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*Scars of the War(中編) ◆igHRJuEN0s
まず、ヴィヴィオと朝倉はゲンキの側に駆け寄る。
そして朝倉がヴィヴィオとゲンキの前に立ち、拳銃・クロスミラージュを構える。
その後ろでヴィヴィオはゲンキをゲンキを助け起こす。
朝倉はアスカにナイフを突き立てられている少女を発見する。
(あれは……キョン君の妹?)
直接の面識こそないが、一度消滅する前のバックアップとしての私に長門から送られた情報の中には、キョンの妹の記録はある。
顔面に真新しい横一線の刀傷がつけられているが、容姿的にはまず間違いない。
朝倉としては、古泉やみくるほどではないが、可能な限り保護したかった。
長門に反逆の意を持っているため、見殺しにはしたくないのだ。
そしてヴィヴィオに助け起こされたゲンキは、助けにきたと思われる二人に忠告する。
「気をつけるんだ!
その人は殺しあいに乗ってる!」
「そんな……!?」
ヴィヴィオは信じられないという表情でアスカを見る。
当初は殺しあいに乗った者の手からアスカを助けるつもりで朝倉と共にやってきたつもりが、実際はアスカが人を襲っていたという事実にヴィヴィオは驚愕していた。
そのヴィヴィオに薄ら笑いを浮かべたアスカの方から声をかけてきた。
「やっと見つけたわ。
捜したのよヴィヴィオぉ?」
ヴィヴィオはアスカの笑顔から滲み出る怖い感覚に、震えながらも言葉を返す。
「アスカお姉ちゃん……どうしてそんなことをしているの!?」
「決まってるじゃない、化け物を殺すのよ」
「化け物って……?」
ヴィヴィオは一度、名前も知らぬゲンキとキョンの妹の顔を見て、本当に二人は化け物なのかと、一瞬疑った。
しかし、それは朝倉の一言により一蹴される。
「それはないわ。
二人とも『ただの人間』よ」
「そんな……じゃあなんで?」
アスカの行為に疑問を持ったヴィヴィオに、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスなりの答えを朝倉は出した。
「あの子は、乱心してるみたいね。
だから言ってることを真に受けちゃダメ」
「私が乱心してるですって!?
私は冷静よ!
真っ当な考えで動いてるのよ!!」
自分がおかしいという事をアスカは断固として認めず、朝倉に言葉で噛み付く。
だが、今のアスカの様子は、朝倉で無くてもおかしいと思ったであろう。
「そんなことよりも……」
朝倉は余裕の表情でクロスミラージュを構えつつ、アスカに警告する。
「早くその子を離しなさい。
さもないとこの銃が火を噴くわよ」
「そんなオモチャで脅しが効くと……」
ガスッ
クロスミラージュを玩具だと思っていたアスカに、朝倉はこれが玩具ではないと教えるために、彼女の足音に脅しの一発を撃ち込む。
レーザー、もしくはビームにも見える魔力の銃弾は、アスカの足元に一つの穴を作る。
「……ッ?」
「今のでこれがオモチャじゃないとわかったでしょ?」
朝倉は余裕を崩ず、にこやかな表情を向け。
アスカは驚きつつも、敵意と戦意を濁らせないように睨みつける。
「涼子お姉ちゃん!」
「(大丈夫よ、『今はまだ』非殺傷設定だから、当てても死ぬ事はないわ。
当たれば物凄く痛いだろうけど)」
対峙しているとはいえ、元は仲間だったアスカに弾を撃ち込んだ朝倉にヴィヴィオを止めようとした。
だが、朝倉はクロスミラージュがまだ非殺傷設定である事を小声で教えて宥める。
「さぁ、降参しなさい。
これが最後通告よ?」
朝倉はついに最後の警告をする、降参しなければ今度こそ撃つという意味である。
アスカは焦りながらも思考をする。
(私が屈する?
化け物の仲間たちに?
ヴィヴィオを目の前にして……?
いや、そんなの嫌!
なめられてたまるか!
私は化け物たちに、負けてらんないのよ!!)
元よりプライドの高いアスカは、負けを認めない。
そして策を思いつく。
(……そうだ、良いことを思いついた)
アスカはそれをすぐに実行に移す。
ゲンキ、朝倉、ヴィヴィオの三人を正面に捉え、キョンの妹の首にナイフを向けたまま立ち上がらせ、自分は彼女を腕で拘束し盾にして後ろにつく。
「これで撃てる?」
アスカは勝ち誇ったように言った。
そう、アスカはキョンの妹を人質に取ったのだ。
「……フッ、やり方がえげつないわね」
「それ以上、アンタは口を開くな。
この子を殺すわよ?」
朝倉の言葉に苛立ったのか、キョンの妹の喉元をナイフの刃先で少しだけ傷つける。
大事な器官や血管こそ傷つけられてないが、少し血は流れ、チクリとして痛みは少女を恐慌させ、叫ばせるのには十分だった。
「助けてぇーーー!!
ゲンキくぅーーーん!!」
「『 』ッ!!
この卑怯者ぉー!!」
「ほらほら、アンタも近づいたら殺すわよ!」
アスカへの怒りと敵意が爆発的に高まるゲンキ。
しかし何もできない、してはいけない。
近づくだけで仲間が殺されてしまうかもしれないからである。
朝倉も、表面上は余裕の表情を取りつくろっていたが、内心は焦っていた。
自分の腕なら、たった数mしか離れていないアスカに当てる自信はある。
しかし、盾があれば話は別だ。
アスカはぴったりとキョンの妹を盾にしているので、撃てば確実にキョンの妹に当たる。
クロスミラージュを『非殺傷設定』にしてあるので、キョンの妹に当てても死ぬことはない。
それでキョンの妹ごとアスカを撃つ事もできるが、その拍子に拳銃やナイフがキョンの妹の命を絶ってしまえば本末転倒だ。
故に動けない。
朝倉は心の中で舌打ちをしていた。
ヴィヴィオはかつての仲間の蛮行に、涙腺に涙を溜める。
そこへ嫌らしい笑顔をしたアスカが、三人へ提案する。
「こっちの要求を飲んでくれれば、こいつを助けてやっても良いわ」
「要求はなんだ! 言え!」
ゲンキは怒鳴りながら、とっとと要求を聞こうとする。
そして、アスカは交換条件を提示する。
「人質交換よ。
ヴィヴィオを差し出せば、代わりにコイツを解放してやるわ」
「なんだと!?」
「え……」
「まったく、ふざけた事を」
『なんですと!?』
ゲンキも、ヴィヴィオも、朝倉も、ナビも、アスカの要求に耳を疑った。
---
我ながら、良い策だと思う。
1対4じゃ明らかに不利、だから人質作戦をとったわ。
アイツら化け物には互いへの『仲間意識』は持っている。
まぁ、あくまで表面的なもので、本当は薄っぺらいんだろうけど。
きっとヴィヴィオは仲間意識を示すために、私の要求を飲んで前に出てくるでしょうね。
そして、憎いヴィヴィオを銃で殺す……だけど人質は返さない。
人質がいる限り奴らはどちらにせよ襲ってこれない。
『 』を盾にしながらどこかへ逃げうせるわ。
そして逃げた先で『 』を殺す。
まぁ、ヴィヴィオが仲間を見捨ててメイド服の女の後ろからでてこなくも、盾にして逃げて殺すけど。
メイド服の女は武器を持っているけど、『 』を盾にすれば、撃つに撃てないハズ。
ゲンキは武器を持ってないから、まず無害ね。
できれば殺したいけど、無理はしない。
こっちのリボルバー拳銃はあと4発しか入ってないし、無茶をして私が死ねば誰が加持さんを助けるの?
それでも最低一匹は殺せる計算だし、それで長門から加持さんの居場所を聞き出して助けにいくことができる!
きっと加持さんは褒めてくれるわよね?
……卑怯?
化け物相手にそんなこと言ってられないわ!
正義のためよ!
---
彼女は胸中で、再び自己陶酔に浸っていた。
残念ながら彼女は『自分は正しい・冷静だ』と思いこんでいるだけである。
そもそも、今の彼女には自分の考えの間違いに気づけない・認められないのだから……
---
アスカの要求はつまり、『 』の代わりにヴィヴィオが死ね、という意味だった。
口ではそこまで言わなくとも、銃口が朝倉の後ろにいるヴィヴィオを捉えているので、なんとなくわかる。
まず、朝倉が返答する。
「そんな不当な要求、飲めるわけないでしょ?
あなたが『 』ちゃんを返す保証はどこにもないしね」
「そんな生意気な口を聞いて良いと思ってるの?
殺すわよ?」
「い、いやぁぁぁ!」
もはや朝倉の言葉は、アスカの感情を煽るだけにしかならない。
『(そうだ!
妹殿は混乱してるからパワードスーツの存在を忘れているんだ。
それを妹殿に教えれば……)』
キョンの妹が、ジャージや短パンの下に着ているスクール水着。
しかしその正体は、地球人専用専守防衛型強化服、いわゆるパワードスーツである。
起動すれば、キョンの妹はアスカの手から自力で脱出できると考えた。
今、パニックになっているキョンの妹は、そこまで気がまわってないようなので、ケロロ・ナビはキョンの妹へ、パワードスーツを起動する事を教えようとする。
『妹ど……』
「アンタの声を聞いていると虫酸が走るのよ!!
