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273 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:44:01.69 ID:esbY0niM0 【私はヒミツ諜報部員】 [指令1]ー[私が諜報部員!?] 「えっ? ホントにっ!?」  唯は電話越しに聞こえた憂いの言葉に、思わず声を上げてしまった。  無理もない、それは唯にとって最高のサプライズだったからだ。 「お父さんとお母さんが、帰ってくるの!?」  部活が終わり、さて帰ろうかという矢先であった。  あまりに唯が大声で話すので、憂は受話器を耳から10センチほど離さなければならなかったほどだ。   『お、お姉ちゃん。声大きいよぉ』 「だって、嬉しいんだもん!」 『うん、私もすっごい嬉しいんだ』 「じゃ、今日は御馳走だねっ!」  楽しそうに電話をしている唯を、他の4人は遠巻きにに見ていた。   「ふふ……嬉しそうね、唯ちゃん」 「無理もないさ。久しぶりに両親に会えるんだから」 「何か見てるだけでこっちまで嬉しくなってきますね」  みんな自然と笑顔がこぼれていた。 275 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:45:32.64 ID:esbY0niM0 「うん、じゃぁすぐに帰るからねっ!」    言い終えると、唯は携帯を切って鞄に放り込んだ。  そして一目散に駆けだした。音楽室の外へ。   「あっ! みんな、今日は先に帰るねっ!」 「あいよ~」  ドアの所で一瞬止まり、笑顔で言う唯に律がニヤニヤしながら手を振る。  どたばたと階段を降りる音がして、それもすぐに聞こえなくなった。 「行っちゃったな……」 「うらやましいですね」  澪と梓は遠い目をしながらつぶやく。 「よしっ! 今日は4人で食べにでも行きますかっ!」 「あらあら、今日はりっちゃんのおごりかしら」 「ごちそうさまですぅ、律先輩」 「ななな……」  残された4人もまた、にぎやかに階段を降りて行った。 277 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:46:28.65 ID:esbY0niM0  家まで止まらず猛ダッシュで唯は走り続けた。  頭の中には、父と母のにこやかな笑顔。  2人が家に帰ってくるのは、唯が高校生になってから始めてのことだ。  だから、もう2年以上は会っていない。  もうすぐ、もうすぐ会える。  その気持ち一つで唯は走り続けた。 「はぁ……はぁ……」  自分でも驚くぐらい早く家に着いた。  玄関の前で、少し呼吸を整える。   「よ、よぉし」  唯は恐る恐るインターホンに指を近づける。 「えいっ」  ピンポーンと鳴ってからドアが開くまで、どれだけ待ち遠しかったことか。  唯は2人と何を話すかを考え続けて、頭が一杯だった。  だからかもしれない。  ドアノブが回る音に気が付かなかった。 279 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:48:03.46 ID:esbY0niM0 「おかえり、唯」  懐かしい父の声。  唯ははっと気付く。  目の前には両親がいた。 「おとうさん……おかあさん……」  自分の声が震えているのが分かった。  目の前が霞む。唯は目に涙をためていた。 「おかえりなさいっ!!」  言うと同時に父に抱きつく。 「寂しくなかったか?」 「うんっ!」 「高校楽しいか?」 「うんっ!」  耳元で聞こえる父の声、あの時となんら変わらない。 「今日は、今日は御馳走だからねっ」 「あぁ、今日はお母さんと憂が作ってくれたんだぞ」 「お母さんが!?」 「そうよ、唯。元気してた?」 「うんっ!」  母もまた、相変わらずだ。  変わらない2人に、唯は心一杯の嬉しさを感じていた。 281 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:49:37.24 ID:esbY0niM0 「よし、じゃぁとりあえず御馳走食べような」 「うんっ!」  