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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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204 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/01(土) 13:55:18 ID:LwfOwgQt
「えーと、確かここら辺のはず……。あ、もうみなさん集まってる」
私が集合場所に到着すると、すでに先輩たちは集まっていた。
「すいません、お待たせしました」
「遅い!先輩を待たせるとはどういうことだ!」
律先輩のお怒りの言葉がとんでくる。
「おい律、梓だって集合時間より前に来たんだからそんなに怒るなよ」
澪先輩が助け舟を出してくれた。澪先輩の言うとおり、私がここに到着したのは集合時間の十分前だ。
十分前に着けば大丈夫、その考えが間違いだった。
何かイベントごととなったときの先輩――特に律先輩の行動力をすっかり忘れていた。
「まあ、そうだな。梓も遅れたわけじゃないし、気を取り直して行くとするか」
すぐに機嫌を取り戻した律先輩の号令で、私たちは花火大会会場に向けて出発した。

「今度の花火大会、みんなで行かない?」
律先輩の一言で軽音部のメンバーで花火大会へ行くことは半ば強制的に決定した。
「ちなみに、参加資格は浴衣を着てくることね」
そのとき提示された参加資格をちゃんと守って、当日は全員浴衣姿で集まった。
最初は正直面倒だと思ったけど、澪先輩の凛とした姿やムギ先輩のはんなりとした立ち居振る舞い、
そして唯先輩の普段とは違う可愛らしさが見られたのであのとき浴衣を着てくるように言ってくれた律先輩に心の中で感謝の言葉を述べた。
律先輩は、まあカッコよかったかな。

会場に到着してみるとすでに人で溢れかえっていた。
「みんな、はぐれるなよ。特に梓は小さいんだからより気をつけろよ」
「言われなくても気をつけますよ。あと身長のことは言わないでください。きっともう少し大きくなるはずです」
律先輩、心配してくれるのは嬉しいですけど、一言余計です。
「私は今のままのあずにゃんが好きだけどな。だってあずにゃん仔猫みたいで可愛いんだもん」
可愛いって小動物的可愛さですか。後半部分を少し残念に思っている自分がいた。
「でもこの人だかりだとホントにはぐれちゃうかもしれないね。あずにゃん、手、繋ぐ?」
「え、えと、すみません。それはさすがに……」
唯先輩の心遣いはとても嬉しいけど、人前でそれはさすがに恥ずかしい。
私が断ると唯先輩は少し残念そうに差し出した手を引っ込めた。
悪いことしたかな、とも思ったけど、改めて私から手を差し出す勇気はなかった。

律先輩が花火見物の穴場ポイント知っているというので全員でそこへ向かうこととなった。
私はお祭り名物の屋台を眺めながら先輩たちについていく。すると不意に何かとぶつかった。
何かと思って目をやると、見たところ小学校低学年ぐらいの男の子がキョトンとした表情で私を見ている。
推測するにお互いよそ見をしていて気づかずにぶつかってしまったようだ。
知ってる人とはぐれちゃダメだよ、そう注意して男の子と別れる。そのとき私はあることに気づいた。
――あれ?先輩?
そこにいるはずの先輩たちがいない。誰も私が立ち止まったことに気付かなかったのだろうか。
すぐ近くにいるだろうとしばらく先輩たちを探してみるけど、誰一人見つけられない。
早く見つけたい、そんな気持ちを無視して慣れない浴衣という格好、加えて夏の暑さが私の体力を容赦なく奪っていった。
しかたなく近くにあったベンチに座り込む。
何年振りだろう、私は迷子になっていた。言いようのない不安が私を包む。
高校生にもなって、と思われるかもしれないけど、やっぱり一人は心細い。
さっき律先輩に気をつけろと言われたばかりだったのに、さっき男の子に注意したばかりなのに、
そして、何故恥ずかしがらずに唯先輩の提案を受け入れておかなかったのか、後悔の念が私を襲う。
「……そうだ、携帯」
焦りが周りを見えなくさせていた。
なんで早く気付かなかったんだろうと自嘲して、私は浴衣に合わせて持ってきた小物入れの中から携帯を取り出そうとした。
「あれ?あれ?……ない!?」
家に忘れたのか、はたまたどこかで落としたのか、そんなことはどうでもよかった。
唯一の連絡手段であり頼みの綱であった携帯がない。その事実が私を奈落の底に突き落とす。
「どうしよう……」
一度安心してしまった反動で、不安は絶望へと変化してしまった。
冷静になって考えれば他の解決策が浮かんだのかもしれない。
しかし心理状況がそれを許してくれない。私は捨てられた仔猫のようにただただ震え、どうすることもできなかった。
205 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/01(土) 13:58:27 ID:LwfOwgQt
――そのとき、
「あずにゃん!」
ざわめきの中から耳に届いた聞きなれた声、その人しか使わない私のあだ名。それは私を絶望の淵から救い出してくれた。
「唯先輩……」
汗をかき、息は上がっている。必死に私を探してくれていたことは容易に想像できた。
「ハア、ハア、良かったー。気付いたらいなくなっちゃってたからみんなで必死に探してたんだよ。
 携帯にかけても繋がらないから澪ちゃんなんか『何か事件に巻き込まれたんじゃないか』って凄い心配しちゃってさ……」
唯先輩の言葉を全て聞くことなく、私は唯先輩に抱きついた。
「ほえっ!?あずにゃん?」
私の突然の行動に驚きの声を上げる唯先輩。しかしその声に答える余裕は私になかった。
「怖かったです……」
安心感から出る涙もあるんだと、このとき改めて実感した。

