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「月夜の森での出会いと別れ」(2009/04/27 (月) 20:58:41) の最新版変更点
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*月夜の森での出会いと別れ ◆321goTfE72
がさっ…がさっ…がさっ……
深夜の森に木の葉を踏み分け足音が鳴り響く。
足跡の主はやけにゴテゴテしたものがついている巨大なカブトムシだった。
その腕?の中には一人の女性を抱えている。
そのカブトムシことゼクトールはとりあえず北へと歩を進めていた。
彼が追っているアプトムなら参加者を吸収しより力を得るため
人が集まりやすそうな北の施設のどこかを目指すと考えたのだ。
もっとも、この島にいるアプトムは"彼が追っている"アプトムよりも
過去のアプトムなため、現時点では実はそれほど脅威的ではない。
ちなみに北を目指しているのはアプトムを追っているというだけの理由ではない。
今の形態の彼がもし他の参加者に遭遇したならば"化物"とみなされ
相手の危機感を煽る結果になるかもしれない。
さて、ゾアノイドは変身すると肉体の大きさは人間時と比べて格段に大きくなる。
よって、衣服は使い物にならなくなる。
それはハイパーゾアノイドであろうとロストナンバーズであろうと変わらない。
つまりギュオーと戦うために変身した彼は今、元に戻ると裸なのである。
年頃の女性をお姫様抱っこする素っ裸のいかついおっさんを想像して欲しい。
(………)
遭遇者はゼクトールに"変態"の烙印を押し別の意味で警戒するだろう。
これは"化物"とされるよりもタチが悪い。
参加者に聞き込みをすることぐらいしか
アプトムを捜す手段を持たない彼はそれは避けたかった。
いや、まだ遭遇者に変態扱いされるだけならいいかもしれない。
腕の中で眠る女性がふと目を覚め、変質者を撃退すべくガイバーに殖装し
襲い掛かってきて殺されたりでもしたら笑うに笑えない。
確実に成仏できずに自縛霊と化し、自分自身を呪うだろう。
不幸にも支給品の中に服の代わりになるようなものがなかったため変身した姿のまま、
服を調達できるであろうデパートあたりを目指していたのだった。
デパートならば相変わらず気絶しているガイバーことノーヴェの
気付け薬ぐらいは見つかるだろう。
もっとも、疲労による気絶のようなのでデパートに着くまでには目覚めるだろうが。
彼女が目を覚ましたら、ゼクトールは自身とアプトムやギュオーの関係と
ガイバーのことを説明するつもりでいた。
その上で、アプトムを倒すという目的に対して協力を要請する。
(クロノスについては…まぁいいだろう。
どうせ、この島にいる者でクロノスに属しているのは俺だけだ)
その彼ですらもはやクロノスの利益とは関係なく、私怨で戦っているのだ。
組織のことなどは置いといて感情のままに説明したほうが協力してくれそうな気がする。
彼がそんなことを考えているときだった。
「何だーあいつは?」
変態候補生を変態が見つけたのは。
◆
「そこの怪物、ちょ~っといいかい?」
後方から、ゼクトールに声をかける人影があった。低い男の声である。
反射的に後方を振り返ろうとしたが、
「おおっと、動くな。動くとミサイルぶっ放すぞ~。
貴様はどうか知らんが腕の中の女はただではすまんようなものだ」
ハッタリの可能性もあったがこう言われては動くことは出来なかった。
今、彼女を失いかねない行動は避けたい。
「質問に答えてくれれば何もしない」
「……言ってみろ」
「水野灌太――砂ぼうずと呼ばれている奴を見かけなかったか。
髪はぼさぼさで目つきが悪くてボイン好きな外道少年だ」
「知らんな。この女も殺し合いの開始直後から一緒にいるから、知らないはずだ」
しばしの沈黙。木々が風に揺れ、葉の隙間から月明かりが一瞬だけゼクトールの装甲に差した。
