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「不屈の涙とシロイモノ」(2008/11/14 (金) 18:06:04) の最新版変更点
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*不屈の涙とシロイモノ ◆EFl5CDAPlM
目が覚めて、一番最初に感じたのは、顔全体に感じた不快感。
ベトベトしたそれに覚醒しかけた視界がやや歪むが、それを押して目を開ける。
「ゲェー!?」
聞き覚えのある、誰かの声を聞き、起き上がる。
それから首を振り、見たことのある人物と目が合った。
さっき闇の中で、ハルヒが「豚ブタ鼻のおっさん」と言っていた人物だ。
気を失う前に、名前を聞いた気がする。確か……
「えっと……キン肉マン、さん……?」
手にヨーグルトのカップを持って、こちらを唖然と見つめたままのスグルは、その声にはっと我にかえった。
「う……うむ! 私の名前はキン肉スグル! またの名を正義超人、キン肉マン!」
ヴィヴィオに名前を聞かれ、スグルはヴィヴィオが倒れる前と同じ名乗りを上げる。
何故か声色は上ずり、背中から冷や汗を流していたように見えるのは気のせいだろう。
「あ……あの……ごめんなさい。」
ヴィヴィオもスグルの様子に気づくことはなく、だが気絶する前に自分のしでかしたことや、
それによって傷ついたのであろう、腕やわき腹の傷には気付いた。
「グム? ああ、この傷か。大したことはない。ほれ、この通り!」
そう言ってスグルは両腕をぶんぶん振りまわす。
やはり挙動がややおかしい気がするが、ヴィヴィオは気付かない。
「それでも、ごめんなさい。キン肉マンさんはぜんぜんわるくないのに。」
その言葉に、続いてストレッチもしようとしていたスグルは動きを止め、
ヴィヴィオをしっかりと見据える。
そしてヴィヴィオの頭に、先ほど落ち着かせるためにしたように、手をのせる。
「大したことはないと言っておるだろう! しかし、それでも気にするのであれば、
笑ってくれ! 子供は笑っておるのが一番だ!」
そう言ってニカっと笑い、ヴィヴィオの頭を、ワシャワシャと撫でる。
「うん……」
『ヴィヴィオ、大丈夫ですか?』
スグルの付近から声が聞こえる。クロスミラージュだ。
「うん、大丈夫。クロスミラージュも心配掛けてごめんなさい。バルディッシュも、ごめんなさい。」
『いえ、ヴィヴィオが元気になったのなら、それで十分です。』
ヴィヴィオは自分が決して一人ではないことをはっきりと感じ取る。
そして、それを教えてくれた人へと向き合う。
血だまりに倒れていた、生前は明るい笑顔で、自分を励ましてくれた人。
ついさっきまで、元気に笑って、一緒にママを探してあげると高らかに、朗らかに言ってくれた人。
自分が疲れてても、それでもヴィヴィオを心配掛けまいと、してくれた人。
(ハルヒ、お姉ちゃん……)
泣きはらした瞳に、ふた度液体がたまり、目尻にそれがたまろうとする。
だがヴィヴィオは、顔を強引に拭い、溜まろうとするそれをふき取る。
――泣かない。だってお姉ちゃんと約束したから。
――モッチーとも、フェイトママとも約束したから。
――頑張るって。
「バルディッシュ、クロスミラージュ」
『what?』
『なんでしょうか?』
「フェイトママと、モッチーは?」
『!!』
『そ……れは……』
あの時、泣いていた自分をハルヒは励ましてくれた。
死んでしまった、ハルヒが。
そして、モッチーも、フェイトも励ましてくれた。
ハルヒとおなじように、ヴィヴィオはひとりじゃない、と。
死んだはずのハルヒとの対話。
死んで尚、生きていたもののことが気がかりで、ヴィヴィオに語りかけに来たのか、
それとも、ただ単にヴィヴィオが勝手に描いた妄想か。
