117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:01:30.91 ID:ESiGxtBZ0
一方で、穏やかに回転するムギ先輩と憂のカップ。
ムギ先輩と憂の声は、ここからでは聞き取れなかったけれど、
なにやら楽しそうに談笑していた。
案外あの二人、気があったりするのかもしれない。
そして、優雅に回転する私と澪先輩のカップ。
澪先輩は私の隣で、超速回転するカップを呆れた様子で見つめている。
梓「あの、澪先輩」
澪「うん?」
梓「澪先輩は、好きな人っていますか?」
澪「……」
梓「澪先輩?」
澪「いや、梓にそんなこと聞かれるとは思わなくて」
梓「……意外ですか?」
澪「少し、ね」
そう言って澪先輩は優しく微笑む。
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:07:10.76 ID:ESiGxtBZ0
澪「そうだな……。正直に言えば、気になるやつはいる。
ただ、それが本当に好きっていう感情なのかと聞かれれば、かなり曖昧なものだけど」
その視線は、相変わらず一つのカップに固定されていた。
梓「例えば、……その、例えばですよ。 その気になる人が自分の目の前で、他の人と仲良くしてたら、どう思いますか?」
澪「……? 梓、もしかして」
梓「例えば、と言っています」
澪「……ふふ、それはアレだ。嫉妬するんじゃないかな?」
梓「……」
澪先輩の気になる相手は、きっと律先輩なのだろうと思っているのだけど。
唯先輩と楽しそうにしている律先輩を目の当たりにしても、澪先輩に凡そ嫉妬という感情は見て取れない。
やっぱり、私が子供なんだろうか。
或いは、律先輩のことを指しているのでは無いのかもしれないが。
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:14:25.26 ID:ESiGxtBZ0
澪「なるほど、それでさっきむくれてたんだな」
梓「いや、あれは」
澪「自分の気持ちに正直になればいいんだよ。 口にしなくちゃ伝わらないことだってある。相手が鈍感な場合は尚更、ね」
梓「……それ、澪先輩には言われたくないです」
澪「ぐ……。 い、いや、今は梓の話をだな」
まぁ、澪先輩の場合、相手が鈍感ってわけでもないからな……って、あれ?
おかしいな。オブラートに包んだつもりなんだけど。
何故『相手が鈍感な場合』とか仰ったんですかね、このお方は。
いやいやいや、待て、落ち着け私。
鈍感と唯先輩が等号というわけではないだろう。
ほら、思い返してみよう。
この前の等身大高杉ポスターの時だって――。
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:19:58.05 ID:ESiGxtBZ0
梓「……」
やっぱいいや。
澪「どうした?」
梓「いえ、ただちょっと贔屓目に記憶を改ざんしようとしたけど、どう頑張ってもそれは唯先輩じゃヌエー!と」
澪「ああ、やっぱり唯か」
梓「……え?」
澪「気になる相手」
梓「……」
澪「……」
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:24:37.88 ID:ESiGxtBZ0
梓「なんで分かったんですか?」
澪「今自分でバラしたじゃないか」
梓「……」
澪「……」
梓「ほぎゃああああ!!」
澪「う、うわ、梓落ち着けっ!」
おもっきりハンドルをまわしてやった。
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:32:33.53 ID:ESiGxtBZ0
唯「楽しかったねー、りっちゃん」
律「……ちょっと、まわしすぎたけどな」
ベンチの背もたれに手を置いて、ぐったりの律先輩。
ハンドル持ってたの律先輩なのに。なにやってんだか。
紬「そろそろおなかが空いたわね」
憂「時間もお昼過ぎてますし、ご飯にしましょうか」
そう言って、憂は作ってきたお弁当を取り出した。
人数分ともなると、作るのも持ち運ぶのも大変だろうに。
献身的な子だと思う。
唯「賛成っ!」
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:38:02.37 ID:ESiGxtBZ0
梓「向こうに公園がありますね」
私は地図を見ながら、その方向を指差した。
唯「ほえー、どこどこ?」
梓「あ……」
不意に、唯先輩の顔が真横に現れた。
それは、抱きつかれるのとはまた違う感覚で、体温がぐん、と上がったような錯覚に陥る。
勿論抱きつかれる方が個人的には好きなんですけど。
……いや、何を考えているんだ私は。いくらなんでも動揺しすぎだ。
唯「?」
梓「落ち着け私、落ち着け私……」
