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148 :西暦 2009年 6月21日:2009/08/09(日) 22:26:35.78 ID:Q3uv8U+20
「――オレは絶対に嫌だからな!!」

休日に珍しく練習三昧でくたくたに疲れきった律が家に帰り着くやいなや、
弟の聡の叫び声が玄関まで響き渡ってきた。
律は少し不審に思ったが、別段気にすることもなく自分の部屋に直行しようと靴を脱いだ。

「いい加減聞き分けてくれ、仕方が無いだろう!」
「何フールだか知らないけど、とにかくオレは反対なの!!」

何フールって、何よ?と律は疑問に思ったが、すぐにそれを頭の中から排除した。
今日は両親がいつもより早く家に帰っているので顔を出した方が良いかとも
少し思案したが、聡が親と口論をしている様なのでやはり自室に行くことにした。

151 :西暦 2009年 6月21日:2009/08/09(日) 22:29:32.98 ID:Q3uv8U+20
今日は夏至ということもあって日が長い。
午後7時を回っているが部屋の灯りをつけるまでもない。
律はそのまま漫画でも読みつつ口論の収拾がつくのを待つことにした。

「あ、この2冊、買ったけどまだ読んでなかったんだよなー。よし、今から読むぞー!」

そう言って律はベッドの上に寝転んで、黄色を基調とした表紙の漫画本を読み始めた。

「おい……嘘だろ? 兄貴ー!! 死ぬなー!!」

周りを夕闇が包み込んでいくが、そんなことは気にもとめずに律は漫画を読み進める。

「あ!兄貴生きてたっ!」

律はベッドから起き上がり、体勢を立て直した。

「必殺ッ!!! ギィガァ……ドゥォリルゥ……ブレイクゥゥゥウウァァァァ!!!!」


律はこれから自分に知らされる事実を予期すること無く漫画に没頭していった。

153 :西暦 2008年 6月11日:2009/08/09(日) 22:33:35.09 ID:Q3uv8U+20
「はぁ……都道府県の歴史を調べるなんて宿題、面倒だなぁ……」

自称世界一不幸な少年、野比のび太は自室の襖を開け、
わざとドラえもんに聞こえるよう、ため息混じりに一人で愚痴をこぼした。
襖を開けた先にはいつもいるはずのドラえもんの姿は無かった。

「あれぇ?ドラえもーん!いないの~?」

ドラえもんの寝床である押入れ上段を覗いて見るが、
頼みの綱のドラえもんの姿は無かった。
その代わりに、机の上にメモ書きがポツンと置いてあった。

「え~、何々……体の検査を急にしなくちゃならなくなったから2日くらい……ええ!?」

よくあることではあるが、タイミングの悪さにのび太は愕然としつつも続きを読んだ。

「そりゃないよ……でも道具を置いていってくれてるのか……何があるのかな?」

157 :西暦 2008年 6月11日:2009/08/09(日) 22:35:36.90 ID:Q3uv8U+20
ドラえもんは一人ではろくに日常生活もできないのび太の為に、
ひみつ道具を幾つか押入れ下段に残して未来へ時間跳躍をしたらしい。

「あんまり見ない道具だなぁ……」

道具が入った袋を広げてみても、のび太に馴染み深い道具は殆ど見当たらなかった。

「ちぇ、最初からスペアポケットを貸してくれればいいのに……」

のび太はドラえもんの好意にケチをつけつつも、
残された道具を駆使して宿題を完成させようと考えた。

「タイム電話しか使い方覚えてないなぁ。でもドラえもんと連絡を取るためには必要かな」

因みにのび太に課せられた宿題というのはは、京都府の歴史についてを
原稿用紙一枚に纏めてくるという至って簡単なものである。

159 :西暦 2008年 6月11日:2009/08/09(日) 22:39:09.39 ID:Q3uv8U+20
「そういえば、タイムマシンは!?」

身近で偉大なひみつ道具の存在を思い出したのび太は、勢いよく引き出しを開け放った。

「あったあった!なるほどそういうことか!」

のび太は健康診断に行き渋ったドラえもんをドラミが強制連行したという仮説を立てた。
極めてどうでもいい時に冴え渡るのび太の勘。
実際4時間前にドラえもんは、チューリップ型タイムマシンで22世紀へ向かっている。

「そうだ、京都へ行こう。それも過去の京都だ。自分で見た方が早いに決まってるよ!」

考え方は短絡的だが歴史を調べる上で過去への実地調査はこれ以上ない程有効な手だ。
もちろんのび太以外の人間には不可能なやり方ではあるが。
本当は本などで調べた方が、宿題が早く終わるという事までは考えつかなかった。