「嘘は言ってなさそうだな。邪魔したな…後ろを振り向かずにまっすぐ歩いて行け」
「いいだろう。だが、その前に俺の質問にも答えてもらおう。
アプトムという男に会わなかったか?」
「名前は知らんが、ケツの青いガキになら会った」
「ガキ…違うな」
元々それほど期待してなかったのか、落胆した様子は両者共に声からは感じ取れない。
「お互い捜し人が見つかることを期待している。じゃあな」
ゼクトールはそう言って男の指示通り前へと歩き出す。
その姿を注意深く見ていた男が再び口を開いた。
「砂ぼうずに会ったら、姑息な手段で寝首をかかれないように気をつけるんだな。
それと、奴は俺の獲物だ。手を出すな」
「覚えておく。礼代わりだ、アプトムに気をつけろ。奴は強い。
あと、奴は俺が仕留める。手を出すな」
「覚えとくぜ~」
何事もなかったかのように、ゼクトールはそのまま前へと進んでいった。
ゼクトールが木々に隠れて見えなくなると同時に、男も森の中へと消えていった。
こうして、奇妙な情報交換は短時間で幕を閉じたのである。
◆
わずかに月明かりが差し込むだけの木々の間を人影が動いている。
人影は紫がかった黒色の特殊な服を着ていて顔も無機質なマスクで覆われていた。
目の位置にはレンズが光り、抱えているデイパックの中から
レース付きの黒いスカートがはみ出ている。
そんな人影が低い声で
「フハハハハハハ~」
などと言いながらてくてくと歩いているのである。
目撃者がいたならば、『変態だ』と思う前にまず幻覚を疑うだろう。
この変態、雨蜘蛛はミサイルなどもちろん持っていない。
持っているのは会場の制限下ですらゼクトールにまともなダメージを
与えられるかどうか分からない銃のみである。
もっとも、もしミサイルを持っていたとしても
ゼクトールに攻撃を仕掛けることはなかっただろう。
(暗黒時代の産物…ではなさそうだったが……知らない薮はつつかない方がよさそうだな)
彼は変態ではあるが実力未知数の敵相手に無闇に戦いを仕掛けるような馬鹿ではない。
邪魔な参加者は殺すつもりでいたが、実力の知れない者がいるというのなら話は別だ。
捜し人に会う前に怪我したり殺されたりでもしたら洒落にならない。
水野灌太以外とは、簡単に支給品を奪い取れるような相手――シンジのような――しか
襲うつもりなくなっていた。
では、もしゼクトールが襲ってきたらどうしていたか?
『このまま貴様の相手をしても構わんが、残念ながら三時のおやつの時間だ~!』
とか言って木々を盾にして逃げていただろう。
(このサバイバル、一筋縄ではいかなさそうだが…
砂ぼうずを仕留めるのは俺だ。他の奴には渡さん!)
宿敵を捜すため、変態は再び走り始めた。
【F-07/森/一日目・未明】
【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】胸に軽い切り傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱
不明支給品×1、支給品一式×2
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:水野灌太と決着をつけたい。
【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
◆
「気がついたみたいだな」
はっきりしない意識のまま目を開けたノーヴェが最初に理解したのはその言葉だった。
彼女の視界に映るのは森の木々と、その奥から覗く星々の瞬き、そして巨大なカブトムシ。
一定のペースで上下するリズムが身体を揺らす。
このカブトムシのような生物に抱えられている、というところまでは察したようだ。
「くそっ、あたしは一体…」
まだはっきりしない頭を覚醒させるために
ノーヴェはこめかみを押さえながら上体を起こした。
「覚えているか?お前はギュオーにメガスマッシャーを放ち、気絶した」
「え………あ!」
どうやら、思い出したことで眠気が吹っ飛んだらしい。