そう言って父から離れ、唯は鞄を持って自分の部屋へ階段を駆け上がる。  部屋のドアを開き、鞄を放り、すぐに着替えた。  そして、ばたばたと階段を下りていく。  テーブルには、もう3人が座っていた。 「わっ! すごいっ!」  テーブルの上には、今まで見たこともないような御馳走が並べられていた。   「お姉ちゃん、お帰り!」 「ただいま、憂!」  憂もまた、満面の笑みを浮かべていた。  唯は両手をしっかりと合わせた。  それを追うように、他の3人も手を合わせる。 「いただきますっ!」  家まで走ってきたということもあり、唯はかなり腹ペコだった。  次から次へと御馳走を口に放り込む。 「はむはむ、はふっ」 「はは、相変わらずだな、唯」 「はむはむっ!」  和やかな食事の合間に、懐かしい話を沢山した。  学校生活のことや、高校受験のこと。それから部活のことも。 283 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:51:37.54 ID:esbY0niM0 「そうか、唯は部活を始めたのか」 「軽音部に入ったんだ!」 「あら、楽器は何をやってるの?」 「ギターだよっ!」 「おぉ、恰好いいな。今度父さんに聞かせておくれよ」 「うんっ、もちろんっ!」  楽しかった食事が終わり、両親も今日は帰ってきたばかりで疲れているからと、そのまま寝ることになった。   「唯、また明日な」 「うん、起こしに行くからねっ!」 「こりゃ驚いた。唯に起こしてもらえるなんて」 「お姉ちゃん、早起きになったんだもんね」 「てへへ……」  照れ笑いをする唯に、母が優しい笑顔を向ける。 「それじゃぁ、おやすみなさいね」 「おやすみなさいっ!」  唯と憂は声を合わせて応え、そのまま階段を上って行った。 284 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:53:25.25 ID:esbY0niM0  日付が変わった頃だった。  コンコンというノック音に唯は起こされた。 「うぅん……誰ぇ?」 「唯、父さんだ。ちょっといいか?」 「うんっ!」  父の声が聞こえると、唯はすぐに元気になった。  父はそのまま部屋に入ってきた。 「どうしたの?」 「唯、ちょっと散歩に行かないか」 「うんっ!」  2人は静かに家の外に出た。  月が綺麗に2人を照らす。  雲ひとつない、綺麗な夜空。  珍しく星が輝いて見える。 「綺麗……」   唯が思わずため息を漏らす。  だが、父は空を見ずに唯の横顔を見つめていた。  「唯……父さんな、唯に話さなきゃいけないことがあるんだ」 「えっ?」  唯が振り向いた先にある父の顔は、少し暗かった。 287 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:54:43.94 ID:esbY0niM0 「唯は、父さんと母さんがいつも何してるか知ってるか?」 「う~んと、いつも海外で旅行してるんでしょ?」 「そうだな。お前達2人にはいつもそう言ってたよな……」  父はふと昔を思い出して、何ともいえぬ哀愁を漂わせた。   「思えば、お前達も大きくなったもんだ」 「やだなぁ、照れちゃうよっ」  唯は思わず顔を赤らめる。 「実はな、父さん達は唯に隠していることがあるんだ」  そう言って父は歩みを止め、唯の顔を見つめた。  唯も自然と歩みを止め、父の顔を見つめる。 「あのな……父さんと母さんはな……」  しばしの沈黙。  唯は生唾をゴクリと飲み込んだ。 「諜報部員なんだ」  月明かりに照らされた父の顔が、今まで見てきた中で一番真面目に見えた。 288 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:56:49.32 ID:esbY0niM0 「えっと……お父さん?」  唯は次に言うべき言葉を選びたかったが、頭がこんがらがってしまった。 「その……つまり……」 「そう、父さん達は『スパイ』なんだ」 「はわわっ」  唯は思わず天を仰いだ。  相変わらずため息の出そうなほど綺麗な夜空だ。  だが、今度はため息は出なかった。 「今まで黙っていて、すまなかった」 「うん……」 「だが、もうすぐお前も18歳だ。