽつりと、さわ子が言った。 350 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:58:26.18 ID:+MG46Btp0 「え、なんで…?」 律は色を失った。 「学校として、これまで高い実績を出してきた吹奏楽部を支援していこうと決めたのよ」 「でも、独占なんて!」 梓が声を荒げた。 「吹奏楽部は部員が100人以上いるのよ。かたや軽音部は5人。勝ち目は無いわ」 「でも、さわ子先生」 ムギが手を上げながら、おしとやかに言う。 「それなら音楽室以外の教室を使えば練習は出来ます。存続はできるわ」 だが、さわ子の表情が一段と暗くなった。 「言い忘れていたわ…私は今日で軽音部の顧問をやめるの」 音楽室は凍りついた。 351 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:59:07.13 ID:+MG46Btp0 「ど…どういうことですか?それ…」 澪の声は震えている。 「外部講師の意向なのよ。吹奏楽部に専念してほしいと」 「そ、そんなの断れば!」 「そんなことしたら、私はこの学校を辞めさせられるわ!」 「え…?」 突然のさわ子の大声に、5人はたじろいだ。 「吹奏楽部はこの学校の顔なの!校長先生も、ぜひ吹奏楽部だけに熱意を注いでほしいと…」 「そんな…私達はどうなるの?」 5人は泣きそうになった。 352 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20:59:57.87 ID:+MG46Btp0 「ごめんね…ごめんね…」 だが、5人が泣く前に、さわ子は泣き崩れた。 「ホントに、ごめんね…何も出来なくてごめんね…」 「さわ子先生のせいじゃないよ。私達頑張るから」 唯はさわ子の背中をさする。 その唯も涙を流していた。 「私物は、出来れば今日中に撤去してくれると嬉しいわ」 さわ子は涙を拭きながら、そう言った。 そして、出て行った。 「私も、出来るだけ頑張ってみるから」 そう言い残して。 353 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:05:13.67 ID:+MG46Btp0 残された5人は、無言で音楽室の片付けを始めた。 沈黙の嫌いな律は、スネアドラムをケースにしまいながら、ため息をつく。 「今度から、ティータイムはムギの家でやるしかないなっ」 冗談のつもりだったのだが、誰も笑ってはくれなかった。 律も自分で言っていて、虚しくなったので、喋るのをやめた。 「今日、みんなで食事しよう」 一通り片付いたのを確認して、澪が言った。 4人は黙って頷いた。 澪を先頭にして、5人は音楽室のドアまで歩いて行く。 澪がドアを開けた。 ドアの前には、1人の女の子が立っていた。 354 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:08:09.31 ID:+MG46Btp0 その女の子は、すらりとした身長で、黒ぶちのメガネをかけていた。 「あなた達、軽音部?」 突然の質問に、5人はたじろいだ。 「そ、そうですけど…」 「私は吹奏楽部の部長です。少し話があるんですが、いいですか?」 「いいですけど…」 5人はドアから出ることなく、またテーブルの近くに腰を下ろした。 少し離れた所に、吹奏楽部の部長が座った。 「今、お茶入れますから」 ムギはその場を離れた。 かまわず、部長はいきなり切り出してきた。 355 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:09:56.49 ID:+MG46Btp0 「山中先生から、話は聞きましたよね」 「はい」 山中先生。そう、さわ子の名字だ。 普段下の名前で呼んでいたので、4人は違和感を感じた。 「はっきり言いましょう。私達吹奏楽部は、あなた達に対して不満を持っています」 部長はは続けた。 「私達は、毎年毎年夏のコンクールに向けて、休みなしの練習を続けてきました。    あなた達のように、だらだらと過ごすことなんてとんでもない。怠慢です。   そして、今年はついに全国大会へと出場を果たすことができました。    今まで関西大会止まりだった私達の悲願です。それが達成されたんです」 部長は目を輝かせていた。 だが、すぐにまた汚いものを見るような目で、4人を見た。 356 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:15:23.64 ID:+MG46Btp0 「私達が今まで音楽室を必要としてなかったと思っているんですか?  あなた達はふざけたことにしか使っていませんでしたよね?  もう我慢できませんよ。こんなだらだらとしか活動していない弱小部が何で音楽室を使えるんですか?  山中先生はあなた達の顧問をしてくださっていたようだけれど、それも、どれだけ私達の迷惑になったことか…」 ムギが横から恐る恐る紅茶を置いた。 それを無視して部長は続ける。 「今すぐにでもここを出て行って下さい。と、言いたいところだけど…」 部長は指を組み、不敵な笑みを浮かべた。 「条件を飲むなら、あなた達は部活を続けられるわ」 5人は顔を上げた。 「ホントに!?」 「本当よ」 「ど、どんな条件なの?」 357 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:17:19.94 ID:+MG46Btp0 「文化祭の、お手伝いよ」 「お、お手伝い?」 唯がすっとんきょうな声を上げた。 「そう、お手伝い。文化祭では、もちろん私達吹奏楽部も演奏するわ。  でも、今年はコンクールの全国大会が10月にあるの。  だから、コンクールメンバーはそっちにつきっきり。