「贖罪」(2009/05/30 (土) 09:31:12) の最新版変更点
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*贖罪 ◆4etfPW5xU6
どうして……こうなってしまった……
ただ、助けたかった。
ただ、救いたかった。
守るべき存在を。
力のない存在を。
それだけだったのに。
怖かっただろう。
苦しかったろう。
足掻いて。
もがいて。
助けを求めていた少年にとどめを刺したのは――
――私、だ
守れなかった……
救えなかった……
恐怖に怯える少年を。
何が、正義超人だ。
何が、キン肉星の王子だ。
だれ一人……救えていないではないか……
あぁ……
あぁ……
私は――
+ + +
(うーん……困りましたねぇ)
ふと、ゼロスは心中でそんな言葉を漏らす。
その原因は目の前の小柄な少年。
と、言っても少年なんて言葉が生温く感じるほど目の前の少年は――厄介だった。
不敵な態度を崩そうとせず、時に宥め時に怒り、あの手この手を使って最小限の代価で利益を得ようとしている。
勿論、ゼロスとてマヌケではない。
何とか情報を得ようとするのだが――
「だーかーら、何度も言ってんだろうが! あのガキは元々俺が捕まえたんだ
首輪だろうが服だろうが……欲しけりゃキッチリ報酬は頂く。
そんでもってあのガキが持ってた情報の代金には、こっちが損した分色付けてもらうぜ~」
――これだった。
目の前の少年は、先程から頑としてこの主張を譲ろうとしない。
少年の言っている事は確かに正しい。
発狂した少年にとどめを刺したのはスグルだし、その分失った情報があるのもわかる。
だが、だからと言ってはいそーですかとやすやす情報を渡すわけにはいかない。
せめて首輪だけでも思い交渉を続けているのだが。
「えぇ、それはわかっています。あの少年の情報については色を付けさせてもらいますよ
……ですが、首輪については話は別です。貴方は既に一つ持っているのでしょう?
それならば私達が彼の首輪を貰おうと構わないと思うのですが」
「おいおい兄ちゃん、そりゃないぜ~。 首輪なんざ多く持ってた方がいいに決まってる。
実験だなんだの時に一個あると二個あるとじゃ全然リスクが違うだろーがよ!
あの首輪が欲しけりゃそれなりの代価を頂こうか」
目の前の相手は到底折れそうに無かった。
何度か粘って見たが、どうやら譲る気はこれっぽちも無いらしい。
ゼロスには知る術もないが、少年は砂漠の妖怪と呼ばれるほどの悪党である。
このドケチっぷりもある意味当然と言えよう。
「……仕方ありませんね。わかりました、首輪にも代価を支払いましょう」
「へっへ……それじゃあ早速、何を支払うってんだ?」
嘆息交じりの言葉に愉快そうに表情を歪めて少年が手を擦り合わせる。
しかし、ゼロスは一向に動きを見せない。
「お~い、どうしたんだよ兄ちゃん。今更タダで下さいとか言うなよ?」
そう言って少年は不信気な目付きをゼロスへと向ける。
それを見て慌ててゼロスは口を開き、苦笑いを浮かべる。
「あははー、今気付いたんですけど……まだ、支給されたもののチェックをまだ済ませていないんですよね
すいませんが、少々待っていていただけませんか?」
そう、ゼロスにはまだ確認していない支給品がいくつかあった。
代価にはここに来てから得た幾つかの情報を、とも考えたのだがふと考え直す。
もしかしたら、まだ未確認の物の中に相手との交渉を有利に進められるような価値のある物があるかもしれない。
それは自分にとって価値が無く相手にとって価値があるものかもしれないし、逆の可能性もある。
どちらにせよ自分のカードを把握しないまま、無闇に風呂敷を広げるわけにはいかない。
「チッ! 仕方ねぇなぁ。さっさと調べな」
舌打ちを隠そうともせず告げる相手に笑顔を向けると背を向けつつ早速ゼロスはデイバッグの中身を調べ始める。
(さて、何か価値のある物が入っているといいのですが)
淡い期待を抱きつつ、ゴソゴソと探るように手を動かしていると指先に柔らかい感触が。
(これは……リボン、ですか?)
