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「砂漠妖怪カンタ Sand Destiny」(2009/05/04 (月) 10:32:45) の最新版変更点
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*砂漠妖怪カンタ Sand Destiny ◆igHRJuEN0s
とある山の中の森林地帯、ここを地図で示すならばE-4である。
そのE-4には一人の男がいた。
彼の名前は水野灌太、通称「砂ぼうず」。
己が生き延びるために、そしてまだ見ぬボインちゃんを求めてこのバトルロワイヤルという戦場を奔走している男である。
現在、彼の目的地は遊園地、もしかすればこの殺しあいに関する手掛かりがあるのではないかと思い、そこへ向かうべく森林の中を駆け抜けている。
そんな彼は――
「アッーーー」
――たった今、すっころび、盛大にディパックの中味をぶちまけるハメになる。
――――――――――
転倒して俯せに倒れた身体を起こしながら灌太は自分に悪態をつく。
「お、俺としたことが……カッコわりぃ」
幸いにも転び方が上手かったためか、怪我らしい怪我はない。
あってもちょっとしたすり傷程度である。
しかし、灌太は例え見慣れぬ森の中でも白骨都市などの足場の悪い場所には慣れているので気の緩みがなければ転ぶハズはない。
……それは、気の緩みさえなければの話だが。
灌太は気の緩みにより地面から顔を出した木の根っこに足を引っかけて転倒したのだ。
では何が灌太の気を緩めさせたのか?
それは知るには、その時の彼の頭の中を覗く必要がある。
下は彼の妄想を文章化したものである……
――対象 水野灌太
――脳内妄想情報読み取り完了
――情報文章化開始……――
(設定→なのは、スバル、ノーヴェをなんやかんやで自分の手中に納めた場合を想定。
ちなみに以上の三人の人格は灌太の都合の良いよう改変されています。キャラ崩壊注意!)
頬を赤めたスバル、なのは、ノーヴェが灌太にすりよってくる。
一方、灌太の目線は三人の胸をマルチロックオンしている。
「すごく……大きいです」
灌太は率直に、かつ欲望に忠実に述べた。
そして三人は、なぜか、おもむろに制服やスーツを脱ぎだすと、灌太にねだるようになのはが言った。
「 や り ま せ ん か ? 」
「アッーーー!」
歓喜(狂喜?)の声をあげる灌太には断る理由はなかった、なぜなら灌太の目の前には、彼を囲むように三人の たゆんたゆん と悩ましく揺れる豊満な(ry
『ERROR!-規制が入りました
これ以上水野灌太の脳内に介入するには「くそみそテクニック」を読破し、ノンケを捨てる覚悟が必要です』
――いうような妄想を灌太は脳内で繰り広げていた。
「グヘヘヘッ……」
その筆舌に尽くしがたく、ツッコミ所満載の、都合の良すぎる妄想に灌太は、変な薬でも決まったかのように嫌らしい笑みを浮かべる。
だが、その妄想が灌太に気の緩みに繋がり、一瞬の注意力不足から木の根っこに足を引っかけてしまう。
「アッーーー」
先ほどの妄想の中での歓喜とは違う情けない叫び声をあげて灌太は転倒し……今に至る。
――――――――――
灌太にとって転倒そのものは些細なものであるが、問題はそれにより発生したニ次災害の方である。
転倒し身動きがとれない所を殺しあいに乗った輩に襲われるよりははるかに僥倖であるが、少しばかり面倒な事態にはなった。
「あ~あ、中の荷物が散らばっちまったよクソッタレ」
目の前にあちこちに散らかったディパックの中身の道具を見て、誰に言うでもなく灌太はぼやく。
誰に見られたわけでもないが、自分が間抜けにも転んだ事に少しばかり腹が立ったようだ。
見渡す限り、地図や食料にオカリナのような支給品、他にも見慣れない物まで散らかっているが……
とにかくこれらを迅速に回収する必要がある、ぼやぼやしてると作業の最中に殺しあいに乗った者に出くわす危険がある。
そんな事になるのは避けたいため、灌太は急いで道具を掴んではディパックの中へ放り込むように回収し始める。
――――――――――
「なんでこんなのがあるんだ?」
道具という道具をディパックの中にほとんど放り込んだ所で、灌太は今、両の手にある見慣れぬ二つの道具に首を傾げる。
右手に持つは三つの輸血パック。
左手に持つはケースに入れられた一枚のCD、ちなみに関東大砂漠の住人である灌太にはコレがなんなのかわからないが……
この二つは灌太の支給品ではない。
では誰の物なのか?
答えは灌太の中ですぐに出た。
「……こりゃあセインの支給品か」
いくつかのチューブ付きの輸血パックと用途不明の穴の開いた円盤、この二つは今は亡き同行者セインの忘れ形見。
考えて見ると、セインから譲り受けた支給品を確認することを失念してたなぁ、と灌太は思う。
しかし本人は生前に強力な武器や防具はなかったと言っている。
だから灌太はセインの支給品には期待せず、確認も後回しで良いとも思っていた。
実際、明らかに武器にはならない輸血パックと、謎の円盤……少なくとも武器には見えない物体、の二つである。
とはいえ、見た目だけで判断するのは早計と思い、意外と使えるものなんじゃないかと灌太は推測する。
そうと決まれば、支給品の説明書を流し読みし始める。
まず、三つの輸血パックだが、これはそのまんま『輸血パック』。
ただ、これは三つともO型である。
本来は血液型とは違う血液を輸血することはできないのだが、O型の血液は他のA型B型AB型の血液型の人間にも適用できるのだ。
つまり、どんな血液型の人間にも使うことができる。
また、説明書には輸血の際にチューブをどの血管に通せば良いのかなど、それほど医療知識に詳しくない者でもわかりやすく丁寧な説明が書かれているので、誰でも扱える優れ物なのだ。
しかし灌太には少しばかり不満もある。
(できれば武器が欲しかったぜ。
あのナインちゃんの長門と草壁タシロだかタツヲだかのオッサンも、殺しあいの促進のためにも、もう少し武器を恵んでも良かったんじゃないか?
まぁ、使えない物渡されるよりかはマシか)
この場にいない主催者の長門と草壁タツヲに灌太は心の中で半ば文句を垂れた。
しかし、怪我で大量の出血をした時に、これがある・ないで生存率にだいぶ差が出るだろう。
それにもし、瀕死のボインちゃんに出くわした時にこの輸血パックで助けた恩を売りつけ、その後は……ドゥフフフフフ。
……という若干都合の良い算段も頭の中でできあがった。
もっとも、セインのような機械の身体を持つ者や、ガルルのような地球外生命体には輸血できないかもしれないが。
次は灌太にとって用途不明の穴空き円盤。
どこかで見た気がしないでもないが、記憶が曖昧な物は知らないのと同じと灌太は結論づけた。
説明書によれば、この円盤は『CD』というそうだ。
このCDとやらは、会場の各所に設置されたパソコンに入れるとksknetで必要なキーワードを全て見ることができる、らしいのだ。
……しかし、12時間以上この地にいるにも関わらず、灌太はkskネットの事をまだ知らない。
(クソッ、また俺の知らない言葉だよ。
ksknetってなんだ?