練習時間はあまりないわ」 「それで私達にどうしろと…」 部長はまず律の方を見た。 「あなた、ドラムやってるのよね?」 「あ、あぁ。そうだけど」 「ポップスステージでドラムやってもらうわ」 「えぇ!?」 律の反応を無視して、今度は澪とムギを見た。 358 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:19:15.88 ID:+MG46Btp0 「あなたはベースね。そのままベースをやってちょうだい。そっちのあなたはピアノね」 2人はすごすごと頷いた。 部長は最後に梓と唯を見た。 「あなた達ギターはいらないわ。いろんな雑用をやってもらうから、よろしく」 「ざ…雑用…」 梓は放心状態になってしまった。 「ギター弾いちゃだめなの?」 「あなた、往生際が悪いわよ。部活を続けたいなら、おとなしく言うことを聞いていればいいのよ」 部長は唯を一蹴した。 365 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:38:25.14 ID:+MG46Btp0 最後に5人を見回して、部長は言った。 「最初の合わせは3日後にあるわ。譜面はこれ。ちゃんと練習してこなかったら、承知しませんからね」 部長はテーブルの上に沢山の譜面を置くと、音楽室を出て行った。 部長が出て行った後の音楽室は、台風が通過した後のように静かだった。 5人は顔を見合せた。 「とりあえず…首は繋がったってことだよな?」 律が一言一言確認しながら言う。 それに頷きながら、澪が答える。 「あぁ…よし、譜面見てみようか」 366 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21:40:32.61 ID:+MG46Btp0 澪はいくつかベースの譜面を取って開いた。 曲は全部で三曲。よくあるメドレーものや、最近流行った曲などがあった。 決して難しはなかった。だが、時間がもう無い。 それに、吹奏楽部と合わせるなんて初めての経験だ。 澪は焦り始めた。 「2人とも、すぐにでも練習を始めよう。今は出来ることをやるしかない」 律とムギが頷く。 澪は梓と唯の方を向いた。 「2人はどうする?」 「私達は…」 梓は言いかけて、唯の顔を見た。 今にも泣きそうだった。 まずい、と梓は思った。 「今日の所は帰ります」 「そうか」 「澪先輩、律先輩、ムギ先輩、頑張ってください!」 2人は音楽室を出た。 368 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 22:06:36.95 ID:+MG46Btp0 学校を出た2人は無言のまま、駅前を歩いていた。 梓は唯の顔を見たいと思った。 だが、唯の顔は髪に隠れて見えない。 結局、2人は別れ道まで無言で来てしまった。 道の真ん中で、なんともなしに歩みを止める。 最初に口を開いたのは、唯だった。 「私達、嫌われてるのかな?」 「えっ?」 いきなりだったので、梓は反応できなかった。 「前に、クラスで吹奏楽部の子が話してるのを聞いたことがあるんだ」 「…なんて言ってたんですか?」 聞きたくなかった。でも会話が途切れるのはもっと嫌だった。 「吹奏楽部の敵、自己満足の迷惑部。とか言われてた…」 「ひ、ひどいですぅ!あの人達は何も分かってないんですぅ」 そう言いながらも、梓は心のどこかで『やっぱり…』とつぶやいていた。 369 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 22:12:17.53 ID:+MG46Btp0 無理もない。 思い返してみれば、彼女達はちゃんとした部活動をしてこなかった。 それでも、文化祭のライブはちゃんと成功させてきた。 人気もそれなりに出ていた。 しかし、現実は酷だった。 「とりあえず、今日はゆっくり休もう」 「はい。唯先輩、お手伝い頑張りましょうね」 「うん…じゃぁね、あずにゃん」 そう言って、唯はとぼとぼと歩き始めた。 背中に背負ったギターが、なんだかとても悲しげに見えた。 15 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22:38:46.97 ID:rc729EAk0 澪は自分の部屋で譜読みを始めていた。 「よし、大体これで弾けるようにはなったな」 あとは吹奏楽部との合わせをどのようにこなしていくかだった。 だが、合わせるということに関しては多少の自信があったので澪は気にはしなかった。 「ムギはいいとして…」 澪の頭の中に律の姿がよぎる。 「律…大丈夫かな」 心配ではあったが、やる時はやる律だと信じて澪は眠りについた。 16 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22:43:33.35 ID:rc729EAk0 3日はあっという間に過ぎてしまった。 その間は普通に軽音部は音楽室を使えたのだが、ほとんど個人練習となってしまっていたのである。 5人が音楽室に入ると、すでに吹奏楽部が合奏を始めていた。 外部講師らしき人が指揮を振りながら、ジロリと5人を見た。 「君達かい?お手伝いさんというのは」 「そうです、先生」 5人ではなく、部長が質問に答えた。 「遅かったわよ。早く持ち場について」 「よし、一旦通すか」 澪、ムギ、律の3人は、隙間を通りながら指定の持ち場についた。 「じゃ、最初はゆっくりから始めるからな」 外部講師が指揮棒を振り上げた。 17 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22:47:14.55 ID:rc729EAk0 始まって3秒で曲は止まった。 「ドラム、それ違うよ」 「え?