鋭く光る黄色い目で慌てて周囲を見渡し始めた。
「アイツは!?」
「安心しろ、お前の攻撃のおかげで撃退できた。
あの攻撃をまともにくらってはさすがに生きてはいまい」
「そうか…あ、もう大丈夫だ。降ろしてくれ」
ゼクトールの腕から離れ、とん、と地面に足をつけた。
ノーヴェはゼクトールの顔を見ながら彼の横を歩く。
「なんだったんだ、アイツは?」
アイツとは、もちろんギュオーのことである。
いきなり殺されかけたノーヴェとしては
とりあえずギュオーに関する質問をゼクトールへ投げかけた。
「人間を素体にした獣化兵(ゾアノイド)…それを統べる存在だ。
今は裏切り者でしかないが、元々は俺の上司にあたる」
「人間を素体にした…か。統べる存在が上司だった…ってことは
アンタがそのゾアノイドってやつなのか?」
「細かく言えば違うが、お前からすれば似たようなものだな。
そう思ってもらって構わん」
「そっか。じゃあ、あたしら似た者同士かもな。
あたしも戦闘機人っていって、人間の遺伝子を元に戦いのために作られたんだ」
ゼクトールから視線をはずし、あさっての方向を見ながらノーヴェが言った。
驚いたような様子でゼクトールがノーヴェの顔を見たが、
厳しい顔をしているだけで悲観的な様子はない。
「なんだよその顔は。似てるなって思っただけで深い意味はねぇよ。
好きでなったんじゃないけど、そこそこ気に入ってるしな。
で、ついでに聞くけどあのガイバーってのは何なんだ?それも説明してくれんだろ?」
「重要機密だったからな。正直、俺もあまり詳しくは知らん。元々は宇宙人の装備で
装着した人間の戦闘力が飛躍的に増大するということぐらいしかな」
「ふーん…別に使ってもデメリットはないんだろ?
なら棚ボタだな、いざって時は使わしてもらおう」
ものすごい力を手にしたというのに、このあっさり味な反応。
この女、大物かもしれない…などとゼクトールは思った。
だがそんなことで呆けている余裕はない。ゼクトールに残された時間は限られているのだ。
「……お前に、頼みがある」
少し間を空け、歩みは止めずに彼は切り出した。
「俺はアプトムという男を捜している。俺の仲間を三人殺した男だ。
お前にもアプトム捜しを手伝って欲しい」
「……そいつを見つけてどうするんだ?」
きつい目でゼクトールの瞳を見つめ、ノーヴェが聞いた。
「殺す。これ以上、奴を野放しに出来ん」
断固たる口調で即答。ゼクトールの決意の固さが伺える。
その固い意志の宿る瞳から目を離さず、ノーヴェが口を開いた。
「アンタは命の恩人だ」
一度目を瞑り深く空気を吸い込んで、目を開くと同時に吐き、話を続ける。
「あたしは人が死んだりするのはあんまり好きじゃない。
ムカつく奴が出てきても、気が済むまでぶん殴ればいいだろって思う」
そこまで言って、ゼクトール目掛けて右の拳を突き出した。
その拳はゼクトールの顔面に向かって伸びるが、
ノーヴェの右腕が伸び切ったことにより彼に当たることなく空中で静止。
ゼクトールは回避することなくノーヴェを見ていた。
「だから、あたしがそのアプトムって奴を見極めてやる。
そいつがギュオーみたいな死ななきゃいけないほどの悪党じゃなかったら、
ぶっ潰してでもアンタを止めてやるからな!」
「それで構わん」
彼女が殖装し、本気で止めにかかったら本当にぶっ潰されるかもしれない。
だがそれでもゼクトールは彼女に対しての嫌悪は沸かなかった。
「分かった、ならとりあえず捜すのは手伝ってやる。
だけど、それが終わった後でいい。
あたしは主催者を蹴っ飛ばしに行く!アンタも付き合え!!」
溢れる闘争本能を黄色の瞳の中に燃え滾らせ、首輪から漂う死の危険に臆することなく
ノーヴェは言い放った。
おそらく、蹴っ飛ばしに行くなんていっても具体的な方策はないのだろうが……
この女、大物になる――そんなことを確信しながらゼクトールは彼女の頼みに対し頷いた。
「よし、捜すのを手伝えってことはバラけて捜せってことだろ?
