- これは、唯「さようなら」というスレに投下されたSSです。
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 20:59:59.50 ID:+6KdXjUF0
女B「あんた、何? 狂ったみたいな形相でなにしてたの?」
右手に一部がへこんだ鉄パイプを持った女が律を問い詰める。
まわりにはその女が呼んだのであろう男女も数名いた。
律「・・・・・・」
律は決して口を割ろうとはしなかった。
ここでギー太奪還計画が軽音サークルの連中に
ばれるとまた迷惑がかかると思ったから。
すると、頭から出血する律に、その中の一人の男が冷淡に言った。
男D「きみがそういう態度とるなら、こっちもやめないよ♪
まずは・・・お腹からだネ^^」
そうすると、男女数人は律の腹を集中的に蹴り始めた。
ドスッ
ドスッ
鈍く痛々しい音が音楽室に響く。
172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:05:41.56 ID:+6KdXjUF0
それを音楽準備室の入り口から、誰かがこっそりとのぞいていた。
?「ふふっ・・・やられてる、やられてる」
1、2分後、ここ何日かはろくに食べていないお陰で吐きはしなかった
ものの、律の意識は朦朧としていた。
律「も、もう・・やめて・・・・うぅ・・」グスン
律は泣きながらすがるように一人の男の足につかむ。
男D「・・・泣いてる姿すげぇかわいいよ^^
でも、無理なんだ・・・よっ!」
男はとどめを差すように律の腹に蹴りを入れる。
律「がっ・・・・」
律は一気に再び地面に伏すように倒れこんだ。
181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:12:24.99 ID:+6KdXjUF0
律が朦朧とする意識の中で、その目線の先に一人の小柄な少女を見つけた。
少女はさっきまで音楽準備室の入り口でこの一連の動きを
見ていたが、律と目が合うと、律の近くまで寄ってきた。
その少女――――――唯は笑みを浮かべながら、律を見下していた。
唯の姿を確認した途端に律は意識を完全に取り戻した。
律「唯っ・・・助けてくれ!」グスン
律はすっかり自分と唯との関わりを無いものにするということを
忘れ、今度は唯にすがるように助けを求めた。
女B「え? あんたの知り合いだったのこいつ?」
女は唯に怒りの眼差しを向ける。
すると唯は特に女の視線を意識することも無く、憮然として答えた。
唯「こんなやつ知りません・・・。 誰ですか?」
186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:18:09.79 ID:+6KdXjUF0
律 ・・・・・・え?
律は唯が出した答えに驚きを隠すことはできなかった。
さっきは自分しか信じられないって言ったのになんで・・・・・
あれは嘘だったの・・・・?
律がしばし唖然としていると、前から女が律の髪をつかむと言った。
女B「そういうことだからさぁ、うちの奴隷ちゃんあんまいじめないで
くれるかな・・? 壊れたら遊べなくなっちゃうでしょ?」
女はそう言うと乱暴に律の髪を離し、顔を地面にたたきつけた。
べチャ
195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:22:46.96 ID:+6KdXjUF0
律「うぅ・・・・もぅ・・やめてよぉおぉ」グスン
律はとうとう泣き出してしまった。
唯(りっちゃん、もっと泣いてよ・・・。
これは私の 復讐 なんだから・・・。)
唯が笑みを浮かべながらわざとらしく言う。
唯「あ~あ、泣いちゃったよ!・・・・。
仕方ない。 次はこれで遊ぶか・・・。」
すると、唯は服の胸ポケットから薬ビンのようなものを取り出すと、
栓を勢いよく抜いて、中の液体を一気に律の上に垂らした。
ジュワーーーーーーーーーー!
律の上に落ちた液体はぶくぶくと泡と立てながら、
律のTシャツを焼き尽くす。
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:26:58.85 ID:+6KdXjUF0
律「きゃあぁぁ!!
熱いっ!・・・・・熱いよぉ!!」グスン
たちまち律のTシャツの腹からすそにかけての部分は
焼けてしまい、律の腹が露出する。
ただ幸いにも硫酸が皮膚にまで達することは無かった。
それまでは、やってしまえというムードだった先輩男女も
硫酸の登場に一瞬にして青ざめた。
狂ったように泣き叫ぶ律と凍りつく先輩たちを横目に、
唯は反省するように言う。
唯「ちょっと垂らしすぎちゃったなぁ・・・・、
もっとじわじわやんないとね^^」
唯はそう言うと量に気をつけながら、また一滴硫酸を垂らす。
律「いやぁぁぁぁ!!」
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:31:11.03 ID:+6KdXjUF0
また一滴
また一滴
硫酸を加えるごとに律が度を増して苦しむ様を唯はじっと見ていた。
いつも明るくて元気でムードメーカーのりっちゃん。
そんなりっちゃんをこんな姿にすることができたということは
私の復讐はおそらく成功したのだろう。
でもどうしてだろう、私の心の中の何かは全く満たされない。
なんで・・・・
221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:33:40.95 ID:+6KdXjUF0
唯がそんなことを考えるうちに、なんとか正気に戻った律が
息を切らせながら低い声でたずねる。
律「はぁ・・・はぁ・・なぁ唯・・ギー太はどうしたんだ?」
唯「・・・・まだ、そんなこと言ってるの?