「よーし!手始めに100年前の今日へ行ってみよーっと!」

のび太は手ぶらのまま過去へ行こうとしていることに気がついた。

「あ、道具も一応持っていこうかな……」

役立つかどうか分からないひみつ道具持ち、のび太は引き出しの中へ飛び込んだ。
ペンやノートなどの文房具類は手に持っていない。

机の上に誰にも読まれることの無かった、もう一枚のメモ書きが残されている。
そこにこう記されていた。


――タイムマシンは故障中だからくれぐれも使わないようにね――

164 :西暦 2009年 6月22日:2009/08/09(日) 22:42:37.10 ID:Q3uv8U+20
「おう、来たか唯、ムギ! それに梓も一緒だったのか。珍しいな。で、律はどうした?」

HRが早めに終わった澪は一足先に音楽準備室に来ており、
他の部員達の到着を首を長くして待っていたらしい。

「りっちゃんなら、今日は学校休んでるよ。どうしたんだろ~ね?」
「どうしたのかしらねぇ?ちょっと心配ね……」

唯と紬にも律が学校を休んでいるということしか知らない様である。

「へぇ……まあ律のことだから布団を着ずに寝て夏風邪でもこじらせたんだろ」
「きっとそうですよ。明日になったらいつも通り学校に来ると思います!」

澪の解釈に梓も賛同したらしく、残りの二人もそれに同意した。
一人少ない放課後ティータイムはいつも通りお茶をしてから、
ドラム不在ゆえにリズムが狂いながらも一通り練習をこなして部活を終えた。

167 :西暦 2009年 6月22日:2009/08/09(日) 22:44:37.81 ID:Q3uv8U+20
太陽が完全に沈みきる直前、律の部屋にノックもせずに聡が入ってきた。

「姉ちゃんはこのままでいいって言うの?」
「うん。仕方ないよ……」

律がいつになくか細い声で、聡の問いに後ろめたそうに短く答えた。

「嘘つけって。今日だって学校休んでたくせによく言うよ」
「今日はたまたま体調が悪かっただけ。もう良くなったから明日から行くってば……」

律は体調不良を口実に学校を休んだが聡は学校へ行ってたので、
姉弟が二人だけで今回の事について話し合うのは実質的に今が初めてだ。

「何がたまたまだよ。がっつり落ち込んでたでしょ?」
「お、お前、それは、あれだ!兄貴が死んだからだ!!」

律のいつもの調子が戻ってきたが、聡には律が何を言っているのかは分かっていない。

「……兄貴って誰?」
「いいから」

169 :西暦 2009年 6月22日:2009/08/09(日) 22:48:30.28 ID:Q3uv8U+20
「それにしてもいきなり過ぎるよな、スーダンに行くだなんて……どこだよスーダンって」
「結構前から決まってたみたいだし……どーしようも無かったんだよ」

律の両親は共にNGO団体に所属しており、今回ダルフール紛争での難民を救助する為に
自らフィールドまで赴き、そこで働く事を決めたという。
それを律が知ったのは先日、オレンジを基調とした表紙の漫画を読み終えた頃だった。
律も始めは信じられなかった。
しかし一日経って冷静に考えると現実味が帯びてきたようで、
半ば諦めにも似た表情で聡の話に耳を傾け続ける。

「勝手だよな、オレ達を残して二人だけで行っちゃうなんてさ。しかもその間ずっと
オレ達は伯母さんにあずけられるからホンジュラスだぜ……どこだよホンジュラスって」

一度だけ会った事のある律の伯母は20年前からホンジュラスに移住している。
二人がそれを知ったのもつい昨日の事だ。
聡はまだ生まれていなかったので完全に面識が無い。
それは律としても同じような状況であることには違いないのだが。

173 :西暦 2009年 6月22日:2009/08/09(日) 22:50:44.95 ID:Q3uv8U+20
「向こうに行く手続きは全部済ましてるんだってさ」
「こっちは姉ちゃんより先に聞いてるよ!オレ達だけでもやっていけると思うんだけどな」
「いやー、どうだろうね……」

律の両親は自分達が不在の間、二人だけで暮らさせる事も始めは視野に入れていた。
しかしそれは不可能と判断したのですぐにホンジュラス行きが決定したという。
それを聡は全くもって快く思っていない。
勿論律も同じ気持ちではあるがそれを言葉にすることは無かった。

「父さん達だって無事に帰ってこれるとも限らないわけだし、危険すぎるだろ!」
「うん……でもなんとかなるって!」
「本当に姉ちゃんはもう諦めてるのか」
「そりゃそうでしょ、アンタもさっさと諦めちまいなって、楽になるぞ」

ふいに律は聡の方を向いて無理矢理笑みを作って見せた。

「おいおい、他人事じゃないんだよ。しっかりしてくれよな」

しかし聡も律の考えなどお見通しなので、それが強がって見せている
だけだということは重々理解している。

「とにかく明日は学校行けよな。学校に行けるのもあと2週間くらいだからな」
「うん。分かってるよー」


聡が出て行った薄暗い部屋で律は、軽音部のメンバーに思いを廻らせていた。

「こんなこと、言えるわけないじゃん……」

176 :西暦 2009年 6月23日:2009/08/09(日) 22:55:14.41 ID:Q3uv8U+20
「りっちゃん!昨日は心配してたんだよ~。」

教室に入ってすぐに律を発見した唯が律に抱きついてきた。

「ゴメンゴメン。ちょっと風引いちゃってさー。ていうか放せやい!」

3年に進級した際にも律と唯と紬は同じクラスになっていた。
例によって澪は別のクラスな上に今回は和も一緒ではないので、
精神面が少々不安定な時期が先月まで続いていた。
最近ようやくクラスに馴染んできたばかりの澪が調度教室の前を通りがかったので、
唯は急いで澪を引止めにかかった。

