「命の選択を:急」(2008/11/29 (土) 13:06:13) の最新版変更点
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*命の選択を:急 ◆S828SR0enc
【10:17 B-6・民家一階、居間】
「申し訳ないでありますっ!」
がばし、という音がしそうな勢いでケロロは土下座した。
ここは先ほどとは変わって民家の中、ケロロの頭は畳にすりつけられても土に汚れたりはしない。
だがそれが歯がゆい。
そう思うほどに、今のケロロは申し訳なくてしかたなかった。
「我輩が油断していたばかりに、加持殿がお怪我をっ!」
先ほどから流れる涙は止まらない。
目の前に座る加持は、困った様子で苦笑している。
その左ひじの手前あたりには、何層にも巻きつけられた包帯があり、その下に傷がある。
ケロロを庇って負った傷だ。それもなかなかに深い。
「我輩がもっと、もっとしっかりしていれば、こんなことにはっ!」
「だからもういいって。みんな無事だったんだ、それで十分だろう?」
そう言って左腕を動かし、いてて、と顔をしかめながらも加持は微笑んでみせる。
今は痛くて動きづらいけど、しばらくしたら良くなるって、などと軽口を叩きさえしながら。
そして時折気遣わしげに、背後のソファの上に横になっているサツキを窺うのも忘れない。
彼女は先ほどの戦闘でショックを受けたので安静にしているのである。
――深い怪我を負ったというのに、その原因となった我輩を責めないばかりか、他の者を気遣うとは……!
「あんたも少し休んだ方がいい。さっき頭打ったのがまだ響いているんだろう。
あいつが何を考えているかは知らないが、とにかく俺もあんたも被害者なのは確かなんだ。
あいつのことをわかってやれなかった俺も悪いってことで、な?」
そう言ってソファに背を預け、小さくウィンクしてみせる。
今も続いているであろうその腕の痛みさえ何でもないような顔をして、穏やかに。
――ああ、なんと素晴らしい御仁でありますかぁぁぁぁぁ!
ケロロはただ感動していた。
加持の優しさや気遣い、そして勇気はまさに称えられるべきものだ。
しかし彼はそれを気取らず、むしろ軽いしゃべり口でこちらの気分を明るくしてくれる。
(助けていただいたお礼もあるであります!
加持殿の命、必ずやこのケロロ軍曹が守るでありますよ~!)
目の奥に炎を燃やし、一念発起。
ファイティングポーズを取ってどことも知れぬ空間にパンチを打ち込むそのさまを、加持が笑って見ている。
サツキは今は静かにソファーの上に横たわり、目を閉じて心を落ちつけているようだ。
(そういえば冬月殿にタママ、いくらなんでも遅いですなぁ。
水を汲みにどこまで行っているんでありますか?)
くらくら頭でへなちょこパンチを放ちながら、ケロロは頭の片隅でちらりとタママたちのことを考えた。
◇ ◇ ◇
【10:15 B-6・民家一階、廊下】
木張りの廊下に小さな足跡が響く。
ケロロ達三人を居間に残し、タママは床を軋ませながら廊下を進んだ。
その顔に、何とも言えない憎々しげな色を浮かべながら。
(ちぃぃ……まさかよけられるとは思ってなかったですぅ……)
間一髪でタママインパクトをよけ、市街地に消えたあの女。
追いかけて仕留めてやりたい気持ちは満々だったが、加持の怪我がひどさゆえにそれは叶わなかった。
そのため当初の予定通り、今は公民館近くの民家にこうして隠れている。
(…………)
きし、きし、と床を軋ませ、静かに耳を澄ましてタママは歩く。
その心の中にはあの女への警戒心とケロロを守り損ねたことへの罪悪感、
そして一連の戦闘のショックで体調を崩してしまったサツキへの申し訳なさが浮かんでは消えていく。
だが、今の彼の心を最も占めているのはそのどれでもない。
「おや、タママくん。何か用かね?」
同じく床を軋ませ、廊下の向こうから洗面器を持った冬月が現れた。
ケロロ達の土に汚れた体を拭くために、水を汲んで来たのだ。
その後を追って、冬月を手伝うという名目でやってきたというのに、タママは特に何かをしようというのでもない。
冬月が不思議そうにこちらを見やるのも、当たり前のことだった。
「……フッキ―、あいつは駄目ですぅ」
押し殺したような声がタママの喉から洩れる。
そこに込められたのは果てしない敵意、そして怒りだ。
「あいつ、とは?」
「カジオーですぅ……フッキ―、あの男はボクたちを騙しているんですぅ。
さっきあの女が襲ってきたのも、あの男の差し金なんだって、ボクわかっちゃったんですから」
あの女、と言って冬月が宙を仰ぐ。
彼の次の言葉を待たずに、タママは声を上げた。
「あの女、タママインパクトを撃つ直前、こう言ってたですぅ。
“褒めてくれるって……加持さん……”って。
ほら、どっからどう見てもボク達を襲わせる寸法だったってことですぅ?