ゆっくりと引っ張り出されたそれは、普通のサイズより幾分か大きいリボンだった。
桃色と白色で構成されたリボン。
しかるべき人がしかるべき場所で付けたのならさぞや可愛らしいだろうが、到底この場所では役に立ちそうもない。
仕方ないとため息を吐きつつ他には何か入っていないかと更に探ってみる。
カチッ。
指先に、何か硬いものが触れる。
躊躇わず取り出したそれを手にとって見れば黒光りする大型のリボルバー式拳銃が確かな重みを掌に伝えてくる。
一応は辺りの部類に入るのだろうが、魔法の使えるゼロスにとってこれは大した役にも立ちそうに無かった。
(さて、どうしましょうかね)
現状、交渉のカードに使えるのは原稿、楽譜、リボン、拳銃、食料の五つのみ。
消去法で選んでいくとすれば真っ先に原稿が除外される。
少しずつ解読を進めているとはいえ未だ内容はわかっていない。
ただの文章が連なっているだけの物なら渡しても構わない。
だが、もしこれが主催者に繋がる情報を秘めているとしたら――そう考えると原稿を手放すのは焦燥といえよう。
続いて消えるのは食料。
ゼロス自身は特に必要とはしないのだが、普通の人間は違う。
仮に『セイギノミカタ』を集めたとしても食料が足りず仲間割れなんて事態になったら?
一口に『セイギノミカタ』と言っても思想や環境、背負っているものに差はある。
歯車が噛み合っているうちは構わないが何かのきっかけで噛みあわなくなれば集団は一気に瓦解する。
そこまで行かずとも、空腹を抱えた状態で主催ないし強力な敵と戦うのは危険すぎる。
後々の利用価値を踏まえて食料も除外。
残りは楽譜、リボン、拳銃なのだが……
(こんな物で首輪を得られるとは思えないんですよねぇ)
交渉のカードとしては、些か弱い。
多少話してみてありありと感じたが、目の前の相手は恐ろしく頭がキレる。
首輪の大切さや情報の持つ価値を理解し、目的の為なら容赦なく拷問にかける考え方を持っている。
スグルのような単純な相手ならともかく、この相手に対して楽譜やリボン程度で首輪を得られるとは思えない。
拳銃ならば或いは……と思わなくもないが、首輪に対しての代価とするには些か弱い。
ならば次に切るカードは情報。
だが、これも難しいだろう。
相手のカードは少年から得た情報、相手が自ら動いて得た情報、そして首輪の三つ。
一つのものを得る代価は、此方の情報+α。
原稿と食料を残すとすれば、相手から得られるのは三つのうち一つしかなくなってしまう。
(情報か首輪か……首輪は欲しいですが、そのせいで情報を得られないのは困りますね
セイギノミカタに出会っている可能性も低くはないですし、他にも有益な情報を持っているのかもしれない……
ただ、役に立たない情報を買わせようとしている可能性もまた有り得るんですよねぇ)
情報、と一言で言ってしまえば簡単だが、その種類は無数にある。
出会った参加者、エリアごとの地形の様子、危険人物の存在はたまた主催者の詳細まで多岐に渡る。
また、極論を言ってしまえば○○のエリアには木があった、でも情報には違いないのだ。
(まぁ……考えすぎ、ですかね。取引の信頼を裏切ってそんな真似をするメリットとデメリットがわからないほどのマヌケには思えません、し)
しかし、情報は信頼できるものと仮定したとしても――寧ろそう仮定することでゼロスの迷いは深まっていく。
情報と首輪。
どちらともこの場においてはどんな武器よりも重宝するものだ。
果たして、ゼロスが選んだものとは――
+ + +
――ギャアァァァァーーーーーーーー!!!!!!!
スマナイ……
スマナイ……
私には、わからなかったんだ。
どうすればよかったのか。
ただ、君を救いたかった……
――ヴァ! ア゛ア゛ア゛アッ゛ッ゛ッ゛ッ!!!! ヴァァーーーーッッ!!!!
私は、間違っていたのか?