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:44:49.15 ID:ESiGxtBZ0
唯「あずにゃん?」
梓「い、いえ。えーと、ほら、ここに」
唯「おおうっ! 本当だ! みんな、急ごう!!」
唯先輩はそう叫ぶと同時に私から離れ、律先輩と一緒になって走り出す。
梓「あっ……」
ほんの一瞬だった。
もう少し、もう少しだけでいいから、近くに居て欲しかったのに。
紬「ふふ、元気ね、二人とも」
澪「全く。食べ物の事となるとこれだよ……。あの熱意を少しでも練習にまわしてくれればなぁ」
憂「梓ちゃん、ほら、私たちも行こ?」
梓「……あ、うん。そうだね」
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:50:14.94 ID:ESiGxtBZ0
憂「はい、お姉ちゃん。あーん」
唯「あーん」
もぐもぐ。
唯「それじゃ、ういも。あーんして」
憂「あーん」
もぐもぐ。
梓「……」
澪「……」
紬「……」
この三点リーダを解説しておくと、上から順に
『嫉妬』『呆然』『至福』となる。
表情の方は各自でご想像願いたい。
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/21(月) 23:56:11.15 ID:ESiGxtBZ0
律「お、お前ら……本当仲良いよな」
唯「そうかなぁ? これくらいなら普通にやると思うけど」
憂「冬場は特にねー。コタツから顔だけだしてミカンをねだるお姉ちゃん……もう、ほっっっんとに可愛いんですよ!」
いや、強調しすぎだよ。
実際可愛いけど強調しすぎだよ。
ちくしょう。
ちくしょう。
憂「それにほら、今日はお姉ちゃんの罰ゲームも兼ねてますから、ムギ先輩が喜びそうなことをしないと」
絶対それ建て前だよね?
……。
いやいやいや、そろそろ落ち着こうか私。
親友に敵意を向けるとかありえないから。ありえないですから。
ていうか、姉妹でしょ。仲は良いけど姉妹でしょ。
こういう時は手のひらに人という字を書いて、その横に憂をつれてくれば、ほら。
人に優しく!!
私は手のひらに書いた字を意味もなく飲み込んだ。
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:01:01.71 ID:WLo0G95R0
澪「まぁ、確かにムギは大喜びみたいだけど……」
紬「……」
律先輩的に言うなら『ちょーウットリしてるぅ!?』だ。
律「それはそうと、梓」
梓「あ?」
律「ご、ゴメンナサイ!?」
梓「あ、すいません、考え事してました」
律「なんか露骨に不機嫌になってないか?」
梓「いえ、そんなことないですけど。人に優しくです」
律「人に優しく?」
梓「人に優しく」
律「あ、ああ……」
何故だか、珍しく律先輩が動揺していた。
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:09:04.97 ID:WLo0G95R0
唯「あずにゃん」
梓「……なんですか?」
唯「食べる?」
嬉しそうに、私の目の前にたいやきをちらつかせる唯先輩。
梓「……」
今更だ。
そんな、そんなものに私は釣られない。
釣られるわけがないのに。
律「物凄い目で追ってるな、たいやき」
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:15:21.79 ID:WLo0G95R0
唯「……」
梓「あっ……」
遠ざかるたいやき。
律「……」
憂「遊ぶお姉ちゃんと、遊ばれる梓ちゃん……」
紬「これはこれで、来るものがあるわね」
憂「わかります」
ああ、唯先輩。
食べさせてくれないんですか。
おあずけですか。
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:19:04.76 ID:WLo0G95R0
唯「あずにゃん」
梓「な、なんですか」
唯「あーん」
梓「……」
唯「あーん」
梓「あ、あーん……」
ぱく。
もぐもぐ。
梓「……おいしい」
唯「うっふっふ」
勝ち誇ったかのように不敵に笑う唯先輩。
せいぜい今のうちに勝利の美酒に酔いしれてると良いです。
……次はこっちのターンなんですから。
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:24:48.47 ID:WLo0G95R0
梓「唯先輩」
唯「なぁに?」
梓「あ、あー、あー……」
唯「……うん?」
そのキラキラの眼差しをやめていただきたい。
無理だ。ちくしょう。
私には無理なんだっ!!
「あーん」なんていいながら食べさせるなんて私には無理なんですよぉぉ!!
