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ディストーション・シミュレーション2

131 :はるおん! :2009/10/11(日) 20:50:51.44 ID:40T35Xne0
はるおん!第三部
『フリーケンシーコントロール』
 毎度毎度けったいなことに巻き込まれる我等がSOS団と不幸ながら関わってしまうことになった可哀相な団体、そう桜高軽音部の皆さんである。
 一、二ヶ月ほど前にはハルヒのとんでもパワーが炸裂して長門がSOS団脱退のピンチに、そして軽音部の平沢さんがしおしおになる(文字通りの意味じゃあないぞ)という大事件が起きた。
 そしてそれがキレイに解消したというのにまたまたご迷惑をおかけすることになってしまったのである。
 挙句に、この出来事がきっかけで後々平沢さん以外の軽音部の皆さんにまで多大なるご迷惑をおかけすることになるとは、このとき誰一人として予測していなかったのだ。


132 :はるおん! :2009/10/11(日) 20:57:35.13 ID:40T35Xne0
 文化祭も無事に終わり俺達SOS団は毎度懲りずに自主制作映画の公開、そして赤い背広が似合うかの有名大盗賊もビックリするあこぎなあの手この手を使いゲリラライブまで敢行した。古泉の回し者生徒会長とひと悶着あったことも付け加えておこう。
 またまた俺達の御無礼行為、ハルヒに言わせるに活躍を桜高軽音部の方々にも見られてしまったのである。三億歩譲ってゲリラライブは良しとしても、あの屑のような昨年を大きく下回る駄作映画まで観られてしまったのだ。
 ああ思い出すだけでも恥ずかしい、月面の静かの海に降り立って永久に慎ましくしていたい気分だ。俺としては映画の鑑賞に際して個人個人の反応が面白いように違ったことぐらいが収穫であった。
 まず分かりやすかったのは田井中さん。彼女は本格サスペンス推理映画(ハルヒ談)を終始ゲラゲラ笑って鑑賞していた。隣で小恥ずかしそうにしていた秋山さんに、
「来年は澪もこの映画に出してもらえよ!!」
 などとしきりに持ちかけていた。
 また平沢さんはないストーリーを必死に考えていたのか終始黙ったまま映画を鑑賞し、終わった後には拍手をしていた。さらに琴吹さんは朝比奈さんにウットリしていて中野さんは朝比奈さんのアレなシーンで顔を真っ赤にしていた。
 この五人の表情だけをお見せしても同じ映像を見ているとは絶対に思われないだろう。
 そんなハルヒ的に大成功の内に幕を下ろした文化祭も俺の記憶では既に過去の話題となりつつあった十二月上旬、起こらんでもいいのに事件が起きてしまった。

134 :はるおん! :2009/10/11(日) 21:07:39.23 ID:40T35Xne0
 当面の目標であった文化祭ライブも終了し週一で開催されていた桜高との合同練習も最近はご無沙汰である。ここだけ聞けば俺達SOS団は軽音楽部だと誤解されてしまいそうだ。
 部室にはハルヒ専用のギターが増え、ハルヒはヒマを持て余せばギターをじゃんじゃんかき鳴らしていた。そんなにハマったんならいっそここを軽音部にでもすればいい。
 ちなみに朝比奈さんは本格的な冬に向けせっせと編み物中であり、長門は相変わらず読書をしているかコンピ研で余暇を過ごしている。コンピ研の部長氏も長門を気に入ってか一行に部活を引退することなく活動に参加しているらしい。
 朝比奈さんといい部長氏といい一応高校三年生なのだから受験勉強をしなくてもいいのだろうかね。
「ついてますねぇ。こんな所で資産を手に入れることが出来ました」
 そして俺と古泉は相変わらずボードゲームに勤しんでいる。なんというか、一年前のまったく同じ日にもまったく同じことをしていた自信があるね俺は。一年前が平日であったかどうかを頭の中で必死にめぐらせているとケータイの着信音が部室に響き渡った。
 だが俺の電話ではない。誰だまったく、室内ではマナーモードにしておけ。これがハルヒなら苦情の一つ二つ、長門は長門に電話してくる人間などいないだろうからないな、朝比奈さんなら気にすることありません、俺がこの時代の文化を教えてあげますから。


