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361 :序:2009/07/06(月) 23:02:03.17 ID:hy652tuS0
それでは住民の皆さま、宜しくお願いします><

はじまり…そんなものはちょっとしたきっかけだ。
それが最終的に一言で片付けることのできる存在であっても…つまり長さではなく重さなのだ。
想いがこもっているからこそ、その一言が人を左右するのである。


好きだー!

最短の告白文であろう三文字を叫び、彼は彼女を力いっぱい抱きしめた。


ありふれた1日―

大人になるにつれ、特別な日ではなくなる今日

それでも、彼女たちの心には―
370 :笹の葉嬉遊曲・い:2009/07/06(月) 23:19:04.30 ID:hy652tuS0
『笹の葉嬉遊曲』

 7月、期末テストを間近に控え、テスト範囲の効率的なカバー方法を考えていたのだけれど、
白紙ノートではどの道カバーしようがないことを私自身が分かり切っている。それならば、
ギリギリまでテストなどという存在はこの世から抹殺しておくべきであり、ノートまとめは
パトロンにでも任せておこう。ちなみにパトロンというフレーズは今日の授業で覚えたほやほやの知識である。
「さっきのとこ、憂に聞こーっと」
出来る妹という強力なパトロンを従える天然娘、姉というプライドを捨てた平沢唯が
理解に至らなかった難解英作文を妹に託した。
「りっちゃんだって聞くくせにー」
「私は最初から諦めてはいないぞー?諦めたらそこで試合終了ですよ。」
「りっちゃん!バンドがしたいです!」
ほっほっほ…などと唯とふざけながら部室に顔を出す。
371 :笹の葉嬉遊曲・ろ:2009/07/06(月) 23:23:28.27 ID:hy652tuS0
「おっす」
パトロンその一、秋山澪が普段通りの口調で挨拶してきた。
「いつ私がお前のパトロンになった?」
仲良くなったその日からだ。
「こんにちはー!」
「会いたかったよ~♪あずにゃーーん!」
未公認種目5m走の日本新を出したであろうダッシュ力で、
唯は軽音部ただ1人の一年生部員、中野梓に体当たり攻撃をしかけていた。
「あら、ムギちゃんは一緒じゃないの?」
退屈そうに某ヘヴィメタ漫画の最新刊を読んでいる顧問、
山中さわ子がとても残念そうな表情を浮かべた。

「さわちゃん残念だったなー。ムギは遅れるって言ってたよー。」

私の放課後ティータイムを早くなどとのたうち回るさわちゃんはほっとくとして、
私は窓から見える空をぼんやりと眺め…

「…」

「  …」

囁くような声が聞こえた気がして我に返った。澪…なわけないよな。
停止していた思考を再開させる。やめやめ、キャラじゃねーし!悶々とした気分を封じ込めつつ
「っしゃー!いっちょ練習はじめるか!」
と、私は部活の号令をかけた。
374 :笹の葉嬉遊曲・は:2009/07/06(月) 23:26:50.06 ID:hy652tuS0
「えームギちゃん来るまで待ってよーよぉ」
「ようやく律先輩にも部長としての自覚が芽生えたんですね!」
「紅茶、ケーキ、私のオアシス…」
待っていたのは三者三様の反応…うんたんとメタラーはともかく、私はもともと部長として自覚しているし
「え?部長って澪先輩じゃなかったんですか!?」っていつぞや言われた傷跡は癒えてないんだぞー梓。
「まあ、律がやろうって言ってるんだ。部長の話は聞くものだぞ。」
いつもよりか幾分温和な澪が、諭すような口調で助け舟を出してくれた。
「仕方ないかー…しょぼーん」
「さすが澪先輩です!説得力あります!先生も諦めてください!!」
「わかったわよぅ梓ちゃん。」
なぜ私が言っても聞かないのに、澪が言ったらキクンダ?私が納得する答えを
400字詰め原稿用紙2枚分にまとめてきてもらいたい気分である。
それと梓、今のは私に説得力がないと遠まわしに言っていると解釈していいんだよな…?
376 :笹の葉嬉遊曲・に:2009/07/06(月) 23:30:53.91 ID:hy652tuS0
そうこうしていると、ザリガニちゃんとエロ教師が待ち望んでいた人物、琴吹紬が
遅れながら部室にやってきた。しかし、その手に握られていたものはいつもの
ティーセットではなく、青々と茂るこの日ならではのものであった。
「みんな遅れてごめんね。用意に時間かかっちゃって。」
にこにこと両手で抱き抱えていたそれを立て掛けながらムギは私たちに遅れたことを謝罪したが、
それより先に教えてほしいことがある。
「あっあのう…それは…?」
梓が先陣を切って誰もが思ったことを口にした。
「うふふ、ジャーン!笹でーす!」
それは見ればわかるのだが
「そういえば今日は七夕ね。」
さわちゃんが、もらったプレゼントが実はあまりうれしくなかった的な表情とトーンで既成事実を述べる。
379 :笹の葉嬉遊曲・ほ:2009/07/06(月) 23:33:14.38 ID:hy652tuS0
7月7日

