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17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/11(火) 14:19:35.84 ID:s8QyDIN90
『傷ついたギー太』

私のドラムは走り気味とよく言われたものだ。
もとより、私の性格がせっかちで、少しがさつなところがあったからかもしれない。
それで、私にはどうしても気に入らないことがあった。
唯のギターが遅すぎるのである。

それが、私の癇に障ってしかたがなかった。
始めのうちはこらえていたものの、だんだんそれが私のドラムに対する声なき反駁に感じて仕方がなかった。
そしてついに私は、唯と二人で練習していたときに癇癪をおこして唯の頬を平手ではたいてしまった。
唯は頬を押さえながらも上目遣いで「ごめんね、りっちゃんごめんね」と悲しい声で繰り返した。

60 :17:2009/08/11(火) 16:59:17.25 ID:s8QyDIN90
それからというもの、私はことあるごとに唯をいじめた。
紅茶を飲んでいる唯の脚を机の下で蹴り、その衝撃で紅茶をこぼしてしまう唯を見て面白がったこともある。
それでも唯は「ごめんごめん、むせちゃって」と紅茶で濡れた顔に笑顔を湛えて弁解し、私を責めはしなかった。

その後も私は唯に冷たい言葉のつぶてを浴びせ、それでは飽き足らず、時には手をあげることもあった。
そのたびに唯はおどおどしながら自分の非を詫びた。
そして卒業も間近にひかえた頃、私はこっそり唯のギターに先の尖った石でいびつなハート型の、目立つ傷をつけた。
61 :17:2009/08/11(火) 17:03:57.77 ID:s8QyDIN90
放課後、唯はそのあくどい悪戯に気がつくと、わが子を抱きしめるようにギターをひしと抱き、小さな背中を震わせて
おいおい泣いた。
私はそれを見たとき、さすがに罪悪感を感じた。悪いことをしたと思った。

それから時が経ち、私は高校を卒業した。
専門学校へ通い始めたが、どうにもなじめず学校を辞め、その日その日をふらふらと暮らしていた。
ある日、三条の商店街へ買い物に出かけたときであった。
商店街の小さなライブハウスへ相変わらずのろのろとした動きで入っていく唯を偶然見かけた。
62 :17:2009/08/11(火) 17:08:55.32 ID:s8QyDIN90
私の心に、またもや意地の悪い感情が生じた。
「よし、再会を祝してペットボトルの一つでも投げつけてやろう」
私は飲みかけのペットボトルを手に、薄暗いライブハウスへ入っていった。

看板を見ると、どうやらこれが解散ライブになるらしい。
私が入ったときには一曲目の演奏が終わろうという時で、唯は乱れた呼吸を整えて、客に話をしようとしていた。
「話の途中にペットボトルを放り込んでやれ。どんな顔をするだろう」
私は少々残酷な気持ちで唯の話が始まるのを待った。

64 :17:2009/08/11(火) 17:12:31.78 ID:s8QyDIN90
「みなさん、今日はお忙しい中来ていただいてありがとうございます」
唯は顔を少し赤くして言った。
「これは、私事で恐縮なのですが」
息せき切って言葉を継ぐ。
「こうして私がギターを続けていられたのも、ひとえに桜高軽音部の仲間のお陰なんです。
そして、卒業前に、ドラムのりっちゃんがつけてくれたこのギー太のハートマークは、悲しいときに希望の光をくれました。
りっちゃんはいつも明るくて親切で、私の憧れでした。今、私はみなさんと、できることならりっちゃんに感謝の気持ちを伝えたいです」

握り締めていたペットボトルが床に落ち、私の目からは涙がとめどなく溢れてきた。
会場に響く唯の優しい言葉が、私の心に巣食っていた黒い淀みをすっかり洗い流してくれた気がした。
「わかっていたのか、唯。わかっていたのか」
私はかすれた声でつぶやき、逃げるようにライブハウスを後にした。

待とう、ライブが終わるまで外で唯を待とう。
伝えるべき言葉はたくさんあるのだ。
その言葉を伝えなければ、後悔の念はきっと私に押し寄せる。 (了)