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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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253 :嫉妬あずゆい:2009/08/04(火) 10:24:12 ID:FmSaJjPA
「あ~ずにゃん!」
「わっ…もう、またですか」
今日も今日はで唯先輩は私に抱きついてくる。
それはもう日常と呼べるくらい、いつものことになってしまった光景で。
違うことといえば、抱きつくときの「あずにゃん」のアクセントくらいなもの。
はぁとため息で返しはするものの、先輩に抱きつかれるのは別に嫌ってわけじゃない。
やわらかくてあったかくて、なんだかほわっとするから。
だけど、やっぱりこうも癖になってしまってるのは駄目だと思う。
音楽室内だけならまだいいけど、このままどんどん調子に乗られて教室とか街中とか、あまつさえライブ中とかにされたらさすがにたまらない。
ここはやはりびしっと注意すべきだろうと思う。
「あずにゃ~ん、よしよし」
「はわ…」
…うぅ、折角びしっと行こうと思ったのに―頭なでるのは反則です、先輩。
―仕方ないですね、もう少しこのままでいさせてあげます。
「…え?」
そう思った矢先、ふいっと唯先輩が私から離れた。もうしばらくはその感触の中にいられると思った私は、つい怪訝げな声をあげてしまう。
しまったと思って慌てて口を塞いだけど、こんな残念そうな顔をしていたら私がこの一連の行為を悪くなく思っていることが唯先輩に知られてしまうって慌てたけど。
―そんな必要もなく、すでに唯先輩の瞳には私は映ってはいなかった。
「わあ、ムギちゃんその子どうしたの?」
「うふふ、そこを歩いてたの。なでてあげたらなついちゃって、連れてきちゃった」
その視線の先にはムギ先輩―正確には、その腕の中に抱かれる黒くて小さな子猫がいた。
唯先輩はその子をじーっと眺めつつ、ほわっとした笑顔を浮かべている。
それを目にしたとき、ぎゅっと胸が痛んだ。
だって…いつもなら、先輩がその表情を浮かべるときには、その瞳に映っているのは私のはずなのに。
「ねね、私も抱いていいかな?」
「もちろんよ。はい、唯ちゃん」
「ありがとう、ムギちゃん!」
ムギ先輩に子猫を渡してもらった唯先輩は、その子を腕に抱いて更にほわっとした笑顔を浮かべていた。
それは、私を抱きしめるときのいつもの笑顔より、もっとずっと輝いて見えて。
ぎゅっと締め付けられるような胸の痛みは、いつの間にか抉られるようなものに変わっていた。
―何で、何でそんな風に笑うんですか。私はここにいるのに。先輩の腕の中にいるのは私じゃないのに。
「うふふ、かわいいよね~」
「そうね、うふふ」
やだ、いやだよ―私以外に、そんな言葉使っちゃ―いやだ。
くらりと意識が揺らぐ。胸の痛みに、その一瞬だけ私の意識は途切れていた。
「フー!」
「え?」
「…あ」
気がつくと私はまるで猫みたいに、先輩の腕の中で居心地良さそうにしていた子猫を威嚇していた。
子猫はびっくりして、ふいっと先輩の腕を逃げ出す。私はといえば、私のいるべきそこから、その子を追い出すことができたことに一瞬だけ満足して。
そしてその一瞬後、どうしようもないほどの後悔が湧き出してきた。
私はいったい何をしてるんだろう、と。
254 :嫉妬あずゆい2/3:2009/08/04(火) 10:25:00 ID:FmSaJjPA
「あずにゃん!もう、なにしてるの!」
同時に、先輩の怒った声が降りかかってきて、私はびくっと体を振るわせる。
そう、先輩が怒るのも無理はない。折角先輩が可愛い子猫と戯れていた楽しいはずの時間を、私は邪魔をしてしまったんだ。
―ただ、私が―そう、さびしくてその子が羨ましかったからという理由だけで。
ちらりとその姿を追うと、子猫はムギ先輩の腕の中でなだめられていた。そのおびえた様子は、私のせいに他ならない。
それをぎゅっと焼き付けられているようで、その熱に耐えかねて、私は目をそらした。
だけど、こちらを見ているはずの唯先輩と目を合わせられない。そうしてしまうときっと怒った顔と出会ってしまうから。
だから、地面に視線を落とした。俯いた私の視界には、木張りの床と微かに震える私の膝下だけが映っている。
