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「咆哮! 軍曹入魂大演説…の巻」(2008/11/14 (金) 17:09:36) の最新版変更点
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*咆哮! 軍曹入魂大演説…の巻 ◆NIKUcB1AGw
彼の名は、ケロロ軍曹。
ぬいぐるみのような一見ファンシーな外見とは裏腹に、地球侵略をもくろむ宇宙人である。
しかしこの侵略者は現在、非常に困惑していた。
殺し合いという異常事態に巻き込まれたうえに、突如目の前に現れたサツキと名乗る少女に「一緒に妹を捜してほしい」と頼まれてしまったからである。
どうやらサツキはケロロをトトロなる存在の仲間だと思っており、それ故彼を信用しているらしい。
しかしケロロの方には、あいにくトトロという名前に心当たりなどない。
(たしかガルル中尉の部隊に、そんな名前の隊員がいたような……。いや、あれはトロロでありましたか?
はっきりと思い出せないけど、どうも違う気がするでありますなあ……)
ケロロがそんなことを考えている間も、サツキはずっとケロロを見つめている。
その視線には、ケロロに対する期待と不安がない交ぜになっていた。
(まあ、トトロとやらが何者かは置いておくとして……。明らかに断りづらい雰囲気なのであります……)
元々優柔不断なところがあるケロロ軍曹である。
こうも健気に助けを求められては、断るに断れない。
「……いいでありましょう」
「え?」
「このケロロ軍曹、サツキ殿の妹さんの捜索に協力するであります!」
「あ……ありがとう、ケロロ!」
一瞬の放心状態の後、サツキの心に安堵と喜びが満ちる。彼女はそれを、ケロロに抱きつくという形で表現した。
「ぐえええええ!? ちょ、苦しいって、ねえ!」
年齢ではサツキの数百倍と推定されるケロロだが、身長・体重は彼女にはるかに劣る。
サツキの全力の抱き締めは、ケロロにとって十分すぎる脅威であった。
「あ、ごめん……。痛かった?」
「げぇっほ、げっほ! な、なんの! この程度、どうってことないのであります!」
手を離し、不安げな視線を送ってくるサツキに対し強がるケロロ。
しかし、派手にむせていては説得力などあったものではない。
「そう、よかった……」
むろん、サツキもそれで納得などしていない。だが、ケロロが自分を気遣って強がっているのは明白だ。
それを理解しているから、彼女はそれ以上のことは言わず、無理に笑顔を作る。
(はあ、どうにも調子が狂うでありますな……)
ケロロが今まで接してきたペコポン人の女性は、夏美や秋など何らかの意味で「普通じゃない」女性たちだった。
サツキのように、ごく普通の女性というのはほとんど接したことがない。
強いて言うなら桃華が近いだろうが、「裏人格」という強烈な個性を持つ桃華とサツキのイメージを近づけるのはやはり無理がある。
とどのつまり、サツキはケロロが今まで親しくしたことのないタイプのペコポン人である。
よって、どう接していいのやら手探りの状態なのだ。
(まあ、よく考えたら向こうに吾輩が合わせる義理もないのであります。今後のためにも、ここは吾輩のペースでいかないと……)
コホンと一つ咳払いをすると、ケロロは改めてサツキに語りかける。
「あー、サツキ殿。吾輩とサツキ殿はあくまで対等の同盟関係でありたい。
もちろん先程言ったとおり、サツキ殿の妹さんの捜索は協力するであります。
しかし、サツキ殿にも吾輩の友人と同胞の捜索に協力してもらうでありますよ?」
「うん、わかった。ケロロが私のために力を貸してくれるんだもの、私もケロロのために頑張る!」
表情を引き締め、サツキは力強くうなずく。
「いい返事でありますな。大変結構であります!」
「ありがとう。それで、ケロロの友達の名前はなんて言うの?」
「うむ、まずは我が親友、日向冬樹殿! それにタママ、ドロロ、ガルル! 以上であります!」
「4人も友達が連れてこられてるんだ……。大変だね、ケロロ……」
「なに、冬樹殿はともかく、吾輩を含めた4名は数々の修羅場を乗り越えてきたソルジャー! そう簡単に死ぬ連中ではないのであります!
