511 :◆fI6aWHcn1Y [sage]:2010/07/01(木) 22:33:05.77 ID:6kKjaVA0
「じゃぁ今日も行ってくるからね、お姉ちゃん。」

写真の中のお姉ちゃんはあの頃と変わらないまま微笑んでいてくれる。
お姉ちゃんが亡くなってから明日でちょうど3年。
時間は私を大人へと成長させたが、心の傷までは治すことはなく、
あの日から私の心はポッカリ穴があいたままだ。
512 :◆fI6aWHcn1Y [sage]:2010/07/01(木) 22:36:21.66 ID:6kKjaVA0
お姉ちゃんが事故にあったのは、ちょうど今日みたいな梅雨の蒸し暑い日だった。
その日私が夕飯の買い物から帰る途中、いつもの交差点には人だかりが出来ていた。

「何やってんだ!早く救急車呼べ救急車!」

「バカヤロー救急車と警察もだ警察。」

「ひき逃げだってよ~、ありゃぁもうダメだ。」

「若いのに無念だろうな~、女子高生だよ。」
513 :◆fI6aWHcn1Y [sage]:2010/07/01(木) 22:38:57.20 ID:6kKjaVA0
会話を聞いていると先ほど起こったであろう交通事故に野次馬が集まっているだけだったが、
何でかわからないけど好奇心からその輪の中心を覗いてしまった。
後悔先に立たずとはよく言ったもので、胃からこみ上げてくるものを我慢する事で私は必死になる。
輪の中心には、血溜まりの中に女の子が倒れていて、
体は自分の意識とは関係なく跳ねるように動いていた。
顔はグシャグシャになっていて判別が出来ず、多分脳ミソと思われる物体が頭からはみでていて、
足も人間では曲がるはずのない方向に向いていた。

ここにいる誰もがこの女の子が助かるなんて思っていないだろう。
辛うじてその人が女の子とわかったのは桜高の制服を着ていたからだ。
514 : ◆fI6aWHcn1Y [sage]:2010/07/01(木) 22:42:46.49 ID:6kKjaVA0
私はその時、この女の子がお姉ちゃんだって微塵も思わなかったし、
可哀想だなとは感じても、トラウマになりそうなこの光景を一刻も早く忘れたいと思うくらいで、
逃げるようにその場を抜け出して家に帰り夕飯の準備を始めた。
さすがに夕飯のために調理をするお肉を見た時はためらってしまったが、
お肉がない事を知ったらお姉ちゃんが絶望するのは目に見えていたので、
何とか我慢して調理を進める。
いつも通り夕飯が出来上がったが、いつもと違う事が1つだけ。
お姉ちゃんがまだ帰ってこない。時計は19時を指していた。

「今日は遅いなぁお姉ちゃん。連絡くらいくれても良いのに。」

お姉ちゃんにメールを送信しようと思ったその瞬間に着メロが鳴り響く。
携帯の表示はお母さんからで、お姉ちゃんの電話を期待していた私は少し残念だったことを覚えてる。
515 : ◆fI6aWHcn1Y [sage]:2010/07/01(木) 22:44:59.71 ID:6kKjaVA0
「もしもし、どうしたの?お母さん。」

「憂、今から山中先生が家に迎えに来てくださるから準備しててね。」

「えっ?なんで先生が迎えに来るの?意味わかんないよ。」

「落ち着いて聞いてね、憂。」

「唯がね、さっき事故にあったの。交差点でひき逃げにあって。」

お母さんはお姉ちゃんが病院にいるとしか言わなかったけど、
声は震えていて嗚咽を堪えているようだった。
そこから先は頭が真っ白になって、お母さんの言葉にただ「うん。」ばかり繰り返してたと思う。
516 : ◆fI6aWHcn1Y [sage]:2010/07/01(木) 22:59:17.65 ID:6kKjaVA0
夕方の光景が頭に浮かぶ。ぐちゃぐちゃの女の子。あの女の子がお姉ちゃんだったの?
数分もしない内にさわ子先生が来て、私を病院へと連れて行ってくれた。
先生は車の中で私を励ましてくれてたけど、励ましてくれてる先生の目も赤みを帯びていて、
目の周りの化粧は剥げている。
病院に着くとそこには警察の人たちも居て、さわ子先生は何か話しこんでいるようで、
その間に私はお医者さんと看護婦さんに連れられて病院の一室に通された。
ベッドの上には白い布で顔を覆われたお姉ちゃんが横たわっていた。

「悲しいことかもしれませんが、気を確かに持って聞いてください。
私達も手を尽くしましたがあなたのお姉さんは・・・・。」

「お姉ちゃん、死んじゃったんだね・・・・。」

私が漏らした言葉を聞いてか、看護婦達は口を手で覆うものもいれば私を励ます人もいた。
予感が現実となっても私は不思議と涙が出てこなかった。今考えればただお姉ちゃんが死んだことを認めたくなかったのかもしれない。

 *未完*

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最終更新:2010年07月09日 17:11