いずれにせよ、それは現実ではありえない光景であった。
そして、ハルヒと同じように自分を励ましてくれたフェイトとモッチー。
「二人とも、死んじゃったの?」
『……肯定です』
『……死体は確認していませんが、先ほど死亡発表で名前を呼ばれました』
「そ、か…………」
ヴィヴィオの問いに、インテリジェントデバイスである二機は嘘をつくことができなかった。
その答えを聞いたヴィヴィオは、小さく言葉を発すると、そのまま黙りこくる。
先ほど見た光景は、現実のものではない。それはヴィヴィオも理解してる。理解した。
だがそう思っていても、一緒にいたフェイトとモッチーがハルヒと同じ存在になっている。
それを漠然と感じ取り、そういうことなのだと気付いてしまっていた。
スグルも声をかけることができない。
こんなにも幼き少女が、3人も知り合い……それも仲のよかった者と死に分かれて、
泣かずにうずくまっているところに、どのような声をかけていいかわからず、立ち尽くすだけだった。
「キン肉マンさん」
「グ、グム!?」
故に、自分の名を呼ばれたことに、はっと驚く。
「ハルヒお姉ちゃんのお墓、作ってあげたいの……」
その少女の願いを、
泣くのを必死にこらえようとして、失敗している潤んだ瞳を、
闇に落ちない純真で、不屈な心をみたスグルに、断る理由なんて存在しなかった。
* *
うっそうとした森の中を歩き続けた私は、やがて森を抜け、開けた場所に出た。
地図が正確ならば、このまま西北西に進めば中・高等学校に着くはずだ。
私のいた位置から北の市街地に向かったらホテルについたであろう。
だけど私がそのまま北に向かわずに、わざわざこの方角に進んだのは、
中・高等学校ならキョン君たちが向かう可能性が一番高いと判断したからだ。
キョン君達が私と同様、長門さんが暴走状態にあると推測するかどうかは分からない。
それでも私が否定した可能性、クサカベタツオに利用されている可能性や、
長門さんの上の情報統合思念体によるものだと推測する可能性はある。
そうでなくても、長門さんと何らかのコンタクトがとりたいと考えるだろう。
そして彼女と連絡を取りたいと考えるなら、一番彼女にとって縁のある場所をまず捜索対象に定めるはずだ。
私の把握する限り、彼女にゆかりのある建物は学校を置いてほかにない。
ならば学校に向かうのが一番彼らに会える可能性は高い。
そう考えたから私は、学校へ足を向けたのだ。
後は彼女が本をよく読んでいたことを踏まえて、図書館も候補に挙げていいだろう。
幸い図書館は学校の近くにあるので、学校の捜索を終えてから回ってみることにする。
しばらく進むと目的の学校も見えてくる。
(形状はいたって普通。私のよく知る学校とも違う。ここが長門さんの作りだした空間だって発想は流石に考えすぎだったか)
この学校が私の知る学校と似ていたのなら、
そこから長門さんのことを推測する材料にでもなるかと思っていたが、そう簡単にはいかないらしい。
まあ、たいして期待していなかったのだから落胆などもしないのだが。
ひとまず中に誰かいるか探そうとして、ふとそれに気づく。
校舎の壁に穴があいているのだ。
どうやらここで既に戦闘があったようだ。
破片の飛び散り具合から、中から爆発物かなにかで吹き飛ばしたのだろうと推測できるが、
中で爆発があった割には破壊された壁以外に損傷が見当たらない。
廊下の蛍光灯は砕けてないし、反対側の窓や扉も壊れていない。
「……爆発物じゃないのかしら」
ここにはウォーズマンのような超人が数人いるし、力だけで破壊したと考えることもできる。
だが、争ったのではないのだとするとわざわざ壁を破壊する理由がない。
ただ破壊したかった狂人にしては、他の場所が損傷していないのは変だし。
ちょっとしたショートカットのつもりだろうか?
