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「叫び返せHUSTLE MUSCLE」(2009/10/24 (土) 18:16:31) の最新版変更点
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*叫び返せHUSTLE MUSCLE ◆NIKUcB1AGw
F-10、モール。今ここでは、二人の屈強な男たちがその鍛え抜かれた肉体をぶつけ合っている。
一人は正義の志を胸に抱く青年、「最強の遺伝子を継ぐ男」キン肉万太郎。
もう一人は邪悪な魂を胸に秘めた仕事人、「超人ハンター」ジ・オメガマン。
戦闘が始まってから、どれだけの時間が経っただろうか。戦いに全神経を注ぐ二人は、もはや時間など気にしていない。
ただお互いの体についた多くの傷と血が、決して短くない時間二人が戦い続けていることを物語っている。
戦いは、ほぼ五分と五分。単純な身体能力だけなら、超人強度で大きく上回るオメガマンのほうが上だ。
だが、超人の強さはカタログスペックだけでは決まらない。もしそうならば、神の力を得て1億パワーとなった運命の王子たちにキン肉マンが勝てることはなかっただろう。
技術、経験、戦略。そして何より、精神力。それらもまた、戦局を大きく左右する要素だ。
では、万太郎がカタログスペックで勝るオメガマンと互角に戦えている理由は何か。
技術は、決して大きな差は開いていない。経験や戦略は、まだ若手の域を出ない万太郎が百戦錬磨のオメガマンに勝てるはずがない。
つまり正解は精神力。気迫と言い換えてもいい。
気合いだけで勝てるなら苦労はない、そう思うかもしれない。だが超人という生物にとって、精神状態とはダイレクトに戦闘力を上下させる要素なのだ。
正義超人たちが最大のパワーの源とするのが、「友情」であることを考えてもらえばこの話は納得してもらえるだろう。
仲間たちを悪の手から守るという正義感と使命感。そして、尊敬すべき先人たちを侮辱したオメガマンへの怒り。
それらの感情が、万太郎にオメガマンと渡り合えるだけの力を与えているのだ。
もっとも、二人の体に課せられた「制限」の重さの違いがこの戦況に関与している可能性もあるが……。
この点については現時点では不確定要素が多すぎるため、今回は考えないものとする。
何はともあれ、万太郎とオメガマンは互角の戦いを演じている。これは紛れもない事実である。
オメガマンは、苛立っていた。
(くそ、簡単に勝たせてもらえる相手ではないと思ってはいたが、ここまで手こずるとは……。
Ωメタモルフォーゼが使えれば、もっと楽に戦えるのだが……)
そう、オメガマンが主導権を握れない理由の一つに、彼の最大の得意技である「Ωメタモルフォーゼ」を使っていないというのがあった。
別に、事情があって使用不能になっているわけでも自らに使用を禁じているわけでもない。
単に、この技に活用できそうな物体が近くに見あたらないというだけの話だ。
(椅子やら服やらを取り込んだところで、大して役に立つとは思えんし……。最初にマシンガンを手放してしまったのは完全に失策だったな)
戦闘開始直後に、オメガマンは万太郎の攻撃で持っていたマシンガンを落としてしまっている。
戦闘中に何度か拾おうとはしているのだが、さすがに万太郎も警戒しており横やりを入れて拾わせない。
あそこまで警戒されては、万太郎の動きをある程度封じなければ拾うのは難しいだろう。
(結局は、奴からダウンを奪わなければどうにもならないということか……。ええい、忌々しい!)
心の中で悪態をつきながら、オメガマンはフライングニーパットで万太郎を襲う。万太郎はガードを固め、それをがっちりと受け止める。
オメガマンが着地したと同時に、万太郎の回し蹴りが炸裂。オメガマンはそれを受けながらも脚をつかみ、万太郎を投げ飛ばす。
アスファルトに叩きつけられる万太郎。受け身はとったとはいえ、受けるダメージは衝撃をある程度吸収してくれるリングの比ではない。
「ぐうっ!」
「死ねッ!」
苦悶の表情を浮かべる万太郎に向かって、オメガマンはボディープレスで追撃する。
だが万太郎は、激突寸前にそれを回避。オメガマンはそのままアスファルトの上に落下し、自分の体を痛めつけてしまう。
「固いリングで戦うなら、落下系の技は控えた方がいいよ。命中した時は強力だけど、外した時に返ってくるダメージも大きいから」
「えらそうに語るな、この俺に向かって!」
万太郎の言葉に苛立ちを増幅させられたオメガマンは、素早く上半身を起こしてパンチを放つ。だが、それはあっさりと回避されてしまった。
逆に万太郎がカウンターで放ったパンチが、オメガマンの顔面を捉える。だがオメガマンはかまわずに、強引に立ち上がりながらアッパーカットで更に攻めた。
強引な攻めを読み切れなかったか、万太郎の頬をオメガマンの拳がかすめる。
万太郎がよろけた隙を見逃さず、オメガマンは更に追撃。至近距離からの膝蹴りが、万太郎の腹にめり込む。
「がぁっ!」
たまらず前のめりになる万太郎。その後頭部目がけて、オメガマンは組み合わせた両の拳を振り下ろす。
だがそれに対し、万太郎は強引に頭を跳ね上げオメガマンの拳をはじき返した。
「何だと!?」
「僕の石頭、甘く見てもらっちゃ困るよ!」
思わぬ反撃でバランスを崩したオメガマンに、万太郎はタックルを敢行する。そのままオメガマンを担ぎ上げた万太郎は、その体をボディスラムで思い切り地面に叩きつけた。
「ぐおおおおおおっ!」
アスファルトに叩きつけられ絶叫を挙げるオメガマンの脚を、万太郎がつかむ。
彼はオメガマンの脚に自分の脚を絡め、寝技へと移行する。古典的なプロレス技、足四の字固めである。
「足腰立たなくしてあげるよ!」