っていうか、むしろ冬樹殿やばくない? オカルト好き以外いたって普通の中学生だよ、冬樹殿って……。
ゲロー!! なんか急に心配になって来たであります!」
「ケロロ、大丈夫? 心配なのはわかるけど、落ち着いて……」
自信満々の態度から突然パニックに陥るケロロを見て、サツキは心配そうに声をかける。
「ふー、失礼……。吾輩としたことが……。サツキ殿も妹さんが心配でありましょうに、吾輩だけ取り乱してしまって申し分けないであります」
「ううん、気にしなくていいよ」
「ところで、サツキ殿の妹さんの名前はなんでありましたか?」
「あれ、まだ言ってなかったっけ……? メイ、草壁メイよ」
「メイ殿でありますな? 吾輩の頭脳にしっかりと刻み込んだのであります!
それではサツキ殿、これよりメイ殿および吾輩の仲間たちの捜索作戦を開始するのであります!」
「うん!」
◇ ◇ ◇
岩の上に横に並んで座り、二人は本格的に作戦会議を始める。
「ねえ、ケロロ。まずはどこに行けばいいと思う?」
「まあまあ、サツキ殿。急いては事をし損じる、というペコポンのことわざもあるのであります。
行き先を決める前に、まずは自分たちの戦力を確認するべきでありますよ」
「戦力……?」
ケロロの言わんとしていることがわからず、サツキは首をかしげる。
「吾輩たちに配られた支給品であります。どんな武器が配られているかによって、今後の方針も変わってくるのであります」
「武器……」
日常生活ではまず使わない言葉を耳にし、サツキは自分たちが殺し合いの場に連れてこられていると言うことを改めて理解する。
そして、その殺し合いを進行している人物のことが脳裏をよぎり、彼女の表情が一気に暗くなる。
しかし、自分のデイパックの中をあさっていたケロロが顔を上げた時には、すでにサツキの顔つきは元に戻っていた。
だからケロロは彼女の心の内に気づかず、ごく普通に会話を続ける。
「吾輩の支給品はセーラー服と、このナイフでありますな。それと……」
ケロロは両腕に力を込め、「それ」を引っ張り出す。デイパックから出てきたのは、明らかに入れ物よりも大きな自転車だった。
「えっ!?」
「これはまた、ずいぶんとぼろっちい自転車であります。556に似合いそうでありますなあ」
驚くサツキをよそに、ケロロは動じることなく自転車の状態に不満を漏らしている。
「あ、あの……」
「ん? どうかしたでありますか、サツキ殿?」
「ケロロはびっくりしないの? そんなカバンから自転車が出てきたのに……」
「ああ、ペコポンの技術レベルでは、こういうのは不可能でありましたな。しかし、我々にとってこの程度は出来ないことではないのであります。
まあ詳しい仕組みは吾輩にもわからないのでありますが、おそらくデイパックにそれよりも大きな品物でも入るようにする仕組みが組み込まれているのでありましょう」
「うーん……」
ケロロの説明を受けたところで、サツキには結局理屈がよくわからない。
彼女は、眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。
「まあ、わからないのなら無理に理解する必要はないのであります。何でも入る不思議なカバンとでも思っておけば……」
「うん、わかった」
まだ納得がいっていない様子ながらも、サツキは素直にうなずく。
「では、今度はサツキ殿の支給品を見せてほしいのであります」
「うん、ちょっと待って」
細い腕を自分のデイパックにつっこみ、サツキは一つ目の支給品を取り出した。
「ほう、拡声器でありますか。これはなかなかの当たりでありますぞ」
「え? でも、こんなの何に使うの?」
「わかってないでありますなあ、サツキ殿。これを使えば、一度に広範囲へ我々の声を届けることが出来る。
つまり、人を捜すのに効率がいいのであります」
「あっ、そうか。でも……」
ケロロの言葉に納得しかけたサツキだが、その表情はすぐに曇る。