顔を上げなきゃいけないのに、顔を上げられない。私はぎゅっと唇を噛んで、それを見つめ続けている。
怒られて当然のことをしたのに、そうされるべきだと思うのに、それでも私はそれから逃げようとしている。
私はただ、唯先輩にぎゅっとされて、可愛がられて、微笑みかけられて―そうして欲しかっただけなのに。
私は悪くない。悪いのは、私にかまってくれなかった先輩と、私の場所を奪ってしまったあの子なんだ。
そんな自己弁護みたいなものまで沸いてきている。ちょっと気を抜けば、そんな独りよがりな理由が自分を埋め尽くそうとしまっていて。
それを、先輩には見せたくなかった。読み取らせたくなかった。
そんな汚い自分を、何とか取り繕っていたかった。
その浅ましさが余計に悲しかった。―こんな自分は、先輩の傍にいちゃいけないんじゃないかと思えるほどに。
「…ぇぐっ…」
じわりと、熱い何かがあふれ出しそうになる。それが何か気がついて、慌てて止めようとしたけど、それは全然止まってくれなかった。
不用意に浮かべたそのフレーズが、いけなかったらしい。そんなの、思っちゃいけなかったことなのに。
そんなこと、絶対に許容できないことだから。それを、そのシーンを思い浮かべるだけで、胸が張り裂けてしまうほどに痛くなってしまうから。
「…あずにゃん?」
先輩の声に疑問が混じる。駄目だ、こんなの、見せちゃいけない。気付かれないようにしなきゃ。気付かれない間に、止めてしまわないといけない。
自分がこんなに弱くて浅ましい人間だと、先輩にだけは見せたくない。見せちゃいけない。そうしたらきっと先輩は―
「…な、泣いてるの?」
なのになんで、これは止まってくれないんだろう。それどころか、どんどん勢いを増していくんだろう。
下を向いた私の足元には、ぽたぽたと水滴が生まれている。頬を伝い、あごをなでていく感触。
まるで漫画みたいな量。このままほうっておいたら、水たまりができてしまうんじゃないかと思うくらいに。
駄目、そんなの。先輩に気付かれちゃう。その前に、逃げなきゃ。
私の目の前には、先輩の気配。いつものほんわりとある意味泰然としたそれじゃなくて、戸惑いを含んだ気配。
今なら、逃げられる。素早く走り去ってしまえば、呼び止められることなく音楽室を飛び出せる。
その後どうしようかなんて全然思いつかなかったけど―今は逃げなきゃ。逃げて、逃げて、無かったことにしなきゃいけない。
「にゃあ」
「…!」
そうきびすを返そうとした私の足元に、今のわたしの唯一の視界に、ふいっとその子が現れた。
思わず足を止められた私を、じっと見上げてくる。
―まるで、逃げちゃ駄目、と私にお説教をしているかのように。
「にゃあ」
もう一度無く。そうだよ、と答えるかのように。
なんで、そんな。逃げちゃ駄目なら、私はどうしたらいいっていうの。
それには、その子は答えてくれなかった。ただじっと私を見上げ続けている。その視線が私をぐいっと押していく。
それに押されて、少しだけ視界が上がった。そして視界の上の端のほうに、先輩の顔がちょっとだけ映った。
私を心配そうに見つめていて、それでもどうしたらいいかわからずおろおろする先輩の顔が。
それはいつもの見慣れた表情じゃなくて―ああ、私は先輩にこんな表情をさせてしまってたんですね。
255 :嫉妬あずゆい3/3:2009/08/04(火) 10:26:07 ID:FmSaJjPA
瞬間、何かが決壊した。あふれてくるものすべてが完全に止められなくなって、何もわからなくなって、ただその胸にしがみついた。
そうしていないと、自分がどうにかなってしまいそうだったから。
自分の泣き声が、何処か遠くで誰か違う人間が上げているもののように聞こえる。そんなはずは無いのに、それは間違いなく自分のもののはずなのに。
全てを吐き出すように、ぶつけるように、それでいてそれを受け止めて欲しいなんて願うように、その声は響いてる。
そう、逃げることができないのなら、そうするしかない。
だけどそれは、あまりにみっともなくて、どうしようもない願い。そんなのを表に出したら、間違いなく幻滅されてしまう。それなのに、その声はまだ私の鼓膜を揺さぶっている。
まるでこれこそが正しいことなんだって、私に突きつけるように。
いやだ、もうやめてよ。今ならきっとまだ間に合う。無かったことにして―いつもの私に戻って。
―そうして、嘘の自分を続けるの?
