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130 :マンボウ ◆/UXM.OJFh6 :2009/11/12(木) 17:25:21.83 ID:MNve7aM0
 こたつのはなし

「じゃじゃーん♪っとぉ」
 まどろんでいた音楽室に、唯の引き奏でるギターの音だけが響く。
 そのすぐ横には可愛らしい大きさの電気ゴタツが一台。しかも女の子4人入り。
 なぜ音楽室にこたつが持ち込まれているのか、ということに異議を唱える者はいない。
「ふぃや~……唯が持ち込んだコタツは、寒さに弱いおなごを食らうブラックホールやなぁ~」
 唱える前にコタツに身も心も信念も食い散らかされてしまったのだ。 
 だがこのコタツは飲み込んだ人間を関西弁に仕立てあげてしまう方言変換機ではない。ただのコタツだ。
 律はそれだけ言うともぞもぞとコタツの中に全身を引っ込める。
「あらあら、りっちゃん。コタツの中に頭を突っ込むのは、高速にチャリで突入するのと同じこと。つまり自殺行為よ」
 直後『ぶぅ』と音がした。
 ひぎゃぁと聞こえた小さな呻き声も、ムギには満足感しか与えない。
 このコタツは今月の初めに唯と憂の二人で階段をえっちらおっちらの登ってわざわざ持ち込んでくれたものだ。
 澪が話を聞いたことろ、唯の家には何故か2台のコタツがあるという。
 実はその2台目に気付いたのもごくごく最近のことだそうで、憂が『年末恒例大掃除感謝祭』において未開拓の地域に突入した時に見つけたのだそうだ。

131 :マンボウ ◆/UXM.OJFh6 :2009/11/12(木) 17:27:08.59 ID:MNve7aM0

「唯先輩、一人でギター引いてないで一緒に入りましょうよ~」
 そんなこんなで持ち込まれたコタツは、まるで三種の神器のように扱われ、軽音部の練習環境を大きく改善させた。
 めでたしめでたし。
 と言いたいところではあるが、やはりこの世はそんなに上手く出来ていない。
 そもそもこたつは四角で四辺、四人しか入れない設計になっている。
 それに対してこの部屋には五人。ほどなくして争いが起きた。
 さながら椅子取りゲームのようなこの争いは、十試合中十試合とも唯の負けである
「お~い唯、風邪引かないように気をつけろよ~」
 ちなみに澪は、誰がどんなに早く来ようとも、いつもいつも一番乗りなので争いには参加していない。
 こんな皮肉が言えるのも、勝者の特権とでも言えるのだろうか。
 唯はそんな2人の嫌味にしか聞こえないいたわりの声を無視し続ける。
「じゃじゃ~ん♪」
 心の友、ギ―太といれば、こたつに入るよりも温かいと信じて……
132 :マンボウ ◆/UXM.OJFh6 :2009/11/12(木) 17:28:41.11 ID:MNve7aM0

 だが、唯にも我慢の限界はあった。
 時は五時過ぎ。そろそろ寒さも身に応え始めた唯は、ついに反乱を起こそうと決心した。
「うぅっ、みんな練習もしないでぬくぬくしちゃってぇ……見てろぉ」
 小声でそうぼそりと呟くや否や、唯は左足でこっそりとコードのある部分を踏む。
(火力MAX!! 火力MAX!!)
 足先を器用に使い、コリコリと音を立てて、ダイヤルを『超強』まで回す。
(み~んな、焼き豚になっちゃぇ!)
 唯は心の中でおぞましい笑顔を浮かべながら、コタツ内の豚共が転がり出るのを待ちわびた。
 だが。
(な……なんで出ないの!?)
 四人の顔にはフルマラソンでもしてきたのかと疑いたくなるような大粒の汗が顔じゅうにびっしりとついている。
 しかしそれでも誰もコタツからは出ようとしないのだ。あくまでにこやかにコタツを楽しみ続けるらしい。
(ちょ……ムギちゃん、グロすぎっ……!)
 汗が目・鼻・口に入り、さらにそこから再度噴出しているように見えるムギの顔は、見るに堪えない汚物と化していた。
(みんな、そんなにコタツが好きなの!? 死んじゃうよ? 死んじゃうよ?)
 唯は逆に心配になってきてしまった。見ているこっちが暑苦しくて死にそうになる。

133 :マンボウ ◆/UXM.OJFh6 :2009/11/12(木) 17:31:19.24 ID:MNve7aM0

 そこで唯は訊いてみた。
「ね、りっちゃん。コタツのあんばいはどうよっ?」
 律は汗を顔じゅうから飛ばしまくり「ぐ、ぐっじょぶでぇ~す」と振り返ってくれた。
「あずにゃん。暑くない?」
「唯先輩こそ、寒くないんですか? なんだか唯先輩がぐにゃぐにゃ曲がって見えるので、とても心配なんですぅ」
 それはてめぇの目に汗がしみ込んでるからだろ、と言いたいのを押さえて、唯は気さくに笑顔で「大丈夫だよ、あずにゃん」と返す。
(ムギちゃんは……ダメだあ、あの体勢を動かしたら汗と涙のダムが決壊しちゃうよぉ)
 ムギはスル―することにして、黒い髪しか見えない澪に尋ねる。
「澪ちゃん、あったかそうだね」
「……………」
「あれ? 澪ちゃん?」
「……………」
「お~い」
「……………」
 返事が無いのを不審に思い、唯はおそるおそる澪の顔が見える側に回る。
「……あちゃ~、やりすぎたかなぁ」
 澪は顔を毛布に突っ伏してこと切れていた。
 唯は携帯電話を取り出す。緊急時にお決まりの三つの番号。ワンコールで相手は出た。
「あ、もしもし。一人熱中症で倒れてしまって……え?イタズラじゃないです!! 本当なんです!!」
 しかしろくに相手にしてもらえないまま、電話は一方的に切られてしまった。
 まぁこの冬の時期に熱中症など到底あり得ないというのはさすがの唯にも分かる。
「残念だね……澪ちゃん」
 パタンと閉じた携帯を鞄に放ると、唯は再びギ―太を構える。
「じゃじゃーん♪」
 やっぱりギ―太は心の友のようだった。

 おわり