今日は七夕である。一般的にはただ雨が降る蒸し暑い平日でしかないが。
七夕かぁ~などと間延びした口調の唯にムギが嬉しそうに
「うん!短冊も持ってきたし、みんなで願い事書こっ♪」
と言いながら手際よく人数分のサインペンと大量の短冊を机に並べた。
「短冊か。なんか懐かしいな。」
澪は短冊を指でなぞりながら大切そうにつまみ上げる。
「私も小学校以来です。でもどうして急に?」
「部活のみんなとやったら楽しいかなって思ったの!」
はつらつと梓に答えるムギ。そういえばムギは、こうやって何気ない日常を楽しく過ごしたいって言ってたっけ。
「それにしても立派な笹ねぇ。」
「斎藤に頼んで持ってきてもらったんです。もっと大きいのもあったんですけど、部室に入らないと困りますので…」
びっくりだーなんてどこぞのお姉さん風に驚くことはないさわちゃんだったが
せっかくだからと七夕会には参加するようだ。
381 :笹の葉嬉遊曲・へ:2009/07/06(月) 23:37:17.51 ID:hy652tuS0
と、言うわけで、いつもは喫茶店と化しているここに、小学校の教室のような風景が広がっている。
ムギによれば織姫と彦星宛ての短冊を二種類作れば抜かりはないはずだとのことなので、各々が二種類の短冊を作成した。

まるまるした字でデカデカと
“ギー太とシンクロしたいです”
“おかしたくさん”
と書いた唯。

「唯ちゃんらしいわね♪」
とムギの笑顔を見れば、2個目の願いは明日すぐに叶いそうだ。
「ムギちゃんのお願いもムギちゃんらしいね!」

唯の視線の先には達筆な筆跡で
“普通になりたい”
“家内安全”
なんて書かれた短冊が吊されている。

他にも
“彼氏を…”
“恋愛が…”
と、イントロ以降を三点リーダで伏せてしまわないと危険な気がする教師らしからぬことを書いた人もいれば

“身長が伸びますように”
“猫さんともっと意思疎通がしたい”
しっかりした筆跡できっかりした字を書いてる後輩まで、それぞれの地がよく表れている
短冊が笹にくくりつけられることとなった。
382 :笹の葉嬉遊曲・と:2009/07/06(月) 23:41:38.48 ID:hy652tuS0
「梓ー、猫はともかく身長はもう無理だろー?」
「そっそんなことないです!まだ絶対きっといつか伸びるです!」
「背の高い梓なんてキャラ違うぜー?」
「むー!そんなこと言ったら先輩の願い事こそキャラクター崩壊ですっ!」
などとムキになった梓が指差した先には、はじめから書くことを決めていたかのように
サラサラっと書かれた短冊が垂れ下がっている。その内の一枚には
“武道館ライブ!!”
とある。しかし、梓が指摘したキャラ崩壊は、こちらの短冊だ。