それがこっちの出方をみてあの女を捨ててこっちに味方した方がいいと判断したから――」
「……タママくん」
息まくタママを、冬月が静かにさえぎる。
「彼女はもともと彼によくなついていたんだよ。
こんな異常状態で、錯乱状態の中でそのことが口をついて出たのかもしれない。
何より彼は自分の身を犠牲にしてまでケロロくんを庇ったんだ……仲間を疑うべきではないと、私は思う」
「フッキ―……」
そのまま静かにタママの頭をひとなでして、冬月は居間に向かった。
その背中を見つめ、タママは声を荒げる。
「でもアイツ、サッキーの荷物から何かをくすねたんですぅ!
本当に仲間なら、そんなことする必要ないのに!おかしいですぅ!」
その言葉にぴたりと足を止め、だが冬月は繰り返した。
「タママくん……仲間を疑うべきではないと、私は思うよ」
そして振り返りもせず、彼の背中は居間へと消える。
それを見届けて、タママは目に見えない何かを握り潰そうとでも言うかのように、手を強く握りしめる。
(フッキ―も、アイツにだまされてるんですぅ……このまま行けば、みんなの命が危ない……。
軍曹さんの命を狙ったあの女についてはまた別の時に考えることにして、今はみんなを守らないと……。
あいつはきっとまたボクらを殺すチャンスを狙ってくる……
ひょっとしたら、またさっきの女をけしかけてくるかもしれないですぅ。
何があろうとボクだけは絶対、ぜぇーったい騙されないですからねぇ……)
冷たい廊下をひたひたと歩きながら、タママは一人、心の目で加持をにらみつけていた。
◇ ◇ ◇
【10:18 B-6・民家一階、居間】
(まったく、元気だねぇ……)
わけのわからないハッスルを続けるケロロを横目に見ながら、加持はため息をついた。
こっちは腕が痛いのを我慢しているというのに、このカエル星人は呑気なものだ。
こっちの子供のようにあの程度で体調を崩されるのも困るが、こうも能天気なのも嫌な気分になる。
(ま、我慢我慢……)
腕は痛い。
アスカが何を思いつめたのかは知らないが、思いきり刺してくれたおかげだ。
今は動かなくても痛みが走る。動かせば激痛だ。
そういう意味ではとんだとばっちりだったが、この左腕と引き換えに手に入れたものは大きいだろう。
信頼。
そう、身を呈して仲間をかばった男を疑う奴などいない。
ここから先加持がどんな行動を起こしても、そこには信頼のフィルターが掛かる。
それを思えば、左腕一本など安いものなのかもしれないとさえ思えた。
(あとは、こいつを何とかすれば……)
ちらりとうかがうのは、ソファの上で休んでいるサツキ。
否、その手に握りしめられている首輪探知機だ。
ショックを受けた彼女の心の平穏につながればと、ケロロが半ばお守りのように持たせた品。
それさえなければ、加持は自由に動ける。
(壊れたか、紛失したか……レーダーがなくなれば、アスカが近くに潜んでいてもわからない。
逆にいえば、全ての不幸な出来事は近くにいる『かもしれない』アスカのせいにできる)
悪い大人だ、と自分でも笑いがこみあげそうな考えだ。
だが、左腕を犠牲にしたのだから、それに見合うだけのものはぜひ利用したい。
そう、絶対的な信頼を築いた今ならば、行動に移してもそれは『見えざるアスカのせい』だ。
誰にも警戒されることなく、望みをかなえることが出来る。
(そろそろ、御退場願うべきだな……)
欲しかった信頼は手に入れた。冬月の存在価値はもうないに等しい。
そしてこの足手まといの少女は案の定大して役には立たない。これも必要ない。
(そう、このレーダーさえ何とか出来れば……)
目を閉じた少女は起きているのか、寝ているのかさえわからない。
水を汲みに行ったきり帰ってこない冬月を待ちながら、加持はゆるく天井をあおぎ、うっすらと笑った。
