131 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 22:19:03.02 ID:LYiIIZ+J0
はるおん!第一部
『涼宮ハルヒの余波』
現在、我が家には雄の三毛猫がいる。名前はシャミセン、命名涼宮ハルヒ。まあそれはこの際どうでもいい。さて、雄の三毛猫は珍しいそうなのだがシャミセンはそれ以上に特異な猫である。
まず長門によりなんたら素子だか原子だかを体内に宿された。経緯については省略させていただこう。そしてもう一つ、今回の話からしてこちらが大事である。シャミセンは出会った当初ハルヒの力によってヒトの言葉を理解し発していたのだ。
どうして猫が喋るって?そんな現実世界の理屈はハルヒにとっては関係ないものらしい。朝比奈さんや古泉によってその考察は違うのだが、まあそれは今回の話に関係ない。
前置きはこの辺にしておこう。シャミセンがヒトの言葉を話していた時期は1年生の文化祭前までであるが、その期間も他の猫はヒトの言葉を話していなかった。…はずであった。
おそらくシャミセンが喋った理由はハルヒに選ばれたからなのだろうが、実はその選ばれし猫がシャミセン以外にもいたのだ。いや、実際には猫ではなくある人が選ばれていたと言えるのかもしれないが…まあどちらでも構わない。
そして、その猫と関わったのが平沢さんであったことを俺はご本人から教えてもらうのである。まったくもって偶然に思えないぜ。やはり平沢さんは何故かハルヒに選ばれてしまうのだな。
これならつい先月のSOS団と軽音部を巻き込んだ大事件もその後のすったもんだも理解できるというものだ。誰が巻き込んだ、やっぱりハルヒか?とりあえず彼女が語ってくれたままここでお話させていただこう。
155 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 23:09:06.76 ID:LYiIIZ+J0
文化祭も近づいたある日の夕方、私平沢唯はギー太を抱えながら下校中ふしぎな人に出会った。
「ちょっとどうして威嚇すんのよ!! せっかくイメージ通りの黒猫なのに!!」
橋の上でとても美人な女子高生が子猫さんにフーフーッって威嚇されている。どうしたんだろう。私がそのやり取りをぼーっと眺めていると子猫さんが私に駆け寄ってきた。
「待ってよ! っもう……」
ぶつぶつ子猫さんに文句を言いながら私の方にやってきたその美人さんの腕には「超監督」って腕章がついている。どういう意味なんだろう。
「こんにちは。その子猫あなたの飼い猫?」
美人さんに尋ねられたので違いますと答えると、
「あらそう……私が近づくとそれだけで威嚇するのね……やんなっちゃうわ」
私の目の前でゴロゴロしている子猫さんを見ながら美人さんはこう言った。確かに美人さんが近づくとフーフーッと怒り出した。子猫さんだけど体が小さいだけでもう大人の猫さんなのかな。
「えっと……この猫さんと何かあったんですか?」
美人さんが猫さんをうらめしそうに見つめているのでそんな風に思った私は美人さんに聞いてみた。
「違うの。ちょっと映画の撮影をしていてね……黒猫が欲しいと思っていたのよ。でも諦めるわ。その猫はどうも私が嫌みたいだし」
映画撮影かぁ、つまりこの人は監督さんなんだね。だから超監督って腕章をつけているんだ。
「せっかくここまで来てようやく見つけたノラ猫だったのに……もうあの三毛猫で手を打つかぁ」
私が映画部の人なのかどうか考えているとその美人さんは猫さんから私のギターに目線を上げていた。
「あなた軽音楽部の人? この辺だと桜高よね?」
「はい! 私桜高軽音部1年の平沢唯っていいます!」
「私は北高一年涼宮ハルヒよ。同級生ね」
美人さんは涼宮さんというらしい。それにしても北高って確かけっこうここから遠いよね。もしかして猫さんを探していたのかな。
「軽音部ねぇ……」