「グフォフォ……。流れとしてはよかったが、技の選択を誤ったな、キン肉マン! かかりが甘いぜーっ!」
「なにっ!」
足四の字を外しにかかるオメガマン。万太郎も、そうはさせじと必死に抵抗する。
攻防は膠着状態に陥るが、それを破ったのはオメガマンであった。
「そうだ、キン肉マン。ここら辺でいいものを見せてやろう」
「いいもの? まさか、水着ギャルの写真でも見せて僕の注意力をそぐ気か!」
「安心しな、もっといいものだぜ! そーら、とくと拝みなー!」
オメガマンが叫ぶと同時に、彼の背中にある巨大な手が開く。そして、その親指が変化を始めた。
「ま、まさかあれは……」
万太郎の顔が、青ざめていく。親指が変化していくその形に、彼は見覚えがあった。
やがて親指は、万太郎が思い描いたそのものに変化する。
「ゲェーッ! アシュラマンのおっさんの顔!」
そう、笑い、怒り、冷血の三つの顔面を持つそれは、アシュラマンの頭部に他ならなかった。
万太郎が驚愕で固まっている間に、アシュラマンの首は大きく口を開ける。そして、口の中の牙を万太郎の肩に突き立てた。
「ぎゃああーっ!」
万太郎の悲鳴が、モールに響く。痛みと驚愕で脱力した万太郎の足から、オメガマンは自分の足を抜く。
「グオーッフォッフォッフォ! 形勢逆転だな、キン肉マン!」
「な、なんでアシュラマンさんの顔が……」
「わからないか? なら教えてやろう。アシュラマンをこの俺が殺し、その首をこの巨大指にコレクションしたからよーっ!」
「な、なんだってー!」
アシュラマンが殺された。その事実を突きつけられ、万太郎の顔色が更に青くなる。
「う、嘘だ! お前みたいな卑怯者に、アシュラマンさんが倒せるもんか! この首だって、偽物に決まってる!」
「信じられないか? だが、俺がアシュラマンを殺したのは紛れもない事実よ! グオーッフォッフォッフォ!」
必死にアシュラマンの死を否定しようとする万太郎。その様子を見ながら、オメガマンは勝ち誇った笑い声をあげる。
放送が始まったのは、ちょうどその時だった。
『やあ、参加者の皆。元気にしているかな?』
「ほれ、ちょうど放送が始まったぞ。アシュラマンの名前が呼ばれるのを、その耳でしっかりと聞くがいい!」
「呼ばれるはずが……。呼ばれるはずがない!」
かたくなにアシュラマンの死を認めようとしない万太郎。だが彼の思いもむなしく、その名前は呼ばれてしまう。
『アシュラマン』
「そ、そんな……」
「そうとうショックのようだな、キン肉マン。だが安心しな、すぐにお前もアシュラマンのところに送ってやるぜ!」
オメガマンの巨大指全ての先に、彼がハントした超人たちの首が浮かぶ。それらは呆然とする万太郎に殺到し、アシュラマンの首同様に体の各所へ噛みついた。
「ぐああっ……!」
「ククク、苦しむがいい! フィニッシュホールドを使うまでもない、このまま全身の肉を食いちぎって殺してやる!
キン肉マンを殺したとなれば、この殺し合いの主催者以外からもたんまり賞金がもらえそうだぜー!」
おのれの勝利を確信し、オメガマンは愉悦に浸る。だから、彼は気づくのが遅れた。
万太郎の肉体に起こっている変化に。
「……さない」
「ん? 何か言ったか?」
「お前は……許さない!!」
先程まで絶望と驚愕に支配されていた万太郎の顔は、今は激しい怒りに満ちていた。
たくましい筋肉が、さらに盛り上がる。その勢いで、噛みついていた超人たちの首ははじき飛ばされた。
「なんだこれは! まさか、これが噂に聞く……」
狼狽するオメガマン。彼は、その目でしっかりと見ることになる。天を衝く万太郎の前髪の下から現れた、光り輝く「肉」の文字に。
「火事場のクソ力ーーーっ!!」
火事場のクソ力。それはキン肉族王家に代々受け継がれてきた神秘のパワーである。
その肉体が追いつめられた時に発動し、普段の数倍から数十倍もの力を引き出す。
キン肉スグル、そしてキン肉万太郎が数々の逆転劇を巻き起こしてきた伝家の宝刀、それこそが火事場のクソ力なのだ。
(おのれ、やっかいなことに……。だが、この程度で負ける俺では……)
火事場のクソ力を目の当たりにして、怖じ気づきそうになるおのれの心を奮い立たせようとするオメガマン。
だが心の準備が整う前に、万太郎の拳が彼の顔面に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
苦悶の声をあげて、オメガマンがよろける。彼が体勢を立て直す前に、万太郎のミドルキックが脇腹を捉える。
オメガマンの体がさらにぐらついたところで、万太郎は懐に入り込んで腕をつかむ。そして、一本背負いでオメガマンの体をアスファルトに叩きつけた。
「ぐおっ!」
激突音と共に、再び苦悶の声があがる。地に伏すオメガマンと、それを見下ろす万太郎。
この状況を見れば、誰もが万太郎の勝利を確信するだろう。だが当の万太郎は、内心焦りを募らせていた。
(くっ、どうなってるんだ……。いつもより疲れがたまるのが早い……)
荒い息を整えながら、万太郎は心の中で呟く。
元々火事場のクソ力は、爆発力があるがゆえに長続きするパワーではない。だが今の万太郎は、いつにもまして激しく消耗していた。
それは万太郎の体に課せられた制限の影響なのだが、彼はそれに気づいていない。
そして予想以上の疲労に対する戸惑いが、万太郎にわずかな隙を生んでしまう。オメガマンは、それを見逃さなかった。
「とーっ!」
気合いの雄叫びと共に、素早く体勢を立て直したオメガマンが足払いを放つ。反応が遅れた万太郎はそれをまともにくらい、バランスを崩してしまった。
「しまった!」
「おりゃー!」
オメガマンはさらにアッパーカットで追撃し、万太郎の体を宙へ吹き飛ばす。そして、自分もそれを追って跳んだ。
(どのみちここまでダメージを受けては、あまり長くは戦えん! フィニッシュホールドで一気に止めを刺してくれるわ!)