集合する時間と場所を決めとこうぜ」
「そうだな、とりあえず…」
ゼクトールは大きな手を器用に操り、デイパックの中から時計と地図を取り出した。
「今から…六時間後。九時に…島の中央に位置する神社に集合にする。
そこが何かしらの事情で駄目ならそのすぐ北にある廃屋。
そこも駄目なら近くにある山小屋に集合だ」
言い終わると同時に、ゼクトールはデイパックをノーヴェへと放り投げた。
「どうしたんだ?」
しっかりと受け止めながら怪訝そうにノーヴェが尋ねた。
「お前のデイパックは破壊されてしまったからな。
俺の荷物も入っているが、時計と地図以外はお前に預けておく」
はぁ!?と言いたげにノーヴェは顔を歪めゼクトールに食って掛かる。
「ちょっと待てよ!預けておく、じゃないだろ!
支給品なしで行く気かよ!?」
「俺は自身の戦い方はよく分かっているが、自分の意思でガイバーになれるようになったとはいえ
ガイバーになったばかりのお前はまだガイバーとしての戦い方が分かっていないだろう。
食料なども入っているし、俺が持っているよりは役に立つはずだ」
「だからってな…」
不安そうな表情でノーヴェはゼクトールを見上げる。
なぜだか、『姉なら触れずに戦える!』と言いスバルの足止めを買って出たが
重傷を負って帰還したチンクと彼がダブって見えた。
そんな胸中を察したのかどうかは分からないが、
ノーヴェの頭にゼクトールの手が不器用ながらも優しく置かれた。
「たかだか六時間だ、お前に心配される程俺はヤワじゃない。
それにデイパックが手に入ればまた後で分ければいいだけだ」
「…分かった。後味悪い思いさせるんじゃねぇぞ!!」
ノーヴェはゼクトールの手から逃れるように身を低くし、
抱えていたデイパックを手で引っ掴み森の闇の中へと駆けて行った。
その姿が闇に溶けるのを見届け、再び歩き出そうとしたところで
今更ながらゼクトールは自身の行動に疑問を覚えた。
(なぜ、俺は荷物を渡してまであの女に肩入れしているんだ?)
それはなぜか。薄々勘付いている。
ゼクトールは既にノーヴェのことを仲間と見なしていた。
そして、彼は心の奥底で再び仲間を失うことを恐れているのだ。
(ゼクトール…ネオ・ゼクトールとなったが随分と丸くなったものだ)
自嘲的な溜息を吐き、ようやく歩を進めだしたところで、
ゼクトールはふとあることを思い出した。
「さっきの男が言っていた『砂ぼうずに気をつけろ』という忠告…言い忘れていたな。
……………あいつほどの強さなら大丈夫だろう」
この判断が吉と出るか凶と出るか、それはまだ誰にも分からない。
黒光りする装甲を照らす月も、まだ知らない。
【E-07 森/一日目・明け方】
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【持ち物】不明支給品(1~5)&支給品一式×2(時計と地図のみ1つ)
【思考】
1:アプトムに関する情報を集める。
2:九時に神社もしくは廃屋、山小屋でゼクトールと落ち合う。
3:仲間を集め主催者を蹴っ飛ばす。
【備考】
※未だに名簿すら見てません。
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です。
【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身に打撲 ミサイル消費(中) 疲労(小)
【持ち物】地図、時計
【思考】
1:アプトムを倒す。とりあえずの目的地はデパート付近。
2:九時に神社もしくは廃屋、山小屋でノーヴェと落ち合う。
3:1を達成後、ノーヴェに協力する。
【備考】
※名簿は一応見ています。
※服を探す際にノーヴェに渡した支給品の姿形は把握しています。
*時系列順で読む
Back:[[果タシテ、無知トハ罪ナリヤ?(後編)]] Next:[[静止した闇の中で]]
*投下順で読む
Back:[[果タシテ、無知トハ罪ナリヤ?(後編)]] Next:[[静止した闇の中で]]