そっちの詳細を書けよ、あの貧乳女とロリコン親父が)
kskネットなど見たことも聞いたこともない、このようにわからない単語に苛立ったのか、心の中とはいえ主催者への悪口を吐いた。
しかし灌太もわからないことだらけではない。
「ま、説明書を見る限りパソコンに纏わる物なんだろうな。
ついでにキーワードとつく以上何か重要がありそうだしな」
パソコンは貝塚の所で見た事がある。
細かい用途はよくわからないが、見る限り、画面の中に情報が映し出されたり、ロボット兵士を作るにはパソコンが必要だという程度には認識している。
他にも、キーワードという言葉が絡む以上、それに纏わるものは何かしら重要な物があるのだろうと予想がつく。
「コイツをパソコンにぶち込めばksknetに必要なキーワードが見れるんだな?
各所に設置されてるってことは、パソコンは固定されて置かれてるんだろうな」
少ない情報から灌太が導き出した答がそれだった。
この頭の回転の早さこそ水野灌太の恐ろしいところである。
ただし、いくら頭の回転が早くとも知らないものはとことんわからない。
「……だけど、肝心のksknetの事がわからねぇよ。
ネットってつく以上、網の事か?
パソコンに網? 意味わかんねぇぞ! ひょっとしてこれも魔法の類なのか?
……チッ、余計な想像力を働かせると自分で変な誤解を招きそうで怖いぜ」
ksknetについて悩む灌太の脳裏に一人の女性の姿が浮かぶ。
「セインだったら知ってたかもしれねーなぁ……」
彼女が生きていれば、自分の知らない言葉もいくつか教えてくれたかもしれない、ついでに良い乳だった。
できれば、途中でスバルに渡したメリケンサックを除く支給品に、まともな武器防具があれば生きてた可能性もある。
だが、たらればを吐いたところで彼女は帰ってこない。
あるのはセインが灌太に妹の事を託して死んだ事と、メリケンサック・輸血パック・CDという風に装備に恵まれなかった事ぐらいである。
「ハッ、とっくに死んだ女に未練を持つなんて俺らしくねえ。良い乳してたけど。
……べ、別に、セインの事は姉妹丼ができなくなったぐらいにしか思ってないんだから、勘違いしないでよね!」
自嘲気に笑った後、誰に向けてでもなく、ちょっとしたおふざけにどこぞのツンデレ系少女のような女言葉で喋る。
しかし、周りに誰もいないので当然、リアクションは返ってこない。
虚しくなった灌太は脱線した思考を元に戻し、この支給品に関して価値をまとめる。
「コイツがあればksknetって奴のキーワードを知ることができる。
ksknetがいまいちわかんねーが、キーワードがあればパソコンを通して『何か』が手に入るんだろうな。
情報とか武器とか貝塚のオッチャンが作るみてぇなロボット兵士……は高望みだとしても、何も手に入らないなんてことはないハズだ。
とにかく、持っていて損はねぇだろう」
CDにはそれなりの価値があると灌太は結論づけた。
これにより灌太は、この会場にパソコンがあることを知り、そのパソコンに対する意識も上がった。
これで、あらかた支給品のチェックを完了した。
できれば銃や刀剣のような武器が欲しかった灌太だが、無いものは仕方ない。
それでも蛇野郎(灌太は名前を知らない)と戦うには手榴弾一つでは心細く、さらに蛇野郎クラスの強さを持つ敵はまだまだいると予想づく。
雨蜘蛛のように危険で厄介な男もいる。
可能ならそんな奴らと渡り合う準備が整うまでは、接触は避けていきたいと灌太は願う。
――――――――――
「あれ? 首輪はどこにいった?」
支給品のチェックを終え、CDを仕舞う際にディバックを開けた時に灌太は首輪がないことに気づいた。
てっきりもうディパックにしまい込んだものかと思いこんでいたらしい。
ただでも首輪を外すためには重要な物なのに、それを失くしたら笑い事ではない。
灌太は急いで首輪を探す、しかしそれは割とすぐに見つかった。
探していると、ゴリッと何か硬い物を踏んだのに気づき、足元を見るとそれが首輪だとわかり、すぐに拾う。
「ふぅ、こんなとこにあったのか。
ありゃ、汚れがついてら」
灌太が足で踏んだ際に首輪に靴の裏の土がついたようだ。
先程はフェイトなる女性の血で汚れていたが、今度は土で汚れに見なりが悪くなった。
血はカーテンで拭いたが、今度は手頃な布がない。
今度の汚れは土なので、衣服が汚れても血と比べればいろんな意味で大丈夫だろうと思い、仕方なく衣服の端で首輪を拭くことにした。
拭く度に綺麗になる首輪、だが首輪を拭いていると灌太はあることに気づく。
首輪の内側に、小さなヒビが入ってることに気づいた。
(ヒビ?)
さっきは首輪の内側まで気が回らなかったらしい。
ヒビ自体小さく、再度拭く事で、ようやく気づくことができた。
だが、灌太が目を懲らして注視すると、ヒビは深く割れている気がする。
下手したら内部まで届いているか?
それでさらに幅が広ければ、首輪の内部も見ることができたかもしれない。
しかし、このヒビはいつ頃ついたのか?
先程、転んだ灌太のディパックから飛び出した拍子にか? それとも灌太が踏んだ時に割れたのか?――
(――首輪がそんなに脆けりゃ、蛇野郎に襲われた時点で俺の首輪はとっくに割れてるぜ。
じゃあ、ボインちゃんのフェイトが殺された時あたりか?)
余談だが、この傷はフェイトと悪魔将軍との戦闘で入ったヒビである。
灌太はそれを知るよしもないが、あれほどの激しい戦闘の中で小さなヒビ一つ入っただけだとしたら、首輪の硬度はかなりのものであろう。
残念ながら、その戦闘を見ていない灌太には、戦闘になればこれくらいの傷は入るだろう、ぐらいにしか思えなかった。
それよりも、灌太の興味が向いたのは……
「…………」
灌太は首輪を適当に拭き終えると、興味本意から、例のヒビの部分をそ~っとなぞる。
――『心の壁 A.T.フィールド 解き放ってしまえば肉体は意味を失い、生命のスープであるLCLの海に還元される これがその首輪の原理』――
殺しあい開始時の主催者の言葉と、みせしめとして白髪の少年・渚カヲルが色水に変えられた時のことが思い浮かぶ。
第六感が危険信号を発したのを悟った灌太はすぐさま指を引っ込める。
「なんの仕掛けがあるかもわからないのに、迂闊にベタベタ触らない方が良いな」
何かの弾みで自分がLCLという色水になってしまうかもしれないのだ……そうなればジ・エンド。
そうでなかったとしても何があるかわからない以上、余計な事をすることは死を招きかねない。
それに首輪についての不可解な事はまだまだ沢山ある。
(あのナイチチとロリコンが言った事を総合すると、この首輪はA.T.フィールドってヤツを壊して人間をLCLっとか言う色水に変えちまう装置なのか?)
