146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:31:56.21 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
寒い冬の日だった。
深い眠りについている唯に憂が話しかける。
憂「お姉ちゃん…」
唯「………」
憂「ごめんね……」
唯「………」
憂「辛かったでしょ?…でももう苦しまなくていいよ?」
唯「………」
憂「お姉ちゃん…ありがとう……また会おうね」
唯「………」
憂「あっ」
憂は唯が笑ったように見えた。
憂も微笑み、別れを告げた。
149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:32:42.23 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
話は唯がまだ元気だった時に遡る
ある夏の日
うるさいセミの鳴き声が響き渡る中、軽音部は夏合宿をしていた。
海
律「右!もうちょっと右!」
唯「ん~…(スイカ…スイカ…)」
紬「唯ちゃん!そこよ!」
唯「えいっ!」
ペシッ
見事に唯はスイカまでたどり着いたが、力がなくて割ることが出来なかった。
律「あー!おしい!」
唯「スイカ…スイカ…」
バンドの練習そっちのけで海辺で遊んでいた。
151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:33:25.41 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
紬「皆さん!スイカ切り分けましたよ」
唯「むぎちゃん!ありがと~」
律「やっぱ夏と言えば海とスイカだよな~」
唯「だよね~」
澪「おい!みんな!?合宿しにここまで来たんだぞっ!」
律「もう澪はマジメだな~!澪も本当はスイカ食べたいんだろ?」
澪「あ………うん」コクッ
律「はい、あー…ん」
澪「あ~…ん」
律「やっぱあげない!」パクッ
澪「あ!いたずらはやめろよ!バカりつ!」
律「顔真っ赤にしちゃって。そんなに食べたかったのかよ~?」
唯&紬「あははははっ」
澪「もぉ~っ!」
154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:35:51.95 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
澪「パクパク…」
律「なんだかんだ言ってスイカ食べてるじゃん」
澪「こ、これ食べ終わったら練習にするからなっ!」
唯「むぎちゃんスイカ~」
紬「もう半玉も食べてるよ?」
4人は海へと沈む夕日を見ながらスイカを食べた。
セミの鳴き声、入道雲、潮の匂い、全てが夏の思い出に刻まれた。
澪「じゃあスタジオに戻るぞ!」
唯&律&紬「おぉーっ!」
158:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:37:52.51 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
スタジオ
律「はぁ~スタジオは涼しいなぁ」
唯「だね~じゃあそろそろ寝……」
澪「こらーっ!何のために合宿に来たのか忘れたのか!」
唯「はっ!そうだった!」
唯は夏休み明けライブがあるのを忘れていた。
唯「練習しなきゃね!」
律「よーしっ!まずは最初の曲行くぞー!」
「1、2、3、4っ!」のかけ声で全員は練習を始めた。
160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:39:59.47 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
ジャジャ♪ジャジャーン♪
澪「今日はみんな調子いいな!次の曲も……」
ぐぅ~~…
唯「ごめん…おなか空いた…」グッタリ
律「しょうがないな…今日の練習はこれで終わりにしてご飯にしようぜ!」
紬「今夜は私の知り合いのコックに来てもらったの♪」
唯「やった~!」シャキーーン
澪「まだまだ元気じゃないかっ」
唯「『腹は減ってはギターは弾けぬ』だよ」キリッ
164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:42:29.42 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
4人「ごちそうさまでしたー」
4人は美味しい料理を食べた後、お風呂に入り寝室に集まった。
律「唯っ!明日は早起きして海行こうな!」
唯「うんっ!」
澪「練習しなさい!」
紬「ちょっとくらい良いじゃないですか?せっかくの夏休みなんですし……」
澪「…そうだな」
律「じゃあ明日は8時からねっ!」
唯「おやすみ~」
澪&律&紬「おやすみ~」
168:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:43:39.30 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
次の日の朝
唯「わぁ…こんな早い時間も人がいるんだ~」
澪「何して遊ぶんだ?」
紬「うーん、もうスイカは無くなっちゃいましたからね…」
律「みんなみんなー!新しい声真似聞いて!」
律「…ごっつぁんでごわすっ!」
唯&紬「栃東だぁー!」
澪「あははははっ」
律「どうだー!凄い似てるだろっ」
こんなどうでもいいことが楽しく思った。
こんなどうでもいいことがずっと続いて欲しいと思った。
169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:44:49.50 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
律「みんなー!ビーチボール借りてきたよ!」
唯「ありがとーりっちゃん!」
澪「いくよー!」ポンッ
紬「えいっ!」ポンッ
律「スマーシュッ!!」バシッ
唯「あうっ!」ビシッ
律の強い打球が唯に当たりボールが遠くにいってしまった。
澪「おい律、あんまり強く打つなよ!」
律「唯~ごめんね!」
唯「えへへ~ボール取ってくるね!」タタタッ…
171:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:46:15.86 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
ボールは波打ち際まで飛ばされていた。
唯「りっちゃんのスマッシュ強いな~っ」
唯「あ」
ボールを取りに行った唯は波に飲み込まれてしまった。
離岸流という強い流れに飲み込まれたのだ。
澪「唯…遅いなぁ…」
紬「そうですね…」
律「心配しすぎだって!私のスマッシュが強くて遠くに行っちゃったんだよ!」
唯はまだ戻ってこない。
173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:47:14.73 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