喋るな!!」
『ゲ、ゲロッ!?』
ケロロ・ナビの声を聞いた瞬間、アスカは強く怒鳴りつける。
これ以上喋ると、キョンの妹が殺されかねないと思ったナビは、口は無いが、口を閉じざるおえなかった。
ナビたちは思考する。
『(このままでは妹殿にパワードスーツが起動する事を教えられないであります!)』
『(このクソアマァ!
こっちだってオメーの声は聞きたくねぇんですよ!)』
憤る二つのナビに、ギロロ・ナビが忠告する。
『(待て二人とも!
このままパワードスーツの事を教えても、それを知ったアスカが、起動前に『 』を殺すとだろう)』
『(なッ……!?
じゃあ、迂闊に妹殿に教えられないということでありますか?)』
『(ただでもパニック状態なんですよ!?
自力で思い出せるわけないですぅ!!)』
そこへさらに、クルル・ナビが付け足して状況を説明する。
『(それだけじゃねぇ。
ただ変身するだけじゃダメだ。
パワードスーツでも首筋の部分は守りきれてねぇ。
アスカの注意がどっかに逸れてなきゃ、ナイフでブスリだ)』
ナビたちはこの状態に絶望する。
『(それじゃ、我輩たちはどーすれば良いでありますかー!?)』
『(どうする事もできん……まさに八方塞がりだ)』
『(『 』がパワードスーツを起動できる事に気づき、アスカが注意を一瞬でも逸らしたその隙を突かなきゃなんねぇな)』
『(そんなぁ……)』
アスカに口を開く事を禁じられたナビたちは、何もできないまま黙るしかなかった。
「やめて! それなら私が……」
人が自分のために死ぬのは見たくなかった。
それでヴィヴィオは要求通り、アスカの前に行こうとした。
しかし、朝倉により引き止められ、朝倉の背後に戻される。
「ダメよ、ヴィヴィオちゃん。
あなたが行っても向こうが『 』ちゃんを言葉通り解放するとは限らないわ。
ただ、出ていくだけじゃ向こうの思う坪よ」
「で、でも……!」
朝倉の言う事は論理的でもっともだったが、ヴィヴィオはそれを感情の方が許せなかった。
逆に朝倉のせいで、事が思ったように運ばないアスカは、ヴィヴィオたちを急かす。
「もう刺しちゃおっかしら」
「ダメぇーッ!!」
「じゃあ、さっさとヴィヴィオを渡しなさいよ!」
ヴィヴィオが飛び出そうとするが、朝倉が引き止め続ける。
それでも朝倉はクロスミラージュを降ろさない。
どこかにつけいる隙があるハズだ。
この状況を変えるにはそれを捜すしかない。
逆につけいられる隙を突かれればこちらの負けだ。
それをアスカに見せてはいけない。
朝倉はチャンスを待ち望み、アスカにチャンスを与えないようにしていた。
一方、アスカに命を握られているキョンの妹を見つめるゲンキの心は……
---
再び時間は遡る。
小砂こと小泉太湖が学校に到着したのは、アスカよりかなり後だった。
アプトムに言うことが本当ならば、アスカの移動先は方角的にここにぶち当たるハズだと思い、学校の敷地前まで着いた。
そして小砂が目撃したのは、アスカに関して考えうる事態の中でも最悪のものだった――
まだ距離はかなり開いてて、顔はよく見えないけど、あの赤い髪をしたやつは間違いなくアスカね。
そんで女の子を人質に取っているみたい……何やってんのよアイツ!?
しかも、アスカが銃を向けている先にはガキンチョと、変な服を着た女、金髪の小さな女の子の三人……
って、えぇ!?
金髪の女の子ってまさかヴィヴィオ!?
これで右目と左目の色が違ったら師匠の言っていた特徴と一致するけど……距離があるせいか良く見えない。
いや、もうアレは暫定でヴィヴィオでいいや。
それはともかく、アスカが女の子を人質にとって、ガキンチョと変な女と暫定ヴィヴィオに銃を向けているのは事実。
何か言ってるみたいだが、ここからでは良く聞こえない。
だけど、もしもあの銃から放たれた弾丸がヴィヴィオに当たって、絶命させたとしたら?
※想像中
「ししょー、すいませ~ん。
ヴィヴィオちゃんはアスカに殺されちゃいましたー」
「放送でも聞いたよ。
小砂ちゃんのやくたたずー!
死んじゃえバインダー」
ず が ん !
「うぎゃー。
ごめんなさい許してください、ししょー」
「ダ~メ。
ヴィヴィオやフェイトちゃんを生き返すために殺しあいに乗るから、やくたたずはとっとと死んでいってね!」
「そんなー、ひどいー」
「後でアスカも天国に送るからサヨナラ小砂ちゃん。
はらわたをぶちまけろー」
「うう、こんなところでしんじゃうなんてー、凄腕魔法少女か凄腕美人になりたかったーがくっ」
【こすな@砂ぼうず しぼー】
【マジカル小砂たん ☆打ち切り☆】
※想像終わり
ヤバイ。
それだけは絶対にヤバイ!
それだけは絶対に避けないとヤバイ!!
それをアスカは今やろうとしているんだ。
そんなことしたら師匠がトンでもないことになるのがわかんないの!?
……もういい、師匠には悪いけど、アイツを殺しておこう。
狙いはヴィヴィオかどうか知らんけど、どちらにせよ人質を取るような暴挙に出てるんだ。
これ以上、騒動を起こされないようにここで始末する。
それに、ヴィヴィオのピンチを救ったのなら師匠も文句は言えないでしょ。
ひょっとしたら、その見返りに魔法を使えるようにしてくれるかも、ヒッヒッヒ。
……とは考えるものの、どうしようか?
私がミニウージーを持って英雄気取りで突撃しても、アスカが何するかわからないしな~
それで激昂したアスカがヴィヴィオを殺しちゃったら話にならないし。
一番良いのは、やっぱりアスカに気づかれないように、狙撃することかな?
今の私の装備や技量・状況から考えると、それぐらいが良いかな。
だけどこのミニウージーは短機関銃、狙撃よりも弾をバラ撒く事に特化したマシンガン。
少なくとも、射程だけなら50mぐらいあれば十分だけど、精度の関係でピンポイントでは狙えないし、人質を巻き込んでしまう。
誤って人質を撃っちゃったら、ヴィヴィオたちや師匠に良い顔されないだろう。
ヴィヴィオが殺されるよりマシだが、それでは師匠が機嫌をそこねて魔法を教えてくれないかも。
どうする?
う~ん、う~ん……
――そこで小砂は閃いた!――
よし、こうしよう!
何も、人質を無理に助ける必要はない。
要はアスカを殺した上でヴィヴィオを助けた既成事実を作れば良いんだ!
私がアスカを撃てるパターンは三つ。
A、ヴィヴィオたちがなんとかして人質になった女の子を助けてくれる。
人質を手元から失ったアスカを私が射殺。
B、ヴィヴィオたちの努力虚しく、残念ながら人質は助からなかった。
人質を殺したアスカを私が射殺。
C、ヴィヴィオが殺される!! 仕方ないから人質ごとアスカを射殺。
……何が言いたいかと言うと、Aはヴィヴィオたちが自力で問題を解決した場合。
その場合はジャストタイミングで助けに着たと言うことができる。
Bは人質が死んでしまったパターン。
この場合は助けにくるのが遅かったと言い訳できる。
とにかく、私は『ヴィヴィオ』を助けにきた『事実』を作れば良い!
とにかく私はアスカの隙を探して殺すだけ。
人質の女の子には気の毒だけど、生きてても死んでてもどっちでも良い。
むしろ私の見立てではBが現実的かな?
Aは少し希望的観測すぎる。
……できればCは避けたいが、コレは最悪の事態を避けるための最終手段かな? とりあえずヴィヴィオは助かる。
ライフルさえ持っていれば、アスカの可愛い(憎たらしい)顔をピンポイントて、吹っ飛ばすだけで済むんだけど、持って無い以上仕方がない。
この作戦でいく。
さて、行動方針は決まった。
次は狙撃に適した場所を探し、後は場の流れに応じて作戦通りにアスカを殺すだけだ。
よし、行こう。
……師匠なら誰も殺す必要が無い、もっと良い術を考えられるんだろうけど、私は師匠のように魔法を使えるわけじゃない。
仕方ないよね?
――こうして、人知れず小砂もこの騒ぎに介入することになる……
---
小砂は他の誰にも気づかれないようにコソコソと校舎の敷地に入り、グラウンドの周りにある手頃な木や夕日で伸びた影を見つけて、そこを伝いながら騒ぎの中心へと近づいていく。
コソコソする分には、小砂が先生と呼ぶ砂ぼうずとの仕事をしてきた経験と慣れがある。
結果誰にも気づかれることなく、アスカたちの側面についた。
ちなみに真後ろからではヴィヴィオたちまで射線に入り、流れ弾が飛ぶ可能性があるので側面にしたのだ。
また、アスカ以外の人間に気づかれても、意図が読めない者の視線が小砂を追い、その視線にアスカが気づいても作戦はオジャンになるため誰にも気づかれるわけにはいかなかった。
これがコソコソしなければならない理由である。
その足音取りで近づけたのは目標のアスカからおよそ30m弱。
射程範囲とはいえ、短機関銃で狙撃するにはまだ遠いが、これ以上隠れられるものがないため、これが限界である。
とりあえず適当な木の影で小砂は狙撃する準備を始める。
(スコープも無いし、ライフルとは勝手が違うから気をつけないとな~……ん?)
そこで小砂は、少年・ゲンキが動き出し、何か言っているのが見えた。
さすがにここまでくれば声は聞こえるだろうと思い、耳を傾ける。
そして状況は動き出す。
---
ゲンキは朝倉の前に出ていた。
アスカは銃口を向け、警告する。
「近づくなって言ったでしょ!?」
「待ってくれ!
