※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

このSSは『【けいおん!】唯×憂スレ』というスレに投下されたものです
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1252737307/l50

254 名前:雪消~ゆきげ~[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 19:43:20 ID:le/uc56O

 こんにちは、平沢憂です。
 今日は、軽音部の新歓ライブの後――私と梓ちゃんが友達になった頃――に
お姉ちゃんとの間にあったことをお話ししようと思います。
 そう、あの時はまだ。お姉ちゃんが梓ちゃんのことを『あずにゃん』って
いうあだ名で呼んでいなかったっけ――。

『憂、今日一緒に帰ってもいいかな』

 お姉ちゃんからメールが来たのは、私が日直の日誌を書き終わって
帰ろうとした放課後の教室の中でした。
 確か、今日も張り切って部活動をしに行っていたハズなのに。

『軽音部はどうしたの?』

 と返信しようとした所に、ちょうどタイミング良くお姉ちゃんがやってきました。
 私は、日誌を教卓の置いてから、お姉ちゃんと一緒に帰ることにしました。



 お姉ちゃんは、重たそうに背負ったギターと一緒に肩を落としながら、
私と通学路を歩いていました。何だか、調子が悪いみたい。詳しく話を聞いてみると。

「梓ちゃん。新歓ライブの時の私たちの演奏に感動して軽音部に
 入ってくれたのに『先輩たち、お菓子食べてたり、だらけてばっかり!』って言って、
 怒らせちゃったんだ。だから、今日は早く終わりにしようってりっちゃんが」

 梓ちゃんは、どうやら鈴木さんとおんなじで、あのまったりとした軽音部の
雰囲気に耐えられなかったみたいでした。

「そうだったんだ。だから、こんなに早かったんだね」
「うん。梓ちゃん……明日から来てくれるかな。どうしよう」

 今日は、梓ちゃんが軽音部に入部届を出してから二日目の午後。

 お姉ちゃんにも、昨日の夕御飯の時に――。
『あのね、うい~。新しく軽音部に入ってくれた梓ちゃんていう子、すっごくギターがうまいんだよ。
 私も頑張らなくちゃ、なんて言ったって、私先輩だもん』

 そう言っていたから、心配してなかったんだけど。
 ちょっとしたすれ違いがあったみたいです。

「私、あずさちゃんに悪いことしちゃったかなあ」

 瞳を潤ませて泣きそうになっているお姉ちゃんに、かける言葉が見つからない。
 でも、こういう時には家族としてちゃんと励ましてあげなきゃ……そうだ、良いこと思い出した。

「お姉ちゃん。結構昔の話になるんだけど、クリスマスの時のこと、覚えてる?」
「う~ん。確か、私たちが小さかった頃の話だよね。雪の代わりに私がクッションの中身を
 飾りつけて」
「そうそう。でもね、お姉ちゃんは覚えてないかもしれないけど、その話には続きがあったんだよ」
「続き?」

 そう、あの時の話には、まだ続きがありました。
255 名前:雪消~ゆきげ~[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 19:44:37 ID:le/uc56O

 ――翌年のクリスマス。
 その年は、私たちの住んでいる地方では記録的な大雪が降りました。待望の、ホワイトクリスマス。

 まだまだ小さかった私も、お姉ちゃんも大喜び。

『つめたくて気持ちいいね~』
『そうだね~、お姉ちゃん』

 ツリーの飾りつけや、サンタさんへのお礼も忘れて、お庭で雪合戦やミニかまくら、雪だるま作り。
 一日中お姉ちゃんと遊んでいました。だけど、楽しい時間は長くは続きませんでした。
 クリスマスが過ぎて、一日、また一日と経つ内に、雪が溶け始めてきたんです。

 信号機の根元に積み上げられた泥だらけの雪の塊や、頭が取れちゃった雪だるま。
 それを見るたびに、何だか無性に悲しくなってきて、私は部屋の中でお姉ちゃんに
抱きついてずっと泣いてました。しばらくして、お姉ちゃんは私の肩に手を置くと。

『だいじょうぶだよ、うい。わたしにまかせて』
 お姉ちゃんは、頬にこぼれていた私の涙を指で払うと、駆け足で部屋の外に出ていきました。

 一時間。二時間。

 お姉ちゃんは帰ってきませんでした。太陽が橙色の光に変わって、辺りが暗くなっても。
 二段ベッドの下で、今度は、一人でいるのが寂しくて泣き出しそうになった時。

『うい~、おいでー。いいものがあるよ~』
 一階からお姉ちゃんの声がしました。慌ててドアを開けて、階段を降りてお姉ちゃんの所へ。
 どうやらリビングにいるみたいです。