◇ ◇ ◇
【10:14 B-6・民家一階、台所】
古めかしい和風の台所に、水音がぽつぽつと落ちる。
栓の閉まりきらない水道から水を汲んだ洗面器を取り上げ、冬月は嘆息した。
どこかで予想していたようで、していなかったこの状況。
(彼女は、いったい何を思ったのか……)
こちらの言葉に耳を貸さず、問答無用で彼らを攻撃していた。
化け物、と繰り返し呟いていたからには、誰かに襲われでもしたのだろうか。
彼女の右手の指が一本足りないことには気づいていた。
元々警戒心の強い彼女のこと、それで疑心暗鬼に陥ってしまった可能性は高い。
(それに、タママくんと加持くん……)
喫茶店にいるときから、やたらとタママは加持に突っかかっていた。
その対立は加持がケロロを庇って怪我を負った今も、はっきりとは見えない形で残っている。
加持に接するタママの態度には奇妙な敵意というか、疑いのようなものが滲んでいるのだ。
相性が悪い、の一言で済ませていいのかとも思う。
元々シビアな性質の加持は、先ほどまで何度も弱者切り捨て的な理論を言ってはタママと対立していた。
それがこれからも続くというなら、この集団に大きなひびが入りかねない。
それがアスカのことも合わせ、冬月の頭を悩ませている。
「まったく、彼女も気の毒にな……」
水の中にタオルを浸しながらため息をつく。
まだ幼い少女には、知り合いをその知り合いが襲う光景というのは非常に恐ろしかったことだろう。
元気になってくれればいいのだが、と顔色を真っ青にしていたサツキを思い出し、冬月はもう一度ため息をついた。
◇ ◇ ◇
【10:11 B-6・民家一階、居間】
(……大丈夫だと思ったのに)
加持の背からおろされてソファに横たわって以来、サツキはずっとそんなことを思っている。
目を閉じればそこに蘇るのはさきほどの光景。
飛び散る血と、深く腕に刺さったナイフ。
そして、憎しみと怒りにそまったあの女の子の顔。
――まるで、鬼のような顔。
思い出してぶるりと震え、サツキは手を強く握りしめた。
その中には軍曹が持たせてくれた探知機がある。ちらりとうかがえば、この付近に光点はない。
そうするとサツキはようやく目を閉じることが出来る。
頭は熱いのに、手足の先が冷え冷えとしてる、なんとも奇妙な感覚が体を覆っていた。
(普通の人だと思ったのに。
冬月さんの知り合いの、普通の女の子だって言うから。
大丈夫だと、仲間になれると思ったのに。
……怖いよ、みんな、怖い)
謝ってくれたとはいえ、突如豹変して自分を殴ったタママ。
鬼のような顔で、何もしていない軍曹たちを襲ったあの少女。
(……ここは、怖い人ばっかり……家に帰りたい。
メイ、メイはどうしているんだろう。泣いていないかな、道に迷っていないかな。
私がお姉ちゃんだから、怖い人から守ってあげないといけないのに……
あの子、泣き虫だから、守ってあげなくちゃなのに……)
もう一度見た探知機には、やはり他のひとの光はない。
それに安心したようながっかりしたような気分で、サツキはひとり、目を閉じた。
【B-6 公民館近くの民家/1日目・昼前】
【名前】ケロロ軍曹@ケロロ軍曹
【状態】軽い脳震盪(回復中)、全身に擦り傷
【持ち物】北高女子の制服@涼宮ハルヒの憂鬱、ジェロニモのナイフ×4@キン肉マン、自転車@現実、
デイパック、基本セット
【思考】
0.ゲームを止める
1.しばらくここで休息し、サツキや加持の体調の回復を待つ。
2.加持に対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
3.冬樹の仇は、必ず見つけ出し償わせる。
4.メイを探す。協力者も捜す。
5.ゲームに乗った者、企画した者は容赦しない。
6.で、結局トトロって誰よ?