|[[殖装、ガイバーⅨ!]]|ノーヴェ|[[復讐の狼煙を上げろ]]|
|~|ネオ・ゼクトール|~|
|[[少年少女と、変態]]|雨蜘蛛|[[犯罪! 拉致監禁○辱摩訶不思議ADV!]]|
【PR】[[出会い>http://todeai.net/]]
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*月夜の森での出会いと別れ ◆321goTfE72
がさっ…がさっ…がさっ……
深夜の森に木の葉を踏み分け足音が鳴り響く。
足跡の主はやけにゴテゴテしたものがついている巨大なカブトムシだった。
その腕?の中には一人の女性を抱えている。
そのカブトムシことゼクトールはとりあえず北へと歩を進めていた。
彼が追っているアプトムなら参加者を吸収しより力を得るため
人が集まりやすそうな北の施設のどこかを目指すと考えたのだ。
もっとも、この島にいるアプトムは"彼が追っている"アプトムよりも
過去のアプトムなため、現時点では実はそれほど脅威的ではない。
ちなみに北を目指しているのはアプトムを追っているというだけの理由ではない。
今の形態の彼がもし他の参加者に遭遇したならば"化物"とみなされ
相手の危機感を煽る結果になるかもしれない。
さて、ゾアノイドは変身すると肉体の大きさは人間時と比べて格段に大きくなる。
よって、衣服は使い物にならなくなる。
それはハイパーゾアノイドであろうとロストナンバーズであろうと変わらない。
つまりギュオーと戦うために変身した彼は今、元に戻ると裸なのである。
年頃の女性をお姫様抱っこする素っ裸のいかついおっさんを想像して欲しい。
(………)
遭遇者はゼクトールに"変態"の烙印を押し別の意味で警戒するだろう。
これは"化物"とされるよりもタチが悪い。
参加者に聞き込みをすることぐらいしか
アプトムを捜す手段を持たない彼はそれは避けたかった。
いや、まだ遭遇者に変態扱いされるだけならいいかもしれない。
腕の中で眠る女性がふと目を覚め、変質者を撃退すべくガイバーに殖装し
襲い掛かってきて殺されたりでもしたら笑うに笑えない。
確実に成仏できずに自縛霊と化し、自分自身を呪うだろう。
不幸にも支給品の中に服の代わりになるようなものがなかったため変身した姿のまま、
服を調達できるであろうデパートあたりを目指していたのだった。
デパートならば相変わらず気絶しているガイバーことノーヴェの
気付け薬ぐらいは見つかるだろう。
もっとも、疲労による気絶のようなのでデパートに着くまでには目覚めるだろうが。
彼女が目を覚ましたら、ゼクトールは自身とアプトムやギュオーの関係と
ガイバーのことを説明するつもりでいた。
その上で、アプトムを倒すという目的に対して協力を要請する。
(クロノスについては…まぁいいだろう。
どうせ、この島にいる者でクロノスに属しているのは俺だけだ)
その彼ですらもはやクロノスの利益とは関係なく、私怨で戦っているのだ。
組織のことなどは置いといて感情のままに説明したほうが協力してくれそうな気がする。
彼がそんなことを考えているときだった。
「何だーあいつは?」
変態候補生を変態が見つけたのは。
◆
「そこの怪物、ちょ~っといいかい?」
後方から、ゼクトールに声をかける人影があった。低い男の声である。
反射的に後方を振り返ろうとしたが、
「おおっと、動くな。動くとミサイルぶっ放すぞ~。
貴様はどうか知らんが腕の中の女はただではすまんようなものだ」
ハッタリの可能性もあったがこう言われては動くことは出来なかった。
今、彼女を失いかねない行動は避けたい。
「質問に答えてくれれば何もしない」
「……言ってみろ」
「水野灌太――砂ぼうずと呼ばれている奴を見かけなかったか。
髪はぼさぼさで目つきが悪くてボイン好きな外道少年だ」
「知らんな。この女も殺し合いの開始直後から一緒にいるから、知らないはずだ」
しばしの沈黙。木々が風に揺れ、葉の隙間から月明かりが一瞬だけゼクトールの装甲に差した。
