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このSSは『梓「唯先輩の馬鹿!!大好き!!」』というスレに投下されたものです
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1251462275/

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:24:35.44 ID:XUkZd3y20

「逃がさないわよ!」
「いぃぃやあぁぁぁぁ!」

 こんな始まり方はどうかと思いますが、軽音部はこういうところです。
 もう慣れました。慣れたくなかったけど慣れました。

 慣れました。中野梓です。

 声の主は勿論、逃げ惑う澪先輩と、それをこれでもかと追いかけるさわ子先生。
 音楽室から始まったその攻防は、廊下を経て、下のフロアにて繰り広げられていたようだけど、
 結局、舞台を音楽室に戻したようです。
 クールな澪先輩も素敵だけど、こういう澪先輩もなかなか……じゃなくて。
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:26:49.53 ID:XUkZd3y20
梓「あれ、なんとかならないんですかね……?」

律「無理だろ、ああなるとさわちゃんは服着せるまで諦めないからなー」

 野生のカモシカを思わせるような、しなやかで可憐、
 かつ一切無駄の無いフォームで軽やかに室内を駆け巡る音楽教師の手には、
 白とピンクを基調としたフリフリの衣装。
 そんな恥ずかしい衣装を喜んで着るのは、唯先輩かムギ先輩くらいなものだと思うのだけれど。
 当の唯先輩はといえば、私の横でギターを練習していたりする。
 この日は珍しく、教えて欲しいと私にせっついて来たので、素直に教えてあげているところなのである。
 どうしてかは分からないけれど、唯先輩にやる気があるのは私としても嬉しい。
 嬉しいけれど、一つだけ。今の私には気になることがある。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:28:51.97 ID:XUkZd3y20
梓「あの、唯先輩」

唯「どうしたの、あずにゃん?」

梓「さっきから、ムギ先輩がものすごい笑顔でこっちを見てる気がするんですけど」

 「女の子同士っていいわよね」という素敵な人生のスローガンを掲げる百合と沢庵の申し子は、
 まるで女神のような笑みを携えて、明らかに許容量を超えたティーカップに、
 ゴールデンティップを多量に含んだ高価なダージリンを淹れ続けている。

唯「そうかなぁ。ムギちゃん、いつもあんな感じだよ?」

梓「いや、それはそれで問題な気が……」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:31:08.42 ID:XUkZd3y20
 私達の方と澪先輩達の方とを交互に、首だけを回転させて、とてもいい笑顔で見つめている。
 せめて、零れ続けている紅茶にも目を向けて欲しいものだけど。
 隣で「おーい、ムギー、帰ってこーい」と突っ込む律先輩の声など、何処吹く風である。

唯「それより、ここなんだけど」

梓「あ、そこはですね……」

 意識を唯先輩の方に移した次の瞬間――。
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:33:51.51 ID:XUkZd3y20
 ドカッ!

梓「きゃっ!?」

 不意に、突然私の背中に強い衝撃が走った。
 なにかが、ぶつかったような、なにかに、押されたような。
 前方へと傾く体。
 その先には唯先輩。

 ああ、ぶつかるな。

 そう思った時には、私の体は唯先輩に触れていて。

 ――ふわり、と良い匂いがした。
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:35:49.30 ID:XUkZd3y20
唯「あ、ずにゃん……?」

梓「……っ!」

 目を開くと、そこに唯先輩の顔があった。

 唯先輩は、ギターをかばうようにして倒れ、
 私は、倒れる瞬間にギターを背中に回していた。
 そのくらいのことができなければ、軽音部猫成分は担当できない。

 ……本当は偶然だけど。

 ともかく、唯先輩もギターも、無事のようだった。 

 いや、寧ろ問題は今の体勢なのであって……。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:38:05.37 ID:XUkZd3y20
唯「……」

梓「……」

 押し倒されて、仰向け状態の唯先輩は、薄らと頬を赤らめている。

 嗚呼……、そんな顔をされると、唇を奪いたくなるじゃない。
 今のこの体勢。これは純然たるマウントポジション。
 抵抗のすべをなくした唯ちゃんは、もはや私の思うままッ……!
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:41:31.38 ID:XUkZd3y20
梓「……なに言ってんですか、ムギ先輩」

 背後から、私のモノローグを模した声で喋るムギ先輩に、冷めた視線を送る。

紬「あ、あら。ごめんなさい」

 ムギ先輩は、我に返ったようだ。
 全くもう、それじゃあまるで私が唯先輩のこと好きみたいじゃないですか……。
 私が好きなのは澪先輩であって、唯先輩のことは、べ、別に……。
 ……別に?
 いやいやいや、何を考えているんだ私。

紬「続けて」

梓「うぉぉい!」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:47:44.40 ID:XUkZd3y20
 寧ろ私が我に返った。
 横には、さっきまでの攻防が嘘みたいに硬直している澪先輩とさわ子先生。
 そして。

唯「あずにゃん、大胆……」

梓「ち、ちちちちがいます!」

 言われてようやく、私は唯先輩の上から体を退け、乱れた制服を整える。

紬「落ち着いて、梓ちゃん。こういうときは息を早めに三回吐くのよ!」

梓「そ、そうですね。ハァハァハうぉぉい!!」

 二回目のうぉぉい!

