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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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546 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/25(火) 06:42:43 ID:vflqH1Ly
最近澪先輩と唯先輩が上機嫌だ。
多分、というよりは確実にそうなんだろうけど、やはり自分の歌ができたからなんだろう。
澪先輩はといえば、今鼻歌を歌いながらベースを弾いている。勿論聞こえてくるハミングは「Heart goes boom」
腕はいいのに、恥ずかしがりやな性格で損をしている先輩には、いい歌だと思う。本当なら、もっと自信過剰になるくらいでもいい人なんだから。
今聞こえてくる音色が、以前のものよりもずっと深く重く、そして澄んで聞こえることがその証明。
唯先輩はといえば、同じく鼻歌を歌いながらキュッキュッとギターを磨いていた。ニコニコしながら、楽しそうに行為を繰り返してる。
その分練習に当ててくれれば、と思わなくもないけど、そうしてギターと触れ合うのもやはり大事なことなんだろうと先輩を見てると思えてくる。
唯先輩の歌―「ギー太に首ったけ」
聞くだけで、本当に大事にしてて大好きなんだってことが伝わってくる、そんな歌。
―そんな唯先輩を眺めながら、ふととある疑問が頭に浮かんだ。
少しボーっとしていたせいだろうか。私はそれを吟味することもなく、あっさりと口にしてしまっていた。
「ギー太って、男の人なんですか?」
口にしてから、何で私はこんなことを聞いたんだろうと激しく後悔した。ギターはギターだし、そもそも無機物だし。
どこから男の人なんて発想が出てきたんだろう。それは、確かに「太」という妙に男らしい名前がつけられているからなんだろうけど。
でも、頭の中でちらりと浮かばせるくらいならともかく、こうして口にしてしまうなんて。
唯先輩もギターを磨いていた手を止めて、え?と書かれた顔をこっちに向けていた。不意をつかれた、そんな顔。
「ええと、ギー「太」って名前じゃないですか」
とりあえずそう続けてみる。その直後、なんでもなかった振りをして話題を打ち切ってしまえばよかったと再び後悔した。
ううん、今からでも遅くはない。何か別の話題を振って、打ち切ってしまえばいい。
それなのにそうしないということは、ひょっとしたら私は本気でその答えを聞きたいと思っているのかもしれない。
まさか。でも、それを否定しきる材料はみつからない。なら、もしそうだとしたら、私は何を理由にしてそんな行動に出ているのだろう。
唯先輩はというと、しばらくきょとんとした顔でこちらを見つめていた。釣り眼がちの私がときに羨ましく思うくるりとした大きい瞳に、惜しげもなく私を映しながら。
ふいっと、何の前触れも無く唯先輩の視線が落ちる。釣られて、私の視線も下へと落ちる。
そして「ギー太」とぶつかった。
直前まで磨かれていたボディはいつもよりも心なしか輝きを増して見える。
一生懸命にそして本当に大事そうに磨いていたさっきまでの唯先輩の姿を見ていた私には、それがたっぷりに注がれている愛情の結晶のように見えていた。
ううん、実際にそのとおりなんだ。そうでなければ、先輩はあんな歌を作ったりしないだろうから。そして、あの歌を聴けば唯先輩がいかにこのギターを、「ギー太」が大好きかってこと、誰にだってわかる。
そんなのずっと前からわかってた。一度お店にメンテナンスに持ち込むような事態にはなったものの、それはただその知識が無かったせいだし。
それまでも、先輩なりにずっと大事にしてきたことはわかっていた。服を着せたり、添い寝をしたり―方向性はおかしいけど。
そもそも、そうでない人にはあんな演奏はできないだろうから。