玄関まで行くのが面倒だと思うほどの短気な性格だったとか。
だが、これも推測になるのだが、自身が情報統合思念体とのコンタクトがとれず、
情報改変能力やその他の能力も制限されているように、
他の参加者も能力の制限がされている可能性がある。
そしてそれはウォーズマンのいっていたような超人パワーというのも例外ではないだろう。
その仮説が正しかったのだとしたら、このような穴、制限された力で開けるのも骨だろう。
能力で安易に開けられるとは思えない。
参加者の手によるものではないのだとすると、やはり支給品によるものだという結論になるが、
無駄に壁を破壊する為に貴重な道具を使用するとは思えない。
(だけどそれは普通の支給品だったらの話)
ここにはメイちゃんから頂いた奇妙な銃や、私のデイバッグにはいっていた物みたいに、
妙な物がたくさんある。
――涼宮ハルヒが生きていたのなら、喜んだであろう変なものが。
無論ここは殺し合いの舞台なので、用途に困る妙なものばかりではなく、
殺し合いに使えるような妙なものもある可能性は否定できない。
それこそフィクションにあるようなビームライフルがでてきてもおかしくないだろう。
そしてそんなものが支給されたのなら、性能を信じる前に、試しに使ってみるのが普通だろう。
私が鬼娘専用変身銃を自分に向けて撃ったように。
となると、ここでこの殺し合いを開始した人物によるしわざか、
ここで他の参加者を殺し、支給品を奪った者によるしわざだろう。
私は玄関からではなく、破壊されてできた穴から学校の中にはいり、中を捜索する。
ここですでに争いが起きた以上、被害者も加害者もいなくなっている可能性が高く、
故に中に人がいる可能性は低くなってしまったが、
せっかくきたのだ。軽く回るぐらいはしておきたい。
穴から左に進むと、『ksk室』と書かれた標識と、その近くにある水槽を発見した。
水槽の中には何かうごめくものがある。……鑑賞用の魚か。
よくみると、水槽の中には稚魚用の水槽も入れられており、卵からかえったばかりと思われる小さな稚魚もそこにいた。
当然というか、首輪はされていない。
この舞台に呼ばれて、はじめて参加者ではない生物を見た。というか普通に生物がいたのか。
ご丁寧にも魚の餌も近くに置いてある。与えろというのだろうか。
そして野生動物ではなく、このような生物がここにいるということは、
長門さんやクサカベタツオがわざわざ設置したということだろう。
……意図が分からない。
この魚に何か特殊なところは見えないし……―――そうだ。
これまで使用しなかったあれを使ってみよう。
先ほど性能はあらかじめ試すのが普通だと認識したのだし。
そう考えた私は、デイバックの中から銃を取り出す。
鬼娘専用変身銃ではない。自分が持っていて、今まで使わなかった銃だ。
私は水槽の中で、隔離された小さな水槽の方にいる、稚魚を狙う。
照準を定め、引き金を引く。
すると魚は見る見るうちに大きくなり、普通の水槽にいる魚と同等の大きさまで成長した。
(……成功。どうやら説明書通りのようね)
その銃は名前を新・夢成長促進銃といって、生物の姿を未来のものにすることができる銃だった。
戻す方法が時間経過でしかない以上流石にこの銃を私自身に試すわけにはいかないし、
そもそも私は人間でない以上、効き目があるのかわからない。
ウォーズマンに使うのも却下だ。ロボ超人である彼に撃ったらスクラップになりました。
何てことになったかもしれなかったし、それによる戦力の低下は避けたかった。
メイちゃんは適役だったが試そうとする前に色々あってこの銃の存在を忘れているうちに攫われてしまった。
そのように、今までこの銃を使うに適した者がいなかったから試せなかった。
私は夢成長促進銃をデイバックにしまい、稚魚用の水槽で狭そうにしている魚を見る。
成長した以外に変化はない。普通の魚のようだ。
そちらの成果は全く上がらなかったものの、銃の効果は証明できたので良しとする。
そして教室の中も一応覗いてみようと扉を開いた時、
向こうから、足音が聞こえた。
即座に私は開いた扉の中に滑り込む。
どうやらまだ人が残っていたようだ。
戦闘が行われた場所にいる人物。
加害者か、それとも、私のように戦闘後にここに来た人物か。
『生命反応を感知。前方の教室に何者かがいます』
「グム!? 誰かいるのか?」
しかも相手は他の参加者の存在を探知する道具を持っているらしい。
私は扉から外にある水槽――反射して見える相手の姿を確認する。
