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「はい、剥けましたよ」
「ありがと~」
 コタツに脚を入れてぼけーっとしている唯先輩に、たった今剥いたばかりのみかんを手渡す。
 すると、唯先輩はあ~んなんて言って口を大きく開けた。
「……何ですか、それ」
「あずにゃん、食べさせて~」
 大体解ってたけど、口に出して言われるとやっぱりため息を吐いてしまう。
 はぁ……。
「あずにゃんどうしたの?」
「いえ、別に……」
 唯先輩はこういうことを当たり前のようにするから困る。
 二人で喫茶店に行ったときも、ひとつのグラスにストローが2本刺さっている飲み物を頼んで、周りの人の注目を集めてしまった。
 あの時は本当に恥ずかしくて、すぐに取り下げようと思ったけど、唯先輩の幸せそうな顔を見て何も言えなくなってしまった。
 何だかんだいって、やっぱり先輩には甘いなぁ……。そのうち、あの顔を見るために何でも許してしまいそうで怖い。
 いや、もしかしたらもう手遅れかもしれない。現に今だって、唯先輩のわがままを受け入れようとしているわけだし……。
 駄目だと思っても、体は勝手に動いてしまう。
 剥き終わったみかんを一房、人差し指と親指で挟み、それを唯先輩の口へと持っていく。
「はい、あ~ん」
「あ~ん」
 ぱくり、と唯先輩の口がそれを銜えるのを確認して、新しくもう一房、同じように指で摘まんで持ってくる。
 それを繰り返して、全部無くなったらまた新しいみかんを剥き始める。
 この作業を何度か繰り返すと、指がだんだんと黄色くなってきた。
 ちょうど、唯先輩もおなかが膨れた頃だろうし、手を洗うために立ち上がる。
「あずにゃん、どこ行くの?」
「ちょっと、手を洗いに」
 そう言いながら、ずっとみかんの皮を剥き続けていた指をよく見えるように差し出す。
 すると、唯先輩はあろうことかその指を自分の舌で舐め始めた。
「ぺろぺろ」
「ちょ、唯先輩!?」
 もちろん、そんなことをされたらびっくりしてしまう。
 思わず体を引きながら、唯先輩に尋ねる。
「何してるんですか」
「なにが?」
「どうして、私の指を舐めたりしたんですか?」
「どうしてって……あずにゃんの指がおいしそうだったからだよ?」
「どんな理由ですか……」
「だ、だって、洗い流しちゃったらみかんの味がなくなっちゃうもんっ」
「――はぁ?」
 思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「ど、どういうことですか?」
 そして、おずおずとそう尋ねる。言ってることがよく解らない。
「んと、あずにゃんは今までその指でみかんを剥いてくれたよね?」
「そうです」
 だからどうだというのだろうか。気になったけど、とりあえず唯先輩の言葉を待つ。
「ということは、その指にはみかんの味が染み付いてることになるよね?」
「まぁ……確かに」
 この黄色いのはみかんの果汁とかそんなのだろうし。――って!
「ま、まさかこれがもったいないとか言うつもりなんですか!?」
「うん、そうだよ」
 どうして私が驚いているのか解らないといった顔で、唯先輩は首を縦に振った。
「それじゃ、納得したよね?」
「え、えぇ……はぁ、まぁ……」
 有無を言わさない口調だったから、特に考えもなしに頷いてしまった。
 ――それが、私の失敗。
「あずにゃんが納得したことだし、仕切りなおし~っ」
「……って、え!?」
 勢いよく飛びついてくる唯先輩を止めようと、両手を突き出したのが不味かった。
 確かに唯先輩を止める事は出来たけど、その代償に私の手首をがっちりと掴まれて、またしてもさっきと同じように指を舐められてしまう。
 唯先輩に舐められている指先が熱くなって、次第にその熱が体全体に回ってきた。
「や、止めてくださいよ……」
「え~? おいしいのに~」
「どこがですか……、ただ汚いだけでしょう」
「いやいや、あずにゃんの味がしておいしいよ?」
「――へ?」
 唯先輩の思わぬ言葉に、一瞬、抵抗する力が無くなってしまった。その一瞬の隙を突いて、唯先輩は更にとんでもないことをした。
「あ~ん」
 ぱくっ、という擬音が聞こえたと同時に、指先にさっきとは比べ物にならないほどの熱を感じた。
 見てみると、私の指が完全に唯先輩の口の内に入ってしまっている。
「ゆゆゆゆゆゆゆゆっ!!!!?」
 驚きのあまり呂律が回らない。
 唯先輩は私の声に小首を傾げてどうしたの、と一言。
「どうしたのじゃありませんよ! 何で私の指を口に銜えてるんですか!!!」
 さっきから怒鳴ってばっかりだけど、これは仕方がないと思う。だって、いきなりこんなことをされたら誰だって驚くはずだし。
 いや、だからといって別に嫌ってわけじゃないんだけど……、ね。
 むしろ歓迎というか何というか……、タイミングさえ考えてくれれば私は……。
 と、ここまで考えて、私は自分の考えに愕然とした。まさかこんなことまで受け入れようとしているのか、と。
 視線の先には、相変わらずおいしそうに私の指をしゃぶっている唯先輩。
 この状況、まるで私と先輩がイケナイことをしてるみたい……。そう思うと、自然に喉が鳴ってしまう。
 ――って、何考えてるんですか、私っ!
 頭をぶんぶんと振って、イケナイ考えを外に逃がす。そして、やっぱり止めさせようと、口を開く。
「ちゅうぅぅぅ……れろ……」
「あぅ……ぁ……」
 ――だけど、唯先輩の口で指を吸われて、あまつさえそのまま指に舌が絡み付いてきたものだから、開いた口から思わず情けない声を出してしまう。
 ……先輩、さすがにこれは……危ないですよ……。
 いつものスキンシップぐらいなら、まだ受け入れられる範囲だけど、こんな……指ちゅぱ、なんて……。
 明らかにスキンシップの度合いを超えている。こんなことをされたら頭が沸騰しちゃうよ……。
「ちゅぱ……ぺろ……」
「うぅ……ぁ……」
 ――体が、熱い。指先がジンジンする。なんだか胸もドキドキしてきたし、どうしちゃったんだろ……。
 体の異常に思考が追いつかない。本当は解ってるはずなのに……。
「あずにゃん、おいしい~」
「な、何言って……」
 体は熱いのに、頭はほわほわと浮いているみたい。言葉が脳を通さずに出てくる。
 もうこのまま唯先輩のされるがままになってもいいんじゃないかという考えも出てきて――
 だめっ!
 すんでのところで理性を取り戻し、すぐに唯先輩の口から指を引き抜く。
 そしてそのまま一気にまくし立てる。
「す、すみません! 私、ちょっとトイレに行ってきますっ」
「あっ、あずにゃ……」
 後ろから唯先輩の声が聞こえたけど、それを振り払うようにして一気にトイレまで走る。
 バタン、とドアを閉めて、ほっと一息吐く。
 そして、さっきまで唯先輩が舐めていた指を、掲げてみる。
「……」
 ゴクリ、と喉が鳴った。
「だ、大丈夫だよね……」
 止めようと思ったのに、体が勝手に動いてしまった。
 未だにジンジンと熱を帯びているその部分を、舌でぺろりと舐めてみる。
 ――なんだか、とっても甘い味がした。



Fin