「澪ちゃ~ん!りっちゃん来てるよ~!やっぱり風邪だったんだって~」
「やっぱりな。おい律、気をつけろよ。お前がいないと練習の時困るんだからな」

顔を赤らめながら澪なりに律を気遣いそう言った。
ここまでは普段の風景と何ら変わりの無い日常だ。
だが、ここからはいつもと違った。
律は自分でも驚くほど二の句を継ぐことが出来ない。

「……お、おう」

と頼りなく返答するだけで精一杯だった。

180 :西暦 2009年 6月23日:2009/08/09(日) 22:57:54.72 ID:Q3uv8U+20
「と、とにかく良くなるまでは無理するなよ!うつされたら困るからな!」

いつもと違う律を澪が見逃すわけもなく訝しるが、
まだ風邪が完治していないのだろうと思い、そう付け足した。

「なんだ?澪はそんなに私のことが心配なのかー?」

このままでは不味いと踏んだ律は平生を装うと必死にそう言い返した。

「うるさい!やっぱり今日はみっちり練習するからな」

そうは言っても澪は律の調子が戻っていたことに内心ホッとしている。
この日の部活で律は至って自然に振舞うことに専念した。
それは思った以上に難しいことであったが、朝以降は誰にも不審がられることは無かった。
だがそれと同時に、皆に言わなければならないことを言い出す
チャンスが完全に失われてしまった。


帰路の途中で律は練習とは別の疲れが溜まり、がっくり肩を落とした。

188 :西暦 2009年 6月24日:2009/08/09(日) 23:00:33.12 ID:Q3uv8U+20
「憂~、ただいま~、帰ったよ~」

間延びした声で唯が自らの帰りを憂に知らせる。

「お帰り、お姉ちゃん。最近帰り少し遅いね」
「うん。最近練習が大変でさ~。お茶する時間が足りないよ……」

このところ唯達はさわ子のリクエストした曲を練習していおり、
お菓子を食べたり、紅茶を飲んだりする時間が削られているようだ。

「そっかぁ。練習頑張ってね。」
「うんっ!私頑張る!!というわけで憂、ご飯」
「もうできてるよ。あ、先に手を洗って、あとついでに着替えてきてね」
「ハーイ! 今日のおかずは何だろな?う~ん、この匂いは……鯖の味噌煮!!」


平沢家では見慣れた光景が繰り広げられる一方で、唯の部屋にあるベッドの上
1メートルくらいの高さの空間に突如として小さな円形の穴が開いた。

190 :西暦 2009年 6月24日:2009/08/09(日) 23:04:51.98 ID:Q3uv8U+20
「やっと出られたー! って、あれ!?」

その穴から一人の少年がひょっこりと出てきてそう叫んだのと同時に、
自らの置かれている状況に対して疑問を抱いた。
勿論この少年は野比のび太である。

「ここって……絶対に100年前の京都じゃないよ!一体どうなってるんだ!?」

明らかに今風の女の子の部屋、といった感じの部屋にいきなり出てきてしまい
のび太は驚いたが、タイムマシンに異常があるということは容易に推測できた。

「タイムマシンの故障……だよね?でも一体どうして??」

のび太は当初予定していた時代への超越に失敗して今に至っているわけだが、
自分の身に何が起こっているのかよく分かっていない様子で周りを見回している。

「この雰囲気は僕のいた時代と近いみたいだ……そうだ!カレンダー!」

本人も鈍い頭でどうにか問題を処理して現状を把握しようと努め始めた。

「読める!……読めるぞ!!平成21年……って来年じゃないか! 良かったぁ」

元いた時代から約一年後の日本だと知ってのび太はひとまず胸をなでおろした。

193 :西暦 2009年 6月24日:2009/08/09(日) 23:07:16.74 ID:Q3uv8U+20
「ん?」

部屋に誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。

「だ、誰か来る!見つかると不味いな……隠れなきゃ!」

咄嗟にのび太はベッドの中に潜りこんだのとほぼ同時にドアが開かれた。

「ご飯の前に着替えなきゃ、え~っと、TシャツTシャツ……ってあれ?」

ベッドの妙な膨らみに流石の唯でもこれには気がついた。
だが、その上にある通常では存在し得ない穴には、何故だか目が行かなかった。
剥がされる掛け布団。
何度となく絶体絶命のピンチを乗り越えてきたのび太ではあったが、
残念ながらこの危機的状況を回避することは出来なかった。