「それだと、怖い人たちにも私の居場所を教えることになっちゃうんじゃ……」
「もちろん、そのリスクも承知の上でのことであります。
でありますから、吾輩が拡声器で呼びかけている間、サツキ殿はどこかに隠れていてほしいであります。
そうすれば、たとえ危険人物に気づかれてもサツキ殿が生存する確率は高くなるはずであります」
「そんな! それじゃあケロロだけ危険な目に遭うじゃない!」
「なに、見ての通り吾輩の体はサツキ殿より小さい。見つかる可能性は低いのでありますよ」
「それでも……」
「ああもう、仕方ないでありますなあ」
なおも渋るサツキに対し、ケロロは岩から飛び降りてサツキの正面に立つ。
「ケロロ……?」
「いいでありますか、サツキ殿」
おもむろに話し始めたケロロに対し、サツキは身を乗り出して彼に顔を近づける。
その瞬間……
「え……」
ケロロの全力の手刀が、サツキの首筋を捉えた。何が起こったのかも理解できぬまま、サツキは意識を失った。
「ふう、上手くいってよかったよ……。すまないでありますな、サツキ殿」
気を失ったサツキに話しかけながら、ケロロは彼女の体を引きずっていく。
そして彼女の体を、少し離れた場所にあった草むらに放り込んだ。ここならパッと見、人がいるとはわからないはずだ。
「ふい~……」
労働でかいた額の汗を拭いながら、ケロロは思う。なぜ自分は、ここまでして彼女をかばうのかと。
相手はたった今出会った、何の役にも立たなさそうなペコポン人だ。
こんな苦労をしてまでかばう義理など、全くないというのに。
いや、すでに答えは出ている。理由は、彼女が妹を心の底から心配しているのを感じ取ってしまったからだ。
家族の絆。それはケロロに、自分が捕虜(という名の居候)として共に暮らしている一家のことを否応なしに思い出させていた。
(「姉」という共通点だけで、サツキ殿に夏美殿を重ね合わせてしまうとは……。どうかしているでありますなあ、吾輩。
だいたい夏美殿と重ね合わせたとして、なんで吾輩が夏美殿をかばわなきゃ……。
そりゃまあ、夏美殿が死んだら冬樹殿が悲しむでありましょうから、いざというときは守るかも知れないけど……。
いや、だけど現在命の危険にさらされているのは冬樹殿のほうであって、でもサツキ殿は姉で……。
そういや「NATSUMI」と「SATSUKI」って、微妙に発音似てね?……って、あーもう! 自分で考えててわけわかんなくなっちゃったよ!)
一人で勝手に暴走し、ハアハアと息を荒げるケロロ。しばらくして脳内と息が落ち着くと、彼は拡声器を持って先程自分たちが腰掛けていた岩の上に立った。
(それでは、始めるでありますか)
ケロロは拡声器のスイッチを入れ、それを自分の口元に当てた。
『あーあー、マイクテス。吾輩はガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長 ケロロ軍曹であります!
冬樹殿! もしこの声が聞こえていたら、聞こえてくる方向に向かってほしいであります! 吾輩はそこで待っているであります!
タママ二等! ドロロ兵長! 以上二名も、一刻も早く隊長の下に駆けつけるであります!
ガルル中尉殿! 貴殿の軍人としての力量を見込み、我が小隊への協力を要請させていただくであります!
貴殿にこの殺し合いに積極的に乗る意志がないのであれば、是非とも協力していただきたい!
それから、草壁メイちゃん! お姉さんのサツキ殿が君のことを心配しているであります!
今、サツキ殿は吾輩と一緒にいるであります! 放送が聞こえていたら、吾輩の所まで来てほしいのであります!
その他の皆様も、メイちゃんらしき女の子を見つけたら是非ご一報を! メイちゃんは……あ、やっべ、外見とか聞いてなかったよ……。
とにかく、小さい女の子のはずであります! それらしき子がいたら、ケロロ軍曹、ケロロ軍曹までご連絡を!
