このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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484 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 03:23:29 ID:CJSGaX1i
「澪は私の嫁!」
「違うだろ、律が私の嫁だ!」
放課後、いつものように音楽室の扉を開けた私を出迎えてくれたのは、そんな二つの台詞だった。
―なんですか、これは。
思わず脳内で突っ込みを入れつつ、後手に扉を閉める。
ちらりと横に視線を動かすと、予想通り傍観者に徹しているムギ先輩が目に入る。
とりあえず、ヒートしている二人は置いておいて―どうせ話しかけても私なんか目に入らなさそうだし―そっちに歩み寄った。
「ムギ先輩、とりあえずよだれは拭いた方が。カメラに落ちちゃいそうですよ」
「はっ…ありがとう、つい熱中しちゃってたわ」
「いいえ、それより、何があったんですか。あ、いつものことなのは分かりますけど」
「それがね…」
―つまり、ムギ先輩曰く。
律先輩が二人のどっちが嫁かなとか言い出して、双方共に相手を嫁指定してしまって、お互い譲らず今の状態にあるということらしい。
うん、全くもって、いつものことだと言うことがわかった。
「いつものこととは言え、本当に仲がいいですね」
「ふふ、そうね。でも唯ちゃんと梓ちゃんも仲がいいじゃない」
不意に唯先輩とのことを引き合いに出され、私は慌てる。
「べ、別に唯先輩とはそんなに…」
と言いつつも、目の前の光景、二人の言い合いを自分と唯先輩に置き換えてしまったりしてる。
―あずにゃんは私の嫁です!―なんて言いながら、ぎゅっと私を抱きしめる唯先輩―
…いいかも…じゃなくて!何考えてるんだろ、私。
「いいと思うわ…」
「また人の心を読まないで下さい!」
ムギ先輩は普段はいい先輩なんだけど、ちょっと油断をするとこれだから。もう。
―でも、そっか。先輩と私、どっちが嫁かって考えたら…やっぱり私の方なのかな。
普段はぽけーっとしてるけど、ここぞって時には頼りになるし…やっぱりそういうときの唯先輩はすごいって思うから。
そうすると、結婚式だと先輩のほうが新郎役で、私が新婦ってことかな。
純白のドレスに身を包む私を、タキシードに身を包んだ唯先輩が優しく手を引いてくれて―
妄想が悪化してる!悪化してるから、私!
ぶんぶんと首を振ってそれを振り払う。おそらく私の顔は真っ赤になってることだろう。
うぅ、今唯先輩に来られたら、どんな顔すればいいかわからないよ。
そう思って頭を抱えてると、突然ンぐいっと私の手が引かれた。
びっくりして、体勢を立て直す間もなく私の体はどこかに引き寄せられてて、気が付くと律先輩に抱えられていた。
「な、梓を引っ張り出してどういうつもりだ、律!」
どうやら私は律先輩と澪先輩の痴話喧嘩に巻き込まれてしまったみたい。
睨み合う二人の間に、私は引っ張り込まれた形だった。
―何で私を。…というかこんなところに連れ込まれても、本気で困るんですけど
身をよじって律先輩から逃れようとするものの、律先輩はなかなか離してくれない。
私を挟んで喧々囂々。ああもう、いい加減にしてください!
そろそろ怒ろうかと、そう思った矢先、律先輩がとんでもないことを口にした。
485 :嫁ゆいあず2/3:2009/08/22(土) 03:30:13 ID:CJSGaX1i
「もういいよ、そんなに私の嫁がいやなら、今から梓が私の嫁だ!」
「な、な…!」
「そ、そんなの駄目です!」
そして真っ先に反応したのは、口篭る澪先輩のほうではなくて、私の方だった。
それは思ったよりもずっと大音響だったようで、騒がしかった室内が一気にシーンとなる。
―あ、あれ?
きょろきょろと辺りを見回すと、律先輩も澪先輩も、ムギ先輩までもぽかーんと私のほうを見ている。
うん、これは、私のせいだよね。な、なんとかしなきゃ。
とりあえずこのいたたまれない空気を変える台詞を一生懸命考える。というか、咄嗟とはいえなんで私はこんなに過剰反応しちゃったんだろう。
混乱している頭がぐるぐる回りだす。
「わ、私は律先輩の嫁じゃないです!」