どうしてもあんたに聞きたいことがあるんだ!」
ゲンキはアスカと向き合い、銃が向けられようとも億さずに会話を交わそうとする。
朝倉はそんな危険を侵すゲンキに声をかける。
「危ないわよ、私の後ろに」
「ちょっと黙っててくれ」
ゲンキは朝倉の言葉を拒否して返した。
そしてゲンキは自分の中のアスカへの疑問を口にした。
「あんたは、なんで化け物を殺そうとするんだ?」
「それを知ってどうするっていうの?」
「……ただ、俺は知りたいんだよ。
何があって化け物を殺すのかを……」
アスカは質問に答える。
「良いわ、教えてやるわよ。
なんでアンタたちが憎いかをね!」
ゲンキは内心で、安堵のため息を吐く。
キョンの妹を人質に捕られたゲンキの取った手段は『話しあい』だった。
まず話し合いのでの解決は、アスカが暴挙を働く理由を知らなければならない。
その理由を暴けば、血を流さずに、事を解決できるんじゃないかと思い、ゲンキは話し合いによる解決を考えた。
そして今、話の入口に入る。
「私はね、ここにきて怪物に襲われたわ、それで沢山の物を失ったり奪われたりしたわ。
指も失ったし、加持さんや副指令は化け物に操られてしまってるの。
化け物をほうっておいたら、加持さんのような『人間』に被害が及ぶのよ。
だから一匹残らず私が駆除するの!」
ヴィヴィオは思う。
おそらく青い肌の人に襲われ逸れてしまった後に、化け物……きっとモッチーとは違う悪い化け物に襲われていたんだと。
そして、悪い化け物に大切な人を襲われてしまったんだと。
……だが、ここで疑問が浮かぶ。
次はヴィヴィオが質問をした。
「それじゃあ、どうして人間であるこの人たちを襲おうとしたの?」
ヴィヴィオの質問を答える時には、アスカは嫌悪感を抱きながら言い放った。
「化け物はね、人間に擬態する奴もいるのよ。
草壁サツキみたいにね!」
「あなた草壁サツキにあったの!?」
朝倉は驚く、殺しあいの謎をつき止める鍵になるであろう大切な情報源であり、優先保護対象の一人である草壁タツヲの血縁者らしき人物。
次に朝倉が質問する。
「草壁サツキはどうしたの? どこにいるの?」
「ああ、アレは殺したわよ」
「なんですって……?」
「まぁ副指令に襲い掛かったんだし、主催者の手先だったんだから殺して当然よね」
草壁サツキが主催者が送り込んだ手先である可能性は確かに考えられた。
しかし、乱心気味のアスカが言った事なので、そこは鵜呑みにしなかった。
だが、朝倉はサツキを殺した話は本当だと思えた。
そこは放送等で偽りようがないからである。
一方、影の方から小砂は舌打ちをしていた。
(やっぱりサツキを殺したのはアイツだったか!
追ってきて正解だったよ。
……てゆうか主催者の手先だろうと貴重な情報源じゃん!
それを殺しやがって、あの馬鹿が!)
視点は小砂のいる隅から、グランドに戻る。
ヴィヴィオはアスカがサツキを殺した事に対して眉をハの字にして、歎く。
「殺すなんて酷いよ、どうしてそんなことを……」
「うっさいわよ!!
化け物は黙ってなさい!!
それに、実は無害を装ってハルヒを殺したのはアンタじゃないの?」
ハルヒを殺した罪を問われたヴィヴィオは否定し、事実を述べようとする。
「違う、ハルヒお姉ちゃんを殺したのは――」
「まぁ、ハルヒもモッチーみたいな化け物と仲良くするような変人だったしね。
まともな神経もってなさそうだから早死にするのも仕方ないか」
「えっ……」
事実を述べる前に遮られた。
そんなことよりも、アスカの口調は仲間だったハズのハルヒをバカにし、モッチーをなんでもないもののように言った。
それによりヴィヴィオは、アスカに対して歎きとは違う怒りの感情が芽生えていた。
人に対してここまで強い嫌悪感を覚えたのは、おそらくスカリエッティを含めて二人目である。
ゲンキもまた、アスカの話しの中に出てきたハルヒとモッチーという名前に気づく。
モッチーは自分の仲間、ハルヒは『 』の知人である。
それを侮辱するような言い方をするアスカが許せなかった。
思わず、抑え切れない分の感情をゲンキは言葉として吐き出す。
「モッチーは……俺の仲間だったんだ!
ハルヒって人は『 』の知り合いだったんだよ!」
「あら? 仲間だったの?
それじゃあ悔しいわよね~?」
アスカは怒り悔やむゲンキが愉快だったのか、おちょくるように言った。
人の感情を馬鹿にするアスカに、ゲンキが高ぶる怒りを抑えられず、アスカを殴りたいと思った。
アスカの口ぶりにヴィヴィオもゲンキと同じ感情を抱く。
「アンタって人は!」
「……」
それを朝倉が察し、小声で宥める。
「(気持ちはわかるわ……、でも今は抑えて)」
「……くそっ」
「……」
ここでアスカを殴りかかろうとでもすればキョンの妹の命が危ない。
それを理解している二人は朝倉の言う通りに気持ちを抑えて、朝倉の後ろから動かなかった。
しかし、当然ハラワタは煮え繰り返る。
二人とは違い、比較的冷静である朝倉は草壁サツキの事については置いといて、アスカの言ったことを分析する。
化け物=人間に擬態するものがいる、と彼女は言った。
ならば、彼女はどうやって化け物と人間を見分けているのか?
「じゃあ、あなたがこの子たちを化け物だと思った根拠は?」
「簡単よ、こいつらがカエルの化け物の仲間だからよ?」
「は? それにはどうやって気づいたの?」
「無線よ!
コイツらは化け物と無線を取り合っていたのよ!」
無線という言葉に、しばらく無言だったナビたちが反応する。
『無線? ひょっとしてアスカ殿は我々の声を無線機の声か何かと誤解したのでありますか?』
「ちょっと!
喋るなと言ったハズよ?」
『まぁまぁまぁまぁ!!
落ち着いてきいてほしいでありますよアスカ殿』
アスカはキョンの妹のどこからか聞こえる声が、無線機でない事の主張を聞かされる。
ナビたちは主張する。
『アスカ殿、良く効いて欲しいであります』
『俺達は地球人専用専守防衛型強化服に備えられた、喋る人口知能なんだ』
『声や性格が似通っているのは、元にした人つまりはオリジナルの人格を参考にしたためなんですぅ』
『つまり俺達は本人じゃねーってことだ。
オリジナルが殺しあいに乗ってようと、俺達には関係ねぇ』
『さらにゲンキ殿と妹殿の二人は、殺しあいに乗ってないどころか、未だに我輩たちのオリジナルにすらあってないであります。
例え、オリジナルが殺しあいに乗っていようと断じて二人は関係ないのであります。
その辺を理解してくだされば、ここは武器を納めて欲しいのであります』「……」
主張聞いているアスカは無言だった。
もしかしたら、わかってくれたのかもしれない。
ナビたちはそれを期待していた。
「フ、フフフフフ……」
アスカの嘲笑。
ナビたちの期待が裏切られる。
嘲笑はすぐに怒声に変わった。
「バカ言ってんじゃないわよ!!
私はそんなことに騙されたりはしないわよ。
無線じゃないなんて嘘を見抜けないと思ってたの?」
『ゲロォーーー!?』
『まるっきり信じちゃいないというのか?』
『このアマ……!』
『コイツはヤベーぜ』
アスカはナビたちの言葉に聞く耳を持ってなかったようである。
怒鳴りつけてくるアスカの声はキョンの妹の耳をビリビリと痛ませ、脅えを促進させる。
(話しもまともに聞く気はない、か……)
ここまでの問答で朝倉は、アスカが何を思い・どんな人間なのかが、あと少しで見えてくる気がした。
朝倉としてはアスカという人間像を知るためのあと一手が欲しかった。
「ところで聞くけど、ヴィヴィオちゃんを狙う根拠は?」
「簡単よ、魔法なんて得体の知れないものを使ってるからよ!」
朝倉も、ヴィヴィオも、小砂も耳を疑った。
朝倉は首を傾げつつ、呆れるように言った。
「それだけ?」
「何がそれだけよ!
十分気持ちが悪いじゃない!!」
――小砂はアスカの身勝手さに額に青筋を立てている。
(テメーの傷を治してやったのは師匠の魔法のおかげだろうが!!
テメーには貸しと借りの念は考えないのかよ!
あの欲深い先生でもそこは弁えるよ!?)
---
朝倉の、アスカに対する分析は終了した。
アスカは狂ってるように見えて冷静であり、独自の倫理感と正義感を持って行動しているだけなのだ。
問題なのは彼女の倫理と正義はあまりにも、独りよがりで自分勝手であること。
彼女にとっての『化け物』とは、姿形はもちろん、人間と少しでも掛け離れた者は化け物扱いなのだ。
それどころか、化け物と繋がりのある者すら全て敵なのである。
相手が『化け物』なら、その者の善悪はどうでも良く、ただ殺すのだ。
彼女はプライドが高く、自分の正義が絶対だと信じているため、自分の意と違った意見は正しかろうと聞こうとしない。
自分の間違いや矛盾は認めようとしない。
結論。
アスカはただのエゴの強い・我が儘な子供である。
故に扱いづらい。
説得しようものなら、アレやコレや理屈をこじつけて、自分の中で物事を都合の良いようにしてしまうタイプなのだから。
よりによって厄介なのを相手にしてしまった……と朝倉は頭を痛める。
---
「ふぅ、あらかた話したらスッキリしたわ」
今まで話す相手もなかったので、自分の思ってる事を吐き出せたアスカは、少しだけストレスのはけ口になったようだ。
逆にゲンキとヴィヴィオが、怒りを覚えていることなど毛ほども構いもせず。
「それじゃあ、そろそろ決めてもらおうかしら?