後は……そうでありますな。せっかくの機会だから、言っておくであります。
この悪趣味な催しの趣旨に従い、他者の命を奪おうとしている者たちに告ぐ!
その道を選ぶとは、あまりに愚かである! あえて言おう、カスであると!
おのれの命惜しさに他の命を狙う人間が、このバトル・ロワイアルを生き抜くことは出来ないと吾輩は断言する。
我々はこの殺し合いそのものを破壊して、初めて生き延びることが出来る。
参加者同士戦い続けても何の得にもならない。我々を集めたあの男女に一矢報いてやらねばならないのであります。
今こそ我々は明日の未来のためこの殺し合いを破綻させねばならないのであります!
ジーク・ケロン!』
◇ ◇ ◇
「ふう、なんだかテンションが上がって、言わなくていいことまで言ってしまったような気がするでありますなあ。
まるでギレン閣下の霊が取り憑いてきたかのようでありました」
一仕事やり終え、ケロロは再び顔に浮かんだ汗を拭う。
しかし、気を抜くのはまだ早い。むしろ、これからが重要なのだ。
さっきのケロロのメッセージを、仲間たちのいずれかが聞いていたならばいい。
だがもし、他の参加者を殺そうとしている人物に聞こえていたとしたら?
その人物がケロロたちの命を狙いに接近してくることは、十分にあり得る。
もちろん先程ケロロ自身が述べたように、彼はそのリスクを覚悟した上で行動に及んだ。
だが、覚悟だけでは何の役にも立たない。求められるのは、それを実行に移すことだ。
ケロロは拡声器をサツキのデイパックに戻し、代わりに自分のデイパックから出した二本のナイフを両手に構える。
地球のはるか先を行くスーパーテクノロジー兵器に慣れたケロロにとってはあまりに貧弱な武装だが、他に武器がない以上贅沢は言っていられない。
(サツキ殿は吾輩が守る! 来るなら来い、であります! でも、出来れば来ないで~!)
勇気と恐怖を胸に、ケロロ軍曹は海沿いの平原に一人立つ。
しかし、彼は知らない。少なくとも拡声器のスイッチを入れた段階では、彼と同じエリアにサツキ以外の参加者は誰もいなかったということを。
果たしてケロロの一連の行動は、単なる徒労に終わるのか。それとも彼の声が誰かに届き、新たなドラマを生むのか。
答えは、神のみぞ知る。
【D-10 草原/一日目・未明】
【名前】ケロロ軍曹@ケロロ軍曹
【状態】健康
【持ち物】北高女子の制服@涼宮ハルヒの憂鬱、ジェロニモのナイフ×4@キン肉マン(うち2本を装備)、自転車@現実、デイパック(支給品一式)
【思考】
1:しばらく、メッセージを聞いた誰かが来るのを待つ。危険人物が来たらサツキを守る。
2:冬樹や他の仲間、それとメイを捜す。
3:地球人は利用する……?
4:で、結局トトロって誰よ?
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分が見たことのある作品の知識はあいまいになっているようです。
※拡声器の声がどの辺りまで届いたかは不明です。ただし、1エリア以上離れた場所に届くことはないと思われます。
【名前】草壁サツキ@となりのトトロ
【状態】気絶、悲しみと決意
【持ち物】拡声器@現実、デイパック(支給品一式、不明支給品1~2)
【思考】
0:(気絶中)
1:メイを探す
2:ケロロ……メイの言ってたトトロと関係あるの?
