1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:42:01.18 ID:ESiGxtBZ0
あれは悪夢か、白昼夢か。
見てはいけなかったムギ先輩と憂の暗黒面を垣間見てしまった上に、
私の心とお尻に多大なる傷跡を残して瞬く間に過ぎ去った、
斬新でいながら陳腐と言われたステキな『あの企画』から早くも一ヶ月が経ちました。
こんにちわ、中野梓です。
あれから今日まで、『あの日』のことが話題に上ることは一度としてありませんでした。
誰もが、『あの日』のことを無かったことにしたいと思っているのかもしれません。
もちろん、それで少しでも空気が悪くなるなんてことはなくて、
それこそが、誰もが知っている、いつもの軽音部の空気なのです。
これから先も、ずっとそんな平和な時が続いていく――
少なくとも私は、そう思っていました。
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:42:57.35 ID:ESiGxtBZ0
その日、いつものように部室に入ると、そこに唯先輩、律先輩、澪先輩の姿はなくて。
紬「あら。こんにちわ、梓ちゃん」
梓「こんにちわ、ムギ先輩。……お一人ですか?」
紬「ええ。唯ちゃんとりっちゃんは、職員室に行ってるわ」
職員室?
……期末の成績悪かったのかな?
まぁ、勉強会がアレじゃあムリもないと思うけれど。
梓「澪先輩は?」
紬「まだHRが終わってないんじゃないかしら。私たちのクラスの方が早かったみたいだし」
梓「そうですか」
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:44:34.43 ID:ESiGxtBZ0
紬「……梓ちゃん、ちょっと手伝ってもらっても良いかしら?」
ムギ先輩は、少しだけ言いにくそうに上目遣いで私にそう言った。
この人も大人しくしてたら普通に可愛いのになぁ。
梓「いいですけど……なにやるんですか?」
紬「これを貼ろうと思ってね」
そう言って、ムギ先輩は少し大きめの筒から、一枚の紙を取り出した。
丸まっているため中身は確認できないが、広げればかなりの大きさになるだろう。
梓「はぁ」
紬「私が押さえてるから、貼ってもらえるかしら?」
梓「わかりました」
音楽室の壁にその紙を運び、ムギ先輩が両手で固定する。
私は言われるがままにテープで両端を貼り付けた。
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:47:26.29 ID:ESiGxtBZ0
そしてその全容が露になった。
,r;;;;ミミミミミミヽ,,_
,i':r" + `ミ;;,
__,、 ≡ 彡 ミ;;;i
〃ニ;;::`lヽ,,_ ≡ 彡 ,,,,,、 ,,,,、、 ミ;;;!
〈 (lll!! テ-;;;;゙fn __,,--、_ .. ,ゞi" ̄ フ‐! ̄~~|-ゞ, ≡
/ヽ-〃;;;;;;;llllll7,,__/" \三=ー"."ヾi `ー‐'、 ,ゝ--、' 〉;r' ≡
>、/:::/<;;;lllメ \ヾ、 ヽTf=ヽ `,| / "ii" ヽ |ノ
j,, ヾて)r=- | ヾ: :ヽ;;: | l | l ''t ←―→ )/イ^ ≡
,イ ヽ二)l(_,>" l| ::\;:: | | | ヽ,,-‐、i' / V
i、ヽ--イll"/ ,, ,//,, :;; l // l く> /::l"'i::lll1-=:::: ̄\
ヾ==:"::^::;;:::/;;;;;;;;;:::::::::::::: :::::ゞ ノ/ L/〈:::t_イ::/ll|─-== ヾ
\__::::::::/::::::::::::_;;;;;;;;;;;;;;;;;ノノ ヘ >(゙ )l:::l-┴ヾ、ヽ )
 ̄~~ ̄ ̄/ :::|T==--::::: // / ト=-|:|-─ ( l /
/ :: ::l l::::::::::::::::::/ /:::::::::::/:::::(ヽ--─ / | /
ヽ_=--"⌒ ゙゙̄ヾ:/ /:::::::/:::::::::`<==-- ノ / /
アナ・タットワ・チガウンデス[Anna Tattwa Chigaundes]
(1936~2008 日系ボリビア人)
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:48:09.85 ID:ESiGxtBZ0
梓「……」
紬「……」
梓「あの、ムギ先輩」
紬「なにかしら?」
梓「いや、やっぱいいです」
突っ込みたいことは沢山浮かんだ。
まず、『何故貼る前に照れたのか』
次に、『ポーション高杉じゃなかったのかよこの人』
続いて、『堂々と音楽室に貼るな』
さらに、『いつ作ったこんなもん』
もうひとつおまけで、『サイズがでけえよ』
そして、私の脳内に一ヶ月前の悪夢が過ぎる。