アレは嘘にきまってるじゃん!」
唯はそういうと嬉しそうに背中のギー太を下ろして、
律に見せびらかした。
さぁ、りっちゃん 私にその落胆する表情、もっと見せてよ・・・
律「・・・・・そうかぁ・・。」
…え?
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:35:21.15 ID:+6KdXjUF0
律「仕方ないよな・・・。 私唯に一年もかけてずっとずっとひどいこと
・・・してきたんだもんなぁ。 これくらいされて当然だよな・・・。」
悲しそうに答える律に唯は怒りを覚えた。
なんで律は悔しくないのか。
やっと心を開いてくれた親友に裏切られて、こんな惨めな姿を曝させられて。
唯「ねぇ・・・りっちゃん・・・なんでもっと悔しそうにしないの?」
唯が怒りに声を震わせて言う。
律「私はどうなったって構わないよ・・・・。
だって体の傷は消えるけど、心の傷はずっとそのままだろう・・・」
唯「りっちゃんがもっと悲しんでくれないと、私の復讐の意味が
なくなっちゃうの! それじゃあ私がここまでなった意味がないの!
毎日毎日りっちゃんたちのことを思って考えて苦しんできた二年間
の意味が無いの!」
唯「さびしくて、さびしくて仕方なかった毎日に落とし前がつかないの!!」
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:42:15.57 ID:+6KdXjUF0
唯は怒りに身を任せるように、律に再び硫酸をかけた。
ジュウウウウウウッ!
律の上着の肩の辺りが痛々しい音を立てる。
律「・・・・・ふうぅぅぅぅぅ。」
律は目に涙を浮かべながら、痛みをこらえるために大きく息を吐いた。
ここでまた悲痛の表情を見せたら、唯がまたさらに変わってしまうから、
ここまでで抑えておくのが自分の役目だと律は悟った。
律は息を切らせながら、唯の足に掴みかかると言った。
律「なぁ・・・・唯・・お前は怒っているかもしれないけど、
私たちは・・・ずっと・・・ずっと唯のこと待ってるからな・・・・
さっきさ・・・・お前言ったろ・・ずっと・・・私たちのこと
考えて・・・・寂しかったって・・。
お前の本当の・・・気持ち聞けて・・・嬉しかったよ。」
律の表情はこんな状況にも関わらず、うっすら笑顔を浮かべていった。
241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:45:09.07 ID:+6KdXjUF0
唯「もうやめて! 私を・・・苦しめないで!」
なんで自分がこんなことまでしているのに、律はいつまでも
自分を信じていられるのか・・・・。
どうしてもっと悔しがらないのか、笑顔でいられるのか・・・。
唯はとっさに近くにあった先輩の鉄パイプをボロボロになった
律の顔の前に突きつけた。
唯「りっちゃん・・・最後に言いたいことはある?」
唯はすぐに律を目の前から消さないと、自分が崩壊してしまいそうに
なっていた。
すると、
律「・・・・唯・・・大好きっ♪」
そこにあったのは、震えながら満面の笑みを浮かべる律の姿だった。
257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:52:06.20 ID:+6KdXjUF0
全身が恐ろしいほどに震えて、涙まで溜めて、硫酸でぼろぼろにされて・・・
自分に裏切られたのにどうして・・・・
どうして笑顔でいられるの・・・・
ズキッ!
すると突然唯の頭にひどい激痛が走った。
唯「う・・・あぁ・・」
唯は持っていた棒を地面に落とすと、地面に膝をついて、頭を抱えた。
唯「うう・・・・痛い・・・」
割れそうなほどに痛む唯の頭の中に、どこからか声がする。
『その人を傷つけてはいけない・・・・、その人は自分を変えてくれる
大切な人だから・・・!』
その声は意識のレベルでは無く、唯の潜在的なところから呼びかける自分の声だった。
271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 21:56:17.59 ID:+6KdXjUF0
澪「あっ! いた!」
聡「やっぱり! この手紙のとおりだ!」
それから数時間後、手紙を頼りに律を探していたHTTの面々と
律の弟の聡がボロボロになって倒れてる律の姿を見つけた。
部屋の中の律以外の人間はいなくなっているようだった。
梓「律先輩! 大丈夫ですか!? 先輩!」
聡「姉ちゃん! 姉ちゃん!」
聡が律の体を揺さぶるがまるで反応が無い。
聡「澪姉! ・・・姉ちゃん死んで無いよな! 生きてるよな!」グスン
聡は慌てた様子で澪の両腕を掴むと涙ながらにたずねた。
慌てる場に、澪が喝を入れる。
澪「大丈夫! 脈も息もあるから気絶してるだけ!