3:お父さん……
※トトロに会う前からの参戦
※ケロロを名前と外見(人外)からトトロとかかわりがあるのかもしれないと考えています。
【ジェロニモのナイフ@キン肉マン】
ジェロニモがいつも持ち歩いているインディアン・ナイフ。
超人に対しても十分な殺傷力を持つことから、切れ味は抜群と思われる。
*時系列順で読む
Back:[[腹黒! 偽りの共鳴]] Next:[[怪物の森]]
*投下順で読む
Back:[[腹黒! 偽りの共鳴]] Next:[[闇の中の暗殺者]]
|[[となりのケロロ]]|ケロロ軍曹|[[ONIGUNSOWと、AMBIVALENCE]]|
|[[となりのケロロ]]|草壁サツキ|[[ONIGUNSOWと、AMBIVALENCE]]|
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*咆哮! 軍曹入魂大演説…の巻 ◆NIKUcB1AGw
彼の名は、ケロロ軍曹。
ぬいぐるみのような一見ファンシーな外見とは裏腹に、地球侵略をもくろむ宇宙人である。
しかしこの侵略者は現在、非常に困惑していた。
殺し合いという異常事態に巻き込まれたうえに、突如目の前に現れたサツキと名乗る少女に「一緒に妹を捜してほしい」と頼まれてしまったからである。
どうやらサツキはケロロをトトロなる存在の仲間だと思っており、それ故彼を信用しているらしい。
しかしケロロの方には、あいにくトトロという名前に心当たりなどない。
(たしかガルル中尉の部隊に、そんな名前の隊員がいたような……。いや、あれはトロロでありましたか?
はっきりと思い出せないけど、どうも違う気がするでありますなあ……)
ケロロがそんなことを考えている間も、サツキはずっとケロロを見つめている。
その視線には、ケロロに対する期待と不安がない交ぜになっていた。
(まあ、トトロとやらが何者かは置いておくとして……。明らかに断りづらい雰囲気なのであります……)
元々優柔不断なところがあるケロロ軍曹である。
こうも健気に助けを求められては、断るに断れない。
「……いいでありましょう」
「え?」
「このケロロ軍曹、サツキ殿の妹さんの捜索に協力するであります!」
「あ……ありがとう、ケロロ!」
一瞬の放心状態の後、サツキの心に安堵と喜びが満ちる。彼女はそれを、ケロロに抱きつくという形で表現した。
「ぐえええええ!? ちょ、苦しいって、ねえ!」
年齢ではサツキの数百倍と推定されるケロロだが、身長・体重は彼女にはるかに劣る。
サツキの全力の抱き締めは、ケロロにとって十分すぎる脅威であった。
「あ、ごめん……。痛かった?」
「げぇっほ、げっほ! な、なんの! この程度、どうってことないのであります!」
手を離し、不安げな視線を送ってくるサツキに対し強がるケロロ。
しかし、派手にむせていては説得力などあったものではない。
「そう、よかった……」
むろん、サツキもそれで納得などしていない。だが、ケロロが自分を気遣って強がっているのは明白だ。
それを理解しているから、彼女はそれ以上のことは言わず、無理に笑顔を作る。
(はあ、どうにも調子が狂うでありますな……)
ケロロが今まで接してきたペコポン人の女性は、夏美や秋など何らかの意味で「普通じゃない」女性たちだった。
サツキのように、ごく普通の女性というのはほとんど接したことがない。
強いて言うなら桃華が近いだろうが、「裏人格」という強烈な個性を持つ桃華とサツキのイメージを近づけるのはやはり無理がある。
とどのつまり、サツキはケロロが今まで親しくしたことのないタイプのペコポン人である。
よって、どう接していいのやら手探りの状態なのだ。
(まあ、よく考えたら向こうに吾輩が合わせる義理もないのであります。今後のためにも、ここは吾輩のペースでいかないと……)
コホンと一つ咳払いをすると、ケロロは改めてサツキに語りかける。
「あー、サツキ殿。吾輩とサツキ殿はあくまで対等の同盟関係でありたい。
もちろん先程言ったとおり、サツキ殿の妹さんの捜索は協力するであります。
しかし、サツキ殿にも吾輩の友人と同胞の捜索に協力してもらうでありますよ?」
「うん、わかった。ケロロが私のために力を貸してくれるんだもの、私もケロロのために頑張る!」
表情を引き締め、サツキは力強くうなずく。
「いい返事でありますな。大変結構であります!」
「ありがとう。それで、ケロロの友達の名前はなんて言うの?」
「うむ、まずは我が親友、日向冬樹殿! それにタママ、ドロロ、ガルル! 以上であります!」
「4人も友達が連れてこられてるんだ……。大変だね、ケロロ……」
「なに、冬樹殿はともかく、吾輩を含めた4名は数々の修羅場を乗り越えてきたソルジャー! そう簡単に死ぬ連中ではないのであります!