135 :はるおん! :2009/10/11(日) 21:21:55.43 ID:40T35Xne0
「うん! オーケーオーケーオールオッケーよ!!」
 電話はハルヒ宛てだった。ハルヒに電話をかけるとは物好きな人間もいたもんだな。俺が苦情の一つ二つどころか原稿用紙十枚分は軽く越える量の文句を脳内執筆していると、ハルヒが突然平素より馬鹿デカい声に三乗したハイパーボイスで声をあげた。
「みんな! 合同ライブの日程がたった今決定したわ!!!」
 いつも通り前置き一切なしの告知であるが、そもそも合同ライブは資金面の都合でお蔵入りしたんじゃなかったのか。
「都合が取れたのよ!! なんかムギちゃんがとっておきのライブハウスを用意してくれたそうよ!!!」
 これだから我々中流以下の人間と会社を動かすような上流の人間は感覚が違う。ライブハウスは一般高校生の小遣いレベルでどうにかできる金額ではないと思うぞ。そういえば高校バンド限定ライブをした時も俺達SOS団が金を出した記憶はない。
 チケット代はどこへ消えたんだろうな。まさかハルヒが全部手配りでばら撒いていたとか、それはそれでありえるな。

137 :はるおん! :2009/10/11(日) 21:31:38.42 ID:40T35Xne0
「とりあえず明々後日の日曜日はスタジオで練習するから!」
 俺が強引極まりない脅迫まがいのチケット販売をハルヒがしていたんじゃないかと恐怖しているとハルヒの明朗快活ボイスが割って入ってきた。いや待てそんな突然言われても困るのだが。
「え日曜日ですか? ごっごめんなさい……私鶴屋さんとお出かけする予定が」
 ほら見ろ。朝比奈さんがさっそく物凄く申し訳なさそうに練習拒否の意思表示をしているじゃないか。そして去年までのハルヒであれば問答無用に「拒否及び抗議は月曜日以降なら受け付けるわ」と言っていたのであろうが、
「あらそう残念ね。他の人は?」
 とあまりに拍子抜けするほど朝比奈さんのお出かけを認めてしまった。
「申し訳ございませんが僕もその日は少々予定が立て込んでおりまして、涼宮さんにお許しいただけるのであれば今回はご遠慮させていただけないでしょうか」
「デート? まあいいわよ」
 さらにいつもはイエスマンの古泉も何やら予定があるらしい。デートではなさそうだがハルヒは古泉にも自分の予定を優先して構わないと言っていた。確かに、古泉が言うように少しは成長しているらしいな。ハルヒは次いで長門にも確認を取っていた。
「有希は?」
「……」
 長門はハルヒの問いかけには答えず俺に視線を送ってきた。そこで俺を見つめられても困るのだが。
「長門、予定があるなら無理に参加することはない。ハルヒがそう言ってるんだからな」
 当たり障りないようこう長門に伝えると、
「そう」
 短く俺の言葉に肯定し視線を本に戻した。それはつまり予定があるってことなのだろうか。
「有希も用事があるなんて残念ね。でも仕方ないわ」
 長門も先約がいるとハルヒは思ったようだ。
「キョンと二人なんて私もツいてないわね全く」
 おい待て、お前俺には聞かないのかよ。
「あら、あんたも何かあるの? どうせ妹ちゃんと遊んでるか谷口の下手糞な歌を聴きにカラオケ行くかぐらいでしょ?」
 お前は超能力者か。確かに午前中は妹とゲームをして過ごし、午後は谷口国木田とカラオケの予定だ。
「そんなものは予定とは言わないのよ!」
 そうして俺はハルヒにゴリ押しされて日曜日のスケジュール帳を強制的に書き換えられてしまったのであった。すまん国木田、谷口と二人で仲良く遊んでてくれ。