オメガマンは空中で万太郎を逆さにし、その両足を自らの脇に抱え込む。さらに両腕を取り、自らの手足を絡ませて固定。
これであとは背中の巨大指で万太郎の体を包み込めば、オメガマンのフィニッシュホールド「Ωカタストロフ・ドロップ」の完成である。
オメガマンの勝利は、もはや確定していたはずだった。だがその勝利は、あと少しというとことでオメガマンの手から滑り落ちた。
「な、なんだ! 何が起こった!」
勝利を確信していたはずのオメガマンの口から、情けない声が漏れる。突然、彼の視界が完全に塞がれてしまったのだ。
それを引き起こしたのは、万太郎の首から離れた一枚の布。ザ・ニンジャの襟巻きだった。
「えーい、邪魔をするな!」
状況を理解したオメガマンは、目を覆い隠した襟巻きを右手でつかんで放り投げた。
だがその直後、オメガマンは自分の軽率な行動を後悔することになる。
襟巻きを取るのに手を使ってしまったということは、当然万太郎の体へのロックを外したということだ。
もちろん、その好機を見逃す万太郎ではない。
(僕は負けられないんだ……! もう少しがんばれ、僕の体ーっ!!)
長時間に渡る戦闘と火事場のクソ力の使用で、万太郎のスタミナは残りわずかとなっている。
だがそのわずかなスタミナを絞り出し、万太郎はオメガマンの拘束から逃れようと身をよじる。
当然オメガマンもそれをさせまいと、必死に抵抗する。だが、スタミナを大きく消耗しているのはオメガマンも同じこと。
火事場のクソ力の爆発力に押され、ついに万太郎の足が抜ける。そこまで来れば、残された腕が拘束を脱するのも時間の問題だった。
「おおおおーっ!」
完全にΩカタストロフ・ドロップの体勢から脱出した万太郎は、オメガマンの足首をつかむ。
そして、今一度上下を逆転させる。すなわち万太郎の頭が天を向き、オメガマンの頭が地を向くかっこうだ。
万太郎はオメガマンの足首を握ったまま、自らの足をオメガマンの腕に乗せた。そのまま、オメガマンの脳天を地面に叩きつけるべく落下する。
これぞ48の殺人技+1にして、キン肉マン三大フィニッシュホールドの一つ、疾風迅雷落とし。またの名を……。
「キン肉ドライバー!!」
(さすがにこれはまずいか……)
オメガマンは理解していた。リング上ならいざ知らず、自分が叩きつけられるのは固いアスファルト。
このままキン肉ドライバーを受ければ、自分は高確率で死ぬ。それをわかっていながら、オメガマンはまだ絶望してはいなかった。
彼には、まだ切っていない最後のカードが残っているのだから。
「亡霊超人よ、今一度このオメガマンに力を貸すのだーっ!」
オメガマンの叫びと共に、巨大指の先端が再び五人の超人の頭部へと変化する。その首たちは、すぐさま口を大きく開けた。
そこから、リング上の波動が万太郎に向かって放たれる。いや、正確には万太郎の体に埋まったままの、亡霊超人たちの牙に向かってだ。
(な、なんだ!?)
未知の技に、万太郎はとまどう。しかし、せっかく決まったフィニッシュホールドをそう簡単に解除するわけにもいかない。
小細工は無視して、多少強引にでもキン肉ドライバーを成立させる。彼は、とっさにそう判断を下した。
その判断は、決して間違ってはいなかった。だが、完全に正しいものでもなかった。
結果として、それはキン肉ドライバーの成立を妨げたのだから。もっとも、ここでキン肉ドライバーを解除してもオメガマンの攻撃を食い止める術はなかったのだが。
「Ω血煙牙ーっ!」
オメガマンが叫ぶと同時に、亡霊超人たちから命令波を受信した牙が万太郎の体に食い込む。
それは傷口を広げ、そこから大量の血を吹き出させた。
「ギャアーッ!」
全身の様々な箇所を襲う激痛に、万太郎の口から悲鳴が漏れる。しかも、万太郎を襲ったのは痛みだけではない。
急激な大量出血により、ただでさえスタミナが尽きかけていた万太郎の体から力が抜けていく。
(くそっ、もう少し、もう少しで僕の勝ちなんだ……! もう少しがんばれ、耐えてくれーっ!)
心の中で、自分に檄を飛ばす万太郎。だがその思いもむなしく、限界を迎えた体は言うことを聞いてくれない。
彼の手が、オメガマンの足から離れる。そのまま体勢がぐちゃぐちゃに崩れ、脱力した万太郎の手足がオメガマンの体にからみついた。
「ぬおお、これでは受け身が取れん! 離れろーっ!」
必死で万太郎の体を突き飛ばそうとするオメガマン。だが彼の体力も限界が迫っており、上手くいかない。
そうこうしているうちに、地面が彼らの眼前まで迫る。
「馬鹿な! 俺は勝ったはずなのに! こんな結末があるかーっ!!」
オメガマンの絶叫の直後、二人の体は地面に叩きつけられた。
◇ ◇ ◇
それから、どれぐらいの時間が経っただろうか。地面に伏していた二つの人影のうち、一つがゆっくり動き出した。
動き出したのは、白い仮面に白いプロテクターの男……オメガマンだ。
(俺は……生きているのか?)
のろのろと体を起こしながら、オメガマンは思う。体力を使い切った体は、鉛のように重い。全身を襲う激痛は、すぐにまた意識を手放してしまいそうだ。
だがそれらを感じているということは、彼が生きているということの証である。
よく見てみれば、オメガマンが倒れているのはアスファルトではなく土の上だ。
どうやら偶然にも戦闘の余波でアスファルトがあらかた剥がれた場所に落ちたため、土が衝撃を吸収し一命を取り留めたらしい。
(キン肉マンは……どうなった?)