あの時、ううん、結局は今でも私を虜にしているあの音色を出すなんてできないはずだから。
それは、私が唯先輩を尊敬している部分のひとつで。私はそれを感じることに微笑ましさを覚えていたはずなのに。
何故だろう、今この瞬間の私は―それをなぜか疎ましく思ってしまっていた。
「そっかぁ~ギー太、君は男の子だったんだねっ」
その理由を探り始めるより早く、下を向いていた唯先輩の顔がほわっとほころんだ。
「決めてなかったんですか」
とりあえず、反射的に突っ込みを入れる。冷静に考えれば、それは当たり前のことなんだけど。
そう、唯先輩にもそれは当たり前だったんだ。なのに何故私はそんなことを気にしてしまったのか。
547 :ギー太とゆいあず2/4:2009/08/25(火) 06:45:52 ID:vflqH1Ly
「ギー太~」
別に唐突ということは無かった。構えていたギターを、ひょいっと立ててぎゅーっと抱きしめる。
予備動作から本動作まで、そこに私が驚くような要素は何一つない。緩慢とも柔らかともいえるその動作は、それがなされる前からそれが何か簡単に想定できるものだったから。
けれども、私はそれにどうしようもないほどの衝撃を受けていた。
「大好きだよ~」
ぎゅーっとギー太を抱きしめ続ける唯先輩は、そんなことまで口にしている。うっとりと浮かべられる笑みは、私を抱きしめているときの表情と同じか―ひょっとしたらそれ以上。
もともと表裏のない人だから、その言葉に嘘なんてあるはずがない。その仕草全てがそれを示していて、でも今この瞬間だけは、それが覆されればいいなんて私は思っていた。
「お、唯、ラブラブだなー」
「へへー、そうだよ~」
横から投げかけられる声。唯先輩に触発されたのか、チューニングキーと六角レンチを手にドラムセットのメンテナンスをしていた律先輩が、ひょいっと顔をこちらに向けている。
何の変哲もない、いつもの律先輩の声なのに。その言葉は思ったよりも勢いよく私の側頭部にぶつかってきた。
「…ラブラブ…」
ぼそりと繰り返す。ラブラブ…それは、つまり。
「ギー太は私の恋人だもんっ」
そして更に決定的なフレーズが、逆側からもはや決定的な一撃を私のこめかみにヒットさせた。
「こ、ここここっこっ…」
「なんだぁ、梓。鶏のまねか…?」
あまりの衝撃に舌が回らない。だから私の口はそんな音を紡いでるわけで、決して律先輩の言うような特技を身に着けたわけじゃない。
というか、こんな状況でそんな真似をする余裕があるわけ無いじゃないですか―というか、こんな状況って何だろう。
何で私は、こんなにも動揺してるんだろう。
「いい心がけだと思うぞ。ギタリストにとって自分のギターは、それくらいに思って丁度いいくらいだしな」
いつの間にか演奏を終えていた澪先輩が背後から現れる。そう、まったくその通りだ。澪先輩はいつも正しいことを言ってくれる。
だけど、今の私は何故かそれに―何とか反論できるところを見つけようと―必死になって反発しようとしていた。
「ふふ~ギー太ぁ」
だけどそんな言葉なんて見つからない。私が何もいえないでいると、唯先輩は今度はギー太に頬ずりなんかはじめてて。
それは、いつも私がしてもらってることなのに。ぎゅーっと抱きしめられて、頬ずりして、あずにゃんはかわいいねって言ってくれて。
―だけど、今の先輩の目にはわたしなんて入ってなくて。ギー太だけを映してる。
ううん、それでいいのに。ギターを大事にしてくださいね、なんていったのは私で。そもそも先輩がギー太を大好きなんてこと前から知っていたことで。
なのに、そうだ―それを恋人と、自分の一番の存在だよって先輩があっさり言ってしまったことが―
ぎりぎりと胸が締め付けられる―なんで、私はこんなになってるのかな。
―…まさか、まさかだと思うんだけど、私ひょっとして
―唯先輩のギターに、ギー太に…嫉妬してるの?
まさか、そんな馬鹿なことあるわけない。だいたい、ギターに嫉妬なんて―ありえないです。
そもそも、唯先輩に嫉妬するほど―そんな感情、抱いてるなんて―なんて。
―なんて?