もう知らなくてはいけない年になってしまった」 「別に……嫌じゃないよ」 「……?」 「お父さんとお母さんがスパイでも、私、大丈夫だよ」 「そうか……」  だが、父はそのまま黙ってしまった。 「……お父さん?」 「唯……スパイ映画は見たことあるか?」 「えっ」  突然の質問に、唯は思わず戸惑う。 290 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:58:01.06 ID:esbY0niM0 「ん~と……テレビでちょっとだけ」 「そうか」  再び父は歩き出した。  つられて唯も歩き出す。  ただ来た道を戻るだけなのに、なんだか全然違う道のように見えた。  家の前まで来ると、再び父は歩みを止めた。  そして、そのまま何かを考えているようにうつむく。 「……どうしたの? 入らないの?」  唯の声にも、父は動かなかった。  しばらく、そのまま時が流れた。  5分ほどそうしていただろうか、突然父が口を開いた。 「唯……来てくれないか」 「えっ?」 「……ボスが待っているんだ」 「ぼ、ぼす?」  唯にはとても理解できなかった。 「えっと……それはどこかに出かけるっていうこと?」 「すまない、もう時間がないんだ」  父は突然、懐から携帯電話のような端末を取りだした。  何度かボタンを押し、それを耳に当てる。 292 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 22:00:27.92 ID:esbY0niM0 「私だ。昨日の場所に来てくれ」 『了解しました』  短いやり取りを終えると、再び唯に目をやる。 「今から出発だ。朝までには戻れると思う」 「はわわっ?」 「車に乗るぞ、唯」  そう言って父は車の所まで歩いて行き、助手席のドアを開けた。 「細かい説明はここでは出来ないんだ。乗ってくれ」 「う、うん……」  唯は少し迷った。  だが、目の前にいるのは紛れもなく父である。  心の中で決心を付け、唯は車に乗り込んだ。  すぐに運転席へ父が乗り込む。 「眠かったら寝てていいからな」 「うん……」  車の緩やかな振動は、唯を再び深い眠りへと誘ってゆく。  薄れゆく意識の中で、唯はぼんやりと思った。 (夢、なのかな……これ)  丑三つ時の住宅街を、車は走り抜けて行った。 [つづく]
273 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:44:01.69 ID:esbY0niM0 【私はヒミツ諜報部員】 [指令1]ー[私が諜報部員!?] 「えっ? ホントにっ!?」  唯は電話越しに聞こえた憂いの言葉に、思わず声を上げてしまった。  無理もない、それは唯にとって最高のサプライズだったからだ。 「お父さんとお母さんが、帰ってくるの!?」  部活が終わり、さて帰ろうかという矢先であった。  あまりに唯が大声で話すので、憂は受話器を耳から10センチほど離さなければならなかったほどだ。   『お、お姉ちゃん。声大きいよぉ』 「だって、嬉しいんだもん!」 『うん、私もすっごい嬉しいんだ』 「じゃ、今日は御馳走だねっ!」  楽しそうに電話をしている唯を、他の4人は遠巻きにに見ていた。   「ふふ……嬉しそうね、唯ちゃん」 「無理もないさ。久しぶりに両親に会えるんだから」 「何か見てるだけでこっちまで嬉しくなってきますね」  みんな自然と笑顔がこぼれていた。 275 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:45:32.64 ID:esbY0niM0 「うん、じゃぁすぐに帰るからねっ!」    言い終えると、唯は携帯を切って鞄に放り込んだ。  そして一目散に駆けだした。音楽室の外へ。   「あっ! みんな、今日は先に帰るねっ!」 「あいよ~」  ドアの所で一瞬止まり、笑顔で言う唯に律がニヤニヤしながら手を振る。  どたばたと階段を降りる音がして、それもすぐに聞こえなくなった。 「行っちゃったな……」 「うらやましいですね」  澪と梓は遠い目をしながらつぶやく。 「よしっ! 今日は4人で食べにでも行きますかっ!」 