慌てないで律を運び出して!
早くしないと警備会社の人が来ちゃう!
流石に大学で医学を専攻する澪の言葉には説得力があった。
澪の言葉を受けた一同は、慎重に律の体を持ち上げると、
音楽準備室を後にした。
277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:01:33.11 ID:+6KdXjUF0
暗闇の中から声が聞こえる。
?「・・つ先輩!・・・律先輩!」
律(誰か私を呼んでる・・・・?)
律「・・・うぅ・・・・」
律(ここは・・・どこだろう・・・?)
梓「澪先輩! 律先輩が意識を取り戻しました!」
律が梓の家のベッドの上で
意識を取り戻したのはそれからしばらくしてからだった。
288 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:08:14.75 ID:+6KdXjUF0
律を揺さぶっていた
梓は嬉しそうに飛び上がると、澪の元へ急いだ。
律は意識を取り戻したものの、まだ呆然と天井を眺めていた。
あのあと自分はどうなったのだろうか・・・。
そして唯は・・・・。
ガチャ
部屋のドアが開くと、梓が居間にいたHTTの面々を連れてきた。
澪が律に心配そうに尋ねる。
澪「律・・・・大丈夫か・・・?」
律「・・・・あぁ・・・」
294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:15:53.85 ID:+6KdXjUF0
澪「本当は病院に連れて行っていこうと思ったけれど、そんなことしたら
お前のことだからまた唯に迷惑がかかるって怒るだろう?」
律「・・・そうだな・・・ありがとう・・」
律がそういって自分の体を見てみると、腹や顔に包帯や、シップが
貼られていた。
澪「一応応急処置はしておいた。
服はボロボロだったけど、外傷はほとんど無かったし、
普通にしゃべれるようなら内臓も大丈夫だろう。」
律「そうかぁ・・・・」
律がこぼすように言う。
すると澪が心配そうな顔から突然きりっとした顔つきに
変わり、律と目を合わせると律にたずねた。
299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:21:34.80 ID:+6KdXjUF0
律がこぼすように言う。
すると澪が心配そうな顔から突然きりっとした顔つきに
変わり、律と目を合わせると律にたずねた。
澪「律、聞かせてくれ・・・・何があったのか・・」
律 ビクッ!
律「・・・・・」
律はしばらく震えていたが、しばらくするとあの時
音楽準備室で起きたことを落ち着いて一言一言話し始めた。
一同は真剣な眼差しでそれを見守った。
303 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:27:05.35 ID:+6KdXjUF0
しばらくして、
律「・・・・それを唯は復讐だって・・・」
紬「そんなことがあったなんて・・・・」
紬が悲しそうに呟く。
梓「そんな・・・・・唯先輩・・見損ないました!!」
梓は目に涙を浮かべながら、叫んだ。
澪「待ってくれ、みんな!!」
澪が騒然とする場を黙らせた。
澪「実は律がさっき言ってたことを聞いて驚いたんだ。
普通硫酸なんかかけられたら、こんな程度じゃすまないはずなんだ!」
305 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:29:11.09 ID:+6KdXjUF0
紬「こんな程度っていうのは・・・・?」
紬が不思議そうに尋ねる。
澪「もし普通の硫酸だったら今こうして律の体はここにない・・・」
澪「そして実は律は体にいくつか焼けどを負ってるんだけど、
実は全然たいしたものじゃない。
明日になればもう引いているレベルなんだ。」
すると、ベッドで横になる律がうめくような声で言った。
律「そんなわけないだろ・・・・だってあいつ・・・復讐だって・・」
澪「そうなんだ。復讐って言うならもっと酸性の強い硫酸を
使っていたと思うんだ。
今回のは明らかに酸性を抑えているとしか思えない。
事実今回律が気絶してたのは栄養失調のせいなんだ。」
澪がそう言うと場は暫らく静まってしまった。
308 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:32:58.78 ID:+6KdXjUF0
しばらくすると紬が不意に切り出した。
紬「それは・・つまり唯ちゃんの心に迷いがあるってこと?」
澪「そういうこ・・・」
話し出そうとした澪の声を遮って律が言った。
律「そういえば・・・あいつ初めは憮然としてたけど、
後の方からは・・・情的になっていたような気がする・・・」
先程遮られた澪が再び言う。
澪「そういうことか・・・。