138 :はるおん! :2009/10/11(日) 21:44:06.78 ID:40T35Xne0
「羨ましい限りです」
 下校途中、古泉はニヤケ面を俺に向けこう言ってきた。そう思うなら代わってくれ。
「まさか。僕の双肩には重すぎます。しかし、あなたと涼宮さんが仲良くなればそれだけ世界の平和が近づくのです。それは歓迎する以外の何物でもありませんよ」
 世界だか秩序だか知らんが俺はそんなご都合主義でハルヒに取り付く気はさらさらないぜ。
「そうですね。世界云々抜きにあなたと涼宮さんは仲良くあって然るべきですからね」
 今日はやけにからんでくるな。疲れるうっとうしい。
「おっと失礼致しました。少々嫉妬してしまったようです。ふふ」
「なんだ古泉、お前まさか本気で羨ましがっていたのか?」
 古泉の微笑に俺は心の底からそう思ったのでついつい聞いてしまった。
「前にもお伝えしましたが、涼宮さんは魅力的だと思いますよ。さて、今のあなたも……そうは思っておられないのでしょうかね」
 古泉はそのまま俺の答えを待たずにスタスタSOS団女子集団の方へ歩いていってしまった。言い逃げとは腹の立つ奴だ。色々言いたいことはあったが、俺はそのままSOS団メンバーの後姿を眺めながら下校するのであった。


139 :はるおん! :2009/10/11(日) 21:46:18.73 ID:40T35Xne0
 そして日曜日、待ち合わせの一時間以上前に集合場所へやってきたというのにもうハルヒはいやがった。
「早く来る心がけはいいけど最後は最後よ!」
 あっけなく罰金となってしまう俺、やれやれだ。ふと気付くとハルヒは何故か髪の毛を結わっている。今日の服装に合わせて似合う髪形にいじったのか。まあ別にだからといってそれは俺には微塵も関係ないことなので気にしない方向でいこう。
「むぅ」
 俺の視線が自分の結わいた髪にあると気付いたのか、ハルヒはお得意のアヒル口になり不機嫌そうな顔を見せてきた。
「田井中さん達との待ち合わせ時間までしばらくあるし喫茶店にでも入るか」
 その視線が石化した敵をさらに呪い殺さんとしているメデューサのように感じられた俺はハルヒに喫茶店で茶でもしようと勧めた。我ながら上手いかわし方をしたぜ。ハルヒは何故か寂しそうな表情を一瞬見せた後、
「そうね、アンタの奢りだしじゃんじゃん注文するから覚悟しなさい!」
 と言いながらせっかく結わいていた髪をほどいてしまった。似合っていたのになんと勿体無い。

141 :はるおん! :2009/10/11(日) 21:54:02.22 ID:40T35Xne0
 喫茶店で省いていた朝食も済ませ俺とハルヒは電車に揺られてスタジオまでやってきた。その入口には桜高軽音部のメンバーが既に集まっていた。ただしいつもより人数が少ない。
「おお来た来た!! 待ってたぜハルにゃん!」
 俺達に気付くなり田井中さんはハルヒに手を振り声をかけてきた。
「おはようりっちゃん。そっちも人数少ないわね」
 前述の通り軽音部の面々も本来五人いるはずなのだが今日は俺達に合わせたかのように二人しかいなかった。一人は今ハルヒと会話している田井中さんでもう一人は
「おはようございます先輩!」
 軽音部の後輩中野梓さんである。それにしても先輩……いい響きだね。後輩に先輩と言われることがこんなに素晴らしいことだなんて。
 自らの悪行を司法で認められ有頂天になるも、間もなくその司法に裏切られる某ユダヤ人の如く俺が悦に浸っていると鋭いチョップが脳天に炸裂した。判決が少しばかり早すぎやしないか。
「このエロキョン、なに呆けた顔してるのよ。まさか梓ちゃんでエロいこと妄想してたんじゃないでしょうね。梓ちゃんこいつにかまったらダメよ、アホが移るわ」
 チョップの殿堂入りでもあったら入れそうな鋭いチョップを俺に見舞ったハルヒは俺の風評を中野さんに垂れ流していた。妄想なんて誤解だ。


