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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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165 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/29(水) 14:03:52 ID:M9SaubWz
外では蝉が元気いっぱい鳴いている夏休みのある日。
「えと、ここはこうやって、それからこう……。よし、出来た!」
「では忘れないうちにもう一度やってみましょうか」
音楽室にいるのは私と唯先輩の二人だけだった。

澪先輩は夏期講習が、律先輩とムギ先輩は朝に予定がそれぞれ入っていたために軽音部としての練習は午後からとなっていた。
だけど前の日に唯先輩が『みんなとの練習の前に教えてほしいとこがあるんだけどいいかな?』とのお願いをしてきたため、
断る理由もない私は朝から音楽室にこもって唯先輩と二人きりでギターの練習していた。
先輩に頼られて悪い気はしないし、私もいつか唯先輩と二人で練習したいと思っていたこともあって、この状況はとても嬉しかった、……んだけど、
「ふう、それにしても暑いねー」
「そうですね……」
この時すでに音楽室は想定外の暑さとなってしまっていた。
窓は開けてるけど残念なことにほぼ無風状態のため空気の流れがほとんどない。
そこへ夏の太陽の灼熱光線というダブルパンチで音楽室はまさに蒸し風呂状態となっていた。
静かにしてても汗はとめどなく流れるし、心なしか脈も速くなっている気がする。

「ホント、夏なんかなくなっちゃえばいいのに。あずにゃんもそう思わない?」
「……」
「あずにゃん?」
「……え、何です?」
唯先輩がどうしたの?と言わんばかりの表情で私の顔をうかがっている。無意識とはいえどうやら唯先輩を無視してしまったらしい。
これもきっと暑さのせいだ。暑さのせいで頭が回らなくなってきてるんだ。しっかりしなきゃ。
自分にそう言い聞かせ、唯先輩の言葉に反応できなかったことを自省する。
「あずにゃん大丈夫?少し休む?」
私の様子を見かねた唯先輩が心配して声をかけてくれた。唯先輩のこんなさりげない優しさに私は何度となく助けられてきた。
暑さに少しやられ気味だけど、優しい先輩にこれ以上心配をかけさせないためにもここは元気なところをアピールして安心させてあげなきゃ。
「ひえ、せんふぁい。だひじょうふれす」
唯先輩を安心させよう、その考えとは裏腹に呂律の回っていない言葉。それは私の異常事態を示すには十分だった。
「はれ?」
「あずにゃん!?どうしたの!?」
思いがけない私の舌足らずな返答に唯先輩は驚きを隠せず、より大きな声で私に呼び掛ける。
しかし私は唯先輩の呼び掛けに答えることすらできずに意識を闇へと落としてしまった。


「……ん」
目を覚ますと私は見知らぬ場所にいた。何か情報を求め、ふと横に目をやるとそこには両親と白衣を着た人が立っていた。
その白衣の人――お医者さんの話によれば、私は中度の熱中症だったらしく、音楽室で倒れてここに運ばれたそうだ。
ただ中度といっても侮ってはいけないようで、放置したり誤った処置をすれば命の危険もあったと聞かされ私は背筋の凍る思いがした。
念のため一日の入院措置がとられること、そしてすぐに対応してくれた人に感謝すること、その二点を告げて先生と両親は病室を出て行った。
一人になった病室で私は考える。
あの時一緒にいたのは……、ぼんやりとした記憶を必死で呼び戻すと一人の先輩の顔が浮かんできた。
「唯先輩だ……」
命の恩人といっても過言ではないその人は、私の中の想像にもかかわらず私に笑いかけてくれている。
その夏の太陽よりも明るい笑顔に私の胸は熱くなった。
「唯先輩……」
166 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/29(水) 14:07:19 ID:M9SaubWz
翌日、何事もなく退院を迎え病院を出るとそこには軽音部の先輩たちが待ってくれていた。
両親は私がすでに心配する状況でないこともあり、先に帰るから先輩たちと話してきなさいと言ってその場を去っていった。

「あっずにゃーん」
真っ先に唯先輩が抱きついてきて、想像ではない本物の笑顔をめいっぱい私の顔に擦り寄せてくる。
いつもなら少しばかり鬱陶しく感じることもあるこのスキンシップも、今はとても嬉しく思える。
そんな私たちの様子を見ながら澪先輩が私に話しかけてきた。
「梓、無事でよかったよ。それにしても昨日はかなりびっくりしたぞ。
 授業中に突然唯がやってきて、『澪ちゃん大変、あずにゃんが倒れた』って言うもんだからさ。
 先生もみんなも、もちろん私も呆気にとられてると『何してるの、早く行ってあげて。私は救急車呼ぶから』って」
「凄い行動力と決断力だったんだよな、普段からそれくらいやってくれりゃいいのに」
律先輩の皮肉交じりの褒め言葉に、唯先輩は私に抱きついたまま答える。
「だって大事な大事なあずにゃんが大変なことになっちゃったんだよ。そこには他に私しかいなかったんだし、当たり前のことをしただけだよ」
唯先輩は当たり前のことだと言ってるけど、緊急時に実際に行動できる人は少ないと聞く。
唯先輩が早急に行動を起こしていなかったら私は一体どうなっていたのか。それを考えると感謝の気持ちから涙が出てきた。
「唯先輩、グスッ、本当に、グスッ、ありがとうございました」
突然泣き出した私に唯先輩は戸惑いの表情を見せた。だけどすぐにニコリと微笑み私の頭を撫でながら優しく語りかけてくれた。
「あずにゃんが一番大変だったんだよね。ごめんね、私がもっと早く気付いてあげてたらこんな大変な思いさせずにすんだのにね」
――どうして唯先輩が謝るんですか?唯先輩のおかげで私は今こうしていられるんですよ――
溢れ出る気持ちを伝えようとするのに、涙のせいで全く言葉になってくれない。そんな自分が悔しくて、私は唯先輩の胸を借りて泣き続けた。
そんな私を唯先輩は何も言わずにずっと優しく抱きしめてくれていた。

どれだけ泣いただろう、私はゆっくりと唯先輩の胸から顔を離す。
「……すみません。みっともないとこ見せちゃいましたね」
「ううん、いろいろあったんだから泣きたいときは泣いていいんだよ。嬉しいことも辛いこともみんなで分け合おう」
唯先輩は相変わらず温かく、そして少し恥ずかしい言葉をかけてくれる。
……いつからだろう、そんな唯先輩に特別な想いを抱きだしたのは。
その答えは分からない。いや、分かる必要なんかないのかもしれない。今、この瞬間、唯先輩が好き。もうそれでいいじゃない。
この出来事は私の中でぼんやりとしていた唯先輩への想いをはっきりとしたものにさせるために神様が私に与えた試練でありプレゼントだったのかもしれない。
なら、その神様に対して私の答えを示さなくちゃ……。

「唯先輩、本当にありがとうございました。私、この出来事であることに気付いたんです。
 いえ、気付いたというより、改めて気付かされたって言ったほうがいいのかもしれません。
 それを唯先輩に言うべきか一晩かけて考えたんですけど、言うことにしました。聞いてくれますか?」
「なーに?あずにゃん」
純粋無垢な笑顔を私に向けて続きを待つ唯先輩。
もう何度となく見てきた笑顔なのに、そのおかげであの時とは違う理由で脈が速くなる。
高まる気持ちを抑えるために私は大きく深呼吸をし、覚悟を決めて唯先輩と正対する。
そして、心からの気持ちを精一杯言葉にして唯先輩にぶつけた。


「私、唯先輩のことが……」




すばらしい作品をありがとう