「第一回放送 」(2010/01/22 (金) 21:55:21) の最新版変更点
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*第一回放送 ◆S828SR0enc
舞台の上には、スポットライトがひとつ。
箱庭の中は朝を迎え光にあふれていても、ここにその光が届くことはない。
ここはいつでも闇の中、手足を絡め取るような底なし沼の奥のように、じっとりと空気が濡れている。
しかしそれを不快に思う人間は、残念ながらここにはいなかった。
スポットライトに照らされ、一人の男が檀上に登る。
くたびれたシャツ、手入れの行き届かない髪、黒ぶちの眼鏡のどこにでもいそうな中年の男。
彼は年甲斐もなく浮かれたような足つきで、舞台の奥へと進んでいく。
やがて、スポットライトは舞台の中央へ至る。
そこにはどこにでもありそうなテーブルとパイプ椅子、そして赤い卓上マイクが置かれていた。
男――草壁タツオはその頬をかすかにふるわせながら、その席に座る。
ぎぃ、と男の体重を受けて椅子が文句をつけるように鳴った。
「あー、あー、マイクテスト、マイクテスト」
マイクの根元をひねりながら、男は二度三度と声を出す。
そして室内に響き渡る声に満足げに頷くと、マイクの台座のボタンをぽちりと押した。
男の唇が、笑みの形につり上がった。
◆ ◆ ◆
みんなおはよう、今日は天気の気持ちいい朝だね、いまはどんな気分かな?
眠い?寒い?辛い?怖い?悲しい?さびしい?嬉しい?楽しい?
楽しい……そうだね、私はとっても楽しいよ。
心の底から晴れやかな気分だ。
君達の嘆きが、祈りが、決意が、あるいは失望が、こんなにも私を楽しませてくれるなんて思わなかった。
ああ、これからはきっともっと楽しくなる、そう思うとますます心が躍るよ。
だからね、君達にはこれからももっともっとがんばってもらわなくちゃならないんだ。
なにせ先はまだまだ――――まだまだ、長いんだからねぇ。
さて、それじゃあ禁止エリアの発表と行こう。
いいかい、一度しか言わないからよぉく聞いておくんだよ?
午前7:00から F-02
午前9:00から E-10
午前11:00から E-03
ふふ、ちゃんと聞きとれたかな?
聞き取れなかった悪い子は、頑張って人に聞いて回らなくちゃだねぇ、ふふふふ。
そしてもう一つ、お待ちかねの死者発表だよ。
君達のお友達は――おっと、先に言ったらドキドキがなくなるから、さっさと言ってしまおうか。
涼宮ハルヒ
モッチー
フェイト・T・ハラオウン
日向冬樹
ゼルガディス=グレイワーズ
以上五名が、現状での脱落者だ。
いやー、それにしてもなんだか思ったより死んでいかないねぇ。
六時間もあったのにたったの五人、一時間一人以下じゃないか、ねぇ?
あ、そうそう。君達にいいことを教えてあげよう。
さっき死んだ五人の中にはねぇ――――長い付き合いの、仲良しの友達に殺された人もいるんだよ。
いやいや、実に立派。
殺し合いだもの、情も思い出も切り捨てる、かっこいいねぇ。
死ぬのが怖いそこの君、そういうときは「やられる前にやれ」、だよ。
殺される前に殺してしまえば、君は生き残れるんだ。
だからね、君が今一緒にいるお友達。
その子がいきなり後ろからナイフで刺してきても驚かないように、心の準備をしておくといいよ。
それじゃあ、また六時間後に。
君達のがんばり、期待しているからね?