梓「……あー、いえ、なんでもないです」
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:29:39.12 ID:WLo0G95R0
唯「えー、食べさせてくれないの?」
それは、人差し指を自分の唇に当てて、小首を傾げるという行為だった。
何の変哲も無い、ただそれだけのポーズだ。艶っぽさも色気もあったものではない。
強いて言うなら、子供が欲しいものをおねだりするときにこんなポーズをとることがある。
たとえ友達や近所の子供達からこのポーズをされたところで、私は大した感慨を持たないだろう。
それどころか、『甘えるな』と叱責するかもしれない。
だがどういうことか。
この瞬間、確かに私は一度死んだ。
そして、憂がミサイルの如く公園の端まですっ飛んでいき、
ベンチでポップコーンを食べながら小さな女の子を眺めて恍惚の表情を浮かべていた二十台くらいの青年の手から、
ポップコーンを叩き落して「ブラボー!おお……ブラボー! 」と叫んだ。
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:34:49.95 ID:WLo0G95R0
梓「……」
唯「あずにゃん」
梓「……なんでございますでしょうか」
唯「もしかして照れてる?」
梓「て、て、照れてる!? 私がっ!? な、なにを根拠に――」
唯「ああん、もう! あずにゃんかわいいよぅ!」
ぎゅっ。
『あーん』に続いてハグ→頬擦りのコンボを叩き込まれた。
今日始めてのハグ。
どうしてこうも落ち着くんだろう。
ああ、唯先輩。できることならばしばらくこのままで――。
律「なんつーか、皆幸せそうだな……」
澪「察してやれ」
律「ていうか、憂ちゃんのアレはどう収拾つけるんだ」
澪「あの男の人も幸せそうだから、いいんじゃないか?」
律「いいのかよ」
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:41:44.21 ID:WLo0G95R0
唯「午後の部!」
澪「午前中以上にテンション高いな」
唯「お昼食べたからねっ!」
ふんす!と鼻息荒く、そんなことを言ってのける唯先輩。
梓「律先輩、何から乗るんですか!?」
律「えーと……、って、梓もテンション上がってないか?」
梓「秘密です!」
ふんす!と鼻息荒く、私は答えた。
律「じゃあアレ」 澪「嫌だ」
律「……」
澪「……」
149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:47:11.57 ID:WLo0G95R0
律「即答だな……」
律先輩が指差したのは遊園地の定番の一つ、お化け屋敷だった。
律「大丈夫だよ、所詮アトラクションなんだし、そんなに怖く」 澪「嫌だ」
紬「まあまあまあまあまあまあ。澪ちゃんも嫌がってるんだし、無理にいかなくても……」
六回がデフォなんだろうか、この人。
律「ちぇー、仕方ないなー」
憂「律さん、それならアレとかどうですか?」
落胆する律先輩に声をかける憂。
その視線の先には『脱出!巨大迷路!』と書かれた、かなりの規模のアトラクションが佇んでいた。
梓「なんの捻りもない名前ですね」
紬「>>1の力量が知れるわね」
律「ぼろくそだなお前ら」
152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 00:55:56.58 ID:WLo0G95R0
唯「でも、楽しそうだよ。行ってみない?」
律「……そうだな、澪もあれなら大丈夫だろ」
澪「あ、……うん」
紬「行きましょ、澪ちゃん」
澪「ムギ、その……」
紬「?」
澪「ありがと……」
紬「ふふ、どういたしまして!」
唯・律「か、かわええっ……!」
きゅるるるりーん。再び。
でも、私から言わせてもらえるなら、唯先輩だって十分可愛いんですよ?
……なんて、言いたくても言えませんけどね。
153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:02:05.22 ID:WLo0G95R0
憂「お姉ちゃん”の方が”、かわいいと思うな」
唯「な、なんとっ!?」
悶々としている私を尻目に、憂がさらりと言ってのけた。
わざとではないのかと思えるほど、今日の憂は積極的だ。
それはまるで、私へのあてつけのようにも思えて――
梓「……」
違う。
己の思考を断ち切るように、ぶんぶんと首を振った。
このままだと、自己嫌悪に陥りそうだったから。
友達に嫉妬なんてしたくない。
唯「いやいやいや」
唯先輩は必死に右手を振りながら、のどを絞めたような声で否定しつつ、
唯「そんなことないですからッ!!」
なぜか妹に敬語でキレた。
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:03:55.54 ID:WLo0G95R0
憂「かわいいってば」
しかし、微塵も気圧されることなく憂は攻める。
唯「……」
うー、と小さく呟きながら俯く唯先輩。
もしかして。
いや、もしかしなくても――、照れてたりしますか?