「あらあら、今日はりっちゃんのおごりかしら」 「ごちそうさまですぅ、律先輩」 「ななな……」  残された4人もまた、にぎやかに階段を降りて行った。 277 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:46:28.65 ID:esbY0niM0  家まで止まらず猛ダッシュで唯は走り続けた。  頭の中には、父と母のにこやかな笑顔。  2人が家に帰ってくるのは、唯が高校生になってから始めてのことだ。  だから、もう2年以上は会っていない。  もうすぐ、もうすぐ会える。  その気持ち一つで唯は走り続けた。 「はぁ……はぁ……」  自分でも驚くぐらい早く家に着いた。  玄関の前で、少し呼吸を整える。   「よ、よぉし」  唯は恐る恐るインターホンに指を近づける。 「えいっ」  ピンポーンと鳴ってからドアが開くまで、どれだけ待ち遠しかったことか。  唯は2人と何を話すかを考え続けて、頭が一杯だった。  だからかもしれない。  ドアノブが回る音に気が付かなかった。 279 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:48:03.46 ID:esbY0niM0 「おかえり、唯」  懐かしい父の声。  唯ははっと気付く。  目の前には両親がいた。 「おとうさん……おかあさん……」  自分の声が震えているのが分かった。  目の前が霞む。唯は目に涙をためていた。 「おかえりなさいっ!!」  言うと同時に父に抱きつく。 「寂しくなかったか?」 「うんっ!」 「高校楽しいか?」 「うんっ!」  耳元で聞こえる父の声、あの時となんら変わらない。 「今日は、今日は御馳走だからねっ」 「あぁ、今日はお母さんと憂が作ってくれたんだぞ」 「お母さんが!?」 「そうよ、唯。元気してた?」 「うんっ!」  母もまた、相変わらずだ。  変わらない2人に、唯は心一杯の嬉しさを感じていた。 281 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:49:37.24 ID:esbY0niM0 「よし、じゃぁとりあえず御馳走食べような」 「うんっ!」  そう言って父から離れ、唯は鞄を持って自分の部屋へ階段を駆け上がる。  部屋のドアを開き、鞄を放り、すぐに着替えた。  そして、ばたばたと階段を下りていく。  テーブルには、もう3人が座っていた。 「わっ! すごいっ!」  テーブルの上には、今まで見たこともないような御馳走が並べられていた。   「お姉ちゃん、お帰り!」 「ただいま、憂!」  憂もまた、満面の笑みを浮かべていた。  唯は両手をしっかりと合わせた。  それを追うように、他の3人も手を合わせる。 「いただきますっ!」  家まで走ってきたということもあり、唯はかなり腹ペコだった。  次から次へと御馳走を口に放り込む。 「はむはむ、はふっ」 「はは、相変わらずだな、唯」 「はむはむっ!」  和やかな食事の合間に、懐かしい話を沢山した。  学校生活のことや、高校受験のこと。それから部活のことも。 283 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:51:37.54 ID:esbY0niM0 「そうか、唯は部活を始めたのか」 「軽音部に入ったんだ!」 「あら、楽器は何をやってるの?」 「ギターだよっ!」 「おぉ、恰好いいな。今度父さんに聞かせておくれよ」 「うんっ、もちろんっ!」  楽しかった食事が終わり、両親も今日は帰ってきたばかりで疲れているからと、そのまま寝ることになった。   「唯、また明日な」 「うん、起こしに行くからねっ!」 「こりゃ驚いた。唯に起こしてもらえるなんて」 「お姉ちゃん、早起きになったんだもんね」 「てへへ……」  照れ笑いをする唯に、母が優しい笑顔を向ける。 「それじゃぁ、おやすみなさいね」 「おやすみなさいっ!」  唯と憂は声を合わせて応え、そのまま階段を上って行った。 284 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:53:25.25 ID:esbY0niM0  日付が変わった頃だった。  