……うん、よし。
見なかったことにした。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:49:42.02 ID:ESiGxtBZ0
紬「聞いてくれないの?」
梓「あー、ええと、じゃあ聞くことにします」
紬「うふふ、どうぞ」
梓「剥がしてもいいですか?」
紬「梓ちゃん、目が怖いわ」
だって。
あれは、黒歴史として記憶の片隅に封印しようとしていたのに。
梓「あーもう!なんでまたファニーな名前の偉人引っ張りだしてきたんですか!?」
紬「うふふ、よく聞いてくれたわね!」
梓「聞きましたけど、もうあれはやりませんからね」
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:52:32.07 ID:ESiGxtBZ0
紬「実はね……」
ムギ先輩は、低めのトーンで淡々と語りはじめた。
その表情は暗く、何か深刻な悩みがあるかのようにも感じられる。
この人のことだ、さっきの私の台詞に傷付いたなどということはありえまいが、
それでも、聞き手を強く引き込むだけの空気が、確かにそこには存在する。
背後で偉人がほくそ笑んでいるので、台無しだが。
紬「唯ちゃんと憂ちゃん、罰ゲームやってないみたいなの」
梓「そうですね」
紬「梓ちゃん、私に冷たくない?」
梓「いえ、そんなことはないですけど」
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:54:53.30 ID:ESiGxtBZ0
ていうか、そんなことで深刻に悩んでたんですか。
やらなくていいでしょう、憂の意思なんだから。
そう、『あの日』勝利を収めた憂は、敗者である唯先輩を一日だけ好きにできるという権利を得た。
にも関わらず、「お姉ちゃんが嫌がることはしたくない」と、真摯な態度で、その権利を放棄したのだ。
姉のスカートの中に顔を突っ込んでいた人物の台詞とは思えなかったが、憂は真剣だった。
唯先輩は少し驚いた後、嬉しそうに憂を抱きしめた。
そんな光景に、私は少なからず嫉妬という感情を抱いたのだが……、それはともかく。
あんなにカオスだった勉強会を、信じられないくらい綺麗なカタチで終わらせたというのに、
何蒸し返そうとしてやがりますかこの沢庵様は。
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:56:33.01 ID:ESiGxtBZ0
紬「……梓ちゃん」
梓「はい?」
紬「スウェーデンで今年の五月から同性同士の結婚ができるようになったらしいわ」
梓「そうですか」
へえ。
いや、今その話関係ないだr
梓「なんですと!?」
紬「落ち着いて、梓ちゃん。 反応が露骨よ」
梓「……すいません。で、それがなにか?」
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:57:36.52 ID:ESiGxtBZ0
紬「梓ちゃん、唯ちゃんのこと好きよね?」
梓「な、なななな!!なにを言ってやがりますかこの……この、えーと、バカ!!」
紬「梓ちゃん、先輩にバカはないと思うわ」
梓「あ、すいません。動揺しました」
紬「動揺したってことは、やっぱり好きなのね?」
梓「……」
ちくしょう。
梓「で、それがなんなんですか?」
やけくそ気味にそう問うと、ムギ先輩はしたり顔で、
自分のカバンをごそごそと弄り、ビデオカメラを取り出した。
紬「唯ちゃんと憂ちゃんに、罰ゲームとご褒美をやってもらいましょう」
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 17:59:18.53 ID:ESiGxtBZ0
梓「えーと、話が全く繋がってこないんですけど」
紬「梓ちゃんには、罰ゲーム執行日に平沢家に進入し、カメラで撮影してくる役を命じます」
梓「丁重にお断りします」
紬「……」
梓「……」
紬「梓ちゃん、唯ちゃんと結婚したいでしょ?」
梓「話が飛躍しすぎてると思います」
もっと、こう段階ってものがあるでしょうに。
発想力に乏しい私には凡そ理解の及ばぬ二文字に、しかしどういうわけか意外と冷静だった。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:03:02.64 ID:ESiGxtBZ0
紬「女性の卵子に女性の遺伝子を組み込んで、子供を作る方法を研究している機関があるの」
梓「……はぁ」
紬「琴吹グループに」
梓「すげえ!!」
琴吹グループすげえ!!
将来的に、私と唯先輩が結婚して、さらに子供まで作れるかもしれないってことですよ。
私と唯先輩が結婚して、さらに子供まで作れるかもしれないってことですよ?
紬「モノローグ使ってまで、大事なことなので二回言いましたを体現しなくてもいいと思うわ」
梓「人の思考トレースしないでください」
琴吹紬すげえ!!