“みんな仲良くできますように”
384 :笹の葉嬉遊曲・ち:2009/07/06(月) 23:50:04.71 ID:hy652tuS0
「なんでだよー。良いこと書いてるだろ私ー?それに澪も同じこと書いてるしー」
彼女の指差す先には、全く同じ文言の
“みんな仲良くできますように”

“人見知りが治りますように”
の短冊が風にそよいでいた。
「澪ちゃんはいいけど、それ、りっちゃんのキャラじゃないよ。」
唯の常套句を聞くより早く、短冊を書いた田井中律は腰に手を当てえっへん!と胸を張り
「私も考えているのだよ。部活のみんなはもちろん、世界中のみんなが仲良くなれば恒久的な平和だってだなー」
なんていつも通りのキャラで話している。りっちゃんのくせにーだ、こんなろーだの、2人のやり取りが聞こえてきた。

みんな仲良くできますように…か。偶然とはいえ私と同じことを書くなんて、本当に律らしい。

まるで昨日のことのように覚えている7月7日…。私は懐かしい記憶を巡らせた・・・。
387 :笹の葉嬉遊曲・律:2009/07/07(火) 00:01:27.28 ID:iBd/jC4F0
 小学生の時、小学生の時、ふとしたことがきっかけで律と仲良くなった私であったが内気で自分の
言いたいことも言えない子どもだったため、いつも男子たちにはからかわれていた。
別に陰湿ないじめにあっていたとかではないし、私自身はある程度受け入れていた。
でも律はそんな私をいつも守ってくれていたのだ。ううん、守ってくれたのは律だけじゃなかったっけ…。
388 :笹の葉嬉遊曲・ぬ:2009/07/07(火) 00:03:55.93 ID:iBd/jC4F0
 図工で作った粘土細工が変だなんだといつものように私はからかわれていた。
案の定すぐに律が駆けつけたのだが、どうやら男子達はその日不機嫌だったらしく、
いつもなら睨み合いで終わるのに殴り合いになってしまった。

「いったー!何するんだよー!このー!」
「田井中は関係ないんだからくるなよー!」
運動神経が良い律とは言え多勢に無勢。殴られて反撃するも男子達には適わない。そんな時
騒ぎを聞きつけ、

“彼”がやってきた。

「お前たちー!女の子に手出す男は最低なんだぞー!そんなことする奴は、俺が許さないぞーー!」
彼はクラスの中心人物と言うべき存在である。気さくで明るく男女共に友人の多い彼は
私とは正反対の存在であった。
390 :笹の葉嬉遊曲・る:2009/07/07(火) 00:08:58.32 ID:iBd/jC4F0
そんな彼は、とりわけ気弱だった私を律と一緒にいつも助けてくれていた。
「田井中、あっきー、大丈夫かよ?」
彼の活躍により男子たちは退散。感謝の言葉を彼にかけたいのに、
恥ずかしくて私はただ頷くことしか出来なかった。
「大丈夫!お前のおかげだよ!」
私の代わりに律が感謝を告げる。
「おっおう。田井中ー!いくら強くても女の子が殴り合いしたら駄目だぞー!」
「わかってるよー!でもさーぶたれたからやり返しちゃった!えへへー」
この2人が優しくしてくれるから、私はいつも楽だったのかもしれない…。
392 :笹の葉嬉遊曲・を:2009/07/07(火) 00:11:18.02 ID:iBd/jC4F0
 私は、知らない内に彼をよく見るようになっていた。彼が好きだったというか、
彼に憧れていたというか…、とにかく彼と仲良くしたかった。それが友達としてか
異性としてかは子ども心の私にはわからなかった…。けれど、律以外の
ましてや男子に声をかけるなんて当時の私にできるはずもなく、彼の男らしい口調と
そんな彼と仲良くしている律がいつも眩しく見えた。今考えれば私の性格や口調は
彼の影響を受けているのかもしれない。いつも見つめているだけで何も言えない
私なりの精一杯…。でも、それでよかったし、毎日が楽しかった。そんなある日…。
397 :笹の葉嬉遊曲・わ:2009/07/07(火) 00:17:52.54 ID:iBd/jC4F0
 クラスで七夕の会をする事になった。大きな笹を囲み、みんな将来の夢や希望を短冊に書き込んでいた。
そんな中、私は自分の持てる勇気を振り絞って、ずっと口に出来なかった願い事を七夕のこの日、
笹の葉にかざった短冊から織姫様と彦星様に託した。