梓「これじゃただのエロ親父ですよ!! 深呼吸でしょそこはー!」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:50:27.97 ID:XUkZd3y20
 ぽん、と肩を叩かれる。振り向けばそこにはおデコ。

律「梓もやるようになったな! まさかノリツッコミをも習得しているなんて!」

 グッと、親指を立てる律先輩。
 最高に嬉しくない賛辞だ。脳ミソもおデコみたいにトゥルットゥルになればいいのに。

紬「さっきの動きもすごかったわ。まさかあの一瞬でギターも唯ちゃんも怪我をしない(素敵な)体勢に持ち込むなんて」

梓「どうして頬を赤らめながら言うんですか」

 あとさりげなく「素敵」っていうフレーズいれないでください。
 もうこの軽音部ダメかもわからんね。と思いつつ、唯先輩に声をかける。

梓「すみません、唯先輩……、大丈夫でしたか?」

 聞くまでもなく、けろっとしているのだが念のため。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 21:55:25.63 ID:XUkZd3y20
唯「大丈夫だよ。ありがとぉ、あずにゃん」

さ「ごめんなさいね、二人とも。
  先生、澪ちゃんに服着せることに夢中で周りが見えてなかったみたい」

梓「……反省してくれてるなら、別にいいです」

 冷静になってくれたようだし、さわ子先生だって悪気があった訳ではない。
 ただ、内に滾る欲望をほんの少し抑えきれなくなっただけなのだ。
 それはさわ子先生に限った話ではない。誰にでもあることだ。
 だから、この程度のことを咎めていては、私の器量が知れるというもの。
 そう。例えば、愛すべき我が親友、平沢憂。
 彼女に唯先輩の話題なんぞ振ろうものなら、「ゆ」の字を発した段階で目が光る。
 比喩とかじゃなくて、こう、実際に色彩やら光度やらが八割強増す。
 そして、光速の三百倍程度の速度で彼女の顔面は、私の息のかかるポジションへと移動するのだ。
 私はそこでいつも思う。

 『近い』と。

 憂は、お姉ちゃんから風邪をもらうならやっぱりキスしかない!
 と、平気でのたまうような生粋のスィスターコンプレックスだ。
 あそこまで自分の欲望に正直ならば、もはや清々しい。

さ「まぁ、澪ちゃんには着せるけどね」


 懲りてねえ。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:00:05.40 ID:XUkZd3y20
律「さて、それじゃ今日は解散にするかー」

 ひと段落したところで、部長の律先輩がうまくまとめようと解散宣言。
 実際は、ひと段落もしてないし、練習もしてないけれど、
 この日の部活は終了となった。

澪「た、助かった……」

さ「ちっ」

澪「露骨に舌打ちしないでください」

律「唯~、帰りにアイス食おうぜ」

唯「おぉ~、いいね!りっちゃん!」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:03:27.06 ID:XUkZd3y20
 ダメだ。
 私はようやく冷静になった。

梓「……」

 これじゃダメなんだ。
 なにがダメって、このだらけっぷりが。
 私だって最近はこの空気に慣れて、それが心地良いとすら思っているけど。
 でもいくらなんでもここ数日は練習してなさすぎる。
 普段であれば、澪先輩が皆を説き伏せる所なのだが、今日はそれができない。
 何故なら、さわ子先生に動きを封じられて、音楽室の隅で縮こまっているから。
 だからこそ、私がしっかりしなくちゃいけないのだ。
 そうでなければ、この人達は本当に練習しなくなる。

梓「あ、あの!」

律「どうしたー、梓?」

 だから私は、ひとつの提案を持ちかけた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:08:34.57 ID:XUkZd3y20
梓「明日、朝練しましょう!」

律「へ?」
唯「ほえ?」

 律先輩と唯先輩の首が、左右対称に傾く。
 ちょっとキューンってなった。

梓「今日も全然練習できなかったし、このままじゃよくないと思うんです」

律「朝かー、起きるのしんどいんだよなぁ」

梓「じゃあ放課後しっかり練習してください」

律「うぐ……、どうした梓、目がマジだぞ?」

梓「マジです、大マジですとも」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:15:09.16 ID:XUkZd3y20
紬「まぁ、いいんじゃないかしら? 私は皆と一緒に居れる時間が増えるのはうれしいわ」

