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718 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 19:38:56.29 ID:wmuQ6zw0
一目見て、心奪われた。

とある女子校の文化祭。動画サイトの巡回で偶然見つけたその動画。

観客の一人がビデオカメラで撮影しているその動画は、再生数も少なく、画質も音質もいいものとは言えなかった。

だけど、なんでこうも画面から目が離せないのだろう。

ただの、文化祭のライブ動画なのはずなのに、なぜこうも胸が熱くなるのだろうか。

過ぎ去った過去の記憶が蘇る。あの夏の日、そして流した汗。

      • 会ってみたい。

どうして、どうしてそんなに楽しそうなのか、どうしてそんなに笑っているのか。

その答えを知るために。

719 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 19:45:27.68 ID:wmuQ6zw0
「ああ、やっちまった」

すっかり薄くなった財布を片手に、一人駅の構内でボヤく。

残金現在50000円。帰りのことも考えたら、使えてあと40000ぐらいか。

しかもそれは通帳の中の話。財布の中身は現在1500円ときた。

さて、あまりぼやぼやしている余裕もなさそうだし、とりあえず行動に移るとしよう。

地図を片手に、だらだらと見知らぬ街を一人歩く。

ああ、平日のど真ん中に自分は何をやっているのだろう。大学生活に疲れたからといって、まさか逃避行をするハメになるとは。

しかしまあ、存外悪いものではないのかもしれない。商店街のコロッケおいしいし。

720 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 19:51:09.45 ID:wmuQ6zw0
サクサクとコロッケをかじりながら、夕焼けの商店街を歩く。

目指す学校は明日行くとして、今日はこのあたりで適当に夜になるまで時間を潰すことにしよう。

そうして、目的もないまま本屋に入ったり、スポーツ店に入ったりして、自由気ままな時間を過ごす。

「ん? あれは・・・」

俺の目に留まったのは、楽器屋だった。外装も小綺麗で、なかなかにとっつきやすい。

「久しぶりに・・・みていくかね」

実に数年ぶり。高校時代からずっと遠ざかっていた楽器屋に、オレは久しぶりに足を踏み入れた。

721 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 19:59:03.37 ID:wmuQ6zw0
そして、見た。

「・・・あ」

画面の中にいた、体に不釣り合いなレスポールをかきならす少女を。

「・・・見つけた」

彼女はなにやらピックコーナーで友達と話し込んでいる。どうやらどのピックを買うか悩んでいるらしい。

「ねぇあずにゃん。このピックかわいくない? リラックマだよ~」

「かわいいですけど・・・ちょっと厚くて硬すぎないですか? あ、でもこの黄色いのと白いのは柔らかいですね」

「二人で買おうよ~。ほら、おそろだよ、おそろ」

      • 女学生の楽しげな会話を、棚の向こう側から聞いているというのを他人に悟られたら、きっとオレは生きていけないだろう。

大丈夫、大丈夫だ。オレは弦を見ているだけなんだ。弦はやっぱりエリクサーだよね! とか誰かいってたよねあはは。

      • そういえば、オレはどうやって彼女から話を聞くつもりなのだろうか。

きっちりとした計画もたてずにここまでやってきたツケがここになってまわってこようとは。

722 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:06:12.91 ID:wmuQ6zw0
考えろ。考えるんだオレ。ここまでやってきて何もできないなんて、悲しすぎやしないか。

焦燥に駆られて、店内を見渡す。

      • あった。唯一の手がかりと、自分が不自然なことなく彼女に近づける手段が。

急いでギターコーナーへ向かう。そして近くにいた店員に声をかけた。

「すいません、IbanezのRGを弾いてみたいんですけど」

「はい、こちらでよろしいですね。しばらくお待ちください」

店員が壁からギターを下ろし、チューニングを始める。その間も、オレはずっと彼女の動向を伺っていた。

まだいる。まだ間に合う。

店員がチューニングを終え、オレにギターを渡した。急いでピックを手にして深呼吸。

音割れが酷かったから、ちゃんとコピーできているか不安だが・・・

ボリュームを少しひねり、若干音を大きくする。よし、良好良好。

そして、オレは彼女たちの曲を弾き始めた。

723 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:11:46.39 ID:wmuQ6zw0
曲名はなんだったか。ふわふわタイム・・・? 大の大人が弾く曲じゃないなこりゃ。