「……うわあぁ!?えぇ?? だ、誰!?」
「ひぃー!ごめんなさい!ごめんなさぁーい!!」
「どうして私のベッドの中に?え?ここ、私の部屋だよね?」
「今回だけは見逃して下さい!何でもするから。払うから!」

両者共に錯乱状態にあるらしく、暫らくの間まったく会話にならなかった。

194 :西暦 2009年 6月24日:2009/08/09(日) 23:09:31.61 ID:Q3uv8U+20
「……え~っと、君、憂のお友達か何か?」

先に平常心を取り戻したのは唯だった。
唯のその言葉でのび太も我に返ったが、質問の意味が理解できなかった。

「え!?あの、よく分からないけど、たぶん違います……」

何か答えなければと思い、のび太は謝罪も含めて事情を説明しようと考えた。

「え?違うの?じゃあどうしてここに?」
「僕はこの時代の人間ではありません。ちょっと過去から来ました」
「え?過去?……ええ~!?」


のび太は事の成り行きを、数少ないボキャブラリーを最大限駆使して説明した。
しかしまだ唯は状況が飲みこめていないようだった。
それはのび太の語彙力や表現力が欠如しているからと言うより、
のび太の言っている事があまりにも荒唐無稽だったからだ。

「信じてもらえないかな?」
「うーん……いきなりそんなこと言われても……」
「でも、君はもうこの穴を見てるでしょ?」

そう言ってのび太は唯の左横に空いている空間の通り穴を指差した。

195 :西暦 2009年 6月24日:2009/08/09(日) 23:12:32.22 ID:Q3uv8U+20
「え!?何これ!?どうなってるの?」

唯はようやくその目を疑うような光景に気がつき、驚いた様子でのび太に尋ねた。

「え?気づいてなかったの?」
「うん……」

これにはのび太も少し呆れてしまったが、これで信じてもらえたと思い安堵した。

「ほら、この中にあるタイムマシンでここに来たんだ。この中に……」
「ホントだ!!なにこれスゴい!!」
「信じてもらえたみたいだね。さっき説明した通り壊れちゃってるみたいだけど…」

唯は目を丸くして御釈迦になったタイムマシンに魅入った。
この異空間と謎めく機械はのび太の話を信用させる要素としては充分過ぎる。

「お姉ちゃーん。何してるの~?ご飯冷めちゃうよ~」

唯がなかなか降りて来ないので、憂が一階から声をかけてきた。

「あ!ご飯忘れてた!! 君もおいでよ」
「え?いいの?」
「帰れなくて困ってるんでしょ? 私は平沢唯!よろしくねっ」
「ありがとう。僕、野比のび太。よろしく。ところでさっきの声は妹さん?」

遅めの自己紹介を終えて、のび太は先ほどの声の主が誰なのかを尋ねた。

「そうだよ~。憂っていうの。さ、行こう」

また最初から説明するのは骨が折れそうだと思いながら唯と共に階段を下りていった。

196 :西暦 2009年 6月25日:2009/08/09(日) 23:16:31.42 ID:Q3uv8U+20
殆どの生徒が昼食を取り終えている昼休み終了のお知らせ10分前、
律は憂に会う為に2年生の教室の前まで来ていた。

「憂ちゃーん、ちょといいかな?」

自分を呼ぶ大きな声がしたので憂もすぐに律に気がついた。

「律さん、どうしたんですか?」
「いやー、ちょっと話したいことがあってね」
「話って何ですか?」
「憂ちゃん、ドラムやってみる気ない?」
「え?私がですか?」
「そうそう!ギターをすぐマスターしたんだからドラムだって出来ると思うんだけど」

すばやく律が畳み掛ける。

「ウチにドラムなんて無いですし……」
「そ、そうだな。でも部室にある私のを使ってくれても全然構わないし!」
「律さんはどうするんですか?」
「そ、そっか……いきなりごめんねー。さっきのは気にしないで。じゃあまた」

律はそういうと急いで教室を後にした。

「さっきの人、軽音部の先輩じゃない。どうしたの?」

傍で二人の会話を聞いていた純が憂に尋ねた。

「う~ん、なんだったんだろう……?」

197 :西暦 2009年 6月25日:2009/08/09(日) 23:19:52.69 ID:Q3uv8U+20
律が学校からいなくなるとは思ってもいない憂は、律の行動の
意図が分からなかったが、とりわけこの事を唯に伝えはしなかった。


帰宅後に律は国際電話がかけられる携帯の機種変更をする為に
最寄の家電量販店へ赴いた。

「お客様、どういった商品をお探しでしょうか?」
「外国でも使えるやつをですねぇ――」

優しそうな女性店員に細かく説明してもらった結果、
現時点での最新モデルを買うことにした。

「この携帯、結構気に入ってたんだけどな……」

199 :西暦 2009年 6月26日:2009/08/09(日) 23:23:21.70 ID:Q3uv8U+20
今は例年通りなら雨が降り続く梅雨真っ盛りなはずだが、今年はやけに晴れる日が多い。
朝から暑い初夏の日ざしが玄関先に差し込んでくる。
そこには憂とのび太の姿があった。