そ、そうですか?」 「ちゃんと譜面見てごらん」 「は、はいっ」 「じゃ、もう一回」 再び指揮棒が振り上げられる。 だが、また同じ場所で止まった。 「君、いい加減にしてくれないかな。これじゃ曲がはじまらないぞ」 あちこちから嫌な視線を感じる。 (もう…嫌だ…) だが、律は涙目になりながらも 「頑張ります」 としか言えなかった。 19 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22:52:09.64 ID:rc729EAk0 結局、合奏は律のドラムのためにほとんど進まなかった。 「気をつけ!礼!」 「ありがとうございました!!」 部長の号令で合奏は終わった。 澪とムギは特にとがめられることはなかった。 外部講師が音楽室を出ていくと、それに部長が付いていく。 2人が音楽室を出ると、突然罵声が飛んだ。 「ドラム!なにやってんだよ!」 「ひぃっ!!」 「文化祭までもう時間が無いのよ?分かってるの!?」 澪達は、ただ目を伏せていることしかできなかった。 合奏の片づけが終わったころ、部長が戻ってきた。 「軽音部の5人、ちょっと廊下に来て」 21 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22:55:28.90 ID:rc729EAk0 部長は1人1人をじろじろと見た。 そして、律のところで視線を止めた。 「あなた…やる気あるの?」 「………」 「ちゃんと練習してきたの?」 「………」 あまりに沈黙が続くので、澪は黙っていられなくなった。 「律、黙ってないで何か…」 言いかけて、澪は言葉を失った。 「うっ…うぐっ…」 律は大粒の涙を廊下にこぼし続けていた。 22 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23:00:37.02 ID:rc729EAk0 「泣いて許される問題じゃないのよ!!」 突然部長が大声を出したので、周りにいた吹奏楽部員も思わず固まった。 だが、律は泣き続けた。 「ご…ごめんなさい…うぐっ」 「何がごめんなさいよ!下手くそ!下手くそドラム!!」 「そ、そこまで言わなくても…」 梓が部長に言う。 「雑用は黙りなさい!!」 「ひっ…」 部長の怒りはさらにエスカレートした。 「毎日音楽室でティータイム!?ばっかみたい!!笑っちゃうわ!!」 「もう止めてくれ!!」 23 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23:05:21.35 ID:rc729EAk0 澪は床に両手をついて頭を下げていた。 「今まで音楽室を占領していて、申し訳なかった。この通り、謝る」 部長は澪を軽蔑の眼差しで見下ろした。 「だから、もう許してやってくれ。必ず本番までには何とかする」 「何とかですって…?私が信じると思ってるの?」 「信じてくれ!!どうか、この通り、頼む!」 澪は頭を床にこすりつけていた。 その目には、大粒の涙が溜められていた。 部長はしばらく黙っていたが 「次は無いわよ」 と言って、音楽室へと戻って行った。 26 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23:11:28.49 ID:rc729EAk0 「み、澪ちゃん…」 頭を下げたままの澪に、唯が近づく。 「澪…もうやめてくれ…」 律が澪の肩に手を掛ける。 「私が悪かったんだ。下手くそドラムの私が…」 「下手くそなんかじゃない!!!」 「っ!?」 澪はいきなり顔を上げ、律をきっと見つめた。 「お前のドラムは下手なんかじゃない!!」 「で、でも…」 「見せてやるんだ!!あいつらに。お前の、律のドラムを!!」 「そうよ、りっちゃん!!」 「律先輩!」 律は後ろ振り返った。 みんなが、みんなが律を見ていた。 「みんな…」 27 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23:17:58.97 ID:rc729EAk0 その日から、律の猛特訓が始まった。 メトロノームを常に使い、正確なビートを刻むことに、ただひたすら、邁進した。 「まだ、まだできる…」 そして、文化祭当日。 律は見事にすべての曲のドラムを叩き切った。 ドラムソロでは割れんばかりの拍手までを誘った。 (やった…澪、やったよ…) 律は端の方の澪を見た。 澪もまた、律に視線を送る。 (ドラム、よかったぞ) 本番が終わり、再び5人は部長に呼びだされた。 28 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23:24:41.05 ID:rc729EAk0 「素晴らしかったわ」 最初の一言が、それだった。 「あなた達のこと、あまりにも見下していたわ」 そう言って、頭を軽く下げた。 「…ごめんなさい」 5人は黙っていた。 「さっきの本番で…感じたの。音楽の本当の楽しさを」 部長は律を見た。 「田井中さん…あなたのドラム、最高だったわ」 29 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23:25:23.12 ID:rc729EAk0 そして、残りの4人に視線を移した。 「あなた達も…本当にありがとう。あなた達がいなければ、本番をこなせなかったわ」 部長は律の手を取った。 「これからも、同じ音楽をやるものとして、頑張りましょう」 こうして、軽音楽部と吹奏楽部のわだかまりは解消された。 そして、軽音部は廃部という危機を免れたのである。 「こちらこそ、ありがとう」 満面の笑みで、律は応えた。 Fin

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