なんとなく顎に手を添え、灌太は考える。
(A.T.フィールドは心の壁、それを取り払うってことは、精神を壊すってことか?
だが精神崩壊引き起こしただけで色水になる人間なんて聞いたことねぇぞ。
そもそも科学的な根拠がわかんねーし、これもセインの世界で言う魔法に関わることなのか?
だったらセインが知ってたハズだし、あーもー! 情報が足りなすぎる!!)
思考にふける今の灌太の顔つきは、先程妄想が原因でマヌケにも転んだ時とは違い、真剣そのものである。
その眼は鈍く光るナイフのように首輪を睨んでいた。
そして、灌太の考えに一つの思考がよぎる。
(実は、首輪が俺達をLCLに変えるんじゃなくて、俺達の身体が元々LCLでできてたりして……生命のスープとかほざいてたくらいだし)
もし、自分や自分以外の人間や怪物も、姿形は違えど、実は同じLCLで構成されていたとしたら……
それならどんな参加者も、主催者の説明通りに、首輪が作動すれば皆、色水になるのも説明がつく、だが……
(この考えはヤメだヤメだ。俺が雨蜘蛛や蛇野郎と同じ物でできてるなんて考えるだけで気持ちわりぃよ。
それに根拠も確信もねぇのに、ただの思いつきで深く考えこむのはよそう)
LCL=自分を含めた生物を構成してる物、とゆう考えの出所は灌太の思いつきからであり、想像力だけで考えを深めるのは良くないと判断し、考察から除外した。
――――――――――
そして、あらかた考えたところで首輪に関する考察のまとめに入る。
(複雑な仕組みの爆弾も仕組みと原理を知ってれば、バラすことができる。
このうざってぇ首輪をバラすためには、首輪の仕組みと原理を理解しなければならない、理解するにはA.T.フィールドとLCLについてもっと具体的に知る必要があるのかもな。
外させるだけなら首輪の事は技術を持っている奴に任せてもいいが、そいつのためにもその情報を優先して集めた方が良いな)
首輪解除の鍵はA.T.フィールドとLCLを知ることにある、と灌太は推測する。
しかし、その考えに対しての疑念もある。
(まぁ、会場を走り回って何もわからなかったら、誰も知らなかったら、優勝を狙うしかねぇな。
もしも俺がロリと眼鏡の立場なら首輪を外せるような奴はまず参加させねぇ。
それなら主催者に抗うだけ無駄だ)
灌太の最低限の目的は自身の生存。
そのためには例え対象が蛇野郎のような怪物でも、女子供でも、自分の弟子や幼なじみでも、スバルやなのはのようなボインちゃんでも(ちょっと惜しいと思いつつ)殺すことを厭わない。
そして……
(そん時がきたらセインの依頼も契約破棄だ。
妹だろうと殺す。
この俺が生き残るためにな)
灌太には、己が生き残るためなら誰だろうと手にかけ、裏切りを働くことも辞さない冷酷な考えもあった。
死ねば、上手い飯を喰うことも女の乳を揉むこともできない。
それを知ってる故に自身の生存とメリットのためなら手段を選ばないのが水野灌太である。
しかし……
(まぁ、優勝しても生きて帰れる保証も今はまだねぇ。
殺しあいに乗るのは優勝して生きて帰れる保証と、脱出が不可能だと判断した時でも遅くはないだろ。
俺だって貴重なボインちゃんを殺すのには抵抗がある、だから……)
「『今はまだ』契約は破棄しないから安心しろセイン」
灌太は天を仰ぎ見て、嫌らしく笑った。
(今、俺に必要なのは情報だ。
知らないことがとにかく多いが、特にA.T.フィールドとLCLの事は知っておきたい。
『知ってる奴がいるなら』聞き出す必要がある。とりあえず首輪を外せなきゃ、まな板女と変態親父に反抗することもできないからな)
灌太の思考に新たに追加された行動方針はこんな所である。
※いまさらであるが、心の中での主催者である長門有希と草壁タツヲへの呼び方が酷いのは、灌太の苛立ちの表れだと思ってほしい。
――――――――――
こうして考察を打ち切り、首輪をディパックにしまっていよいよ出発する。
目的地は変わらずに遊園地、できればそこで有力な情報や武器が手に入ればいい。
遊園地にパソコンなるものがあれば、手元にあるCDにより『何か』が手に入るかもしれない。
ついでにボインちゃんがいれば最高にイイ、スゴクイイ、と灌太は思う。
「さて、考えるのはこの辺にしてボチボチ行きますか。
パソコンあるとい~な~」
そして足を進めた……その時、背後からガサガサと何者かが草をかきわけてこちらに近づいてくる音がした。
「!?」
殺しあいに乗った者の可能性もある。まともな武器が少ない今、襲われるのはまずい。
それが蛇野郎なら尚のことだ。
とにかく背を向けるのはまずいと判断した灌太は、即座に手頃な木に隠れ、影から様子を伺うことにする。
そして、膝の高さ程度の草をかきわけながら、何者かが現れた。
それは少年だった。
「ハァハァ……逃げ、なきゃ……」
少年は、こちらに少しも気づいていないようだ。
こんだけ近くにいるのに気づかないとは間抜けな野郎だ、と思いつつ灌太は少年に観察眼を向ける。
少年の年齢は灌太より幾分か下のようだが、そんなことはどうでもいい。
目に見えてわかる疲労や、怪我や衣服の汚れがある所からして、戦闘にでも巻き込まれたのか。
もし殺しあいに乗ってなければ接触してもよかったが、灌太はあることに気づき迂闊に接触できなかった。
「逃げなきゃ……死にたくない……安全な場所へ」
口々にそんな事を言いながら、何かに怯えるような挙動不振な動きでどこかへと進んでいる。
何かから逃げようとしているわりには、疲労のためか動きがとても鈍い。
(ありゃ、錯乱してるな。
殺しあいに乗る乗らない以前に、まともに話ができるかも怪しいぜ)
また、灌太はあることを思い出す。
(この先は禁止エリアだし、それがわかってないようならアイツは死ぬな。いや、アレは十中八九知らない顔だな。
まぁ、元から気が触れてるみたいだし、厄介事になる前に死んでくれた方が良いかな?)