「のび太君、私達学校行ってくるから自由にしててね」
「うん、分かったよ。二人ともいってらっしゃい」
「ほら!お姉ちゃん急いで!遅刻しちゃうよ。」
「まだ眠い~。あ、のび太くんじゃあねぇ~」

のび太に見送られて憂と、まだ瞼の重そうな唯は高校に登校していった。
結局のところのび太は少しの間だけ平沢家に厄介になることとなった。
唯よりも理解力がある憂にのび太が助けられたことは言うまでもない。
唯達の両親が5日前から来月の中旬まで長期の旅行で不在ということもあり、
のび太は両親の部屋を使わせてもらうことになった。

204 :西暦 2009年 6月26日:2009/08/09(日) 23:28:26.50 ID:Q3uv8U+20
のび太は暇だったのでテレビでも見ようと思い、リモコンの電源ボタンを押した。

「へぇ、来年はデーブ・スペクターさんが朝の情報番組に出るんだ~」

しかし知らない番組だったのでチャンネルを何度か切り替えてみた。

「うーん、やっぱりこっちは見たことのないヤツばっかりだなぁ……」

特に何もすることのないのび太は一人でテレビを見ていたが、
目当ての番組が放送していなかったのですぐにテレビを消した。

「こんな事してる場合じゃないな……居候になってるんだから何かしなくっちゃ!」

とりあえずのび太は家の掃除することにした。
日頃はずぼらなのび太だが、悪い意味での厄介者にならないように奮闘してる。
唯の主なテリトリー以外は綺麗なので、掃除自体はすぐに終わりそうな勢いだ。

「そういえば……ママ達心配してるだろうなぁ……」

雑巾で窓を拭いている時にのび太は久しぶりに元いた時代のことを考えた。

「ドラえもんもそろそろ帰ってくるころだし……なんとかなるでしょ」

この家や唯達とも短い付き合いだったな、と感慨に浸りながらのび太は一人雑巾を絞った。

208 :西暦 2009年 6月26日:2009/08/09(日) 23:40:06.91 ID:hWtsng6EO
桜高では終礼のチャイムが鳴ってから30分ほど経ち、
練習中の運動部員の声が近くの特別教室に小さく響いている。
音楽室では軽音部の面々がお馴染みのティータイムを過ごしていた。

「ムギちゃん今日のお菓子は何~?」

待ちきれなくなった唯が机から身を乗り出した。

「今日はティラミスを持ってきたの」

紬がティラミスが入っている洒落た箱を、寄せ集めている机の中央に置いた。

「よっしゃー!私それ好きなんだよねー。一つもらうぞー!」

いち早く律がティラミスを自分の皿の上にのせて、すぐさま食べ始めた。
このところ律は自分を偽る事に徐々に慣れてきたので、
部内でも自然に振舞うことが出来るようになってきた。
勿論カミングアウトは出来ずにいるのだが。
日毎に切り出しづらくなってきていることは律としても感じてきていが、
自分がそれを言ってしまった後の軽音部の事を考えると怖くてとても言い出せなかった。
律もこのジレンマの図式に気がついてはいるが打開出来ずにいる。
ペルソナを無くして今の律は学校生活を送ることは不可能。
お茶が終わると練習をして皆と連れ立って帰宅する。
律には最後の日までそれがループするように思えた。

210 :西暦 2009年 6月26日:2009/08/09(日) 23:45:10.82 ID:hWtsng6EO
「律、お前いつの間にケータイ買い変えたんだ?」

一人で考え事をしている律に対して、澪が脈絡無しに携帯電話のことを尋ねた。

「ん?ああ、このケータイ?昨日だよ。前のヤツなんか壊れちゃってさー」
「まったく、乱暴に扱ってるからこうなるんだぞ」
「あはは、これは大切にするぞー!なあムギ?」
「えっ」

律は機種変更した携帯電話を澪に指摘されただけで盛大に肝を冷やした。
その後の律はと言うと、下校時に澪と別れるまで調子が狂ったままだった。

215 :西暦 2008年 6月23日:2009/08/09(日) 23:53:05.00 ID:hWtsng6EO
「――無い! 無い!!タイムマシンが無い!!!」

ドラミと共に21世紀に戻ってきたドラえもんは自分の目を疑った。
そこにあるはずの故障したタイムマシンがそこに無かったからだ。

「お兄ちゃん、これってもしかして……」

ドラミもすぐにそのことに気がついた。
もちろんその悪い予感は見事に的中することになる。

「2日前にのび太君が消えた?」
「そうなのよ! それとドラちゃん、これなんだけど……」

ドラえもんは21世紀から戻ってきていきなりのび太の失踪の知らせを受けた。
そしてのび太の母、玉子から2日前に自分が走り書きしたメモが手渡された。
ドラえもんの中で予感が確信に変わった。

