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230 : ◆CvdBdYFR7. :2009/10/08(木) 11:02:11.65 ID:i+2LyABL0
【ダウト・タイム】

 人は人を疑い、疑いは疑いを呼ぶ。

 私が軽音部に入部してから久しい。
 昨年末、私は海沿いを北上していく一人旅に出かけた。
 この奇妙な話はそこから始まる。



 この年末はみんなそれぞれの事情で忙しいらしく、私達軽音部は冬休み完全オフということに決まった。
 私は特にすることも無かったので、ふと旅に出てみようと思った。
 出発はクリスマスの朝、12月25日だ。
 大きめのリュックサックに旅の小物を詰められるだけ詰め込みながら、クリスマスイブを過ごした。
 日付が変わった頃、最近はめっぽう見なかった雪がふと降り始めた。
 私はちらりほらりちと降りゆく雪に旅の安全を祈った。

 朝目が覚めると雪はやんでいた。
 窓を開けると一面銀世界という言葉の意味が少し分かった気がした。
 成程これは確かに一面銀世界だ、と。

 親は田舎に帰っており、家には私一人しかいない。
 戸締りを確認し、私は寒くないようにしっかりと着込んだ格好で玄関のドアを開けた。
 寒い空気が顔をぴしゃりと撫でつける。
 私は思わず顔をしかめた。
 だが、駅に向かって歩いているうちにそれも気にならなくなった。
 習うより慣れろとは言ったものである。


231 : ◆CvdBdYFR7. :2009/10/08(木) 11:11:09.21 ID:i+2LyABL0
 いつもの見慣れた駅に着くと、私は切符を買った。
 海を見たかったので、とりあえず海辺の駅まで行くことにした。

 電車に乗るまでホームの端っこのベンチにこしかける。
 鳩が可愛らしくそこかしらに歩いている。
 手の届きそうな場所に近づいてきたので、私は思わず手を伸ばした。
 だが、鳩はすぐさま危険を察知し、パタパタという音も立てずに飛び去った。
「ひゃう」
 突然のことだったので思わず声を上げてしまった。
 幸いにもホームの端には誰もおらず、恥をかくことは無かった。
 ほっと心を撫でおろしていると、電車が来たようでアナウンスが掛かった。
『2番ホームに電車が参ります』
 私は耳につけていたヘッドホンの位置がずれていないか確認し、電車に乗った。
 電車の中はがらがらで、席にもすぐに座ることが出来た。
 窓の外を見ながら、私はぼうっと考える。
 ――――どこに行こうか。
 ヘッドホンから流れてくるお気に入りの洋楽のお気に入りのフレーズを口ずさみながら、私はうとうとし始めていた。
 何しろ電車の中は温かい。 
 それまで寒い外を歩いていたのだ、ほんのりとした温かさでうとうとしてしまうのもしょうがないだろう。
 だが、窓の外の景色に海が現れると、私の消え入りそうな意識は再び現実に呼び戻された。
 冬の海は何と言えばいいだろうか。それこそ綺麗なものではない。
 だがその曇り空の下に見せる荒々しさは私の興味をそそった。
 海辺の駅で電車から降りた。
 再び冷たい空気が私を包み込む。
 駅から出ると、すぐ目の前は海だった。
 果てしなく広がる水平線。
 それに吸い込まれるかのように私は海に向かって歩き続けていた。
 少し歩けば誰もいない閑散とした浜辺に出くわす。
 近くにあった流木に腰をおろして一息つく。
[続く]