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457 :あとがき:2009/08/06(木) 19:50:38.60 ID:+MdL56fT0
 私、平沢憂はお姉ちゃんが大好きだ。
 好き、といっても男の人が女の人に抱くような恋愛感情とは違う。
 姉として、私は平沢唯を敬愛している。

 きっかけ? うーん・・・・・・色々とあるけど。
 幼い頃のクリスマス、まだ二段ベッドで寝ていた頃の楽しい話。
 でも……決定的なものといえば。

 そう。私たちが小学生のときの……。

459 :あとがき:2009/08/06(木) 19:54:37.09 ID:+MdL56fT0
 その日は運動会だった。

 私のいるクラスは紅組、お姉ちゃんのいるクラスは白組。
「一緒の組になれるといいね~」
「ふふ、そうだね」
 などというやり取りも空しく、私たちは別の組になってしまった。

「憂と同じ組じゃないなんて、いやだ~」
 などといってバタバタと家で暴れているお姉ちゃんを
「そんなこと言ったって駄目だよ。お姉ちゃんがいないと、私さみしいよ」
 と窘めたりもしたなあ。

464 :あとがき:2009/08/06(木) 20:00:31.90 ID:+MdL56fT0
 さて、話を戻して、運動会本番。
 種目は順調に進んでいき、いよいよ組対抗リレーとなった。

 当時、私は足が速い方で、リレー選手に選ばれていた。
「憂、すごーい。私全然そういうの駄目だよ」
「お姉ちゃん、実は運動できるけど疲れるのが嫌いだもんね」
 そう。お姉ちゃんは本気を出せば凄いのだ。ただ、出しきれないだけで……。

 おっと、お姉ちゃんのことになるとつい話が逸れてしまう。

467 :あとがき:2009/08/06(木) 20:06:17.61 ID:+MdL56fT0
「ようい、どん!」
 ついに最初のランナーが走りだした。
 赤と白、二つの色が交錯する。

「いけー、白組!」
「がんばれ、紅!」
 双方の応援団が、声を張り上げる。

「あーっと、ここで紅組! 白に肉迫!」
「白組、頑張れ頑張れ……あーっと紅組が躍り出たあ!」
 お互いに抜いては抜き返され、抜かれては抜き返すといった具合に
 相当な接戦だ。この実況の様子からみても、それはすさまじいものだった。

 さて、この接戦もそろそろ終わりに近づいてきた。
 それにともない、会場の熱気も最高潮に達しようとしている。

470 :あとがき:2009/08/06(木) 20:09:25.12 ID:+MdL56fT0
(私の番が近い……)
 胸の鼓動がドクンドクンと脈打つのを感じる。
 自分の中の臆病が首をもたげてきた。

 私はこういうときのプレッシャーに、実は弱い。
 今までは感じなかったこの緊張感。
 それが、こんな時に暴発しようとしている。

472 :あとがき:2009/08/06(木) 20:12:16.92 ID:+MdL56fT0
(うう……)
 こういうとき、思い出すのは―ー
「お姉ちゃん」
 そう。私の姉の姿だ。

「私は緊張なんてしないなあ」
 以前、一緒に食事をしているときに、お姉ちゃんはそんなことを言った。
「えっ、な、なんで」
 当時私はすでに、自分の短所を自覚していた。
 そう、本番にとてつもなく弱い、ということだ。

 学校のテストとかならいい。そういう時は、周りの目は気にしなくていいから。
 しかし、たとえば音楽のテストで歌ったりするのは大の苦手だ。

476 :あとがき:2009/08/06(木) 20:14:45.97 ID:+MdL56fT0
 どうしても声が裏返ってしまったり、音程を外してしまったりすることがままある。

「憂ちゃんって歌が苦手なんだね。なんか意外」
「そうだよなー、憂ってなんでも完璧にできるやつだと思ってた」
 当時親しかった二人の友は、そう語る。
 私はそんな二人に対して、「私だって完全じゃないよー」
 などと苦笑でごまかしたが

 本当は、とても悔しかった。

478 :あとがき:2009/08/06(木) 20:16:44.39 ID:+MdL56fT0
 自分が完璧だ、と思い込んでいたわけじゃない。
 本当はできるのに、その力を出しきれない自分に対してやり場のない怒りを
 覚えたのだ。
 それも、このプレッシャーに弱い自分のせいだと思うとさらに嫌になった。

481 :あとがき:2009/08/06(木) 20:21:39.47 ID:+MdL56fT0
「ねえ……お姉ちゃん、プレッシャーとかに強い方?」
 だから、私は彼女にそんな質問をぶつけたのだ。

 お姉ちゃんは、口に食べ物を頬張りながら
「ぷれっしゃーって?」
「緊張、ってこと。それよりも、良く喋れるね」
 相変わらず、妙なところで器用だ。
 ああ、とお姉ちゃんは納得した顔でごくりと食べ物を飲み込んだ。

 その後、彼女は言ったのだ。「緊張なんてしない」と。

「どうして?」
 今までずっとそんな緊張感に悩まされてきた身からすると
 そんなお姉ちゃんに多少嫉妬してしまう。
「んー、だってさ」
 そこで、お姉ちゃんはコホンと一息。

