216 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:20:23.92 ID:28GkYxDq0
【唯の秘密】

「私、見たんです。唯先輩がギターと話してるところ」

放課後、珍しく梓から呼び出された。
私は梓の不安そうな顔を見て事を察したつもりだった。
だが、その「事」は私の予想の斜め上を行っていたのだ。

「つまり、唯が完全にギターと会話してるってことか?」

慌てる梓をとりあえず落ち着かせ、私は確認した。



217 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:21:39.41 ID:28GkYxDq0
「は、はい」
「でもなぁ、梓」
「はい」
「今までも唯がギターに話しかけるなんてことはしょっちゅうあったじゃないか。
 別にいまさら騒ぎ出すことでもないと思うんだが…」

だが、私の言葉を聞いている梓の顔に、どんどん暗雲が立ちこめてくる。

「澪先輩、それは分かっているんです。だけど今回は…」
「今回は?」
「完全に会話をしていたんですよ」
「一方的な語りかけじゃなくて?」
「そうなんですぅ!」

ふむ…困った困った。
いよいよ唯も精神病院にお世話になる時が来たのか…


218 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:22:25.37 ID:28GkYxDq0
「私がいい病院を紹介しましょうか?」

突然ムギが後ろから声をかけてきた。

「おいっ!ビックリするだろっ、ムギ!」
「あらあら、驚かしてすみません」

あぁ、ビックリした。
ホントに怖いのは苦手なんだから…

「全く…なんでここが分かったんだ」
「テレパシー。ですわ」
「て、てれぱしぃ?」
「えぇ」
「凄いですね。ムギ先輩」
「ウソですわ」
「ウソかいっ!」


220 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:29:18.73 ID:28GkYxDq0
それにしても不思議だ。
ムギは普段ウソなんてつかないのに。
ま、いっか。それより唯のことだ。

「まぁまだ唯がおかしくなったなんて決まった訳じゃないんだから」
「じゃぁ、どうするんですか」
「焦るな梓。ここは様子見が一番いいだろう」
「ぷぅ~」

あぁ…可愛らしく頬を膨らます梓は、なんだかニンジンをほおばり過ぎて
大変なことになってるうさちゃんみたいだなぁ。
あ~かわいい。

「ちょっと、澪ちゃん」
「あっ、ごめんごめん。ボーっとしてた」
「澪先輩。とりあえず音楽室に行ってみましょう」

という訳で、私達は音楽室へ向かった。


222 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:32:23.48 ID:28GkYxDq0
ドアに掛かった私の手を、ムギの手が制止した。

「待ってください。ちょっと様子を見ましょう」

ムギ…お前も悪人になったなぁ。
まぁ、ちょっとだけならいいか。
ってことで、ドアのガラス部分から3人で少し音楽室の中を覗いてみた。

「あれは…唯先輩ですね」
「あぁ、まぎれもなく唯だな」
「ギターを弾いてるみたいですね」

唯は椅子に座ってギターを構えていた。
確かにここから見る限り、ギターを弾いているように見える。



224 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:33:58.42 ID:28GkYxDq0
「でも…何かおかしくありませんか?」
「何がだ?梓」
「唯先輩、手が動いてません。その代わりに口が動いてますよ」
「歌ってるんじゃないのか?」
「ギター持ってるのに弾かずに歌いますかね?」
「確かに…」

その時、ムギが小声で叫んだ。

「2人とも静かにっ。何か聞こえますよ」

耳をそばだてると、唯の声が聞こえてきた。

「…それでね」

これは…?

「うん、ギ―太はどう思う?」

まさか…?