ヴィヴィオを引き渡すのか、否かを」
トークタイムは終了と言わんばかりに、『 』の首に向けられたナイフに再び力が込もる。
「ゲンキ君……助けてぇ」
キョンの妹が手を伸ばして助けを求める。
「チッ……」
状況を変えたいが変えられない、アスカは変えさせてくれない人物だと言うことを分析からわかった。
朝倉はとうとう舌打ちをする。
人質の少女を助けたいヴィヴィオはアスカに懇願する。
「もうバカな事はやめて、アスカお姉ちゃん!!」
「うるさいのよ!
アンタが私に殺されればそれで良いのよ!
そうすれば化け物を三匹殺した事になって私は加持さんを助けにいけるんだから!」
三匹、いや、三人殺せば加持を助けに行ける……その言葉で思いあたるものは一つしかない。
ゲンキは聞き間違いでないかと思い、アスカに聞き出す。
「今……なんて言った?」
「だから三匹殺せば!
長門が行方のわからない加持さんの居場所を教えてくれるのよ」
これはつまり、先の放送で主催者が付け足したルール「三人殺せば、探したい一人の居場所を教える」というものだ。
アスカはこのルールに従い、加持を探すつもりなのだろう。
だが、それに貯まっていた怒りが爆発した少年がいた。
「ふざけんなッ!!」
腹から出した怒号はとても大きかった。
その調子を保ったまま、ゲンキは想いを吐き出しまくる。
「アンタが悪いモンスターに襲われて、だから化け物やそれっぽく見える人を襲うのは十分にわかったよ!
それは恐がってるからなんだろ!?」
「私が化け物を恐れてる……?
アタシがそんな臆病者なわけないでしょうがッー!!」
アスカはゲンキの言葉を多大な怒りを込めて否定する。
画して、ゲンキとアスカの言葉と言葉のドッチボールが始まった。
「だけどアンタは、イイモンやワルモン、良い奴とか悪い奴とか見境なしに襲いかかって!!」
「化け物は死んでも良いのよ!」
「そんな理屈で殺される側の気持ちは考えないのかよ!!
恐いから、気に入らないから殺して良いなんて事はあっちゃいけないんだ!!」
ゲンキはまだ子供だ。
そして曲がった事は大嫌いだ。
だからこそ、その言葉に子供らしく単純で、ゲンキらしく純真な怒りを込めていく。
「何より、俺達はこの馬鹿げた殺しあいを止めなきゃいけないのに……
それをアンタは促してんじゃないか!!」
「アタシは化け物しか殺さないわ!」
「そうじゃない!
いくら大切な人を助けたいためだからって、誰かを殺して良いわけがないだろ!!
例えそれが悪い奴でも!!」
――ゲンキはやがて、アスカが何かに似ているのは感じた。
「そうだ……、俺が一番許せないのは……」
――それはゲンキにとって、ある意味で身近であり、嫌悪すべきもの。
「誰かを馬鹿にしたり、傷つけたり、殺したりすることに、アンタは心を痛めちゃいない!」
――死んだハルヒやモッチーを侮辱しても、『 』を傷つけても、サツキを殺しても、彼女は悲しむそぶりすらなかった。
故に似ていた。
ゲンキにとっての『敵』に似ていた。
「そんなアンタは……『ワルモン』と一緒だぁ!!」
ゲンキは言い放った。
悪いモンスター『ワルモン』とアスカが同じであると。
「私が悪者ですって?
違うわ、私は正義のために、人を守るために頑張ってるのよ!
そうすれば、加持さんやママが褒めてくれるわ」
アスカはワルモンを「悪者」であると理解し、それを否定し、自らの正義を主張する。
だが、ゲンキはその正義を真っ向から否定する!
「正義や大切な人を、人殺しの言い訳にするな!
それに守るっていうのは、褒められるためにやるんじゃないんだよッ!!
そんなの独善じゃないかッ!!!」
ありったけの気迫と怒り、それにガッツを加えてアスカに言い放った。
ヴィヴィオはその気迫ゆえに介入できなかった。
だが、ゲンキの想いが耳を通して心に響いてくるのを感じた。
しかし、朝倉と小砂は焦っていた。
(言ってる事は正論よ、でも……)
(あわわわわ、アスカがブチ切れたらどーすんの!?)
アスカが激昂すれば、何をするかわからない。
人質が殺される事だってある。
ゲンキはそれを感情で自制を忘れてたしまったようだ、と思った。
そして、アスカは。
カチャリッ
「独善なんかじゃない……私は間違ってなんか、ない!!」
口々でぶつぶつ良いながら、撃鉄を引き、銃口をキョンの妹のこめかみに向けようとする。しかし……
「人質を撃ったら、おまえも逃げられなくなるんじゃないのか?」
アスカの腕の動きがピタリと止まる。
「それに人質を取るなんて卑怯な真似をして、そんな事までして誰かを殺そうとするなんて、アンタが弱いっていう何よりの証拠なんじゃないのか?」
単なる挑発とも、確信をついているとも言える事をゲンキは指摘する。
そしてアスカの腕が怒りで震える。
「私は……化け物なんて怖くない!」
「!」
「いいわ、ヴィヴィオより先にアンタを殺してあげる」
アスカの殺意が、ヴィヴィオよりも人質の少女よりも、己の正義を否定し、臆病者呼ばわりしたゲンキに向いた。
そして銃口を向け、ゲンキが驚くよりも早く引き金を引く。
「死ねーーーッ!!」
アスカとゲンキまでの距離はわずか数m。
いくら運動神経に秀でたゲンキでも銃弾を避けられる距離じゃない。
ヴィヴィオは何もできない。
朝倉は事態そのものは予想していたが、行動が間に合わない。
小砂は、動くべき時ではないと何もしない。
そして、銃声が轟き、放たれた弾丸はゲンキを貫く
――ことはなかった。
「なに……?」
その場にいた、アスカもヴィヴィオも、朝倉も、小砂も、ゲンキも驚いていた。
なぜなら、ゲンキの前には一つの盾が現れ、それがアスカの狂弾を防いだからである。
皆が驚いている中でナビたちの電子音声が響く。
『イージスシステム起動……間に合ったであります』
『危ない所だったな、ふぅ……』
『ヒヤヒヤしたですぅ、心臓に悪いですぅ』
『人口知能である俺達に心臓はねぇけどな、ク~~~クックック』
音声の発信源はアスカの腕の中、つまり人質にとられた少女からである。
少女を見ると、着ていたハズのジャージや短パンはいつの間にか消えうせ、代わりにスクール水着のような格好にあちこち機械をつけたような珍妙な姿になっていた。
この姿を知っているゲンキ以外が、少女の変身に目を疑う。
そして変わったのは姿だけではなく、少女の眼も先程までアスカに脅えていた眼ではなく、戦える意思を持っていた眼だった。
ここから状況は加速する。
盾の出現と少女の変身に呆然とするアスカ。
その隙をついて、少女がもう一つの盾を射出。
アスカが右手に持ち、自分の命を握っていたナイフをその盾で拘束していた腕ごと弾き飛ばす。
落ちたナイフは足元に落ちた。
「しまった!!」
そして少女は自力でアスカの拘束から解放される。
「クソッ!」
右手の痛みに構わず、アスカはすぐに左手の拳銃の撃鉄を引いて撃とうとする。
しかし、少年はそれを許さなかった。
ゲンキはアスカが引き金を引くより早く、全身の神経と筋肉・ありったけのガッツを連動・駆使して、拳銃目掛けて飛び蹴りを放つ。
「うおおおぉりゃあああぁあ!!」
蹴りはクリーンヒットし、拳銃はアスカの手元から離れてあさっての方向へと飛んでいき、弧を描いて、やがて地面に落ちた。
「何ぃ!?」
これにてアスカはナイフも銃も失う。
腕の痛みでたたらを踏んだアスカに、次に動いた朝倉がクロスミラージュの銃口を向ける。
「残念ね、あなたの負けよ」
「……チックショウ」
突然のハプニングにより立場は逆転した。
朝倉はアスカへ、王手を宣言する。
勝ち誇ったような朝倉の顔が、アスカには憎くくてたまらなかったが、もう何もできなかった。
恨めしい顔をするのが関の山である。
こうして、アスカは人質には逃げられ、ゲンキによって銃を失い、朝倉にの銃口を向けられ、事実上敗北した。
もうアスカに反撃する手段はない。
間違っても足元に落ちたナイフを拾おうとすれば、否応なく朝倉の拳銃が火を吹くだろう。
戦いは決着がつき、朝倉がアスカの動きを止めている横で、キョンの妹がゲンキに駆け寄る。
「また、助けられちまったな」
キョンの妹が盾を射出しなければ撃たれていただろう。
ゲンキはそれに対し彼女へ微笑みかけながら礼を言った。
彼女は微笑みと言葉を返した。
「そんなことないよ。
ゲンキ君がアスカの注意を引いてくれたおかげで、私は生きてるんだから……」
**[[後編へ>Scars of the War(後編)]]
*Scars of the War(中編) ◆igHRJuEN0s
まず、ヴィヴィオと朝倉はゲンキの側に駆け寄る。
そして朝倉がヴィヴィオとゲンキの前に立ち、拳銃・クロスミラージュを構える。
その後ろでヴィヴィオはゲンキをゲンキを助け起こす。
朝倉はアスカにナイフを突き立てられている少女を発見する。
(あれは……キョン君の妹?)