うまく反射せず、よく見えないが、肌色の長身の男がいることを確認。
そしてその手に、見知った姿があった。
「―――! これは……」
その姿を確認した私は、ゆっくりと相手へ姿を現す。
そして姿をはっきりと肉眼で視認する。
―――涼宮ハルヒ。
その姿を、血に濡れた姿を確認し、私の目が見開かれ、
相手に飛びかかり、抹殺しようとする思考ができるのを即座に抑える。
私に人間のような激情があることを驚きつつも、感情を抑える。
殺人者が、わざわざ死体を運ぶというのは考えにくいし、
彼に付着している血は彼女を抱える際についたと思えるものしかなかった。
彼が涼宮ハルヒを殺した可能性は、低いと思われる。
無論、ゼロではないのだが。
「グ……グム……?」
落ち着いて、よく見てみると、その姿はウォーズマンから聞いた、
キン肉万太郎の容姿と一致している。
「あなたは、ウォーズマンの……」
「む!? ウォーズマンを知っているのか!?」
どうやら間違いなさそうだ。
ウォーズマンの話に聞く限りなら、
とりあえずは殺し合いに乗るような人間ではない。
ひとまずは彼に涼宮ハルヒを発見した状況を聞かなければ……
「あの、あなたはみくるさん、ですか……?」
そこで、ようやく万太郎の後ろにいた少女の姿を確認する。
金髪に、オッドアイという珍しい子だ。年齢はメイちゃんと同じぐらいだろうか。
私を朝比奈みくると勘違いした理由は分からないが。
そして、少女の顔にかかったシロイモノをみて、私の思考はフリーズを起こす。
ヴィヴィオに自分の状態を気にするほど心の余裕は持っておらず、
途中からスグルもヴィヴィオの様子を気にして、失念していたのだが、
先ほどスグルの手からすべったヨーグルトは、未だにヴィヴィオについたままだった。
そしてそのヨーグルトは、地面に気絶して、汚れたヴィヴィオの手と、若干の涙を吸い、
――純白のようだった色を、薄汚れた色へと変え、
――水分を吸い、埃と混ざることで、粘着性を増し、
――不純物と混ざったヨーグルトは、異臭を放っていた。
ヴィヴィオ自身は鼻水で鼻がふさがっており、匂いが分からず、
スグルはハルヒの血の匂いで気付かなかったのだが、
朝倉涼子の鼻孔には、その匂いが届いていた。
改めて目の前にいる人の特徴をあげてみよう。
涼宮ハルヒの死体を抱え、
タンクトップ姿で、
豚鼻たらこ唇のの男が、
白くて汚く、異臭を放つナニモノカを顔中にひっ付け、
目尻には涙を浮かべ、
純粋そうな幼い子供を、ひきつれている。
そんな人が目の前にいて彼が危険人物ではないと判断できる?
うん、それ無理。
【C-3 高校・廊下/一日目・朝】
【名前】 朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】 健康
【持ち物】ボウイナイフ、鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、@ケロロ軍曹 、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹
不明支給品0~1(武器では無い) 、メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック(支給品一式)
【思考】
0:スグルを大いに警戒。涼宮ハルヒの情報を引き出す。手段は問わない
1:長門有希を止める
2:キョン、古泉、みくる、キョンの妹、草壁姉妹を探すため北の施設を回る
3:基本的に殺し合いには乗らない。ただし涼宮ハルヒを殺した人物は容赦無く殺す
4:まともな服が欲しい
※長門有希が暴走していると考えています
※ウォーズマンから得た情報から、スグルのことを万太郎だと勘違いしています
【名前】キン肉スグル@キン肉マン
【状態】両方の二の腕に火傷跡と切り傷、脇腹に中度の裂傷
【持ち物】タリスマン@スレイヤーズREVOLUTION、ディパック(支給品一式×4) クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはSts、
ホリィの短剣@モンスターファーム~円盤石の秘密~、 SOS団団長の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱、金属バット@現実、100円玉@現実
不明支給品0or1
【思考】
0:この少女、ウォーズマンをしっているのか?
1:ハルヒを埋めてやる。
2:朝食をとりたい。デバイス二機から話も聞きたい。