「やっぱり……」

のび太失踪の原因ががタイムマシンであることを悟った。
現時点では予想の域を出ないが、のび太が故障したタイムマシンに乗ってどこかへ
行こうとして、その途中乃至は行き先で帰れなくなっている可能性が高いと説明した。

「お兄ちゃんが押入れに入れておいた道具が無くなってるわよ」
「良かった。これでのび太君の居場所が分かるかもしれない」

ドラえもんとドラミは解決策を練るために22世紀にまた戻ることに決め、
のび太の勉強机の引き出しから22世紀へととんぼ返りした。

227 :西暦 2126年 9月12日:2009/08/09(日) 23:58:49.88 ID:hWtsng6EO
22世紀へと戻ってきたドラえもんとドラミ。
こちら側からコンタクトをとれるひみつ道具はタイム電話のみ。
それだけで十分に思えたが、何故か通信状況が悪い。

「おかしいぞ!のび太君のタイム電話と通信できない!」
「悔しいけど今はのび太さんからの連絡を待つしかないのね……」

結局その後ものび太とは連絡が取れずに終わった。

「向こうのタイム電話が故障してないといいけど……」

またも悪い予感がドラえもんの脳裏に浮かぶ。
幸か不幸かその悪い予感は的中することはないのだが。

233 :西暦 2009年 6月27日:2009/08/10(月) 00:04:25.75 ID:hWtsng6EO
のび太く~ん。起きて~。ご飯出来てるよ~」
「えぇ……?うーん……あと5分だけ~」

憂がなかなか起きてこないのび太を部屋の外から起こそうとしているが、
のび太は起きようとしない。

「お姉ちゃんもまだ起きてなかったんだった……」

学校が休日なのを良いことに唯もまだベッドの中だ。
そろそろ正午が近いが唯は一向に起きる気配を見せようとしない。

「うぅ、眠い……」

のび太もようやく怠け者としての本性を現し始めた。
まるでテキオー灯を使ったかのように平沢家に順応している。
程なくして昼食時になったので、憂は少々強引に二人を起こした。

「いや~。よく寝た~」
「僕も久しぶりにぐっすり寝ちゃった」

慣れないことをしてきたツケがのび太に回ってきているようだ。

241 :西暦 2009年 6月27日:2009/08/10(月) 00:08:57.17 ID:/92BaDWeO
「のび太君もお姉ちゃんの真似しなくていいんだからね」
「え!?ああ、うん。そ、そうだね!」

のび太の本性が暴かれるのも時間の問題である。

「そういえば、のび太君ってお姉ちゃんに似てるからか妙に親近感がわくっていうか……」
「僕達ってそんんなに似てるかな?」
「うん。朝弱いとことか、すぐ怠けるとことかそっくり」

そう言いつつも憂はそんな唯やのび太の性格を気に入っている。

「もうバレちゃってたか……」
のび太の本性は憂によって既に暴かれていたようだ。

「ぶ~ぶ~」

唯は少し不満そうに口を尖らせて憂に不服申し立てをした。

「姉ちゃんごめんね、でも明日からはもう少し早く起きてね」
「ゴメンなさい!起きれません!ていうかさっきのはただの狸寝入りだよ~」

唯は潔く明日も寝坊します宣言をした後に、つまらない嘘を付け足した。

「あ!ドラえもんのことすっかり忘れてた!!」

ドラえもんを彷彿とさせるワードでようやくドラえもんの存在を思い出した。
のび太は急いで自分の持ってきたひみつ道具の入った袋を取りに二階へと向かった。
タイム電話を使うことをようやく思いついたのだ。

247 :西暦 2009年 6月27日:2009/08/10(月) 00:14:04.93 ID:/92BaDWeO
「ん?調子が変だな……雑音が酷いや」

タイム電話は故障はしていない様だったが、正常に動いてくれなかった。

「それな~に? のび太君のケータイ?」

唯と憂が部屋の入り口付近から覗きこんでいた。
のび太は簡潔にタイム電話の用途と、それの調子が悪いことを説明した。
ドラえもんの事やひみつ道具については出会った日にしておいたので、
いきなりの説明だったが唯にもどうにか理解できた。
そしてその時、タイム電話のノイズが僅かだが弱まった。

「あれ? なんか前より良くなった気がする」
「ウチってそんなに電波悪かったっけ?」

唯は自分の携帯電話を基準に考えてそう呟いた。

「電波、電波、電波……んー」

電波という単語、そしてノイズが弱まったのが唯達に説明する為に
数歩移動した時だったので、のび太は直ぐにピンときた。

「もしかしたら!」

そう言ってのび太は唯の部屋に駆け足で向かった。
のび太はタイムマシンへと繋がる穴を素早く潜り抜けタイムマシンに飛び乗った。
そこでもう一度ドラえもんとの交信を試みた。

257 :西暦 2009年 6月27日:2009/08/10(月) 00:20:28.33 ID:/92BaDWeO
「ドラえもん!聞こえる!?」
「のび太君なのか!?一体今どこにいるんだ?」