澪「そうだな、私も梓とムギに賛成。いくらなんでも、ここ最近だらけすぎてると思う」

 澪先輩ならそう言ってくれると思ってました。
 いつの間にかさわ子先生を退けてるところが素敵です。

唯「朝練かぁ、憂に起こしてもらわなくちゃ」

梓「たまには自分で起きてくださいよ」

唯「えへへ」

 褒めてねえ。

律「仕方ないな、そういうことなら明日から朝練頑張ろうか」

澪「だな」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:20:16.40 ID:XUkZd3y20
 翌日。いつもの通学路。
 朝練の為、少し早めに家を出た私は、そこでよく知る人影を見つけた。

唯「よーしよしよしよし」

梓「……」

唯「にゃあにゃあにゃんにゃん!」

 えーと……。

梓「何やってるんですか、唯先輩」

唯「あ、あずにゃん! おはよ~」

 屈託のない笑みで振り返る唯先輩。
 それにつられて、自然と頬が緩んでしまった。
 時折、この人は本当に私より年上なのか疑うことがある。

 『お姉ちゃんってあったかくて気持ちいいよね』

 愛すべき親友のそんな言葉を思い浮かべながら、私は挨拶を返した。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:27:41.23 ID:XUkZd3y20
唯「ほら、みてみて~」

 そう言って、すっと立ち上がり、こちらへと向き直る唯先輩。
 彼女の両腕に抱かれていたのは、黒い毛並みの猫。
 子猫というには少し育ちすぎているが、首輪もしているし、どことなく品も感じられる。
 少なくとも、野良猫とかではなさそうだ。
 唯先輩の腕の中が心地良いのか、猫は目を細めて気持ちよさそうにしていた。

梓「かわいい……」

唯「でしょー!」

 ここで、私の中にひとつの悪戯心が芽生えた。

梓「唯先輩も、かわいいですけどね」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:35:32.10 ID:XUkZd3y20
 こてんと小首を傾げる唯先輩。

梓「唯先輩も、かわいいと思います」

 いつもそう言って抱きついてくるのは唯先輩の方。
 だから、たまには私の方から攻めてやるです。

唯「え~、そうかなぁ~」

 意外なリアクションが返ってきた。
 てっきり、「いやいや、あずにゃんには及びますまい」とか
 関取風の声で返してくると思ってたのに。
 しかし、照れくさそうにもじもじする唯先輩は、実際にかわいく見えた。
 カッコよくて優しい澪先輩も素敵だけど、
 唯先輩は唯先輩で、よく分からない魅力があったりする。

 そんなことを考えていたら、すっかり忘却していた昨日の出来事が脳内にフィードバックした。
 同時に、自分の顔が熱くなっていくのが分かる。

 この展開はマズイ。

 有体に言えば「やべえ」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:39:07.86 ID:XUkZd3y20
唯「えへへ~、ありがとぉ」

 だって

梓「っ……」

 照れているのは

唯「あずにゃんもかわいいよぅ」

 私の方じゃないか!

梓「あ、う、えーと、さ、さっきのはその……、違うんです」

 少し考えたら、こういう展開になるのは予想できただろうに。
 後悔する私と、よくやったという私が脳内で終わらない討論を繰り広げる。
 すると、二人の私の間にムギ先輩がにょっきりでてきて、朗らかに手を振りだした。
 そして、満面の笑みを浮かべたまま、後悔する側の私に駆け寄ってきて、
 鼻の穴にゴボウをねじこもうとしてきたので、私は無理やり現実に意識を戻した。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:43:39.72 ID:XUkZd3y20
梓「どう考えてもゴボウは入りませんから!」

唯「ご、ゴボウ??」

梓「あ、すいません。こっちの話です」

唯「は、はぁ」

梓「ともかくさっきのは、違うんですよ」

唯「え~。あずにゃんいけずぅ」

 唯先輩に撫でられて紅潮する頬を隠すように、私は首を左右に振った。

梓「ちょ、ちょっとからかってみたくなっただけなんですよ!」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:49:39.74 ID:XUkZd3y20
唯「からかうって、あずにゃんが? 私を?」

梓「私が、唯先輩を、です」

唯「……」

梓「……」

唯「ふっ」

 至極嬉しそうに、ニヤリと笑う唯先輩。

梓「ムカっ! なんですか、その含み笑いはー!」

唯「ふふ、嘘だよ。ごめんね」

 よしよし、と言ってまた頭を撫でてくる唯先輩。

 ほら、またそうやって猫扱いする!
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:54:34.54 ID:XUkZd3y20
梓「にゃぁ……」

 聞いてますか、唯先輩!

梓「にゃあぁぁ」

 私は猫じゃなくて……

梓「にゃん」

唯「よーしよしよしよし」

梓「ハッ!?」

 会話してるつもりが、にゃあしか言ってなかった!