ぐらりと何かが揺らいで、そして、何かに支えられた。
ぴたりと声がやむ。私の鼓膜を揺らしていた、私の声が消えている。
一瞬呆けて、そしてすぐにそれに気がつく。ぎゅっといつものように、ううん、いつもよりもずっと優しく私を抱きしめているあたたかな腕に。
それが止めてくれた。それだけで、永遠に止まらないかと思っていたそれは、あっさりと止まってくれた。
「ごめんね、あずにゃん」
先輩はそのまま、優しく私の頭をなでる。それに負けないくらいの優しい声が聞こえてくる。
あんな姿を見せた私なのに、それでも先輩はいつものように、抱きしめてくれている。
私のそれを知られてしまったのに、それでもぎゅっと抱きしめてくれてる。
私を、受け止めてくれようとしている。
「…なんで…先輩が謝るんですか」
かすれる声を絞り上げるように、そう答えた。無理にでも口を動かさないと、また泣いてしまいそうだったから。
悲しいからじゃなくて、それとは正反対の理由で。
それは、まるで胸にびっしり張り付いていた氷を溶かすように、私を苛んでいたもの全てを消してくれた。
「ごめんね、私バカだから…あずにゃんの気持ちに気がつかなかった」
先輩の腕が、より強く私を胸に押し付ける。それが嬉しくて―そう、嬉しくてまた涙があふれそうになる。
「違います、バカなのは、私のほうです」
いけないのに。いっぱい迷惑かけたから、嬉しくなるより先に謝らないといけないのに。
だけど、そうしようとすると、先輩はそうさせないようにぎゅっと私の頭を胸に押し付ける。 謝っていいのは私だけだよって、そう言わんばかりに。
だから私は、むぎゅっとしか喋れなくなって、やがてそれを断念させられることになった。
―ごめんなさい。そして、ありがとうございます、唯先輩。
だから、その気持ちだけでも伝えようと、唯先輩に負けないくらい強く、その背中に手を回し、抱きしめた。

どれくらい時間がたったのだろう。気が付けば私は先輩の胸の中で、いつものほわっとした気分に身を委ねていた。
力が抜けてふにゃっとなった私に、先輩もまたふわっとした笑顔を見せてくれている。それは、さっきの子猫に見せた笑顔よりずっと優しく、暖かくて。
ううん、そんな比較なんていらない。これは、私だけの先輩の笑顔。それだけでいいんだと思う。
その傍にずっといられるように、置いていかれないように、私も前にすすまないと。
きゅっと意思を込めて、先輩の瞳に目を合わせた。
「先輩、学園祭のライブの前のこと、覚えてますか?」
「…え?えーっと、なんだっけ?」
唐突な私の質問に、先輩はきょとんとした顔を見せる。
ふふ、すきだらけですよ、先輩。
「仲直りのちゅー、です」
そう言って、無造作に唇を寄せる。あの時とは逆のシチュエーション。
その動作にはわわっと驚いた先輩の表情に、小さくくすりと笑うと、私はそうっと唇を合わせた。




すばらしい作品をありがとう