続いて、周囲を見回すオメガマン。すると、すぐそばに全身を血で染めた万太郎が倒れているのが見つかった。意識を取り戻した様子はない。
「フォフォフォ……。やはり最後に勝つのは、このジ・オメガマンだったようだな……」
ボロボロの体に鞭を打って立ち上がり、オメガマンは万太郎の元へ歩み寄る。それでもまだ、万太郎は反応を示さない。
「生きているのか死んでいるのかわからぬが……。首を落としてしまえば同じことよ! キン肉マン、その首もらった!」
オメガマンは右手で手刀を作り、万太郎の首筋にそれを振り下ろした。
「ふんもっふ!!」
だがその手刀が、万太郎の首を切り落とすことはなかった。突如飛来したエネルギー球が、オメガマンを吹き飛ばしたのだ。
吹き飛んだオメガマンは近くの店の自動ドアを突き破り、店内を転がった。
「だ……誰だ!」
思わぬ展開に困惑しながらも、オメガマンはエネルギー球が飛んできた方向へ素早く視線を向ける。
そこには、宙に浮く漆黒の怪物の姿があった。
「別に助ける義理はありませんが……。かといって、殺人を見逃す理由もありませんしね」
「誰だ、貴様! 超人か?」
「超人……ですか。確かに俺はもはや人間ではありませんが、あなた方の言う超人とも違う存在ですよ」
動揺を隠せないオメガマンに対し、怪物は冷たい声で言い放つ。
「ガイバーⅢ……。そう呼んでいただきましょうか」
オメガマンに対して名乗ると、ガイバーⅢはゆっくりと高度を下げ店の前に着地した。
「さて、どうします? そのボロボロの体で僕と戦いますか? 逃げますか? あるいは、話し合いで解決しますか?」
表面上は穏やかな、だがその内にやはり冷たさを秘めた声で、ガイバーⅢはオメガマンに問いかける。
その態度に、オメガマンは言いようのない感覚に襲われていた。
(何だ、こいつは……。恐怖とは違うが、何ともいやな感触を覚える男だ。関わり合いになりたくない。
かといって、いくら俺でもこの重傷で戦えば勝てるかどうか……)
全身に受けた深刻なダメージは、さすがのオメガマンにも弱気な考えを起こさせる。
しばし考え込むオメガマン。やがて彼は、自分の近くに転がっているある物体に気づく。
(これは……フォフォフォ、どうやら神はまだこのオメガマンを見捨てていないようだぜーっ!)
心の中で、オメガマンは笑う。ガイバーⅢは、それには気づかない。
「いつまでも黙っていられても困るのですがね。そろそろ何か言っていただかないと、こちらとしても動きようがありません」
「ならば言ってやろう。俺の答えはこれだ! Ωメタモルフォーゼ!」
叫ぶと同時に、オメガマンは仮面から光線を発射する。それは、彼が店内に飛び込んできた衝撃で床に転がっていた消火器に命中した。
たちどころに消火器は消え去り、その代わりに巨大指の親指が消火器の形に変化する。
「これは……?」
奇怪な技を目の当たりにして、ガイバーⅢの動きが止まる。そこへ突進しながら、オメガマンはためらうことなく消火器から薬品をぶち撒けた。
「くらえーっ!!」
「うわっ!」
ガイバーⅢの視界が、一瞬で白く染まる。急いで顔に付着した消火剤を拭うガイバーⅢだったが、再び視界が開けた時にはすでにオメガマンの姿は消えていた。
「逃げられましたか……。まあいいでしょう。あんな死にかけ、放っておいたところで毒にも薬にもならないでしょうし……。
情報を引き出せればよかったんですが、まあ仕方ありませんね」
独り言を呟きながら、ガイバーⅢはオメガマンに執着する様子も見せずにきびすを返す。
向かうのはこの場にいるもう一人の男、万太郎のところだ。
「さて、こちらはまだ生きていますかね……」
生死を確認すべく、ガイバーⅢは万太郎の顔をのぞき込む。その瞬間、彼は思わず驚愕の声を漏らしていた。
「この顔は……!!」
ブタ鼻にたらこ唇。悪魔将軍が言っていた特徴に、見事に一致している。
「まさか、こんなにもあっさりと見つかるとは……。力を貸してもらいますよ、キン肉スグルさん!」
その時、表情などないはずのガイバーの顔に、確かに歓喜の笑みが浮かんでいた。
【F-10 ショッピングモール/一日目・昼過ぎ】
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】精神的疲労(大)、悪魔の精神
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱、ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪
【思考】
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。
2.キン肉スグル(実際には万太郎)を説得し、仲間に引き込む。
3.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、キン肉万太郎、朝倉涼子を優先。
4.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
5.キョンの妹を捜す。
6.午後6時に、採掘所でキョンと合流。向こうの事情を聞いて仲間にするか殺すか決める。
7.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です
※ほんの僅かながら、自分の『超能力』が使用できる事に気付きました。『超能力』を使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※ノーヴェの知り合いと世界観について、軽く把握しました。
※悪魔将軍から知っている超人と超人の可能性がある参加者について話を聞いています。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※ロビンマスクの仮面による火炎放射には軽度な精神的な疲労を伴いますが、仮面さえ被れば誰にでも使用できます。
※一人称が安定していません。
【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、気絶
【持ち物】ディパック(支給品一式入り)、不明支給品1、夏子のメモ
【思考】
0.(気絶中)
1.危険人物の撃退と弱者の保護。
2.夏子たちを追う。
3.少年(シンジ)を守る。
4.頼りになる仲間をスカウトしたい。