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分が見たことのある作品の知識はあいまいになっているようです。
【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】 全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、加持への強い疑い
【持ち物】 マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStS、ディパック、基本セット
【思考】
0.軍曹さんを守り、ゲームを止める。妨害者は排除。
1.加持に強い警戒、敵対心。何か行動を起こしたら自分が他のみんなを守らなくては。
2.加持が盗んだものを確かめ、危険物なら排除。
そのためにケロロかサツキに加持の目が無いところでサツキのデイパックの中身を訊く。
3.次にアスカに会ったら絶対に逃がさない。
4.サツキの体調が回復次第何らかの行動に移る。
【加持リョウジ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】左腕負傷(動かすと激痛、何もしなくても痛い)
【持ち物】基本セット ディパック 毒入りカプセル@現実、グロッグ26(残弾11/11)と予備マガジン2つ@現実
【思考】
0.何としても生き残る
1.冬月、もしくはサツキを機を見て殺す。そのためにサツキのレーダーを何とかしたい。
2.アスカを隠れ蓑にしつつ、ケロロ達に築いた信頼をうまく利用したい。
3.とにかく使える仲間を得たい、その際邪魔者は殺す。
4.なのはとは出来れば合流し、守ってもらいたい。
※主催の二人はゼーレの上位にいる人間ではないかとも思っています 。
※カップ焼きそばのうちの一つの中身が捨てられ、代わりにグロッグ26と予備マガジンが隠されています 。
ふたつともすぐにでも取り出せる状態です。
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(小)
【持ち物】 ソンナ・バナナ一房(残1本)@モンスターファーム~円盤石の秘密~、 スタンガン&催涙スプレー@現実
不明支給品0~1、ディパック、基本セット(名簿破棄)
【思考】
0.ゲームを止め、草壁達を打ち倒す
1.サツキや加持の様子を見ながらここで休息し、公民館に来るかも知れない小砂を待つ。
2.シンジ、夏子、ガルル、ドロロを探し、導く。
3.タママとケロロを信頼 。
4.首輪を解除する方法を模索する。
5.アスカの事情はわからないが、もう一度あったら保護したい。
6.加持については――――
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています 。
※タママの話を聞いて、加持についての考えが変わったかは次の書き手さんにおまかせします。
【草壁サツキ@となりのトトロ 】
【状態】全身にダメージ(中・手当て済み)、精神消耗気味
【持ち物】拡声器@現実、首輪探知機@現実?、デイパック、基本セット
【思考】
0.メイを守りたい。
1.よくわからないけど、ここには怖い人がたくさんいるので怖い。
知らない人を信頼していいのかわからない。
2.冬月さんや軍曹たちと行動する。
3.トトロ……?