3:少女(ヴィヴィオ)は保護する。
4:先ほどすれ違った超人?(キョン)の事が気になる。
5:キン肉万太郎を探し出してとっちめる。
6:一般人を守り、悪魔将軍を倒す。
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、疲労(大)、顔がヨーグルトまみれ
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0:この人、みくるさん……かなぁ。
1:ハルヒを埋めてあげたい。
2:顔がべたべたして気持ち悪い。洗いたい。
3:なのはママ、スバル、セイン、ノーヴェをさがす
【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※ハルヒから聞いた情報と、朝倉の服装から、朝倉をみくるだと勘違いしています。
支給品説明
【新・夢成長促進銃/オトナノカイダンノボルガン】
撃たれた相手は大人になってしまうという銃。
制限により、放送毎に元に戻ります。
放送直後に使用しても、放送直前に使用しても元に戻るのは放送時です。
*時系列順で読む
Back:[[少女×雨×拷問]] Next:[[キョン> キョン]]
*投下順で読む
Back:[[少女×雨×拷問]] Next:[[キョン> キョン]]
|[[ハレ晴レフユカイ]]|朝倉涼子|[[麗しくも強き女王の駒]]|
|[[BRAVE PHOENIX]]| キン肉スグル|[[麗しくも強き女王の駒]]|
|[[BRAVE PHOENIX]]| ヴィヴィオ|[[麗しくも強き女王の駒]]|
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*不屈の涙とシロイモノ ◆EFl5CDAPlM
目が覚めて、一番最初に感じたのは、顔全体に感じた不快感。
ベトベトしたそれに覚醒しかけた視界がやや歪むが、それを押して目を開ける。
「ゲェー!?」
聞き覚えのある、誰かの声を聞き、起き上がる。
それから首を振り、見たことのある人物と目が合った。
さっき闇の中で、ハルヒが「豚ブタ鼻のおっさん」と言っていた人物だ。
気を失う前に、名前を聞いた気がする。確か……
「えっと……キン肉マン、さん……?」
手にヨーグルトのカップを持って、こちらを唖然と見つめたままのスグルは、その声にはっと我にかえった。
「う……うむ! 私の名前はキン肉スグル! またの名を正義超人、キン肉マン!」
ヴィヴィオに名前を聞かれ、スグルはヴィヴィオが倒れる前と同じ名乗りを上げる。
何故か声色は上ずり、背中から冷や汗を流していたように見えるのは気のせいだろう。
「あ……あの……ごめんなさい。」
ヴィヴィオもスグルの様子に気づくことはなく、だが気絶する前に自分のしでかしたことや、
それによって傷ついたのであろう、腕やわき腹の傷には気付いた。
「グム? ああ、この傷か。大したことはない。ほれ、この通り!」
そう言ってスグルは両腕をぶんぶん振りまわす。
やはり挙動がややおかしい気がするが、ヴィヴィオは気付かない。
「それでも、ごめんなさい。キン肉マンさんはぜんぜんわるくないのに。」
その言葉に、続いてストレッチもしようとしていたスグルは動きを止め、
ヴィヴィオをしっかりと見据える。
そしてヴィヴィオの頭に、先ほど落ち着かせるためにしたように、手をのせる。
「大したことはないと言っておるだろう! しかし、それでも気にするのであれば、
笑ってくれ! 子供は笑っておるのが一番だ!」
そう言ってニカっと笑い、ヴィヴィオの頭を、ワシャワシャと撫でる。
「うん……」
『ヴィヴィオ、大丈夫ですか?』
スグルの付近から声が聞こえる。クロスミラージュだ。
「うん、大丈夫。クロスミラージュも心配掛けてごめんなさい。バルディッシュも、ごめんなさい。」
『いえ、ヴィヴィオが元気になったのなら、それで十分です。』
ヴィヴィオは自分が決して一人ではないことをはっきりと感じ取る。
そして、それを教えてくれた人へと向き合う。
血だまりに倒れていた、生前は明るい笑顔で、自分を励ましてくれた人。
ついさっきまで、元気に笑って、一緒にママを探してあげると高らかに、朗らかに言ってくれた人。
自分が疲れてても、それでもヴィヴィオを心配掛けまいと、してくれた人。
(ハルヒ、お姉ちゃん……)
泣きはらした瞳に、ふた度液体がたまり、目尻にそれがたまろうとする。
だがヴィヴィオは、顔を強引に拭い、溜まろうとするそれをふき取る。