涼宮さんはギターと私を交互に見やっている。涼宮さんもギターとかできるのかなぁと思って聞いてみると、
「ええ、少しはね。それにしても唯ちゃんみたいな可愛い子がバンドをしているのは興味あるわね」
なんて言われちゃった。涼宮さんみたいな美人さんに可愛いって言われて嬉しいなぁ。
「そっそうですか……えへへ。あ! でもでもウチの軽音部にいる澪ちゃんって子はもっと可愛いんですよー!」
「あら、なんだかみくるちゃんと同じ匂いがするわね……どうしてかしら? まあいいわ、あなたたち文化祭でライブとかするの?」
しますよーと教えると涼宮さんは日程を教えて欲しいと言うので教えてあげた。
158 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 23:23:26.63 ID:LYiIIZ+J0
「最終日ね……。ウチの文化祭と日程かぶるけど……まあ途中抜け出して観に行けるかな」
「わー是非来て下さい!! 楽しみにしていますねー!!」
こんなところでお客さんが増えて嬉しいなーって思っていると涼宮さんは、
「日程がズレていれば私の作った映画も観に来て貰いたいけど残念だわ。それじゃあ練習頑張ってね、期待してるわよ!!」
そう言って駅に向かって歩き出して行った。こんなところで他校のお友達が増えるとは思わなかったな。そうだ演奏頑張らなきゃね。
そうして決意も新たにして、
「それじゃあ猫さんバイバイ!」
と猫さんにお別れの挨拶をして歩き出したら、
「待ちなさい、帰るなら夕飯の一つでも用意してから帰りなさいよ」
艶やかななんとも色っぽい声が聞こえてきた。でも日も沈みきりそうな橋の上、私以外には誰もいない。
「誰? ゆーれーさん? そんなわけないよね」
空耳だったのかなと思っていると、
「どこ見てるのよ。私よわたし!」
足元から声が聞こえてきた。
「ほえ?」
もちろん、そこに人なんていない。いるのは…………、
「そうよ私! まったく何素っ頓狂な顔してるのかしら……」
猫さんだけ。
「ね……猫さんが喋った?」
放心状態の私を眺めている猫さんは、
「何か不思議なことでもあって?」
いたって当たり前のような顔をして言い放った。ちょっとした間のあと、私は元の世界に帰ってきた。
「当たり前だよ! だって……どうして猫さんが喋ってるの!?」
「生きているんだから意思もあるしいつも声を発しているじゃない」
「確かにそうだし鳴いてもいるけど……でも今あなたは喋ってるんだよ!?」
「こういう鳴き声かもしれないじゃない」
「確かにオウムとかも反復するけど……でもあなたは私と会話してるもん!」
「それはたまたま私の鳴き声があなたの問いかけに合っているだけかもよ?」
162 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 23:35:38.11 ID:LYiIIZ+J0
そんなバカなーって思う以上に周りの視線が気になる。今は誰もいないけどこのままここにい続けて猫さんと言いあっているところを誰かに見られたら変な人……
それ以前に猫さんが喋っている姿を見られたら大変かも……私は、
「わかったよ! とりあえずウチに来て! お話はそこで聞くから!!」
そう猫さんに提案して猫さんも、
「そうね」
と了承してくれた。やっぱり意思疎通できてるじゃん。
「あくまであなたが一方的にそう感じ取っているだけかもしれないじゃない」
屁理屈な猫さんだな……。
それにしてもどうしよう……。家の前について私は考えた。憂やお母さんお父さんになんて説明すればいいのかな。
「普通に入れてもらえれば何も問題ないわ」
猫さんは問題ないけど私は問題大有りだよお…………。そんなこんなで頭をかかえていると、
「あ、お姉ちゃんお帰りなさい!」
私の背後から聞きなれた妹の声が聞こえてきた。
「憂!? どっどうしたのこんな時間に!!」