142 :はるおん! :2009/10/11(日) 22:04:04.50 ID:40T35Xne0
「で、私達も二人しか来られなかったんだけどそっちもそうなの?」
 中野さんへの流布が終わったハルヒは田井中さんに話題を振りなおした。田井中さんは肯定の仕草、さらに続けて、
「澪とムギは家の用事で唯は妹とおでかけだってさ」
 各個人の欠席理由を教えてくれた。
「律先輩、だから前もって皆さんに案内しないとダメだってあれほど言ったじゃないですか!」
 何やら田井中さんはハルヒに負けず劣らずの二日前にスタジオの予定を伝えたらしい。
「りっちゃん駄目じゃない。予定は最低でも三日前には伝えなきゃ」
 ハルヒ、お前も人の事は言えんだろう。いや、三日前には確かに伝えてくれたが。いかんな、一瞬ハルヒの言葉がまともに思えてしまったぜ。
「まあまあ、こいつも似たようなものだし気にしないでいいと思うけどな」
 とりあえず場を収拾するため俺は三人にこう声をかけ、ハルヒの苦情を全て無視してスタジオへと潜り込んでいった。
 幸いボーカル、ギター、ドラム、そして拙いが俺のベースとバンドとしての体裁は整っていたので練習に問題はなかった。とは言っても俺は弾ける曲が圧倒的に少ないのでしばしば聴衆側になっては三人のハイレベルな演奏に耳を傾けているのであった。
 それでも彼女達からすれば演奏にほころびがちらほら見え隠れしているようで、
「ここがバラバラでしたね」
 中野さんが俺にさっぱりなリズムキープについて指摘すれば、
「そうねぇ、ここを揃えられれば絵になるんだけどねー」
 ハルヒはそれについていき、
「まー細かいところはいいじゃん! だいたい合ってるって!」
 田井中さんだけはやたら大雑把であった。中野さんに呆れられ色々言われてもいた。
 ちなみにどうして桜高の音楽室で練習していないのかと言うと桜高の合唱部が練習に使用しているからである。それとたまにはスタジオで練習するのも悪くないとハルヒが田井中さんに発案したものがそのまま可決されたようだ。
 なおスタジオの費用はさすがに割り勘とさせてもらった。ハルヒは「こういうのは全部キョンが出してるからいいのよ」と当たり前のように言い放ったがさすがに善良な心を持つ田井中さんと中野さんはそれを丁重にお断りしてくれた。
 二人とも、可愛いだけじゃなく人としての一般常識もわきまえていらっしゃる。

144 :はるおん! :2009/10/11(日) 22:22:30.20 ID:40T35Xne0
 ぶっ通しで続けても演奏のクオリティが下がるため小休止を取る我々。俺は水を飲んで喉の渇きを潤しつつぼーっとしている。ハルヒと田井中さんは会話に花を咲かせている。そして中野さんは携帯電話で誰かと話をしているがどうもあまり楽しそうではない。
 どちらかと言えば少し暗い雰囲気である。その様子に他の二人も気が付いたのか中野さんが電話を切ると田井中さんが電話の相手やその内容を確認していた。
「実は私の友達の飼い猫がここ最近ずっと体調を崩していて元気がないんです。だから心配で……」
 田井中さんの質問に答えた中野さんはまるでその猫が自分の分身なんじゃないかと思えるほど心配な顔つきになっていた。
「医者には診てもらった?」
 ハルヒが尋ねる。
「はい。でも原因不明だそうです。原因がわからないから尚のこと心配なんです」
 原因不明。俺の頭に引っかかるものがあった。どうやらハルヒも同じだったようで、
「どんな症状? もしかしてぐったりしてご飯を食べる元気もなくなっていたりしない?」
 あの時目の当たりにした情報をそのまま中野さんに質問文として送っていた。