コンコンというノック音に唯は起こされた。 「うぅん……誰ぇ?」 「唯、父さんだ。ちょっといいか?」 「うんっ!」  父の声が聞こえると、唯はすぐに元気になった。  父はそのまま部屋に入ってきた。 「どうしたの?」 「唯、ちょっと散歩に行かないか」 「うんっ!」  2人は静かに家の外に出た。  月が綺麗に2人を照らす。  雲ひとつない、綺麗な夜空。  珍しく星が輝いて見える。 「綺麗……」   唯が思わずため息を漏らす。  だが、父は空を見ずに唯の横顔を見つめていた。  「唯……父さんな、唯に話さなきゃいけないことがあるんだ」 「えっ?」  唯が振り向いた先にある父の顔は、少し暗かった。 287 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:54:43.94 ID:esbY0niM0 「唯は、父さんと母さんがいつも何してるか知ってるか?」 「う~んと、いつも海外で旅行してるんでしょ?」 「そうだな。お前達2人にはいつもそう言ってたよな……」  父はふと昔を思い出して、何ともいえぬ哀愁を漂わせた。   「思えば、お前達も大きくなったもんだ」 「やだなぁ、照れちゃうよっ」  唯は思わず顔を赤らめる。 「実はな、父さん達は唯に隠していることがあるんだ」  そう言って父は歩みを止め、唯の顔を見つめた。  唯も自然と歩みを止め、父の顔を見つめる。 「あのな……父さんと母さんはな……」  しばしの沈黙。  唯は生唾をゴクリと飲み込んだ。 「諜報部員なんだ」  月明かりに照らされた父の顔が、今まで見てきた中で一番真面目に見えた。 288 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:56:49.32 ID:esbY0niM0 「えっと……お父さん?」  唯は次に言うべき言葉を選びたかったが、頭がこんがらがってしまった。 「その……つまり……」 「そう、父さん達は『スパイ』なんだ」 「はわわっ」  唯は思わず天を仰いだ。  相変わらずため息の出そうなほど綺麗な夜空だ。  だが、今度はため息は出なかった。 「今まで黙っていて、すまなかった」 「うん……」 「だが、もうすぐお前も18歳だ。もう知らなくてはいけない年になってしまった」 「別に……嫌じゃないよ」 「……?」 「お父さんとお母さんがスパイでも、私、大丈夫だよ」 「そうか……」  だが、父はそのまま黙ってしまった。 「……お父さん?」 「唯……スパイ映画は見たことあるか?」 「えっ」  突然の質問に、唯は思わず戸惑う。 290 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 21:58:01.06 ID:esbY0niM0 「ん~と……テレビでちょっとだけ」 「そうか」  再び父は歩き出した。  つられて唯も歩き出す。  ただ来た道を戻るだけなのに、なんだか全然違う道のように見えた。  家の前まで来ると、再び父は歩みを止めた。  そして、そのまま何かを考えているようにうつむく。 「……どうしたの? 入らないの?」  唯の声にも、父は動かなかった。  しばらく、そのまま時が流れた。  5分ほどそうしていただろうか、突然父が口を開いた。 「唯……来てくれないか」 「えっ?」 「……ボスが待っているんだ」 「ぼ、ぼす?」  唯にはとても理解できなかった。 「えっと……それはどこかに出かけるっていうこと?」 「すまない、もう時間がないんだ」  父は突然、懐から携帯電話のような端末を取りだした。  何度かボタンを押し、それを耳に当てる。 292 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/29(火) 22:00:27.92 ID:esbY0niM0 「私だ。昨日の場所に来てくれ」 『了解しました』  短いやり取りを終えると、再び唯に目をやる。 「今から出発だ。朝までには戻れると思う」 「はわわっ?」 「車に乗るぞ、唯」  そう言って父は車の所まで歩いて行き、助手席のドアを開けた。 「細かい説明はここでは出来ないんだ。乗ってくれ」 「う、うん……」  唯は少し迷った。  