――泣かない。だってお姉ちゃんと約束したから。
――モッチーとも、フェイトママとも約束したから。
――頑張るって。
「バルディッシュ、クロスミラージュ」
『what?』
『なんでしょうか?』
「フェイトママと、モッチーは?」
『!!』
『そ……れは……』
あの時、泣いていた自分をハルヒは励ましてくれた。
死んでしまった、ハルヒが。
そして、モッチーも、フェイトも励ましてくれた。
ハルヒとおなじように、ヴィヴィオはひとりじゃない、と。
死んだはずのハルヒとの対話。
死んで尚、生きていたもののことが気がかりで、ヴィヴィオに語りかけに来たのか、
それとも、ただ単にヴィヴィオが勝手に描いた妄想か。
いずれにせよ、それは現実ではありえない光景であった。
そして、ハルヒと同じように自分を励ましてくれたフェイトとモッチー。
「二人とも、死んじゃったの?」
『……肯定です』
『……死体は確認していませんが、先ほど死亡発表で名前を呼ばれました』
「そ、か…………」
ヴィヴィオの問いに、インテリジェントデバイスである二機は嘘をつくことができなかった。
その答えを聞いたヴィヴィオは、小さく言葉を発すると、そのまま黙りこくる。
先ほど見た光景は、現実のものではない。それはヴィヴィオも理解してる。理解した。
だがそう思っていても、一緒にいたフェイトとモッチーがハルヒと同じ存在になっている。
それを漠然と感じ取り、そういうことなのだと気付いてしまっていた。
スグルも声をかけることができない。
こんなにも幼き少女が、3人も知り合い……それも仲のよかった者と死に分かれて、
泣かずにうずくまっているところに、どのような声をかけていいかわからず、立ち尽くすだけだった。
「キン肉マンさん」
「グ、グム!?」
故に、自分の名を呼ばれたことに、はっと驚く。
「ハルヒお姉ちゃんのお墓、作ってあげたいの……」
その少女の願いを、
泣くのを必死にこらえようとして、失敗している潤んだ瞳を、
闇に落ちない純真で、不屈な心をみたスグルに、断る理由なんて存在しなかった。
* *
うっそうとした森の中を歩き続けた私は、やがて森を抜け、開けた場所に出た。
地図が正確ならば、このまま西北西に進めば中・高等学校に着くはずだ。
私のいた位置から北の市街地に向かったらホテルについたであろう。
だけど私がそのまま北に向かわずに、わざわざこの方角に進んだのは、
中・高等学校ならキョン君たちが向かう可能性が一番高いと判断したからだ。
キョン君達が私と同様、長門さんが暴走状態にあると推測するかどうかは分からない。
それでも私が否定した可能性、クサカベタツオに利用されている可能性や、
長門さんの上の情報統合思念体によるものだと推測する可能性はある。
そうでなくても、長門さんと何らかのコンタクトがとりたいと考えるだろう。
そして彼女と連絡を取りたいと考えるなら、一番彼女にとって縁のある場所をまず捜索対象に定めるはずだ。
私の把握する限り、彼女にゆかりのある建物は学校を置いてほかにない。
ならば学校に向かうのが一番彼らに会える可能性は高い。
そう考えたから私は、学校へ足を向けたのだ。
後は彼女が本をよく読んでいたことを踏まえて、図書館も候補に挙げていいだろう。
幸い図書館は学校の近くにあるので、学校の捜索を終えてから回ってみることにする。
しばらく進むと目的の学校も見えてくる。
(形状はいたって普通。私のよく知る学校とも違う。ここが長門さんの作りだした空間だって発想は流石に考えすぎだったか)
この学校が私の知る学校と似ていたのなら、
そこから長門さんのことを推測する材料にでもなるかと思っていたが、そう簡単にはいかないらしい。
まあ、たいして期待していなかったのだから落胆などもしないのだが。
ひとまず中に誰かいるか探そうとして、ふとそれに気づく。
校舎の壁に穴があいているのだ。
どうやらここで既に戦闘があったようだ。
破片の飛び散り具合から、中から爆発物かなにかで吹き飛ばしたのだろうと推測できるが、
中で爆発があった割には破壊された壁以外に損傷が見当たらない。
廊下の蛍光灯は砕けてないし、反対側の窓や扉も壊れていない。
「……爆発物じゃないのかしら」
ここにはウォーズマンのような超人が数人いるし、力だけで破壊したと考えることもできる。
だが、争ったのではないのだとするとわざわざ壁を破壊する理由がない。
ただ破壊したかった狂人にしては、他の場所が損傷していないのは変だし。
ちょっとしたショートカットのつもりだろうか?