父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前の時代からの参戦です。
※アシュラマンを自分と同じ時代から来ていると勘違いしています。
※悪魔将軍の話題はまだしていません。ぼんやりと覚えています。
【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×2、不明支給品0~2、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、アシュラマンの腕
【思考】
1:皆殺し。
2:今は逃げて、ダメージの回復を待つ。
3:スエゾー、キン肉マン(万太郎)は特に必ず殺す。
※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。
※完璧超人復活ッ 完璧超人復活ッ 完璧超人復活ッッ 完璧超人復活ッッ 完璧超人復ッッ活ッッ
※万太郎をキン肉スグルだと勘違いしています。
※五分刈刑事のマシンガン@キン肉マン(残弾30%)、ザ・ニンジャの襟巻き@キン肉マンシリーズがモール内のどこかに落ちています。
*時系列順で読む
Back:[[心と口と行いと生きざまもて(後編)]] Next:[[]]
*投下順で読む
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|[[古泉一樹の戸惑]]|古泉一樹|[[歪め↓スペクタクル]]|
|[[迷走失意 されどこの不運は連鎖のごとく]]|キン肉万太郎|~|
|~|ジ・オメガマン|[[Girl who does lesson]]|
*叫び返せHUSTLE MUSCLE ◆NIKUcB1AGw
F-10、モール。今ここでは、二人の屈強な男たちがその鍛え抜かれた肉体をぶつけ合っている。
一人は正義の志を胸に抱く青年、「最強の遺伝子を継ぐ男」キン肉万太郎。
もう一人は邪悪な魂を胸に秘めた仕事人、「超人ハンター」ジ・オメガマン。
戦闘が始まってから、どれだけの時間が経っただろうか。戦いに全神経を注ぐ二人は、もはや時間など気にしていない。
ただお互いの体についた多くの傷と血が、決して短くない時間二人が戦い続けていることを物語っている。
戦いは、ほぼ五分と五分。単純な身体能力だけなら、超人強度で大きく上回るオメガマンのほうが上だ。
だが、超人の強さはカタログスペックだけでは決まらない。もしそうならば、神の力を得て1億パワーとなった運命の王子たちにキン肉マンが勝てることはなかっただろう。
技術、経験、戦略。そして何より、精神力。それらもまた、戦局を大きく左右する要素だ。
では、万太郎がカタログスペックで勝るオメガマンと互角に戦えている理由は何か。
技術は、決して大きな差は開いていない。経験や戦略は、まだ若手の域を出ない万太郎が百戦錬磨のオメガマンに勝てるはずがない。
つまり正解は精神力。気迫と言い換えてもいい。
気合いだけで勝てるなら苦労はない、そう思うかもしれない。だが超人という生物にとって、精神状態とはダイレクトに戦闘力を上下させる要素なのだ。
正義超人たちが最大のパワーの源とするのが、「友情」であることを考えてもらえばこの話は納得してもらえるだろう。
仲間たちを悪の手から守るという正義感と使命感。そして、尊敬すべき先人たちを侮辱したオメガマンへの怒り。
それらの感情が、万太郎にオメガマンと渡り合えるだけの力を与えているのだ。
もっとも、二人の体に課せられた「制限」の重さの違いがこの戦況に関与している可能性もあるが……。
この点については現時点では不確定要素が多すぎるため、今回は考えないものとする。
何はともあれ、万太郎とオメガマンは互角の戦いを演じている。これは紛れもない事実である。
オメガマンは、苛立っていた。
(くそ、簡単に勝たせてもらえる相手ではないと思ってはいたが、ここまで手こずるとは……。
Ωメタモルフォーゼが使えれば、もっと楽に戦えるのだが……)
そう、オメガマンが主導権を握れない理由の一つに、彼の最大の得意技である「Ωメタモルフォーゼ」を使っていないというのがあった。
別に、事情があって使用不能になっているわけでも自らに使用を禁じているわけでもない。
単に、この技に活用できそうな物体が近くに見あたらないというだけの話だ。
(椅子やら服やらを取り込んだところで、大して役に立つとは思えんし……。最初にマシンガンを手放してしまったのは完全に失策だったな)
戦闘開始直後に、オメガマンは万太郎の攻撃で持っていたマシンガンを落としてしまっている。
戦闘中に何度か拾おうとはしているのだが、さすがに万太郎も警戒しており横やりを入れて拾わせない。
あそこまで警戒されては、万太郎の動きをある程度封じなければ拾うのは難しいだろう。
(結局は、奴からダウンを奪わなければどうにもならないということか……。ええい、忌々しい!)
心の中で悪態をつきながら、オメガマンはフライングニーパットで万太郎を襲う。万太郎はガードを固め、それをがっちりと受け止める。
オメガマンが着地したと同時に、万太郎の回し蹴りが炸裂。オメガマンはそれを受けながらも脚をつかみ、万太郎を投げ飛ばす。
アスファルトに叩きつけられる万太郎。受け身はとったとはいえ、受けるダメージは衝撃をある程度吸収してくれるリングの比ではない。
「ぐうっ!」
「死ねッ!」
苦悶の表情を浮かべる万太郎に向かって、オメガマンはボディープレスで追撃する。
だが万太郎は、激突寸前にそれを回避。オメガマンはそのままアスファルトの上に落下し、自分の体を痛めつけてしまう。
「固いリングで戦うなら、落下系の技は控えた方がいいよ。命中した時は強力だけど、外した時に返ってくるダメージも大きいから」
「えらそうに語るな、この俺に向かって!」
万太郎の言葉に苛立ちを増幅させられたオメガマンは、素早く上半身を起こしてパンチを放つ。だが、それはあっさりと回避されてしまった。
逆に万太郎がカウンターで放ったパンチが、オメガマンの顔面を捉える。だがオメガマンはかまわずに、強引に立ち上がりながらアッパーカットで更に攻めた。
強引な攻めを読み切れなかったか、万太郎の頬をオメガマンの拳がかすめる。
万太郎がよろけた隙を見逃さず、オメガマンは更に追撃。至近距離からの膝蹴りが、万太郎の腹にめり込む。
「がぁっ!」
たまらず前のめりになる万太郎。その後頭部目がけて、オメガマンは組み合わせた両の拳を振り下ろす。
