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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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407 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/16(日) 18:56:12 ID:8Kbkznjf
限界というのはなんにでもある。世界に永遠も無限も求めるべくがないように、どこにだって限界というのは存在する。
例えばどんなに立派で大きなダムだって、限界水量を超えて水を注がれ続けていたら、溢れ出してしまうだろう。
ふと浮べたその例えはまさに、今の私の状態を的確に表しているようだった。
「あず…にゃん?」
私の下で、先輩がきょとんとした声を上げる。その表情も、まさにそんな声を上げるに相応しい、きょとんとしたもの。
今何が起こってるかわからない、そんな表情。柔らかなクッションの上に身を横たえ、無防備な瞳で私を見上げていた。
それに、とくんと私の胸は高鳴った。でもそれはきっと気のせいなのだろう。
だって、私の鼓動はさっきからずっと、心臓がはじけてしまうんじゃないかと言う勢いで鳴り続けているのだから。
先輩の腕を掴んだ手に、きゅっと力を込める。先輩が逃げてしまわないように。
逃げてしまわないようにして―このまま先輩を捕まえて―私は何をしようとしているんだろう。
そう、わかってる。ついさっきまで私に向けられていた笑顔を、私のものにしてしまおうとしてるんだ。
私以外にもあっさりと向けられてしまうそれを、私だけって、そんな形に閉じ込めておきたいって。
こんなのいけないことだって分かってる。無理矢理にこんなことをしてしまうなんて、駄目だってことわかりきってる。
だけど、もう自分を止められそうにない。そう、限界を超えて注がれ続けていたそれはもう既にあふれ出してしまったから。
先輩が好きで好きで好きで―どうしようもなく大好きだってことが。
「…先輩がいけないんですよ」
だから、これは先輩が悪い。思わせぶりな態度をずっと続けていて、それでも最後の一線は絶対に超えてくれなくて。
私を翻弄し続けていた先輩が、全部悪いんだ。
―そんなわけないのに。
冷めた自分の声が、頭に響く。それを振り払うように、何処か留まろうとする自分を無理矢理押し付のけるように―
私に押さえつけられて、身動きのとれない先輩に唇を合わせた。

「…っ」
先輩の体がビクッと震える。触れ合う部分から、それが伝わってくる。
それが湧き上がらせたのは、どうしようもなく深い後悔だった。
慌てて身を離す。すぐにそうしてしまえば、今の出来事は無かったことに出来ると妄信するかのように。
それでも唇にはまだ先輩の柔らかな感触が残っていて、それはまるで烙印のように、自分が今してしまった事実を押し付けてきた。
「…あ…ぅ」
それは、もうどうしようもないほどに甘いものだと、ずっとそう想像していた。いつも夢に見ていたそれは、その中では常にそう再生されていて。
けれども、今のこれはただひたすらに熱く鋭く尖っていて、私を苛むものでしかなかった。
でも、それをそうしてしまったのは、他ならない自分自身だと。罪と罰の正当な因果関係だと。それに、どういい逃れようのしようもなかった。
私は今、無理矢理先輩を押し倒して、その唇まで奪ってしまったんだ。
先輩の了承も得ず、それどころかその行為を先輩のせいにまでして。踏み込んではいけない領域に、土足で踏み込むようなそんな真似をしてしまったんだ。
―最低だ。
そんな言葉しか浮かんでこない。そう、先輩は何も悪くない。私が勝手に思いつめて、思い悩んだつもりになって、挙句劣情を暴走させて。
それを先輩にぶつけてしまった。きっと、傷付けてしまった。
こんなの、許されるわけがない。許してもらえるわけがない。許されて、いいはずがない。

でも、そうしたら―許されなかった私は、もう二度と先輩の傍にいることは出来ないの…?

