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「次はどこに行くんですか?」
「そうだね~」
 ふたりきりの廊下道。私の質問に唯先輩は答えないで相変わらず鼻歌を歌いながらぶんぶんと繋いだ手を振り回している。
 文化祭のライブが大成功に終わり、そのご褒美として私は唯先輩と一緒に文化祭を回ることになったのだ。
 最初は「私と付き合って」なんて言うから思わず赤面してしまったけど、ただ単に回るのに付き合ってという意味だったから、二度も赤面してしまった。
「それじゃ、次はあそこに行こうか」
 そう言って唯先輩が指差したお店は、見るからにおどろおどろしいお化け屋敷。とてもじゃないけど、女子高生が作るようなものじゃないと思う。
 ――まぁ、私は結構好きだから嬉しいけど。
「お化け屋敷ですか、いいですよ」
 了承の意を伝えて唯先輩の手を引っ張り、受付へと向かう。私たちの二人を見て、受付の生徒があっと、声を上げたのは気のせいではないだろう。
 この学校で、私たちは結構有名だから。唯先輩は私たち後輩の憧れの対象だし、私はそんな唯先輩といろいろな噂を立てられている。
 いくら一緒にいることが多いからって、付き合ってると噂されるのはちょっと……。私だって結構悩んでるのに、軽い気持ちでそういうことを言われるのは気分が良くない。
「えぇっと……、お二人様でしょうか?」
「はい」
 受付の子も、私たちの関係に興味があるみたいで、一瞬間があったのはいろいろと質問をしようかどうか迷っていたからだろう。
 それでも、質問せずにしげしげと眺めるだけに留めておいてくれたのは好印象だ。……いや、それもどうなんだろう。
 とにかく、返事をした私たちは、入場料を払って、お化け屋敷の中へと入っていった――

「く……暗いね、あずにゃん」
「そうですね」
 屋敷の中は、普通のお化け屋敷よりもはるかに暗かった。そのくせ冷房もガンガンにつけているのか、とても寒い。
 雰囲気を出すためなんだろうけど、この寒さは尋常じゃない。その内凍死してしまうんじゃないだろうかと心配になる。
 隣を歩く唯先輩は、早くも寒さに体を震わせている。私はまだ平気だけど、唯先輩はとても寒がりな人だから、いつまで耐えられるか解らない。
 ……早めに脱出しないと。
「あずにゃん……、寒いよぉ……」
「大丈夫ですから、もう少しの辛抱です」
 嘘だ。まだ入ったばかりだからもう少しなんてことはありえない。いつだったかパンフレットに、『脱出するのに1時間かかるお化け屋敷』だとか書かれていた記憶がある。
 さすがにそれは大げさだとしても、出るのに時間が掛かるのは事実だろう。2階の教室の壁をぶち抜いて作ったこのお化け屋敷は、単純計算で100m以上の長さがある。
 それも直線じゃないから、走って行こうとしたら確実に壁にぶつかる。しかも暗いから周りがよく見えない。
「あずにゃん……」
「どうしました?」
「体が……」
「体が?」
「動かないの……」
「……ッ」
 すぐに携帯を取り出して、唯先輩の体をライトで照らす。すると、寒さで色が落ちてしまっている先輩の肌が現れた。
 これは完全に寒さでやられてしまっている。このままじゃ命の危険もあるかもしれない。
「誰か! 誰かいませんかー!?」
 ありったけの声を出して、近くにいるであろう人を呼ぶ。お化け屋敷なんだから、お化け役の人がどこかにいるだろうと祈って。
「どうしたの?」
 すると、私の祈りが通じたのか、奥のほうから女の子がひとり慌てた様子で出てきた。八重歯を見せているから、ヴァンパイア役なのかもしれない。
 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。
「ちょっと、この人が寒さでやられちゃって」
 言いながら、ぐったりとしている唯先輩を相手に見せる。すると、それだけで私の言いたいことが通じたのか、女の子は「冷房切ってくるね!」と言ってまた奥へと走り去っていった。
 残されたのは、ぐったりしている唯先輩と、私の二人だけ。今できることは、少しでも唯先輩を暖めることだけだ。
「唯先輩?」
「んー」
 声をかけると、返事が返ってきたので一安心。とりあえず意識はまだあるみたいだ。それじゃ、早速唯先輩を暖めよう。
 ……はて、暖めるといっても具体的にはどうすればいいんだろう?
 困った。ここにきてこんな大事なことが解らないなんて。どうしようどうしよう。
「唯先輩、人を暖めるにはどうすればいいんでしょう?」
 いやいや、この人に訊いてどうするんだ私。お世辞にも頭がいいとは言えないし、そもそも意識が朦朧としているはずなのに答えられる訳が無い。馬鹿か私は。
 そう思っていたのに。
「抱きしめてあげればいいんじゃないかなー」
「……へっ?」
 予想に反してまともな答えが返ってきて、呆けた声を出してしまう。
「え、えぇっと……、もう一度お願いします」
「だから、抱きしめてあげればいいんだよ」
 抱きしめる……、そうか、それで暖まるんだ。
 いつも私が唯先輩にしてもらっていることを思い出して、理解した。あれは確かに、心も体も暖まる。あれをすれば唯先輩も暖まるかもしれない。
「それじゃ、失礼しますよ」
 一応そう言ってから、唯先輩の体を両腕でぎゅっと抱きしめる。私より一回りぐらい大きいから、抱きしめるというより抱きついた感じになったけど、気にしない。
 私の行為に、唯先輩がおぉうと、驚きの声を上げた。どうしたのかと思って腕の隙間から顔を覗き込むと、唯先輩は頬を桜色に染めていた。
「あずにゃん、積極的だね……」
「は?」
 言われた言葉の意味が解らなくて、数回頭の中で反復して、そして理解した途端に顔が熱くなる。
 わ、私は何を……。いくら暖めるためだからといっても、これは恥ずかしすぎる。いつもいつも私が唯先輩にやられていることをやり返しているなんて、気付かなかった。
 恥ずかしさに耐え切れなくて、唯先輩から腕を離そうとすると、今度は唯先輩の両腕が私の体を抱きしめた。
「唯先輩……?」
「はなれちゃやだ……」
「え?」
「あずにゃんとはなれたくないよ……」
 その言葉に。
 私の胸がとくんと鳴った。
 離そうとしていた腕をもう一度唯先輩の体に戻して、今度はさっきよりも強く、ぎゅっと抱きしめる。唯先輩にも抱きしめられているから、状況的には抱き合っているような感じだ。
 不思議と、恥ずかしさは無かった。あるのは、ただ唯先輩への愛しい想いだけ。こんな気持ちになったのは初めてだ。
「唯先輩……」
「あずにゃん……」
 そうして、本能のままに、目の前の愛しい人の唇に自分の唇を近付け――
「どうー? 少しは暖まったー?」
 物凄いタイミングでさっきの女の子が戻ってきた
「えっ」
「ほぇ?」
「あっ……」
 この場に居合わせた3人全員が、一斉に固まる。場に流れるのは、気まずい空気。
「ご……」
「ご?」
「ごゆっくりいぃぃいいいいいいい!!!!」
 そう言うや否や、女の子は元来た道を物凄い勢いで走っていった。
「それじゃ、あずにゃん」
「はい?」
「続き、しよっか」
「……って、どうしてそうなるんですかああぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 ――結局、今回の騒動がきっかけで、私たちが付き合っているという噂は、断固たる事実として校内に蔓延ってしまったのでした……。



Fin