◆ ◆ ◆
「ふぅ、やっぱり慣れないことは緊張するなぁ」
マイクの電源を落とし、こめかみの汗を拭って男が言う。その顔には満足の笑みがあった。
「それにしても僕、結構うまくやれたんじゃないかなぁ。
こう、主催者の威厳がいい感じににじみ出て立って言うか、渋みっていうものがあったと思うんだよ。
皆どんな気分だったんだろう。
怖かったかな、それとも怒りに震えるような気分だったのかな?それとも―――」
ぶつぶつと、男は一人楽しげに話し続ける。
答える者のいない暗闇の向こうに何を見ているのか、呆然としているともとれる表情で話し続け、
「ん?」
ぴたり、と笑いを止めた。
しばし目をぱちぱちと瞬かせ、首をひねる。
そしておもむろに暗闇の向こう、もうひとつだけぼんやりと灯りの灯ったあたりに向かって叫んだ。
「おーい有希くん、何か言ったかーい?」
闇の向こう、同じような机を前にパイプ椅子に腰かけ、熱心にパソコンの画面を眺める少女に男が声をかける。
少女は数秒間微動だにしなかったが、やがてゆっくりと首を振った。
「おかしいなぁ、誰かがなにか言った……囁いた? ような気がしたんだけど……」
首をかしげながら男は立ち上がり、明かりの少ない空間に苦労しながらも少女のもとへと向かう。
男が舞台を降りると同時に、どこからさしていたかもよくわからないスポットライトはあっさりと消えた。
静かな足取りで男が間近にきても、少女はただ画面を見つめて指先を細かく動かすのみ。
パソコンが放つキラキラとした輝きは男の目にはきつい。
さりげなく画面から目をそらし、男は口を開いた。
「本当に有希くんは熱心だね、君が学者ならさぞ素晴らしい研究成果を発表したんだろうなぁ」
「そう」
「うん、だけど僕は少し疲れたから休むよ。後は頼んでもいいかな?」
男の問いに、人形じみた少女はこくりと頷く。
相も変わらず画面はチカチカと瞬き、男にはよくわからない仕組みでデータを流していく。
だらだらと流れ続ける参加者のプロフィール、その最後あたりが画面に映る前に、男はくるりと踵を返した。
ゆっくりと闇の中へ踏み出しながら、男はふと思いついたように呟く。
「あ、ひょっとしてあれ、笑い声だったのかなぁ?」
答える声はなく、ただパソコンの幽かな唸りだけが響く。
呟きの残響だけを残し、男はするりと闇の中へ消えていった。
◆ ◆ ◆
少女は顔色ひとつ変えることなく、ただ自分の仕事をこなす。
彼女の仕事に男が口出しすることはない、なぜならばそれは自分の役目ではないと思っているからだ。
彼女がどんなふうにパソコンをいじろうが、
彼女がどんなメッセージをパソコンの中に入れ込もうが、
男は何一つとして気付かないし、かまわないのだ。
パソコンの画面には絶えず情報が現れては消えていく。
リアルタイムでの位置情報。
島のイントラネット内の掲示板やチャットへのアクセス経歴。
各参加者の詳細なプロフィール、支給品情報。
そして、首輪が伝えるその生死。
光のような速さで流れていく画面をただ見つめながら、少女は手を動かし続ける。
掲示板に敵意を持った書き込みがなされても。
『彼ら』が危険人物と思わしき光点と接触しても。
『彼』の脳波が、心臓の脈動が著しく乱れても。
『彼女』の脳波が、心臓の脈動がまったく動かなくなっても。
何があってもそうしていたように、彼女はただデータを整理し、機械のように打ち込み続けていく。
その手つきは常に正確で、そのペースは常に一定。
少女は能面のような顔を幾度か画面とキーボード、そして時折虚空に向ける。
「……そう」
打鍵音がやみ、パソコンの軋みだけが響く空間で、誰にともなく少女は言葉を口にする。
青白いスクリーンに反射する彼女の呟きを、ただ闇だけが聞いていた。