 そして――

483 :あとがき:2009/08/06(木) 20:24:24.02 ID:+MdL56fT0

「だって、本番なんて一度きりじゃん」

 告げた。

「……えっ?」
 お姉ちゃんが言ったことは当たり前のことなのかもしれない。
 しかし、そんな当然のことが私にはひっかかった。

「そ、それってどういう?」
「そのまんま、だよ。いっくら練習したって、結局本番は一回だけ。
 だったらさ……そんなに気にすることって、ないんじゃないかなー」
 ふふっと微笑みながら、そうつづけた。

485 :あとがき:2009/08/06(木) 20:26:20.99 ID:+MdL56fT0
 それを聞いた時、私は自分が変わるのを感じた。

(……なんで、私は)
 今までの私は本番に弱かった。それもそのはずだ。

 本番での失敗が、私のこれからにかかってくると思ってしまったからだ。

 そこで失敗したら、「憂ちゃんって完璧じゃないんだね」などと言われてしまう。
 それが本当に怖かった。悔しかった。

487 :あとがき:2009/08/06(木) 20:30:56.30 ID:+MdL56fT0

 でも、そんなことがなんだというのか。

 人は絶対に失敗する。どんな天才だろうと、絶対に。
 そんな失敗を恐れて力を出し切れないなんて――
「甘えてたんだな、私……」
 うつむいて、ぼそっと呟いた。そして、「お姉ちゃんはやっぱり凄いや」と思った。

「それよりも。うい~、アイス―」
 私が顔を上げて声のほうを見ると、お姉ちゃんはソファーでぐったりしていた。
「はーい。今持ってくるから、待っててね」
「わーい」
 ふふっと穏やかな気分になりながら、冷蔵庫へと向かった。
 やっぱりお姉ちゃんは可愛いや。

 冷蔵庫の扉を開けた時、私の心の扉も開け放たれたような――
 そんな気が、した。

488 :あとがき:2009/08/06(木) 20:33:10.95 ID:+MdL56fT0
(そう、だよね)
 私は回想から、現実に戻ってくる。
 今、ランナーと私との間の距離は無いに等しい。
 バトンは確実に近づいていた。

(お姉ちゃんが教えてくれた)
 あの言葉がなかったら、私は押しつぶされていた。
 でも、今は――

492 :あとがき:2009/08/06(木) 20:37:48.74 ID:+MdL56fT0
「――憂!」
 私の友達が、バトンを携えて近づいてくる。
 私はそんな彼に、目で応える。

 少しずつ、前に出ていく。そして――
「はいっ!」
 渡された、バトン。

「おーっと、ここで紅! どんどん前へ出ていきます!」
 わああっという歓声を聞きながら、私はとにかく前を見て走った。

「ああっ、白組にバトンが渡ったあ!」
 そんな実況の声に、動揺する。
(そんな……まだ10mくらいしか――!)
 焦った。

495 :あとがき:2009/08/06(木) 20:41:56.91 ID:+MdL56fT0
 そんな焦りが走りに出ていたのだろう、白組のアンカーが肉迫してくる。

「紅、まずいぞー! 今、白組のアンカーが躍り出ようとしているー!」
 まずい、これはまずい。緊張しないって決めたはずなのに、もう大丈夫
 だと思ったのに……。
(なんて、弱いんだろう)
 舌打ちをしたくなる。こんな自分は……嫌だ。

「ああっとー、ついに白のアンカーが前に出ましたああ!」
 どよめく会場。焦る私。
「どうする紅! このままでは――」

 だめだ、このままじゃだめだ。なんとかしないと、なんとかなんとか……
 みんなが繋いでくれたバトンなのに、リードしてくれてたのに。

「私はッ……!」
 もう、駄目だ――

496 :あとがき:2009/08/06(木) 20:45:04.85 ID:+MdL56fT0
 そんなとき。

「ういー、頑張れー!!!」

 私が今、一番求めていた声が響いた。

「まだ大丈夫!! 勝てるって!!!」

 とても沸き立っている会場の中で。
 その人の声だけは、耳にしっかりと届いた。

「諦めないでー!!」
 私は、気持ちが落ち着いていくのをたしかに感じる。
 そして……

「おねえちゃああああん!」
 一度、大声で叫んだ。
 そして、加速する。

499 :あとがき:2009/08/06(木) 20:47:19.89 ID:+MdL56fT0
「……あんた、何で敵チーム応援してんのよ」
「ええ、だって私の妹だよ。私が励まさないとだめだよー」
「はあっ、あんたらしいわね」
「のどかちゃん、それって誉めてるの?」
「さあね、言葉通りよ」

 お姉ちゃんの激励をもらった私は、とにかく走った。
 前の人との距離は、少しずつけれど着実に縮まってきている。

509 :あとがき:2009/08/06(木) 20:58:11.43 ID:+MdL56fT0
「おっとー、またしても接戦だあ!」
 私と白組のアンカーは、抜いては抜き返され、抜かれては抜き返す
 といった今日のリレーで何度も繰り返された所作を繰り返した。
 しかし、見てるのと実際に行うのとでは――
(緊張感が、まるで違う!)
 心臓はバクバク、視界はグルグル、混乱状態まっさかり。
 それでも、私はもう平気だ。