ここはE-4、少年が直進すると禁止エリアであるE-3に入ってしまう。
灌太はE-3は迂回するつもりだったが、少年にその様子はなく、禁止エリアに足を踏み入れれれば彼はLCLなる色水と化すだろう。
かと言って、錯乱してる少年を助ける義理は無いので、灌太は最初はやり過ごす構えもあるが、ここで別の考えがよぎる。
(……あんな奴でも俺の知りたいこと、特にATフィールドやパソコンのことについて何か知ってるかもしれないんだよな~?)
見殺しにして、貴重な情報が二度と手に入らなくなるのも癪である。
(だが、アレじゃまともに会話を交わせる状態じゃなさそうだし、どうすっかなー?)
例え貴重な情報を持っていても、喋ってくれなければ意味がない。故に灌太は悩む。
(さぁ、どうする?
あのガキを――生かすか? 殺すか?
この先が禁止エリアだと教えて恩を売りつつ生かす?
貴重な情報だけ聞き出してほおっておく?
情報を持ってなくても肉壁として生かして使い潰すか?
錯乱してる以上、単純に見殺しにしても良いかもな?
それとも――)
灌太の頭の中には少年についての対応に関するいくつもの選択肢がある。灌太はその中から一つを早く選ばなくてはならない。
ボヤボヤしてると少年は行ってしまう。
近くで戦闘があった可能性もあるため、早めに決断しなければならい。
木の影で身を隠す灌太の選んだ選択肢は――
(クールに(冷静に)……いや、冷たいと思考がこり固まっちまう。
ここはソフトに(柔軟に)考えようぜ、砂ぼうすさんよ)
――――――――――
補足だが、突然灌太の前に現れた少年の名前は碇シンジ。
灌太の見立て通りに、戦闘に巻き込まれ、精神は恐慌・錯乱状態に陥っている彼は、まともに会話ができないかもしれない。
されど、彼には灌太の知りたい情報である、A.T.フィールド・LCL・パソコン・ksknetの事を一通り知っている。
断片的とはいえ、知りたいことを知っている情報源が今、灌太の目の前にいるのだ。
これは運命の巡り合わせというものか?
そもそも、灌太が転倒してディパックの中身をぶちまけなければ、セインの支給品に気づくこともまだ先の話となり、フェイトの首輪のヒビに気づくこともなかったかもしれない。
首輪のヒビに気づかなければ、考察に多少の時間を費やすことはなかったかもしれない。
その多少の時間の差で、少年碇シンジを見つける事もなかったかもしれない。
運命はどこでどう変わるか、わからないものである。
発端は些細な事でも蝶の羽ばたきがいつかは嵐になるように、どんな状況に発展するかわかったものではない。
ここでもまた、水野灌太の判断一つで運命が変わろうとしている。
その判断が、水野灌太の運命、碇シンジの運命、もしくはこのキルゲームの運命を大きく変える影響力を持つことも有り得る。
ここで砂ぼうすという砂漠の妖怪が、何を引き起こし、それがどんな未来を開くのか……今はまだ、誰も知らない。
【E-4 森林地帯/一日目・夕方】
【水野灌太@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(中)
【持ち物】オカリナ@となりのトトロ、手榴弾×1、分解したワイヤーウィンチ@砂ぼうず、朝倉涼子・草壁メイ・ギュオーの髪の毛
ディパック、基本セット×3、レストランの飲食物いろいろ、手書きの契約書、フェイトの首輪、ksknetキーワード入りCD、輸血パック@現実×3
【思考】
0、ガキ(シンジ)にどう対処するか決める。
1、何がなんでも生き残る。脱出・優勝と方法は問わない。
2、首輪を外すにはA.T.フィールドとLCLが鍵と推測。主催者に抗うなら、その情報を優先して手に入れたい。
3、遊園地が怪しいので一応行ってみるが、長居はしない。『パソコン』があると良いな。
4、支給品『CD』を『パソコン』に入れれば、『ksknet』のキーワードを知れば、『ksknet』で『何か』が得られる?
5、その後は北の市街地に向かい、ボインちゃんを雨蜘蛛から守る。一応ホテルには向かう。
6、ノーヴェを探す。そして……いっひっひっひ。
7、蛇野郎(ナーガ)は準備を万全にしてから絶対に殺す。
8、首輪を分析したい。また、分析できる協力者が欲しい。
9、関東大砂漠に帰る場合は、小泉太湖と川口夏子の口封じ。あと雨蜘蛛も?
【備考】
※セインから次元世界のことを聞きましたが、あまり理解していません。
※現在、木を隠れ簑に身を隠しています。
※フェイトの首輪の内側に、小さなヒビが入っているのを発見しました。(ヒビの原因はフェイトと悪魔将軍の戦闘←灌太は知りません)
【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(極大)、左肘に銃創、恐慌・錯乱状態
【持ち物】ディパック、基本セット(水は小川で補充済み、ノーヴェにより食糧補充)、護身用トウガラシスプレー@現実、木の枝、ポケットに石を数個
【思考】
1、死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ……
2、全てから逃げて、どこか安全な場所を見つけて、そこでじっとしていたい。
3、自分に近づく人、自分を知る人は力づくでも黙らせる。
4、超人、特に悪魔将軍が怖くてたまらない。
5、優勝したらカヲル君が――――?
【備考】
※自分がどこにいるのかわかっていません。
※第二回放送の内容を把握してません。
※地図の裏面には「18時にB-06の公民館で待ち合わせ、無理の場合B-07のデパートへ」と走り書きされています。
※焦りのためか、灌太の気配に全く気づいていません。
※このまま直進するとE-3の禁止エリアに入ってしまいます。
【輸血パック@現実】
輸血パック三つで1セット。
チューブ付きで、中身の血液型は全部O型だが、O型の血液は他の血液型でも代用ができるため、基本的にどの血液型でも輸血できる。
しかし、人間以外の生物には輸血できない可能性がある。
説明書には使い方がわかりやすく丁寧に書かれているため、医療知識のない者でも扱いやすい。
【ksknetキーワード入りCD@kskロワオリジナル】
ksknetのアクセスのために必要なキーワードが全て入っているCD。
その情報を見るには、パソコンに入れて立ち上げる必要がある。
【水野灌太の首輪考察】
・首輪は参加者の『A.T.フィールド』を壊す装置である。
首輪が作動すると、参加者のA.T.フィールドを壊し、LCLに変えてしまうと推測。
・首輪解除にはATフィールドとLCLの事を理解する必要がある?
・肝心のA.T.フィールドとLCLについての情報を灌太は持ち合わせていない。
主催者の話から、ATフィールド=心の壁 LCL=色水とも言えるが、科学的根拠や原理がわからないため、灌太はもっと具体的な情報を求めている。
・実は首輪が参加者ををLCLに変えるのではなく、LCL自体が自分を含めた生物(参加者全員?)を構成するものではないか?