 ……わざとじゃないですよ?
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 22:59:20.87 ID:XUkZd3y20
唯「そういえばこの子、あずにゃんに似てるかも」

 猫を見つめて、ほわ~ん、となりながら唯先輩。

梓「そうですか?」

唯「そうですさ」

梓「いや、そうですさって」

唯「そうでもない」

梓「どっち!?」

 あれ、この人意図的にボケる人だっけ。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:01:35.94 ID:XUkZd3y20
唯「でも、本当に似てると思うなぁ」

 そう呟いた後、唯先輩は何かに気付いたように「はっ!」と声を上げた。

唯「もしかしてこの子、あずにゃんのこど」梓「違います」

唯「ぶー、あずにゃんが冷たいっ!」

梓「いや、そんなこと言われましても」

 私を何だと思ってるんですかこの人は。
 ……だけど、不思議と悪い気はしないかな。
 あずにゃん2号……じゃなくて3号か、ふふ。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:07:01.93 ID:XUkZd3y20
梓「あ、撫でてもいいですか?」

唯「うん、どうぞ~」

 そう言って、唯先輩は自分の頭を差し出した。

梓「よーしよしよしよ、ちげえ!」

唯「……」

梓「……」

唯「ちげえって言った」

梓「……」

唯「あずにゃんがちげえって言った……」

梓「なんで泣きそうなんですか」

唯「私のあずにゃんが……」

 ていうか、私、何時の間に唯先輩の私物化されてるんですか。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:14:03.25 ID:XUkZd3y20
梓「……こほん」

梓「そうじゃなくて、猫ですよ! 猫を撫でて良いか聞いたんです!」

唯「分かってるよ~、かわいいなぁもう、あずにゃんは」

 私は唯先輩の腕の中の猫にそっと手を伸ばす。
 猫の可愛らしさに、自然と頬が綻ぶ。

 なんか、ぽわ~んってなった。

唯「かわいいよねぇ……」

梓「えへ……」

唯「あずにゃんもね」

梓「そ、そんなことないです、よ……?」

 あれ? この物足りなさはなんだろう?
 なんかこう、いつもこのタイミングであるものが、無いような……。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:19:26.61 ID:XUkZd3y20
 あ、そうか。
 唯先輩、猫抱いてるから、いつもみたいに私に抱きついて来ないのか。

梓「……」

唯「あずにゃん?」

梓「べ、別に残念だとか物足りないとか思ってないですから!」

唯「なにが?」

梓「え、いや……あ!時間!そろそろ行かないと朝練遅れちゃいますよ!」

唯「おぉぅっ!そうだった! またね、あずにゃん3号」

梓「ほら、走りますよ!」

唯「了解であります、あずにゃん先輩」

 後輩です。
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:28:14.39 ID:XUkZd3y20
 余裕を持って家を出たはずだったのに、気付けば遅刻五分前。
 猫は唯先輩の腕を離れると、どこか目的地があるかのように歩き出した。
 朝の散歩コースだったのかもしれない。
 それなら朝練のある日は、また会えるかな。

 猫と別れた私と唯先輩は、朝練時間を十分程オーバーして音楽室へとたどり着いた。


唯「皆やっほー」

梓「おはようございます」

紬「おはよ……あら、一緒に登校なんて仲が良いのね、うふふ」

 朝からいい笑顔のムギ先輩。
 とりあえずゴボウは持っていないようで安心した。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:35:21.34 ID:XUkZd3y20
律「遅いぞー、二人とも。言いだしっぺが遅れてどうするんだよ」

澪「唯は仕方ないとしても、どうしたんだ、梓?」

唯「澪ちゃんさりげなく酷いっ!」

梓「すいません、途中で唯先輩に会っちゃって……」

 そう言って、ジト目で見る。
 私も猫に夢中だったから、唯先輩に擦り付けるつもりはないけれど、
 なんとなく、いじめてみたくなったりして。

唯「そんな……、あずにゃんまでひどいっ! 私を見捨てるのね!?」

 よよよ、と泣き崩れる演技の唯先輩。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:41:08.99 ID:XUkZd3y20
律「ええい、言い訳など聞きたくないわッ!罰として今日の二人のお菓子は私がいただくッ!」

梓「そ、そんな!」

唯「え~、ずるいよりっちゃん!」

澪「唯、素になってるな」

紬「ふふ、演技よりお菓子なのね♪」

律「……ぷ、くくく……」

澪「何笑ってるんだよ、律」

律「いやー、梓もなんだかんだでティータイム楽しみにしてるんだなーって」

梓「う……」

 そう言われると、返す言葉もない。
 だって、ムギ先輩のお菓子はおいしいし……って、
 いつの間にか私の中でも練習前のティータイムが当たり前になってる!?
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:45:46.33 ID:XUkZd3y20
律「冗談だよ、冗談。さて、皆揃ったことだし」

澪・梓「練習だな(ですね)」

律「おう、練習だ!」

澪「え?」

梓「え?」

律「なんだよ、そのリアクションは」

澪「いや、いつもの律だったらそこで『お茶にしよう!』って言うから……」

梓「そうです、律先輩らしくないですよ」

唯「どうしたのりっちゃん、熱でもあるの?」

律「お前ら本格的に失礼だな……」

 いいえ、日頃の行いです。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/28(金) 23:51:54.77 ID:XUkZd3y20
律「いいか、私は部長としての責任に目覚めたんだ。これからはガンガン練習していくからな!」