「……そっか。そうだよね。ギ―太はそういう趣味だもんね」

私は梓とムギを見た。
2人は無念ですと言わんばかりの表情で頷いた。
多分私も頷いた。


225 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:38:37.78 ID:28GkYxDq0
「完全に、会話してるな」
「そうみたいですね。やはり病院の手配を…」
「ちょ、ちょっと待て!」

私は携帯を取り出しかけたムギを止めた。

「なんですか」
「その…まだ確証が付いたわけじゃない。もう少し調べないと…」
「ですけど澪先輩、あれはもう…」

まずい、このままじゃホントに唯が病院送りにされてしまう。

「あっ!そういえば律がまだ来てないじゃないか!」
「あらあら、そういえばそうですわ」
「確かに見てないですぅ」

…単純だな。



226 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:43:47.75 ID:28GkYxDq0
「もしかしたら、音楽室の中にいるのかもしれないですね」
「どういうことだ?」
「2人で遊んでるかもしれないですぅ」

…確かに有り得るな。あの精神年齢の低い2人なら。
私達は再び音楽室の前にやってきた。

「どうだ、律はいるか?」
「う~ん、どうやらいないみたいですわ」
「どこかに隠れてるんじゃないのか」
「そこまでは…中に入ってみないと分かりません」
「ムギ、ちょっと覗かせてくれ」

私はムギに場所を変わってもらった。
そして、とりあえず音楽室の中を見える限り探してみたのだが…

「いないな」
「澪先輩」
「なんだ梓」
「突入するですぅ」
「そうだな」

相変わらず唯は1人で口を動かしていた。



227 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:47:25.35 ID:28GkYxDq0
「入るぞ、唯」

一応コツコツと2回ノックをしてから、私達は音楽室に突入した。

「あっ、澪ちゃん。それにあずにゃん、ムギちゃんまで…」
「こんにちは、唯ちゃん」

私達が3人で入ってきたことに、別段驚くこともなく、唯は椅子に座ったままでいた。
私はすぐに音楽室の中を探してみた。
だが、律はいない。

「なぁ、唯。律見なかったか?」
「あぁ、りっちゃんならさっき帰ったよ」
「帰った?」
「うん。風邪かもしれないって」
「そうか…あいつが風邪なんて珍しい」

おかしいな。いつもなら私にメールの一つでもよこすのに。



229 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:53:38.52 ID:28GkYxDq0
「それはそうと、唯。1人で何してたんだ?」
「えっ!?」

しまった。単刀直入すぎたか。
私はなるべく普通な感じで言い直した。

「いや、いつもなら音楽室でぐだ~ってしてる唯がさ、練習してたから珍しいなぁ、と思って」
「あっ、うん、なんか今日は練習したい気分だったんだ」

唯、残念だがバレバレだぞ。
完全に目が泳いでる…何か隠してるな。

「なぁ、唯。最近ギー太とは上手くいってるのか?」

腰をおろしながら私は唯に尋ねた。

「そうですよ、唯先輩。ギターの手入れはちゃんとしてるんですか?」

もちろん、梓とムギにはアイコンタクトで伝えてある。
2人もソファーに腰をおろした。




230 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/24(木) 23:58:08.97 ID:28GkYxDq0
「う、うん。最近すっごく仲いいんだよ」
「そうなのかぁ。それは良かった」

唯の嬉しそうな表情を見て、私は少しほっとした。

「まだギ―太くんとは一緒に寝てるのかしら?」

ムギが間髪をいれずに唯に問いかける。

「うん。最近すっごく喜んでくれるんだよ」
「喜んでくれている?」
「うん、よく眠れるって…」

再び私達は顔を見合せた。
そして、みんな唯の方を向いた。

「ど…どうしたの、みんな?」

その時、私の携帯が鳴り始めた。


231 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:02:12.30 ID:ujrxD1f30
電話だ。
携帯を開くと…律からじゃないか。
どうしたんだろう。

「もしもし」
『もしもし、澪かっ!?』
「澪だが」

なんだ、風邪をひいている割にはずいぶんと元気そうじゃないか。

『今どこにいるんだっ!?』
「…?音楽室だけど」
『そこに唯はいるのかっ?』

私は唯をチラリと見た。
唯は不安そうな顔をして私を見ている。

「あぁ、いるけど」
『離れろ!早く唯から離れろっ!!』

電話はそこで切れた。


233 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:07:14.82 ID:ujrxD1f30
「何だよ…ったく」
「きゃぁあ!!」

私が携帯を閉じるのと同時に、ムギの悲鳴が聞こえた。

「ど、どうしたんだムギっ!?」

私は声のした方向を向いた。
そして、その光景に目を疑った。

「おい…なんだよコイツ…」

唯の隣に怪物がいて、その怪物にムギが捕らわれていた。
幸い梓は捕まらなかったみたいだ。

「澪先輩、突然唯先輩のギターが…」
「あれになったのか?」
「は、はいですぅ!」
「む~ぎ~ちゃんっ♪」

その時、唯の甘い声が聞こえた。
なんだなんだ、唯までおかしくなっちゃったのか?