この空間ではタイム電話が通じるようで、のび太はドラえもんとの交信に見事成功した。

「タイムマシンの上だよ!!」

のび太は自信満々にそう答えた。
「……え?」

それからのび太は、ほぼ一年後の京都にいることなど、自分の身に起こった
全ての事柄を15分にもわたって必死に説明した。
その情報を基に、ドラえもん達は今すぐに2008年6月27日の京都へ向かう事を決めた。
それからのび太は酷くもたつきながら、一年前の世界に帰る支度を済ませた。

「二人とも今までありがとう!そろそろドラえもんが来る頃だ」
「う、うん……短い間だったけど……楽しかったよ……うぅ……」
「のび太君がいなくなると思うと急に寂しくなるね……」

泣いてる唯はともかくとして、憂も俯いてのび太との別れを惜しんでいた。

「でも二度と会えなくなるわけじゃないんだしさ!」
「そ、そうだね。憂、東京までどれくらいかかるかな?」
「ええと、ちょっと待ってね……」
「いやいや、僕にはどこでもドアというそれはそれは便利な道具があってだね――」

この後もこういった会話が何時間も続いた。

その日、ドラえもん達が迎えに来ることは無かった。

265 :西暦 2009年 6月28日:2009/08/10(月) 00:27:41.89 ID:/92BaDWeO
「結局昨日は来なかったね。ドラえもんさん」

唯とのび太は休日にしては早くに起きて話し合っていた。

「まったく、ドラえもんは昨日何をしてたんだろう?」
「何か急用でもできたんじゃないかな~?」
「うーん……ドラえもんは当てにならないな…これだったらまだ僕の方が……あ!!」

愚痴を言っている最中にのび太は何かを閃いた。

「この時代にも僕やドラえもんがいるじゃないか!何で今まで気がつかなかったんだろう」

のび太は電話を借りて自宅の番号を押した。

「この時間ならママが出ると思うんだけど……ん?」


――おかけになった電話番号は現在使われておりません――

「あれ?間違えちゃったかな。もう一度」

その後5回ほどかけ直したが結果は全て同じだった。

「繋がらないの?」

憂が心配そうにのび太に尋ねる。

「うん……電話番号変えたのかな?」

のび太はやはり自分の時代のドラえもんに頼ることにした。

272 :西暦 2009年 6月28日:2009/08/10(月) 00:34:25.05 ID:/92BaDWeO
タイムマシンに乗ってタイム電話をかけてみるとドラえもんがすぐに電話に出た。

「のび太君!昨日はどこに行ってたんだよ?そこから動いちゃダメじゃないか!」
「ドラえもんこそ何言ってるの?僕は昨日からずっとここにいるよ」
「な、何だってー!? 僕だって家の外にいるぞ!!」

ドラえもんは確かに昨日、2009年の6月27日に平沢家を訪れていた。
人が全員出払っていた様なので、そのままそこで電話がかかるのを待っていたという。

「おかしいな……間違ってるわけないんだけどな……」

のび太は先ほど自宅に電話が津ながらなかった事を思い出した。

「ドラえもん、こっちの僕の家に電話をかけたんだけど繋がらなかったよ……」
「それはない!一年後も電話番号は変わっていないはずだぞ!かけ間違いじゃないの?」
「自分の家の電話番号をそんなに何回もかけ間違えないよ!!」
「と、ということは……これは思ったより不味いことになってるかも知れないぞ!」

282 :西暦 2009年 6月28日:2009/08/10(月) 00:40:29.25 ID:/92BaDWeO
ドラえもんはのび太が平行世界にいると結論づけた。
のび太はタイムマシンの故障が原因で時を遡ろうとして、
偶然にもパラレルワールドへワープしてしまっていたのだ。
どちらの世界も非常に似ている世界だったので、のび太も全く気がつかなかった。
これはドラえもんにもすぐに解決できる問題ではなかった。
ドラえもんは時間がかかるかも知れないが解決策を模索するとのび太に伝え電話を切った。

のび太にはこれまでにパラレルワールドへ行った経験があったので、
事態を理解することができたが、それを唯達に説明するのには苦戦した。

「よく分かんないけど、帰れるまではずーっとウチにいてね!」
「いいのかい?とにかくありがとう。唯ちゃん」
「不謹慎かも知れないけど、私ものび太君と一緒にいられる時間が増えて嬉しいな」

憂は一度のび太が帰ってしまうと、自分とは全く別の世界から来たのび太には
もう二度と会うこと出来ないとすぐに理解していた。

「うん……ありがとう。また少しの間よろしくね」

のび太も憂の思っていることを何となく感じ取った。


この日、ホンジュラスで軍事クーデターが発生した。

288 :西暦 2009年 6月29日:2009/08/10(月) 00:47:09.94 ID:ckJW/eV+0
今日も何事も無く軽音部の練習は終わった。
練習が終わり帰ろうとした時にさわ子が律を引き止めた。
唯達に先に帰るように言って、律とさわ子だけが音楽室に残った。
律はホンジュラス行きの件がついにさわ子に知られたのだと悟った。