直接の面識こそないが、一度消滅する前のバックアップとしての私に長門から送られた情報の中には、キョンの妹の記録はある。
顔面に真新しい横一線の刀傷がつけられているが、容姿的にはまず間違いない。
朝倉としては、古泉やみくるほどではないが、可能な限り保護したかった。
長門に反逆の意を持っているため、見殺しにはしたくないのだ。
そしてヴィヴィオに助け起こされたゲンキは、助けにきたと思われる二人に忠告する。
「気をつけるんだ!
その人は殺しあいに乗ってる!」
「そんな……!?」
ヴィヴィオは信じられないという表情でアスカを見る。
当初は殺しあいに乗った者の手からアスカを助けるつもりで朝倉と共にやってきたつもりが、実際はアスカが人を襲っていたという事実にヴィヴィオは驚愕していた。
そのヴィヴィオに薄ら笑いを浮かべたアスカの方から声をかけてきた。
「やっと見つけたわ。
捜したのよヴィヴィオぉ?」
ヴィヴィオはアスカの笑顔から滲み出る怖い感覚に、震えながらも言葉を返す。
「アスカお姉ちゃん……どうしてそんなことをしているの!?」
「決まってるじゃない、化け物を殺すのよ」
「化け物って……?」
ヴィヴィオは一度、名前も知らぬゲンキとキョンの妹の顔を見て、本当に二人は化け物なのかと、一瞬疑った。
しかし、それは朝倉の一言により一蹴される。
「それはないわ。
二人とも『ただの人間』よ」
「そんな……じゃあなんで?」
アスカの行為に疑問を持ったヴィヴィオに、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスなりの答えを朝倉は出した。
「あの子は、乱心してるみたいね。
だから言ってることを真に受けちゃダメ」
「私が乱心してるですって!?
私は冷静よ!
真っ当な考えで動いてるのよ!!」
自分がおかしいという事をアスカは断固として認めず、朝倉に言葉で噛み付く。
だが、今のアスカの様子は、朝倉で無くてもおかしいと思ったであろう。
「そんなことよりも……」
朝倉は余裕の表情でクロスミラージュを構えつつ、アスカに警告する。
「早くその子を離しなさい。
さもないとこの銃が火を噴くわよ」
「そんなオモチャで脅しが効くと……」
ガスッ
クロスミラージュを玩具だと思っていたアスカに、朝倉はこれが玩具ではないと教えるために、彼女の足音に脅しの一発を撃ち込む。
レーザー、もしくはビームにも見える魔力の銃弾は、アスカの足元に一つの穴を作る。
「……ッ?」
「今のでこれがオモチャじゃないとわかったでしょ?」
朝倉は余裕を崩ず、にこやかな表情を向け。
アスカは驚きつつも、敵意と戦意を濁らせないように睨みつける。
「涼子お姉ちゃん!」
「(大丈夫よ、『今はまだ』非殺傷設定だから、当てても死ぬ事はないわ。
当たれば物凄く痛いだろうけど)」
対峙しているとはいえ、元は仲間だったアスカに弾を撃ち込んだ朝倉にヴィヴィオを止めようとした。
だが、朝倉はクロスミラージュがまだ非殺傷設定である事を小声で教えて宥める。
「さぁ、降参しなさい。
これが最後通告よ?」
朝倉はついに最後の警告をする、降参しなければ今度こそ撃つという意味である。
アスカは焦りながらも思考をする。
(私が屈する?
化け物の仲間たちに?
ヴィヴィオを目の前にして……?
いや、そんなの嫌!
なめられてたまるか!
私は化け物たちに、負けてらんないのよ!!)
元よりプライドの高いアスカは、負けを認めない。
そして策を思いつく。
(……そうだ、良いことを思いついた)
アスカはそれをすぐに実行に移す。
ゲンキ、朝倉、ヴィヴィオの三人を正面に捉え、キョンの妹の首にナイフを向けたまま立ち上がらせ、自分は彼女を腕で拘束し盾にして後ろにつく。
「これで撃てる?」
アスカは勝ち誇ったように言った。
そう、アスカはキョンの妹を人質に取ったのだ。
「……フッ、やり方がえげつないわね」
「それ以上、アンタは口を開くな。
この子を殺すわよ?」
朝倉の言葉に苛立ったのか、キョンの妹の喉元をナイフの刃先で少しだけ傷つける。
大事な器官や血管こそ傷つけられてないが、少し血は流れ、チクリとして痛みは少女を恐慌させ、叫ばせるのには十分だった。
「助けてぇーーー!!
ゲンキくぅーーーん!!」
「『 』ッ!!
この卑怯者ぉー!!」
「ほらほら、アンタも近づいたら殺すわよ!」
アスカへの怒りと敵意が爆発的に高まるゲンキ。
しかし何もできない、してはいけない。
近づくだけで仲間が殺されてしまうかもしれないからである。
朝倉も、表面上は余裕の表情を取りつくろっていたが、内心は焦っていた。
自分の腕なら、たった数mしか離れていないアスカに当てる自信はある。
しかし、盾があれば話は別だ。
アスカはぴったりとキョンの妹を盾にしているので、撃てば確実にキョンの妹に当たる。
クロスミラージュを『非殺傷設定』にしてあるので、キョンの妹に当てても死ぬことはない。
それでキョンの妹ごとアスカを撃つ事もできるが、その拍子に拳銃やナイフがキョンの妹の命を絶ってしまえば本末転倒だ。
故に動けない。
朝倉は心の中で舌打ちをしていた。
ヴィヴィオはかつての仲間の蛮行に、涙腺に涙を溜める。
そこへ嫌らしい笑顔をしたアスカが、三人へ提案する。
「こっちの要求を飲んでくれれば、こいつを助けてやっても良いわ」
「要求はなんだ! 言え!」
ゲンキは怒鳴りながら、とっとと要求を聞こうとする。
そして、アスカは交換条件を提示する。
「人質交換よ。
ヴィヴィオを差し出せば、代わりにコイツを解放してやるわ」
「なんだと!?」
「え……」
「まったく、ふざけた事を」
『なんですと!?』
ゲンキも、ヴィヴィオも、朝倉も、ナビも、アスカの要求に耳を疑った。
---
我ながら、良い策だと思う。
1対4じゃ明らかに不利、だから人質作戦をとったわ。
アイツら化け物には互いへの『仲間意識』は持っている。
まぁ、あくまで表面的なもので、本当は薄っぺらいんだろうけど。
きっとヴィヴィオは仲間意識を示すために、私の要求を飲んで前に出てくるでしょうね。
そして、憎いヴィヴィオを銃で殺す……だけど人質は返さない。
人質がいる限り奴らはどちらにせよ襲ってこれない。
『 』を盾にしながらどこかへ逃げうせるわ。
そして逃げた先で『 』を殺す。
まぁ、ヴィヴィオが仲間を見捨ててメイド服の女の後ろからでてこなくも、盾にして逃げて殺すけど。
メイド服の女は武器を持っているけど、『 』を盾にすれば、撃つに撃てないハズ。
ゲンキは武器を持ってないから、まず無害ね。
できれば殺したいけど、無理はしない。
こっちのリボルバー拳銃はあと4発しか入ってないし、無茶をして私が死ねば誰が加持さんを助けるの?
それでも最低一匹は殺せる計算だし、それで長門から加持さんの居場所を聞き出して助けにいくことができる!
きっと加持さんは褒めてくれるわよね?
……卑怯?
化け物相手にそんなこと言ってられないわ!
正義のためよ!
---
彼女は胸中で、再び自己陶酔に浸っていた。
残念ながら彼女は『自分は正しい・冷静だ』と思いこんでいるだけである。
そもそも、今の彼女には自分の考えの間違いに気づけない・認められないのだから……
---
アスカの要求はつまり、キョンの妹の代わりにヴィヴィオが死ね、という意味だった。
口ではそこまで言わなくとも、銃口が朝倉の後ろにいるヴィヴィオを捉えているので、なんとなくわかる。
まず、朝倉が返答する。
「そんな不当な要求、飲めるわけないでしょ?
あなたが妹ちゃんを返す保証はどこにもないしね」
「そんな生意気な口を聞いて良いと思ってるの?
殺すわよ?」
「い、いやぁぁぁ!」
もはや朝倉の言葉は、アスカの感情を煽るだけにしかならない。
『(そうだ!
妹殿は混乱してるからパワードスーツの存在を忘れているんだ。
それを妹殿に教えれば……)』
キョンの妹が、ジャージや短パンの下に着ているスクール水着。
しかしその正体は、地球人専用専守防衛型強化服、いわゆるパワードスーツである。
起動すれば、キョンの妹はアスカの手から自力で脱出できると考えた。
今、パニックになっているキョンの妹は、そこまで気がまわってないようなので、ケロロ・ナビはキョンの妹へ、パワードスーツを起動する事を教えようとする。
『妹ど……』
「アンタの声を聞いていると虫酸が走るのよ!!