今の律の話を聞いてさらに確信が持てたよ・・・」
澪「やっぱり、唯はまだ迷ってるんだ・・・・。
きっと今必死に自分自身と戦ってるんだ!」
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:37:25.35 ID:+6KdXjUF0
梓「それなら・・・まだ助けられるってことですか?」
梓が手元の机を叩きながら嬉しそうに言う。
律「いや・・・もういいんだ・・・」
律が悲しそうな声で呟いた。
澪「・・・・・え?」
梓「なんでですか! 律先輩ずっと唯先輩のこと誰よりも心配
していたじゃないですか・・・」
梓が怒鳴るように言う。
322 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:46:37.41 ID:+6KdXjUF0
すると律が痛む体を起こすと、吐息混じりに声を震わせて言った。
律「もう・・・いいんだ・・・
私、この三日間唯のことばっかり・・・考えてたんだ。
それは死ぬほど・・・苦しくて・・・
ろくに何も食えずに、寝ることもできなかった。
それで気づいたんだ・・・一つのことを考え続けることが
どれだけ苦しいかって・・・・」
紬「りっちゃん・・・・」
心配そうに呟く紬を横目に、律が続ける。
律の目には涙が溜まっていた。
律「あいつ・・・・言ってたんだ・・・
毎日私たちのことばかり考えて・・・苦しくて・・
寂しかったって・・・・
そんなのが三年も続いたんだ・・・・
そんなの考えた・・・だけで・・気が狂いそうになる・・。」
澪「律・・・・」
328 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:52:28.29 ID:+6KdXjUF0
そして律は突然笑顔を作ると、言った。
律「決めたんだ、あいつのこと忘れるって・・・」ニコッ
律は必死に作り笑いをしていた。
その目からは大粒の涙がぼたぼたと落ちる。
もう忘れないとこの気持ちに整理がつかないから。
唯のことが大好きな自分がおかしくなってしまうから。
333 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 22:57:54.01 ID:+6KdXjUF0
ギュっ
不意に澪が律を優しく抱きしめた。
澪はそんな律の姿を見ていられなくなっていた。
律は澪に抱きつかれると、ハッとした様子を見せた。
澪「律・・・もういいんだ・・お前一人で抱えすぎだ・・・
お前が何もそこまでなる必要は無い・・・」
澪の声は少し震えていた。
そんな中でも澪は律の背中をさすっていた。
律「み・・・みぉ・・・」グスン
澪の肩には律の大粒の涙がこぼれていた。
338 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:02:48.62 ID:+6KdXjUF0
自分の肩で泣く律に澪が耳元でささやくように言う。
澪「私、さっき律の処置をしていて気づいたんだ・・・
実は律の腕と足にだけは全くかすり傷さえなかったんだ。
都合いい解釈かもしれないけど、きっと唯は律にまた
ドラム・・・叩いてほしかったんじゃないかな・・・。
だって、腕と足が痛んだらドラム叩けないだろう・・・?
唯も今きっと必死に戦ってるんだ・・・!」
律「・・・・うぅ・・」グスン
肩で泣きつぶれる律に、澪が全員に呼びかけるように言う。
澪「さぁ、律、そしてみんな・・・
私たちの唯を取り戻しに行こう・・・
あの頃の私たちを取り戻しに・・・・!」
外はもう明るくなり始めた。
太陽の一光が梓の家のカーテンの隙間から注ぐ。
朝はもう近い。
340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:07:20.24 ID:+6KdXjUF0
唯の大学の裏にある倉庫。
そこはかつては工業用の道具を保存しておく場所として
ここに立てられたが、今では廃れ、誰も寄る人はいなくなった。
暗く湿った倉庫内、オイル臭いにおい、天井にはねずみが走る。
その倉庫の奥からなにやら人がうめくような声が聞こえた。
?「・・・・うぅ、もう・・・・やめてくれ・・」
その声は震えながら、訴えかける。
するとその声を遮るようにもう一つの声は強く言う。
343 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:09:03.14 ID:+6KdXjUF0
?「そんな声聞けて嬉しい。これは私の 復讐 なの。
あなたは澪ちゃんたちの話を盗み聞きして、
それを面白半分にみんなに言いふらした。
これで私に復讐される理由は充分でしょ?」
?「お前・・・奴隷のくせに・・、戻ったら覚え・・」
?「そう、じゃあしばらく戻れないようにしなくちゃ・・・」
もう一つの声はもう一度遮った。
ゴン!