心配ないと。
大丈夫だと。
笑顔で抱き締めてあげれば。
安心してくれると思っていたんだ。
――可哀相に
やり残したことがあっただろう。
叶えたい夢があっただろう。
それを……
それを……
こんな所で、奪い去ってしまった。
こんな所で、粉々にしてしまった。
……この、私が。
――どんなに怖かったでしょうね?
あぁ……
わかっているよ。
恐怖に引きつった表情。
白いものが見える頭髪。
決して消えない顔の皺。
全てが私に訴えてくるんだ――怖かった、と。
――とどめを刺したのはテメーだろうが!
その……通りだ。
傷つき、怯えていた。
叫び、泣き叫んでいた。
今にも破裂しそうで……
今にも壊れそうで……
私が、溢れさせた。
ハハ……これではただの――
――ヒトゴロシ、ではないか。
+ + +
(っへへ……もうけもうけ。あの豚っ鼻のおかげで得しちまったぜ~)
意気揚々と歩みを進めながら砂ぼうずこと水野灌太は愉悦の笑みを漏らす。
その手には、明らかな一般サイズ以上のリボンとよくわからない曲の書かれた楽譜が握られている。
どちらも先ほど出会った相手から得たものである。
ゼロスと名乗る相手との交渉は、上々と言える結果に終わっていた。
本来なら互いの情報を交換するだけで終わっていたはずなのだが、相手の仲間のミスのおかげで優位に交渉を進めることができた。
大した損害も無く情報と支給品を得られて事は勿論、交渉で得た情報は灌太にとってはどんな物よりも重宝する情報だった。
今の灌太には、学校にある不思議なマークの存在も手に握られた物品も頼りになるセイギノミカタの存在も心動かされない。
灌太の得た重大な情報、それは――
(待ってろよ~ボインちゃん!)
――学校にいるスタイルのいい少女の存在。
聞けばその少女の髪の毛の色は、青みのかかった鴉の濡れ羽色。
自分の拾った髪の毛の色と一致するではないか。
更に、だ。
その少女はスタイルのいい――簡単に言えばボインちゃんとの事。
コレを聞いて灌太が向かわないわけがあるだろうか? いやない。
そして灌太は当初の予定を変更して学校へと向かう、そこに待つボインちゃんを目指して。
その先に待っているものを、未だ知らずに……
【D-4 森林地帯/一日目・夕方】
【水野灌太(砂ぼうず)@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(中)
【持ち物】オカリナ@となりのトトロ、手榴弾×1、朝倉涼子・草壁メイ・ギュオーの髪の毛
ディパック×2、基本セット×4、レストランの飲食物いろいろ、手書きの契約書、フェイトの首輪、
ksknetキーワード入りCD、輸血パック@現実×3、護身用トウガラシスプレー@現実、リボン型変声器@ケロロ軍曹
First Good-Byeの楽譜@涼宮ハルヒの憂鬱、コルトM1917@現実
【思考】
0、待ってろよ~ボインちゃん!。
1、何がなんでも生き残る。脱出・優勝と方法は問わない。
2、首輪を外すにはA.T.フィールドとLCLが鍵と推測。主催者に抗うなら、その情報を優先して手に入れたい。
3、遊園地が怪しいので一応行ってみるが、長居はしない。『パソコン』があると良いな。
4、支給品『CD』を『パソコン』に入れれば、『ksknet』のキーワードを知れば、『ksknet』で『何か』が得られる?
5、その後は北の市街地に向かい、ボインちゃんを雨蜘蛛から守る。一応ホテルには向かう。
6、ノーヴェを探す。そして……いっひっひっひ。
7、蛇野郎(ナーガ)は準備を万全にしてから絶対に殺す。
8、首輪を分析したい。また、分析できる協力者が欲しい。
9、関東大砂漠に帰る場合は、小泉太湖と川口夏子の口封じ。あと雨蜘蛛も?