玄関まで行くのが面倒だと思うほどの短気な性格だったとか。
だが、これも推測になるのだが、自身が情報統合思念体とのコンタクトがとれず、
情報改変能力やその他の能力も制限されているように、
他の参加者も能力の制限がされている可能性がある。
そしてそれはウォーズマンのいっていたような超人パワーというのも例外ではないだろう。
その仮説が正しかったのだとしたら、このような穴、制限された力で開けるのも骨だろう。
能力で安易に開けられるとは思えない。
参加者の手によるものではないのだとすると、やはり支給品によるものだという結論になるが、
無駄に壁を破壊する為に貴重な道具を使用するとは思えない。
(だけどそれは普通の支給品だったらの話)
ここにはメイちゃんから頂いた奇妙な銃や、私のデイバッグにはいっていた物みたいに、
妙な物がたくさんある。
――涼宮ハルヒが生きていたのなら、喜んだであろう変なものが。
無論ここは殺し合いの舞台なので、用途に困る妙なものばかりではなく、
殺し合いに使えるような妙なものもある可能性は否定できない。
それこそフィクションにあるようなビームライフルがでてきてもおかしくないだろう。
そしてそんなものが支給されたのなら、性能を信じる前に、試しに使ってみるのが普通だろう。
私が鬼娘専用変身銃を自分に向けて撃ったように。
となると、ここでこの殺し合いを開始した人物によるしわざか、
ここで他の参加者を殺し、支給品を奪った者によるしわざだろう。
私は玄関からではなく、破壊されてできた穴から学校の中にはいり、中を捜索する。
ここですでに争いが起きた以上、被害者も加害者もいなくなっている可能性が高く、
故に中に人がいる可能性は低くなってしまったが、
せっかくきたのだ。軽く回るぐらいはしておきたい。
穴から左に進むと、『ksk室』と書かれた標識と、その近くにある水槽を発見した。
水槽の中には何かうごめくものがある。……鑑賞用の魚か。
よくみると、水槽の中には稚魚用の水槽も入れられており、卵からかえったばかりと思われる小さな稚魚もそこにいた。
当然というか、首輪はされていない。
この舞台に呼ばれて、はじめて参加者ではない生物を見た。というか普通に生物がいたのか。
ご丁寧にも魚の餌も近くに置いてある。与えろというのだろうか。
そして野生動物ではなく、このような生物がここにいるということは、
長門さんやクサカベタツオがわざわざ設置したということだろう。
……意図が分からない。
この魚に何か特殊なところは見えないし……―――そうだ。
これまで使用しなかったあれを使ってみよう。
先ほど性能はあらかじめ試すのが普通だと認識したのだし。
そう考えた私は、デイバックの中から銃を取り出す。
鬼娘専用変身銃ではない。自分が持っていて、今まで使わなかった銃だ。
私は水槽の中で、隔離された小さな水槽の方にいる、稚魚を狙う。
照準を定め、引き金を引く。
すると魚は見る見るうちに大きくなり、普通の水槽にいる魚と同等の大きさまで成長した。
(……成功。どうやら説明書通りのようね)
その銃は名前を新・夢成長促進銃といって、生物の姿を未来のものにすることができる銃だった。
戻す方法が時間経過でしかない以上流石にこの銃を私自身に試すわけにはいかないし、
そもそも私は人間でない以上、効き目があるのかわからない。
ウォーズマンに使うのも却下だ。ロボ超人である彼に撃ったらスクラップになりました。
何てことになったかもしれなかったし、それによる戦力の低下は避けたかった。
メイちゃんは適役だったが試そうとする前に色々あってこの銃の存在を忘れているうちに攫われてしまった。
そのように、今までこの銃を使うに適した者がいなかったから試せなかった。
私は夢成長促進銃をデイバックにしまい、稚魚用の水槽で狭そうにしている魚を見る。
成長した以外に変化はない。普通の魚のようだ。
そちらの成果は全く上がらなかったものの、銃の効果は証明できたので良しとする。
そして教室の中も一応覗いてみようと扉を開いた時、
向こうから、足音が聞こえた。
即座に私は開いた扉の中に滑り込む。
どうやらまだ人が残っていたようだ。
戦闘が行われた場所にいる人物。
加害者か、それとも、私のように戦闘後にここに来た人物か。
『生命反応を感知。前方の教室に何者かがいます』
「グム!? 誰かいるのか?」
しかも相手は他の参加者の存在を探知する道具を持っているらしい。
私は扉から外にある水槽――反射して見える相手の姿を確認する。
うまく反射せず、よく見えないが、肌色の長身の男がいることを確認。
そしてその手に、見知った姿があった。
「―――! これは……」
その姿を確認した私は、ゆっくりと相手へ姿を現す。
そして姿をはっきりと肉眼で視認する。
―――涼宮ハルヒ。
その姿を、血に濡れた姿を確認し、私の目が見開かれ、
相手に飛びかかり、抹殺しようとする思考ができるのを即座に抑える。
私に人間のような激情があることを驚きつつも、感情を抑える。
殺人者が、わざわざ死体を運ぶというのは考えにくいし、
彼に付着している血は彼女を抱える際についたと思えるものしかなかった。
彼が涼宮ハルヒを殺した可能性は、低いと思われる。
無論、ゼロではないのだが。
「グ……グム……?」