だが、目の前にいるのは紛れもなく父である。  心の中で決心を付け、唯は車に乗り込んだ。  すぐに運転席へ父が乗り込む。 「眠かったら寝てていいからな」 「うん……」  車の緩やかな振動は、唯を再び深い眠りへと誘ってゆく。  薄れゆく意識の中で、唯はぼんやりと思った。 (夢、なのかな……これ)  丑三つ時の住宅街を、車は走り抜けて行った。 476 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 21:17:58.74 ID:2w+NyyNI0 「唯、着いたぞ」  父が車のドアを開けた音で唯は目を覚ました。  眠そうに眼をこすりながら、車の中から外を見回してみる。 「……ここは?」 「秘密基地、だ」  助手席のドアを開けながら、父は唯の問いに答える。  その直後、背後から声がした。 「待ったぞ、ヒラサワ」 「すみません、ボス」  相手はいい感じに太った中年男でいい感じにスーツを着こなす、どう見てもそこらにいそうなおじさんだ。  だが、声はその体に似つかず妙に澄んでいた。  男は唯ににこやかに笑いかける。 「初めまして……かな? 平沢さん」 「は、はじめまして!」  いきなりだったので、妙に緊張してしまった。  だが、唯は頭の片隅で妙に引っかかるような気がしていた。  そう。この男、見たことがあるような……  そして男は唯の疑問を見透かすように笑い声を上げた。 477 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 21:22:15.68 ID:2w+NyyNI0 「はははは。これなら分かるじゃろ」  笑い声の後のしわがれ声。  その声を聞いた瞬間、唯は確信した。 「こっ、校長先生!?」 「いかにも」  満足げに頷きながら、校長は唯に背を向ける。 「君の話はさわ子君からも聞いておる」 「そ、そうなんですか?」 「うむ。随分と天然な女の子だそうじゃないか」 「はわわっ」  唯は少し照れた。  自分でも半分自覚しているつもりだったが、それでも面と向かって言われると少し恥ずかしい。 「すまないが、ここからは元の声でいかせてもらうよ」  そう言いながら、校長の声はしわがれ声から元の妙に澄んだ声に変わっていった。  何かすごい隠し芸でも見たかのように目を輝かせながら、唯は尋ねた。 「どっちか地声なんですかっ?」 「ふふ、秘密だ」  口に軽く指を当てながら、校長は済んだ声で答える。  そして、そのまま近くにあった椅子に腰を下ろした。 478 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 21:33:02.28 ID:2w+NyyNI0 「まぁ、座りたまえ」  そう言いながら進められた椅子に、唯は遠慮がちに座る。  父も続けて座った。 「自己紹介がまだだったね」 「えっ、校長先生ですよね?」 「それは表の顔で本業は秘密諜報部員のボス。という訳だ」  校長が不敵な笑みを浮かべる。  唯は校長の言葉が理解できなかった。 「まぁ、突然言われて納得しろというのが筋違いだ」  黙りこくってしまった唯を見ながらそう言うと、手元のスイッチを押す。  校長の後ろの壁に、突然映像が浮かび上がった。 「聞いたと思うが、君のお父さんも秘密諜報部員だ」 「は……はい」 「ヒラサワには世界中を駆け巡って活躍してもらっている。仕事熱心な奴でな」  そう言って校長は父に視線を移す。 「はは、照れますよボス」 「だが、それと引き換えに家庭という大切なものを奪ってしまった」  校長は二人に向き直った。 480 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 21:38:05.75 ID:2w+NyyNI0 「いまさらだが、許してくれ。これには私の責任もあるんだ」    すこし頭を下げる校長に、父が慌てて声を掛ける。 「そんな、ボス、あなたのせいじゃないんだから」 「私の人望が無かった。それが元で人材不足に落ちいったのは事実だろう?」  校長は遠い目をしていた。 「それを言ったら国の責任でしょう」 「む……」 「景気が悪くなれば、給料も安くなる。