145 :はるおん! :2009/10/11(日) 22:27:33.49 ID:40T35Xne0
「え? ええっと、ご飯は食べているみたいですけど確かにぐったりしています」
 中野さんは目をパチクリとさせハルヒを見入っていた。
「そっか。前ね、クラスメイトの飼い犬が原因不明の病気でぐったりしたことがあったのよ。もしかしたらその猫も同じ病気かも。ええと、なんだったっけキョン?」
 情報生命だか素子うんちゃらだかだな――とは当然言える筈がない。俺はド忘れしたフリをしながら心の奥底に芽生えた違和感を脳内に反芻していた。ハルヒが言う原因不明の病気はクラスメイト阪中の愛犬ルソーがぐったりしたまま動かなくなったというものだ。
 原因は長門が言うに謎の地球外生命体らしく、その病原菌野郎は長門の手によって犬からウチのシャミセンに移って…そうだ思い出した。その病原は犬の脳内で生命活動をおっぱじめようとしていたのだ。
 違和感の正体はこれだ。あの情報体は犬の脳内には反応するのだが猫の脳内には反応できない単細胞野郎だったのだ。つまりそのぐったりした猫の原因は別であると結論付けられる。しかし事情を知らぬハルヒがそう思うはずもなく、
「中野さん、もしよければその猫に会わせてもらえない? もしかしたら治せるかもしれないわ!!」
 こう中野さんに提案しているのであった。確かに類似症例だし俺がハルヒの立場であっても同じことを提案していたであろう。まあ確認するだけならかまわないか。どちらにしろ長門抜きでは治すこともできないだろうからな。
 気の毒だし原因がなんであれ長門に治してもらえばいいだろうと考えた俺はスタジオ練習を早々に切り上げ猫の元へはせ参じることに同意した。

147 :はるおん! :2009/10/11(日) 22:32:08.15 ID:40T35Xne0
 いつぞやの阪中家ご訪問が思わずフラッシュバックした。中野さんの友人、鈴木純さんがあの日の阪中と同じ生気の抜けた顔で俺達を出迎えてくれたからだ。鈴木さんはハルヒのことを見ると少し顔を赤くしてもじもじしながら俺達を居間へと案内してくれた。
「二号……」
 中野さんが猫に声をかける。中野さんが勝手に命名したらしい「あずにゃん二号」の寝床へ案内された俺はこれまたあの日を思い返していた。確かにぐったりとしたまま猫はそこから動こうとしない。その姿を見たハルヒもやはり俺と同じようで、
「やっぱり阪中のルソーと同じだわ! キョンそうよね!?」
 俺に同意を求めてきた。確かにそうだな。だがしかし、これは違うモンが原因である。
「有希に来てもらいましょ! 有希なら治せるもんね!!」
「待てハルヒ、あいつは今日予定があるのに連絡したら悪いだろ。それに色々道具も必要だし長門に連絡するのは落ち着いてからでも遅くないんじゃないのか? それにこの猫はルソーと違ってご飯は食べているようだし一刻を争う事態でもないんだろ?」
 俺のもっともらしい意見を聞いたハルヒは苦虫を噛みつぶしたような顔をしつつも不承不承でそれに同意してくれた。
「すげーなー。ゆきりんがそんな博学を持ってるなんて!」
 長門が知っている民間療法とやらにしきりに感心していた田井中さんに、
「元気になるならできるだけ早くお願いします! 私心配で……」
 今この場でやって欲しいと言わんばかりの鈴木さん、そして
「二号もうちょっと頑張ってね。そうすれば長門先輩が助けてくれるから!!」
 あずにゃん二号に激励の言葉をかける中野さん、三者三様の反応である。とりあえず民間療法には誰も突っこみを入れないので古泉にれっぽいことを言ってもらう必要はなさそうだ。
 鈴木さんの家に長居するのも申し訳ないので俺達はそれぞれ家路へと向かうことにした。帰り際ハルヒに、
「有希に連絡しといてね。忘れていたら死刑の後蘇生させてもう一度死刑だから!」
 と言われたのですぐ長門に連絡を入れた。用件を端的に伝えると長門は短く「了解した」と発してくれたので、事態は早くも解決の方向へ大きく進んだように感じた。

