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138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/14(水) 20:19:54.99 ID:5TB7VACb0
私の名前は中野梓、通称あずにゃんである。

ここは音楽準備室、そして軽音部の皆さんが来るのを待っている次第だ。
どうにも遅い、すっかり待ちくたびれてあくびが出た頃だった。

「あずにゃーん。遅れてごめんねー」

閉口一番、によによとした顔を近づけて頬擦りしてくる。
これはもう日課と言ってもいい位の恒例行事だ。
いつまでそうしてるんですか、くすぐったいじゃないですか。

「コラ、梓が嫌がってるぞ」
「えへへ、ごめんね。でもあったかいんだもん」

だったらマフラーなりカイロなり使えばいいと思いますよ、全く。
他人に頼ってばかりだとロクな大人になれません。

「遅れてごめんな。すぐにみんな来るはずだから」

むしろ来て貰わないと困るんです。
もうすぐライブなんですからもっと練習するべきですよ。

「どうにも苦い顔されちゃったな」
「そんなときはハイコレ、クッキー! あーんして」

ちょっ、いきなり口の前に持ってこないで下さい、頂きますけど。
ああもう食べかすが沢山こぼれ落ちちゃったじゃないですか、勿体無い。
食べ物を粗末にするとしっぺ返しされちゃうんですよ。


139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/14(水) 20:20:47.85 ID:5TB7VACb0
「待たせてごめんね」
「ちーっす。なんだ、また唯は梓に餌付けしてるのか」

もうちょっと別の言い方をしたらどうですか、あまり気分がよろしくありません。
でも、まあ、確かにそれは事実なのですが、悔しながら。

「よーっし。ムギ、お茶の準備だ!」

ティーカップやお茶請け菓子が手際よく並べられる。
私には特製のにゃんこカップだ、何気にこれは気に入っていたりする。
自分の立場としての本質を外れている気はするが、これはこれで好きなんだからしょうがない。

「あーずにゃん! ねーこみみー!」

突如として背後から襲い掛かってきたと思いきや弄ばれる。
こればかりは慣れない早く終わって欲しい、ってドサクサに紛れてヘンなとこ触らないで下さい。

「怒らないでよー、スキンシップなのに。ぶーぶー」
「そりゃ怒るだろう」
「別に我慢しないでいいんだぞ、梓」

今度からはちゃんと怒るようにします。
それよりいい加減練習始めたらどうですか、練習を。

「よし、ライブも近いし何度か通しでやってみようか」

どうもこの人達は誰かが一声上げないと奮起できないらしい。
集団行動の心理っていうんですか、典型的な日本人丸出しですよ。


140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/14(水) 20:21:29.27 ID:5TB7VACb0
――――♪♪

奏でる音楽に体を預けて一体になる、流れる音符を指で弾くのは何よりの快感だ。
やはり私は音楽が好きだということを実感する。
甘いものを食べている時よりワンランクくらい上だ。

「音も合ってるし特に問題はないだろう」
「んじゃ、あんまり疲れても困るから早めに上がるとするか」

片付けとちょっとした掃除に追われる。
この時間はあまり好きではない、楽しい時間がもうすぐ途切れてしまうのだから。
それでも我が侭は言わない、いや言えない。

「この位でいいかしら」
「そーだな。んじゃマックに寄って帰ろーぜー」
「りっちゃーん、今日はポテト攻めしたい気分!」

室内の明かりが消えると空気が一瞬にして淀んでいったように思える。
廊下から差し込む光を受けて四人分の長い影ができた。
私はそれを黙って見送る、しばしお別れの時だ。

「あずにゃんまたねー、いい子にしてるんだよ」

扉が閉まって楽しそうな談笑も次第に遠くなっていく。
名残惜しさを噛み締めてから、その気持ちを振り払うように机に飛び乗った。
窓ガラスに反射して私の姿がそっくり映し出される。
目にしたのは黒猫、ただの黒猫だ。