っていうか、むしろ冬樹殿やばくない? オカルト好き以外いたって普通の中学生だよ、冬樹殿って……。
ゲロー!! なんか急に心配になって来たであります!」
「ケロロ、大丈夫? 心配なのはわかるけど、落ち着いて……」
自信満々の態度から突然パニックに陥るケロロを見て、サツキは心配そうに声をかける。
「ふー、失礼……。吾輩としたことが……。サツキ殿も妹さんが心配でありましょうに、吾輩だけ取り乱してしまって申し分けないであります」
「ううん、気にしなくていいよ」
「ところで、サツキ殿の妹さんの名前はなんでありましたか?」
「あれ、まだ言ってなかったっけ……? メイ、草壁メイよ」
「メイ殿でありますな? 吾輩の頭脳にしっかりと刻み込んだのであります!
それではサツキ殿、これよりメイ殿および吾輩の仲間たちの捜索作戦を開始するのであります!」
「うん!」
◇ ◇ ◇
岩の上に横に並んで座り、二人は本格的に作戦会議を始める。
「ねえ、ケロロ。まずはどこに行けばいいと思う?」
「まあまあ、サツキ殿。急いては事をし損じる、というペコポンのことわざもあるのであります。
行き先を決める前に、まずは自分たちの戦力を確認するべきでありますよ」
「戦力……?」
ケロロの言わんとしていることがわからず、サツキは首をかしげる。
「吾輩たちに配られた支給品であります。どんな武器が配られているかによって、今後の方針も変わってくるのであります」
「武器……」
日常生活ではまず使わない言葉を耳にし、サツキは自分たちが殺し合いの場に連れてこられていると言うことを改めて理解する。
そして、その殺し合いを進行している人物のことが脳裏をよぎり、彼女の表情が一気に暗くなる。
しかし、自分のデイパックの中をあさっていたケロロが顔を上げた時には、すでにサツキの顔つきは元に戻っていた。
だからケロロは彼女の心の内に気づかず、ごく普通に会話を続ける。
「吾輩の支給品はセーラー服と、このナイフでありますな。それと……」
ケロロは両腕に力を込め、「それ」を引っ張り出す。デイパックから出てきたのは、明らかに入れ物よりも大きな自転車だった。
「えっ!?」
「これはまた、ずいぶんとぼろっちい自転車であります。556に似合いそうでありますなあ」
驚くサツキをよそに、ケロロは動じることなく自転車の状態に不満を漏らしている。
「あ、あの……」
「ん? どうかしたでありますか、サツキ殿?」
「ケロロはびっくりしないの? そんなカバンから自転車が出てきたのに……」
「ああ、ペコポンの技術レベルでは、こういうのは不可能でありましたな。しかし、我々にとってこの程度は出来ないことではないのであります。
まあ詳しい仕組みは吾輩にもわからないのでありますが、おそらくデイパックにそれよりも大きな品物でも入るようにする仕組みが組み込まれているのでありましょう」
「うーん……」
ケロロの説明を受けたところで、サツキには結局理屈がよくわからない。
彼女は、眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。
「まあ、わからないのなら無理に理解する必要はないのであります。何でも入る不思議なカバンとでも思っておけば……」
「うん、わかった」
まだ納得がいっていない様子ながらも、サツキは素直にうなずく。
「では、今度はサツキ殿の支給品を見せてほしいのであります」
「うん、ちょっと待って」
細い腕を自分のデイパックにつっこみ、サツキは一つ目の支給品を取り出した。
「ほう、拡声器でありますか。これはなかなかの当たりでありますぞ」
「え? でも、こんなの何に使うの?」
「わかってないでありますなあ、サツキ殿。これを使えば、一度に広範囲へ我々の声を届けることが出来る。
つまり、人を捜すのに効率がいいのであります」
「あっ、そうか。でも……」
ケロロの言葉に納得しかけたサツキだが、その表情はすぐに曇る。