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:08:36.18 ID:ESiGxtBZ0
紬「梓ちゃん、私はいつでもあなたの味方。必ず力になれると思うから」
梓「いや、ありがたい話ではありますけど……、私まだそんなこと考えてないですし」
紬「今はそうでしょうね。だから、将来的な話よ」
なんとなく、ムギ先輩がどういう取引を持ちかけてきているのかが見えてきた。
紬「だ・か・ら♪」
梓「平沢家に行って、罰ゲームを取材してこい、と?」
紬「Yes!」
ムギ先輩は、最高の笑顔でそう答える。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:12:35.97 ID:ESiGxtBZ0
梓「……まぁ、いいですけど。二人が罰ゲームやろうとしなかったら、私は何もできないですよ?」
紬「そのためのポスターじゃない」
梓「……」
紬「……」
梓「……いや」
十中八九、効果ねえよ。
紬「なあに?」
梓「なんでもないです」
紬「等身大よ?」
梓「……」
でけえ。
バストアップしか映ってないけど、
推測するに、確実に二メートル弱あるじゃん、高杉さん。
あ、いや、高杉さんじゃないらしいけど。
でも効果ねえよ。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:17:41.41 ID:ESiGxtBZ0
まぁ、何もできなくても、唯先輩の家に行く理由にはなるし。
カメラは何も撮らずに翌日ムギ先輩に返せばいいだろう。
梓「そういえば、なんで私なんですか?」
審判やってたんだから、ムギ先輩が行けばいいのに。
紬「梓ちゃん以外だと、二人のお邪魔になっちゃうから」
梓「へ?」
律先輩や澪先輩でも、なんら問題はないように思う。
なんで私だけが平気だと思うんだろう?
紬「そういうことだから、お願いね」
梓「……わかりました」
一応、承諾することにした。
私はそう言って椅子から立ち上がり、壁に向けて歩き出す。
そして、あの日私たちを笑いの地獄へと追いやった一人の偉人に敬意を表し、
その角に手をかけ「梓ちゃん剥がしちゃだめええええっ!!!」
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:24:28.35 ID:ESiGxtBZ0
唯「ムギちゃんただいま~。あずにゃんおいっすー」
律「おーっす梓ー。ムギ、お茶にしようぜー……って、澪はまだ来てないのか」
しばらくして、軽やかな挨拶と共に二人が入ってきた。
梓「こんにちわ、唯先輩、律先輩」
紬「おかえりなさい二人とも。今お茶いれるわね」
ムギ先輩はそう言って席を立つ。
律「しかし、よかったなー唯。追試受けなくて済んで」
唯「うん、全教化ぎりぎり合格ラインなんて、自分でもびっくりだよ」
会話から察するに、二人ともセーフだったらしい。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:30:19.41 ID:ESiGxtBZ0
梓「あれ、律先輩はどうして職員室に行ってたんですか?」
律「私は、さわちゃんに用があったからな。唯の付き添いも兼ねて立ち寄ったんだよ」
梓「なるほど。そして唯先輩は、試験結果が全部ぎりぎりで注意された、と」
唯「いやぁ、すいやせんねー、えへへへへ」
律「なぁ、梓」
梓「なんですか?」
律「おもっきりお茶しようとしてるけど、注意しないのか?」
梓「……」
あまりに自然な流れすぎて失念していた。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:35:15.66 ID:ESiGxtBZ0
梓「い、いや、あれですよ。澪先輩がまだ来てないから、ほら。練習は皆揃ってからじゃないと!」
律「そういうことにしといてあげよう」
ふふん、と胸を張る律先輩。
むぅ。私としたことが。
なんか、最近律先輩に優位に立たれることが増えてきた気がする。
むくれていると、唯先輩がそっと頭を撫でてくれた。
唯「よしよし、あずにゃんいい子いい子」
思わず顔が綻ぶ。
梓「にゃあ」
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:40:21.65 ID:ESiGxtBZ0
律「なぁ、梓」
梓「にゃ?」
律「私も唯もムギも、どっちかっていうとボケ属性だから、お前がボケると突っ込むやついなくなると思うんだ」
梓「……」
ちがうもん。
ボケとかじゃないもん。
わからない人のために説明しよう!