どうしよう……まだ何も考えてないよ。
「お刺身のわさびが切れていたからコンビニまで買い物に行ってたんだ! あ、どうしたのこの猫?」
さっそく大ピンチだ。憂は猫さんに近づいて頭をなでなでしている。そして、
「ふーん、あなたの妹? あなたよりしっかりしていそうね」
喋っちゃった。
「あうー!! ええっと憂、あのこの猫さんはねその……」
なんにも思いつかないよ……。私はあたふたしながら「この猫さんは私の腹話術で喋っているように見えるんだよ!」
とか「実は最近ムギちゃんの会社で開発された本物そっくりのスーパーキャットで喋るロボットなんだよ!」とか絶対にバレちゃう言い訳を考えていた。でも憂は、
「あはは、可愛いね~!」
何故か普通の反応だ。
164 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 23:39:17.90 ID:LYiIIZ+J0
「えっと……憂? あの……猫さんが……あれ?」
「どうしたのお姉ちゃん?」
「ねえ早く夕飯にしてもらえないかしら?」
また喋った。お願いだからしゃべらいでよ。でも憂は猫さんに変な視線を向けることもなく猫さんをなでなでしていた。あれ、もしかして、
「憂? 猫さんが……なんて言ってるかわからないの?」
おどおどしながらそう聞いてみた。
「え? お姉ちゃんはわかるの?」
「ううん!! そっそうじゃないけど……」
「今日は歩きつかれたわ」
また猫さんが喋ったので、
「憂! 今猫さんなんて言った!?」
「え? にゃあって鳴いただけだよ?」
よかった……やっぱり憂には普通の鳴き声にしか聞こえてないみたいだ。
一安心した私は懐かれちゃったのでしばらくウチに住まわせようと思ったと伝え自宅に猫さんを招きいれた。お母さんやお父さんも猫さんの言葉は聞こえないようだしとりあえず私の心配は解消された。
ご飯を食べて猫さんを部屋の中に案内する。さてどうしよう。とりあえず少し会話することにしてみようかな。
「猫さん、名前はあるの?」
「意識したことないからないんじゃないかしら?」
じゃあ名前をつけてあげようってことになってルナちゃんと名づけてあげた。ルナちゃんは、
「凡骨ねぇ、でもまあいいわ」
と微妙に気に入らない表情を最初向けていた。むう、意識しなくてもいいようなモノなんだから文句言わないでよ。可愛いじゃん。
「あなたの固定観念の可愛いと私が思う可愛いは差異があるようね」
むむむ……しかも頭よさそうな感じだし。
166 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 23:43:59.75 ID:LYiIIZ+J0
「そういえばどうして涼宮さんにはフーフー怒っていたの?」
「ああ、あの人は近づいたらいけない気がしたのよ。そうね……カンと言えばいいのかしら?」
「ふーん。ねえねえやっぱり私とルナちゃんが会話できるのって涼宮さんが関係しているのかなぁ」
「あなたにわからないことを私がわかると思って?」
はあ……。なんか疲れてきちゃったよ……でも仕方ないか。私は好きなようにしていいとルナちゃんに伝えギー太を練習することにした。ルナちゃんは、
「じゃあお言葉に甘えて眠らせてもらうわ」
と言いながら私の枕を敷物代わりにして丸くなった。そして、
「あ、その音の鳴るモノは構わず鳴らして頂戴」
そう付け加えた。
次の日、猫さんのざらざらした舌で私は目を覚ました。
「うう……いたい……」
頬にオロシガネをつけられているみたいだよ。猫さんの舌は本当にざらざらしてるな……。
「そろそろ起きてくれる? もうあなた以外は目を覚ましているわ。私もお腹が空いたの」
じゃあ勝手に部屋を出て行ってご飯もらってくればいいのに……。私が抗議すると、
「ドアが閉まっていて出られないのよ」