遮った直後に鈍い音がしたのは言うまでもなかった。
347 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:11:25.04 ID:+6KdXjUF0
壁に追いやられていたうめき声―――――女Aはドサリと倒れこんだ。
もう一つの声――――――唯は手に持っている一部がへこんだ鉄パイプを
床にポイと投げた。
カラーン カラーーン
床に落ちた鉄パイプが出す音は暗く湿った倉庫中に怪しく響いた。
その中で唯はただ壁にもたれ掛り気絶する女を見ていた。
でも、律のときと同じように満たされることは決してなかった。
積もっていくのは自分が傷つけた人の数。
復讐と称して結局やっていることは自分を痛みつけてきた
あいつらと同じではなかろうか。
353 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:18:27.22 ID:+6KdXjUF0
そして、あの日自分にボロボロにされながらも律が言った一言。
唯・・・・大好きっ♪
考えるとますます分からなくなってくる。
自分が満たされるための手段は本当に 復讐 なのだろうか。
そんな疑問さえ抱くようになっていた。
しかし今は自分自身との均衡を保ち続けるためにも復讐を続けるしか
なかった。
例え、何故それをしているのかがわからなくても・・・・。
カサカサカサ
唯の足元でゴキブリが走り回る。
唯はそれを残忍な表情で踏み潰した。
367 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:25:59.57 ID:+6KdXjUF0
唯は携帯で時計を確認すると、次の復讐へ向かうべく倉庫を出た。
街がにぎわい出す午前十時、唯は街を歩いていた。
唯はふと、今日が先輩たちによる澪たちを陥れる作戦の決行日だったこと
を思い出す。
今の唯にとってはそれは復讐の手間がいくつか省ける好都合なイベント
でしかなかった。
ゴツン!
不意に誰かと肩をぶつける。
唯「・・・・・」
だが、唯にはそんなこと気にもかからず相手を見ることも声をかけること
もなくその場を去ろうとした。
?「ちょっと待ちなさいよ! あなたねぇ!」
374 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:31:14.58 ID:+6KdXjUF0
ぶつかった相手は無視をする唯の肩を掴むと、くるりとこちらを
向かせた。
?「だいたいぶつかったならちゃんと・・・・!?
あれ? もしかして唯ちゃん?」
唯・・・・・!
唯の目の前にいたのはかつての軽音部の顧問、山中さわ子だった。
さわ子は相変わらず見た目は美人で、おしとやかな雰囲気
を漂わせていた。 二年も経つが老いは全く感じられなかった。
381 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:35:16.33 ID:+6KdXjUF0
一方で声から顔から雰囲気までまるで変わってしまった唯に気づく様子も無く、
さわ子が明るく声をかける。
さわ子「久しぶりねぇ~・・、元気だった?
そうだ! 近くに私のおススメの喫茶店があるの。
今から行かない? もちろん私がごちそうするわよ!」
唯「・・え? あ・・はい・・・」
唯は一瞬油断し、うっかりさわ子のペースに乗せられてしまい、
返事をしてしまった。
唯がしまったと思い、断ろうとした瞬間さわ子は唯の手を引いた。
さわ子「じゃあさっそく行きましょう!」
唯(まぁでも次の復讐まで時間はあるし、別にさわちゃん先生能天気
でこの件に気づくこともないからいいか・・・・
ことわってもなんか面倒くさそうだし・・・・)
唯はそんなことを思うと、おとなしくさわ子に手を引かれていった。
387 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:40:37.24 ID:+6KdXjUF0
わ子「・・・・それでね、この前the pillowsのライブに行ったんだけどね
すごく盛り上がって楽しかったのよ~」
唯「・・・・・・・」
さわ子「ボーカルのさわお君ったら途中からずっと
『アウイエ!』の一点張りでね、結局三曲しか曲聴けなかったの・・・」
歩き始めてもう10分近く経つのにもかかわらず、一向に店に着く様子が無い。
一方でさわ子は一人、永延と自分の話を続ける。
394 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:48:14.56 ID:+6KdXjUF0
唯はさわ子の話なんて丸で聞いていなかったが、俯きながらも
部分部分で適当に相槌をうって、その場を乗り切っていた。
唯(自分の元教え子がここまで窮地に追い込まれているのによくもまぁ
こんなに長々くだらない話してられるな・・・。)
だが事実、自分のことを下手に心配する憂や、苦しめようとしている
HTTのメンバーやサークルの先輩といるよりはこの能天気
な人といるほうが数百倍楽だった。
唯がそんなことを思っていると、不意にさわ子が足を止めた。