【備考】
※セインから次元世界のことを聞きましたが、あまり理解していません。
※フェイトの首輪の内側に、小さなヒビが入っているのを発見しました。(ヒビの原因はフェイトと悪魔将軍の戦闘←灌太は知りません)
※分解したワイヤーウィンチはシンジを縛るのに使っています。
※シンジの地図の裏面には「18時にB-06の公民館で待ち合わせ、無理の場合B-07のデパートへ」と走り書きされています。
+ + +
「さて、と……問題はここからなんですよねぇ」
うーん、と表情を苦いものに変え、ゼロスは一人ごちる。
砂ぼうずと名乗る相手との交渉では思ったよりもいい結果を得ることができた。
理由はわからないが、朝倉達のことを話した途端砂ぼうずの態度が一変し、結局リボンと楽譜と此方の情報を渡しただけで首輪と相手の情報を得ることができた。
中でも興味深いのはA.T.フィールドやLCLと言った主催者へと繋がりそうな言葉の存在とその考察。
コレに関しては相手も詳しい情報を引き出すまでには至っていなかったらしく詳しい正確な情報は得られなかった。
しかし、その言葉に対する砂ぼうずの考察はとくに興味深い物だった。
現状、焦点を置くべき情報はコレだろう。
そして悪魔将軍やノーヴェ等の強大な悪の存在。
聞けば彼らはウォーズマンを探しているらしい。
正義と悪、この二つの道が交じり合えばどうなるか……それは子供でもわかるだろう。
話を聞く限りでは、悪魔将軍は相当な残虐さらしい。
加えて仲間もいるとあれば、ウォーズマン一人ではあっさり殺されてしまうのが目に見えている。
敢えて捨て駒にして悪魔将軍の戦力を削るのも構わないが、貴重なセイギノミカタが減ってしまうのは惜しい。
彼ら自身は動かず駒を使って探しているらしいのでそう簡単には接触しないだろうが、万が一という事も有り得る。
一度悪魔将軍とやらがどれ程の者なのか見ておくのも悪くはない。
だが、悪魔将軍の居場所はここから東。
朝倉達と合流するならば向かうのは北。
一応砂ぼうずが向かっているため、自分達の安否は伝わるだろうが些か不安は残る。
「どちらにせよスグルさんと話してから、ですね。……もう立ち直ってくれてるといいんですが」
軽く頭を振って思考を切り替える。
自分がやりすぎたとは言え、スグルの落ち込みようは酷かった。
今までの道中で気付いたが、彼は感情の振れ幅が人一倍大きいらしい。
怯えている存在――それも無力な一般人が自分のせいで死んだともあればダメージは深刻だろう。
「いや、寧ろ好都合かもしれません。うるさいままだと首輪を外すのに烈火の如く怒りそうですし……」
ポツリ、そんなことを呟く。
異常なまでに倫理観の強いスグルのことだ、死者の首から首輪を外すとなれば必ず反対するだろう。
止められる前にコトを済ませるのも悪くないが、折角の信頼を壊すのは勿体無い。
かと言って口先だけで納得させるのも難しい――通常ならば。
今のスグルはどうしようもなく心が弱っている。
罪悪感を煽りつつ、彼のためだと言い張れば案外上手くいくかもしれない。
いっそ落ち込んだままでいてくれれば御しやすい。
そんな事を思いつつゼロスはスグルの所へと歩みを進める。
にっこりと、笑顔を浮かべて。
【E-4 森林地帯/一日目・夕方】
【ゼロス@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】絶好調
【持ち物】デイパック(支給品一式(地図一枚紛失))×2、草壁タツオの原稿@となりのトトロ
【思考】
0:首輪を手に入れ解析するとともに、解除に役立つ人材を探す
1:A.T.フィールドやLCLなどの言葉に詳しい人を見つけたい。
2:悪魔将軍の元へ行くか朝倉と合流するかをスグルと話し合う。
3:ゲンキとヴィヴィオとスグルの力に興味。
4:ヴィヴィオの力の詳細を知りたい。
5:セイギノミカタを増やす。
+ + +
ざっ、ざっ、ざっ
足音が聞こえる……
ゼロスが帰ってきたのだろうか。
死んでしまった少年など気にも留めず。
あろうことか少年を縛った男と交渉を始めおった……
少し冷たいところもあるが、根は心優しい。
それは私の勘違いだったのか。
……いや、私が言えることではない、のか……
少年を殺した、私が……
ヒトゴロシの、私が……
何度も
何度も
少年の断末魔が聞こえる
私を、恨んでいるのだろう。
私を、憎んでいるのだろう。
……スマナイ。
……スマナイ。
私が殺してしまった少年よ――
――どうか、許してくれ
【E-4 森林地帯/一日目・夕方】
【キン肉スグル@キン肉マン】
【状態】脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック
【持ち物】ディパック(支給品一式)×4、タリスマン@スレイヤーズREVOLUTION、
ホリィの短剣@モンスターファーム~円盤石の秘密~、金属バット@現実、100円玉@現実、不明支給品0~1
【思考】
0:私のせいで少年が……私が悪いんだ……許してくれ
1:シンジを埋葬してやる。
2:ゼロスと協力する。
3:学校へ行って朝倉とヴィヴィオと合流する。
4:ウォーズマンと再会したい
5:キン肉万太郎を探し出してとっちめる。
6:一般人を守り、悪魔将軍を倒す。
※砂ぼうずの名前をまだ知りません。
*時系列順で読む
Back:[[saturated with fear]] Next:[[Fate/Zero(前編)]]
*投下順で読む
Back:[[Nord Stream Pipeline -on stream-]] Next:[[蜘蛛は何処に消えた?]]