そこまで考えてから、やっぱり――、と思い直す。
だって、ありえないもの。
唯先輩は、かわいいと言われたくらいで照れる人ではないのだ。
唯「りっちゃん」
律「なんだね?」
唯「そんなことないよね? 」
律「いえいえ。 十分かわいいと思いますことよ?」
唯「ほあぁぁっ!!」
今度は、律先輩に跳ね飛ばされたかのような動きで、私にしがみついて来た。
予め断っておきますけど、棚ボタとか思ってないですから。
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:05:05.73 ID:WLo0G95R0
梓「どうしたんですか? いつもならそのくらいで照れたりしないのに」
唯「いや。いやいやいや。ダメ、ダメなのあずにゃん……」
ちょっと涙目になっているせいか、ドキリとする。
直後に、憂が「ベリィィィキュゥゥトォォォ!!」と奇声を上げながら、
申し分の無いクラウチングスタートを決めてすっ飛んでいったかと思えば、
隣のサッカーグラウンドで爽やかな汗を流す男達の隙間を巧みに掻い潜り、
選手の一人がフリーキックを蹴ろうかというタイミングで、サッカーボールを13ポンドのボウリング球と挿げ替える。
そして、テニスのボールボーイの如くしなやかな動きでグラウンドを離脱すると、
今度はスリーステップで大木を駆け上り、
枝に引っかかっていた風船を掴んで、バク宙を決めながら華麗に着地。
大木の下で泣いていた幼女に、無言でさっと差し出すイケメンっぷりで、彼女のハートをガッチリ鷲掴みにしていた。
私は、憂を目で追うのをやめて唯先輩に視線を戻した。
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/22(火) 01:06:10.67 ID:WLo0G95R0
唯「私が澪ちゃんより……か、かわいいだなんて、そんなことあっちゃダメ。ダメなんだよぅ!!」
え?
梓「……」
律「……」
律先輩と思わず顔を見合わせる。
えーと、ああ?
可愛いと言われることにはまるで抵抗はないけれど、
誰かよりも可愛いと言われることには抵抗があるということですか?
いや、その対象が澪先輩だったから、か。
なるほど、そういう線引きなのか。
感覚が独特すぎて、理解するのに二分弱かかった。
相変わらず良く分からないお人だ。
けれど、こういう唯先輩を見るのは初めてだったから。
ふふ、このネタを使っていじめてあげるのも悪くない。
193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 10:28:08.92 ID:WLo0G95R0
雑談と唯先輩弄りに花が咲きすぎて、なかなかアトラクションにたどり着けなかった私達は、
その後、憂が連れてきた外国人に謝ったり、唯先輩に謝ったり、
先行して待ちぼうけを食らっていた澪先輩とムギ先輩に謝ったりして、
ようやく目的のアトラクションへと到着した。
唯「ねえ、これ……」
律「見事にガラガラだな」
梓「人っ子一人見当たりませんね」
澪「みんな、これ見て」
澪先輩の指差した先には、『本日貸切』の看板。
それはつまり、どこぞの団体さんがこのアトラクションを一日丸々使うということだ。
アトラクションだけ見てもかなり大きい施設だし、これだけ客が来ているのだ。
一日とはいえ、これを貸切るなんて、相当のブルジョワジーに違いない。
197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 10:46:34.65 ID:WLo0G95R0
律「貸切かよ!」
唯「えー、じゃあ入れないの? 残念……」
澪「まぁ、仕方ないだろ。他のアトラクションに……」
?「も、申し訳ございません! 貸切ではございませんので、こちら今すぐご利用になれます」
澪先輩の台詞を遮るように、アトラクションの係員らしき人物が慌てた様子で出てきた。
なんか、どっかで聞いた事のある声だったけど、
思い出せないということは、さほど重要な人物ではないのだろう。
憂「それじゃあ入ってもいいんですか?」
?「はい、そのように仰せつかっております」
律「なんか、馬鹿丁寧な口調だな……」
唯「私、この人に会ったことある気がする……」
梓「あ、唯先輩もですか? 実は私も、どこかで聞いたことのある声だなって……」
紬「とにかく入りましょう? グズグズしてると他のお客さんの迷惑になっちゃうわ」
199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 10:52:34.27 ID:WLo0G95R0
私達が今日最初の入場者ということらしく、室内は静まり返っていた。
全体的に白みがかった壁と、異様に高い天井。前方に何かを映すであろう巨大なスクリーン。
無骨だった外観からは想像もできない作りだ。
そのだだっ広い部屋の床には、正方形のタイルが敷き詰められていた。
このタイルは大理石だろうか? いや、たかだか遊園地のアトラクションにそんなものが……
物思いに耽りながら床を見ていた私は、視線の先に、この空間に恐ろしく不釣合いな文字を発見した。
梓「『スタート』って書いてありますね」
澪「本当だ。ここがスタート地点ってことなのかな?」
律「スタートだけじゃないぜ。皆、向こうの床を見るんだ!!」
律先輩に言われるがまま、スタートパネルの奥を見る。
そこには、縁を三原色で彩ったパネルの数々。
スタート以外のパネルは、全て赤い紙が覆いかぶさっていて、
そこに書かれているであろう文字を確認することはできなかった。
200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 10:56:16.83 ID:WLo0G95R0
憂「……ええと、このアトラクションって『脱出!巨大迷路!』だったと思うんですけど」
憂の言っていることは正しい。