*時系列順で読む
Back:[[心に愛が無ければ、スーパーヒーローじゃないのさ]] Next:[[悪魔は再び]]
*投下順で読む
Back:[[リリカルスバルたん第3話「ツバメモードとケロン人」]] Next:[[悪魔は再び]]
|[[オープニング]]|草壁タツオ|[[第二回放送]]|
|~|長門有希|[[さらば愛しき中トトロ!! の巻]]|
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*第一回放送 ◆S828SR0enc
舞台の上には、スポットライトがひとつ。
箱庭の中は朝を迎え光にあふれていても、ここにその光が届くことはない。
ここはいつでも闇の中、手足を絡め取るような底なし沼の奥のように、じっとりと空気が濡れている。
しかしそれを不快に思う人間は、残念ながらここにはいなかった。
スポットライトに照らされ、一人の男が檀上に登る。
くたびれたシャツ、手入れの行き届かない髪、黒ぶちの眼鏡のどこにでもいそうな中年の男。
彼は年甲斐もなく浮かれたような足つきで、舞台の奥へと進んでいく。
やがて、スポットライトは舞台の中央へ至る。
そこにはどこにでもありそうなテーブルとパイプ椅子、そして赤い卓上マイクが置かれていた。
男――草壁タツオはその頬をかすかにふるわせながら、その席に座る。
ぎぃ、と男の体重を受けて椅子が文句をつけるように鳴った。
「あー、あー、マイクテスト、マイクテスト」
マイクの根元をひねりながら、男は二度三度と声を出す。
そして室内に響き渡る声に満足げに頷くと、マイクの台座のボタンをぽちりと押した。
男の唇が、笑みの形につり上がった。
◆ ◆ ◆
みんなおはよう、今日は天気の気持ちいい朝だね、いまはどんな気分かな?
眠い?寒い?辛い?怖い?悲しい?さびしい?嬉しい?楽しい?
楽しい……そうだね、私はとっても楽しいよ。
心の底から晴れやかな気分だ。
君達の嘆きが、祈りが、決意が、あるいは失望が、こんなにも私を楽しませてくれるなんて思わなかった。
ああ、これからはきっともっと楽しくなる、そう思うとますます心が躍るよ。
だからね、君達にはこれからももっともっとがんばってもらわなくちゃならないんだ。
なにせ先はまだまだ――――まだまだ、長いんだからねぇ。
さて、それじゃあ禁止エリアの発表と行こう。
いいかい、一度しか言わないからよぉく聞いておくんだよ?
午前7:00から F-02
午前9:00から E-10
午前11:00から E-03
ふふ、ちゃんと聞きとれたかな?
聞き取れなかった悪い子は、頑張って人に聞いて回らなくちゃだねぇ、ふふふふ。
そしてもう一つ、お待ちかねの死者発表だよ。
君達のお友達は――おっと、先に言ったらドキドキがなくなるから、さっさと言ってしまおうか。
涼宮ハルヒ
モッチー
フェイト・T・ハラオウン
日向冬樹
ゼルガディス=グレイワーズ
以上五名が、現状での脱落者だ。
いやー、それにしてもなんだか思ったより死んでいかないねぇ。
六時間もあったのにたったの五人、一時間一人以下じゃないか、ねぇ?
あ、そうそう。君達にいいことを教えてあげよう。
さっき死んだ五人の中にはねぇ――――長い付き合いの、仲良しの友達に殺された人もいるんだよ。
いやいや、実に立派。
殺し合いだもの、情も思い出も切り捨てる、かっこいいねぇ。
死ぬのが怖いそこの君、そういうときは「やられる前にやれ」、だよ。
殺される前に殺してしまえば、君は生き残れるんだ。
だからね、君が今一緒にいるお友達。
その子がいきなり後ろからナイフで刺してきても驚かないように、心の準備をしておくといいよ。
それじゃあ、また六時間後に。
君達のがんばり、期待しているからね?