“仲良くできますように”
404 :笹の葉嬉遊曲・か:2009/07/07(火) 00:22:37.94 ID:iBd/jC4F0
我ながら今までで一番ドキドキしてたんじゃないかと思う。作文の朗読はもちろん、音楽の
授業で自分の書いた詩が匿名で発表されるだけも心臓が押し潰されそうになったぐらいである。
さすがに主語を入れることは憚られたが、それでもこんな私がはじめて自分の想いを
素直に表現したのだ。あの時、私は人として少し成長したのかもしれない。
406 :笹の葉嬉遊曲・よ:2009/07/07(火) 00:27:51.28 ID:iBd/jC4F0
 しかし、そんなことを書いたもんだから、やっぱり私はまたいじられる対象となってしまった。
「秋山に好きな人がいるぞー」
「ホントだー!お前じゃないのー?」
「ヤダヨー!!全然秋山のこと好きじゃないしー」
当然私は半泣き。自爆気味とは言え、異性の話題でからかわれるのはさすがに辛かった。
「みんなやめろー!澪はそういう意味で書いたんじゃないもん!」
律が率先して私の前に立ち私を庇ってくれた。先生もやめなさいと男子児童を諭しているけど言うことを聞かない。
409 :笹の葉嬉遊曲・た:2009/07/07(火) 00:31:49.47 ID:iBd/jC4F0
「じゃー秋山はなんて意味で書いたんだよー」
「そっそれは…」
「言えないでやんのー!嘘ついたなー!田井中は嘘つきだー!!」
「うっうそじゃない…!」
「センセー!田井中さんが嘘ついていまーす!!」
「嘘つき田井中いーけないんだーいけないんだー!!!!」
うーそつき!うーそつき!
なんて大合唱まで始まってしまい、これにはさすがの律もちょっと泣きそうな顔をしていた。
どうしよう、私のせいだ。そんなことをずっと考えていた私は、取り返しのつかないことを
したと自分を責め、もう言っちゃおうと…叫ぼうとした。
412 :笹の葉嬉遊曲・れ:2009/07/07(火) 00:36:12.09 ID:iBd/jC4F0
そしたら・・・


「それは“みんな仲良くできますように”って意味なんだよ!!」

凛とした、芯のある声が教室に響き渡った。
先生を含めたクラス全員の視線がそいつに向いた。


彼だった。
418 :笹の葉嬉遊曲・そ:2009/07/07(火) 00:42:48.48 ID:iBd/jC4F0
「あっきーはいつもみんなと仲良くしたいって思っているのに、こうやっていじめられるから
織姫様と彦星様にお願いしたんだよ!そうだよな!?」
突然彼に話しかけられ驚いた私は叫ぼうと開いた口そのままに
「うっうん!」
と叫んだ。
「そっそうだよ!でも澪はおっちょこちょいだから“みんな”って書き忘れたんだよ!」
と言うなり、律と彼は私の短冊に〔みんな〕という単語を追加した。
「みんなどうしてあっきーをいじめるんだよ!あっきーはいい子にしてるのに!
いい子にしてないと神様が許しても俺が許さないんだからな!!」