などと思いながら、意識はしっかりとギターに向ける。

あ、カッティングミスった。

正に悪戦苦闘。くそ、自分のギターと同じなのに、すこしセッティングが違うだけでこうまでとは。

四苦八苦しながら、なんとか弾き終える。・・・あれ、なんでオレこんなに必死だったんだっけ?

と、本来の目的を見失っていたときに、後ろから二つの拍手の音が聞こえた。

後ろを振り向くと、先ほどの二人がオレに向かって手をパチパチと叩いていた。

「すご~い。完璧だったよあずにゃん!」

「そうですね先輩! 私たちの曲を他人が弾いてるって何か新鮮です」

      • ああ、なんとか第一段階成功したわけね。

724 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:16:51.83 ID:wmuQ6zw0
「あの、あの、もしかして私たちのファンですか!?」

茶髪の方の、オレの目的である少女が興奮冷めやらぬ、といった感じでオレに顔を寄せてくる。

近い近い。鼻息かかるっつーの。

「あ、ああまあ。なんかちょっと動画見てさ、気になったからコピーしたんだけど・・・」

「動画ですか? 私たちの?」

「うん。なんか動画サイトに上がっててそれを見たってわけ」

それが原因でここまで会いに来た、とは言うまい。

「・・・それって盗撮とかそういう類のモノじゃ・・・」

「違うよあずにゃん! 私たちの純粋なファンの人たちが投稿してくれたんだよ!」

ごく普通の判断で回答するツインテールの少女を、なぜか全力で否定する意中のあの子。

      • さて、これからどうするべか。

      • 強攻策、行っちゃう?

726 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:24:15.02 ID:wmuQ6zw0
「ねえねえ、もしよかったらさ」

二人がこちらを向く。つーか、この切り出しってなんかナンパみたいじゃね? 大丈夫これ?

「オレにさ、ギター教えてくれない?」

言った。言ったよオレ。ちょっと今沈黙が走ってて居心地がすごく悪いけど言ったよオレ。

「あの・・・もしかしてナンパとかそういうのですか?」

ツインテールの子がなにやら若干引き気味な表情でオレに尋ねる。

「いや、違う。断じて違う。全然違う」

「そこまで否定されると逆に怪しいんですけど・・・」

「ポポ、嘘つかない」

「誰ですかポポって・・・」

「い、一緒にやりましょう!」

      • あ、釣れたんだねこれ。

727 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:30:25.48 ID:wmuQ6zw0
あらすじ!

大学からの逃避行にでたオレは動画の少女に巡り会う!

そこで勇気を振り絞って「ギターを教えてくれ」と頼んだオレ!

引くツインテール! 流れる沈黙! しかし少女は快く快諾してくれた!

その場でSGを買うオレ! これから一対一の楽しい夜のギターレッスンが始まるぜ!

あらすじ終了!


      • なのに、

「いただきま~す」

なんだこれ。

「あの、これは一体・・・」

「あ、遠慮しないでいいですよ。男の人が来るって言うから、いっぱい作ってありますから」

そういってほほえむのはエプロン姿が似合う彼女の妹さん。名前は憂ちゃんというらしい。

「いや、いやいや。親御さんとかが見たらなにか勘違いされるんじゃ」

「二人とも海外旅行であと一週間は帰ってこないから大丈夫ですよ」

「そうだよ! せっかく憂が料理を作ってくれたんだから食べないと!」

そういって少女・・・唯はすごい勢いで箸を動かしていた。

      • 何か違うけど、まあいいか。

「それじゃあ・・・いただきます」

「どうぞ。召し上がれ」

その日の晩飯は涙がでるほど旨かった。

728 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:35:40.16 ID:wmuQ6zw0
晩飯をごちそうになった後、リビングでギターを構えていると、唯がとことことこちらにやってきた。