|[[saturated with fear]]|ゼロス|[[]]|
|~|キン肉スグル|~|
|~|水野灌太(砂ぼうず)|[[学校の妖怪]]|
*贖罪 ◆4etfPW5xU6
どうして……こうなってしまった……
ただ、助けたかった。
ただ、救いたかった。
守るべき存在を。
力のない存在を。
それだけだったのに。
怖かっただろう。
苦しかったろう。
足掻いて。
もがいて。
助けを求めていた少年にとどめを刺したのは――
――私、だ
守れなかった……
救えなかった……
恐怖に怯える少年を。
何が、正義超人だ。
何が、キン肉星の王子だ。
だれ一人……救えていないではないか……
あぁ……
あぁ……
私は――
+ + +
(うーん……困りましたねぇ)
ふと、ゼロスは心中でそんな言葉を漏らす。
その原因は目の前の小柄な少年。
と、言っても少年なんて言葉が生温く感じるほど目の前の少年は――厄介だった。
不敵な態度を崩そうとせず、時に宥め時に怒り、あの手この手を使って最小限の代価で利益を得ようとしている。
勿論、ゼロスとてマヌケではない。
何とか情報を得ようとするのだが――
「だーかーら、何度も言ってんだろうが! あのガキは元々俺が捕まえたんだ
首輪だろうが服だろうが……欲しけりゃキッチリ報酬は頂く。
そんでもってあのガキが持ってた情報の代金には、こっちが損した分色付けてもらうぜ~」
――これだった。
目の前の少年は、先程から頑としてこの主張を譲ろうとしない。
少年の言っている事は確かに正しい。
発狂した少年にとどめを刺したのはスグルだし、その分失った情報があるのもわかる。
だが、だからと言ってはいそーですかとやすやす情報を渡すわけにはいかない。
せめて首輪だけでも思い交渉を続けているのだが。
「えぇ、それはわかっています。あの少年の情報については色を付けさせてもらいますよ
……ですが、首輪については話は別です。貴方は既に一つ持っているのでしょう?
それならば私達が彼の首輪を貰おうと構わないと思うのですが」
「おいおい兄ちゃん、そりゃないぜ~。 首輪なんざ多く持ってた方がいいに決まってる。
実験だなんだの時に一個あると二個あるとじゃ全然リスクが違うだろーがよ!