彼は泣いているようだった。私は、彼が私のために泣いてくれていると思った。

心の中で、何かが音を立てた。
420 :笹の葉嬉遊曲・つ:2009/07/07(火) 00:50:25.91 ID:iBd/jC4F0
あの後、いつも私をからかっていた男子たちが揃って謝りにきた。もともと悪い子達では
なかったので、きっとこれからは仲良くできるだろうと考え、私は嬉しい気持ちで一杯だった。
彼にお礼がしたい。きっと自分の気持ちを彼のように叫ぼうと思っていたに違いない。
今までの自分を変えて、彼や律のように明るく毎日過ごしたい…そう決心していたんだと思う。


しかし放課後の体育館裏で、私は彼の気持ちに気付いてしまった。

私とは違う、はっきりとした気持ちに…。
427 :笹の葉嬉遊曲・ね:2009/07/07(火) 01:01:05.26 ID:iBd/jC4F0
 放課後の図工室掃除の帰り、律が体育館へ向かっている姿を捉えた。一緒に帰ろうと声をかけに行くと、そこには彼がいた。

「今日はありがとー!澪も喜んでたよー!」
律はいつものテンションである。一方
「おっおぉ、あっきーも友達たくさんできるといいな!その…り…田井中みたいにさ!」
いつもの勢いが彼にはなかった。
「そーいや話ってなにー?」



律の言葉を聞いた瞬間、私の体にざらついた感覚が走った。
436 :笹の葉嬉遊曲・な:2009/07/07(火) 01:09:43.68 ID:iBd/jC4F0
「いや…う…」
彼はどう見ても挙動不審である。私はどうしたらいいかわからずその場に立ち尽くしていた。

「ねー?どうし」
「その…田・・・いや!俺!!律が好きだっ!!!」

どう表現すればいいのだろう。彼のしぐさ、表情を見ればなんとなく解っていたのに、
その言葉を聞いた瞬間、私は世界にぽつりと取り残されたように感じた。
周りの存在が消え失せていた。今、私の五感は彼と律にしか働いていない。
438 :笹の葉嬉遊曲・ら:2009/07/07(火) 01:11:51.45 ID:iBd/jC4F0
私は彼と仲良くなりたい…そう思っていた…。私も彼が好きなんだ。
好きだけど、でも、彼が律に言った【好き】の意味とは違う。だって私の好きはまだ曖昧だ。
その点、彼の【好き】は一つの意味しかない。彼を見れば見るほど、その意味がわかってしまい
私はどうしようもなく途方に暮れていた。
440 :笹の葉嬉遊曲・む:2009/07/07(火) 01:15:25.34 ID:iBd/jC4F0
 彼は、ずっと好きだった、私を助けるために自分を犠牲にしている律がほっとけなかった…
そんなことを言っていたハズだ。律はと言うと、何も言わずにみるみる顔を赤く染め上げ、
うつむいてしまっていた。

律の沈黙をどう受け取ったのか、

好きだー!

最短の告白文であろう三文字を叫び、彼は彼女を力いっぱい抱きしめた。
441 :笹の葉嬉遊曲・う:2009/07/07(火) 01:17:54.41 ID:iBd/jC4F0
これ以上この場にいたら、私は間違いなく二人ともう友達でいられない。そう思い逃げ去ろうと踵を返したとき、

「だっ…ダメだよぉ」

律の、おそらく生涯二度と聞くことはないだろう弱々しい声が、私の耳に届いた。
442 :笹の葉嬉遊曲・ゐ:2009/07/07(火) 01:20:09.90 ID:iBd/jC4F0
律は彼の手をふりほどきながらこう言った。

「私も…す………ううん、私がお前とだけ仲良くしたら、私、澪を守ってあげられないもん。
そしたら澪が悲しむから…だからダメなの。私はずーっと、ずーーっと澪と一番仲良しでいるの!!」

私は、泣いていた。どうして律と彼が仲良くしたら私が悲しむのか…。律は何も言わないけど
本当は全部わかっているのではないか。そんなときまで…律は私のことを一番に考えてくれていた。