149 :はるおん! :2009/10/11(日) 22:38:54.00 ID:40T35Xne0
 翌日、ハルヒは猫のことが心配なのか授業中もずっとそわそわしていた。そして放課後SOS団本日お休みの張り紙を文芸部の部室前に張り出し長門を引き連れ桜高へ向かうのであった。道中手ぶらの長門を見て、
「あれ? 手ぶらでいいの?」
 とハルヒが尋ねていた。もちろん長門は「いい」と呟くだけである。しかしハルヒもその一言だけで満足したのか長門に深くは追及しなかった。一応言っておくが、俺がこの場にいるのはハルヒの強制連行によるものだ。
「あんた、あずにゃんが心配じゃないの?」
 と言われちゃ帰るとは言えまい。シャミセンを飼っている俺にもそれぐらいの心はあるつもりだからな。あと言っておくがここでいうあずにゃんは当然中野さんのことではない。
 桜高の校門前、待ち合わせ通りに田井中さんと鈴木さん、そして何故か中野さんではなく平沢さんがいた。
「長門先輩ですか? 今日は宜しくお願いします!!」
 鈴木さんは昨日一緒にいなかった人間が一人しかいないため短髪無表情女子が長門と気付いたようだ。長門を物珍しい珍獣のように見つめている顔は、ドキドキしていますと書かれているような表情である。一方、
「……」
 SOS団及び平沢さん以外の他人には一切興味を持たない長門が珍しく鈴木さんをまじまじと見つめていた。その目の奥に意外にも不安のような色を俺は感じたのだが、いやまあ長門に限って不安があるはずもないので俺の見当違いだろう。
「唯ちゃんこんにちは」
 ハルヒがお気に入りの平沢さんに声をかけるが猫のことが気になるのか挨拶もそこそこに猫治療のため鈴木さんの家に急ごうと俺達に告げる。

157 :はるおん! :2009/10/11(日) 23:16:32.74 ID:40T35Xne0
「そういえば梓ちゃんはどうしたの?」
 鈴木さんの家へ向かう途中、それまで猫のことで頭が一杯だったのか中野さんの不在に触れていなかったハルヒが平沢さん含めた軽音部一行に尋ねていた。
「あずにゃんはねー、なんか体調が悪くて学校休んだんだってー!」
 一瞬、長門が少し反応を示したのを俺は見逃さなかった。話を聞けば昨日自宅に帰ってから体調が優れず体がだるいとのことであった。そう……それはまるで、
「なにそれ、梓ちゃんもあずにゃんと同じ病気になっちゃったみたいじゃない」
 ハルヒの言葉通りである。その症状はまさしくこれから救出に向かおうという猫と同じ状態であった。長門に視線を送る。
「…………」
 長門は何やら思案しているような表情を見せてくれたが俺にアイコンタクトを発信してくることはなかった。
「猫はともかく梓は風邪だろ?」
 田井中さんのこの一言でハルヒや鈴木さんは風邪説に納得したようである。確かに原因不明の病気は猫であって中野さんではないし、体がだるくなって休むことなんて人間なら誰だってある。長門の表情は気になったがとりあえずは深く考えず猫の元へ急ぐことにしよう。

161 :はるおん! :2009/10/11(日) 23:24:01.55 ID:40T35Xne0
 昨日に引き続き鈴木さんの家にやってきた俺達一行は、これまた昨日と同じ体勢で動かないあずにゃん二号を見つけた。普通これだけわいわい人が集まると猫は嫌がるものであるが、あずにゃんはまったくそのそぶりを見せない。
「いつもなら人が来ると一人でどこかに行っちゃうんですけど……」
 鈴木さんがそう答えてくれたのでやはり猫はそういうものなんだなと思った。ウチのシャミセンも基本的にはそうだしな。
「有希! それじゃ早速診て見て。お願いね!!」
 ハルヒは長門を猫の前に連れ、長門はかがんで猫に視線を送る。十秒か二十秒か…長門は猫をまじまじと見つめ、そして立ち上がり俺へ視線を送ってきた。
「どう有希!? やっぱりルソーと同じ病気!?」
 興奮気味に診断結果を煽るハルヒに長門は伝えていいべきかどうかを俺に尋ねてきた。もちろん視線によってだ。当然答えはノー。
 そのまま答えさせようものなら「超絶的非幻接地断層による歪みが原因でシナプスに異常をきたしている」みたいな辞書引いても出てこないフレーズばかりでハルヒに語りかけること請け合いだからだ。俺は長門のそばへ寄り、
「長門、イエスかノーだけで答えてくれ。」
 と小声で耳打ちした。
「ちょとキョン! 自分だけ聞いてズルいわよ!!」
 それを見たハルヒが憤慨したので俺は慌てて謝り、
「すまん! 長門、これはルソーとは違う病気なんだよな?」
 と聞いた。長門は、
「そう」
 肯定の単語。
「え……そうなんだ…………」
 長門の予想外の答えにハルヒはしゅんとなってしまった。あまりそういった表情は見せないでくれ。俺まで何とも言えない気持ちになる。
「長門、だけど治療できそうなんだよな?」
 今度はこう長門に質問した。先ほどはある程度確信があったのだが、今度の質問は若干不安要素もある。しかし長門に治せないことはハルヒの花畑思考ぐらいなので問題ないと俺は思ってもいた。
「可能」
 そして予想通り長門はそう答えてくれた。

