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438 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:29:22.07 ID:cfFqLyDVO
【引き出しの中のアルバム】

それは夏休みのある早朝のことだった
唯のもとにメールが届いた。律からの一斉送信のようである

『今日の午後、音楽室で練習しよっ!』

特に予定も無かったので、唯は行くことに決めた

「『いくよ~』っと。でも、りっちゃんにしてはめずらしいなぁ」

確かに律はいつも音楽室でぐだぐだしているのが常である
だが、練習熱心になったのはいいことだ。唯は特に気にも留めなかった

「やっほ~、みんな」

唯が音楽室に入ると、すでに4人は練習の準備をしていた

「おそいぞ、唯」
「ごめんごめ~ん」
「じゃ、今日はふわふわ時間の合わせからやろうか」
「おっけいっ!」

いつものように練習が始まった。そう、いつものように…

440 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:32:14.08 ID:cfFqLyDVO
空が夕焼けに色に染まってきた頃。5人は練習の合間の雑談を楽しんでいた


「…あはは!唯は夏休みの間もねぼすけなんだな!」
「そ、そんなことないもんっ!」

唯は口を軽くとがらせて反論する

「もう…でも今日の朝はびっくりだったよ!」
「何かあったんですか?」
「だって、りっちゃんから練習しようよってメールが来たんだもん。めずらしいなぁって」

その時、当の本人である律の表情が固まった

「…え?」
「りっちゃんもやる時はやるんだね~」
「…おい唯。メールなんて送ってないぞ」

441 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:34:33.43 ID:cfFqLyDVO
唯が首をかしげる
「…?どういうこと?」
「あたしは澪から練習するぞってメールが来たから…」
「律…私もメールは送ってないぞ」

澪が震える声でさえぎった

「む、ムギから練習しようって…」
「そんな…私は唯ちゃんからメールが…」
「私は澪先輩からきたんですけど…」

5人は言葉を失った
そう、誰一人としてメールを送っていないのだ
全員、誰かからメールを受け取っているはずなのに

「…こわい…こわいよ…」

澪は膝を抱え込んでうずくまってしまった

442 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:35:41.01 ID:cfFqLyDVO
「大丈夫っ!?澪ちゃん」

唯は澪の元に駆け寄った
律が首をかしげる

「それにしても、これは…怪奇現象だよなぁ」
「そうですよね。こんなことってあり得ない…」
「誰かのイタズラってこともありえますわ」
「ムギ、そんなことってあり得るのか?」
「えぇ、他人のアドレスになりすますイタズラもあるそうですから」
「でも…」

ムギの話を聞き終わると、唯がつぶやいた

「…なんのためにやってるんだろうね?」
「それは…」

思わずムギも言葉に詰まる

「気味…悪いや。とりあえずここから出ようよ」
「そう…ですね。澪先輩、大丈夫ですか?」
「あぁ…何とか」

澪がゆっくりと立ち上がると、5人はドアに向かって歩き始めた
ドアノブを唯が回そうとする


443 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:37:34.83 ID:cfFqLyDVO
「あれ…?」
「どうした?唯」
「開かない……」
「…冗談言ってる場合じゃないぞ」
「ホントだよりっちゃん!ほら」

そう言って唯はドアノブを再び回す
 …ガチャガチャ
だが、ドアは開かない

「もういい。あたしが開ける」

いてもたってもいられなくなったのか、律がドアノブを回した

「……?」
「ほら、開かないでしょ」
「くそっ!なんでっ!」

律は思い切りドアを蹴った…が、もちろんドアはびくともしない

444 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:41:34.00 ID:cfFqLyDVO
「もうやだ…」

また澪がその場にしゃがみ込んでしまった

「なんなんですか、これ…」

梓も立ち尽くす

「もしかしたら…これは」
「ムギ、何かわかるのか?」
「私たちは悪霊に誘い込まれて閉じ込められてしまったのかも…」
「…そう考えるしかないよなぁ」

律が乾いた笑い声を上げる

「おばけさん!ここから出してぇ!」

唯がドンドンとドアを激しく叩く。だが虚しく叩く音が部屋に響くだけだった

446 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:44:12.72 ID:cfFqLyDVO
「でも、ここはいつも使っている音楽室なんだぞ?なんで急にこんなことに?」
「もしかしたら、何か封印のようなものを解いてしまったのかも…」
「そんなバカな…って!そういえば…」

律は終業式の日を思い出していた
その日5人は音楽室の大掃除をしていて、律は棚の整理を担当していた

「これ、いらないかなっ?」

そう言って律はやけに古めかしいアルバムのようなものを中身を見ずにゴミ袋に入れてしまったのである

「それは、どこにあったものなんですか…?」
「確か、ここに…」

引き出しを開くと、律は絶句した





アルバムは、そこに、あった



447 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:47:12.46 ID:cfFqLyDVO
「そんな…確かにゴミ袋の中に入れて捨てたのに…」
「これ、そうとう古そうですね」
「さわちゃんのやつと比べても全然古そうだね」

古そうに見えるが、何の変哲もない、ただのアルバムだった
逆にそれが唯達には怖く見えた

「…開いてみませんか?」
「そ、そうだよな。やっぱりここに秘密があるのかも…」
「こ、こわいよぉ。やめようよぉ」

思わず唯が弱音をもらす

「しょうがないだろ。ドアは開かないし、まさか窓から飛び降りるわけにもいか
ないし…」
「電話してみたらどうですか?」
「そうだよっ!あずにゃんが言うとおりだよっ!憂に電話してみるねっ!」