……しかし、この考えのきっかけは、灌太の単なる思いつきからなので根拠がなく、考察からは除外している。
*時系列順で読む
Back:[[阿修羅姫]] Next:[[]]
*投下順で読む
Back:[[阿修羅姫]] Next:[[誰がために]]
|[[Sand Mission]]|水野灌太(砂ぼうず)|[[もしもふたり逢えたことに意味があるなら]]|
|[[Dies irae / まいご]]|碇シンジ|~|
*砂漠妖怪カンタ Sand Destiny ◆igHRJuEN0s
とある山の中の森林地帯、ここを地図で示すならばE-4である。
そのE-4には一人の男がいた。
彼の名前は水野灌太、通称「砂ぼうず」。
己が生き延びるために、そしてまだ見ぬボインちゃんを求めてこのバトルロワイヤルという戦場を奔走している男である。
現在、彼の目的地は遊園地、もしかすればこの殺しあいに関する手掛かりがあるのではないかと思い、そこへ向かうべく森林の中を駆け抜けている。
そんな彼は――
「アッーーー」
――たった今、すっころび、盛大にディパックの中味をぶちまけるハメになる。
――――――――――
転倒して俯せに倒れた身体を起こしながら灌太は自分に悪態をつく。
「お、俺としたことが……カッコわりぃ」
幸いにも転び方が上手かったためか、怪我らしい怪我はない。
あってもちょっとしたすり傷程度である。
しかし、灌太は例え見慣れぬ森の中でも白骨都市などの足場の悪い場所には慣れているので気の緩みがなければ転ぶハズはない。
……それは、気の緩みさえなければの話だが。
灌太は気の緩みにより地面から顔を出した木の根っこに足を引っかけて転倒したのだ。
では何が灌太の気を緩めさせたのか?
それは知るには、その時の彼の頭の中を覗く必要がある。
下は彼の妄想を文章化したものである……
――対象 水野灌太
――脳内妄想情報読み取り完了
――情報文章化開始……――
(設定→なのは、スバル、ノーヴェをなんやかんやで自分の手中に納めた場合を想定。
ちなみに以上の三人の人格は灌太の都合の良いよう改変されています。キャラ崩壊注意!)
頬を赤めたスバル、なのは、ノーヴェが灌太にすりよってくる。
一方、灌太の目線は三人の胸をマルチロックオンしている。
「すごく……大きいです」
灌太は率直に、かつ欲望に忠実に述べた。
そして三人は、なぜか、おもむろに制服やスーツを脱ぎだすと、灌太にねだるようになのはが言った。
「 や り ま せ ん か ? 」
「アッーーー!」
歓喜(狂喜?)の声をあげる灌太には断る理由はなかった、なぜなら灌太の目の前には、彼を囲むように三人の たゆんたゆん と悩ましく揺れる豊満な(ry
『ERROR!-規制が入りました
これ以上水野灌太の脳内に介入するには「くそみそテクニック」を読破し、ノンケを捨てる覚悟が必要です』
――いうような妄想を灌太は脳内で繰り広げていた。
「グヘヘヘッ……」
その筆舌に尽くしがたく、ツッコミ所満載の、都合の良すぎる妄想に灌太は、変な薬でも決まったかのように嫌らしい笑みを浮かべる。
だが、その妄想が灌太に気の緩みに繋がり、一瞬の注意力不足から木の根っこに足を引っかけてしまう。
「アッーーー」
先ほどの妄想の中での歓喜とは違う情けない叫び声をあげて灌太は転倒し……今に至る。
――――――――――
灌太にとって転倒そのものは些細なものであるが、問題はそれにより発生したニ次災害の方である。
転倒し身動きがとれない所を殺しあいに乗った輩に襲われるよりははるかに僥倖であるが、少しばかり面倒な事態にはなった。
「あ~あ、中の荷物が散らばっちまったよクソッタレ」
目の前にあちこちに散らかったディパックの中身の道具を見て、誰に言うでもなく灌太はぼやく。
誰に見られたわけでもないが、自分が間抜けにも転んだ事に少しばかり腹が立ったようだ。
見渡す限り、地図や食料にオカリナのような支給品、他にも見慣れない物まで散らかっているが……
とにかくこれらを迅速に回収する必要がある、ぼやぼやしてると作業の最中に殺しあいに乗った者に出くわす危険がある。
そんな事になるのは避けたいため、灌太は急いで道具を掴んではディパックの中へ放り込むように回収し始める。
――――――――――
「なんでこんなのがあるんだ?」
道具という道具をディパックの中にほとんど放り込んだ所で、灌太は今、両の手にある見慣れぬ二つの道具に首を傾げる。
右手に持つは三つの輸血パック。
左手に持つはケースに入れられた一枚のCD、ちなみに関東大砂漠の住人である灌太にはコレがなんなのかわからないが……
この二つは灌太の支給品ではない。
では誰の物なのか?
答えは灌太の中ですぐに出た。
「……こりゃあセインの支給品か」
いくつかのチューブ付きの輸血パックと用途不明の穴の開いた円盤、この二つは今は亡き同行者セインの忘れ形見。
考えて見ると、セインから譲り受けた支給品を確認することを失念してたなぁ、と灌太は思う。
しかし本人は生前に強力な武器や防具はなかったと言っている。
だから灌太はセインの支給品には期待せず、確認も後回しで良いとも思っていた。
実際、明らかに武器にはならない輸血パックと、謎の円盤……少なくとも武器には見えない物体、の二つである。
とはいえ、見た目だけで判断するのは早計と思い、意外と使えるものなんじゃないかと灌太は推測する。
そうと決まれば、支給品の説明書を流し読みし始める。
まず、三つの輸血パックだが、これはそのまんま『輸血パック』。
ただ、これは三つともO型である。
本来は血液型とは違う血液を輸血することはできないのだが、O型の血液は他のA型B型AB型の血液型の人間にも適用できるのだ。
つまり、どんな血液型の人間にも使うことができる。
また、説明書には輸血の際にチューブをどの血管に通せば良いのかなど、それほど医療知識に詳しくない者でもわかりやすく丁寧な説明が書かれているので、誰でも扱える優れ物なのだ。
しかし灌太には少しばかり不満もある。
(できれば武器が欲しかったぜ。
あのナインちゃんの長門と草壁タシロだかタツヲだかのオッサンも、殺しあいの促進のためにも、もう少し武器を恵んでも良かったんじゃないか?
まぁ、使えない物渡されるよりかはマシか)
この場にいない主催者の長門と草壁タツヲに灌太は心の中で半ば文句を垂れた。
しかし、怪我で大量の出血をした時に、これがある・ないで生存率にだいぶ差が出るだろう。
それにもし、瀕死のボインちゃんに出くわした時にこの輸血パックで助けた恩を売りつけ、その後は……ドゥフフフフフ。
……という若干都合の良い算段も頭の中でできあがった。
もっとも、セインのような機械の身体を持つ者や、ガルルのような地球外生命体には輸血できないかもしれないが。
次は灌太にとって用途不明の穴空き円盤。
どこかで見た気がしないでもないが、記憶が曖昧な物は知らないのと同じと灌太は結論づけた。
説明書によれば、この円盤は『CD』というそうだ。
このCDとやらは、会場の各所に設置されたパソコンに入れるとksknetで必要なキーワードを全て見ることができる、らしいのだ。
……しかし、12時間以上この地にいるにも関わらず、灌太はkskネットの事をまだ知らない。
(クソッ、また俺の知らない言葉だよ。
ksknetってなんだ?