私は唯先輩に撫でられると猫語になってしまうことがあるのだ。
苦しいとか言うな。言わないでください。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:44:51.55 ID:ESiGxtBZ0
ムギ先輩が人数分の紅茶を淹れて戻り、四人で会話に花を咲かせる。
しばらくすると、澪先輩が音楽室に顔を覘かせた。
澪「ごめん、遅れて。HRが長引いちゃtt」
台詞を最後まで言わずに硬直する澪先輩。
解説しておくと、件の等身大ポスターは、入り口から見て右側の壁に貼られている。
扉を開けてそのまま無警戒で席へと着いた唯先輩と律先輩は、まるで気付いていないのだが、
普段から警戒心の強い澪先輩は、すぐにその淀みの無い熱視線に気が付いたようだ。
唯「やっほー澪ちゃん」
紬「こんにちわ澪ちゃん。ごめんなさい、今澪ちゃんの分も淹れるわね」
律「どうした澪ー、早く座れよ?」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:49:08.13 ID:ESiGxtBZ0
梓「……」
澪「あ、ああ。そうだな……」
ちらちらと、様子を窺いながら、椅子に座る澪先輩。
その視線の先には、圧倒的な存在感を持って壁に鎮座する推定二メートルの偉人。
談笑を続ける三人を尻目に、澪先輩は隣から小声で私に囁きかける。
澪「(な、なぁ、梓。気付いてる?)」
梓「(まぁ、一応は……)」
貼ったの私です。とは口が裂けても言えない。
澪「(これってやっぱり、アレだよな?)」
梓「(あー、えーと……。非常に説明し難い所なんですが)」
一応、そこはフォローしておくべきだろう。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:52:47.70 ID:ESiGxtBZ0
梓「(笑っても大丈夫ですよ、今回はそういうんじゃないらしいので)」
澪「(そ、そうか。よかった……)」
澪先輩は、心底ホッとしたような素振りを見せた直後、
澪「いや、良くないだろ!!」
そう言って、机をバン!と叩いた。
律「うわー、澪が怒ったっ!」
唯「ご、ごめんね澪ちゃん! ムギちゃんのクッキー、一枚多く食べちゃってごめんね!」
ああ。
そんなことで澪先輩が怒るわけないのに。
本当に、かわゆいお方だ。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:55:49.01 ID:ESiGxtBZ0
澪「そうじゃなくて、アレのことだよっ!!」
言って澪先輩は、指先をポスターへと向ける。
その指の先を、まるでテニスの試合を食い入るように見つめる観客のように
シンクロした首の動きで追う唯先輩と律先輩。
私はここがチャンスとばかりに唯先輩だけを見ていたが、
ムギ先輩もまた、じっと私を見ていた。しまった、謀られた。
律「!!」
唯「!!」
律「なん……」
唯「だと……」
澪「全く、なんでこんなものがここに貼ってあるんだよ」
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:57:26.42 ID:ESiGxtBZ0
つかつかと歩き出し、偉人の前で立ち止まると、
澪先輩は私がしたのと同じように、ポスターを剥がしにかかる。
律「ま、待て澪! 安易に剥がすのは危険だ!!死体とか埋まってるかもしれない!!」
澪「ひぃぃっ!?」
サササ、と綺麗な早歩きで音楽室の反対側の壁へと移動し、
その場に蹲る澪先輩。
律「ありゃ、効果ありすぎたかな……」
唯「りっちゃん、さすがにそれは怖いと思うよ」
梓「澪先輩、大丈夫ですよ。死体なんてありませんから」
澪「見えない聞こえない見えない聞こえない見えない聞こえない」
梓「あー……。しばらくダメですね、これは」
お決まりの念仏を唱えてしまっている。
こうなってしまえば、この人はしばらく動けないのだ。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 18:59:44.26 ID:ESiGxtBZ0
律「……ごめんな澪ー、悪ふざけが過ぎたよ」
私と律先輩がフォローに回ったため、
ポスターの前には、必然、唯先輩とムギ先輩が残る。
……もしかしてこの流れ、ムギ先輩の計画通りなのか?
だとすると少しだけ不安になる。
私は、澪先輩を律先輩に任せて、唯先輩の所へと戻った。
唯「ムギちゃんこれ、ふく―、ポーション高杉さんだよね?」
今、「ふく」って言いかけましたよね?
紬「日系ボリビア人よ」
もはや話聞いてねえなこの人。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:04:24.56 ID:ESiGxtBZ0
唯「やっぱり、先月のアレだよね……?」
紬「そうかもしれないわね」
唯「ほえ、ムギちゃんが貼ったんじゃないの、これ?」
紬「貼ったのは私じゃないわよ?」
唯「そっかぁ、そうなんだ。誰が貼ったんだろう……」
梓「……」
貼ったのは、と来たか。
確かにムギ先輩は貼ってはいないからなぁ。
律先輩や澪先輩なら、持ってきたのはムギ先輩だと気付いてくれるのだろうけど、
唯先輩はバ……、いや、純粋だから、簡単に信じてしまう。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:10:02.46 ID:ESiGxtBZ0
うむ、貼ったのは私だ。
と名乗ればいいのだろうか。
そして持ってきたのはムギ先輩だと訴えれば、解決できるのではなかろうか。
しかし、そんな考えとは裏腹に、私は傍観に徹した。
ムギ先輩のポスター計画がどこまでうまく運ぶのか、
それに唯先輩の罰ゲームも見てみたい気は確かにある。
憂があまり酷い要求をするようなら、現場にいける私が止めればいいのだ。
唯「罰ゲーム……」
紬「唯ちゃん?」
唯「私が、憂のご褒美の罰ゲームを受けてないから、こんなのが貼られたのかな」
紬「憂ちゃんが権利放棄して、無かったことになったのよね」
唯「うん。憂は本当にできた子だよぅ」
梓「……」
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:15:13.44 ID:ESiGxtBZ0
紬「やったほうがいいんじゃないかしら? 罰ゲーム」
唯「ほえ?」
紬「だってこれは、そういうことだと思うわ」
唯「そうだよね。私が負けたんだし、罰受けないなんてずるいもんね……」
ああ、やはりそういう展開か。
神はそういう展開を御所望か。
唯「わかったよムギちゃん!今日帰ったら、憂にお願いしてみるねっ!」
紬「えらいわ、唯ちゃん」
わしゃわしゃと唯先輩の頭を撫でるムギ先輩。
私はその光景に、北の動物王国の主を重ねる。
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:21:51.23 ID:ESiGxtBZ0
ちくしょう。せめてその役目は私に譲ってほしかtt――じゃなくて、
二メートルの等身大ポーション高杉おそるべし。
さしもの私も、このご都合主義的展開は読めなかった。
ムギ先輩は、「それじゃあ、剥がすわね」といって、
役目を終えたポーション高杉を元の筒へと戻した。
いや、筒。
筒持ってるのムギ先輩ですから!
