203 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:19:29.73 ID:2pZrBXmX0

【けいおん!×ウミガメのスープ】

「なぁなぁ」

突然、律が口を開いた。

「ウミガメのスープって知ってるか?」

4人の視線が一斉に律に集まる。

「ウミガメのスープ…聞いたことあるよっ」
「なんか前に書店で平積みにされてたな」

唯と澪は知っているようだ。
ムギと梓は…

「聞いたこと無いですわ」
「知らないですぅ」

という訳で、律は説明を始めた。

204 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:20:59.11 ID:2pZrBXmX0
「ウミガメのスープっていうのは、簡単に言うと推理ゲームなんだ」
「推理ゲーム?クイズゲームみたいな感じ?」

唯が興味津津の眼差しで律に質問する。

「うん、そう思ってもらって構わないぜっ」

律は体全体を使って説明を始めた。

「まず、私が問題を出す。で、みんなは問題の答えを推測するってわけ」
「ヒントはあるのか?」

澪も乗り気になってきたようだ。

「うん、4人が私に質問をして、それに対する答えがヒント」
「つまり、質問の答えをヒントに推測するって訳ですね」
「そういうこと」

律は紅茶をすすった。

「それじゃ、始めよっか」

205 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:24:16.28 ID:2pZrBXmX0

「ある所に男がいた。
 彼は銀行強盗をするため、銃を持ち、銀行に押し入った。
  銀行員は慌てて彼に金を渡した。だが、男はなかなか逃げない。
   それどころか、彼は銀行員に『もう警察に通報した?』と質問した。
                                 なぜ?」

4人は黙り込んで考え始めた。


208 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:26:12.59 ID:2pZrBXmX0
「なんで、逃げなかったのか、だよねぇ…」

唯は手を頭にあてて、考え込んでいた。

「つまり、男は警察に捕まりたかったんだよな?」
「yes。男は警察に捕まりたかった」

ムギが軽く手を挙げた。

「男は、お金に困っていたのかしら?」
「no。お金には困っていない」
「結局、男は捕まったんですか?」

今度は梓が質問した。

「yes。男はこの後警察に捕まった」

209 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:30:05.35 ID:2pZrBXmX0
「う~ん…男は銃を撃った?」
「no。男は銃を撃ってない」
「もしかして、それはオモチャ?」
「yes。それは本物の銃じゃない」

ぱっぱと質問に答える律に、唯が不安そうな顔をした。

「りっちゃん、そんなに簡単に質問に答えちゃったら、すぐわかっちゃうんじゃない?」

だが、律は唯に笑顔を見せた。

「大丈夫だよ。さぁ、誰か答えは分かった?」

律は4人を見回した。


211 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:33:45.71 ID:2pZrBXmX0
「わかった、かも…」

澪が控えめな声で、喋り始めた。

「男は実は脱獄犯で、逃亡生活をずっと続けていた。
 だけど、精神的につらくなってきて、牢獄の方が過ごしやすかったことに気付く。
  だから、自分から捕まろうと、銀行強盗をした」

律は黙って澪の推理を聞いていた。

「どう、かな…?」
「う~む…」

律はしばらく腕組をして、黙っていた。


213 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:37:22.62 ID:2pZrBXmX0
「不正解っ!」
「ええっ」
「残念でした。退場で~す」

律は手元にあったボタンを押した。

「あれ、そんなのあったっ」

澪が言い終わる前に、澪の座っていたソファーが突然、傾いた。

「えっ?」

澪はごろごろとソファーから転がり落ち、床の上を転がっていった。

「あ~れ~」
「み、澪ちゃん…」

澪は壁にぶつかった。

「うごっ!」

そのまま動かなくなった。


215 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:42:36.13 ID:2pZrBXmX0

「という訳で、回答は1人1回までっ♪」
「そ、そんなっ。理不尽すぎますぅ」

今の惨劇に、残された3人は怯えていた。

「その代わり、正解した人には豪華なご褒美があるよっ」
「えっ、ホントに!?りっちゃん」

とたんに、唯は目を輝かせ始めた。

「ホントだよんっ」

再び、3人は考え込み始めた。
梓が黙って手を挙げた。

「これって実話なんですか?」
「yes。これは実話」
「へぇ~こんなこと実際にあるんだねぇ」

216 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/21(月) 23:47:04.80 ID:2pZrBXmX0
唯が感心しているの横目に、今度はムギが質問した。

「男は、何かから逃げたかったんですか?」
「yes。男は『何か』から逃げたかった」
「それは人間?」
「yes。それは人間」
「う~ん…」

ムギは少し視線を宙に泳がせながら、考え込み始めた。

「あ、分かったかもです」

梓が律の方に体を向けた。


219 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:00:51.82 ID:p1RvUh/70
「男は、殺し屋に狙われていた。
 そして、一番安全な場所として、刑務所を思いついた。
 それで男は捕まるために、銀行強盗をしたのでは?」

律はまた黙って腕を組んでいた。

「う~む」

律が顔を上げた。
その表情は穏やかだった。

「せ、正解ですかっ!?」

梓は思わずはやしたてる。
笑顔のまま、律の口が動いた。

「不正解っ♪」

律は手元のボタンを押した。


221 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:03:17.51 ID:p1RvUh/70
突然、梓の座っていたソファーが回り始めた。