398 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/09(日) 23:53:52.54 ID:+6KdXjUF0
ようやく着いたかと思い、唯が顔をあげ、あたりを見回すが、そこに
喫茶店のようなものは見当たらなかった。
それどころか、裏道をいくつも入っていたような怪しい雰囲気の路地で、
怪しい色や内容の看板があちこちにあった。
唯「・・・先生本当にここなんですか?」
唯が不思議そうにたずねる。
さわ子「そうよ~、ほら!」
そう言ってさわ子が指差した先には『Death Blood coffee』
と書かれた傾いた看板をぶらさげたお店があった。
店内の外観だけでも、入り口のところには蜘蛛の巣が張り、
窓のところには首が取れかかったピエロのような人形が置かれ、
こっちに怪しく微笑んでいる。
また、店の外にはいくつか髑髏がぶら下げられていた。
406 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:01:50.36 ID:VCVnn6Su0
唯(そうか・・・この人さわちゃんだった・・・)ガクッ
唯は店を見ると、自分の手を引いていた人物の趣味を思い出し、
激しく後悔した。
唯「先生、ここやってるんですか・・?」
さわ子「いつもこうなのよ! さぁ、入りましょう!」
さわ子はそう言うと、唯の手を引いて店の中へ入っていった。
412 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:06:59.12 ID:VCVnn6Su0
ギギギッ
さわ子「すいませ~ん」
恐怖の館のような音を発するドアを通ると、中には
地獄のような装飾をほどこした店内が広がっていた。
店内は悪魔系の装飾でギラギラと眩しく、轟音で
ヘビーメタルが店内にかかっている。
店の様子は喫茶店というよりもバーに近く、マスター
らしき人がカウンターの向こう側でコップをふいている。
店内に他の客は一人もいなかった。
418 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:15:24.48 ID:VCVnn6Su0
カサカサカサ
不意に店内に登場したゴキブリをマスターが憮然とした
顔で近くにあった雑誌で潰す。
さわ子「ドラキュラジュース2つくれるかしら」
さわ子は慣れたかのようにそう言うと唯を
カウンターの席に着かせ、自分も席に着いた。
椅子やカウンターにも不気味な悪魔の装飾が施され、
唯の気持ちを一層落とす。
マスター「・・・・・・」
数分後、マスターが無言のまま二人の前に「ドラキュラジュース」
とやらを出した。
唯はどうせトマトジュースだろうと予想していたが、予想は裏切られ
青色のいかにも魔女がかき混ぜていそうな液体だった。
422 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:20:55.84 ID:VCVnn6Su0
唯はもちろんそれに手をつける様子も無く、俯き、時が過ぎるのを
待っていた。
ドラキュラジュースを一口飲むと、さわ子が思い出したかのように言う。
さわ子「あっ!そうだ・・唯ちゃんにプレゼントあるんだったっ!」
さわ子はそういうと嬉しそうに手持ちのバッグを物色し始めた。
唯はどうせくだらないコスプレの衣装や何かの耳だろう
と思い、くだらないと思いながらさわ子を見下していた。
すると予想に反してさわ子がかばんからだしたのは、
長方形で少し厚みのある電子辞書のような機械だった。
425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:28:26.81 ID:VCVnn6Su0
唯「?・・・・先生、何ですか? それ?」
さわ子「これ? DVDプレーヤーだけど?
そして本題は・・・・これですっ!」
さわ子はそう言うと、DVDのディスクを追ってかばんの
中から出し、唯の目の前に見せ付けるようにかざした。
唯 ・・・・!
唯は驚いた。
さわ子の手に握られていたDVDのタイトルは明らかに
今の自分をまた一歩崩壊に追い込むものだった。
430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:34:57.00 ID:VCVnn6Su0
そこに書かれていたのは『軽音部卒業記念』という文字だった。
確かに今思えば卒業前になってから、さわ子はやたらにデジカメを
持って活動中の部室をうろついていた。
驚く唯に明らかに勘違いしたさわ子が言う。
さわ子「唯ちゃん、そんなに驚いちゃって! そんなに嬉しいの~?
ほら、今日でみんなが卒業してちょうど1000日じゃない!
だから今日はちょうどコレをみんなに届けようとしてた
ところだったの♪」ニコッ
さわ子「でも先に運よく唯ちゃんに会えたから、試しに先に
ちょっと見てもらおーかなぁ~って!」
さわ子は唯への勘違いにまるで気づくことも無く、
早速DVDプレーヤーでDVDの再生に取り掛かる。
437 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:41:21.77 ID:VCVnn6Su0
唯 !