「嘘は言ってなさそうだな。邪魔したな…後ろを振り向かずにまっすぐ歩いて行け」
「いいだろう。だが、その前に俺の質問にも答えてもらおう。
アプトムという男に会わなかったか?」
「名前は知らんが、ケツの青いガキになら会った」
「ガキ…違うな」
元々それほど期待してなかったのか、落胆した様子は両者共に声からは感じ取れない。
「お互い捜し人が見つかることを期待している。じゃあな」
ゼクトールはそう言って男の指示通り前へと歩き出す。
その姿を注意深く見ていた男が再び口を開いた。
「砂ぼうずに会ったら、姑息な手段で寝首をかかれないように気をつけるんだな。
それと、奴は俺の獲物だ。手を出すな」
「覚えておく。礼代わりだ、アプトムに気をつけろ。奴は強い。
あと、奴は俺が仕留める。手を出すな」
「覚えとくぜ~」
何事もなかったかのように、ゼクトールはそのまま前へと進んでいった。
ゼクトールが木々に隠れて見えなくなると同時に、男も森の中へと消えていった。
こうして、奇妙な情報交換は短時間で幕を閉じたのである。
◆
わずかに月明かりが差し込むだけの木々の間を人影が動いている。
人影は紫がかった黒色の特殊な服を着ていて顔も無機質なマスクで覆われていた。
目の位置にはレンズが光り、抱えているデイパックの中から
レース付きの黒いスカートがはみ出ている。
そんな人影が低い声で
「フハハハハハハ~」
などと言いながらてくてくと歩いているのである。
目撃者がいたならば、『変態だ』と思う前にまず幻覚を疑うだろう。
この変態、雨蜘蛛はミサイルなどもちろん持っていない。
持っているのは会場の制限下ですらゼクトールにまともなダメージを
与えられるかどうか分からない銃のみである。
もっとも、もしミサイルを持っていたとしても
ゼクトールに攻撃を仕掛けることはなかっただろう。
(暗黒時代の産物…ではなさそうだったが……知らない薮はつつかない方がよさそうだな)
彼は変態ではあるが実力未知数の敵相手に無闇に戦いを仕掛けるような馬鹿ではない。
邪魔な参加者は殺すつもりでいたが、実力の知れない者がいるというのなら話は別だ。
捜し人に会う前に怪我したり殺されたりでもしたら洒落にならない。
水野灌太以外とは、簡単に支給品を奪い取れるような相手――シンジのような――しか
襲うつもりなくなっていた。
では、もしゼクトールが襲ってきたらどうしていたか?
『このまま貴様の相手をしても構わんが、残念ながら三時のおやつの時間だ~!』
とか言って木々を盾にして逃げていただろう。
(このサバイバル、一筋縄ではいかなさそうだが…
砂ぼうずを仕留めるのは俺だ。他の奴には渡さん!)
宿敵を捜すため、変態は再び走り始めた。
【F-07/森/一日目・未明】
【名前】雨蜘蛛@砂ぼうず
【状態】胸に軽い切り傷
【持ち物】S&W M10 ミリタリーポリス@現実、メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱
不明支給品×1、支給品一式×2
【思考】
1:生き残る為には手段を選ばない。邪魔な参加者は必要に応じて殺す。
2:水野灌太と決着をつけたい。
【備考】
※第二十話「裏と、便」終了後に参戦。(まだ水野灌太が爆発に巻き込まれていない時期)
※雨蜘蛛が着ている砂漠スーツはあくまでも衣装としてです。
索敵機能などは制限されています。詳しい事は次の書き手さんにお任せします。
◆
「気がついたみたいだな」
はっきりしない意識のまま目を開けたノーヴェが最初に理解したのはその言葉だった。
彼女の視界に映るのは森の木々と、その奥から覗く星々の瞬き、そして巨大なカブトムシ。
一定のペースで上下するリズムが身体を揺らす。
このカブトムシのような生物に抱えられている、というところまでは察したようだ。
「くそっ、あたしは一体…」
まだはっきりしない頭を覚醒させるために
ノーヴェはこめかみを押さえながら上体を起こした。
「覚えているか?お前はギュオーにメガスマッシャーを放ち、気絶した」
「え………あ!」