163 :はるおん! :2009/10/11(日) 23:32:59.08 ID:40T35Xne0
「ホント!? よかったわ!! それも民間療法ってやつね!!」
 一転して笑顔満天になったハルヒが長門にそう尋ねる。
「ああそうだ! 長門の読んだ本になんかあったみたいだぜ!!」
 俺はそのハルヒの問いを長門の代わりに答える。肯定or否定で答えろと長門に案内したのでそのままでは「違う」と長門が答える可能性を危惧したためだ。
「ああ……よかったぁ」
 治るの一言に幾ばくか安心したのか、鈴木さんも吐息交じりに素直な気持ちを出してくれた。
 ルソーの時とは違う道具を揃える必要があるので一日待って欲しい旨を俺は他の人間に伝える。
「あずにゃん二号頑張りなさい!」
 ハルヒに声をかけられたあずにゃん二号は微妙に頭を動かし弱々しく「にゃぁ」と鳴いて答えた。


164 :はるおん! :2009/10/11(日) 23:35:40.88 ID:40T35Xne0
 田井中さんも安心した様子であったが明日は用事があるらしく来られないようだ。まあハルヒがすぐにメールするからと言っていたので結果は伝わりそうだ。また平沢さんは何やらを思案するような顔のまま俺達と別れ自宅へと歩き出していった。
 さて、それぞれが家路に向かう中、俺は長門と一緒にいる。当然聞く事は一つだけだ。
「長門、今度はなんの飛来者だ?」
 間髪いれず、
「共鳴周波数依存体」
 予想通りのわけ分からん言葉を口が返ってきた。
「あのシャミセンに植えつけたなんたら素子とは違うのか?」
「違う。根本的に構造が別。共鳴周波数依存体は高度な適応力を持ち存在確立していく」
 つまり以前のよりも性質が悪いんだな。今度はウィルス以上の存在か?
「共鳴周波数依存体と珪素構造生命体共生型情報生命素子を比較することは出来ない。なぜならそれらは違う概念だから」
 なんだ、それは人間と車を比較したりするのと同じってことか。
「概ねその解釈で間違いない」
 まあ細かい違いは別にどうでもいいか。生物だろうが無生物だろうが俺にとっては同じことだ。で、今度は阪中のルソーでも借りてきて漂着させるのかと思ったのだが意外にも長門は別の回答を俺に教えてくれた。
「その必要はない。処理する」
「なんだ、消し飛ばしちまってもいいのか?」
「いい」
 そして長門は一拍間を取り、申し訳なさそうな視線を俺に向けた後、
「涼宮ハルヒや平沢唯、そして中野梓に関わる重大なこと。迂闊だった」
 俺を不安にさせる言葉を発した。

168 :はるおん! :2009/10/11(日) 23:41:32.94 ID:40T35Xne0
 ハルヒ、平沢さん、いや待て中野さんも……どういうことなんだこれは。俺が疑問符を次々と浮かび上がらせているのを察してか、長門が口を開いてくれた。
「おそらく中野梓にも共鳴周波数依存体が存在している。体調不良の原因はそれ」
 そうか、つまり今度の奴は俺達人にもうつる非常に危険な存在なのか。
「通常人間には存在確立できない。しかし中野梓は例外。そしてその例外は涼宮ハルヒと平沢唯にも該当する」
 どういうことだ?ハルヒはまあともかく普通の人である平沢さんと中野さんまで何故だ。この三人だけという理由を思案しているとその答えを長門はあっさり口にしてくれた。
「共鳴周波数依存体はある特定の周波数に共鳴し、それを媒介して存在確立する。今回の事象においてその周波数が彼女たちのギターから異相発生した」
 さらに、と付け加え長門は、
「特殊原理によって共鳴周波数依存体は演奏者を通して拡散、存在が確立されていく。おそらくあの猫は中野梓が弾いたギターの音色を過去耳にしていたため共鳴周波数依存体に身体を解析され利用された。
 このまま放置しておけば、いずれ中野梓や平沢唯、涼宮ハルヒを介してあなたや他の人間にも影響を及ぼす」
 こう話してくれた。