唯はその様子を見た途端、それまでおとなしかった唯の
手が無意識のうちにさわ子の作業を止めていた。
唯「・・・・やめてっ!」
これ以上そんなもの見せられたら、また自分の復讐に
迷いが出てしまう。
もう戻れないのに・・・。
そんな思いで唯が自分の手を止めたことなどまるで
知らないさわ子は、またも勘違いをする。
さわ子「もう、唯ちゃんったら恥ずかしがっちゃて・・・、
そんなに恥ずかしいものは映ってなかったから~!」
438 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:45:14.99 ID:VCVnn6Su0
そういうとさわ子は、逃げ出そうとする唯の肩を強引に
自分のものと組ませて、逃げられないようにした。
唯は必死に抵抗したが、逃げることはできず、
さわ子は残酷にもDVDを再生する。
ピッ
そこに映し出されていたのはかつての軽音部の姿だった。
442 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:51:34.45 ID:VCVnn6Su0
何やらみんなでお菓子を囲んでいるところだった。
紬「唯ちゃん、紅茶のおかわりいる?」
唯「ありがとうぅ! さすがムギちゃん気が利くねぇ」
律「全く、唯は家でもきっと憂ちゃんにまかせっきりなんだろうなぁ」ニヤリ
唯「わ、わ私、家では家事するもん!」アセアセ
澪「へぇ~、どんなことするんだ?」
唯「例えば・・・料理しようとしたりとか・・・・、片付けよう
としたりとか、・・・・あとこの前は洗濯しようとしたんだよっ!」
澪 ガクッ!
梓「先輩そろそろ卒業ライブですから練習しましょうよ!」
唯は初めは抵抗していたが、途中からうっかり見入ってしまった。
447 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 00:59:12.25 ID:VCVnn6Su0
なんだかんだ言ったって、コレが私の望む日常なんだ・・・。
そんなことを思うと唯の顔からは思わず久しぶりに笑顔がほころぶ。
でも果たして、自分が復讐を続けることでこの日常は
戻ってくるのだろうか、・・・・
確かに復讐を終えて、自分の周りから人を消してしまえば、
自分はずっとこの既にあるこの思い出に浸り続けられる。
だが、果たしてそれは自分が望んでいるものは何なのだろうか・・・
ただ、今から逃げているのではないだろうか・・・・
唯がそんなことを考えてると、映像の場面が変わる。
452 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 01:07:30.09 ID:VCVnn6Su0
次の映像ではみんながそれぞれの楽器を持って立っているところだった。
さわ子「これはずっととっておくことになるんだからちゃんと演奏
しなさいよ!」
律「今卒業ライブに向けてて忙しいんだよぉ~」
さわ子「リハーサルだと思ってやればいいじゃない!
それとも何? 私の衣装着て演奏したいってこと?」ギラリ
澪「み、み・・みんなやるぞ~!」アセアセ
律「・・・・じゃあ、いくぞぉ~。 1、2!」
♪ ジャラララ、ジャッ、ドカドカドカ!~
自分を含むみんなが真剣な姿で演奏する姿を唯は見ていた。
大学に入ってからはろくに楽器同士であわせることが無かった。
合わせたとしてもそれは唯にとって全く楽しいものではなかった。
映像の中での唯は笑いながら、楽しそうに演奏をする。
……
460 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 01:12:22.33 ID:VCVnn6Su0
自分は本当にやりたいことは 復讐 なのだろうか。
自分のやりたいことは今まさに目の前で展開されているこれでは
ないのだろうか・・・。
結局これまでの気持ちは結局、いや、いつだってここへ
向かっていたの
確信を持ちかける唯を目の前に、映像はまた移り変わる。
470 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 01:19:06.30 ID:VCVnn6Su0
次は自分を除くHTTのメンバーが画面の脇から恥ずかしそうに出てくる。
さわ子「さぁ、じゃあ未来の唯ちゃんに向かって一言ずつ・・どうぞ!」
梓「それは、ちょっと恥ずかしいですよ・・・」
さわ子「じゃあ・・・・・ムギちゃんから!」
紬「・・・え!? あたし!?
うーんと・・・・またお菓子食べましょう!」
ムギちゃん・・・
律「ムギは相変わらずだなぁ~」
律「え~と、次私か!
・・・・・う~ん、唯! ずっと大好きだぜっ!」グッ
りっちゃん・・・
472 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 01:21:07.35 ID:VCVnn6Su0
梓「ちょっと臭すぎませんか・・・?」
律「いいのっ! 次ゴk,・・梓だぜ!」
梓「えっと・・・・唯先輩のことはずっとなんやかんやでも
尊敬しています。 いつまでも素敵な先輩でいてください。」
あずにゃん・・・・
律「おぉ~流石梓ぁ~!
そしてそして、最後は澪! みんな期待しようぜぇっ!」
澪「ハードルをあげるな!
・・・えっと、唯! 今は勿論唯のことみんな大好きだけど、
この先、どんなことがあっても、私たちみんな唯のこと
信じてるから・・・忘れないでくれ・・」
澪ちゃん・・・
493 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 01:31:07.13 ID:VCVnn6Su0
ドカッ!
不意に唯は誰かから頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
唯はカウンターに思わず伏せてしまう。
やめて! 自分のやりたいことは復讐なの!
それをすることでしか自分を満たせないの!