※トトロに会う前からの参戦
※ケロロを名前と外見(人外)からトトロとかかわりがあるのかもしれないと考えています。
※B-7・喫茶店内の壁に冬月とタママの暗号が残っています。
*時系列順で読む
Back:[[命の選択を:破]] Next:[[魔物の群れはいなくなった]]
*投下順で読む
Back:[[命の選択を:破]] Next:[[魔物の群れはいなくなった]]
|[[命の選択を:破]]|ケロロ軍曹|[[]]|
|~|草壁サツキ|~|
|~|タママ二等兵|~|
|~|冬月コウゾウ|~|
|~|加持リョウジ|~|
*命の選択を:急 ◆S828SR0enc
【10:17 B-6・民家一階、居間】
「申し訳ないでありますっ!」
がばし、という音がしそうな勢いでケロロは土下座した。
ここは先ほどとは変わって民家の中、ケロロの頭は畳にすりつけられても土に汚れたりはしない。
だがそれが歯がゆい。
そう思うほどに、今のケロロは申し訳なくてしかたなかった。
「我輩が油断していたばかりに、加持殿がお怪我をっ!」
先ほどから流れる涙は止まらない。
目の前に座る加持は、困った様子で苦笑している。
その左ひじの手前あたりには、何層にも巻きつけられた包帯があり、その下に傷がある。
ケロロを庇って負った傷だ。それもなかなかに深い。
「我輩がもっと、もっとしっかりしていれば、こんなことにはっ!」
「だからもういいって。みんな無事だったんだ、それで十分だろう?」
そう言って左腕を動かし、いてて、と顔をしかめながらも加持は微笑んでみせる。
今は痛くて動きづらいけど、しばらくしたら良くなるって、などと軽口を叩きさえしながら。
そして時折気遣わしげに、背後のソファの上に横になっているサツキを窺うのも忘れない。
彼女は先ほどの戦闘でショックを受けたので安静にしているのである。
――深い怪我を負ったというのに、その原因となった我輩を責めないばかりか、他の者を気遣うとは……!
「あんたも少し休んだ方がいい。さっき頭打ったのがまだ響いているんだろう。
あいつが何を考えているかは知らないが、とにかく俺もあんたも被害者なのは確かなんだ。
あいつのことをわかってやれなかった俺も悪いってことで、な?」
そう言ってソファに背を預け、小さくウィンクしてみせる。
今も続いているであろうその腕の痛みさえ何でもないような顔をして、穏やかに。
――ああ、なんと素晴らしい御仁でありますかぁぁぁぁぁ!
ケロロはただ感動していた。
加持の優しさや気遣い、そして勇気はまさに称えられるべきものだ。
しかし彼はそれを気取らず、むしろ軽いしゃべり口でこちらの気分を明るくしてくれる。
(助けていただいたお礼もあるであります!
加持殿の命、必ずやこのケロロ軍曹が守るでありますよ~!)
目の奥に炎を燃やし、一念発起。
ファイティングポーズを取ってどことも知れぬ空間にパンチを打ち込むそのさまを、加持が笑って見ている。
サツキは今は静かにソファーの上に横たわり、目を閉じて心を落ちつけているようだ。
(そういえば冬月殿にタママ、いくらなんでも遅いですなぁ。
水を汲みにどこまで行っているんでありますか?)
くらくら頭でへなちょこパンチを放ちながら、ケロロは頭の片隅でちらりとタママたちのことを考えた。
◇ ◇ ◇
【10:15 B-6・民家一階、廊下】
木張りの廊下に小さな足跡が響く。
ケロロ達三人を居間に残し、タママは床を軋ませながら廊下を進んだ。
その顔に、何とも言えない憎々しげな色を浮かべながら。
(ちぃぃ……まさかよけられるとは思ってなかったですぅ……)
間一髪でタママインパクトをよけ、市街地に消えたあの女。
追いかけて仕留めてやりたい気持ちは満々だったが、加持の怪我がひどさゆえにそれは叶わなかった。
そのため当初の予定通り、今は公民館近くの民家にこうして隠れている。
(…………)
きし、きし、と床を軋ませ、静かに耳を澄ましてタママは歩く。
その心の中にはあの女への警戒心とケロロを守り損ねたことへの罪悪感、
そして一連の戦闘のショックで体調を崩してしまったサツキへの申し訳なさが浮かんでは消えていく。
だが、今の彼の心を最も占めているのはそのどれでもない。
「おや、タママくん。何か用かね?」
同じく床を軋ませ、廊下の向こうから洗面器を持った冬月が現れた。
ケロロ達の土に汚れた体を拭くために、水を汲んで来たのだ。
その後を追って、冬月を手伝うという名目でやってきたというのに、タママは特に何かをしようというのでもない。
冬月が不思議そうにこちらを見やるのも、当たり前のことだった。
「……フッキ―、あいつは駄目ですぅ」
押し殺したような声がタママの喉から洩れる。
そこに込められたのは果てしない敵意、そして怒りだ。
「あいつ、とは?」
「カジオーですぅ……フッキ―、あの男はボクたちを騙しているんですぅ。
さっきあの女が襲ってきたのも、あの男の差し金なんだって、ボクわかっちゃったんですから」
あの女、と言って冬月が宙を仰ぐ。
彼の次の言葉を待たずに、タママは声を上げた。
「あの女、タママインパクトを撃つ直前、こう言ってたですぅ。
“褒めてくれるって……加持さん……”って。
ほら、どっからどう見てもボク達を襲わせる寸法だったってことですぅ?