どこまでも、律らしかった。
445 :笹の葉嬉遊曲・の:2009/07/07(火) 01:22:35.51 ID:iBd/jC4F0
「だからごめん!嬉しいけどお前ひとりと仲良くできない!」
いつもの四割増くらいの元気さで答えた律に何を感じたのかはわからないが、彼も
「そうだよな…ごめん田井中…。うし!明日からもあっきーを守ってやれよ!!」
といつもの調子に戻っていた。
448 :笹の葉嬉遊曲・お:2009/07/07(火) 01:27:37.46 ID:iBd/jC4F0
私は、本当に良い友達に出会えたんだな…とこのときほど思ったことはない。
律の気持ち…本当は彼に言いたいことが他にあったはず…それでも律は私を選んでくれた。
こんな私には勿体無いほどの友達を、七夕のあの日に二つの星から私は授かったのだ…
なんて言ったらロマンチストだ!なんて、また律にからかわれるんだろうな…。
454 :笹の葉嬉遊曲・お:2009/07/07(火) 01:35:32.11 ID:iBd/jC4F0
 あいつとは違う中学になってしまったので会ってないが、素敵な恋人がいるらしいと風の噂を耳にした。
ちきしょー!私を迎えにくるとかいう台詞は嘘だったのかよー!なんて一人わざとらしくフケながら部室のドアを開ける。
「お、早いな澪。もう来てたのか。」
視界に入った澪に声をかける。今日は7月8日、澪の背後には昨日でお役ごめんの笹が立てかけられている。
澪は書き物をしていた手を止めて鞄の中に突っ込んだ。
458 :笹の葉嬉遊曲・くや:2009/07/07(火) 01:41:03.67 ID:iBd/jC4F0
「まーな。」
「…?どーしたんだよ、なんかメランコリーじゃんか。」
「そういう律だって、昨日はドラムも走ってなかったし元気なかったぞ。毒キノコでも拾い喰いしたか?」
「唯じゃないんだから何でもかんでも食わないわ!…いやさ、七夕は…ちょっと思い出があってな…。」
あの日を澪も思い出しているのだろうか…。しかし私の思い出に続きがあることを澪は知らないはずである。
と言うか澪にあんならしくない格好の悪い続きを知られるくらいなら、あたしゃもう道頓堀川に
沈められたカーネルサンダースと同じ年数だけ川に潜っていても構わないね。何よりも澪の悲しむ顔は見たくない。
万が一そんなことになったら十字架を背負って処刑台を目指す聖職者の如く、私は死を選ぶ自信がある。
461 :笹の葉嬉遊曲・ま:2009/07/07(火) 01:49:11.25 ID:iBd/jC4F0
「…律。」

透き通るような澪の声に、丘を登る聖職者の群から抜け出した私は彼女の方を向いた。むむ、あの表情は恥ずかしいことを言う前の表情だ。しかし、いつもなら明後日の方向を見ている澪がじっと私を見つめている。

「どした?」
なるたけ優しく問いかける。


電話が繋がりワンコール、ツーコール…好きな人が電話に出るまでの時間のように感じられた間



「いつも、ありがとな。」

たった一言でも、どんなに待たされても、どうして大切な人の言葉を聞くだけで、こんな気持ちになれるのだろう。

「…こちらこそ…澪!」

私は笑顔で澪に答えた。
464 :笹の葉嬉遊曲・け:2009/07/07(火) 01:54:24.32 ID:iBd/jC4F0

「あれ?皆さんどうしたんですか?入らないんですか?」
「しーっあずにゃん!今澪ちゃんとりっちゃんがいい感じなの!」
「うふふ、本当に仲良しなのねぇ…うふふふ…♪」
 ・
 ・
 ・
「なーにやってるの!さ!今日こそ放課後ティータイムよーー!」