私も外のでっかいアーチを確認しているのだ。
ここは間違いなく、迷路であるはず。
唯「全然、迷路って感じしないね」
律「ああ。それどころか、これはまるで――」
「すごろく――」
律「じゃないか」
唯「だよね」
澪「だよな」
梓「ですよね」
綺麗にハモったところで。
ムギ先輩が衝撃の事実を口にする。
紬「そこに、大きな文字で『巨大!ファンタジーすごろく』って書いてあるわよ?」
統一しとけよ。
203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 10:59:41.54 ID:WLo0G95R0
支配人らしき人から、一通りの説明を受けたあと、順番を決める番号札を引かされた。
せっかく来たんだし、という意見と、意外と楽しそう、という意見から、
(ちなみに前者が澪先輩、後者が唯先輩だ。どうにも嫌な予感がするので、
私としては遠慮しておきたかったのだが、この二人にそう言われたら、黙って従う他無い)
結局、遊んでいくことになった。
支配人からの説明を要約するとこうなる。
このアトラクションは、コマは私達自身。サイコロを振ってゴールを目指すという部分では
普通のすごろくとなんら変わりは無い。
しかし、止まったマス目に書いてあることは、『当人に対して絶対に起きる』らしい。
あからさまに胡散臭い。
さらに。
一番最初にゴールにたどり着いた人は、他の全員にそれぞれ一つだけ、
どんな命令でもすることができる。 そして、敗者はそれに従わなければならない。
とのこと。
……いやいやいや。
デジャヴとかそういう次元じゃないですから。
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 11:00:49.19 ID:WLo0G95R0
律「どんな……」
澪「命令でも……」
唯「だと……?」
梓「ちょっと、皆さん落ち着いてくださいよ」
律「え?なんだって?」
澪「勝つしかない、私が助かる術は勝つしかない」
憂「お姉ちゃんとベロチュウお姉ちゃんとベロチュウお姉ちゃんとベロチュウ」
唯「あれ、なんかこんな感じのこと、前にもあったような……」
梓「そうですよ唯先輩! 律先輩も澪先輩もしっかりしてください! ……憂も、帰ってきて」
先月の笑ってはいけない勉強会に引き続き、今度は巨大なすごろくゲーム。
しかも、不自然な貸切のせいでお客さんは私たちだけ。
聞き覚えのあった係りの人の声と、その馬鹿丁寧な執事口調。
そう、こんなことができるのはただ一人しかいない――。
梓「ムギ先輩、説明してくださいッ!!」
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 11:09:14.87 ID:WLo0G95R0
紬「え?」
ほら見たことか。
ふふん。私の完璧な推理、見ていただけましたでしょうか、唯せんぱ――
梓「きょとんとしてるうぅぅ!?」
紬「どうしたの、梓ちゃん」
梓「……あ、いえ。これ仕組んだのって、ムギ先輩じゃないんですか?」
紬「そうよ?」
梓「どうしてそんなに意外そうな顔をしてらっしゃるんですか」
紬「いえ、もう皆とっくに気付いているものだと思っていたから」
梓「ああ、そうですか……」
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 11:16:11.47 ID:WLo0G95R0
紬「でも安心して? 今回は私も参加させていただくわ♪」
梓「わあ、すっごく安心……するもんかーー!!」
紬「……」
梓「……」
紬「唯ちゃん」
唯「え?」
紬「梓ちゃんを抱きしめてあげて」
唯「あ、うん」
梓「ちょ、何を言い出し――」
210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 11:20:22.48 ID:WLo0G95R0
唯「あずにゃ~ん」
ぎゅっ。
梓「っ!!」
お、おのれムギ先輩。
こんなことで私は騙されない、騙されませんから―!!
このまますごろくゲームなんてやったら、きっと前回みたいにとんでもない目に、
とんでもない目に、飛んで、……。
梓「にゃ……」
私の憤りはどこかへ遠くへ飛んでいった。
紬「それじゃあそろそろ始めましょ?」
憂「順番って、さっきのくじで決めるんですよね」
紬「そうよ」
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 11:26:19.90 ID:WLo0G95R0
律「えーと、私は三番、か」
唯「私二番だよー」
澪「私は五番」
梓「……」
憂「私六番です」
紬「私が四だから……」
みんなの視線が集まる。
……まぁ、黙ってたところでバレますよねー。
梓「すっごい嫌なんですけど……」
憂「梓ちゃん、がんばって!」
そんな激励されたところで、がんばりようがないんですけどね。
支配人に巨大なサイコロを渡され、私は仕方なくそれを振った。
お昼の看板番組を思わせるような挙動でサイコロは転がり、やがて静止する。
上を向いていた目は『4』
ゴールまではそこそこ長いようだし、『5』『6』では無いにしても上々の滑り出しと言える。
214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 11:32:47.17 ID:WLo0G95R0
梓「えーと……、タイル四つ分進めばいいんですよね?」
支配人が静かに頷いたのを確認してから、私はゆっくりと歩みを進める。
いち、に、さん、し――。
タイル自体がそこそこ大きいため、私の場合、一歩では次のタイルへは届かない。
ので、普通に歩いて、四マス目で停止した。
すると、タイルに張られていた赤い紙がすうっと剥がれ、そこに文字が現れる。
『ツインテールの片方がとれる』
梓「と、と、取れるッ!?」
取れるってどういうことですか!?