171 :はるおん! :2009/10/11(日) 23:48:59.42 ID:40T35Xne0
 ちょっと待て、一般人には取り憑かないんじゃなかったのか。
「それはあくまで共鳴周波数依存体が存在確立する以前の話。彼女たちの中で存在確立を終えた共鳴周波数依存体は彼女たちが発したギターの音色を以前耳にした者の身体を解析、利用する。そうなれば最後」
「どうなるんだ一体」
「死に至る」
 血の気が引いた。以前音に取り憑く野郎はいたがそれと同じようでいて尚更性質が悪いじゃないか。そんなトンでも野郎を呼び寄せたのはどこのどいつだ。いやどうせハルヒなんだろうが。今度はアレか、ハルヒの作ったギターメロディかなんかか。
「全てが涼宮ハルヒによるものではない。共鳴周波数依存体が共鳴できる一定のパターンに特定される該当周波数は4種類のみ。さらに該当周波数が特定のコード、振動、音色に合致しない限りは問題がなかった」
 それが奇跡的に全部合致したってわけか。やれやれ。結局それはハルヒがいたからそうなったんじゃないのか。
「違う。これらに合致する存在は涼宮ハルヒではなく平沢唯」
 一瞬、俺は思考が停止した。平沢唯――平沢さんだと。どういうことだ。いやいや、平沢さんにそんな力があるわけないだろう。
そう、偶然に過ぎない。しかし偶然なのか。こんな奇跡的な天文学的確率が偶然なわけがないだろ。そして長門は俺のそんな微かな願いを見事なまで粉砕してくれた。
「偶然ではない。必然」
 めまいがする。確かにハルヒ的力が平沢さんにあったことは事実だ。しかしそれはもう昔の話で今は普通のお菓子好きな女子高生のはずだ。だが、そんな俺の思いは妄想夢想であったことを長門は追い討ちをかけるように淡々と告げてきた。
「迂闊。平沢唯に涼宮ハルヒと類似する情報操作能力が発生している可能性がある。これは情報統合思念体も予想外」
 なんだって……嘘だろそんなはずはない。あの時俺達がリセットボタンを押したはずだ。どうしてこうなったのかわけがわからない。
 俺は過去、ハルヒの力を受け取ってしまった平沢さんの力を朝比奈さん(大)と一緒に元に戻し全て上手くしやった。おそらく協力してくれた朝倉だってまずってはいないだろう。それがどうして。

173 :はるおん! :2009/10/11(日) 23:50:27.34 ID:40T35Xne0
「涼宮ハルヒの力を平沢唯が受けたのではなく、おそらく天蓋領域によるもの」
 てんがいりょういき、久しぶりに聞いた用語だな。間抜けな上必要な学力の詰ってない俺の脳みそに記憶されている情報では天蓋領域は長門とは異なる宇宙人であり、長門や俺達の敵だ。
 いい加減にしてくれ。俺がまたまた現れたふざけた野郎たちの意味不明な行動に頭を抱えていると、
「目的等は不明。しかし無視できる事象ではない」
 そう言葉を紡ぎ、続けて俺をこれでもかと滅多打ちする某宗教の異端者狩りのように聞きたくない事実をその平素と変わらぬ抑揚のない声にして発し、加えて俺の目に焼き付けた。
「何より平沢唯がそのことを理解し私たちに接近している」
 長門は言い終えるや指を前に突き出した。そしてその先には、
「ごっごめん……なさい」
 平沢さんがいた。

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最終更新:2010年03月07日 01:25