落ち着いて、よく見てみると、その姿はウォーズマンから聞いた、
キン肉万太郎の容姿と一致している。
「あなたは、ウォーズマンの……」
「む!? ウォーズマンを知っているのか!?」
どうやら間違いなさそうだ。
ウォーズマンの話に聞く限りなら、
とりあえずは殺し合いに乗るような人間ではない。
ひとまずは彼に涼宮ハルヒを発見した状況を聞かなければ……
「あの、あなたはみくるさん、ですか……?」
そこで、ようやく万太郎の後ろにいた少女の姿を確認する。
金髪に、オッドアイという珍しい子だ。年齢はメイちゃんと同じぐらいだろうか。
私を朝比奈みくると勘違いした理由は分からないが。
そして、少女の顔にかかったシロイモノをみて、私の思考はフリーズを起こす。
ヴィヴィオに自分の状態を気にするほど心の余裕は持っておらず、
途中からスグルもヴィヴィオの様子を気にして、失念していたのだが、
先ほどスグルの手からすべったヨーグルトは、未だにヴィヴィオについたままだった。
そしてそのヨーグルトは、地面に気絶して、汚れたヴィヴィオの手と、若干の涙を吸い、
――純白のようだった色を、薄汚れた色へと変え、
――水分を吸い、埃と混ざることで、粘着性を増し、
――不純物と混ざったヨーグルトは、異臭を放っていた。
ヴィヴィオ自身は鼻水で鼻がふさがっており、匂いが分からず、
スグルはハルヒの血の匂いで気付かなかったのだが、
朝倉涼子の鼻孔には、その匂いが届いていた。
改めて目の前にいる人の特徴をあげてみよう。
涼宮ハルヒの死体を抱え、
タンクトップ姿で、
豚鼻たらこ唇のの男が、
白くて汚く、異臭を放つナニモノカを顔中にひっ付け、
目尻には涙を浮かべ、
純粋そうな幼い子供を、ひきつれている。
そんな人が目の前にいて彼が危険人物ではないと判断できる?
うん、それ無理。
【C-3 高校・廊下/一日目・朝】
【名前】 朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】 健康
【持ち物】ボウイナイフ、鬼娘専用変身銃@ケロロ軍曹、@ケロロ軍曹 、新・夢成長促進銃@ケロロ軍曹
不明支給品0~1(武器では無い) 、メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック(支給品一式)
【思考】
0:スグルを大いに警戒。涼宮ハルヒの情報を引き出す。手段は問わない
1:長門有希を止める
2:キョン、古泉、みくる、キョンの妹、草壁姉妹を探すため北の施設を回る
3:基本的に殺し合いには乗らない。ただし涼宮ハルヒを殺した人物は容赦無く殺す
4:まともな服が欲しい
※長門有希が暴走していると考えています
※ウォーズマンから得た情報から、スグルのことを万太郎だと勘違いしています
【名前】キン肉スグル@キン肉マン
【状態】両方の二の腕に火傷跡と切り傷、脇腹に中度の裂傷
【持ち物】タリスマン@スレイヤーズREVOLUTION、ディパック(支給品一式×4) クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはSts、
ホリィの短剣@モンスターファーム~円盤石の秘密~、 SOS団団長の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱、金属バット@現実、100円玉@現実
不明支給品0or1
【思考】
0:この少女、ウォーズマンをしっているのか?
1:ハルヒを埋めてやる。
2:朝食をとりたい。デバイス二機から話も聞きたい。
3:少女(ヴィヴィオ)は保護する。
4:先ほどすれ違った超人?(キョン)の事が気になる。
5:キン肉万太郎を探し出してとっちめる。
6:一般人を守り、悪魔将軍を倒す。
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、疲労(大)、顔がヨーグルトまみれ
【持ち物】バルディッシュ・アサルト(6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
0:この人、みくるさん……かなぁ。
1:ハルヒを埋めてあげたい。
2:顔がべたべたして気持ち悪い。洗いたい。
3:なのはママ、スバル、セイン、ノーヴェをさがす
【備考】
※ヴィヴィオの力の詳細は、次回以降の書き手にお任せします。
※ハルヒから聞いた情報と、朝倉の服装から、朝倉をみくるだと勘違いしています。
支給品説明
【新・夢成長促進銃/オトナノカイダンノボルガン】
撃たれた相手は大人になってしまうという銃。
制限により、放送毎に元に戻ります。
放送直後に使用しても、放送直前に使用しても元に戻るのは放送時です。
*時系列順で読む
Back:[[少女×雨×拷問]] Next:[[キョン> キョン]]
*投下順で読む
Back:[[少女×雨×拷問]] Next:[[キョン> キョン]]
|[[ハレ晴レフユカイ]]|朝倉涼子|[[麗しくも強き女王の駒]]|
|[[BRAVE PHOENIX]]|キン肉スグル|~|
|~|ヴィヴィオ|~|
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