パニックになって、咄嗟に私は自分の髪を押さえた。
しかし――
『ぷちっ』
何かが切れる音と共に、テイルの右側が――。
梓「ヘアゴムが切れた……」
律「……当人に対して絶対に起きるって、こういうことなのか?」
澪「まさか……、偶然だろ」
サイドポニーなのはともかく、
右側だけだらしなく下ろしているというのが、どうにも格好がつかない。
ていうか、恥ずかしい。
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 11:37:54.77 ID:WLo0G95R0
梓「……」
逡巡した後、私は左側のゴムも一度外して、改めて一本にくくり直した。
予備のヘアゴムなんて持ってきてないし、仕方ない。
似合ってなさそうで、なんとも落ち着かないけれど。
憂「梓ちゃんのポニーテール……」
唯「あぁん、あずにゃんかわいいよあずにゃん!」
紬「ウットリね……」
澪「興奮してないで。唯の番だぞ?」
唯「え? あ。そっか」
唯先輩の手にサイコロが渡る。
ふと気付いたけれど、これで唯先輩が四を出したらどうなるんだろう?
今更だけどツインテールの片方が取れるって、私にしか効果ないじゃん!
ピンポイントで私狙いじゃん!!どういうことだよ!?
いや。そんなことより!!
ここでもし、唯先輩が四を出してみろ!
次の私の番が来るまで、そこそこ大きいとはいえ、一つのタイルの上に二人きり!
密・着・状・態!!
密着状態ということは即ち、あんなことやこんな 「あ、5だ」 ですよねー。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 11:41:56.50 ID:WLo0G95R0
唯「いっち、にぃ、さん、しー……ごっ! お隣だねっ、あずにゃん!」
梓「そうですねー」
唯「なんでそんなにガッカリしてるの?」
梓「いえ。ただちょっと、現実は甘くないなーと思ってたりする次第で」
唯「?」
唯先輩の足元のパネルがオープンする。
『サイコロの目*5回腹筋する』
同時に唯先輩の顔が青くなった。
唯「ど、どうしよう」
梓「どうしたんですか、そんなに慌てて」
唯「『3』以上出したら、多分私死ぬ」
梓「腹筋くらいで死なないでください」
217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 11:49:08.18 ID:WLo0G95R0
唯先輩の手に再度サイコロがわたり、改めて振るう。
両手を合わせて、あからさまな神頼みポーズの唯先輩。
そんなに腹筋したくないんですか。
やがてサイコロは止まり、出た目は『1』
梓「良かったですね、『3』以上じゃなくて」
唯「五回もできない……」
梓「どんだけ体力ないんですか」
ドタン―!
律「!?」
澪「な、なに?」
突如として部屋の奥の扉が開き、そこからスーツを纏ったサングラスの男達が数人現れた。
所謂エージェントというやつで、いやこれ先月と同じですからー!!
唯「ま、また!?」
エージェント達はこちらにマットを運ぶと、両手を後ろに組んで直立する。
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 11:53:37.33 ID:WLo0G95R0
唯「え、ええと……、腹筋しろってことですか?」
唯先輩の問いかけに、エージェント達はコクりと頷いた。
黒尽くめのエージェントに囲まれて腹筋をする女子高生。
シュールだ。
紬「梓ちゃん」
梓「はい?」
紬「足、押さえてあげて?」
梓「わ、私がですか?」
紬「私達は、まだ順番まわってきてないもの」
む。もっともな理由な気がする。
少なくとも私の順番がまわってくるのは、現時点では唯先輩の次に後ろなのだから。
惜しむらくは、本日の唯先輩の服装がスカートでは無いことだ。
だってほら、腹筋する人がスカートだと、足押さえる側の人からすると、ほら。ね?