それがこっちの出方をみてあの女を捨ててこっちに味方した方がいいと判断したから――」
「……タママくん」
息まくタママを、冬月が静かにさえぎる。
「彼女はもともと彼によくなついていたんだよ。
こんな異常状態で、錯乱状態の中でそのことが口をついて出たのかもしれない。
何より彼は自分の身を犠牲にしてまでケロロくんを庇ったんだ……仲間を疑うべきではないと、私は思う」
「フッキ―……」
そのまま静かにタママの頭をひとなでして、冬月は居間に向かった。
その背中を見つめ、タママは声を荒げる。
「でもアイツ、サッキーの荷物から何かをくすねたんですぅ!
本当に仲間なら、そんなことする必要ないのに!おかしいですぅ!」
その言葉にぴたりと足を止め、だが冬月は繰り返した。
「タママくん……仲間を疑うべきではないと、私は思うよ」
そして振り返りもせず、彼の背中は居間へと消える。
それを見届けて、タママは目に見えない何かを握り潰そうとでも言うかのように、手を強く握りしめる。
(フッキ―も、アイツにだまされてるんですぅ……このまま行けば、みんなの命が危ない……。
軍曹さんの命を狙ったあの女についてはまた別の時に考えることにして、今はみんなを守らないと……。
あいつはきっとまたボクらを殺すチャンスを狙ってくる……
ひょっとしたら、またさっきの女をけしかけてくるかもしれないですぅ。
何があろうとボクだけは絶対、ぜぇーったい騙されないですからねぇ……)
冷たい廊下をひたひたと歩きながら、タママは一人、心の目で加持をにらみつけていた。
◇ ◇ ◇
【10:18 B-6・民家一階、居間】
(まったく、元気だねぇ……)
わけのわからないハッスルを続けるケロロを横目に見ながら、加持はため息をついた。
こっちは腕が痛いのを我慢しているというのに、このカエル星人は呑気なものだ。
こっちの子供のようにあの程度で体調を崩されるのも困るが、こうも能天気なのも嫌な気分になる。
(ま、我慢我慢……)
腕は痛い。
アスカが何を思いつめたのかは知らないが、思いきり刺してくれたおかげだ。
今は動かなくても痛みが走る。動かせば激痛だ。
そういう意味ではとんだとばっちりだったが、この左腕と引き換えに手に入れたものは大きいだろう。
信頼。
そう、身を呈して仲間をかばった男を疑う奴などいない。
ここから先加持がどんな行動を起こしても、そこには信頼のフィルターが掛かる。
それを思えば、左腕一本など安いものなのかもしれないとさえ思えた。
(あとは、こいつを何とかすれば……)
ちらりとうかがうのは、ソファの上で休んでいるサツキ。
否、その手に握りしめられている首輪探知機だ。
ショックを受けた彼女の心の平穏につながればと、ケロロが半ばお守りのように持たせた品。
それさえなければ、加持は自由に動ける。
(壊れたか、紛失したか……レーダーがなくなれば、アスカが近くに潜んでいてもわからない。
逆にいえば、全ての不幸な出来事は近くにいる『かもしれない』アスカのせいにできる)
悪い大人だ、と自分でも笑いがこみあげそうな考えだ。
だが、左腕を犠牲にしたのだから、それに見合うだけのものはぜひ利用したい。
そう、絶対的な信頼を築いた今ならば、行動に移してもそれは『見えざるアスカのせい』だ。
誰にも警戒されることなく、望みをかなえることが出来る。
(そろそろ、御退場願うべきだな……)
欲しかった信頼は手に入れた。冬月の存在価値はもうないに等しい。
そしてこの足手まといの少女は案の定大して役には立たない。これも必要ない。
(そう、このレーダーさえ何とか出来れば……)
目を閉じた少女は起きているのか、寝ているのかさえわからない。
水を汲みに行ったきり帰ってこない冬月を待ちながら、加持はゆるく天井をあおぎ、うっすらと笑った。