あまりにも唯が戻ってくるのが遅いので、さすがの律も心配し始めた。
律「何かあったのかな……ちょっとライフセイバーの人に聞いてくる!」タタッ
3人は先ほどまでは暑さで汗をかいていたが、今は冷や汗に変わっていた。
ライフセイバーは律に言われ、唯の捜索を始めた。
しばらく捜索し、海岸で倒れている姿が発見された。
唯は息をしていなかった。
176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:48:48.47 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
唯「………」
律「おいっ!唯!目を覚ませよ!」
紬「唯ちゃん!」
澪「唯……唯……」
全員が心肺蘇生を受けている唯に声をかけた。
3人の声に反応したのか、唯は息を吹き返した。
その後救急車で運ばれた。
楽しいハズの海には救急車のサイレンだけが響いていた。
177:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:50:28.16 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
病院
憂「お姉ちゃん!」
憂は律たちの連絡を受け、すぐに駆けつけた。
唯はまだ眠っている。
医者「この中で平沢唯さんのご家族をいらっしゃいますか?」
憂「唯の妹です…」
医者「平沢唯さんの体の事ですが……」
憂「…………」
医者「…このまま目を覚まさないでしょう……つまり植物状態に……」
病院にいる憂、律、紬、澪は何も言葉出なかった。
医者「溺れた時に……無呼吸状態が続いて……」
憂たちは医者の言葉なんか聞こえていなかった。
179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:52:40.41 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
数日後
ピッピッピッピッ
唯は体中に管を繋がれて生きていた。
『ピッピッピッ』
この音が今の唯の生きている音となっている。
憂「お姉ちゃん…目を覚まして…」
憂は唯が目を覚ますまで世話をすると決めた。
憂は寝ている唯に話し続けた。
憂「お姉ちゃん?今日学校のテストで100点取ったんだよっ!」
唯「…………」
憂「お姉ちゃん?退院したら何食べたい?」
唯「…………」
憂「お姉ちゃん?今から体拭くね?」
唯「…………」
唯は無言の返事をし続けた。
181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:53:39.45 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
唯が眠ってから2回季節が変わり冬の季節となった。
ピッピッピッピッ
憂「お姉ちゃん?今年はサンタさん来るかな?」
唯「………」
唯は未だに無言の返事をする。
憂「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
憂は唯の看病に専念するために学校を辞めていた。
憂「お姉ちゃん…目を覚ましてよ!」
泣きながら呼びかける。
憂の涙が目から唯の頬に流れ落ちた。
唯「…………」
182:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:54:27.29 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
コンコン… ガチャ
医者「唯さん、憂さん、こんにちは…」
憂「こ…こんにちは…」
唯「…………」
医者「実は今日……唯さんの事について話しがあるんだ」
憂「なんですか?」
医者「臓器移植って分かるかな?…今、世界中には健康な臓器を必要とする人がたくさんいるんだ…」
憂「いやだ!お姉ちゃんの体を傷つけないで!」
医者「いいかい?憂さん……唯さんはこのまま何年いや、何十年も眠ったままなんだ……」
憂「…………」
185:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:55:46.87 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
医者「こんな狭い病室で人生を終えるより、誰かの役に立ったほうが……」
憂「なんでよ!その『誰か』って全然知らない人じゃない!?
唯「………」
憂「そのために何でお姉ちゃんが犠牲にならなきゃいけないの!?」
憂は泣きながら言った。
医者も声を震えさせながら説明を続ける。
医者「でも…唯さんのおかげでその人達は助かるんだよ?……それに唯さんはその人の体の中で生き続けることができる。……」
医者「この病室で過ごすより、そっちの方がいいと思うんだ」
憂「………」
医者「返事はまた後でいいから、しばらく考えていてほしい…じゃあまた後で」ガチャ
憂「…………」
憂「お姉ちゃん……」
189:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 00:59:18.63 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
憂「お姉ちゃん?…お姉ちゃんはどうしたい…?」
唯「…………」
憂「私には分からない…分からないよ……」
唯「…………」
憂は泣きながら考えた。
憂は唯の痩せこけた体を見て、憂はさらに泣いた。
そして憂は決めた。
192:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 01:00:22.37 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
次の日
医者「憂さん…決めてくれたかい…?」
憂「はい…決めました。」
憂「お姉ちゃんは今、こんなに管に繋がれて生きていて苦しいと思います……」
憂「だから……だから、誰かの役に立って、その人の中で生き続けることが出来れば……」
憂「お姉ちゃんも嬉しいんじゃないかと思います。」
医者「そうか……ありがとう。………憂さん?」
憂「……はい?」
医者「いいお姉ちゃんで良かったね……」
憂「はいっ!」
194:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/17(金) 01:01:35.57 ID:Efy4TpBHO (36) ID AA
寒い冬の日だった。
深い眠りについている唯に憂が話しかける。
憂「お姉ちゃん…」
唯『憂……ごめんね?私、頑張ってよくなるよ!』
憂「ごめんね……」
唯『え…?』
憂「辛かったでしょ?…でももう苦しまなくていいよ?」
唯『嫌だよっ!私まだ生きたい!…元気になりたいよ!』
憂「お姉ちゃん…ありがとう……また会おうね」
唯『やめて……!!』
憂「あ…」
憂は唯が笑ったように見えた。
憂も微笑み、別れを告げた。
おしまい。
最終更新:2009年07月22日 13:54