唯は携帯を開いた。そして、凍り付いた

「もしかして、やっぱり…」
「圏外。だ、そうです………」
「あたしのもさっき見たら、圏外だったんだよ…」

はぁ、と律はため息をついた

「開けるしか、無いよなぁ」

そう言って律はアルバムを開いた

450 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/12(水) 23:49:58.51 ID:cfFqLyDVO
「…これって…」

白黒写真ばかり目につくそのアルバムは、どうやら昔の文化祭の様子を撮影した
もののようだ
でも、何かがおかしい。パッと見ただけでは分からないが、どうも違和感を感じ
てしまう

「なんでしょう…このアルバムを見てると、寒気がしませんか…?」
「あぁ、確かになんか…」

言いかけて、最後のページを開いた瞬間、律はまた絶句した

「なんだ、これ…?」

鉛筆で小さな文字がページ中に書き込まれていた
真ん中には一枚の写真。女の子が写っている

457 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/13(木) 00:02:53.75 ID:fvr+cHqzO
「これ、よく見ると『好き』って書いてありませんか?」

梓は小さな文字を目を凝らして読もうとしていた
その奇妙な文字列は

好きすき好き好き好きすきすきすきすきすきスキ好きすきすきすき

と、延々と『好き』と書いてあるだけだった。だが、あまりにも文字が小さすぎ
て潰れてしまい、うまく読めないのである

「気持ち悪い…吐き気がしますわ」
「このアルバムの持ち主さん、よっぽどこの子が好きだったんだね」
「そ、そうみたいだな…」

律は唯の素直な感想を生返事で流した

「この女の人…どことなく澪先輩に似てる…」

梓がつぶやく

「え…?」

その時、澪の悲鳴が聞こえた

「きゃぁああああああああああああああああ!」

458 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/13(木) 00:05:47.84 ID:fvr+cHqzO
「くそっ!そういうことかっ!」

律は踵を返して澪の元へ走った

「澪が危ないっ!」

澪はドアの少し手前の所で尻もちをついていた
そして、その視線は開いたドアにくぎ付けになっていた

「………ひぃっ!」

開いたドアの奥には学生服姿の男が立っていた
だが…首が無かった

「お、おいっ!お前っ!澪から離れろっ!!!」

律の言葉を無視して、男は澪に近づく

「いやぁあああああああああああああああああああ!!!!!!」

459 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/13(木) 00:07:12.10 ID:fvr+cHqzO
唯がとっさにアルバムを男に向かって投げつけた

「みおちゃんから離れろぉおおおお!」

男にアルバムが当たるか当らないかだった。男は消えた
ドン!とアルバムが壁に当たる音だけが聞こえた

「今だ!みんな逃げるぞっ!!!!」

律は澪を肩車し一気に音楽室から飛び出した。他の3人もそれに続く

「とにかく!学校から外に出るんだっ!!」

どれだけ走ったのか分からない。気がつけば5人は校門の前まで来ていた

「はぁ、はぁ…」
「何とか…逃げ出せましたね…」
「こ、こわかったよぉ~!」
「唯ちゃん…よしよしっ」

ムギが泣きだした唯の頭をなでる

「一体…何だったんだ…」

5人は、ただただ、怯えていた

460 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/13(木) 00:09:11.34 ID:cfFqLyDVO
次の日、5人は学校に来ていたさわ子に事情を説明し、いっしょに音楽室に来てもらった
ドアは開いたままで、そのそばにはアルバムが落ちていた

「これは……!!噂には聞いていたけど…」

さわ子は青ざめた

「何か知ってるの?さわちゃん先生!」
「その昔…この桜が丘高校の生徒に恋をした男子学生がいたそうよ。ただ……」
「ただ…?」
「その男子学生はその子に告白したものの、振られてしまったらしいの。それ
で、彼はある朝、いつもの駅のホームで彼女を見かけると、そばまで行って…」

さわ子はしばらく黙りこんでいたが、苦々しく言葉を発した

「電車に飛び込んだらしいの…。その時、首がはねられてしまって…」
「ひどい……目の前で自殺なんて…」

ムギは手で顔を覆った

462 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/13(木) 00:11:21.21 ID:fvr+cHqzO
「その後、その女の子は精神がおかしくなってしまったそうよ。結局この学校を退学して行方知れず、らしいわ…」
「うぅ…なんて酷い話なんだ…」

さすがの律も耐えかねているようだ
澪はもう話の始めから物陰に隠れている

「それで、このアルバム…気付いた?常にその女の子がどこかしらに写ってるのよ」
「あぁ。確かに…」

パラパラとアルバムをめくりならがら、4人は納得したようだ

「だから、違和感があったんだ…」
「それから、この最後のページだけど…」

最後のページを開いて、さわ子が言った

「これは、振られた日の晩。つまり、自殺する前日に書かれたものだそうよ」
「………」

沈黙が続いた

463 :ギー助 ◆CvdBdYFR7. :2009/08/13(木) 00:14:04.81 ID:fvr+cHqzO
「このアルバムの話はね、私がこの学校に在学していたころは、噂話として耳にしたものだったわ。でも、本当に存在したなんて…」
「きっと…女の子が退学する前にこの学校に持ち込んだんでしょうね」

梓がアルバムを閉じながら、つぶやく

「えぇ…きっと、そうね。それにしても…」
「先生…?」

唯がさわ子の顔を覗き込む
さわ子はうずくまっている澪をチラリと見てから

「何でもないわ。とにかく、これは処分しましょ」

と言って音楽室を出て行った




その後、アルバムはお祓いを経た後、焼却処分された

今日も、音楽室では5人の笑い声が聞こえる……


Fin