◇ ◇ ◇
【10:14 B-6・民家一階、台所】
古めかしい和風の台所に、水音がぽつぽつと落ちる。
栓の閉まりきらない水道から水を汲んだ洗面器を取り上げ、冬月は嘆息した。
どこかで予想していたようで、していなかったこの状況。
(彼女は、いったい何を思ったのか……)
こちらの言葉に耳を貸さず、問答無用で彼らを攻撃していた。
化け物、と繰り返し呟いていたからには、誰かに襲われでもしたのだろうか。
彼女の右手の指が一本足りないことには気づいていた。
元々警戒心の強い彼女のこと、それで疑心暗鬼に陥ってしまった可能性は高い。
(それに、タママくんと加持くん……)
喫茶店にいるときから、やたらとタママは加持に突っかかっていた。
その対立は加持がケロロを庇って怪我を負った今も、はっきりとは見えない形で残っている。
加持に接するタママの態度には奇妙な敵意というか、疑いのようなものが滲んでいるのだ。
相性が悪い、の一言で済ませていいのかとも思う。
元々シビアな性質の加持は、先ほどまで何度も弱者切り捨て的な理論を言ってはタママと対立していた。
それがこれからも続くというなら、この集団に大きなひびが入りかねない。
それがアスカのことも合わせ、冬月の頭を悩ませている。
「まったく、彼女も気の毒にな……」
水の中にタオルを浸しながらため息をつく。
まだ幼い少女には、知り合いをその知り合いが襲う光景というのは非常に恐ろしかったことだろう。
元気になってくれればいいのだが、と顔色を真っ青にしていたサツキを思い出し、冬月はもう一度ため息をついた。
◇ ◇ ◇
【10:11 B-6・民家一階、居間】
(……大丈夫だと思ったのに)
加持の背からおろされてソファに横たわって以来、サツキはずっとそんなことを思っている。
目を閉じればそこに蘇るのはさきほどの光景。
飛び散る血と、深く腕に刺さったナイフ。
そして、憎しみと怒りにそまったあの女の子の顔。
――まるで、鬼のような顔。
思い出してぶるりと震え、サツキは手を強く握りしめた。
その中には軍曹が持たせてくれた探知機がある。ちらりとうかがえば、この付近に光点はない。
そうするとサツキはようやく目を閉じることが出来る。
頭は熱いのに、手足の先が冷え冷えとしてる、なんとも奇妙な感覚が体を覆っていた。
(普通の人だと思ったのに。
冬月さんの知り合いの、普通の女の子だって言うから。
大丈夫だと、仲間になれると思ったのに。
……怖いよ、みんな、怖い)
謝ってくれたとはいえ、突如豹変して自分を殴ったタママ。
鬼のような顔で、何もしていない軍曹たちを襲ったあの少女。
(……ここは、怖い人ばっかり……家に帰りたい。
メイ、メイはどうしているんだろう。泣いていないかな、道に迷っていないかな。
私がお姉ちゃんだから、怖い人から守ってあげないといけないのに……
あの子、泣き虫だから、守ってあげなくちゃなのに……)
もう一度見た探知機には、やはり他のひとの光はない。
それに安心したようながっかりしたような気分で、サツキはひとり、目を閉じた。
【B-6 公民館近くの民家/1日目・昼前】
【名前】ケロロ軍曹@ケロロ軍曹
【状態】軽い脳震盪(回復中)、全身に擦り傷
【持ち物】北高女子の制服@涼宮ハルヒの憂鬱、ジェロニモのナイフ×4@キン肉マン、自転車@現実、
デイパック、基本セット
【思考】
0.ゲームを止める
1.しばらくここで休息し、サツキや加持の体調の回復を待つ。
2.加持に対し強い信頼と感謝。何かあったら絶対に助けたい。
3.冬樹の仇は、必ず見つけ出し償わせる。
4.メイを探す。協力者も捜す。
5.ゲームに乗った者、企画した者は容赦しない。
6.で、結局トトロって誰よ?