そこで、私は再び愕然とする。私に浮かんだ後悔は、先輩への罪の意識ではなく、突き詰めればそんな自分本位のものだったから。
なんて私は―駄目、本当に、こんな私が先輩の傍になんかいちゃ―
408 :押し倒しゆいあず2/2:2009/08/16(日) 18:56:50 ID:8Kbkznjf
「あずにゃん!」
身を翻し、とにかくその場から逃げ出そうとした私を、何かがぎゅっと捕まえた。
考えるまでもなくわかる。この暖かさも、柔らかさも、匂いも、私をふわりとさせるこの全ての要素は、それが唯先輩であることを示している。
―駄目です、先輩。こんな私なんかに触れちゃいけないんです。先輩は優しいから、こんな私でも許してくれようとするんでしょうけど。
―私はこんなにも汚いから、それが先輩を汚してしまうのが嫌なんです。さっきだって、私は―!
私は、とにかく先輩から逃れようと、ばたばた暴れた。そのつもりは無かったけど、何回かぶつような形にもなってしまったと思う。
だけど、先輩は私を離さなかった。それどころか、ぎゅっと力を込めると。ぐいっと私の体を引き倒す。
体格で劣る私は、それから逃れることが出来ず、どさりと倒れこんだ。ふかふかのクッションで怪我はないけど、衝撃に一瞬だけ動きが止まってしまう。
それでも何とかもがき続けようと、急いで取り戻した視界に映ったのは、それを埋め尽くそうとする先輩の顔だった。
「え…?」
一瞬後、唇に生まれた感触は、さっきとまるで同じもので―それでいて決定的に違う何かで。
それを私はどう理解すればいいのだろう。
混乱した頭は、体の制御を忘れ、もがこうとしていた私の腕はパタリとクッションの上に落ちる。
それをぎゅっと先輩の腕が掴んだ。私が逃げられないように、逃げてしまわないようにと。
―そこでようやく、私はこのシーンが先程の焼き直しだということに気が付いた。ただ違うのは、組み敷いているのが唯先輩で、組み敷かれているのが私ということ。
「…んぅ…っ」
そして、先輩は私のように直後身を離してなんてくれなかったということ。つかんだ腕も、あわせた体も、重ねた唇も、離してくれる気配すらない。
伝えられるのは、いつも感じている柔らかくて暖かくて優しい先輩。
ただ、それはいつもよりずっと熱くて、それが私の思考をとろとろに溶かしてしまうまで、先輩は許してくれなかった。
「…は…ぅ」
へなり、と私の体から力が抜ける。まるで糸を抜かれた操り人形のように、体に力が入らない。そのくせに、感覚だけはやたら鋭敏で。
ただひたすらに唯先輩のことを感じていようと、その方向だけに意識が開かれているようだった。
そこでようやく、先輩は私の唇を解放してくれた。少し距離が開いて、初めて読み取れた表情は、今まで見たこともないほど優しく暖かな笑顔だった。
それが、きゅっと私を抱きしめる。
「…ごめんね、あずにゃん」
「な、なんで…」
先輩が謝るんですか、とは言わせてもらえなかった。
再び合わせられた唇を離すと、先輩はすまなそうな笑みを浮かべる。
「…私ね、あずにゃんの気持ち、気が付いてたんだ」
「え…?」
思いもよらなかった言葉に、私はきょとんとさせられる。
「でもね、怖かったんだ。それを信じて踏み込んでいいのかって。だって、もしそれが間違ってたら…きっとあずにゃんは私を嫌いになっちゃうから」
「唯先輩…それは」
先輩の声に混じるのは、明らかな謝罪の意。だけど、私はそれよりも、それが意味するところのほうに気を取られていた。
それはつまり、唯先輩のほうも私の方を―そう思ってくれてたということでいいんですよね。
「でも、それがあずにゃんをずっと傷付けていたんだね…ごめんね、私…私がもっとしっかりしてたら、あずにゃんを泣かせたりしなかったのに」
そういうと、唯先輩はじわりと目じりに涙を浮かばせた。
私は慌てて手を伸ばすと、そうっとそれを拭い取る。先輩が泣くことなんてない。
だって本当にそうだったとしたら、踏み出せなかったのは先輩だけじゃない。待っているだけの私もそうだったんだから。
「あずにゃん…?」
それに、今するべきは謝りあうこととかそんなのじゃなくて。
「先輩、聞いて欲しいことがあるんです…こんなことして、本当に今更なんですけど」
きっと、今ようやく形になったそれを、ちゃんと言葉にして伝えることだと思うから。
「…うん、聞かせて」
私の上で、先輩がきゅっと表情を引き締める。
その腕は私を抱きしめたままで、私の腕もまた、先輩の背中に回されていて。
お互いの顔は触れ合ってしまうほどの距離。実際、何度か触れ合った唇は疼くような熱を帯びていて。
―本当にこんな状態で、何を今更という感じですけど。
くすりと一度小さく笑みを浮かべる。それに釣られて、先輩がにこりと笑みを浮かべたそのときに。
私に触れる全て、それが私の中に生み出すもの、その全ての思いをこめて、その言葉を小さく囁いた。




すばらしい作品をありがとう