そっちの詳細を書けよ、あの貧乳女とロリコン親父が)
kskネットなど見たことも聞いたこともない、このようにわからない単語に苛立ったのか、心の中とはいえ主催者への悪口を吐いた。
しかし灌太もわからないことだらけではない。
「ま、説明書を見る限りパソコンに纏わる物なんだろうな。
ついでにキーワードとつく以上何か重要がありそうだしな」
パソコンは貝塚の所で見た事がある。
細かい用途はよくわからないが、見る限り、画面の中に情報が映し出されたり、ロボット兵士を作るにはパソコンが必要だという程度には認識している。
他にも、キーワードという言葉が絡む以上、それに纏わるものは何かしら重要な物があるのだろうと予想がつく。
「コイツをパソコンにぶち込めばksknetに必要なキーワードが見れるんだな?
各所に設置されてるってことは、パソコンは固定されて置かれてるんだろうな」
少ない情報から灌太が導き出した答がそれだった。
この頭の回転の早さこそ水野灌太の恐ろしいところである。
ただし、いくら頭の回転が早くとも知らないものはとことんわからない。
「……だけど、肝心のksknetの事がわからねぇよ。
ネットってつく以上、網の事か?
パソコンに網? 意味わかんねぇぞ! ひょっとしてこれも魔法の類なのか?
……チッ、余計な想像力を働かせると自分で変な誤解を招きそうで怖いぜ」
ksknetについて悩む灌太の脳裏に一人の女性の姿が浮かぶ。
「セインだったら知ってたかもしれねーなぁ……」
彼女が生きていれば、自分の知らない言葉もいくつか教えてくれたかもしれない、ついでに良い乳だった。
できれば、途中でスバルに渡したメリケンサックを除く支給品に、まともな武器防具があれば生きてた可能性もある。
だが、たらればを吐いたところで彼女は帰ってこない。
あるのはセインが灌太に妹の事を託して死んだ事と、メリケンサック・輸血パック・CDという風に装備に恵まれなかった事ぐらいである。
「ハッ、とっくに死んだ女に未練を持つなんて俺らしくねえ。良い乳してたけど。
……べ、別に、セインの事は姉妹丼ができなくなったぐらいにしか思ってないんだから、勘違いしないでよね!」
自嘲気に笑った後、誰に向けてでもなく、ちょっとしたおふざけにどこぞのツンデレ系少女のような女言葉で喋る。
しかし、周りに誰もいないので当然、リアクションは返ってこない。
虚しくなった灌太は脱線した思考を元に戻し、この支給品に関して価値をまとめる。
「コイツがあればksknetって奴のキーワードを知ることができる。
ksknetがいまいちわかんねーが、キーワードがあればパソコンを通して『何か』が手に入るんだろうな。
情報とか武器とか貝塚のオッチャンが作るみてぇなロボット兵士……は高望みだとしても、何も手に入らないなんてことはないハズだ。
とにかく、持っていて損はねぇだろう」
CDにはそれなりの価値があると灌太は結論づけた。
これにより灌太は、この会場にパソコンがあることを知り、そのパソコンに対する意識も上がった。
これで、あらかた支給品のチェックを完了した。
できれば銃や刀剣のような武器が欲しかった灌太だが、無いものは仕方ない。
それでも蛇野郎(灌太は名前を知らない)と戦うには手榴弾一つでは心細く、さらに蛇野郎クラスの強さを持つ敵はまだまだいると予想づく。
雨蜘蛛のように危険で厄介な男もいる。
可能ならそんな奴らと渡り合う準備が整うまでは、接触は避けていきたいと灌太は願う。
――――――――――
「あれ? 首輪はどこにいった?」
支給品のチェックを終え、CDを仕舞う際にディバックを開けた時に灌太は首輪がないことに気づいた。
てっきりもうディパックにしまい込んだものかと思いこんでいたらしい。
ただでも首輪を外すためには重要な物なのに、それを失くしたら笑い事ではない。
灌太は急いで首輪を探す、しかしそれは割とすぐに見つかった。
探していると、ゴリッと何か硬い物を踏んだのに気づき、足元を見るとそれが首輪だとわかり、すぐに拾う。
「ふぅ、こんなとこにあったのか。
ありゃ、汚れがついてら」
灌太が足で踏んだ際に首輪に靴の裏の土がついたようだ。
先程はフェイトなる女性の血で汚れていたが、今度は土で汚れに見なりが悪くなった。
血はカーテンで拭いたが、今度は手頃な布がない。
今度の汚れは土なので、衣服が汚れても血と比べればいろんな意味で大丈夫だろうと思い、仕方なく衣服の端で首輪を拭くことにした。
拭く度に綺麗になる首輪、だが首輪を拭いていると灌太はあることに気づく。
首輪の内側に、小さなヒビが入ってることに気づいた。
(ヒビ?)
さっきは首輪の内側まで気が回らなかったらしい。
ヒビ自体小さく、再度拭く事で、ようやく気づくことができた。
だが、灌太が目を懲らして注視すると、ヒビは深く割れている気がする。
下手したら内部まで届いているか?
それでさらに幅が広ければ、首輪の内部も見ることができたかもしれない。
しかし、このヒビはいつ頃ついたのか?
先程、転んだ灌太のディパックから飛び出した拍子にか? それとも灌太が踏んだ時に割れたのか?――
(――首輪がそんなに脆けりゃ、蛇野郎に襲われた時点で俺の首輪はとっくに割れてるぜ。
じゃあ、ボインちゃんのフェイトが殺された時あたりか?)
余談だが、この傷はフェイトと悪魔将軍との戦闘で入ったヒビである。
灌太はそれを知るよしもないが、あれほどの激しい戦闘の中で小さなヒビ一つ入っただけだとしたら、首輪の硬度はかなりのものであろう。
残念ながら、その戦闘を見ていない灌太には、戦闘になればこれくらいの傷は入るだろう、ぐらいにしか思えなかった。
それよりも、灌太の興味が向いたのは……
「…………」
灌太は首輪を適当に拭き終えると、興味本意から、例のヒビの部分をそ~っとなぞる。
――『心の壁 A.T.フィールド 解き放ってしまえば肉体は意味を失い、生命のスープであるLCLの海に還元される これがその首輪の原理』――
殺しあい開始時の主催者の言葉と、みせしめとして白髪の少年・渚カヲルが色水に変えられた時のことが思い浮かぶ。
第六感が危険信号を発したのを悟った灌太はすぐさま指を引っ込める。
「なんの仕掛けがあるかもわからないのに、迂闊にベタベタ触らない方が良いな」
何かの弾みで自分がLCLという色水になってしまうかもしれないのだ……そうなればジ・エンド。
そうでなかったとしても何があるかわからない以上、余計な事をすることは死を招きかねない。
それに首輪についての不可解な事はまだまだ沢山ある。
(あのナイチチとロリコンが言った事を総合すると、この首輪はA.T.フィールドってヤツを壊して人間をLCLっとか言う色水に変えちまう装置なのか?)