あの首輪が欲しけりゃそれなりの代価を頂こうか」
目の前の相手は到底折れそうに無かった。
何度か粘って見たが、どうやら譲る気はこれっぽちも無いらしい。
ゼロスには知る術もないが、少年は砂漠の妖怪と呼ばれるほどの悪党である。
このドケチっぷりもある意味当然と言えよう。
「……仕方ありませんね。わかりました、首輪にも代価を支払いましょう」
「へっへ……それじゃあ早速、何を支払うってんだ?」
嘆息交じりの言葉に愉快そうに表情を歪めて少年が手を擦り合わせる。
しかし、ゼロスは一向に動きを見せない。
「お~い、どうしたんだよ兄ちゃん。今更タダで下さいとか言うなよ?」
そう言って少年は不信気な目付きをゼロスへと向ける。
それを見て慌ててゼロスは口を開き、苦笑いを浮かべる。
「あははー、今気付いたんですけど……まだ、支給されたもののチェックをまだ済ませていないんですよね
すいませんが、少々待っていていただけませんか?」
そう、ゼロスにはまだ確認していない支給品がいくつかあった。
代価にはここに来てから得た幾つかの情報を、とも考えたのだがふと考え直す。
もしかしたら、まだ未確認の物の中に相手との交渉を有利に進められるような価値のある物があるかもしれない。
それは自分にとって価値が無く相手にとって価値があるものかもしれないし、逆の可能性もある。
どちらにせよ自分のカードを把握しないまま、無闇に風呂敷を広げるわけにはいかない。
「チッ! 仕方ねぇなぁ。さっさと調べな」
舌打ちを隠そうともせず告げる相手に笑顔を向けると背を向けつつ早速ゼロスはデイバッグの中身を調べ始める。
(さて、何か価値のある物が入っているといいのですが)
淡い期待を抱きつつ、ゴソゴソと探るように手を動かしていると指先に柔らかい感触が。
(これは……リボン、ですか?)
ゆっくりと引っ張り出されたそれは、普通のサイズより幾分か大きいリボンだった。
桃色と白色で構成されたリボン。
しかるべき人がしかるべき場所で付けたのならさぞや可愛らしいだろうが、到底この場所では役に立ちそうもない。
仕方ないとため息を吐きつつ他には何か入っていないかと更に探ってみる。
カチッ。
指先に、何か硬いものが触れる。
躊躇わず取り出したそれを手にとって見れば黒光りする大型のリボルバー式拳銃が確かな重みを掌に伝えてくる。
一応は辺りの部類に入るのだろうが、魔法の使えるゼロスにとってこれは大した役にも立ちそうに無かった。
(さて、どうしましょうかね)
現状、交渉のカードに使えるのは原稿、楽譜、リボン、拳銃、食料の五つのみ。
消去法で選んでいくとすれば真っ先に原稿が除外される。
少しずつ解読を進めているとはいえ未だ内容はわかっていない。
ただの文章が連なっているだけの物なら渡しても構わない。
だが、もしこれが主催者に繋がる情報を秘めているとしたら――そう考えると原稿を手放すのは焦燥といえよう。
続いて消えるのは食料。
ゼロス自身は特に必要とはしないのだが、普通の人間は違う。
仮に『セイギノミカタ』を集めたとしても食料が足りず仲間割れなんて事態になったら?
一口に『セイギノミカタ』と言っても思想や環境、背負っているものに差はある。
歯車が噛み合っているうちは構わないが何かのきっかけで噛みあわなくなれば集団は一気に瓦解する。
そこまで行かずとも、空腹を抱えた状態で主催ないし強力な敵と戦うのは危険すぎる。
後々の利用価値を踏まえて食料も除外。
残りは楽譜、リボン、拳銃なのだが……
(こんな物で首輪を得られるとは思えないんですよねぇ)
交渉のカードとしては、些か弱い。
多少話してみてありありと感じたが、目の前の相手は恐ろしく頭がキレる。
首輪の大切さや情報の持つ価値を理解し、目的の為なら容赦なく拷問にかける考え方を持っている。
スグルのような単純な相手ならともかく、この相手に対して楽譜やリボン程度で首輪を得られるとは思えない。
拳銃ならば或いは……と思わなくもないが、首輪に対しての代価とするには些か弱い。
ならば次に切るカードは情報。
だが、これも難しいだろう。
相手のカードは少年から得た情報、相手が自ら動いて得た情報、そして首輪の三つ。
一つのものを得る代価は、此方の情報+α。
原稿と食料を残すとすれば、相手から得られるのは三つのうち一つしかなくなってしまう。
(情報か首輪か……首輪は欲しいですが、そのせいで情報を得られないのは困りますね
セイギノミカタに出会っている可能性も低くはないですし、他にも有益な情報を持っているのかもしれない……
ただ、役に立たない情報を買わせようとしている可能性もまた有り得るんですよねぇ)
情報、と一言で言ってしまえば簡単だが、その種類は無数にある。
出会った参加者、エリアごとの地形の様子、危険人物の存在はたまた主催者の詳細まで多岐に渡る。
また、極論を言ってしまえば○○のエリアには木があった、でも情報には違いないのだ。
(まぁ……考えすぎ、ですかね。取引の信頼を裏切ってそんな真似をするメリットとデメリットがわからないほどのマヌケには思えません、し)
しかし、情報は信頼できるものと仮定したとしても――寧ろそう仮定することでゼロスの迷いは深まっていく。
情報と首輪。
どちらともこの場においてはどんな武器よりも重宝するものだ。
果たして、ゼロスが選んだものとは――
+ + +
――ギャアァァァァーーーーーーーー!!!!!!!