なんで、そこで疑問系になるんだろう。断定してしまえばいいのに、それが出来ない。
ぐるりと思考が回転を始め、私の頭が混乱する。それが、とある答えにたどり着く前に
「…あずにゃん?」
そんな唯先輩の声が、私を現実に引き戻してくれた。
引き戻された私の視界には、いっぱいに広がる唯先輩の顔。
「へ…ひゃっ!!」
慌てて飛びのく。すると、いつもの大きさに戻った唯先輩が残念そうな顔をする。
「何で逃げるかなぁ」
そんな気の抜けた声と共に、ぐいっと先輩の顔がまた近付く。私の懐にきゅっと踏み込んで、すいっと手を伸ばして、あっさりと私を捕まえてしまった。
「あずにゃん、捕獲ぅ!」
何で唯先輩は、こんなに私の隙を付くのが上手いのだろう。迅速ってわけじゃないのに、気が付けば私はいつも捕まえられてしまっている。
548 :ギー太とゆいあず3/4:2009/08/25(火) 06:47:23 ID:vflqH1Ly
「な、なんですか…!」
そう言い返しつつ、私はどこかほっとしていた。元々―内緒だけど―先輩に抱きつかれるのは嫌いじゃない。
そのぬくもりも柔らかさも安心感も、私はこっそり楽しみにしていたりした。それがない日は、何だか落ち着かなく思ってしまうくらいに。
だけど、今はそれだけじゃない。きっと、さっきはギー太を抱きしめていた腕がそこから離れて、今は私を抱きしめていることに嬉しくなってしまったんだろう。
―だから、なんで私は―うぅ、もう、これじゃ本当に!
「なんですかじゃないよぉ~どうしたの、あずにゃん?」
「…ど、どうしたのって、なにがですか…?」
「今。ぼーっとして変だったもん」
「へ…?あ…べ、別に何でも…ないです」
誤魔化そうと先輩から顔を背けようとしたけど、先輩はそれを許してくれなかった。大きな瞳に、きゅっと真剣な光を灯して、私をじっと見つめている。
それは、本当に私を心配してるんだよって気持ちがいっぱいに伝わってきて、私はつい、正直に自分の気持ちを打ち明けてしまいそうになる。
そんなわけに行かないけど。だって、言える筈がない。ギー太に嫉妬してましたなんて。
無機物に嫉妬してたことが露呈するのはまだいい。あまりよくないけど。だけどそれは、それを告げてしまうことは、つまりは裏返すとそれだけ先輩のことが―ということになってしまうから。
―そんなの、そんなこと、言えるはずがありません!
だから私はきゅっと口を閉めて、黙秘を通そうとしてたのに。
「なんだぁ、梓。ひょっとして唯のギターに嫉妬でもしてたのかー?」
「何で律先輩はそんなあっさり言っちゃうんですか!!」
反射的に怒鳴り返して、私はハッと我に帰った。
見回すと、私を抱きしめたままきょとんとしてる唯先輩と、後頭で手を組んだポーズでぽかんとしてる律先輩、同じくぽかんとしている澪先輩と、ビデオカメラを片手にこちらを撮影しているムギ先輩が目に入る。
―最後なんか不穏な行動が見えた気がするけど、それは置いておいて―
これは、今の私の発言は…つまり
「いやー…わりぃわりぃ、まさかマジだとは思わなくってさー」
自分から、隠し通そうとしていたことを自白してしまったってことだ。
―もういいです…律先輩なんて知りません。ごめんなーと手をあわせる律先輩からぷいっと視線をそらして、唯先輩に視線を戻す。
するとそこには私の予想通り、キラキラ目を輝かせて私を見つめる唯先輩の顔があった。
「あずにゃん~~~…!!」
ぎゅーっと抱きしめられる。ほお擦りされる。更には私を抱きしめたままくるくる回りだす。
唯先輩はとっても嬉しそう―だって私はつまり、ギターに嫉妬してしまうくらい唯先輩のことが大好きです、なんて告白してしまったようなものだから。
―ああもう、好きにしてください。もう…
そう言いつつ、私は何故か変に落ち着いた気分だった。先輩たちの前でこんな宣言させられて、あまつさえ唯先輩にそれを知られてしまって、そういうことだって思われてしまって。
いわば、本来の私だったら顔を真っ赤にして否定しているはずなのに。
そのことを先輩が嬉しそうにしているのが―なんだかとても心地よかったから。
「大丈夫だよ、あずにゃーん」
私をぶんぶん振り回しながら、唯先輩は言う。―私は目が回りそうで、あまり大丈夫ではないですけど。
その気配を察してくれたのか、先輩はトンっと私を地面に降ろした。突然軸を戻された体が、ふらりと揺らめき、唯先輩の手がそれを支えてくれる。
「私、ギー太と同じくらい、あずにゃんのこと好きだから」
かくりと私の頭が落ちた。―ギターと同列扱いですか、いえ、別にいいんですけど。
―あれ?