喋るな!!」
『ゲ、ゲロッ!?』
ケロロ・ナビの声を聞いた瞬間、アスカは強く怒鳴りつける。
これ以上喋ると、キョンの妹が殺されかねないと思ったナビは、口は無いが、口を閉じざるおえなかった。
ナビたちは思考する。
『(このままでは妹殿にパワードスーツが起動する事を教えられないであります!)』
『(このクソアマァ!
こっちだってオメーの声は聞きたくねぇんですよ!)』
憤る二つのナビに、ギロロ・ナビが忠告する。
『(待て二人とも!
このままパワードスーツの事を教えても、それを知ったアスカが、起動前に『 』を殺すとだろう)』
『(なッ……!?
じゃあ、迂闊に妹殿に教えられないということでありますか?)』
『(ただでもパニック状態なんですよ!?
自力で思い出せるわけないですぅ!!)』
そこへさらに、クルル・ナビが付け足して状況を説明する。
『(それだけじゃねぇ。
ただ変身するだけじゃダメだ。
パワードスーツでも首筋の部分は守りきれてねぇ。
アスカの注意がどっかに逸れてなきゃ、ナイフでブスリだ)』
ナビたちはこの状態に絶望する。
『(それじゃ、我輩たちはどーすれば良いでありますかー!?)』
『(どうする事もできん……まさに八方塞がりだ)』
『(『 』がパワードスーツを起動できる事に気づき、アスカが注意を一瞬でも逸らしたその隙を突かなきゃなんねぇな)』
『(そんなぁ……)』
アスカに口を開く事を禁じられたナビたちは、何もできないまま黙るしかなかった。
「やめて! それなら私が……」
人が自分のために死ぬのは見たくなかった。
それでヴィヴィオは要求通り、アスカの前に行こうとした。
しかし、朝倉により引き止められ、朝倉の背後に戻される。
「ダメよ、ヴィヴィオちゃん。
あなたが行っても向こうが『 』ちゃんを言葉通り解放するとは限らないわ。
ただ、出ていくだけじゃ向こうの思う坪よ」
「で、でも……!」
朝倉の言う事は論理的でもっともだったが、ヴィヴィオはそれを感情の方が許せなかった。
逆に朝倉のせいで、事が思ったように運ばないアスカは、ヴィヴィオたちを急かす。
「もう刺しちゃおっかしら」
「ダメぇーッ!!」
「じゃあ、さっさとヴィヴィオを渡しなさいよ!」
ヴィヴィオが飛び出そうとするが、朝倉が引き止め続ける。
それでも朝倉はクロスミラージュを降ろさない。
どこかにつけいる隙があるハズだ。
この状況を変えるにはそれを捜すしかない。
逆につけいられる隙を突かれればこちらの負けだ。
それをアスカに見せてはいけない。
朝倉はチャンスを待ち望み、アスカにチャンスを与えないようにしていた。
一方、アスカに命を握られているキョンの妹を見つめるゲンキの心は……
---
再び時間は遡る。
小砂こと小泉太湖が学校に到着したのは、アスカよりかなり後だった。
アプトムに言うことが本当ならば、アスカの移動先は方角的にここにぶち当たるハズだと思い、学校の敷地前まで着いた。
そして小砂が目撃したのは、アスカに関して考えうる事態の中でも最悪のものだった――
まだ距離はかなり開いてて、顔はよく見えないけど、あの赤い髪をしたやつは間違いなくアスカね。
そんで女の子を人質に取っているみたい……何やってんのよアイツ!?
しかも、アスカが銃を向けている先にはガキンチョと、変な服を着た女、金髪の小さな女の子の三人……
って、えぇ!?
金髪の女の子ってまさかヴィヴィオ!?
これで右目と左目の色が違ったら師匠の言っていた特徴と一致するけど……距離があるせいか良く見えない。
いや、もうアレは暫定でヴィヴィオでいいや。
それはともかく、アスカが女の子を人質にとって、ガキンチョと変な女と暫定ヴィヴィオに銃を向けているのは事実。
何か言ってるみたいだが、ここからでは良く聞こえない。
だけど、もしもあの銃から放たれた弾丸がヴィヴィオに当たって、絶命させたとしたら?
※想像中
「ししょー、すいませ~ん。
ヴィヴィオちゃんはアスカに殺されちゃいましたー」
「放送でも聞いたよ。
小砂ちゃんのやくたたずー!
死んじゃえバインダー」
ず が ん !
「うぎゃー。
ごめんなさい許してください、ししょー」
「ダ~メ。
ヴィヴィオやフェイトちゃんを生き返すために殺しあいに乗るから、やくたたずはとっとと死んでいってね!」
「そんなー、ひどいー」
「後でアスカも天国に送るからサヨナラ小砂ちゃん。
はらわたをぶちまけろー」
「うう、こんなところでしんじゃうなんてー、凄腕魔法少女か凄腕美人になりたかったーがくっ」
【こすな@砂ぼうず しぼー】
【マジカル小砂たん ☆打ち切り☆】
※想像終わり
ヤバイ。
それだけは絶対にヤバイ!
それだけは絶対に避けないとヤバイ!!
それをアスカは今やろうとしているんだ。
そんなことしたら師匠がトンでもないことになるのがわかんないの!?
……もういい、師匠には悪いけど、アイツを殺しておこう。
狙いはヴィヴィオかどうか知らんけど、どちらにせよ人質を取るような暴挙に出てるんだ。
これ以上、騒動を起こされないようにここで始末する。
それに、ヴィヴィオのピンチを救ったのなら師匠も文句は言えないでしょ。
ひょっとしたら、その見返りに魔法を使えるようにしてくれるかも、ヒッヒッヒ。
……とは考えるものの、どうしようか?
私がミニウージーを持って英雄気取りで突撃しても、アスカが何するかわからないしな~
それで激昂したアスカがヴィヴィオを殺しちゃったら話にならないし。
一番良いのは、やっぱりアスカに気づかれないように、狙撃することかな?
今の私の装備や技量・状況から考えると、それぐらいが良いかな。
だけどこのミニウージーは短機関銃、狙撃よりも弾をバラ撒く事に特化したマシンガン。
少なくとも、射程だけなら50mぐらいあれば十分だけど、精度の関係でピンポイントでは狙えないし、人質を巻き込んでしまう。
誤って人質を撃っちゃったら、ヴィヴィオたちや師匠に良い顔されないだろう。
ヴィヴィオが殺されるよりマシだが、それでは師匠が機嫌をそこねて魔法を教えてくれないかも。
どうする?
う~ん、う~ん……
――そこで小砂は閃いた!――
よし、こうしよう!
何も、人質を無理に助ける必要はない。
要はアスカを殺した上でヴィヴィオを助けた既成事実を作れば良いんだ!
私がアスカを撃てるパターンは三つ。
A、ヴィヴィオたちがなんとかして人質になった女の子を助けてくれる。
人質を手元から失ったアスカを私が射殺。
B、ヴィヴィオたちの努力虚しく、残念ながら人質は助からなかった。
人質を殺したアスカを私が射殺。
C、ヴィヴィオが殺される!! 仕方ないから人質ごとアスカを射殺。
……何が言いたいかと言うと、Aはヴィヴィオたちが自力で問題を解決した場合。
その場合はジャストタイミングで助けに着たと言うことができる。
Bは人質が死んでしまったパターン。
この場合は助けにくるのが遅かったと言い訳できる。
とにかく、私は『ヴィヴィオ』を助けにきた『事実』を作れば良い!
とにかく私はアスカの隙を探して殺すだけ。
人質の女の子には気の毒だけど、生きてても死んでてもどっちでも良い。
むしろ私の見立てではBが現実的かな?
Aは少し希望的観測すぎる。
……できればCは避けたいが、コレは最悪の事態を避けるための最終手段かな? とりあえずヴィヴィオは助かる。
ライフルさえ持っていれば、アスカの可愛い(憎たらしい)顔をピンポイントて、吹っ飛ばすだけで済むんだけど、持って無い以上仕方がない。
この作戦でいく。
さて、行動方針は決まった。
次は狙撃に適した場所を探し、後は場の流れに応じて作戦通りにアスカを殺すだけだ。
よし、行こう。
……師匠なら誰も殺す必要が無い、もっと良い術を考えられるんだろうけど、私は師匠のように魔法を使えるわけじゃない。
仕方ないよね?
――こうして、人知れず小砂もこの騒ぎに介入することになる……
---
小砂は他の誰にも気づかれないようにコソコソと校舎の敷地に入り、グラウンドの周りにある手頃な木や夕日で伸びた影を見つけて、そこを伝いながら騒ぎの中心へと近づいていく。
コソコソする分には、小砂が先生と呼ぶ砂ぼうずとの仕事をしてきた経験と慣れがある。
結果誰にも気づかれることなく、アスカたちの側面についた。
ちなみに真後ろからではヴィヴィオたちまで射線に入り、流れ弾が飛ぶ可能性があるので側面にしたのだ。
また、アスカ以外の人間に気づかれても、意図が読めない者の視線が小砂を追い、その視線にアスカが気づいても作戦はオジャンになるため誰にも気づかれるわけにはいかなかった。
これがコソコソしなければならない理由である。
その足音取りで近づけたのは目標のアスカからおよそ30m弱。
射程範囲とはいえ、短機関銃で狙撃するにはまだ遠いが、これ以上隠れられるものがないため、これが限界である。
とりあえず適当な木の影で小砂は狙撃する準備を始める。
(スコープも無いし、ライフルとは勝手が違うから気をつけないとな~……ん?)
そこで小砂は、少年・ゲンキが動き出し、何か言っているのが見えた。
さすがにここまでくれば声は聞こえるだろうと思い、耳を傾ける。
そして状況は動き出す。
---
ゲンキは朝倉の前に出ていた。
アスカは銃口を向け、警告する。
「近づくなって言ったでしょ!?」
「待ってくれ!