口をついて出る言葉。うん、当たり前だ。知らない間に婚姻届でも出されてない限りは、そんな事実はない。
わざわざ言うまでもない台詞を、なんで私は口にしてるんだろう。
―ああ、そうだ。それ以前の問題で、私は律先輩の嫁になれるはずがないんだ。だって私は、私は―
ふわりと風景が切り替わる。さっき思い浮かべた、想像の中の光景がふわりと私を包み込む。
そう、そのバージンロードの上では、私は純白のウェディングドレスを纏っていて、その隣を歩くのは凛々しくタキシードに身を包んだ―
「わ、私は唯先輩の嫁ですから!」
「やっほ~」
私がそう叫び終えるのと同時に、扉の方からそんな声が聞こえてきた。
瞬間、我に帰る。それも、ザパーンと頭からバケツいっぱいの氷水を浴びせられたような勢いで。
しゅばっと動いた視線が捉えたのは、扉を開けてぴしっと片手を上げている唯先輩の姿。
それはまさしく予想通りの光景。どう聞いても今のは唯先輩の声だったし、時間的にもそろそろ来てもおかしくは無かった。
だけど、なんで、よりによってこんなタイミングを選んでやってくるんですか。
「あーずにゃんっ!」
いつもの一連のプロセスを全部破棄して、唯先輩は真っ直ぐ一直線、ぎゅーっと私に抱きついてきた。
「あずにゃんは私のよめだったんだね~」
そしてそんな絶望的な台詞を口にしながら、すりすりと頬擦りしてくる。
状況的にそう望むのは不可能だとわかっていたけど―やっぱり聞かれてたんだ。
どうしよう、どうフォローしよう。このままじゃ私は自他共に認める唯先輩の嫁ってことになってしまう。
それは―散々妄想してたことだし、嫌ってわけじゃないけど…こう、なんというか、心の準備というものがほしい。
まさかそんなの全て飛ばして、こんなことになるなんて思いもよらなかったから。
―ああもう、外野の三人、ニコニコ笑いながら拍手しないで下さい!
さっきまで喧嘩していたのが嘘みたいに、律先輩と澪先輩と、そしてムギ先輩は並んで生暖かい眼差しをこちらに向けている。
見事なまでに祝福モード。きっと睨んでも、解除される様子すらない。
そして嬉しそうに私を抱きしめる唯先輩。
―この完全な包囲網はなんなんですか。
そもそも、きゅーってしてくる唯先輩は反則としか言いようが無い。柔らかくて暖かくて、いい匂いがするから、私の思考はすぐにとろんと溶かされてしまう。
実際、その中にいる私は、それに抵抗しようとする気がどんどん無くなって行ってる。
486 :嫁ゆいあず3/3:2009/08/22(土) 03:32:36 ID:CJSGaX1i
―もう、いいです。認めればいいんでしょう、認めれば。
「そうですよ、私は先輩の嫁です」
開き直って、ぎゅっと逆に先輩を抱きしめ返す。
「「「おー…」」」
と上がる三つの歓声。うるさいです、もうどうでもよくなったんですから。嫁になったからには、もう目一杯いちゃいちゃしてやります。
「あずにゃん、積極的~」
「嫁ですから、いいんです!」
「そっかぁ…」
先輩の胸に顔を埋める私の頭上で、ほんにゃりと笑う気配。その直後、私はいつもよりずっと深く、先輩に抱きしめられてた。
私からも抱きついているから、当然といえばそうなんだけど、その感触はなんとも例えようもないほど―心地よかった。
まるで全身をくまなく包まれているよう。包まれて捉えられて、全身くまなく先輩に染め上げられてしまうようなそんな感覚。
「はぅ…」
思わず気が遠くなる。先輩の嫁になってよかった。こんなに気持ちよくなれるなら、もっと早くこうなっておけばよかった―
「ねね、ところでさ」
夢見心地の私に、そんな先輩の声が聞こえてくる。なんだろうと、ほんわりとした意識の中、耳を澄ます。
そう、そのときの私はまさかそんな台詞を耳にするなんて、文字通り夢にも思わなくて―
「さっきから言ってる"よめ"ってなあに?」
―ぎゅうっと抱きしめられたままずっこけるなんて器用な真似をすることになった。

その後、先輩にきちっと嫁とは何か教育を施し、改めて夫婦としての門出を誓ったことは言うまでもない。
何か根本的に色々と間違えてる気がするけど、きっと突っ込んだら負けなんだと思う。





すばらしい作品をありがとう

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最終更新:2009年08月22日 10:23