234 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:14:42.69 ID:ujrxD1f30
「おい唯っ!何をしてるのか分かってるのか!?」
「何って~?」
「ムギを今すぐ離せ!」
「え~、ムギちゃんはギ―太の大切なごはんなんだよ~」

だめだ、話して分かるような感じじゃない。
そうこうしているうちに、怪物ギ―太は大きな口?を開けてムギを飲みこもうと試み始めた。

「きゃぁああ!助けてぇ!」
「ムギ先輩っ!澪先輩、このままじゃ…」

考えろ…考えろ…
あれは唯のギターだ。
じゃぁ、あの怪物を動かしてるのは唯なのか?
それじゃぁ…

「唯っ!悪く思うなよっ!」

私は唯に渾身の力を込めて、体当たりを食らわせた。



235 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:20:45.27 ID:ujrxD1f30
「ふぎゃっ!」

唯はあっさりと吹き飛び、棚にぶつかり、倒れた。
これでどうだ…?

「ダメです、澪先輩!何も変わりません!」

そんな…
でも、あんな怪物に立ち向かうほどの度胸は私にはないぞ…
その時、再び携帯が鳴った。
私はすぐに取った。律だ。

『澪、大丈夫か!?』
「全然大丈夫じゃないっ!」
『もうすぐそっちに着く。だからそれまで耐えるんだっ!』
「な…無理だよぉ、りつぅ~」

だが、電話はもう切れていた。
怪物は…
怪物は箒を持った梓の攻撃に、多少ながらひるんでいるようだ。

「なんとかするしかないのか…これ」

私は速足で開きっぱなしの掃除用具箱へ急いだ。



237 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:27:56.98 ID:ujrxD1f30
「梓!とありあえず箒でばしばし叩くぞっ!」
「はいですぅ!」

私達はムギに当たらないように注意しながら箒で怪物をバシバシ叩いた。

「律が…律が応援に来てくれる。それまでの辛抱だっ」

バタンと音楽室のドアが開いた。
噂をすれば…だ。律がやってきたのだ。

「大丈夫か!?みんなっ!」
「律先輩っ!」
「遅かったぞ、律!」

律は私達の所まで駆けてきた。



238 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:35:30.71 ID:ujrxD1f30
後ろには…10GIAの店員さん?

「お、お嬢様!なんてことに…」

店員1人が頭に手を当てて叫んだ。

「大丈夫です。気を失っているだけですから」

すかさずフォローを入れる私。ナイスだぞ、澪。

「そうですか、よかった…捕獲班、急げっ!」

店員の合図と共に、掃除機みたいな機械を持った人たちが音楽室に入ってきた。

「準備できてます」
「よしっ、やれっ!」
「了解!」

店員が機械のボタンを押すと、音楽室が激しい光に包まれた。
私は一瞬、あまりの激しさにくらっとしてしまった。

「てんかん…起きませんよね」
「大丈夫ですよ」

店員の一人がニッコリと答えてくれた。
…イケメンだ。



239 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:40:21.81 ID:ujrxD1f30
それは不思議な光景だった。
みるみるうちに怪物は小さくなり、そして最後には消えてしまった。
残されたのは、気を失ったムギだけだった。

「お嬢様!お気を確かに!」

品のいいおじさんがムギに駆け寄る。
…あ~っと、だれだっけ。

「斉藤さん…」

あっ、そうそう、そうだよ律。

「澪…ごめんな、連絡が遅れて…」
「いや、気にすることはないぞ」
「ごめんな、ムギまでこんな目に会っちゃって…うぐっ」

あぁ、律の泣き顔なんて何年ぶりに見るんだろう…
なんて感心している場合じゃない。
私は律をしっかりと抱擁してやった。


241 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:49:11.30 ID:ujrxD1f30
「唯先輩っ!」