「それだと、怖い人たちにも私の居場所を教えることになっちゃうんじゃ……」
「もちろん、そのリスクも承知の上でのことであります。
でありますから、吾輩が拡声器で呼びかけている間、サツキ殿はどこかに隠れていてほしいであります。
そうすれば、たとえ危険人物に気づかれてもサツキ殿が生存する確率は高くなるはずであります」
「そんな! それじゃあケロロだけ危険な目に遭うじゃない!」
「なに、見ての通り吾輩の体はサツキ殿より小さい。見つかる可能性は低いのでありますよ」
「それでも……」
「ああもう、仕方ないでありますなあ」
なおも渋るサツキに対し、ケロロは岩から飛び降りてサツキの正面に立つ。
「ケロロ……?」
「いいでありますか、サツキ殿」
おもむろに話し始めたケロロに対し、サツキは身を乗り出して彼に顔を近づける。
その瞬間……
「え……」
ケロロの全力の手刀が、サツキの首筋を捉えた。何が起こったのかも理解できぬまま、サツキは意識を失った。
「ふう、上手くいってよかったよ……。すまないでありますな、サツキ殿」
気を失ったサツキに話しかけながら、ケロロは彼女の体を引きずっていく。
そして彼女の体を、少し離れた場所にあった草むらに放り込んだ。ここならパッと見、人がいるとはわからないはずだ。
「ふい~……」
労働でかいた額の汗を拭いながら、ケロロは思う。なぜ自分は、ここまでして彼女をかばうのかと。
相手はたった今出会った、何の役にも立たなさそうなペコポン人だ。
こんな苦労をしてまでかばう義理など、全くないというのに。
いや、すでに答えは出ている。理由は、彼女が妹を心の底から心配しているのを感じ取ってしまったからだ。
家族の絆。それはケロロに、自分が捕虜(という名の居候)として共に暮らしている一家のことを否応なしに思い出させていた。
(「姉」という共通点だけで、サツキ殿に夏美殿を重ね合わせてしまうとは……。どうかしているでありますなあ、吾輩。
だいたい夏美殿と重ね合わせたとして、なんで吾輩が夏美殿をかばわなきゃ……。
そりゃまあ、夏美殿が死んだら冬樹殿が悲しむでありましょうから、いざというときは守るかも知れないけど……。
いや、だけど現在命の危険にさらされているのは冬樹殿のほうであって、でもサツキ殿は姉で……。
そういや「NATSUMI」と「SATSUKI」って、微妙に発音似てね?……って、あーもう! 自分で考えててわけわかんなくなっちゃったよ!)
一人で勝手に暴走し、ハアハアと息を荒げるケロロ。しばらくして脳内と息が落ち着くと、彼は拡声器を持って先程自分たちが腰掛けていた岩の上に立った。
(それでは、始めるでありますか)
ケロロは拡声器のスイッチを入れ、それを自分の口元に当てた。
『あーあー、マイクテス。吾輩はガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長 ケロロ軍曹であります!
冬樹殿! もしこの声が聞こえていたら、聞こえてくる方向に向かってほしいであります! 吾輩はそこで待っているであります!
タママ二等! ドロロ兵長! 以上二名も、一刻も早く隊長の下に駆けつけるであります!
ガルル中尉殿! 貴殿の軍人としての力量を見込み、我が小隊への協力を要請させていただくであります!
貴殿にこの殺し合いに積極的に乗る意志がないのであれば、是非とも協力していただきたい!
それから、草壁メイちゃん! お姉さんのサツキ殿が君のことを心配しているであります!
今、サツキ殿は吾輩と一緒にいるであります! 放送が聞こえていたら、吾輩の所まで来てほしいのであります!
その他の皆様も、メイちゃんらしき女の子を見つけたら是非ご一報を! メイちゃんは……あ、やっべ、外見とか聞いてなかったよ……。
とにかく、小さい女の子のはずであります! それらしき子がいたら、ケロロ軍曹、ケロロ軍曹までご連絡を!