気付いてくださいよ唯先輩!!
唯「りっちゃん、紅茶冷めちゃうよー!」
律「おう、分かってるー!」
梓「……」
紬「……ね?」
梓「脱帽です」
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:28:41.08 ID:ESiGxtBZ0
翌日の放課後。
音楽室の扉を開けば、そこにはほら、昨日と同じくムギ先輩が一人だけ。
なんてことは無く。
先輩方は既に全員揃っていた。
梓「こんにちわー」
唯「やっほー、あずにゃん」
律「おーっす」
紬「ちょうど良かったわ。梓ちゃん、今週の土曜日空いてるかしら?」
なんか、デジャヴ。
また勉強会とか言い出すんじゃあるまいな。
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:34:02.15 ID:ESiGxtBZ0
梓「えーと、はい。大丈夫だと思いますけど」
律「遊園地いこうぜ!」
梓「……はぁ、いいですけど。なんでまた唐突に?」
律「部員同士の親睦を深めるためだ!」
澪「遊びたいからに決まってるだろ」
律「なんだよー、澪だってノリノリだったじゃんか」
澪「それは……、皆行くって言うから……」
段々と、声のトーンが下がっていく澪先輩。
なんとも可愛らしい。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:39:07.17 ID:ESiGxtBZ0
ニヤニヤと頬を緩めていると、唯先輩が口を開く。
唯「実はね、憂が提案してくれたんだよ」
憂が?
遊園地?
結びつかない。
どうしてまた?
唯先輩は、あまりテキパキとは言えない口調でゆっくりと、
でも分かりやすく説明してくれた。
昨日家に帰ってから、唯先輩は、憂に罰ゲームの話をした。
すると憂は、『梓ちゃんがずっとカメラをまわすのは大変だから』、という理由で
”日中から夜まで”の間は、皆の前で罰をすればいい。
皆で一緒に遊びながら罰をすればいい、と提案してくれたそうだ。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:45:46.15 ID:ESiGxtBZ0
確かに、ムギ先輩の前であれば、カメラで撮影しなくとも満足してくれるだろう。
私も失念していたことだが、ムギ先輩が出したのご褒美&罰ゲームの内容は
『勝者が”一日の間”、敗者を好きにしてかまわない』
というものだった。
一日というのは、つまるところ二十四時間。大目に見ても、夜寝るまでの間だ。
確かに、私が一人で平沢家に行き、一日中カメラをまわし続けるというのは、なかなかに酷なもの。
ともすれば、この憂の申し出は非常にありがたい。
私としては、これを反対する理由は何一つ無い。
梓「なるほど。そういうことなら是非行かせてください」
ていうか、今更だけどどうしてカメラ係とか引き受けたんだろう……。
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:48:43.00 ID:ESiGxtBZ0
律「やったな、唯!」
唯「やったね、りっちゃん!」
律先輩と唯先輩が、両手を出し合って勝利のポーズ。
最初は唯先輩の出した手のひらを、律先輩が上からパシン!
続いて律先輩が出した手のひらを、唯先輩が上からパシン!