……ごめんね……。寝ぼけたまま私はドアを開けて不可抗力で監禁していたルナちゃんを助けてあげた。昨日から言われたい放題言われちゃっている気もするから素直に謝れないけど……。
昨日は憂やお母さんがルナちゃんをずっとなでなでしたりどこからもってきたのか猫じゃらしで遊んだりしていた。ルナちゃん曰く、
「運動よ」
て言ってたけど、猫じゃらしで遊ぶ姿は普通の猫さんとまったく同じでなんかおかしかったな。
朝食を食べて家を出るとルナちゃんは日課があるからと出会った橋の方へ歩いていった。私はそのまま学校へ向かい授業を受けて部活でみっちり練習して――あっという間に夕方になった。
168 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 23:47:34.47 ID:LYiIIZ+J0
「今日はこれにて解散!!」
りっちゃんの掛け声と共に軽音部の活動が終わった。文化祭も近いし最近は毎日しっかり練習しているのだ。さわちゃん先生の猛特訓も佳境に入ってきているし、猫さんのことを忘れちゃうほど私は四人で練習していた。
「お! 猫がいるぜー!!」
部活の帰宅途中、猫さんがたくさんいた。猫会議だね。
「可愛いわねぇ♪」
ムギちゃんがニコニコしながら猫さんを眺めていると澪ちゃんが、
「でもさ、ああやって集まって何を話し合ってるんだかな」
て言った。そんな私たちに猫さんたちご一行は気が付いたようでこちらに視線を向けてきた。そして、
「あら、何か御用ですか?」
「こっちみんなww」
二匹の猫さんが私に話しかけてきた。……うん、なんかもう慣れちゃっている自分が嫌だな……。
「まあ! にゃああんですって! 可愛いわねぇ!!」
ムギちゃんはじめ、他の人にはやっぱり鳴き声として認識されているようだしよかった……。猫語がわかるようになっちゃったのかな……。猫さんに近づきみんなに聞こえないように小声で話しかける。
「えっと……ごめんね。特に用はないんだけど……みんなが何を話していたのかなぁって気になったんだ」
すると最初に話しかけてきた猫さんが、
「特には。こうしてみんなで顔を合わせてお互いの無事を確認しあっていただけですよ」
ついでこっちみんな猫さんが、
「釣りか泣いた」
なんて言って来た。
169 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/28(月) 23:52:28.27 ID:LYiIIZ+J0
「唯ー! 私も猫会議に混ぜてよー!!」
りっちゃんが声を張り上げながら私のところに近づいてきた。そしたら別の猫さんが、
「うわ! なんかうるさそうな人間だ!」
と言い、釣りか泣いた猫さんが、
「空気嫁」
て言った途端猫さんは散り散り。空気嫁猫さん……りっちゃんは見た目やキャラで誤解されがちだけど本当は空気の読める気配り上手な人なんだよ。そう言ってももう遅いか。
「なんだよーみんな逃げちゃったしー」
「律が大声出すからうるさかったんだろ」
澪ちゃんニアピン。そんなこんなでわいわいしながらみんなで猫談義をしながら帰って行った。
それにしても猫語がわかるなんてみんなに言っても信じてもらえなそうだけど意外に楽しいかも。
なんでもプラスに考えるのが唯のいいところじゃないって和ちゃんが昔教えてくれた通り、私は猫語がわかることがだんだん楽しくなってきちゃった。
171 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/29(火) 00:00:00.85 ID:2NLZtabe0
「お帰りなさい。さ、今日は煮干があるのかしら」
玄関前で背中を丸くして座っているルナちゃんを発見。
「ただいまー! どうしたの? 入らないの? あ、ドアが開けられないんだね」
左様、なんて短く答えたルナちゃんは私が玄関のドアを開けると隙間からすいすいっとお家の中に入っていった。