澪「律……!」
梓「律先輩っ……!」

 なんということでしょう。
 まさか律先輩の口から、そんな真っ当な台詞が聞ける日がこようとは。
 私、律先輩のこと誤解してたかもしれません。
 本当はしっかりした人だったんですね。

紬「お茶入りましたよー」

律「……」

澪「……」

律「お茶にしようぜ?」

澪「うおおおぉぉい!!」

梓「……」

 誤解してないわ。
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 00:04:19.44 ID:hRY/T06g0
 とはいえ、練習させる気満々で朝練を企画したのに、
 言い出した本人が遅刻してたら、文句を言おうにも言えない。
 少しくらいなら構わないかと妥協し、私はお茶を飲みながら今朝の出来事を先輩達に話した。

紬「そう、それで遅かったのね」

唯「も~~、本当にかわいいかったんだよぅ!」

律「だからといって遅刻していい理由にはならないぞ」

唯「あ、そっか……。ごめんね、りっちゃん」

律「……唯」

唯「なぁに?」

律「気にするなよぅ、こいつぅ」

唯「やぁん、りっちゃんたらぁ、男前~」

 指で突っつきあう律先輩と唯先輩。

律「誰が男か」

唯「あだっ!」

 その光景を見ながら、やはり喜色満面の笑みを浮かべるムギ先輩。
 これを見ると落ち着いちゃう私も、大分毒されてきてるのかもしれないなぁ。
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 00:11:03.13 ID:hRY/T06g0
澪「ま、遅刻ギリギリだったのは私と律も同じだけどな」

律「ばっ! 澪、バラすなよ!」

唯「分かってたよ、りっちゃん!」

 律先輩の肩をがしっと掴んで唯先輩が威張る。

律「……ちくしょう、なんだこの屈辱感」

唯「あずにゃんもごめんねー。私と会わなかったら間に合ってたのに」

梓「私は朝から唯先輩に会えて嬉しかったですから、何も気にしてませんよ?」

唯「あずにゃん……」
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 00:17:35.10 ID:hRY/T06g0
 心なしか、唯先輩の瞳が潤んでいる気がする。
 私何か変なこと言ったかな?

 反芻してみる。

 私は朝から唯先輩に会えて嬉しかったですから、何も気にしてませんよ?

 む。言われてみれば、なんか変な言い回しになったかもしれない。

梓「あ、ええと、そういう意味じゃなくてですね」

 あたふた。

梓「あずにゃん3号とも仲良くなれたし、楽しかったし……っていう意味で、その……」
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 00:22:17.82 ID:hRY/T06g0
律「梓」

 私の肩をぽん、と叩くおデコ。
 デジャヴだと思うけど、昨日同じことがあった気がする。

梓「な、なんですか」

律「見苦しいぞぉ?」

 したり顔の律先輩。ちくしょう。

梓「くっ……」

唯「あずにゃん、大好き!」

 ぎゅう、っと。
 ようやく、いつものように抱きついてくる唯先輩。
 あぁ、安心するなぁ。とか思ってる自分がちょっと悔しかったりして……。

梓「にゃぁ……」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 00:29:03.33 ID:hRY/T06g0
紬「ふふ、朝から良いもの見させてもらったわ♪」

澪「ムギ?」

 ガシッ!

紬「澪ちゃん、私軽音部に入って本当によかったわ!」

澪「そ、そうか」

 両手をがっちり掴まれて、されるがままに上下にぶんぶん振られる澪先輩。
 ムギ先輩は今日も絶好調のようです。

律「さーて、せっかく朝早くから集まったんだし、練習するか!」

   澪「そうだな」
            唯「おーぅ!」
 梓「はい!」 
       紬「ええ!」


 でも返事はバラバラでした。
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:16:34.95 ID:hRY/T06g0
放課後。

律「勉強会ぃ?」

 怪訝そうな顔でオウム返しにする律先輩。
 しかし、ムギ先輩は怯まない。

紬「そう。勉強会♪」

 いい笑顔だ。あの笑顔なら、カンボジアの恵まれない子供達が救われるかもしれない。

律「いや、確かに勉強教えてもらえるのは助かるけど、まだ期末までは時間あるし……」
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:21:46.61 ID:hRY/T06g0
紬「それじゃダメよ!全然ダメ!!」

 ビシィッ!と律先輩を制する。
 何に感化されたのかは分からないが、ムギ先輩はとにかく勉強会をやりたいらしい。
 乙女モードのムギ先輩が通過した場所は草一本残らないといわれている。主に私が言っている。
 残念だけど、律先輩には旗色が悪い。