違う
自分のやりたいことはHTTのメンバーともう一度演奏すること、
そしてもう一度あの日常の続きを描くこと。
自分は復讐やいじめという言い訳をして、
ずっと過去に浸り続ける言い訳をしていた。
でも自分がしたいのはそんな卑怯なことじゃない。
自分がしたいのは・・・・・
さわ子「唯ちゃん・・・どうかした?」
突然カウンターに伏してしまった唯にさわ子が心配そうに尋ねる。
500 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 01:34:51.93 ID:VCVnn6Su0
すると、唯が起き上がった。
その唯の目には今までのくすみはもうなく、光が差していた。
唯は素早く横を向くと、さわ子の手を握ってこう言った。
唯「さわちゃん、ごめん! ちょっと行って来る!」
さわ子「?・・え・・あ・・いってらっしゃい!」
唯は急いで席を立つと、店の外に駆け出した。
店の中では置いていかれたさわ子が一人呆然とする。
さわ子「ん・・・・まぁいいや、唯ちゃん感動してたみたいだし・・
DVD良かったのかな・・・う~ん、私グッジョブ!」グッ
店から出た唯はただがむしゃらに走り出した。
自分がしたいのは・・・・みんなとまた一緒にいること!
そして唯は今日が先輩たちによる澪たちへの処刑の
日であることを思い出した。
唯はそれを思うと、大学へ向けて全力で走り出した。
649 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:09:24.41 ID:VCVnn6Su0
唯があの喫茶店を出て、必死に大学に向かっている頃律たちもまた
唯の大学への歩みを進めていた。
緊張のせいか早足になり、列の先頭を歩く律に澪が尋ねた。
澪「なぁ律、本当に今日は唯が大学に行く日なのか? 休みの日なのに?」
律「いるっ!」
澪「どの筋の情報だよ?」
律「勘っ!」
澪紬梓「・・・・・」
650 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:15:25.35 ID:VCVnn6Su0
そのあとは暫らく場には緊張感が漂っていた。
これから唯に会うとなるとかつての親友とはいえ、やはり緊張する。
すると梓が不意に心配そうに切り出す。
梓「先輩・・・ でも本当に大丈夫なんでしょうか?」
澪「なぁに、大丈夫さ、唯だってきっと今不安な気持ちだよ。
・・・・・まぁ、もっともいるかもわからないんだけどな・・・・」ジーッ
そう言うと、澪は嫌みったらしく律のほうを見る。
律「な、なんだよ! いるってったらいるんだよ!」
梓「そうですよね、まずいるかもわかぁ・・・・・・・」
場が和みかけたところで、突然梓の話が止まった。
651 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:22:20.01 ID:/2NUkOWh0
律「・・・? おい梓どうした・・・・・うっ!・」
律は誰かに布のようなもので口を塞がれていた。
周りを見ると、他の三人も同じような状況だった。
律がその犯人をあの日唯と会った日に集団の中にいた
大学生だと気づいたのは、意識を失う寸前だった。
653 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:28:05.18 ID:/2NUkOWh0
唯が大学の音楽室へと駆け込んだのは、律たちが捕まる
数分前だった。
ガチャ!
いつもより勢いよく音楽室のドアを開く唯。
自分の本当にすべきことを見つけた唯に、もう死角はなかった。
体中に自信が溢れて来る。
唯は胸を張って、室内にたむろっていた男Aに寄っていく。
男A「おお、お前遅かったじゃねーかよ!
今からショーがはじま・・・
唯は相変わらず嫌みったらしく話す男Aを遮ってこう言った。
唯「あのっ! 今日はやめさせてくださいって言いに来たんです!
もう私に関わるのもそして澪ちゃんたちに関わるのも・・・」アセアセ
いくら自信に満ちているとはいえ、長年自分をいじめ、苦しめ続けてきた
男Aの前でこうもはっきりと意見を述べるのは、やはり緊張する。
655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:33:13.55 ID:/2NUkOWh0
しどろもどろ言葉を選びながら、話す唯に男が少し口調をきつくして言う。
男A「・・おい、お前いつからそんなに・・・・、そういえばお前、この前
昔の親友に硫酸ぶっ掛けて遊んでたらしいじゃねぇかよ・・
あそこの奴らに聞いたぜ。」
すると男は左手の親指で何人かの男女がかたまっている辺りを指差す。
そこにいたのは、あの日校舎の見回りをしていた男女たちだった。
唯 ギロリ
唯は何余計なこと言ってるんだ、と言わんばかりに男女を睨み付けた。
男女「ヒッ・・・・・・・」ビクッ!
どうやらあの日笑みを浮かべながら硫酸をばらまく唯にそうとう強い
ショックをうけたのか、男女は震え上がった。
復讐がこんなところで成果を発揮してると思うと、
少しは復讐もやっておいてよかったかなと唯は思う。
最終更新:2009年08月11日 02:47