だがそれに対し、万太郎は強引に頭を跳ね上げオメガマンの拳をはじき返した。
「何だと!?」
「僕の石頭、甘く見てもらっちゃ困るよ!」
思わぬ反撃でバランスを崩したオメガマンに、万太郎はタックルを敢行する。そのままオメガマンを担ぎ上げた万太郎は、その体をボディスラムで思い切り地面に叩きつけた。
「ぐおおおおおおっ!」
アスファルトに叩きつけられ絶叫を挙げるオメガマンの脚を、万太郎がつかむ。
彼はオメガマンの脚に自分の脚を絡め、寝技へと移行する。古典的なプロレス技、足四の字固めである。
「足腰立たなくしてあげるよ!」
「グフォフォ……。流れとしてはよかったが、技の選択を誤ったな、キン肉マン! かかりが甘いぜーっ!」
「なにっ!」
足四の字を外しにかかるオメガマン。万太郎も、そうはさせじと必死に抵抗する。
攻防は膠着状態に陥るが、それを破ったのはオメガマンであった。
「そうだ、キン肉マン。ここら辺でいいものを見せてやろう」
「いいもの? まさか、水着ギャルの写真でも見せて僕の注意力をそぐ気か!」
「安心しな、もっといいものだぜ! そーら、とくと拝みなー!」
オメガマンが叫ぶと同時に、彼の背中にある巨大な手が開く。そして、その親指が変化を始めた。
「ま、まさかあれは……」
万太郎の顔が、青ざめていく。親指が変化していくその形に、彼は見覚えがあった。
やがて親指は、万太郎が思い描いたそのものに変化する。
「ゲェーッ! アシュラマンのおっさんの顔!」
そう、笑い、怒り、冷血の三つの顔面を持つそれは、アシュラマンの頭部に他ならなかった。
万太郎が驚愕で固まっている間に、アシュラマンの首は大きく口を開ける。そして、口の中の牙を万太郎の肩に突き立てた。
「ぎゃああーっ!」
万太郎の悲鳴が、モールに響く。痛みと驚愕で脱力した万太郎の足から、オメガマンは自分の足を抜く。
「グオーッフォッフォッフォ! 形勢逆転だな、キン肉マン!」
「な、なんでアシュラマンさんの顔が……」
「わからないか? なら教えてやろう。アシュラマンをこの俺が殺し、その首をこの巨大指にコレクションしたからよーっ!」
「な、なんだってー!」
アシュラマンが殺された。その事実を突きつけられ、万太郎の顔色が更に青くなる。
「う、嘘だ! お前みたいな卑怯者に、アシュラマンさんが倒せるもんか! この首だって、偽物に決まってる!」
「信じられないか? だが、俺がアシュラマンを殺したのは紛れもない事実よ! グオーッフォッフォッフォ!」
必死にアシュラマンの死を否定しようとする万太郎。その様子を見ながら、オメガマンは勝ち誇った笑い声をあげる。
放送が始まったのは、ちょうどその時だった。
『やあ、参加者の皆。元気にしているかな?』
「ほれ、ちょうど放送が始まったぞ。アシュラマンの名前が呼ばれるのを、その耳でしっかりと聞くがいい!」
「呼ばれるはずが……。呼ばれるはずがない!」
かたくなにアシュラマンの死を認めようとしない万太郎。だが彼の思いもむなしく、その名前は呼ばれてしまう。
『アシュラマン』
「そ、そんな……」
「そうとうショックのようだな、キン肉マン。だが安心しな、すぐにお前もアシュラマンのところに送ってやるぜ!」
オメガマンの巨大指全ての先に、彼がハントした超人たちの首が浮かぶ。それらは呆然とする万太郎に殺到し、アシュラマンの首同様に体の各所へ噛みついた。
「ぐああっ……!」
「ククク、苦しむがいい! フィニッシュホールドを使うまでもない、このまま全身の肉を食いちぎって殺してやる!
キン肉マンを殺したとなれば、この殺し合いの主催者以外からもたんまり賞金がもらえそうだぜー!」
おのれの勝利を確信し、オメガマンは愉悦に浸る。だから、彼は気づくのが遅れた。
万太郎の肉体に起こっている変化に。
「……さない」
「ん? 何か言ったか?」
「お前は……許さない!!」
先程まで絶望と驚愕に支配されていた万太郎の顔は、今は激しい怒りに満ちていた。
たくましい筋肉が、さらに盛り上がる。その勢いで、噛みついていた超人たちの首ははじき飛ばされた。
「なんだこれは! まさか、これが噂に聞く……」
狼狽するオメガマン。彼は、その目でしっかりと見ることになる。天を衝く万太郎の前髪の下から現れた、光り輝く「肉」の文字に。
「火事場のクソ力ーーーっ!!」
火事場のクソ力。それはキン肉族王家に代々受け継がれてきた神秘のパワーである。
その肉体が追いつめられた時に発動し、普段の数倍から数十倍もの力を引き出す。
キン肉スグル、そしてキン肉万太郎が数々の逆転劇を巻き起こしてきた伝家の宝刀、それこそが火事場のクソ力なのだ。
(おのれ、やっかいなことに……。だが、この程度で負ける俺では……)
火事場のクソ力を目の当たりにして、怖じ気づきそうになるおのれの心を奮い立たせようとするオメガマン。
だが心の準備が整う前に、万太郎の拳が彼の顔面に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
苦悶の声をあげて、オメガマンがよろける。彼が体勢を立て直す前に、万太郎のミドルキックが脇腹を捉える。
オメガマンの体がさらにぐらついたところで、万太郎は懐に入り込んで腕をつかむ。そして、一本背負いでオメガマンの体をアスファルトに叩きつけた。
「ぐおっ!」
激突音と共に、再び苦悶の声があがる。地に伏すオメガマンと、それを見下ろす万太郎。
この状況を見れば、誰もが万太郎の勝利を確信するだろう。だが当の万太郎は、内心焦りを募らせていた。
(くっ、どうなってるんだ……。いつもより疲れがたまるのが早い……)
荒い息を整えながら、万太郎は心の中で呟く。
元々火事場のクソ力は、爆発力があるがゆえに長続きするパワーではない。だが今の万太郎は、いつにもまして激しく消耗していた。
それは万太郎の体に課せられた制限の影響なのだが、彼はそれに気づいていない。
そして予想以上の疲労に対する戸惑いが、万太郎にわずかな隙を生んでしまう。オメガマンは、それを見逃さなかった。
「とーっ!」
気合いの雄叫びと共に、素早く体勢を立て直したオメガマンが足払いを放つ。反応が遅れた万太郎はそれをまともにくらい、バランスを崩してしまった。
「しまった!」
「おりゃー!」
オメガマンはさらにアッパーカットで追撃し、万太郎の体を宙へ吹き飛ばす。そして、自分もそれを追って跳んだ。
(どのみちここまでダメージを受けては、あまり長くは戦えん! フィニッシュホールドで一気に止めを刺してくれるわ!)