ふと、疑問が持ち上がる。ギターと、ギー太と同じくらい、好き?そこが何故か引っかかる。
だって、さっき先輩は確かにそう言っていたはずだから。
そう、確か、ギー太は唯先輩の―それと同じと言うことはつまり、私は―唯先輩と私は―
―恋人?
ぽんっと私の頭が沸騰する。
確かに、私は今ほとんど先輩に大好きって告げたようなものだし、それを受けた先輩は私のことを好きと―ギー太と同じ、恋人として好きだって言ってくれたから。
つまりは、そういう意味で取るならカップル成立というか、恋人同士って言っても間違ってるってわけじゃない。
―いやいや、私の思考暴走しすぎだから。でもなんでか、もうそういうことにしちゃおうっていうか、そうなっても言いやって方向に勝手に思考が流れようとしてる。
駄目駄目、冷静にならなきゃ。唯先輩のことだもの。きっと、いつものじゃれあい的な…そんな―
549 :ギー太とゆいあず4/4:2009/08/25(火) 06:48:38 ID:vflqH1Ly
「ふふ、あーずにゃん…」
「へ…?」
「むちゅ~」
「…!?!?」
そんな―って表情のまま、接近する唯先輩をよける術もなく、私の唇はあっさりと奪われていた。
はむっと私の下唇を挟み込んで、甘噛みするように動かすと、先輩はまたあっさりと離れる。
「な、な、なにを…」
言葉にならない。だって、先輩の唇が、私の唇に触れて―その箇所が焼け付くように熱くて、上手く動かない。
唯先輩にキスされた、ってその事実が上手く巡ってくれなくて、まるで焼け付くマグマのように私を溶かそうとしてしまってる。
それはつまり、証明だ。仮定として私の中に浮かんだ、恋人同士という関係。それをあっさりと、何よりも明確に唯先輩は明らかなものにしてしまった。
ううん、客観的な事実としてだけじゃない。私の中にあったそれ、その形をもう言い逃れのしようもないくらいに、はっきりを私に突きつけてくれた。
それはずっと、私が望んでいたことだということを。
―何でそんなにあっさりと、そんなことをしてしまえるんですか。
「えへへ、あずにゃん、大好き」
―そんな台詞を、そんなに簡単に口にしてしまえるんですか。
先輩の顔はいつもどおりの笑顔のようで、でも少しだけ頬が赤く染まっていた。
―ああもう、その顔は反則です。
ぷしゅーと私の頭が蒸気を上げる。そりゃもう、こんな熱に当てられたら、私の沸点なんてあっさりと超えてしまってもおかしくない。
意識を保つのも精一杯。ううん、きっとあと数秒も持たずに、私は倒れこんでしまうことだろう。
そんな冷静な自分の忠告に、私はきゅっと唇を噛む。
目が覚めてからじゃ、ちょっと遅い。今この瞬間に、先輩に返さないといけない言葉がある。
―そう、お返しです。こんなにされたんですから、先輩にも多少は同じようになってもらわないと、割に合いませんから。
一生懸命手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめる。いつもは胸に埋める顔をとんと肩に乗せて、まるでキスをするように先輩の耳に唇を寄せた。
「私も大好きです―えっと、愛してます、唯先輩」
記憶はそこまで。自分の台詞が止めになったのか、私の意識はすうっと純白の中に溶け込んで行った。

―追記。
後で聞いた話―私の企みはどうやら成功していたみたい。
意識を失った私を支える形になった唯先輩は、そのあと私と同様ぷしゅーとオーバーヒートしてしまったとか。
あとあと保健室で同時に目を覚ましたときは―それを確認する余裕なんて欠片もなかったけど。
翌日その話を律先輩と澪先輩から聞かされて、恥ずかしがる唯先輩に私はこっそり勝ち誇ったりしてた。
そのあとムギ先輩の「ゆいあずメモリアル」ムービー上映が始まるまでは、の話だったけど。

―ええ、そういえば撮影してましたね、本当に迂闊としか言いようがないです。
―大ダメージですよ…冷静さを欠いた自分を客観的に見るのがこんなに痛いなんて。…なんで唯先輩、そんなに嬉しそうなんですか。
―ちょ…保健室の映像は駄目です!修正いれ…というか見ちゃ駄目です!もう、なんでこんなのまで撮ってるんですか、ムギ先輩!

(終わり)




すばらしい作品をありがとう