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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 3』というスレに投下されたものです
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718 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2009/10/19(月) 17:47:55 ID:F6tA1IXb
「唯先輩、寝てるんですか?」
問いかけに答えはない。ソファーの背もたれに気持ち良さそうに体を預けた姿勢で私を出迎えてくれた先輩は、目の前にまで近づいた私の気配にも気付くそぶりすら見せてくれなかった。
ついっと顔を寄せると、僅かに開かれた口元からすーすーとかすかな寝息が聞こえてくる。
実際、声にするまでも無かった。どこからどう見ても睡眠中です、という光景。
せっかくの部活時間なのに、と小さくため息をついては見せたものの。
ソファーの上にできた小さな陽だまり、そこを独り占めするようにぬくぬくとうたたねに興じるその姿はあまりに唯先輩らしくて、そんな微かな憤りなんてあっさりと消え去ってしまっていた。
本当に、この人は何でこんなにたやすく、人の心を温かくしてしまえるんだろう。
答える者のない疑問がふいっと心に浮かぶ。それを口にしてしまえば、例えば先輩の妹にして私の親友のあの子が事細かに説明してくれるんだろうけど。
自らもうすうす認めつつある素直さのない私は、それを心に浮かべるだけだから、答える者はやっぱりいない。
仮にいるとしたら、それはその声を聞くことができる私だけ。だけど私は素直じゃないから、それに答えてあげてなんてやらない。
ぽすんと、ソファーの開いてる場所、先輩の隣に腰を下ろす。
直後、その衝撃で起こしてしまわなかったかとその様子を伺うも、先輩は相変わらずの様相で、私はそれにほっとすると同時に、どこか寂しさのようなものも感じていた。
なんだろう?とその何処か寂しさなようなものとやらを引っ張りあげてみる。
視界の中の唯先輩は、夏という言葉を完全に消し去り秋という言葉を体現しているようなふわりと柔らかなお日様の光の中、今日初めて目にしたときと何等変わらない、気持ち良さそうな寝姿を見せていて。
それはやはり先ほどと変わらないふんわりとした暖かさを私の心臓の下側辺りに植えつけてくれるのに。
何故か、私の心にはやっぱり、何処か寂しさのようなもの、とやらが存在しているようだった。
だって、いつもなら――いつもの唯先輩なら、あずにゃーんなんて呼びながら、現れた私をぎゅーっと抱きしめてくれているはずなのに。
うかつにも浮かんできた、普段の私らしからぬ素直な回答に、私は慌てる。
それが正解だとするなら、私は普段のアレを、それがないこの状態で寂しさを覚えてしまうほどに、当たり前のもの、そして自分にとって心地よいもの、望むものだと認識していたことになるのだから。
そんなの――なんて慌てた私は否定できる何かを探そうとするけど、そんなものは見つからなかった。
ぎゅっと抱きしめてほしい。
あずにゃんっていつものように呼んでほしい。
優しく頭をなでてほしい。
それなのに、何で先輩はそんなに気持ち良さそうに寝たままなんですか。
私はこんなに、先輩の傍で、寂しい思いをしてるのに。
逆に浮かんできたのは、それと正反対の言葉だけで。それは一瞬にして私の頬を真っ赤に染めてしまう。
ああもう、うっかり素直になんてなってしまったから、きっと堰が壊れてしまったに違いない。
だけどそう、堰を作っていただけ。こっそりと気付かれないようにだけど大事に、胸の奥に抱え込んでいたもの。これはそれから溢れ出したもの。
本当にらしくない。そんなあっさりと、私の、ずっとこじれさせてわからないようにしていた心情を、纏めてしまえるなんて。