「ひゃ、何ですか?これっ!?」

気付いた時には遅かった。
ソファーは高速回転を続けた。

「ひゃぁあああああああ」

梓の断末魔がしばらく聞こえた。
そして、そのまま遠心力で、ソファーから吹き飛ばされた。

「あ~れ~」

梓はごろごろと床に転がり、沈黙した。

「目標、沈黙しました」

律は輪っか状のクッキー2つを目にあてて、そう言った。

「それは…ギャグ?」

ムギの声は震えていた。


222 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:07:12.58 ID:p1RvUh/70
「いい線行ってるんだけどなぁ」

律は紅茶をすすった。

「お、男は追われていたの?」

ムギが震えた声のまま質問する。

「no。追われていたわけじゃない」
「あれっ、それじゃ言ってることおかしいよっ」

唯が異議あり!という感じで食いついてきた。

「どういうことかなぁ、それは」
「だってりっちゃん、男の人は逃げたかったんじゃ」
「でも言ってないよ」

ニヤニヤしながら律は唯の言葉を遮った。

「え?」

唯は固まった。

「追われてたとは言ってない」



227 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:16:23.02 ID:p1RvUh/70
「そんな…」
「つまり…ある、状況から、逃げ出したかったってこと?」

ムギは一言一言確認していた。

「yes。そういうこと」
「なら…」

ムギは複雑な表情を浮かべながら、言った。

「男の住んでいる所の近くに工場ができた。
  そのせいで男は公害に苦しんでいた。
    だから、その公害から逃げるために銀行強盗をした」

律はやはり腕を組んで聞いていた。

「どうかしら?」

律の沈黙は長かった。


228 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:19:40.85 ID:p1RvUh/70
「いや~まいったっ!」

律の台詞に、ムギの顔が明るくなった。

「や、やりましたわっ!」
「やったねムギちゃん!」

ムギは唯と手を取り合おうとした。

「ここまでヒントを出しておいて分からないなんてっ!」

律はボタンを押した。


231 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:26:08.21 ID:p1RvUh/70
次の瞬間、ムギは宙を飛んでいた。
正確に言うと、ソファーから押し出された。
45度の角度で、ムギは唯と律の上を飛んで行った。

「悔しいですわ~っ!!」

そう言い残して、ムギは本棚に突っ込んだ。
たまらず、唯は顔を伏せた。

「ひ、ひどいっ」

大きな音をたてて、本棚は崩壊した。

「さ、て、と…」

律は唯をじっと見つめた。

「唯。分かったかな?」
「うぅ…」

唯は黙ってしまった。


234 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:32:39.10 ID:p1RvUh/70
もう残されているのは唯しかいない。
散って行った3人のためにも、正解しなければ。
唯にプレッシャーがかかる。

「質問…いい?」

唯は顔を伏せたまま言った。

「いいよっ」
「男は、家庭を持っていた?」
「yes。持ってたよ」
「じゃ、じゃぁ家庭に問題を抱えていた?」
「yes。抱えていたね」

少しの間を置いて、唯が顔を上げた。
そして、深呼吸をした。

「男は、妻から逃げたかった?」


236 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:37:53.06 ID:p1RvUh/70
音楽室に沈黙が流れた。
どれぐらい経ったのだろう。
律がニッコリと笑った。

「正解っ!」

すると、散って行った3人が次々と起き上り始めた。
3人は拍手をしながら唯に近づいてきた。

「おめでとう、唯」
「おめでとうございます、唯先輩」
「おめでとう、唯ちゃん」

そして、律もまた拍手していた。

「おめでとさん、唯」


238 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:42:04.92 ID:p1RvUh/70
思わず唯も立ち上がり、歓喜の声を上げた。

「やった…やったんだね、私っ!!」
「そうだよ、やったんだよっ!」

そのまま5人はソファーに座った。

「いやぁ、それにしても難しかったな」
「いったいどういう訳で、男は妻から逃げたかったんですか?」
「OK、OK、今から解説するから」

律は質問攻めを受けながら、紅茶をすすった。


240 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:47:34.37 ID:p1RvUh/70
「男は、妻から虐待を受けていたんだ」
「えっ、虐待?」
「そう。男は妻から虐待を受けていたので、離婚したかった。
   ところが妻は、自分の元を去るのであれば自殺するという。
     困り果てた男は、銀行強盗をして捕まることを選んだ。という訳」

4人は納得の表情を顔に浮かべた。

「男は妻に脅されていたので、自ら妻から離れることが出来なかった。
    そこで、捕まってしまえば不可抗力が働くだろうと思ったんだって」

「男も大変だったんだねぇ」

クッキーを食べながら、唯は感心していた。


242 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/22(火) 00:54:44.62 ID:p1RvUh/70
「あっ、ところでご褒美は?」
「え?ご褒美?」

律はすっとんきょうな声を上げた。

「りっちゃん、言ったじゃん。正解者にはご褒美あるよって」
「そ、そうだっけ…」

律は考え込んでしまった。

「ほ、ほら。さっきみんなに『おめでとう』って言ってもらったじゃん」
「う、うん。言ってもらったけど」
「このゲームは『称賛』が最大のご褒美なんだよっ」
「そ、そうなの?」
「そうさっ!唯は凄いんだぞ!こんな難問に答えちゃったんだから!」
「そ、そうかっ!そうだよねっ!」

唯が単純なことに、律は改めて感謝した。

Fin

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最終更新:2009年09月22日 08:04