オメガマンは空中で万太郎を逆さにし、その両足を自らの脇に抱え込む。さらに両腕を取り、自らの手足を絡ませて固定。
これであとは背中の巨大指で万太郎の体を包み込めば、オメガマンのフィニッシュホールド「Ωカタストロフ・ドロップ」の完成である。
オメガマンの勝利は、もはや確定していたはずだった。だがその勝利は、あと少しというとことでオメガマンの手から滑り落ちた。
「な、なんだ! 何が起こった!」
勝利を確信していたはずのオメガマンの口から、情けない声が漏れる。突然、彼の視界が完全に塞がれてしまったのだ。
それを引き起こしたのは、万太郎の首から離れた一枚の布。ザ・ニンジャの襟巻きだった。
「えーい、邪魔をするな!」
状況を理解したオメガマンは、目を覆い隠した襟巻きを右手でつかんで放り投げた。
だがその直後、オメガマンは自分の軽率な行動を後悔することになる。
襟巻きを取るのに手を使ってしまったということは、当然万太郎の体へのロックを外したということだ。
もちろん、その好機を見逃す万太郎ではない。
(僕は負けられないんだ……! もう少しがんばれ、僕の体ーっ!!)
長時間に渡る戦闘と火事場のクソ力の使用で、万太郎のスタミナは残りわずかとなっている。
だがそのわずかなスタミナを絞り出し、万太郎はオメガマンの拘束から逃れようと身をよじる。
当然オメガマンもそれをさせまいと、必死に抵抗する。だが、スタミナを大きく消耗しているのはオメガマンも同じこと。
火事場のクソ力の爆発力に押され、ついに万太郎の足が抜ける。そこまで来れば、残された腕が拘束を脱するのも時間の問題だった。
「おおおおーっ!」
完全にΩカタストロフ・ドロップの体勢から脱出した万太郎は、オメガマンの足首をつかむ。
そして、今一度上下を逆転させる。すなわち万太郎の頭が天を向き、オメガマンの頭が地を向くかっこうだ。
万太郎はオメガマンの足首を握ったまま、自らの足をオメガマンの腕に乗せた。そのまま、オメガマンの脳天を地面に叩きつけるべく落下する。
これぞ48の殺人技+1にして、キン肉マン三大フィニッシュホールドの一つ、疾風迅雷落とし。またの名を……。
「キン肉ドライバー!!」
(さすがにこれはまずいか……)
オメガマンは理解していた。リング上ならいざ知らず、自分が叩きつけられるのは固いアスファルト。
このままキン肉ドライバーを受ければ、自分は高確率で死ぬ。それをわかっていながら、オメガマンはまだ絶望してはいなかった。
彼には、まだ切っていない最後のカードが残っているのだから。
「亡霊超人よ、今一度このオメガマンに力を貸すのだーっ!」
オメガマンの叫びと共に、巨大指の先端が再び五人の超人の頭部へと変化する。その首たちは、すぐさま口を大きく開けた。
そこから、リング上の波動が万太郎に向かって放たれる。いや、正確には万太郎の体に埋まったままの、亡霊超人たちの牙に向かってだ。
(な、なんだ!?)
未知の技に、万太郎はとまどう。しかし、せっかく決まったフィニッシュホールドをそう簡単に解除するわけにもいかない。
小細工は無視して、多少強引にでもキン肉ドライバーを成立させる。彼は、とっさにそう判断を下した。
その判断は、決して間違ってはいなかった。だが、完全に正しいものでもなかった。
結果として、それはキン肉ドライバーの成立を妨げたのだから。もっとも、ここでキン肉ドライバーを解除してもオメガマンの攻撃を食い止める術はなかったのだが。
「Ω血煙牙ーっ!」
オメガマンが叫ぶと同時に、亡霊超人たちから命令波を受信した牙が万太郎の体に食い込む。
それは傷口を広げ、そこから大量の血を吹き出させた。
「ギャアーッ!」
全身の様々な箇所を襲う激痛に、万太郎の口から悲鳴が漏れる。しかも、万太郎を襲ったのは痛みだけではない。
急激な大量出血により、ただでさえスタミナが尽きかけていた万太郎の体から力が抜けていく。
(くそっ、もう少し、もう少しで僕の勝ちなんだ……! もう少しがんばれ、耐えてくれーっ!)
心の中で、自分に檄を飛ばす万太郎。だがその思いもむなしく、限界を迎えた体は言うことを聞いてくれない。
彼の手が、オメガマンの足から離れる。そのまま体勢がぐちゃぐちゃに崩れ、脱力した万太郎の手足がオメガマンの体にからみついた。
「ぬおお、これでは受け身が取れん! 離れろーっ!」
必死で万太郎の体を突き飛ばそうとするオメガマン。だが彼の体力も限界が迫っており、上手くいかない。
そうこうしているうちに、地面が彼らの眼前まで迫る。
「馬鹿な! 俺は勝ったはずなのに! こんな結末があるかーっ!!」
オメガマンの絶叫の直後、二人の体は地面に叩きつけられた。
◇ ◇ ◇
それから、どれぐらいの時間が経っただろうか。地面に伏していた二つの人影のうち、一つがゆっくり動き出した。
動き出したのは、白い仮面に白いプロテクターの男……オメガマンだ。
(俺は……生きているのか?)
のろのろと体を起こしながら、オメガマンは思う。体力を使い切った体は、鉛のように重い。全身を襲う激痛は、すぐにまた意識を手放してしまいそうだ。
だがそれらを感じているということは、彼が生きているということの証である。
よく見てみれば、オメガマンが倒れているのはアスファルトではなく土の上だ。
どうやら偶然にも戦闘の余波でアスファルトがあらかた剥がれた場所に落ちたため、土が衝撃を吸収し一命を取り留めたらしい。
(キン肉マンは……どうなった?)