しょうがない話です」 「しかし、それで残ってくれたのはわずかばかり」 「こんなに命懸けの国家公務員なんてありませんからね」  唯には何が何だか分からない。  ただ、乾いた笑いが交る会話が景気のいい話でないことは分かった。 「人材不足という四文字がいつも私の頭に付きまとう……」 「察しますよ」 「ふむ……」  ふと、唯は校長の視線を感じた。 481 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 21:42:13.46 ID:2w+NyyNI0 「しかし、本当にいいのかね?」 「えぇ、能力は間違いなくあります」 「ふむ……私としても、軽い任務を優先的に与えるつもりだ」 「そうして頂けるとありがたい」  そして、その視線が2人に増えたのを感じた。 「唯……」 「な、何っ?」 「耳をすましてみてくれ」  突然何を言われるかと思った唯は、意外な言葉に言われるがままに従った。 「どうだ、何か聞こえるか?」 「うん、話声が……」 「ほほぅ」  とたんに校長が驚きの声を上げた。 「話は本当のようだな」 「えぇ」  唯には何が何だか分からない。  ただ、人の会話が聞こえたのは事実だ。 482 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 21:49:21.30 ID:2w+NyyNI0 「唯、落ち着いて聞いてくれ」 「う、うん。大丈夫だよ。もう驚き過ぎて、落ち着いちゃってるから」  父は少し間を置いて言った。 「お前は普通の人より、すこし優れた能力を持ってるんだ」 「へっ?」 「そのな、例えば今のを例に挙げれば、お前はすごく耳がいい」  そう言われて思い出した。  梓に耳だけでチューニングをしていたことに驚かれたことを。 「でも、そんな人よくいるし……」 「それだけじゃない」 「ふぇ?」 「目もいいし、体も丈夫だ」 「で、でも私、体育の成績あんまり良く無いしぃ……」 「すまんな、少し力を押さえさせてもらったのじゃ」  校長がにこやかに暴露する。 「へっ!? 校長先生が?」 「そうじゃ。少なくとも学校ではな」 「でも、どうやって?……」 「学校には銅像があるだろう? それがいわゆる『結界』のように君の力を押さえていたのだ」 「???」 「まぁ、そんなに深く考えなくてもよい」 483 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 21:54:56.74 ID:2w+NyyNI0 「母さんと父さんは、そういう能力を生かして国のためにスパイをやってきたんだ」    父がさらりと言う。 「ま、職場結婚には驚いたがな」 「それは言わない約束でしょう」  唯は悟った。  この二人が自分にしてほしいことを。 「えっと……」 「何だ? 唯」 「もしかして、私がこの仕事をすることになるの?」  二人は顔を見合わせ、そして同時に言った。 「そういうことだ」 「そいうことじゃな」  唯はそれを聞き、満面の笑みになった。 「じゃぁ空も飛べるの!?」 「えっ?」 「魔法みたいに、指先一つで物も動かせるの!?」 「おほっ?」  そう言いながら、唯はくるくる回ったり、跳ねたりしてみせた。 484 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/30(水) 22:01:29.28 ID:2w+NyyNI0 「ホイミっ!」 「……」 「ファイラ!」 「……」 「懐かしいのぅ」 「えぇ。どこで聞いたんだか」 「……」  二人の軽薄な反応に、唯はすぐに黙ってしまった。 「まぁ、今日の所はこんなもでいいじゃろ」 「そうですね」  校長が立ち上がると、父も立ち上がった。 「唯、明日は学校だ。この話はまた今度しよう」 「ふぇっ!?」 「明日学校に行けば、また知ることがある、残りはその時までのお楽しみだ」 「えっ!? それってどういうこ――――」  唯の記憶はそこで途切れる。  気付けば朝で、唯はベッドの上で寝ていた。  そう、いつものように。 [指令1]‐[終わり]

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