「りっちゃん……聞いたわよ……」

律の思った通り、やはりその事についてだった。

「な、なんだ、先に聞いちゃったのかー。明日言おうと思ってたんだけどさー」
「そう……みんなにもまだなんでしょ?」
「あー、そーいやまだだったなー」

さわ子には律が無理をしている様にしか見えなかった。

「アレだったら私から言ってもいいのよ?」
「ゴメン!さわちゃん!みんなには黙っといてくれないか?」
「でも……ホントにいいの?」
「なるべく早く自分で言うからさ!じゃあなー、さわちゃん!」

そう言うと律は足早に音楽室を後にした。

「りっちゃん、大丈夫かしら……」

294 :西暦 2009年 6月30日:2009/08/10(月) 00:53:12.71 ID:ckJW/eV+0
いつもより遅めに律が帰宅した。
もう辺りはすっかり暗くなり玄関にも明かりがついていた。

「ただいま」

家族全員に聞こえるか聞こえないかの瀬戸際くらいの声で自分の帰宅を知らせた後、
律はそのまま自室に向かった。
さわ子との約束を今日は守ることができなかった。
鞄を置き、ベッドに倒れこんだ時に部屋の扉が開かれた。
このところ部屋に篭りがちな律のもとに聡がやってきたのだ。

「聡か。何か用かー?」
「いや、姉ちゃんが元気無いみたいだからさ」
「そんな事ないぞ」
「学校の人達にはホンジュラスへ行くこと、伝えたのか?」
「……まだ言ってない」
「やっぱりか……実はオレもまだなんだよね」

先生以外はホンジュラス行きを知らないという状況が続いているのは聡も同じだった。
聡がもうとっくに言っているものと思っていた律は、驚いたのと同時に少し安心もした。

296 :西暦 2009年 6月30日:2009/08/10(月) 00:57:40.69 ID:ckJW/eV+0
「一昨日クーデター起きたばっかだから言い難いよなー。タイミング悪すぎだっつーの」

ホンジュラスのクーデターでは律達の出国予定に変化は無かったが、
田井中家全体に不安だけを植え付ける結果となった。

「そうだけどさ、逆に注目されてるし……今がチャンスな気もする」
「え?本当にそう思ってんの?」
「うん。オレ、明日みんなに言うよ!」

聡は堂々と公言した。

「じゃあ私もそろそろ言おうかねー」

そうは言ったが自信は全く無かった。

「あと一週間くらいだしな……」

ここ数日で聡は、ホンジュラス行きを現実的に考える事が出来るようになっていた。
律は聡の成長に感心しつつ自分の不甲斐無さに嫌気が差した。
姉ちゃんも頑張れよ、とだけ言い残して聡は律の部屋を出て行った。

「これじゃ立場が始めと逆じゃんか……」

始めは形だけでも自分が聡をなだめる立場だったが、
今では聡に大きく差をつけられていると思った。

「早いもんだな、6月も今日で終わりか……」

この日を含めて律に残された時間はあと9日となった。

297 :西暦 2009年 7月1日:2009/08/10(月) 01:01:14.90 ID:ckJW/eV+0
桜高の教室に夏の日差しが燦々と照りつける。
流石に七月なだけあって、冷房無しでは今日日の女子高生には少々キツい暑さだ。
律は適度に冷えた教室の中で聡のことを考えていた。
たぶん聡は今日みんなに告白する。
それは律に少なからずプレッシャーを与えていたが、まだ踏ん切りはつきそうにない。

「りっちゃん、次の授業何だっけ?」
「え!? な、何が?」

律は考え事をしていたので突然の唯からの質問に激しく動揺した。

「いや~、ただ次の授業何だったかな~って」
「そ、そうか。確か英語だった気がするぞ。あー、課題やってなかったなー」
「え~!? 宿題なんてあったったけ?」
「わが同士よ!共に説教を食らいましょう!」

律は久しぶりに素の自分を見せてしまった気がして焦っていた。
やはり油断すると感情をコントロールするのが難しくなるようだった。
そして、さわ子との約束もまだ守れそうになかった。
自分にはまだ無理だと改めて実感した律は、帰宅後に聡の様子をうかがうことにした。

301 :西暦 2009年 7月1日:2009/08/10(月) 01:07:46.14 ID:ckJW/eV+0
一方聡はこの日、クラス全員の前で自分が
ホンジュラスに行かなくてはならない事を告白していた。
律は帰宅してすぐに聡の偉業を知ることになった。
律の目には聡の顔がいつもより清々しく映った。

「いや~、緊張したけどスッキリしたよ」
「やるじゃーん、聡。私は勉強しないとな。一応まだ受験生だし。じゃ!」

律は聡に軽い祝辞を述べた後、する気もない受験勉強にかこつけて自室へ向かった。
未だに自分が告白出来ずにいることを伏せたままにして。