澪「まぁ、いいんじゃないか? 律と唯はいつも追試ギリギリなんだし。 私は賛成」

紬「本当!? 澪ちゃん!」

澪「うん」

唯「え~、まだ早いよ~。普通に遊ぼうよぅ」
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:28:21.52 ID:hRY/T06g0
 意見が分かれる時は、大抵唯先輩と律先輩、そして私と澪先輩に分かれる。
 多数決になれば必然、票を決めるのはムギ先輩なのだが、
 今回に関してはそのムギ先輩が言いだしっぺにあたるわけで。
 ……残念でしたね、唯先輩、律先輩。

梓「私もムギ先輩と澪先輩側につきますよ?」

律「なっ!?」

唯「あ、あずにゃんに裏切られたっ!」

梓「そんな顔してもダメです」

 唯先輩の為でもあるんですから。
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:33:33.74 ID:hRY/T06g0
唯「むぅぅぅ」

澪「諦めろ二人とも。テスト近くなったら、どの道勉強はすることになるんだ」

律「……だ~、もう、仕方ないなー。こうなったらとことんやってやろうぜ、唯!」

唯「……そうだね! わかったよ、りっちゃん!」

 がしっ!
 友情を確かめ合う二人。

 ……悔しくなんかないもん。私は澪先輩と確かめ合うもん。
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:38:43.81 ID:hRY/T06g0
澪「とか言って、どうせ途中で飽きて遊びだすんだろ?」

梓「その光景が鮮明に浮かびすぎてフォローもできませんね」

律「なにおぅ!?」

唯「私もりっちゃんも、やるときはやる子だよ!?」

律「そうだそうだ!」

澪「はいはい」

 がるるるる!といきり立つ律先輩を慣れた仕草で嗜める澪先輩。
105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:43:47.68 ID:hRY/T06g0
梓「でも、どこでやるんですか?」

澪「また唯の家でいいんじゃないか?」

紬「唯ちゃんのおうちも魅力的ではあるのだけど、……今回は私が提供するわ」

律「ムギが? 珍しいな。ていうか、ムギん家いくの初めてだよな」

唯「ムギちゃん家って、すっごい豪邸だったりするんだよね!?」

律「そうだぞ、唯。ホールには赤い絨毯が敷かれていて、門にはでっかいマーライオンがいるんだ」

唯「おおぅ!!」

澪「それはシンガポールだろ」

梓「唯先輩もナチュラルに信じないでください」
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:49:04.57 ID:hRY/T06g0
紬「ふふ、ごめんなさいね。提供するのは家ではなくて、図書館なのよ」

律「と、図書館!?」

 相変わらずスケールが違う。

唯「ねえねえ、澪ちゃん。ムギちゃんのお父さんって、なにやってる人なのかな?」

澪「……そこは、触れちゃいけないところなんじゃないか?」

紬「日程は、今度の日曜日でどうかしら?」

梓「……え?」

 今度の休みと言うから、てっきり土曜日のことだと思っていたのに。
 少しだけ、肩を落とした。
110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 01:54:30.65 ID:hRY/T06g0
律「梓、何か用事あるのか?」

梓「い、いえ。大丈夫です。……でも、土曜日じゃダメなんですか?」

紬「土曜日はちょっと用事が入ってるの。ごめんね、梓ちゃん」

梓「そうですか……。なら仕方ないですね、日曜日にしましょう」

唯「あずにゃんは、土曜日が良かったの?」

梓「はい。でもいいんです。本当にたいしたことじゃないですから」

唯「? そっか」

 さすがにこんなことを、先輩達の前で言うわけにはいかない。
 私にだってプライドはあるんだから。
145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/29(土) 06:50:15.08 ID:hRY/T06g0
 金曜日の放課後。

 ▼ SIDE 憂

 私は足早に通学路を歩いている。
 つい今しがた、走行する自転車を徒歩で追い抜いたところだ。

 急いでいるのには訳がある。
 今日は両親が旅行で、姉は部活。
 つまるところ、私が家事を担当しなくてはならないのだ。
150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 07:02:30.74 ID:hRY/T06g0
 ……というのは表向きの理由。

 今の私は、全人類の誓願、祈念、そして
 この先地球で私たち人類が生き残っていく為に必要な、とてつもなく重要な使命を背負っている。
 制限時間が限られている以上、なんとしてもこれを成し遂げなければならないのだ。

 バンッ!
 玄関のドアを思い切り開ける。躊躇なんてしていられないのだから。

「ただいまー」
151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/29(土) 07:14:53.57 ID:hRY/T06g0
 誰も居ないから返事は無い。当たり前だ。
 ここからがこのミッションの最重要ポイント。
 如何にしてタイムロスを無くせるか。私のこの足に、世界中の希望が詰まっている。
 だから挫けることは許されない。
 階段を駆け上がり、真っ先に自分の部屋――を通過して、お姉ちゃんの部屋の扉を開いた。
 この部屋の構造は熟知している。だから、目的の物がどこにあるのかも。

 ガラッ!

「……」

 私は箪笥の一番上の引き出しを開け、
 流れるような自然の動作で、何も言わず姉の下着を数枚、制服のポケットに忍ばせた。

 え? 何に使うのかって?