◆ ◆ ◆
「ふぅ、やっぱり慣れないことは緊張するなぁ」
マイクの電源を落とし、こめかみの汗を拭って男が言う。その顔には満足の笑みがあった。
「それにしても僕、結構うまくやれたんじゃないかなぁ。
こう、主催者の威厳がいい感じににじみ出て立って言うか、渋みっていうものがあったと思うんだよ。
皆どんな気分だったんだろう。
怖かったかな、それとも怒りに震えるような気分だったのかな?それとも―――」
ぶつぶつと、男は一人楽しげに話し続ける。
答える者のいない暗闇の向こうに何を見ているのか、呆然としているともとれる表情で話し続け、
「ん?」
ぴたり、と笑いを止めた。
しばし目をぱちぱちと瞬かせ、首をひねる。
そしておもむろに暗闇の向こう、もうひとつだけぼんやりと灯りの灯ったあたりに向かって叫んだ。
「おーい有希くん、何か言ったかーい?」
闇の向こう、同じような机を前にパイプ椅子に腰かけ、熱心にパソコンの画面を眺める少女に男が声をかける。
少女は数秒間微動だにしなかったが、やがてゆっくりと首を振った。
「おかしいなぁ、誰かがなにか言った……囁いた? ような気がしたんだけど……」
首をかしげながら男は立ち上がり、明かりの少ない空間に苦労しながらも少女のもとへと向かう。
男が舞台を降りると同時に、どこからさしていたかもよくわからないスポットライトはあっさりと消えた。
静かな足取りで男が間近にきても、少女はただ画面を見つめて指先を細かく動かすのみ。
パソコンが放つキラキラとした輝きは男の目にはきつい。
さりげなく画面から目をそらし、男は口を開いた。
「本当に有希くんは熱心だね、君が学者ならさぞ素晴らしい研究成果を発表したんだろうなぁ」
「そう」
「うん、だけど僕は少し疲れたから休むよ。後は頼んでもいいかな?」
男の問いに、人形じみた少女はこくりと頷く。
相も変わらず画面はチカチカと瞬き、男にはよくわからない仕組みでデータを流していく。
だらだらと流れ続ける参加者のプロフィール、その最後あたりが画面に映る前に、男はくるりと踵を返した。
ゆっくりと闇の中へ踏み出しながら、男はふと思いついたように呟く。
「あ、ひょっとしてあれ、笑い声だったのかなぁ?」
答える声はなく、ただパソコンの幽かな唸りだけが響く。
呟きの残響だけを残し、男はするりと闇の中へ消えていった。
◆ ◆ ◆
少女は顔色ひとつ変えることなく、ただ自分の仕事をこなす。
彼女の仕事に男が口出しすることはない、なぜならばそれは自分の役目ではないと思っているからだ。
彼女がどんなふうにパソコンをいじろうが、
彼女がどんなメッセージをパソコンの中に入れ込もうが、
男は何一つとして気付かないし、かまわないのだ。
パソコンの画面には絶えず情報が現れては消えていく。
リアルタイムでの位置情報。
島のイントラネット内の掲示板やチャットへのアクセス経歴。
各参加者の詳細なプロフィール、支給品情報。
そして、首輪が伝えるその生死。
光のような速さで流れていく画面をただ見つめながら、少女は手を動かし続ける。
掲示板に敵意を持った書き込みがなされても。
『彼ら』が危険人物と思わしき光点と接触しても。
『彼』の脳波が、心臓の脈動が著しく乱れても。
『彼女』の脳波が、心臓の脈動がまったく動かなくなっても。
何があってもそうしていたように、彼女はただデータを整理し、機械のように打ち込み続けていく。
その手つきは常に正確で、そのペースは常に一定。
少女は能面のような顔を幾度か画面とキーボード、そして時折虚空に向ける。
「……そう」
打鍵音がやみ、パソコンの軋みだけが響く空間で、誰にともなく少女は言葉を口にする。
青白いスクリーンに反射する彼女の呟きを、ただ闇だけが聞いていた。
*時系列順で読む
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