梓「ね? じゃねえよ……」
危ない。
ナチュラルに『憂ムギさわやか変態同盟』に仲間入りするところだった。
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 12:01:22.91 ID:WLo0G95R0
唯「あずにゃん、なにぶつぶつ言ってるの?」
梓「……」
なんでもありません、と上擦った声で答えてから、私は唯先輩の足を押さえた。
梓「……さあ、どうぞ」
唯「よーし……」
梓「……」
唯「……っ!!」
梓「唯先輩」
唯「……」
梓「早く腹筋してください」
226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 12:06:50.60 ID:WLo0G95R0
唯「わ、わかってるよぅ」
梓「……」
唯「……っ!!」
梓「……あの、先輩?」
唯「できない……」
梓「……」
え?
まじで?
梓「じゃあ、あの……こうやって、勢いつけてやってみるのはどうですか?」
反動をつけてくいっ、と。
私は見本を見せてあげた。
唯「あ、それなら……」
ぶっちゃけ、それもう腹筋とかじゃないですけどね。
エージェントの顔色を窺ってみたが、真ん中の人が明らかに半笑いになっていたので、
おそらく大丈夫だろうと踏んだ。
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 12:13:38.28 ID:WLo0G95R0
思い切り反動をつけて腹筋を繰り返す唯先輩。
いち、に、さん、しー……
唯「ごーーーー!」
梓「……」
唯「できたっ! やったよあずにゃん!!」
梓「……わあ、先輩すごーい」
この人、社会にでたら生きていけないんじゃないだろうか。
腹筋五回と言われて「できない」と、のたまう人を初めて見た。
……いやまぁ。
そこが可愛らしいというか、守ってあげたくなるっていうか。
―あずにゃん、私あずにゃんがいないと生きていけないの
―大丈夫ですよ、唯先輩。私がずっとそばにいてあげますから
―ありがとう、あずにゃん大好き!!
なんつって。
もう唯先輩ったら……うふふ。
律「なんか、梓がくねくねしてるんだが」
澪「そっとしておいてあげてくれ」
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 12:23:12.35 ID:WLo0G95R0
憂「次、律さんの番ですよ?」
律「おっと、ようやく私の出番か!」
唯先輩は『5』のマスにとどまり、私が『4』のマスへと戻ると、
支配人の手によって、律先輩の手にサイコロが渡った。
律「いくぞー、それっ!」
勢いよく投じられたサイコロは、壁にぶつかると反転し、私の足元へと転がってきた。
出た目は『6』
前方の巨大スクリーンにも、大きく『6』と表示された。
紬「さすがね、りっちゃん」
律「ふふん、当然の結果よ」
自慢げにパネルの上を歩きだす律先輩。
私の横を、そして唯先輩の前を通過し、『6』マス目のパネルで停止。
すると赤い紙が剥がれて、パネルとスクリーンに、同時に文字が表示された。
234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 12:31:03.26 ID:WLo0G95R0
『5戻る』
澪「ふふっ」
律「……澪、今笑っただろ!」
澪「笑ってないよ」
律「あとで覚えてろよー」
そんな台詞を吐きながら、とぼとぼと戻っていく律先輩。
『1』マス目で停止すると、やはり赤い紙が剥がれた。
どうやら、戻った場合でもパネルの効果はあるらしかった。
『カチューシャを縦にする』
律「……縦!?」
唯先輩のとき同様、奥の扉を乱雑に開けて走ってくるエージェント。
律「う、うわ、やめ、やめろって――」
彼らは、律先輩の両腕を二人が左右で掴んで固定し、
さらにもう一人がカチューシャを掴んでくいっ、と頭部の中心を原点として九十度反転させた。
防波堤をなくした髪は重力に従い、律先輩の両目を覆い隠す。
……前髪ながいなぁ。
235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 12:32:23.81 ID:WLo0G95R0
律「……」
澪「えーと、次は」
憂「紬さんですね」
紬「ふふ、がんばるわよー♪」
律「お前らリアクションくらいしろおおっ!!」
澪「え、ああ……ごめん」
律「いや、謝られるともっとキツいっていうか……」
唯「りっちゃん、似合ってるよ!」
律「今更!?」
紬「それじゃあ振るわね」
ムギ先輩の振るったサイコロが、ごうっ、という音を立てて私の横を通り過ぎた。
なんで?
なんでそんな音すんの?
