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842 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 21:48:45.15 ID:aPKAX9mM0
【シャウト!】


人は音楽の魅力に取りつかれた時、心に込めていた感情を露わにする。
その表現の仕方は人それぞれだ。
例えば踊り出す人もいれば、大声で叫び出す人もいるだろう。

これは、そんな音楽の魅力に取りつかれた5人の話である。

843 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 21:51:58.25 ID:aPKAX9mM0
その日の午後、唯は新しい曲の譜読みを始めていた。
いつものように、隣には梓がいる。
梓は楽譜がいまだに完全には読めない唯の譜読みを手伝っているのである。

ギターを構え、譜面をじっと睨みつけながら、唯がうなり声を上げる。

「う~ん。あずにゃん、このおたまじゃくしはどの音?」

さっきから色々と押さえ方を変えて試してみてはいるものの、なかなか思うようにいかない。
梓はそんな唯の戸惑う手に、自分の手をそっと添える。

「唯先輩、こうですっ。弾いてみてください」
844 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 21:54:42.93 ID:aPKAX9mM0
梓の声に後押しされて、唯は右手を動かした。
唯の頭の中のイメージとうまく共鳴する音が出た。
どうやらうまくいったみたいだ。
唯は小さく叫んだ。

「やったぁ!ありがとあずにゃん」
「そ、そんな。唯先輩のためですぅ」

隠しきれない照れで顔を赤らめながら、梓は答える。
そして、顔を両手で軽く叩き、次の言葉を続ける。

「じゃぁ、次行きましょう。唯先輩」
「うんっ!」

唯の元気な返事と同時に、音楽室のドアが勢いよく開いた。



845 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 21:57:47.62 ID:aPKAX9mM0
「おいーすっ!」

律の元気な声が音楽室に軽く響いた。
その後ろには澪とムギも見える。
「なぁ、今日はさっそく合わせやろうぜ!」

いつもならぐったりまったりな放課後ティータイムの開始を告げるはずの律が、今日は違っていた。
後ろの二人もどことなく機嫌が好さそうだ。
唯と梓は不思議に思った。
澪が律に続いて音楽室に入りながら、事の成り行きを説明し始めた。

「今日の小テストで律が満点だったらしいんだ」
「ほれほれ!すごいだろっ!」

澪の後に間髪いれずに、律が満点答案を振りかざしながら叫ぶ。
唯と梓はそれに素直に驚いた。

「すごいねっ!りっちゃん!」
「律先輩、やれば出来るんですね」




848 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 22:00:24.59 ID:aPKAX9mM0
律は満足げな表情になった。
だが、梓の言葉が少し気に食わなかったらしい。
ニコニコしたまま梓に近づいていき、目の前に満点答案をぶら下げた。

「ほれほれっ!梓も頑張れよっ」
「むぅ~」

さすがに梓も少し機嫌を悪くし、唸った。
そして視線を答案から律に移す。

「むーっ」
「むーっ」

二人はしばらく睨みあった。

突然、その緊張感をピアノの音が吹き飛ばした。

ピアノの音の主は、ムギ自持ちのキーボードだった。


849 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 22:02:53.74 ID:aPKAX9mM0
「ほらっ、りっちゃん。合わせやろっ!」
すこし驚いた眼でムギを一瞥して、律は梓から目をそらした。

「そ、そうだな。よしっ!みんなやるぞっ!」

律はドラムの所まで小走りで駆けだした。
椅子の上に飛び乗ると、すぐさまスティックを頭の上に掲げた。
他の4人も慌てて所定の位置に着く。

「みんなっ!準備はいいかっ?」

律は4人の顔を見回した。

「もちろんっ!」

4人の返事は同時に返ってきた。

「1、2、3、4!」

律がドラムを叩き始めた。
850 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 22:05:44.55 ID:aPKAX9mM0
さわ子は5人の新しい衣装を両手いっぱいに持って、階段を登っていた。
その衣装はどれもカラフルで、かわいらしい。
さわ子の顔はその衣装に隠されて見えない。

「今日こそ、澪ちゃんにこれを着せなきゃ」

意気揚々と階段を登るさわ子に、降りてくる人は皆、怪訝な視線を投げかけた。

だが、やっぱり両手にいっぱいの衣装は重い。
音楽室へ続く最後の階段。
さわ子は一段一段数えながら登り始めた。

「1、2、3、4、5、6、7、8………」

そして最後の一段を軽く跳ねながら登り切った。

「12!」

さわ子は目の前の衣装の隙間から音楽室のドアを確認し、取っ手に手を掛ける。
そして、思い切り右へ引いた。

「みんな、新しい衣装よ!!」

851 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 22:07:02.11 ID:aPKAX9mM0
だが、さわ子の声は5人には届いていなかった。
みんな、演奏していたのだから。
しばらく、さわ子は衣装を持ちながらその演奏を聞いていた。

「ふん、ふん」

流れだしてくるメロディーに合わせて鼻歌が自然と始まった。
次に足で軽くリズムを取り始める。

「んーっ」

さわ子は少し唸った。
そして衣装を四方八方にばらまいた。

「ノレるっ!これはノレるわ!!」

気付けば、さわ子は力一杯叫んでいた。
852 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 22:09:26.82 ID:aPKAX9mM0
憂は小さなお弁当箱を手に階段を登っていた。
それは今日、彼女の大好きなお姉ちゃんが持っていくはずだったお弁当である。
憂はそれを小さな手で大切に持っていた。

「お姉ちゃん、大丈夫かなぁ」

階段を一段一段登りながら、憂の妄想は悪い方向へ膨らんでいく。
昼ごはんを食べることができなかった唯は、きっと音楽室中をごろごろしているに違いない。
しかも、今にも消え入りそうな声で、「ごはん…ごはん…」と言いながら。

「でも、そんなお姉ちゃんもいいなぁ…」

思わず憂の口から本音が飛び出す。
それと同時に、音楽室のドアの前に着いた。

左手にお弁当を持ち、憂は右手でドアを開けた。

「お姉ちゃん、お弁当だよ!」


855 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 22:12:37.96 ID:aPKAX9mM0
だが、憂の声は唯のみならず、そこにいた6人の誰にも届いていなかった。
まず視界に入ってきたのは頭を激しく振りながらノリノリのさわ子。
そして頭がその映像を認識した後、強烈なビートが耳へ伝わった。

「すごい……」

憂はかがんでお弁当箱を地面にそっと置いた。
そして、その強烈なビートに体を任せた。

「お姉ちゃんっ!お姉ちゃんっ!」

激しく叫び、そして両手を振り上げる。

体全身で憂は踊っていた。

「届け!私のマイランチ!」

憂は絶叫した。
856 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/06(日) 22:13:52.01 ID:aPKAX9mM0
律の熱狂的なドラムソロで、演奏の幕は下りた。
汗をぬぐいながら、唯が前方の異変に気付く。

「あれっ、憂?さわちゃん先生?」

そこには汗だくになりながらも、いまだビートを刻み続ける二人がいた。

その様子を見て、律は大きくうなずく。
うなずく律を見て、4人もうなずいた。

律のドラムが、再びビートを刻み始めた。


音楽は、止まらない。

Fin