719 名前:うたたねあずゆい2/2[sage] 投稿日:2009/10/19(月) 17:48:35 ID:F6tA1IXb
「もう……先輩のせいなんですからね」
先輩が、そんな風に無防備な姿を私に見せてくれるから。私にとって、それがどんなに威力を持っていたのかなんて、この人は少しも知らないんだろう。
少し恨みがましく、先輩に視線をぶつける。だけど、それもそんなに長くは持たない。
熱のようなものが、どんどん溢れて来る。発生源は胸の奥あたり。それはあっさりと体中を駆け巡って、私を溶かそうとしてくる。
このままだと、どうにかなってしまいそう。それに流されてしまいそうで、少し怖い。
だって、それに流された私は、本当に私の気付く隙すらなく、自分の肩をそっと先輩に寄り添わせていたのだから。
そうして一日ぶりに触れた先輩は、本当に暖かくてやわらかくて心地いい。いつもどおりのはずなのに、それだからこそ私を溶かしてしまう。
このままぎゅっとされてしまえば、本当に溶けちゃうんじゃないかと思えるくらいに。
だけど先輩は、それでも夢の中。私はこんなに先輩の近くにいるのに、先輩はまだ夢の中。
だから、いつものようにぎゅっとしてくれることなんて無い。やはり、それは寂しいことで。
いっそ、自分からぎゅっとしてみようかな、なんてそんな風に思っちゃったりしている。
さすがにそれは、と最後に残ったいつもの私という、理性的な何かが押しとどめてくれたけど。
もう少しこの熱がめぐってしまえば、それもあっさり押しのけられちゃうんだろうなって、何処か他人事のように私は思っていた。
「…あず…にゃ…ふにゃ…」
不意に、耳をこつんと優しくたたく優しい声。
それは本当に不意打ちだった。
没頭して、いわばボーっとしていた私に、いつの間にか先輩の腕が回されてる。
肩を合わせてるだけのはずだった姿勢は、ぎゅっと体ごと包み込まれるものに変わっていて、30センチくらいの距離はあったはずの先輩の顔は、今は私の耳元。
それがいつもどおりの、私が望んでいたものだと気付いたのは、それを示すもの全てを確かめた後だった。
「にゃ…っ!?」
言葉にならない声が漏れる。歓喜なのか驚愕なのか、よくわからないものが渦巻いて、どうしたらいいかわからなくなる。
だって、こんなにあっさりとそれが実現してしまうなんて思いもしない。だって先輩は確かに寝ていたはずなのだから。
ひょっとしたら、唯先輩は実はずっと起きていて、私の様子を伺っていて、そしてこうしてくれたということなんだろうか。
だとしたら、それはあまりにうかつで――そして意地悪すぎる。
「ゆ、唯先輩…って」
あれ?と思う。私の声に先輩の反応は無い。ううん、小さなうめき声のようなものでそれは返してくれるけど、それは寝言の範疇であり。
つまり、私にこうして抱きついている唯先輩は、先ほどとまったく変わらず夢の中、ということ。
がっかり、なんて言葉が浮かんでくる。いや、さっきまでの自分の様子を全て知られていたと思えば、こういう結果でよかったと思うんだけど。
続けてため息をつこうかと思ったけど、それはこぼすまでも無くすっと掻き消えてくれた。
だって、こういう結果だったとしても、今ここにある事実は変わらない。
「んぅ…あーず…にゃん」
まだ夢の中で、それでも私の名前を呼んで、私を抱きしめてくる唯先輩。
それはやっぱり心地いい。ふんわりと、私はまた暖められる。
「ふふ、唯先輩…私はここですよ」
先輩に、優しく話しかける。この言葉はきっと、眠る先輩には届かないだろけど。
夢の中の唯先輩は、その中にあってもぎゅーっと私を抱きしめていてくれるから。
それはとても嬉しくて、暖かいもの。逆に少しだけ、その夢の中の私への嫉妬なんてものも浮かんでは来ているけど。
ぎゅっとその体を抱きしめ返す。いつもの私なら、絶対取ることのないそんな行動。
だって、教えてあげないといけないから。夢の中の先輩は、夢の中の私じゃなくって、ここにいる私を抱きしめているんだって。
そんなことを思いながら、私は小さく、本当に小さく微笑を浮かべた。




すばらしい作品をありがとう