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 12:33:46.26 ID:WLo0G95R0
やがて静止したサイコロは、『3』を上に向けていた。
紬「いっち、にの、さんっ――、と。 梓ちゃん、髪型かわいいわよ」
梓「ど、どうもです……」
ムギ先輩が私の後ろまで到達すると、赤い紙が剥がれる。
『行動するたびに「パパウパウパウ」もしくは「フヒィーーン」という効果音がつく』
紬「……」
律「……」
梓「……」
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 12:34:40.15 ID:WLo0G95R0
紬「どういう、ことかしら……?」パパウパウパウ
律「……」
梓「……」
唯「……」
紬「ええと……」パパウパウパウ
律「……」
梓「……」
唯「……」
やばい空気が漂った。
先月と同じ罰があったら確実にお尻しばかれていたことだろう。
現に、正面にいる唯先輩は蹲って肩をひくひくさせている。
前回も思ったけど、この人シュール系弱いな。
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 12:58:39.53 ID:WLo0G95R0
澪「さて、私の番だな」
律「1か6を出したまえ」
澪「絶対出さないし」
紬「澪ちゃん、がんばって」パパウパウパウ
律「……」
梓「……」
唯「……」
澪「せーのっ」
サイコロは、律先輩の手前あたりまで緩やかに転がり、静止する。
『3』
律「ふふっ、よかったな澪。 1と6じゃなくて!」
241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 13:01:27.26 ID:WLo0G95R0
紬「一緒ね、澪ちゃん」フヒィーーン
澪「いや、うん……。なんだろうこの、なんとも言いがたい苦痛」パパウパウパウ
唯「……」
唯先輩は自分のおなかをつねって我慢していた。
いや、別に笑ってもいいと思うんだけど。
律「最後、憂ちゃんだぞー」
憂「はーい」
支配人からサイコロを手渡された瞬間、憂の目の色が変わった。
憂「5以外ありえない5以外ありえない5以外ありえなふぉああああっ!!」
訳のわからん掛け声と共に憂の手から放られたサイコロは、
かなりのスピードで壁に二回ほど激突して静止したが、ごうっ、という音はしなかった。
242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 13:09:12.67 ID:WLo0G95R0
出た目は――『5』
馬鹿な。
闇の炎に抱かれて馬鹿な。
憂「ふふ。一緒だね、お姉ちゃん」
唯「いらっしゃい、ういー」
梓「……腹筋あるけどね」
そう。そのマスはサイコロの目*5回の腹筋があるのだ。
再度サイコロを振って、憂が出した目は『4』
憂が腹筋をしている間に、私がさっさと自分の順番を終わらせてしまえば、次は唯先輩の番なのだ。
ふふん、好きにはさせないんだから。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 13:16:46.15 ID:WLo0G95R0
紬「二十回ね」パパウパウパウ
奇怪な効果音と共にムギ先輩。
律「地味にキツい回数だな」
続けて、カチューシャを縦にを装着した律先輩が呟いた。
唯「私が足を押さえてあげよう!」
憂「ありがとう、お姉ちゃん!」
一、二、三、四……十五、十六、十七、十八、十九、二十。
憂「終わりっと」
梓・唯「はやっ!?」
憂「梓ちゃんの番だよ」
サイコロを私に託すと、狭いんだから仕方ないと言わんばかりに唯先輩にくっつく憂。
ゆっくりでいいからね。なんて言葉が聞こえてきそうで、なんていうか、この、ちくしょう。
252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 13:34:34.88 ID:WLo0G95R0
梓「……それじゃいきまーす」
掛け声と共にサイコロを振るう。
出た目は『5』
梓「お先です、唯先輩、憂」
唯「むぅ、すぐに追いつくからね!」
そうしていただけると大変ありがたいのですが。
いち、に、さん、し、ご。 スタートからみて、合計九マス目で私は停止した。
『次の順番で、サイコロが豆腐になる』
梓「……」
眩暈がしてきた。
253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 13:38:17.68 ID:WLo0G95R0
澪「要は、一回休みってことなのかな」パパウパウパウ
律「いいや、わからないぞ。もしかしたら振っても崩れない豆腐とかなのかもしれない」
梓「ヘアゴムが勝手に切れるような場所ですから、ありえないとも言い切れないのが嫌ですね」
それもう豆腐じゃない、とか言う話は置いといて。
とりあえず、このターンはセーフといったところか。
唯「それじゃあ、私だねっ!」
元気にサイコロを振るう唯先輩。
出た目は『3』
唯先輩の現在地が『5』で、『3』進むとなると、合計『8』
さて、問題です。
私の位置はどこだったでしょうか?
254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 13:41:28.22 ID:WLo0G95R0
唯「ふっふっふ。逃がさないんだよ、あずにゃん」
梓「ふっふっふ。唯先輩のくせに、なかなかやるじゃないですか」
正解は、『9』マス目でしたー。
わーい。
梓「それで、そのマスの命令はなんなんですか?」
唯「えっとね……」
『子供にバカにされる』
唯「……」
梓「……」
最終更新:2009年09月22日 14:11