なんとなく顎に手を添え、灌太は考える。
(A.T.フィールドは心の壁、それを取り払うってことは、精神を壊すってことか?
だが精神崩壊引き起こしただけで色水になる人間なんて聞いたことねぇぞ。
そもそも科学的な根拠がわかんねーし、これもセインの世界で言う魔法に関わることなのか?
だったらセインが知ってたハズだし、あーもー! 情報が足りなすぎる!!)
思考にふける今の灌太の顔つきは、先程妄想が原因でマヌケにも転んだ時とは違い、真剣そのものである。
その眼は鈍く光るナイフのように首輪を睨んでいた。
そして、灌太の考えに一つの思考がよぎる。
(実は、首輪が俺達をLCLに変えるんじゃなくて、俺達の身体が元々LCLでできてたりして……生命のスープとかほざいてたくらいだし)
もし、自分や自分以外の人間や怪物も、姿形は違えど、実は同じLCLで構成されていたとしたら……
それならどんな参加者も、主催者の説明通りに、首輪が作動すれば皆、色水になるのも説明がつく、だが……
(この考えはヤメだヤメだ。俺が雨蜘蛛や蛇野郎と同じ物でできてるなんて考えるだけで気持ちわりぃよ。
それに根拠も確信もねぇのに、ただの思いつきで深く考えこむのはよそう)
LCL=自分を含めた生物を構成してる物、とゆう考えの出所は灌太の思いつきからであり、想像力だけで考えを深めるのは良くないと判断し、考察から除外した。
――――――――――
そして、あらかた考えたところで首輪に関する考察のまとめに入る。
(複雑な仕組みの爆弾も仕組みと原理を知ってれば、バラすことができる。
このうざってぇ首輪をバラすためには、首輪の仕組みと原理を理解しなければならない、理解するにはA.T.フィールドとLCLについてもっと具体的に知る必要があるのかもな。
外させるだけなら首輪の事は技術を持っている奴に任せてもいいが、そいつのためにもその情報を優先して集めた方が良いな)
首輪解除の鍵はA.T.フィールドとLCLを知ることにある、と灌太は推測する。
しかし、その考えに対しての疑念もある。
(まぁ、会場を走り回って何もわからなかったら、誰も知らなかったら、優勝を狙うしかねぇな。
もしも俺がロリと眼鏡の立場なら首輪を外せるような奴はまず参加させねぇ。
それなら主催者に抗うだけ無駄だ)
灌太の最低限の目的は自身の生存。
そのためには例え対象が蛇野郎のような怪物でも、女子供でも、自分の弟子や幼なじみでも、スバルやなのはのようなボインちゃんでも(ちょっと惜しいと思いつつ)殺すことを厭わない。
そして……
(そん時がきたらセインの依頼も契約破棄だ。
妹だろうと殺す。
この俺が生き残るためにな)
灌太には、己が生き残るためなら誰だろうと手にかけ、裏切りを働くことも辞さない冷酷な考えもあった。
死ねば、上手い飯を喰うことも女の乳を揉むこともできない。
それを知ってる故に自身の生存とメリットのためなら手段を選ばないのが水野灌太である。
しかし……
(まぁ、優勝しても生きて帰れる保証も今はまだねぇ。
殺しあいに乗るのは優勝して生きて帰れる保証と、脱出が不可能だと判断した時でも遅くはないだろ。
俺だって貴重なボインちゃんを殺すのには抵抗がある、だから……)
「『今はまだ』契約は破棄しないから安心しろセイン」
灌太は天を仰ぎ見て、嫌らしく笑った。
(今、俺に必要なのは情報だ。
知らないことがとにかく多いが、特にA.T.フィールドとLCLの事は知っておきたい。
『知ってる奴がいるなら』聞き出す必要がある。とりあえず首輪を外せなきゃ、まな板女と変態親父に反抗することもできないからな)
灌太の思考に新たに追加された行動方針はこんな所である。
※いまさらであるが、心の中での主催者である長門有希と草壁タツヲへの呼び方が酷いのは、灌太の苛立ちの表れだと思ってほしい。
――――――――――
こうして考察を打ち切り、首輪をディパックにしまっていよいよ出発する。
目的地は変わらずに遊園地、できればそこで有力な情報や武器が手に入ればいい。
遊園地にパソコンなるものがあれば、手元にあるCDにより『何か』が手に入るかもしれない。
ついでにボインちゃんがいれば最高にイイ、スゴクイイ、と灌太は思う。
「さて、考えるのはこの辺にしてボチボチ行きますか。
パソコンあるとい~な~」
そして足を進めた……その時、背後からガサガサと何者かが草をかきわけてこちらに近づいてくる音がした。
「!?」
殺しあいに乗った者の可能性もある。まともな武器が少ない今、襲われるのはまずい。
それが蛇野郎なら尚のことだ。
とにかく背を向けるのはまずいと判断した灌太は、即座に手頃な木に隠れ、影から様子を伺うことにする。
そして、膝の高さ程度の草をかきわけながら、何者かが現れた。
それは少年だった。
「ハァハァ……逃げ、なきゃ……」
少年は、こちらに少しも気づいていないようだ。
こんだけ近くにいるのに気づかないとは間抜けな野郎だ、と思いつつ灌太は少年に観察眼を向ける。
少年の年齢は灌太より幾分か下のようだが、そんなことはどうでもいい。
目に見えてわかる疲労や、怪我や衣服の汚れがある所からして、戦闘にでも巻き込まれたのか。
もし殺しあいに乗ってなければ接触してもよかったが、灌太はあることに気づき迂闊に接触できなかった。
「逃げなきゃ……死にたくない……安全な場所へ」
口々にそんな事を言いながら、何かに怯えるような挙動不振な動きでどこかへと進んでいる。
何かから逃げようとしているわりには、疲労のためか動きがとても鈍い。
(ありゃ、錯乱してるな。
殺しあいに乗る乗らない以前に、まともに話ができるかも怪しいぜ)
また、灌太はあることを思い出す。
(この先は禁止エリアだし、それがわかってないようならアイツは死ぬな。いや、アレは十中八九知らない顔だな。
まぁ、元から気が触れてるみたいだし、厄介事になる前に死んでくれた方が良いかな?)