スマナイ……
スマナイ……
私には、わからなかったんだ。
どうすればよかったのか。
ただ、君を救いたかった……
――ヴァ! ア゛ア゛ア゛アッ゛ッ゛ッ゛ッ!!!! ヴァァーーーーッッ!!!!
私は、間違っていたのか?
心配ないと。
大丈夫だと。
笑顔で抱き締めてあげれば。
安心してくれると思っていたんだ。
――可哀相に
やり残したことがあっただろう。
叶えたい夢があっただろう。
それを……
それを……
こんな所で、奪い去ってしまった。
こんな所で、粉々にしてしまった。
……この、私が。
――どんなに怖かったでしょうね?
あぁ……
わかっているよ。
恐怖に引きつった表情。
白いものが見える頭髪。
決して消えない顔の皺。
全てが私に訴えてくるんだ――怖かった、と。
――とどめを刺したのはテメーだろうが!
その……通りだ。
傷つき、怯えていた。
叫び、泣き叫んでいた。
今にも破裂しそうで……
今にも壊れそうで……
私が、溢れさせた。
ハハ……これではただの――
――ヒトゴロシ、ではないか。
+ + +
(っへへ……もうけもうけ。あの豚っ鼻のおかげで得しちまったぜ~)
意気揚々と歩みを進めながら砂ぼうずこと水野灌太は愉悦の笑みを漏らす。
その手には、明らかな一般サイズ以上のリボンとよくわからない曲の書かれた楽譜が握られている。
どちらも先ほど出会った相手から得たものである。
ゼロスと名乗る相手との交渉は、上々と言える結果に終わっていた。
本来なら互いの情報を交換するだけで終わっていたはずなのだが、相手の仲間のミスのおかげで優位に交渉を進めることができた。
大した損害も無く情報と支給品を得られて事は勿論、交渉で得た情報は灌太にとってはどんな物よりも重宝する情報だった。
今の灌太には、学校にある不思議なマークの存在も手に握られた物品も頼りになるセイギノミカタの存在も心動かされない。
灌太の得た重大な情報、それは――
(待ってろよ~ボインちゃん!)
――学校にいるスタイルのいい少女の存在。
聞けばその少女の髪の毛の色は、青みのかかった鴉の濡れ羽色。
自分の拾った髪の毛の色と一致するではないか。
更に、だ。
その少女はスタイルのいい――簡単に言えばボインちゃんとの事。
コレを聞いて灌太が向かわないわけがあるだろうか? いやない。
そして灌太は当初の予定を変更して学校へと向かう、そこに待つボインちゃんを目指して。
その先に待っているものを、未だ知らずに……
【D-4 森林地帯/一日目・夕方】
【水野灌太(砂ぼうず)@砂ぼうず】
【状態】ダメージ(中)
【持ち物】オカリナ@となりのトトロ、手榴弾×1、朝倉涼子・草壁メイ・ギュオーの髪の毛
ディパック×2、基本セット×4、レストランの飲食物いろいろ、手書きの契約書、フェイトの首輪、
ksknetキーワード入りCD、輸血パック@現実×3、護身用トウガラシスプレー@現実、リボン型変声器@ケロロ軍曹
First Good-Byeの楽譜@涼宮ハルヒの憂鬱、コルトM1917@現実
【思考】
0、待ってろよ~ボインちゃん!。
1、何がなんでも生き残る。脱出・優勝と方法は問わない。
2、首輪を外すにはA.T.フィールドとLCLが鍵と推測。主催者に抗うなら、その情報を優先して手に入れたい。
3、遊園地が怪しいので一応行ってみるが、長居はしない。『パソコン』があると良いな。
4、支給品『CD』を『パソコン』に入れれば、『ksknet』のキーワードを知れば、『ksknet』で『何か』が得られる?