元気なさわちゃんの声が轟く。私と澪が入口に視線を移すと、そこには何故か部員全員が既に揃っていた。
466 :笹の葉嬉遊曲・ふ:2009/07/07(火) 01:57:37.62 ID:iBd/jC4F0
「ちょっ!さわちゃん先生空気読みなよ~~…」
唯の残念そうな言葉から鑑みるに、どうやら私と澪の会話を盗み聞きしていたとみた。ムギもどこか恍惚とした表情であらあら…☆なんて言ってやがるし、まったく悪趣味な奴らめ。まあ、私もよくやるが。
「うし!それじゃーみんな揃ったし…」
私は一呼吸置いて
「お茶にするかっ!」
いつもの台詞を口にした。
「律先輩…1日しか持たないやる気…まあ、昨日の先輩は何か変でしたし…」
「まあまあ梓、昨日なかった分、今日はお茶の時間も取ろうよ。」
澪の提案をそうですよね!なーんて素直に受け取っている梓、だからどうして澪には素直なんだ。小一時間ほど問いつめてやりたい気分になったが
「でっでも、やっぱり律先輩は…その、元気な姿が似合ってますよ…」
なんて言われたからどうでもよくなった。
469 :笹の葉嬉遊曲・こ:2009/07/07(火) 02:03:31.11 ID:iBd/jC4F0
「うふっ、今日はりっちゃん本当に元気ねぇ~」
梓をどつきながらそうかぁ?なんて生返事をしておいたが、ムギは全部わかっているんだから☆
なんて言いたそうな微笑を私に向けている。ムギは鋭いから、何かあったらしいぐらいは感じているのだろうな。
「う~ん…お・い・し・い…憂にも食べさせてあげたいよぉ~」
「この一杯のために辛く厳しい化けの皮をはり付けてるのよーーー!」
切り替えの早いギタリスト×2(かたや天然女子高生かたや廃人教師)はのんびりしているし、梓は梓で
『昨日の律先輩は実は偽者だったんじゃ…』なんて懐疑心を私に向けている…
改めて軽音部は、本当に個性が強いメンバーの集まりだと思った。まあ、一番個性の強いヤツは幼馴染のアイツなんだが…。
梓にまたちょっかいを出しつつアイツを横目で盗み見ると、私たちのやり取りをムギと一緒になって微笑んでいる。



さっきの“一言”もあってか、その姿がとても愛おしく思えた。
473 :笹の葉嬉遊曲・え:2009/07/07(火) 02:08:52.65 ID:iBd/jC4F0
---
梓の頭をうりうりとしている律はすっかり元通りで安心だ。ちなみにあの時のことは、
私の心にしまいこんでいる。別に律に言っても構わないのだが、こいつの性格上
あのような場面を見られていたと知るや否や、きっとどこかの川に飛び込む勢いで逃げ出すであろう。
「うふふ!今日はね…!ぱんぱかぱーん♪ティラミスも持ってきたの~!」
「ほお~~。大きいティラミスだよりっちゃん!」
「うっはーーー!すっげーうまそう!!」
「一日待った甲斐があったわ~。私ミルクティーお代わりね~!」
ムギの持ってきた特製ティラミスに三者三様の反応。いつもの放課後が今日も始まる。
「あれ?澪先輩の短冊が一つないです。」
私の短冊が1つないことに目ざとく梓が気付いた。続く形で唯が
「ほんとだー」
なんて言いながら、あたりをきょろきょろ見回っている。どこかに落ちてないか探してくれているのだろうか。
476 :笹の葉嬉遊曲・て:2009/07/07(火) 02:15:11.74 ID:iBd/jC4F0
「まあ、私とネタかぶってたから消えてくれてありがたいけどねっ!」
と、酷いことを律に言われたが全く怒る気にはならない。
「律先輩の似合わないお願いがなくなればよかったのに…」
なんて梓に冗談言われちゃってるしな。

梓に追加攻撃を繰り出している律を眺めながら、私は鞄の中に仕舞った短冊に手を当てた。その短冊は、


“みんな”


の部分に斜線が引かれ、こう改められている。



“律とずっと仲良くできますように”



いつか、律に面と向かって言える日が来るまで、この短冊は私だけの秘密にしておこう。


織姫様、彦星様…今度のお願いは、きっと叶いますよね・・・?


~終わり~