ここはE-4、少年が直進すると禁止エリアであるE-3に入ってしまう。
灌太はE-3は迂回するつもりだったが、少年にその様子はなく、禁止エリアに足を踏み入れれれば彼はLCLなる色水と化すだろう。
かと言って、錯乱してる少年を助ける義理は無いので、灌太は最初はやり過ごす構えもあるが、ここで別の考えがよぎる。
(……あんな奴でも俺の知りたいこと、特にATフィールドやパソコンのことについて何か知ってるかもしれないんだよな~?)
見殺しにして、貴重な情報が二度と手に入らなくなるのも癪である。
(だが、アレじゃまともに会話を交わせる状態じゃなさそうだし、どうすっかなー?)
例え貴重な情報を持っていても、喋ってくれなければ意味がない。故に灌太は悩む。
(さぁ、どうする?
あのガキを――生かすか? 殺すか?
この先が禁止エリアだと教えて恩を売りつつ生かす?
貴重な情報だけ聞き出してほおっておく?
情報を持ってなくても肉壁として生かして使い潰すか?
錯乱してる以上、単純に見殺しにしても良いかもな?
それとも――)
灌太の頭の中には少年についての対応に関するいくつもの選択肢がある。灌太はその中から一つを早く選ばなくてはならない。
ボヤボヤしてると少年は行ってしまう。
近くで戦闘があった可能性もあるため、早めに決断しなければならい。
木の影で身を隠す灌太の選んだ選択肢は――
(クールに(冷静に)……いや、冷たいと思考がこり固まっちまう。
ここはソフトに(柔軟に)考えようぜ、砂ぼうすさんよ)
――――――――――
補足だが、突然灌太の前に現れた少年の名前は碇シンジ。
灌太の見立て通りに、戦闘に巻き込まれ、精神は恐慌・錯乱状態に陥っている彼は、まともに会話ができないかもしれない。
されど、彼には灌太の知りたい情報である、A.T.フィールド・LCL・パソコン・ksknetの事を一通り知っている。
断片的とはいえ、知りたいことを知っている情報源が今、灌太の目の前にいるのだ。
これは運命の巡り合わせというものか?
そもそも、灌太が転倒してディパックの中身をぶちまけなければ、セインの支給品に気づくこともまだ先の話となり、フェイトの首輪のヒビに気づくこともなかったかもしれない。
首輪のヒビに気づかなければ、考察に多少の時間を費やすことはなかったかもしれない。
その多少の時間の差で、少年碇シンジを見つける事もなかったかもしれない。
運命はどこでどう変わるか、わからないものである。
発端は些細な事でも蝶の羽ばたきがいつかは嵐になるように、どんな状況に発展するかわかったものではない。
ここでもまた、水野灌太の判断一つで運命が変わろうとしている。
その判断が、水野灌太の運命、碇シンジの運命、もしくはこのキルゲームの運命を大きく変える影響力を持つことも有り得る。
ここで砂ぼうすという砂漠の妖怪が、何を引き起こし、それがどんな未来を開くのか……今はまだ、誰も知らない。
【E-4 森林地帯/一日目・夕方】
【水野灌太@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(中)
【持ち物】オカリナ@となりのトトロ、手榴弾×1、分解したワイヤーウィンチ@砂ぼうず、朝倉涼子・草壁メイ・ギュオーの髪の毛
ディパック、基本セット×3、レストランの飲食物いろいろ、手書きの契約書、フェイトの首輪、ksknetキーワード入りCD、輸血パック@現実×3
【思考】
0、ガキ(シンジ)にどう対処するか決める。
1、何がなんでも生き残る。脱出・優勝と方法は問わない。
2、首輪を外すにはA.T.フィールドとLCLが鍵と推測。主催者に抗うなら、その情報を優先して手に入れたい。
3、遊園地が怪しいので一応行ってみるが、長居はしない。『パソコン』があると良いな。
4、支給品『CD』を『パソコン』に入れれば、『ksknet』のキーワードを知れば、『ksknet』で『何か』が得られる?
5、その後は北の市街地に向かい、ボインちゃんを雨蜘蛛から守る。一応ホテルには向かう。
6、ノーヴェを探す。そして……いっひっひっひ。
7、蛇野郎(ナーガ)は準備を万全にしてから絶対に殺す。
8、首輪を分析したい。また、分析できる協力者が欲しい。
9、関東大砂漠に帰る場合は、小泉太湖と川口夏子の口封じ。あと雨蜘蛛も?
【備考】
※セインから次元世界のことを聞きましたが、あまり理解していません。
※現在、木を隠れ簑に身を隠しています。
※フェイトの首輪の内側に、小さなヒビが入っているのを発見しました。(ヒビの原因はフェイトと悪魔将軍の戦闘←灌太は知りません)
【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
【状態】疲労(極大)、左肘に銃創、恐慌・錯乱状態
【持ち物】ディパック、基本セット(水は小川で補充済み、ノーヴェにより食糧補充)、護身用トウガラシスプレー@現実、木の枝、ポケットに石を数個
【思考】
1、死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ、死ぬのはいやだ……
2、全てから逃げて、どこか安全な場所を見つけて、そこでじっとしていたい。
3、自分に近づく人、自分を知る人は力づくでも黙らせる。
4、超人、特に悪魔将軍が怖くてたまらない。
5、優勝したらカヲル君が――――?
【備考】
※自分がどこにいるのかわかっていません。
※第二回放送の内容を把握してません。
※地図の裏面には「18時にB-06の公民館で待ち合わせ、無理の場合B-07のデパートへ」と走り書きされています。
※焦りのためか、灌太の気配に全く気づいていません。
※このまま直進するとE-3の禁止エリアに入ってしまいます。
【輸血パック@現実】
輸血パック三つで1セット。
チューブ付きで、中身の血液型は全部O型だが、O型の血液は他の血液型でも代用ができるため、基本的にどの血液型でも輸血できる。
しかし、人間以外の生物には輸血できない可能性がある。
説明書には使い方がわかりやすく丁寧に書かれているため、医療知識のない者でも扱いやすい。
【ksknetキーワード入りCD@kskロワオリジナル】
ksknetのアクセスのために必要なキーワードが全て入っているCD。
その情報を見るには、パソコンに入れて立ち上げる必要がある。
【水野灌太の首輪考察】
・首輪は参加者の『A.T.フィールド』を壊す装置である。
首輪が作動すると、参加者のA.T.フィールドを壊し、LCLに変えてしまうと推測。
・首輪解除にはATフィールドとLCLの事を理解する必要がある?
・肝心のA.T.フィールドとLCLについての情報を灌太は持ち合わせていない。
主催者の話から、ATフィールド=心の壁 LCL=色水とも言えるが、科学的根拠や原理がわからないため、灌太はもっと具体的な情報を求めている。
・実は首輪が参加者ををLCLに変えるのではなく、LCL自体が自分を含めた生物(参加者全員?)を構成するものではないか?
……しかし、この考えのきっかけは、灌太の単なる思いつきからなので根拠がなく、考察からは除外している。
*時系列順で読む
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