どうしてもあんたに聞きたいことがあるんだ!」
ゲンキはアスカと向き合い、銃が向けられようとも億さずに会話を交わそうとする。
朝倉はそんな危険を侵すゲンキに声をかける。
「危ないわよ、私の後ろに」
「ちょっと黙っててくれ」
ゲンキは朝倉の言葉を拒否して返した。
そしてゲンキは自分の中のアスカへの疑問を口にした。
「あんたは、なんで化け物を殺そうとするんだ?」
「それを知ってどうするっていうの?」
「……ただ、俺は知りたいんだよ。
何があって化け物を殺すのかを……」
アスカは質問に答える。
「良いわ、教えてやるわよ。
なんでアンタたちが憎いかをね!」
ゲンキは内心で、安堵のため息を吐く。
キョンの妹を人質に捕られたゲンキの取った手段は『話しあい』だった。
まず話し合いのでの解決は、アスカが暴挙を働く理由を知らなければならない。
その理由を暴けば、血を流さずに、事を解決できるんじゃないかと思い、ゲンキは話し合いによる解決を考えた。
そして今、話の入口に入る。
「私はね、ここにきて怪物に襲われたわ、それで沢山の物を失ったり奪われたりしたわ。
指も失ったし、加持さんや副指令は化け物に操られてしまってるの。
化け物をほうっておいたら、加持さんのような『人間』に被害が及ぶのよ。
だから一匹残らず私が駆除するの!」
ヴィヴィオは思う。
おそらく青い肌の人に襲われ逸れてしまった後に、化け物……きっとモッチーとは違う悪い化け物に襲われていたんだと。
そして、悪い化け物に大切な人を襲われてしまったんだと。
……だが、ここで疑問が浮かぶ。
次はヴィヴィオが質問をした。
「それじゃあ、どうして人間であるこの人たちを襲おうとしたの?」
ヴィヴィオの質問を答える時には、アスカは嫌悪感を抱きながら言い放った。
「化け物はね、人間に擬態する奴もいるのよ。
草壁サツキみたいにね!」
「あなた草壁サツキにあったの!?」
朝倉は驚く、殺しあいの謎をつき止める鍵になるであろう大切な情報源であり、優先保護対象の一人である草壁タツヲの血縁者らしき人物。
次に朝倉が質問する。
「草壁サツキはどうしたの? どこにいるの?」
「ああ、アレは殺したわよ」
「なんですって……?」
「まぁ副指令に襲い掛かったんだし、主催者の手先だったんだから殺して当然よね」
草壁サツキが主催者が送り込んだ手先である可能性は確かに考えられた。
しかし、乱心気味のアスカが言った事なので、そこは鵜呑みにしなかった。
だが、朝倉はサツキを殺した話は本当だと思えた。
そこは放送等で偽りようがないからである。
一方、影の方から小砂は舌打ちをしていた。
(やっぱりサツキを殺したのはアイツだったか!
追ってきて正解だったよ。
……てゆうか主催者の手先だろうと貴重な情報源じゃん!
それを殺しやがって、あの馬鹿が!)
視点は小砂のいる隅から、グランドに戻る。
ヴィヴィオはアスカがサツキを殺した事に対して眉をハの字にして、歎く。
「殺すなんて酷いよ、どうしてそんなことを……」
「うっさいわよ!!
化け物は黙ってなさい!!
それに、実は無害を装ってハルヒを殺したのはアンタじゃないの?」
ハルヒを殺した罪を問われたヴィヴィオは否定し、事実を述べようとする。
「違う、ハルヒお姉ちゃんを殺したのは――」
「まぁ、ハルヒもモッチーみたいな化け物と仲良くするような変人だったしね。
まともな神経もってなさそうだから早死にするのも仕方ないか」
「えっ……」
事実を述べる前に遮られた。
そんなことよりも、アスカの口調は仲間だったハズのハルヒをバカにし、モッチーをなんでもないもののように言った。
それによりヴィヴィオは、アスカに対して歎きとは違う怒りの感情が芽生えていた。
人に対してここまで強い嫌悪感を覚えたのは、おそらくスカリエッティを含めて二人目である。
ゲンキもまた、アスカの話しの中に出てきたハルヒとモッチーという名前に気づく。
モッチーは自分の仲間、ハルヒは『 』の知人である。
それを侮辱するような言い方をするアスカが許せなかった。
思わず、抑え切れない分の感情をゲンキは言葉として吐き出す。
「モッチーは……俺の仲間だったんだ!
ハルヒって人は『 』の知り合いだったんだよ!」
「あら? 仲間だったの?
それじゃあ悔しいわよね~?」
アスカは怒り悔やむゲンキが愉快だったのか、おちょくるように言った。
人の感情を馬鹿にするアスカに、ゲンキが高ぶる怒りを抑えられず、アスカを殴りたいと思った。
アスカの口ぶりにヴィヴィオもゲンキと同じ感情を抱く。
「アンタって人は!」
「……」
それを朝倉が察し、小声で宥める。
「(気持ちはわかるわ……、でも今は抑えて)」
「……くそっ」
「……」
ここでアスカを殴りかかろうとでもすればキョンの妹の命が危ない。
それを理解している二人は朝倉の言う通りに気持ちを抑えて、朝倉の後ろから動かなかった。
しかし、当然ハラワタは煮え繰り返る。
二人とは違い、比較的冷静である朝倉は草壁サツキの事については置いといて、アスカの言ったことを分析する。
化け物=人間に擬態するものがいる、と彼女は言った。
ならば、彼女はどうやって化け物と人間を見分けているのか?
「じゃあ、あなたがこの子たちを化け物だと思った根拠は?」
「簡単よ、こいつらがカエルの化け物の仲間だからよ?」
「は? それにはどうやって気づいたの?」
「無線よ!
コイツらは化け物と無線を取り合っていたのよ!」
無線という言葉に、しばらく無言だったナビたちが反応する。
『無線? ひょっとしてアスカ殿は我々の声を無線機の声か何かと誤解したのでありますか?』
「ちょっと!
喋るなと言ったハズよ?」
『まぁまぁまぁまぁ!!
落ち着いてきいてほしいでありますよアスカ殿』
アスカはキョンの妹のどこからか聞こえる声が、無線機でない事の主張を聞かされる。
ナビたちは主張する。
『アスカ殿、良く効いて欲しいであります』
『俺達は地球人専用専守防衛型強化服に備えられた、喋る人口知能なんだ』
『声や性格が似通っているのは、元にした人つまりはオリジナルの人格を参考にしたためなんですぅ』
『つまり俺達は本人じゃねーってことだ。
オリジナルが殺しあいに乗ってようと、俺達には関係ねぇ』
『さらにゲンキ殿と妹殿の二人は、殺しあいに乗ってないどころか、未だに我輩たちのオリジナルにすらあってないであります。
例え、オリジナルが殺しあいに乗っていようと断じて二人は関係ないのであります。
その辺を理解してくだされば、ここは武器を納めて欲しいのであります』「……」
主張聞いているアスカは無言だった。
もしかしたら、わかってくれたのかもしれない。
ナビたちはそれを期待していた。
「フ、フフフフフ……」
アスカの嘲笑。
ナビたちの期待が裏切られる。
嘲笑はすぐに怒声に変わった。
「バカ言ってんじゃないわよ!!
私はそんなことに騙されたりはしないわよ。
無線じゃないなんて嘘を見抜けないと思ってたの?」
『ゲロォーーー!?』
『まるっきり信じちゃいないというのか?』
『このアマ……!』
『コイツはヤベーぜ』
アスカはナビたちの言葉に聞く耳を持ってなかったようである。
怒鳴りつけてくるアスカの声はキョンの妹の耳をビリビリと痛ませ、脅えを促進させる。
(話しもまともに聞く気はない、か……)
ここまでの問答で朝倉は、アスカが何を思い・どんな人間なのかが、あと少しで見えてくる気がした。
朝倉としてはアスカという人間像を知るためのあと一手が欲しかった。
「ところで聞くけど、ヴィヴィオちゃんを狙う根拠は?」
「簡単よ、魔法なんて得体の知れないものを使ってるからよ!」
朝倉も、ヴィヴィオも、小砂も耳を疑った。
朝倉は首を傾げつつ、呆れるように言った。
「それだけ?」
「何がそれだけよ!
十分気持ちが悪いじゃない!!」
――小砂はアスカの身勝手さに額に青筋を立てている。
(テメーの傷を治してやったのは師匠の魔法のおかげだろうが!!
テメーには貸しと借りの念は考えないのかよ!
あの欲深い先生でもそこは弁えるよ!?)
---
朝倉の、アスカに対する分析は終了した。
アスカは狂ってるように見えて冷静であり、独自の倫理感と正義感を持って行動しているだけなのだ。
問題なのは彼女の倫理と正義はあまりにも、独りよがりで自分勝手であること。
彼女にとっての『化け物』とは、姿形はもちろん、人間と少しでも掛け離れた者は化け物扱いなのだ。
それどころか、化け物と繋がりのある者すら全て敵なのである。
相手が『化け物』なら、その者の善悪はどうでも良く、ただ殺すのだ。
彼女はプライドが高く、自分の正義が絶対だと信じているため、自分の意と違った意見は正しかろうと聞こうとしない。
自分の間違いや矛盾は認めようとしない。
結論。
アスカはただのエゴの強い・我が儘な子供である。
故に扱いづらい。
説得しようものなら、アレやコレや理屈をこじつけて、自分の中で物事を都合の良いようにしてしまうタイプなのだから。
よりによって厄介なのを相手にしてしまった……と朝倉は頭を痛める。
---
「ふぅ、あらかた話したらスッキリしたわ」
今まで話す相手もなかったので、自分の思ってる事を吐き出せたアスカは、少しだけストレスのはけ口になったようだ。
逆にゲンキとヴィヴィオが、怒りを覚えていることなど毛ほども構いもせず。
「それじゃあ、そろそろ決めてもらおうかしら?