落ち着きを取り戻し、私はさっきまで一人で座っていたベンチに唯先輩と腰掛ける。
座り心地は変わらない。でも居心地は良かった。それはたぶん、隣に唯先輩がいるから。
「とりあえずみんなにあずにゃん無事捕獲完了の連絡はしといたほうがいいよね」
他の先輩たちに私を見つけたとの内容のメールを送信する唯先輩。
「よし、送信完了。それじゃもう少しここで休んでいい?。正直私も緊張しっぱなしだったから、少し疲れちゃったんだ」
「すみませんでした、ご心配とご迷惑をお掛けしてしまって」
「ううん、私たちも気づかなくてごめんね。気づいたらあずにゃんがいない、ってみんな慌てちゃって……」
唯先輩は私がいなくなったあとの先輩たちの様子を詳しく話してくれた。
涙ながらに心配してくれた澪先輩、そんな澪先輩を励ましながらみなさんに的確に指示を出して私を見つけようとしてくれた律先輩、
ムギ先輩は人海戦術をしたらどうかと斉藤さん、だったかな、をはじめ何人かに声をかけてくれてたらしい。
そして息が切れるほど必死になって探し出してくれた唯先輩。
そんな先輩たちの温かさに胸が熱くなった。

「それじゃそろそろ行こうか、花火始まる前にみんなと合流しよ」
体力も回復し、スクッと立ち上がった唯先輩に私はひとつのお願いをしようと声をかける。
「あ、あの、唯先輩。またはぐれちゃうといけないんで、手、繋いでもらっていいですか?」
ついさっき自分から断った手前、私は恐る恐る右手を差し出す。
「もちろんいいよ」
私の気持ちを知ってか知らずか、唯先輩はためらいなくその手をぎゅっと握り返してくれた。
その繋がれた手を照らすように突然空が明るくなる。
それは私が唯先輩の温かさを感じるのと同じタイミングで夜空に咲いた一輪の花。
私たちはお互いの手を握ったまま、夜空に儚く散る花に見とれていた。
「うわあ、綺麗だね」
「はい……」
「……って、いけない!花火始まっちゃったよ。早くみんなのところ行かなきゃ」
――私は、二人きりでもいいです。
口をついて出そうになったセリフを私は必死に飲み込む。みなさんに散々心配かけたんだから、ここでわがままなんて言えません。
「そうですね、急ぎましょう」
――今さっきのセリフ、いつかきっと使うから。
私は私自身と約束して、手を引く唯先輩に身を委ねる。
そのとき夜空に現れたのは、ハートマークの花火だった。




すばらしい作品をありがとう