最後に、二人とも右手でガシッ!と握り合う……かと思いきや、
律先輩が、反対の手の人差し指で、唯先輩の頬っぺたをぷに。
空を切る唯先輩の右手。
唯「あぁん、りっちゃんひどいっ!」
律「あはは、悪かった悪かった」
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:52:04.07 ID:ESiGxtBZ0
紬「相変わらず、二人は息が合うわね」
澪「あれをもう少し演奏に生かしてくれればいいんだけどな……」
梓「全くです。……ところで澪先輩」
澪「なんだ?」
梓「お化け屋敷とか、絶叫マシンとかありますけど、大丈夫なんですか?」
澪「……」
梓「……」
澪「……うん、だ、大丈夫」
梓「絶対嘘だ」
紬「梓ちゃん、口に出てるわよ」
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 19:57:23.28 ID:ESiGxtBZ0
唯「良い天気っ!」
律「見渡す限りの人、人、人っ!」
憂「そして今日もかわいいお姉ちゃんっ!」
梓「わー、遊園地だー……」
澪「梓、ムリに乗らなくてもいいんだぞ」
上空には、雲一つ無い青い空が広がり、
地上には、恐ろしい程の人が群がる。
上空に輝く太陽は、止め処なく紫外線を照射し、
地上に輝く太陽は、何処までも淀みの無い笑顔を振りまいている。
私たちは電車に一時間ほど揺られ、某巨大遊園地へやってきていた。
ちなみに、解散後は私のみ唯先輩の家に泊まりに行く予定となっている。
もちろん、ムギ先輩に頼まれた罰ゲーム撮影のためである。
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:00:33.48 ID:ESiGxtBZ0
紬「……」
唯「あれ、ムギちゃんどうしたの?」
紬「いえ。ただ、友達同士で遊園地って初めてだったから……嬉しくて」
唯「そっかぁ。それじゃあ今日は一緒に楽しもうね!」
紬「そうねっ。ありがとう、唯ちゃん♪」
唯「えへへ」
ムギ先輩はそう言って唯先輩の手を握った後、私の方へと振り向いてニコりと笑った。
わざとやってやがんなこんちくしょう。
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:05:01.05 ID:ESiGxtBZ0
憂「それじゃあお姉ちゃん、最初のお願い」
唯「ほいほい、なんでもごじゃれ!」
憂「今日一日、皆で楽しく過ごすこと!」
唯「いえっさー!」
ビシっと。
なぜか敬礼する唯先輩だった。
紬「良いわねぇ。心洗われるようだわ……」
澪「ムギ?」
紬「うふふ、素敵な一日になりそうね、澪ちゃん」
澪「え、うん……」
澪先輩は改めて、楽しそうに笑う律先輩や唯先輩を見つめて
そうだな、と呟いた。
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:10:42.45 ID:ESiGxtBZ0
唯「……というわけでりっちゃん、まずは何から乗る!?」
律「そうだなー、やっぱり遊園地と言えば、まずは……アレだぁっ!!」
律先輩の指差した先には、絶叫マシンの代名詞『ジェットコースター』
その乗り込み口からは、長蛇の列が続いている。
澪「でも、凄い並んでるぞ?」
律「こういうところにきたら、並ぶのも醍醐味ってな。待ち時間を有効に使えばいいのさ」
そう言って、律先輩が取り出したのは、黒いカラーリングの携帯ゲーム機と、付属のタッチペン。
それに呼応するように、ムギ先輩も白いカラーリングのそれをカバンから取り出していた。
紬「なるほど。それで持ってくるようにいってたのね」
唯先輩はピンク、憂と澪先輩はライトブルー。 私は律先輩と同じくブラック。
律先輩が親となり、他の五人がソフトをダウンロードする。
これで、六人でも同時に対戦できるのだ。
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:15:29.41 ID:ESiGxtBZ0
――。
梓「ちょ、誰ですかアイテムエリアに偽物置いた人!!」
律「ふはは、私だ!」
憂「梓ちゃんいた」
梓「あーっ、律先輩のせいで憂に抜かれたし!」
律「踏むのが悪い!」
澪「律、覚悟!」
唯「あ、なんか飛んでった」
紬「あら本当。りっちゃん気をつけてー」
律「いやいやいや、澪お前周回遅れなんだからそういうことを――うおおッ!?」
え、勝敗?
会話から想像してみてください。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:19:59.42 ID:ESiGxtBZ0
――。
梓「せっかくなんだからパート変えましょうよ」
律「えー、じゃあ私ドラム~」
澪「変わってないだろ」
律「ぷえー。じゃあベースやるー」
紬「なら私がドラムやろうかしら」
唯「澪ちゃんは?」
澪「そうだな……、それじゃあギターにしよう」
憂「私もギターかな。お姉ちゃんの」
澪「憂ちゃんリードやってみる?」
憂「は、はい。頑張ります」
唯「それじゃ私たちはピアノだね、あずにゃん」
梓「はい、唯先輩」
曲目は『ふわふわ時間』
スコアはあらかじめ澪先輩が入力してきてくれたらしい。
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:24:28.95 ID:ESiGxtBZ0
――。
律「ふ、あははは、澪、なんて動きしてんだよ」
澪「し、仕方ないだろ。こういうの苦手なんだから!」
律「そんな動きしてると撃っちゃうぞー」
ピュン
律「おわっ!?誰だよデトネーター撃ったの、顔に張り付いてんじゃん!!」
憂「……」
律「く、こうなったら澪も道連れだっ!」
澪「ば、馬鹿!それ点灯させたままこっちくんなっ!」
カチリ。
澪・律「うおおおっ!?」
どかーん!
憂「……ふふ」
律「うわ、憂ちゃんだったか……。やられたよ」
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:29:17.58 ID:ESiGxtBZ0
唯「一対一だね、あずにゃん!」
梓「負けませんよ!」
唯先輩の武器はショットガン。対する私はサブマシンガンの二丁。
至近距離で撃たれるとヘッドショットでなくても即死コースだが、一発撃つ毎に隙が生じる。
先輩のニブさなら、多分掻い潜れる。……多分。
バンッ!