続いて、周囲を見回すオメガマン。すると、すぐそばに全身を血で染めた万太郎が倒れているのが見つかった。意識を取り戻した様子はない。
「フォフォフォ……。やはり最後に勝つのは、このジ・オメガマンだったようだな……」
ボロボロの体に鞭を打って立ち上がり、オメガマンは万太郎の元へ歩み寄る。それでもまだ、万太郎は反応を示さない。
「生きているのか死んでいるのかわからぬが……。首を落としてしまえば同じことよ! キン肉マン、その首もらった!」
オメガマンは右手で手刀を作り、万太郎の首筋にそれを振り下ろした。
「ふんもっふ!!」
だがその手刀が、万太郎の首を切り落とすことはなかった。突如飛来したエネルギー球が、オメガマンを吹き飛ばしたのだ。
吹き飛んだオメガマンは近くの店の自動ドアを突き破り、店内を転がった。
「だ……誰だ!」
思わぬ展開に困惑しながらも、オメガマンはエネルギー球が飛んできた方向へ素早く視線を向ける。
そこには、宙に浮く漆黒の怪物の姿があった。
「別に助ける義理はありませんが……。かといって、殺人を見逃す理由もありませんしね」
「誰だ、貴様! 超人か?」
「超人……ですか。確かに俺はもはや人間ではありませんが、あなた方の言う超人とも違う存在ですよ」
動揺を隠せないオメガマンに対し、怪物は冷たい声で言い放つ。
「ガイバーⅢ……。そう呼んでいただきましょうか」
オメガマンに対して名乗ると、ガイバーⅢはゆっくりと高度を下げ店の前に着地した。
「さて、どうします? そのボロボロの体で僕と戦いますか? 逃げますか? あるいは、話し合いで解決しますか?」
表面上は穏やかな、だがその内にやはり冷たさを秘めた声で、ガイバーⅢはオメガマンに問いかける。
その態度に、オメガマンは言いようのない感覚に襲われていた。
(何だ、こいつは……。恐怖とは違うが、何ともいやな感触を覚える男だ。関わり合いになりたくない。
かといって、いくら俺でもこの重傷で戦えば勝てるかどうか……)
全身に受けた深刻なダメージは、さすがのオメガマンにも弱気な考えを起こさせる。
しばし考え込むオメガマン。やがて彼は、自分の近くに転がっているある物体に気づく。
(これは……フォフォフォ、どうやら神はまだこのオメガマンを見捨てていないようだぜーっ!)
心の中で、オメガマンは笑う。ガイバーⅢは、それには気づかない。
「いつまでも黙っていられても困るのですがね。そろそろ何か言っていただかないと、こちらとしても動きようがありません」
「ならば言ってやろう。俺の答えはこれだ! Ωメタモルフォーゼ!」
叫ぶと同時に、オメガマンは仮面から光線を発射する。それは、彼が店内に飛び込んできた衝撃で床に転がっていた消火器に命中した。
たちどころに消火器は消え去り、その代わりに巨大指の親指が消火器の形に変化する。
「これは……?」
奇怪な技を目の当たりにして、ガイバーⅢの動きが止まる。そこへ突進しながら、オメガマンはためらうことなく消火器から薬品をぶち撒けた。
「くらえーっ!!」
「うわっ!」
ガイバーⅢの視界が、一瞬で白く染まる。急いで顔に付着した消火剤を拭うガイバーⅢだったが、再び視界が開けた時にはすでにオメガマンの姿は消えていた。
「逃げられましたか……。まあいいでしょう。あんな死にかけ、放っておいたところで毒にも薬にもならないでしょうし……。
情報を引き出せればよかったんですが、まあ仕方ありませんね」
独り言を呟きながら、ガイバーⅢはオメガマンに執着する様子も見せずにきびすを返す。
向かうのはこの場にいるもう一人の男、万太郎のところだ。
「さて、こちらはまだ生きていますかね……」
生死を確認すべく、ガイバーⅢは万太郎の顔をのぞき込む。その瞬間、彼は思わず驚愕の声を漏らしていた。
「この顔は……!!」
ブタ鼻にたらこ唇。悪魔将軍が言っていた特徴に、見事に一致している。
「まさか、こんなにもあっさりと見つかるとは……。力を貸してもらいますよ、キン肉スグルさん!」
その時、表情などないはずのガイバーの顔に、確かに歓喜の笑みが浮かんでいた。
【F-10 ショッピングモール/一日目・昼過ぎ】
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】精神的疲労(大)、悪魔の精神
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱、ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪
【思考】
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。
2.キン肉スグル(実際には万太郎)を説得し、仲間に引き込む。
3.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、キン肉万太郎、朝倉涼子を優先。
4.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
5.キョンの妹を捜す。
6.午後6時に、採掘所でキョンと合流。向こうの事情を聞いて仲間にするか殺すか決める。
7.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
※ガイバーに殖装することが可能になりました。使える能力はガイバーⅢと同一です
※ほんの僅かながら、自分の『超能力』が使用できる事に気付きました。『超能力』を使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※ノーヴェの知り合いと世界観について、軽く把握しました。
※悪魔将軍から知っている超人と超人の可能性がある参加者について話を聞いています。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※ロビンマスクの仮面による火炎放射には軽度な精神的な疲労を伴いますが、仮面さえ被れば誰にでも使用できます。
※一人称が安定していません。
【キン肉万太郎@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、気絶
【持ち物】ディパック(支給品一式入り)、不明支給品1、夏子のメモ
【思考】
0.(気絶中)
1.危険人物の撃退と弱者の保護。
2.夏子たちを追う。
3.少年(シンジ)を守る。
4.頼りになる仲間をスカウトしたい。
父上(キン肉マン)にはそんなに期待していない。 会いたいけど。
【備考】
※超人オリンピック決勝直前の時代からの参戦です。
※アシュラマンを自分と同じ時代から来ていると勘違いしています。
※悪魔将軍の話題はまだしていません。ぼんやりと覚えています。
【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×2、不明支給品0~2、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、アシュラマンの腕
【思考】
1:皆殺し。
2:今は逃げて、ダメージの回復を待つ。
3:スエゾー、キン肉マン(万太郎)は特に必ず殺す。
※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。
※完璧超人復活ッ 完璧超人復活ッ 完璧超人復活ッッ 完璧超人復活ッッ 完璧超人復ッッ活ッッ
※万太郎をキン肉スグルだと勘違いしています。
※五分刈刑事のマシンガン@キン肉マン(残弾30%)、ザ・ニンジャの襟巻き@キン肉マンシリーズがモール内のどこかに落ちています。
*時系列順で読む
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