「私の部屋にきなよ~。アンプもそっちにあるし~」

と言って二階にさっさと上がってしまう。

「あの~、憂ちゃん・・・」

「あ、お姉ちゃんの部屋はネームプレートが下げてあるからすぐにわかりますよ」

「あ、ごめんねなんか。こんなに厚かましくて」

「あはは、いいんですよ。お姉ちゃんも何か楽しそうですし。・・・あ、でも、」

憂ちゃんは包丁を片手にゆっくりとこちらに向きなおると、

「・・・ね?」

とだけ言って、オレに満面の笑みを浮かべた。

「・・・ハイ、ケシテソノヨウナコトハ」

背中に恐ろしい量の汗がにじみ出た。急いでギターを担いで二階へと逃げたのは言うまでもあるまい。

729 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:43:02.53 ID:wmuQ6zw0
「なんだよアレ・・・完全に狂気の沙汰じゃねえかよ・・・」

などとボヤいている内に、唯ちゃんの部屋の前までたどり着いた。

「唯ちゃん。入るよ」

軽くノックしてから、ノブをひねる。

そこには、無心でギターを弾き続けている少女がいた。

こちらには目もくれず、ただ指板のみを見つめ、メジャースケールの運指練習をメトロにあわせて練習していた。

規則的な機械音に合わせて、指がなめらかに動いていく。

機械的な作業ではなく、その一音一音にも何かの感情が込められているかのよう。

その証拠に、彼女の表情はライブの時のそれだった。

ああ、この表情だ。この表情なのだ。

ただオレが追い求めていたもの。

オレが高校時代の、あの機械のように弾いていたあの時にはなかった輝き。

その輝きを、目の前の少女は持っていた。

だから、惹かれた。だから・・・
730 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:48:53.61 ID:wmuQ6zw0
「ええ!? もう帰っちゃうの!?」

翌日の朝、家の前でオレは唯ちゃんにそう告げた。

「ああ、もうすぐ試験なんだ。さすがにさぼるわけには行かないから、帰るよ。もうちょっとゆっくりしたかったけどね」

「そうなんだ・・・もうちょっとギター聞きたかったな」

「はは・・・お手柔らかに」

ちなみに夜はちゃんとネカフェに泊まりに行ったオレを誰かほめてほしい。

あのままいくと唯ちゃんがうちに泊まれ、なんて言い出しかねなかったし。

「また・・・来るかな?」

名残惜しげに、唯ちゃんがそう言う。

「・・・ああ、また来るよ。絶対」

また、来よう。この子の輝きを知った今でも、オレはそう思える。

「じゃあ、今度はうちに泊まってね!」

「いや、さすがにそれは・・・
 あ、唯ちゃん。そろそろ時間まずいんじゃないの?」

「あ、本当だ! じゃあ、また遊びに来てね!」

唯ちゃんは手を振りながら、走っていき、そして曲がり角に消えた。

「・・・ふぅ」

ああ、疲れた。・・・でも、楽しかった、かな。
731 :ぽんじゅーす ◆v88/Arvq1E :2009/12/23(水) 20:53:22.45 ID:wmuQ6zw0
寒空の下、ゆっくりと駅に向かって歩き出す。

      • 家に帰ったら、ギター練習するかな。

前よりも、少しだけ、ギターに向けての愛情を持つことにしよう。

何かを失いかけたら、きっと彼女のあの表情がオレを支えてくれるはずだ。


太陽のように光輝く、ただギターのみに向けられた、何よりも純粋なあの表情に・・・


「ギー太・・・か」

思わず苦笑してしまう。このネーミングセンスも彼女らしいっちゃあ彼女らしいが。

背中の重みが、何かを訴えかけているような気がした。はいはい、わかったよ。


「よろしくな。ギー太二世」


おわり。