 異なことを仰る。

 嗅ぐのだ。
155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/08/29(土) 07:25:30.22 ID:hRY/T06g0
 次に向かうのはベッドだ。姉が起きた時の状態がそのまま残る布団。
 私はその乱れたシーツの上に景気良くダイブした。
 そして姉の枕を抱きしめ、その香りを全身に感じながら右へ左へと回転する。

「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんっ!!」
156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 07:29:41.14 ID:hRY/T06g0
 早く帰ってきて、お姉ちゃん。今日は、寝るまでの間ずっと撫でくりまわしてあげる!
 ……早く帰ってきてとは言ったが、姉が帰宅するまで、時間はまだ少しある。
 それまでもう少しこの匂いを堪能し、
 そののち最終ミッションへと移行す「ただいまうい~」うおぉぉぉぉかえりいぃぃl!?
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 07:40:39.58 ID:hRY/T06g0
 馬鹿な!私の計算が間違ったというの!?
 いや、まだ急いで自分の部屋にもどれば、この醜態を晒すことは――
 冷静さを取り戻そうとした私の脳は、次に聞こえた蕩けるようなキャンディヴォイスにより更なる混沌へと陥る。

「お邪魔しまーす」

 なん……だと……?
 梓ちゃんが来たというのか。何故? 英語で言うとWhy?
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 07:52:43.51 ID:hRY/T06g0
 私はハッとした。

 そうか。今日は華の金曜日。それもこんな時間に来るということはまさか!
 お泊りフラグ!? そうなの!? そうなのね!?

 落ち着け私。このピンチをチャンスに変えるんだ!
 ぐっ、とポケットの中の姉の下着を強く握り締める。
 いつだってお姉ちゃんの下着は私に力をくれる。

 だって、ほら。
 お姉ちゃんと梓ちゃんと私とで、三人の甘く切ない夜がもう手の届くところまで―!

「はああぁぁぁん!!」

 そう叫びながら勢い良く扉を開いたところで姉と親友に鉢合わせした。
165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 08:06:09.80 ID:hRY/T06g0
 同時刻。

 ▼ SIDE 梓

 今日は、澪先輩と律先輩が寄るところがあるらしく、少しだけ早めの解散。
 朝練を提案した甲斐あってか、練習は少しだけ充実したものとなった。

 いつもの道を歩き、ムギ先輩と別れ、律先輩、澪先輩と別れ、
 隣を歩くのが唯先輩だけになったところで、私は少しだけ陰鬱な気分になった。

唯「どうしたの、あずにゃん。なんか元気ないよ?」

梓「あ、いえ。たいしたことじゃないんですけど」

唯「あ。もしかして、土曜日が良かったって言ってたのと、関係してる?」

梓「……」

 天然のくせになかなか鋭い。
168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 08:19:17.89 ID:hRY/T06g0
唯「ほら。先輩に話してごらん!」

 先輩風を吹かせて、誇らしげに薄い胸を張る唯先輩。
 なんだかそれが、とても暖かく感じる。
 先輩たちの前では言えなかったけれど、唯先輩一人なら……。

梓「……実は今日明日って両親が泊まりで、うちに誰もいないんですよ」

唯「ほえ、そうなんだ。じゃあ、うちと一緒だね」

梓「唯先輩は、その……寂しくなったりしないんですか?」
169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 08:26:46.41 ID:hRY/T06g0
唯「んー、ならないかなぁ。だって、うちには憂もギー太もいるし」

梓「憂とギー太ですか」

唯「うん」

 憂はともかく、ギターが居るから寂しくないなんて、並の人間にはできない発想だ。

梓「唯先輩らしいです」

唯「あずにゃん、寂しいんだったらうちに泊まりにおいでよ」

梓「えっ、でも……」

唯「嫌?」

梓「そんなわけないです! そうじゃなくて……」
171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 08:39:53.31 ID:hRY/T06g0
 広い家に独り、寂しい週末。
 唯先輩と憂と一緒に、楽しい週末。
 どちらを選ぶか、なんて言われて、迷う筈もない。

 だから、嫌だなんて、あるわけがない。
 あるわけがないのに、言葉が続かないのはどうして――?