「でもルナちゃんは鳴き声が可愛いよね~。まるで喋ってるみたいだよ!」
食後のデザートを食べ終わった憂がルナちゃんの喉を撫でている。ルナちゃんは喉をゴロゴロ鳴らしながら気持ちよさそうな顔をしている。
実際「疲れがとれるわ」って言っていたし、きっとマッサージ感覚なんだろうな。
「ねえお姉ちゃん、ルナちゃんウチで飼おうよ! すっかりお姉ちゃんにも懐いているしお母さんもお父さんも可愛がってるし!」
「そうだねー、ルナちゃんがよければいいんじゃない?」
「私は属さない主義なのよ。日中は町を眺めていたいわ」
「ルナちゃんは嫌みたいだねー」
「ええー……そうなのかなぁ……」
会話が成立しているように見えるけど、ルナちゃんの言葉は憂には「にゃあ」としか聞こえてない。
でもまあこんな感じですっかり猫さんとの会話も周囲に不思議がられないようになった。
アレだよね、周りから見れば自分の飼い犬や飼い猫に話しかけているのと同じなんだよねきっと。
174 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/29(火) 00:04:14.81 ID:2NLZtabe0
そうこうしてルナちゃんがすっかり平沢家の一員になり私も猫語に慣れてきたんだけど、この関係は長く続かなかった。
文化祭初日、クラスの行事とライブの練習も終えて私は家に帰ってきた。でも玄関にはいつも私の帰りを待つルナちゃんがいない。
遅くなったから家の中に入れてもらったのかな。
「え? いないよ?」
憂の一言でそうじゃないんだと私は知った。心配になって私と憂は外を捜し歩くことにした。そして私は出会った橋でルナちゃんを見つけた。
「あ! ルナちゃん何してるのー? 早く帰るよー!」
でも私の問いかけにルナちゃんは何も答えない。
「どうしたの?」
「……にゃあ」
にゃあ……にゃあってどういう意味だっけ。そう思っているとルナちゃんは近づいてきて私の足にまとわり付いてきた。まるでそれじゃあ普通の猫さんだけど……、
「にゃ?」
不思議に思った私が抱きかかえようとするとルナちゃんはささっと私のそばから離れた。
「え? あれれ?? どうしたの?? もっもしかして……」
何を聞いてもルナちゃんは昨日のように言葉を発することはなく、たまに返ってくる声も「にゃあ」という鳴き声だった。
「私……猫語がわからなくなっちゃったのかな……?」
とりあえず捕まりたくなさそうだったので私はルナちゃんを置いて家に引き返した。
「そっか……」
私の話を聞いて残念がる憂。私は気が変わったみたいで近づいてこなかったと伝えた。
175 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/29(火) 00:06:48.20 ID:2NLZtabe0
暗いムードのままちょっと遅くなった晩御飯を食べた私は自分の部屋に戻ろうとした。すると……
カリカリ。
なんだろう。
カリカリカリ…………。
玄関から奇妙な音が聞こえた。
不思議に思ってドアを開けると、
「にゃあ」
普通の猫さんになったルナちゃんがドアに爪を立てご飯の催促をしていた。
こうして、ルナちゃんは気が向いたときはご飯を食べに平沢家のドアをカリカリ引っかいてくるようになった。憂も喜びながら、
「今度猫さん用のご飯も作れるようにならなくちゃ!」
て言っていた。私の部屋に入ってきたり皮肉を言ったりするような高飛車お嬢様な猫さんじゃなくなったけど、ルナちゃんは行儀よくキレイに餌を食べてキレイな鳴き声を今日も私に聞かせてくれている。
ちなみに他の猫さんの言葉もわからなくなったのであの数日間の出来事は私の頭の中からずっとキレイさっぱりなくなっていた。
なんだったのかな……どうして猫さんの言葉がわかったのかなぁって疑問に思ったこともあったけど、結局わかるわけないし私は普通の生活に戻っていた。これでおしまい。