ヴィヴィオを引き渡すのか、否かを」
トークタイムは終了と言わんばかりに、キョンの妹の首に向けられたナイフに再び力が込もる。
「ゲンキ君……助けてぇ」
キョンの妹が手を伸ばして助けを求める。
「チッ……」
状況を変えたいが変えられない、アスカは変えさせてくれない人物だと言うことを分析からわかった。
朝倉はとうとう舌打ちをする。
人質の少女を助けたいヴィヴィオはアスカに懇願する。
「もうバカな事はやめて、アスカお姉ちゃん!!」
「うるさいのよ!
アンタが私に殺されればそれで良いのよ!
そうすれば化け物を三匹殺した事になって私は加持さんを助けにいけるんだから!」
三匹、いや、三人殺せば加持を助けに行ける……その言葉で思いあたるものは一つしかない。
ゲンキは聞き間違いでないかと思い、アスカに聞き出す。
「今……なんて言った?」
「だから三匹殺せば!
長門が行方のわからない加持さんの居場所を教えてくれるのよ」
これはつまり、先の放送で主催者が付け足したルール「三人殺せば、探したい一人の居場所を教える」というものだ。
アスカはこのルールに従い、加持を探すつもりなのだろう。
だが、それに貯まっていた怒りが爆発した少年がいた。
「ふざけんなッ!!」
腹から出した怒号はとても大きかった。
その調子を保ったまま、ゲンキは想いを吐き出しまくる。
「アンタが悪いモンスターに襲われて、だから化け物やそれっぽく見える人を襲うのは十分にわかったよ!
それは恐がってるからなんだろ!?」
「私が化け物を恐れてる……?
アタシがそんな臆病者なわけないでしょうがッー!!」
アスカはゲンキの言葉を多大な怒りを込めて否定する。
画して、ゲンキとアスカの言葉と言葉のドッチボールが始まった。
「だけどアンタは、イイモンやワルモン、良い奴とか悪い奴とか見境なしに襲いかかって!!」
「化け物は死んでも良いのよ!」
「そんな理屈で殺される側の気持ちは考えないのかよ!!
恐いから、気に入らないから殺して良いなんて事はあっちゃいけないんだ!!」
ゲンキはまだ子供だ。
そして曲がった事は大嫌いだ。
だからこそ、その言葉に子供らしく単純で、ゲンキらしく純真な怒りを込めていく。
「何より、俺達はこの馬鹿げた殺しあいを止めなきゃいけないのに……
それをアンタは促してんじゃないか!!」
「アタシは化け物しか殺さないわ!」
「そうじゃない!
いくら大切な人を助けたいためだからって、誰かを殺して良いわけがないだろ!!
例えそれが悪い奴でも!!」
――ゲンキはやがて、アスカが何かに似ているのは感じた。
「そうだ……、俺が一番許せないのは……」
――それはゲンキにとって、ある意味で身近であり、嫌悪すべきもの。
「誰かを馬鹿にしたり、傷つけたり、殺したりすることに、アンタは心を痛めちゃいない!」
――死んだハルヒやモッチーを侮辱しても、『 』を傷つけても、サツキを殺しても、彼女は悲しむそぶりすらなかった。
故に似ていた。
ゲンキにとっての『敵』に似ていた。
「そんなアンタは……『ワルモン』と一緒だぁ!!」
ゲンキは言い放った。
悪いモンスター『ワルモン』とアスカが同じであると。
「私が悪者ですって?
違うわ、私は正義のために、人を守るために頑張ってるのよ!
そうすれば、加持さんやママが褒めてくれるわ」
アスカはワルモンを「悪者」であると理解し、それを否定し、自らの正義を主張する。
だが、ゲンキはその正義を真っ向から否定する!
「正義や大切な人を、人殺しの言い訳にするな!
それに守るっていうのは、褒められるためにやるんじゃないんだよッ!!
そんなの独善じゃないかッ!!!」
ありったけの気迫と怒り、それにガッツを加えてアスカに言い放った。
ヴィヴィオはその気迫ゆえに介入できなかった。
だが、ゲンキの想いが耳を通して心に響いてくるのを感じた。
しかし、朝倉と小砂は焦っていた。
(言ってる事は正論よ、でも……)
(あわわわわ、アスカがブチ切れたらどーすんの!?)
アスカが激昂すれば、何をするかわからない。
人質が殺される事だってある。
ゲンキはそれを感情で自制を忘れてたしまったようだ、と思った。
そして、アスカは。
カチャリッ
「独善なんかじゃない……私は間違ってなんか、ない!!」
口々でぶつぶつ良いながら、撃鉄を引き、銃口をキョンの妹のこめかみに向けようとする。しかし……
「人質を撃ったら、おまえも逃げられなくなるんじゃないのか?」
アスカの腕の動きがピタリと止まる。
「それに人質を取るなんて卑怯な真似をして、そんな事までして誰かを殺そうとするなんて、アンタが弱いっていう何よりの証拠なんじゃないのか?」
単なる挑発とも、確信をついているとも言える事をゲンキは指摘する。
そしてアスカの腕が怒りで震える。
「私は……化け物なんて怖くない!」
「!」
「いいわ、ヴィヴィオより先にアンタを殺してあげる」
アスカの殺意が、ヴィヴィオよりも人質の少女よりも、己の正義を否定し、臆病者呼ばわりしたゲンキに向いた。
そして銃口を向け、ゲンキが驚くよりも早く引き金を引く。
「死ねーーーッ!!」
アスカとゲンキまでの距離はわずか数m。
いくら運動神経に秀でたゲンキでも銃弾を避けられる距離じゃない。
ヴィヴィオは何もできない。
朝倉は事態そのものは予想していたが、行動が間に合わない。
小砂は、動くべき時ではないと何もしない。
そして、銃声が轟き、放たれた弾丸はゲンキを貫く
――ことはなかった。
「なに……?」
その場にいた、アスカもヴィヴィオも、朝倉も、小砂も、ゲンキも驚いていた。
なぜなら、ゲンキの前には一つの盾が現れ、それがアスカの狂弾を防いだからである。
皆が驚いている中でナビたちの電子音声が響く。
『イージスシステム起動……間に合ったであります』
『危ない所だったな、ふぅ……』
『ヒヤヒヤしたですぅ、心臓に悪いですぅ』
『人口知能である俺達に心臓はねぇけどな、ク~~~クックック』
音声の発信源はアスカの腕の中、つまり人質にとられた少女からである。
少女を見ると、着ていたハズのジャージや短パンはいつの間にか消えうせ、代わりにスクール水着のような格好にあちこち機械をつけたような珍妙な姿になっていた。
この姿を知っているゲンキ以外が、少女の変身に目を疑う。
そして変わったのは姿だけではなく、少女の眼も先程までアスカに脅えていた眼ではなく、戦える意思を持っていた眼だった。
ここから状況は加速する。
盾の出現と少女の変身に呆然とするアスカ。
その隙をついて、少女がもう一つの盾を射出。
アスカが右手に持ち、自分の命を握っていたナイフをその盾で拘束していた腕ごと弾き飛ばす。
落ちたナイフは足元に落ちた。
「しまった!!」
そして少女は自力でアスカの拘束から解放される。
「クソッ!」
右手の痛みに構わず、アスカはすぐに左手の拳銃の撃鉄を引いて撃とうとする。
しかし、少年はそれを許さなかった。
ゲンキはアスカが引き金を引くより早く、全身の神経と筋肉・ありったけのガッツを連動・駆使して、拳銃目掛けて飛び蹴りを放つ。
「うおおおぉりゃあああぁあ!!」
蹴りはクリーンヒットし、拳銃はアスカの手元から離れてあさっての方向へと飛んでいき、弧を描いて、やがて地面に落ちた。
「何ぃ!?」
これにてアスカはナイフも銃も失う。
腕の痛みでたたらを踏んだアスカに、次に動いた朝倉がクロスミラージュの銃口を向ける。
「残念ね、あなたの負けよ」
「……チックショウ」
突然のハプニングにより立場は逆転した。
朝倉はアスカへ、王手を宣言する。
勝ち誇ったような朝倉の顔が、アスカには憎くくてたまらなかったが、もう何もできなかった。
恨めしい顔をするのが関の山である。
こうして、アスカは人質には逃げられ、ゲンキによって銃を失い、朝倉にの銃口を向けられ、事実上敗北した。
もうアスカに反撃する手段はない。
間違っても足元に落ちたナイフを拾おうとすれば、否応なく朝倉の拳銃が火を吹くだろう。
戦いは決着がつき、朝倉がアスカの動きを止めている横で、キョンの妹がゲンキに駆け寄る。
「また、助けられちまったな」
キョンの妹が盾を射出しなければ撃たれていただろう。
ゲンキはそれに対し彼女へ微笑みかけながら礼を言った。
彼女は微笑みと言葉を返した。
「そんなことないよ。
ゲンキ君がアスカの注意を引いてくれたおかげで、私は生きてるんだから……」
**[[後編へ>Scars of the War(後編)]]
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