どうやら、思い出したことで眠気が吹っ飛んだらしい。
鋭く光る黄色い目で慌てて周囲を見渡し始めた。
「アイツは!?」
「安心しろ、お前の攻撃のおかげで撃退できた。
あの攻撃をまともにくらってはさすがに生きてはいまい」
「そうか…あ、もう大丈夫だ。降ろしてくれ」
ゼクトールの腕から離れ、とん、と地面に足をつけた。
ノーヴェはゼクトールの顔を見ながら彼の横を歩く。
「なんだったんだ、アイツは?」
アイツとは、もちろんギュオーのことである。
いきなり殺されかけたノーヴェとしては
とりあえずギュオーに関する質問をゼクトールへ投げかけた。
「人間を素体にした獣化兵(ゾアノイド)…それを統べる存在だ。
今は裏切り者でしかないが、元々は俺の上司にあたる」
「人間を素体にした…か。統べる存在が上司だった…ってことは
アンタがそのゾアノイドってやつなのか?」
「細かく言えば違うが、お前からすれば似たようなものだな。
そう思ってもらって構わん」
「そっか。じゃあ、あたしら似た者同士かもな。
あたしも戦闘機人っていって、人間の遺伝子を元に戦いのために作られたんだ」
ゼクトールから視線をはずし、あさっての方向を見ながらノーヴェが言った。
驚いたような様子でゼクトールがノーヴェの顔を見たが、
厳しい顔をしているだけで悲観的な様子はない。
「なんだよその顔は。似てるなって思っただけで深い意味はねぇよ。
好きでなったんじゃないけど、そこそこ気に入ってるしな。
で、ついでに聞くけどあのガイバーってのは何なんだ?それも説明してくれんだろ?」
「重要機密だったからな。正直、俺もあまり詳しくは知らん。元々は宇宙人の装備で
装着した人間の戦闘力が飛躍的に増大するということぐらいしかな」
「ふーん…別に使ってもデメリットはないんだろ?
なら棚ボタだな、いざって時は使わしてもらおう」
ものすごい力を手にしたというのに、このあっさり味な反応。
この女、大物かもしれない…などとゼクトールは思った。
だがそんなことで呆けている余裕はない。ゼクトールに残された時間は限られているのだ。
「……お前に、頼みがある」
少し間を空け、歩みは止めずに彼は切り出した。
「俺はアプトムという男を捜している。俺の仲間を三人殺した男だ。
お前にもアプトム捜しを手伝って欲しい」
「……そいつを見つけてどうするんだ?」
きつい目でゼクトールの瞳を見つめ、ノーヴェが聞いた。
「殺す。これ以上、奴を野放しに出来ん」
断固たる口調で即答。ゼクトールの決意の固さが伺える。
その固い意志の宿る瞳から目を離さず、ノーヴェが口を開いた。
「アンタは命の恩人だ」
一度目を瞑り深く空気を吸い込んで、目を開くと同時に吐き、話を続ける。
「あたしは人が死んだりするのはあんまり好きじゃない。
ムカつく奴が出てきても、気が済むまでぶん殴ればいいだろって思う」
そこまで言って、ゼクトール目掛けて右の拳を突き出した。
その拳はゼクトールの顔面に向かって伸びるが、
ノーヴェの右腕が伸び切ったことにより彼に当たることなく空中で静止。
ゼクトールは回避することなくノーヴェを見ていた。
「だから、あたしがそのアプトムって奴を見極めてやる。
そいつがギュオーみたいな死ななきゃいけないほどの悪党じゃなかったら、
ぶっ潰してでもアンタを止めてやるからな!」
「それで構わん」
彼女が殖装し、本気で止めにかかったら本当にぶっ潰されるかもしれない。
だがそれでもゼクトールは彼女に対しての嫌悪は沸かなかった。
「分かった、ならとりあえず捜すのは手伝ってやる。
だけど、それが終わった後でいい。
あたしは主催者を蹴っ飛ばしに行く!アンタも付き合え!!」
溢れる闘争本能を黄色の瞳の中に燃え滾らせ、首輪から漂う死の危険に臆することなく
ノーヴェは言い放った。
おそらく、蹴っ飛ばしに行くなんていっても具体的な方策はないのだろうが……
この女、大物になる――そんなことを確信しながらゼクトールは彼女の頼みに対し頷いた。
「よし、捜すのを手伝えってことはバラけて捜せってことだろ?