後は……そうでありますな。せっかくの機会だから、言っておくであります。
この悪趣味な催しの趣旨に従い、他者の命を奪おうとしている者たちに告ぐ!
その道を選ぶとは、あまりに愚かである! あえて言おう、カスであると!
おのれの命惜しさに他の命を狙う人間が、このバトル・ロワイアルを生き抜くことは出来ないと吾輩は断言する。
我々はこの殺し合いそのものを破壊して、初めて生き延びることが出来る。
参加者同士戦い続けても何の得にもならない。我々を集めたあの男女に一矢報いてやらねばならないのであります。
今こそ我々は明日の未来のためこの殺し合いを破綻させねばならないのであります!
ジーク・ケロン!』
◇ ◇ ◇
「ふう、なんだかテンションが上がって、言わなくていいことまで言ってしまったような気がするでありますなあ。
まるでギレン閣下の霊が取り憑いてきたかのようでありました」
一仕事やり終え、ケロロは再び顔に浮かんだ汗を拭う。
しかし、気を抜くのはまだ早い。むしろ、これからが重要なのだ。
さっきのケロロのメッセージを、仲間たちのいずれかが聞いていたならばいい。
だがもし、他の参加者を殺そうとしている人物に聞こえていたとしたら?
その人物がケロロたちの命を狙いに接近してくることは、十分にあり得る。
もちろん先程ケロロ自身が述べたように、彼はそのリスクを覚悟した上で行動に及んだ。
だが、覚悟だけでは何の役にも立たない。求められるのは、それを実行に移すことだ。
ケロロは拡声器をサツキのデイパックに戻し、代わりに自分のデイパックから出した二本のナイフを両手に構える。
地球のはるか先を行くスーパーテクノロジー兵器に慣れたケロロにとってはあまりに貧弱な武装だが、他に武器がない以上贅沢は言っていられない。
(サツキ殿は吾輩が守る! 来るなら来い、であります! でも、出来れば来ないで~!)
勇気と恐怖を胸に、ケロロ軍曹は海沿いの平原に一人立つ。
しかし、彼は知らない。少なくとも拡声器のスイッチを入れた段階では、彼と同じエリアにサツキ以外の参加者は誰もいなかったということを。
果たしてケロロの一連の行動は、単なる徒労に終わるのか。それとも彼の声が誰かに届き、新たなドラマを生むのか。
答えは、神のみぞ知る。
【D-10 草原/一日目・未明】
【名前】ケロロ軍曹@ケロロ軍曹
【状態】健康
【持ち物】北高女子の制服@涼宮ハルヒの憂鬱、ジェロニモのナイフ×4@キン肉マン(うち2本を装備)、自転車@現実、デイパック(支給品一式)
【思考】
1:しばらく、メッセージを聞いた誰かが来るのを待つ。危険人物が来たらサツキを守る。
2:冬樹や他の仲間、それとメイを捜す。
3:地球人は利用する……?
4:で、結局トトロって誰よ?
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分が見たことのある作品の知識はあいまいになっているようです。
※拡声器の声がどの辺りまで届いたかは不明です。ただし、1エリア以上離れた場所に届くことはないと思われます。
【名前】草壁サツキ@となりのトトロ
【状態】気絶、悲しみと決意
【持ち物】拡声器@現実、デイパック(支給品一式、不明支給品1~2)
【思考】
0:(気絶中)
1:メイを探す
2:ケロロ……メイの言ってたトトロと関係あるの?
3:お父さん……
※トトロに会う前からの参戦
※ケロロを名前と外見(人外)からトトロとかかわりがあるのかもしれないと考えています。
【ジェロニモのナイフ@キン肉マン】
ジェロニモがいつも持ち歩いているインディアン・ナイフ。
超人に対しても十分な殺傷力を持つことから、切れ味は抜群と思われる。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[となりのケロロ]]|ケロロ軍曹|[[ONIGUNSOWと、AMBIVALENCE]]|
|~|草壁サツキ|~|
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