どうやら梓は唯の方に行ったらしい。

「んっ…あずにゃん…?」

唯の声が聞こえる。
よかった、大したことはなさそうだ。

「皆様には、本当に謝らねばなりません」

斉藤さんは私達に向き直し、深々と頭を下げた。

「我々コトブキが極秘に開発していたものなのです、これは」
「極秘に…?」
「えぇ。実のところ、私めもあまり細かいことは知らないのです」
「そうなんですか」
「ただ、小耳に挟んだことはあるのです。何にでも擬態可能かつ、自分の意思をも持つことが出来る兵器…」
「そんな恐ろしいモノを開発しているんですか?」
「いえ、あくまでも噂でしたし、計画自体はもう何年も前に極秘のうちに無くなったと聞いていました。ですが…」

斉藤さんは唯のほうりチラリと目をやった。

「まさか実在していたとは…」


242 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 00:54:42.98 ID:ujrxD1f30
「え?唯がその兵器なんですか?」
「いえ、ただ見ただけです」

見ただけかいっ。

「あれっ、ここどこっ?」

唯が目をぱちくりさせた。

「唯先輩、覚えてないんですか?」
「うん…さっきまで教室にいたんだよ、私」
「そ、そんな…」
「おそらく…兵器に操られていたのでしょう。心配いりません。体に障害などはありませんよ」
「よかったぁ…」

梓が大きくため息をついた。
よっぽど心配だったんだろうな。

「あいてて…」
「だ、大丈夫ですか!?」
「なんか背中が…」

や、やばいっ。
私が突き飛ばしたの、忘れてた!

「いや…やっぱり大丈夫…」

ふぅ…


243 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 01:00:38.64 ID:ujrxD1f30
「それにしても、律はなんでここが分かったんだ?」
「そうですぅ。律先輩は音楽室に行かなかったんですか?」

私達の質問攻めに、律はあっけらかんとして答えた。

「あぁ、10GIAに新しいスティック買いに行ってた♪」

なんだ、唯のはウソか。
まぁ、操られてたんだから、ウソぐらいつくよな。

「律様が来ていただいてもらって、本当によかった。ちょうど連絡が来ていたことろなんですよ」
「連絡?」

店員が突然話に割り込んできた。

「えぇ、本店から電話が…」
「君、そこまでにしておきなさい」

さ、斉藤さん…怖い…






244 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 01:07:11.99 ID:ujrxD1f30
「この件はコトブキの特別機密です。知らないで頂いた方が」
「そ、そうですね。すみません…」
「皆様、この事は秘密にしておいてはもらえませんか?」

なんかやばそうだなっていうことだけは分かったぞ。

「えぇ。大丈夫ですよ。私達、そういうことに興味とかないですし。なにより」

律はムギを見た。

「ムギは私達の大切な友達だから」
「あぁ、そうだな」
「そうですぅ!」
「ムギちゃん、大丈夫かなぁ」

斉藤さんは、顔を下ろしてしまった。

「すまない…本当にありがとう…」

そう、斉藤さんは男泣きをしていたのだ。





246 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/25(金) 01:12:10.73 ID:ujrxD1f30
こうして、私達を襲った謎の事件はほどなく解決した。

「なぁ律、一つ質問」
「質問?」
「なんで連絡してくれなかったのさ、10GIA行くって」
「あ…ゴメン。すぐに学校に戻るつもりだったから」
「いいよ、律」

私は律にヒマワリのように微笑んだ…はず。

「あら…みなさまおそろいのようですね」
「ムギちゃん!」
「ムギ!」

よかった…ムギも目を覚ましたみたいだ。

「せっかくですから、ティータイムにしましょうか♪」

もちろん、私達がティータイム楽しんだのは言うまでもない。

Fin

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最終更新:2009年09月25日 13:29