『お姉ちゃん?』
 でも、お姉ちゃんはいませんでした。
 代わりにあったのは、テーブルの上に置かれた大量の冷凍食品。
 不思議に思った私が近づいてみると。

『ばあっ!』
 テーブルの下から、お姉ちゃんが出てきました。
 突然の出来事に、私が戸惑っていると。
『えへへ、おどろいた? でも、これからもっとおどろくとおもうよ』
 お姉ちゃんは、冷蔵庫の上段――冷凍室を指差してそう言いました。
 おそるおそる爪先だちになって、私が扉を開けると。

『……雪だるま?』

 冷凍室のなかには、サイズの違う雪だるまがたくさん入っていました。
 みんな、ドングリや葉っぱで顔が作られてて、可愛くて。その時、私は気がついた。
 お姉ちゃんの両手が、真っ赤にかじかんでいたことに。
 私は、両手でお姉ちゃんを包んで暖めてあげました。

『あったかあったか~。ね、おねえちゃん』
『うん、あったかあったか~』

 その日。お姉ちゃんは前の年の時と同じくらいお母さんたちにしかられました。
 でも、私は嬉しかった。お姉ちゃんが私の為に一所懸命してくれたことなんだから。
256 名前:雪消~ゆきげ~[sage] 投稿日:2009/09/24(木) 19:46:01 ID:le/uc56O

「そうだね。そんなこともあったね、懐かしいなぁ」
「うん、お姉ちゃんは優しいから。誰かが困っていると、放っとけないんだよね。
 梓ちゃんも、それはきっと分かってると思う。だからお姉ちゃんは、明日から
 も普段通りのお姉ちゃんでいて。悲しい顔なんてしてちゃ駄目だよ」

 隣にいるお姉ちゃんは、何か考えこんでるみたいでした。
 しばらくの間、会話が無いまま歩き続ける。

 そして、私たちが家の近くの交差点まできた時のことでした。

「今日はありがとう、憂。私もう全然平気だよ」

 私の手を握って、お姉ちゃんはそう言ってくれました……うらやましいな。
 歩いていける目標があって、一緒に音楽に打ち込める友達がいて。
 いつか私も、お姉ちゃんみたいになれるかな。

「頑張ってね。今日の晩ご飯も一生懸命作るから」

 だけど、今は自分に出来る精一杯のことをしよう。
 家族が困っている顔を見続けるのは、絶対に嫌だから。
 私たちは、お互いに歩幅を揃えて家に向かいました。
 お姉ちゃんの背中が、途端に大きく見えた様な気がします。



 ――翌日の放課後。お姉ちゃんからメールが届きました。

『梓ちゃん。ちゃんと来てくれたよ。昨日のこと、やっぱり気にしてたみたい。
 けど、私たちがいつも通りケーキを食べてたのみて、逆に安心しちゃったって』

 原文のままの意味で受け取ると、なんだかお姉ちゃんたちがいつも通り部活動?
 していたおかげで、梓ちゃんも軽音部に馴染んでくれたみたいです。

『あっ、それとね――』

 メールの続きには、こんな一文と、一枚の写真が添付されていました。
『梓ちゃんに新しいあだ名が出来たんだよ。家に帰ったら教えてあげるね』

 猫耳をつけた梓ちゃんと、お姉ちゃんたちの画像が。
 それを見て、私は思わず笑ってしまいました。

 ――あの時、冷凍室から出された後の雪だるまは、全部溶けて無くなってしましました。
 けれど、溶けた雪だるまは、お空に昇って雲になって。
 また私たちの所に降り注いでくれる。帰ってきてくれる。人の想いも、きっと同じ。
 私は、お姉ちゃんにこう返信しました。

「楽しみにしてるね、お姉ちゃん」

 その日の夜。梓ちゃんから私の携帯に電話が来ました。
 内容は、メールでお姉ちゃんが話してくれたことと殆ど同じ。
 なんだか、とっても嬉しそうなあずさちゃんの声を聞いてから、
私はこう心の中でお願いしました。

 明日からも、お姉ちゃんたち軽音部のみんなが、仲良く演奏できます様に。




すばらしい作品をありがとう