177 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/29(火) 00:17:04.95 ID:2NLZtabe0
と、言うわけである。つまり平沢さんが猫語を分かったのは……、
「涼宮さんが願ったからでしょう。朝比奈さん風に言わせれば、平沢さんの自覚症状が発現、そして消失しただけ……ですかね」
白い息を弾ませながら古泉は言った。俺は平沢さんから伝え聞いた話をそのままにやけハンサム色男野郎の古泉一樹に教えてやったのである。
古泉理論ではハルヒが黒猫の逃げる理由が知りたい……ああ、私が猫の考えていることをわかればな……と思ったのだそうで、その影響を受けてしまった被害者が平沢さんだと言う事だ。結論を考えると、
「こういうことですよ。シャミセン氏の場合は彼自身が言語能力を有したのですが……平沢さんの場合、猫との意思疎通能力が芽生えた……ということです」
ハルヒはどんだけ迷惑かけりゃ気が済むんだろうねまったく。
「で、それらは全て嘘でしたーって映画をまとめたことによって平沢さんの力もなくなったわけか」
俺の言葉にその通りですと笑顔になり白い歯をこぼす古泉。近寄るな。俺は男に興味なんてないぞ。いやまあ古泉もそうだろうが。
当時猫が喋る以外にも様々な超常現象が映画撮影の中で起きていたため、俺達はハルヒの無意識下に存在した何でもアリな空気を全てフィクションなんだと自覚させ現実世界の改変を食い止めたのである。
しかし佐々木をはじめ、とうとう一般人にまでハルヒパワーが浸透し始めてしまったらしいこの世の中、実に世知辛い。
これじゃあ「SOS団の支部を多方面に伸ばすのも悪くないわね!」と言っているハルヒの野望が実現する可能性もあるんじゃないか。そしてそれらの尻拭いは十中八九俺に回ってくる。
やれやれ……俺の悩みを共有できる人間が身近に出来たことはありがたいのだが、この思考は雪にはしゃいで家を飛び出した瞬間足を滑らしケツを強打したガキ並に前が見えてない考え方な気がしてならんね。
ちなみにこんな例えが出たのは昨日初雪が降ったからである。
178 :なめたん ◆k05EaQk1Yg :2009/09/29(火) 00:20:35.22 ID:2NLZtabe0
「そうですかね。僕としましては、平沢さんだけであれば問題ないかと思いますけど。少なくとも鶴屋さんに介入されるよりかはね」
そりゃお前ら機関が困るだけだろ。
「さあて、あなたにも関わることだとは思いますが……まあいいでしょう」
まあいいはこっちの台詞だ。ただ、古泉はどう考えているか知らないが結局平沢さんは部外者になるのではと個人的には踏んでいる。これはあくまで俺の推測なのだが、いずれ全てが元の鞘に納まる気がする。
つまり、現在内部者になっている平沢さんは最終的には軽音部の一高校生として普通の生活に戻ることになると思うのだ。いや、むしろそうなるように俺がどうにかしなければならないのかもしれない。
なんせあんなトンデモ体験に二度も三度も巻き込んでしまったのだからその責任を取らねばなるまい。そしてその責任をハルヒに任せられない以上、俺がどうにかするしかないのだ。
最低限、へんてこなよくわからないトンデモ記憶に関してだけでもキレイさっぱり上書きしてもらいたい。そうすれば、ハルヒを含めたSOS団の連中と桜高軽音部のメンバーがより一層普通の高校生として付き合っていけるはずだ。
古泉に促され俺はベンチから腰を浮かせる。もう昼休憩は終わりか。少しは上達したバンドSOS団のお披露目のためせっかく桜高軽音部の方々を北高に呼んだのだ。寒くてかなわんが午後からはけったいな話抜きだ。
軽音部の面々五人が増えより華やかに、より窮屈になった部室を目指して俺と古泉は寒々とした師走の中庭を後にするのであった。
『涼宮ハルヒの余波』終わり
最終更新:2010年03月07日 01:31