梓「っ!!」
ズガガガガガ
唯「――!!」
バンッ!
梓「なっ!?」
唯「ふっ、甘くみたね、あずにゃ―」どかああああん!!
唯「……」
梓「……」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:34:28.46 ID:ESiGxtBZ0
唯「……なんか、爆発した」
梓「……爆発しましたね」
唯先輩と死闘を繰り広げていた矢先、
なんらかの爆発物が飛んできた。
憂は澪先輩と律先輩の方にいた筈だから、こんなことができるのは――。
紬「ふふっ」
唯「ムギちゃん後ろにいたのー!?」
紬「ダメよ、二人だけでイチャイチャしてちゃ!」
梓「し、してませんそんなこと!」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:39:36.05 ID:ESiGxtBZ0
――。
などとやってるうち、あっという間に私たちの番がやってきた。
白熱しすぎて、危うく本来の目的を忘れるところだった。
私達は係員に案内され、コースターの前に通された。
二人席がずらっと一列に並んでいるので、必然、二人ずつのペアに別れる必要がある。
梓「席、どうするんですか?」
律「じゃあ私澪の隣ー!」
澪「……そういうことを平気で叫ぶなよ」
律「なに、嫌なの?」
澪「べ、別に嫌とは言ってないだろ!」
ニヤニヤと嬉しそうな律先輩。
律先輩は、唯先輩と気が合うくせに、こういう時は澪先輩を選ぶよなぁ。
そしていつもの流れだと、ここで唯先輩が
「あずにゃ~ん、一緒に乗ろう!」って言いながら私に抱きついて――
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:46:44.02 ID:ESiGxtBZ0
憂「あ、お姉ちゃん」
む。
唯「どうしたの、うい?」
憂「一緒に乗ってもいいかな?」
唯「……」
少し間を置く唯先輩。
……もしかして、考えてますか?
唯「ダメだよ」
憂「……え?」
梓「!」
その発言に、思わずはっとする。
まさか、私のため――?
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:50:44.94 ID:ESiGxtBZ0
唯「ふふ、そうじゃないでしょ、ういー。今日の私は憂の言いなりなんだから」
憂「……あ、そっか」
唯「ほら、ちゃんと言い直さなきゃ」
憂「命令します。お姉ちゃんは私の隣に座ること!」
唯「かしこまりましたっ!」
憂「えへへ~」
梓「……」
むぅ。
紬「梓ちゃん?」
ちょっと期待したのに。
唯先輩のばか。
ばかー。
86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:54:22.08 ID:ESiGxtBZ0
梓「……」
紬「あーずーさーちゃーん?」
梓「ふぇっ!? な、なんですか?」
紬「妬いてる?」
梓「なっ!! そ、そんな事、あるわけないです!!大体ムギ先輩はいつもいつも私達をそういう風に」
紬「妬いてたのね」
梓「妬いてません」
紬「……ふ」
梓「……」
鼻で笑われた。ちくしょう。
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 20:56:09.18 ID:ESiGxtBZ0
紬「そう、それじゃあ一緒に座りましょ♪」
梓「……ムギ先輩」
紬「なあに?」
梓「私、右側でいいですか?」
紬「ふふふ、もちろんよ」
梓「……どうもです」
紬「そこの位置なら、コースターがスピードに乗れば、唯ちゃんの匂いが嗅げるものね」
梓「そういう変態っぽい言い方しないでもらえますかね」
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 21:59:42.41 ID:ESiGxtBZ0
唯「澪ちゃん、大丈夫?」
澪「なにが?」
唯「うぇ、いや、こういうの苦手かなーって思ったんだけど」
澪「ああ、痛いのとかお化けとかはダメだけど、これは別に……」
唯「へぇー、そうなんだー。ちょっと意外かも」
澪「そうかな……。ていうかアニメ版の私はやりすぎだろ。あそこまで臆病だとマトモに生活できないじゃないか」
梓「……」
律「……」
唯「……」
紬「……」
憂「……」
澪「ん?」
律「いや、はっちゃけたなーと思って」
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:00:52.86 ID:ESiGxtBZ0
シートベルトが下り、私達を乗せたコースターはレールの上を上昇していく。
やがて、遊園地が一望できる高さまで……って、思ったより高いなコレ。
……いや、高すぎるでしょ。
こっから一気に下りるの? まじで?