唯「そうじゃなくて?」

梓「えっと、だからその……」

唯「ん~??」
172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 08:47:54.83 ID:hRY/T06g0
梓「……」

唯「おぉ!」

 唯先輩は、何か閃いた様に、ぽん、と手を叩くと
 ぎゅっと私を抱きしめた。

唯「来てくれないと私が寂しいんだよぅ」

梓「……唯先輩」

 さっき寂しくないって言った癖に。
 本当に、この人は。
174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 08:55:13.46 ID:hRY/T06g0
梓「……全く、仕方ないですね。そういうことなら、泊まりに行ってあげてもいいですよ」

唯「……ふ」

梓「……ふふ」

 二人、顔を見合わせて笑う。

 なんとも滑稽なやり取りだったと思う。

 だけど、話して良かったと心から思える。
 頼りになるどころか、危なっかしくて見てられないし、
 いい加減なところもあるけれど。

 憂の台詞の意味がようやく氷解する。

 初めて気付いた自分の気持ち。

 私は、唯先輩のことが――
178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 09:12:28.69 ID:hRY/T06g0
「……ーん? あずにゃーん? おーい」

「!」

唯「なんだかぼーっとしてるよ。顔も赤いし……」

 トンッ

梓「ふぇ!?」

 唯先輩のおでこが私のおでこに触れる。

唯「熱は……ないみたいだけど」

梓「わ、わ、わ、私! 先に帰って準備してきますね!」

唯「え、うん。私も一緒にいくよぅ」
180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 09:22:40.88 ID:hRY/T06g0
 ――そのとき、私の第六感が何かを捕らえた。

梓「ッ!?」

 なんだろう、この……

 鼻の穴にゴボウを突っ込まれる感じ。

 ゴボウ?

 ムギ先輩か?

 ……まさか、ね。






紬「ビデオカメラ持ってくればよかったぁぁぁっ!」

 ガン!

犬「キャイン!」
184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 09:32:32.14 ID:hRY/T06g0
 着替え等の荷物をまとめ、私は唯先輩と共に、彼女の家へと向けて歩いている。
 道中、さっきまでは無傷だったコンクリートの塀に何故か穴が空いていた。

梓「突然押しかけちゃっていいんですかね……、憂は迷惑なんじゃ……」

 唯先輩は、事前にメールで連絡しようとしたらしいが、携帯の充電が切れていた。
 私の携帯から連絡しましょうか、と提案もしたが、、どうせなら憂をびっくりさせようという
 唯先輩のわけのわからない好奇心により、実行には至らなかった。
188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 09:47:31.47 ID:hRY/T06g0
唯「大丈夫だよぅ。憂はあずにゃん来たら喜ぶと思うなぁ」

梓「だと良いんですけど」

 私の懸念は、憂が真性のシスコンであることだ。
 唯先輩と二人の時間を邪魔しちゃったら、後々怖いイメージがある。
 どうしてかは分からないけど、憂はそんな子じゃないハズなんだけど。
 そういうイメージがある。

 思い悩んでる間に、私たちは唯先輩の家へとたどり着いていた。

 ガチャリ。
190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 09:57:25.71 ID:hRY/T06g0
唯「ただいまうい~。 ほら、あずにゃん。上がって上がって」

梓「はい。お邪魔しまーす」

 ドサッ!ガタッ!

梓「な、何の音ですか?」

唯「憂かな……? 二階から聞こえたけど」

 なんだか、物凄い嫌な予感がする。
 私と唯先輩は、階段を上り、憂の部屋を覗く……が

唯「うい~……?」

梓「いないみたいですね」
193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 10:14:12.83 ID:hRY/T06g0
 ガサゴソ。

唯「……」

梓「……」

唯「私の部屋から……だよね?」

梓「……みたいですね」

 怖え!!
 怖えけど分かる。
 絶対に泥棒とか幽霊の類ではない。
 だからこそ怖え!
196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 10:23:30.51 ID:hRY/T06g0
梓「あ、あの、唯先輩?」

唯「え?」

梓「さりげなく、私の後ろに隠れないでもらえますか?」

唯「だって、怖いし……」

梓「私だって怖いですよ!」

 あなたの妹的な意味で。

梓「……。あ、開けますよ?」

唯「……うん」

 私は、扉のノブに手をかけた。
200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 10:29:50.24 ID:hRY/T06g0
 ――次の瞬間。

 扉は反対側から開かれ――


「はああぁぁぁん!!」


 奇怪な雄叫びをあげ、前方宙返りを決めつつ、愛すべき親友が飛び出してきた。
 スッタァーーーン!
 と見事な着地を披露した憂は、スカートをぱんぱんと叩いて立ち上がる。

憂「……」

唯「……」

梓「……」

 絶句した。
203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 10:40:00.62 ID:hRY/T06g0
 正直、意味がわからない。
 唯先輩も私の後ろで固まっている。

 言葉を発することも憚れるような、微妙で珍妙で絶妙な空気。
 私はこの沈黙に耐えられるだろうか?

梓「……」

唯「……」

憂「……」


「あ、あの!これは……」「うい、すっご~~い!」「う、憂、何してたの?」

 三人同時に喋った。
 誰が何を言ったのかまるで聞き取れない。
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/08/29(土) 10:49:59.56 ID:hRY/T06g0
梓「えーと、……落ち着きましょうか」

憂「う、うん」

唯「あ、ただいま憂」

憂「おかえり、お姉ちゃん」

梓「お邪魔してます、憂」

憂「いらっしゃい、梓ちゃん」

梓「……」

憂「……」

 ぎこちねえ。