 さっき、吐き出したから。

513 :あとがき:2009/08/06(木) 21:03:22.43 ID:+MdL56fT0
「決まりましたあああああ!」
 実況の声が会場に木霊する。
 緊張のためか、会場はシンと静まった。

「今年のリレー合戦、勝者は――」
 コホンと一息。

「紅だあああああああああ!」

 瞬間。
「やったあああああああ!!!!」
「よっしゃああああああああああ!!!」
 会場は、爆発した。

516 :あとがき:2009/08/06(木) 21:07:06.46 ID:+MdL56fT0
「憂ちゃん! やったね!!」
「憂! よくやってくれた!!」
 二人の友達が、こちらに来てくれたらしい。
 私はというと、あまりの疲労のためか倒れこんでしまっていた。
「ありがとう……できれば、肩、貸してくれる?」
 私は二人に頼んで、肩を借りた。

「すげえな、ラストの抜き返し!」
「私、感動しちゃった」
 見るとクラスメイトたちも私を取り囲んでいた。
 私はそんな彼らに反応を返しながら
「ここまでいいや、ありがとう」
 肩を貸してくれた友達に礼を言って、行くべき場所へと向かう。

520 :あとがき:2009/08/06(木) 21:12:57.76 ID:+MdL56fT0
「お姉ちゃん……」
「憂……」
 私がお姉ちゃんに会って言えたのは、それだけだった。
 もっと言いたいことがたくさんあるのに。
 ありすぎて、それがいえないなんて、もどかしいったらありゃしない。

「お姉ちゃん」
「よく、頑張ったね!」
 お姉ちゃんは私をぎゅーっと抱きしめてくれた。
「私、感動したよ! 憂、すごい!!」
 ありったけの賞賛の言葉を、もらう。
 一番求めていた人からの、褒め言葉。

 気づいたら
「……おねえちゃあん!」
 私は、みっともなく泣いてしまっていた。
 感情をおさえることができない。
「よしよし。ゆっくり、泣いていいんだよ」
 頭をなでられながら、私はお姉ちゃんの腕の中でわんわんと泣いた。

「……良い、姉妹ね」
 視界の隅で、和さんが苦笑しているのがわかった。

524 :あとがき:2009/08/06(木) 21:18:26.74 ID:+MdL56fT0
――エピローグ――
「お姉ちゃん、あの日のこと覚えてる?」
 私は、アルバムを見返しながら問いかける。
「なになに……あっ! その写真は」
「ふふっ、覚えてたみたいだね」
 写真を、微笑みながら見つめる私たち。

 この日からだった。私がお姉ちゃんに憧れるようになったのは。
 心の底から、落ち着かせてくれる人。私は、すごいと思う。

「そういえば、この時は憂大泣きだったよねえ」
「お姉ちゃん……それは恥ずかしいから」
「そういえば、リレー中にも大声で……」
「もうっ! 恥ずかしいって!!」
 顔を赤らめながら、私はお姉ちゃんに言った。

 しかし、あの日の私は私らしくなかった。
 運動会が終わってからも
「憂ちゃん、お姉ちゃんっ子なのね」
「憂の意外な一面を発見したな!」
 などという風に、からかわれっぱなしだったのだ。

(べ、別に恋愛対象というわけじゃないのに)
 変な誤解を、招いてしまった。

527 :あとがき:2009/08/06(木) 21:23:07.12 ID:+MdL56fT0
「ところで、うい。アイス―」
 はっと気づくと、またゴロゴロとしているお姉ちゃんがそこにはいた。
「もー、さっき食べたばっかりでしょ?」
「それでも、あの写真見てたらほしくなっちゃって」
「……仕方ないね。一個だけだよ?」
「わーい、憂大好きー!」
 そんなお姉ちゃんを見て、やはり「かわいい」と思ってしまうのだった。

(……将来、幸せになれるといいな)
 私はたとえお姉ちゃんが誰かと付き合うことになったとしても、
 温かく見守りたいと思う。
 お姉ちゃんの幸せが、私の幸せなのだから。
 だから――
(それまでは……大好きだよ)
 恋愛対象というよりは、一人の姉として、だ。
 そんなことを考えて、冷蔵庫に向かいながら、私は一人苦笑した。

532 :あとがき:2009/08/06(木) 21:30:47.92 ID:+MdL56fT0
 閉じられたアルバムが、風によってパタパタと開かれる。

 そこのページに挟まっている、一枚の写真には――

「憂、早くー!」
「や、やっぱりまだ……」
「はい、撮るわよー」
「わっ、の、和さん、待って――」
「いえーい、チーズ!」

 一組の姉妹が、いた。
 姉は笑顔で、妹は未だ涙を浮かべながら恥ずかしそうな表情で。


 それは、運動会が終わりを告げようとしていた時のこと。
 姉妹のきずなが確実に深まった、そんな秋の思い出――

 "Sisters" is the END!