紬「まじです♪」
梓「わあ、声に出てましたっ!!」
―――。
梓「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
律「いやっほおおおい!!」
唯「おほぉぉぉっ!!」
憂「お姉ちゃんかわいいよお姉ちゃん」
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:04:54.85 ID:ESiGxtBZ0
―――。
澪「ひ、い、いいいいっ!!」
律「うおおおおおおっ!!」
憂「お姉ちゃん愛してる」
―――。
唯「おわぁぁぁぁぁっ!」
紬「わぁ、いい眺めよ梓ちゃん♪」
梓「う、ぐ……」
憂「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん」
―――。
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:07:16.40 ID:ESiGxtBZ0
梓「……」
紬「気持ちよかったわね、梓ちゃん」
梓「……ええ、まぁ。 余裕でした」
三回くらい意識飛びそうになった。
匂いがどうとか言ってる余裕ねーですよ。
律「なんだよ澪、結局怖がってたじゃん」
澪「いや、なんていうか……。あそこまで急だとは思ってなかった」
律「あはは、まぁ、私もちょっと怖かったしね。澪にしては頑張ったと思うぞ」
そう言って、澪先輩の頭を撫でる律先輩。
澪「な、撫でるな!」
身長的に、普通は逆だろうと思う。
ほら、私と唯先輩みたいに――
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:13:47.00 ID:ESiGxtBZ0
唯「楽しかったねー、ういー」
憂「うん! 次も一緒に乗ろうね、お姉ちゃん」
梓「……」
あー。
あー。
なんだろう、この気持ち。
どす黒い何かが、私の心の中に――。
そういえば今日って、まだ一回も唯先輩に抱きつかれてないよね。
紬「……」
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:19:29.77 ID:ESiGxtBZ0
律「さて、お次は……アレとかどうだ?」
律先輩が指差したのは、回転する巨大なトレイの上でくるくる回るコーヒーカップ。
ハンドルを回すとその分、カップの回転速度が上昇するというファンキーな乗り物だ。
唯「おぉ、いいねー」
澪「そうだな、アレならあんまり人も並んでないし」
律「そんじゃ決定ー!いくぞぉ、みんなー」
唯・憂「おーう!」
よし、次こそは唯先輩と――、言いたいところではあるのだけれど。
唯先輩の腕は、憂ががっしりと掴んでいる。
これじゃあ、私の入る隙が無いじゃないか……。
ううん。
……皆楽しんでいるんだから。
考えるな、考えなくていいんだ、私。
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:24:23.38 ID:ESiGxtBZ0
梓「……」
頭ではそう思っているつもりなのに、
言い聞かせても言い聞かせても、心のもやもやは消えてはくれなかった。
いつから、こうなったのかな、私――。
澪「これも二人ずつだけど、どう分かれるんだ?」
律「うーん、そうだなぁ」
紬「憂ちゃん」
憂「なんですか?」
紬「今回は、私と一緒に乗ってくれるかしら?」
ムギ先輩……?
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:31:06.89 ID:ESiGxtBZ0
憂「え、でも」
紬「お願いっ」
憂「……まぁ、紬さんがそう仰るなら、私は構いませんよ」
紬「ありがとう!」
ムギ先輩は、憂の腕を掴んで歩き出す。
そして、私の方へと振り返り、ウインクをぱちり。
――頑張ってね。
そんな声が聞こえた気がしたから、
――ありがとうございます。
心の中で、そう呟いた。
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:38:14.73 ID:ESiGxtBZ0
ムギ先輩の心意気を、無駄にするわけにはいかない。
だから、私も勇気を出して。
梓「あの、唯せんぱ――」
律「んじゃ、唯。私と組むかー」
唯「え、うん。いいよ、りっちゃん!」
うおぉぉぉぉい!!
律先輩うおぉぉぉぉい!!
澪「じゃあ、梓は私とだな……って」
梓「……」
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:42:38.38 ID:ESiGxtBZ0
澪「ご、ごめん梓。私とじゃそんなに不満だったか……?」
ぷぅー、っと頬を膨らませる私と、それが自分のせいだと思い込んであたふたする澪先輩。
困った。 私は唯先輩のことが好きだが、澪先輩のことも好きなのだ。
なんというか、付き合うなら唯先輩、姉にするなら澪先輩、みたいな。
だから、あらぬ誤解を招いて好感度を落とすわけにはいかない。
二股とかじゃねーです。
そこのけそこのけです。
梓「あ、ち、違います。ごめんなさい澪先輩!誤解です!」
澪「そ、そう? それならいいんだけど……」
梓「……はぁ」
前途は多難らしかった。
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 22:51:01.06 ID:ESiGxtBZ0
物凄い勢いで超速回転する律先輩と唯先輩のカップ。
律「ひゃっほおおおおっ!」
唯「り、りっちゃん、目が!目がまわる!!」
律「うおお、そういえば私も目がまわってきた気がする!」
唯「ほわあああああ!!」
律「だが、まだだ。まだ終わらんよ!」
唯「り、りっちゃん隊員、これ以上は……!」
律「大丈夫だ、唯! 私が守ってやるっ!」
唯「り、りっちゃんっ!!」
律「唯っ!」
律・唯「イエス」
律・唯「フォーリン・ラヴ」
梓「……」
澪「あいつら、何やってるんだ……」
最終更新:2009年09月22日 01:38