※漫画等の知識に制限がかかっています。自分が見たことのある作品の知識はあいまいになっているようです。
【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】 全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、加持への強い疑い
【持ち物】 マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStS、ディパック、基本セット
【思考】
0.軍曹さんを守り、ゲームを止める。妨害者は排除。
1.加持に強い警戒、敵対心。何か行動を起こしたら自分が他のみんなを守らなくては。
2.加持が盗んだものを確かめ、危険物なら排除。
そのためにケロロかサツキに加持の目が無いところでサツキのデイパックの中身を訊く。
3.次にアスカに会ったら絶対に逃がさない。
4.サツキの体調が回復次第何らかの行動に移る。
【加持リョウジ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】左腕負傷(動かすと激痛、何もしなくても痛い)
【持ち物】基本セット ディパック 毒入りカプセル@現実、グロッグ26(残弾11/11)と予備マガジン2つ@現実
【思考】
0.何としても生き残る
1.冬月、もしくはサツキを機を見て殺す。そのためにサツキのレーダーを何とかしたい。
2.アスカを隠れ蓑にしつつ、ケロロ達に築いた信頼をうまく利用したい。
3.とにかく使える仲間を得たい、その際邪魔者は殺す。
4.なのはとは出来れば合流し、守ってもらいたい。
※主催の二人はゼーレの上位にいる人間ではないかとも思っています 。
※カップ焼きそばのうちの一つの中身が捨てられ、代わりにグロッグ26と予備マガジンが隠されています 。
ふたつともすぐにでも取り出せる状態です。
【冬月コウゾウ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(小)
【持ち物】 ソンナ・バナナ一房(残1本)@モンスターファーム~円盤石の秘密~、 スタンガン&催涙スプレー@現実
不明支給品0~1、ディパック、基本セット(名簿破棄)
【思考】
0.ゲームを止め、草壁達を打ち倒す
1.サツキや加持の様子を見ながらここで休息し、公民館に来るかも知れない小砂を待つ。
2.シンジ、夏子、ガルル、ドロロを探し、導く。
3.タママとケロロを信頼 。
4.首輪を解除する方法を模索する。
5.アスカの事情はわからないが、もう一度あったら保護したい。
6.加持については――――
※現状況を補完後の世界だと考えていましたが、小砂やタママのこともあり矛盾を感じています 。
※タママの話を聞いて、加持についての考えが変わったかは次の書き手さんにおまかせします。
【草壁サツキ@となりのトトロ 】
【状態】全身にダメージ(中・手当て済み)、精神消耗気味
【持ち物】拡声器@現実、首輪探知機@現実?、デイパック、基本セット
【思考】
0.メイを守りたい。
1.よくわからないけど、ここには怖い人がたくさんいるので怖い。
知らない人を信頼していいのかわからない。
2.冬月さんや軍曹たちと行動する。
3.トトロ……?
※トトロに会う前からの参戦
※ケロロを名前と外見(人外)からトトロとかかわりがあるのかもしれないと考えています。
※B-7・喫茶店内の壁に冬月とタママの暗号が残っています。
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|~|草壁サツキ|~|
|~|タママ二等兵|~|
|~|冬月コウゾウ|~|
|~|加持リョウジ|~|
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