集合する時間と場所を決めとこうぜ」
「そうだな、とりあえず…」
ゼクトールは大きな手を器用に操り、デイパックの中から時計と地図を取り出した。
「今から…六時間後。九時に…島の中央に位置する神社に集合にする。
そこが何かしらの事情で駄目ならそのすぐ北にある廃屋。
そこも駄目なら近くにある山小屋に集合だ」
言い終わると同時に、ゼクトールはデイパックをノーヴェへと放り投げた。
「どうしたんだ?」
しっかりと受け止めながら怪訝そうにノーヴェが尋ねた。
「お前のデイパックは破壊されてしまったからな。
俺の荷物も入っているが、時計と地図以外はお前に預けておく」
はぁ!?と言いたげにノーヴェは顔を歪めゼクトールに食って掛かる。
「ちょっと待てよ!預けておく、じゃないだろ!
支給品なしで行く気かよ!?」
「俺は自身の戦い方はよく分かっているが、自分の意思でガイバーになれるようになったとはいえ
ガイバーになったばかりのお前はまだガイバーとしての戦い方が分かっていないだろう。
食料なども入っているし、俺が持っているよりは役に立つはずだ」
「だからってな…」
不安そうな表情でノーヴェはゼクトールを見上げる。
なぜだか、『姉なら触れずに戦える!』と言いスバルの足止めを買って出たが
重傷を負って帰還したチンクと彼がダブって見えた。
そんな胸中を察したのかどうかは分からないが、
ノーヴェの頭にゼクトールの手が不器用ながらも優しく置かれた。
「たかだか六時間だ、お前に心配される程俺はヤワじゃない。
それにデイパックが手に入ればまた後で分ければいいだけだ」
「…分かった。後味悪い思いさせるんじゃねぇぞ!!」
ノーヴェはゼクトールの手から逃れるように身を低くし、
抱えていたデイパックを手で引っ掴み森の闇の中へと駆けて行った。
その姿が闇に溶けるのを見届け、再び歩き出そうとしたところで
今更ながらゼクトールは自身の行動に疑問を覚えた。
(なぜ、俺は荷物を渡してまであの女に肩入れしているんだ?)
それはなぜか。薄々勘付いている。
ゼクトールは既にノーヴェのことを仲間と見なしていた。
そして、彼は心の奥底で再び仲間を失うことを恐れているのだ。
(ゼクトール…ネオ・ゼクトールとなったが随分と丸くなったものだ)
自嘲的な溜息を吐き、ようやく歩を進めだしたところで、
ゼクトールはふとあることを思い出した。
「さっきの男が言っていた『砂ぼうずに気をつけろ』という忠告…言い忘れていたな。
……………あいつほどの強さなら大丈夫だろう」
この判断が吉と出るか凶と出るか、それはまだ誰にも分からない。
黒光りする装甲を照らす月も、まだ知らない。
【E-07 森/一日目・明け方】
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【持ち物】不明支給品(1~5)&支給品一式×2(時計と地図のみ1つ)
【思考】
1:アプトムに関する情報を集める。
2:九時に神社もしくは廃屋、山小屋でゼクトールと落ち合う。
3:仲間を集め主催者を蹴っ飛ばす。
【備考】
※未だに名簿すら見てません。
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です。
【ネオ・ゼクトール@強殖装甲ガイバー】
【状態】全身に打撲 ミサイル消費(中) 疲労(小)
【持ち物】地図、時計
【思考】
1:アプトムを倒す。とりあえずの目的地はデパート付近。
2:九時に神社もしくは廃屋、山小屋でノーヴェと落ち合う。
3:1を達成後、ノーヴェに協力する。
【備考】
※名簿は一応見ています。
※服を探す際にノーヴェに渡した支給品の姿形は把握しています。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[殖装、ガイバーⅨ!]]|ノーヴェ|[[復讐の狼煙を上げろ]]|
|~|ネオ・ゼクトール|~|
|[[少年少女と、変態]]|雨蜘蛛|[[犯罪! 拉致監禁○辱摩訶不思議ADV!]]|
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