5、その後は北の市街地に向かい、ボインちゃんを雨蜘蛛から守る。一応ホテルには向かう。
6、ノーヴェを探す。そして……いっひっひっひ。
7、蛇野郎(ナーガ)は準備を万全にしてから絶対に殺す。
8、首輪を分析したい。また、分析できる協力者が欲しい。
9、関東大砂漠に帰る場合は、小泉太湖と川口夏子の口封じ。あと雨蜘蛛も?
【備考】
※セインから次元世界のことを聞きましたが、あまり理解していません。
※フェイトの首輪の内側に、小さなヒビが入っているのを発見しました。(ヒビの原因はフェイトと悪魔将軍の戦闘←灌太は知りません)
※分解したワイヤーウィンチはシンジを縛るのに使っています。
※シンジの地図の裏面には「18時にB-06の公民館で待ち合わせ、無理の場合B-07のデパートへ」と走り書きされています。
+ + +
「さて、と……問題はここからなんですよねぇ」
うーん、と表情を苦いものに変え、ゼロスは一人ごちる。
砂ぼうずと名乗る相手との交渉では思ったよりもいい結果を得ることができた。
理由はわからないが、朝倉達のことを話した途端砂ぼうずの態度が一変し、結局リボンと楽譜と此方の情報を渡しただけで首輪と相手の情報を得ることができた。
中でも興味深いのはA.T.フィールドやLCLと言った主催者へと繋がりそうな言葉の存在とその考察。
コレに関しては相手も詳しい情報を引き出すまでには至っていなかったらしく詳しい正確な情報は得られなかった。
しかし、その言葉に対する砂ぼうずの考察はとくに興味深い物だった。
現状、焦点を置くべき情報はコレだろう。
そして悪魔将軍やノーヴェ等の強大な悪の存在。
聞けば彼らはウォーズマンを探しているらしい。
正義と悪、この二つの道が交じり合えばどうなるか……それは子供でもわかるだろう。
話を聞く限りでは、悪魔将軍は相当な残虐さらしい。
加えて仲間もいるとあれば、ウォーズマン一人ではあっさり殺されてしまうのが目に見えている。
敢えて捨て駒にして悪魔将軍の戦力を削るのも構わないが、貴重なセイギノミカタが減ってしまうのは惜しい。
彼ら自身は動かず駒を使って探しているらしいのでそう簡単には接触しないだろうが、万が一という事も有り得る。
一度悪魔将軍とやらがどれ程の者なのか見ておくのも悪くはない。
だが、悪魔将軍の居場所はここから東。
朝倉達と合流するならば向かうのは北。
一応砂ぼうずが向かっているため、自分達の安否は伝わるだろうが些か不安は残る。
「どちらにせよスグルさんと話してから、ですね。……もう立ち直ってくれてるといいんですが」
軽く頭を振って思考を切り替える。
自分がやりすぎたとは言え、スグルの落ち込みようは酷かった。
今までの道中で気付いたが、彼は感情の振れ幅が人一倍大きいらしい。
怯えている存在――それも無力な一般人が自分のせいで死んだともあればダメージは深刻だろう。
「いや、寧ろ好都合かもしれません。うるさいままだと首輪を外すのに烈火の如く怒りそうですし……」
ポツリ、そんなことを呟く。
異常なまでに倫理観の強いスグルのことだ、死者の首から首輪を外すとなれば必ず反対するだろう。
止められる前にコトを済ませるのも悪くないが、折角の信頼を壊すのは勿体無い。
かと言って口先だけで納得させるのも難しい――通常ならば。
今のスグルはどうしようもなく心が弱っている。
罪悪感を煽りつつ、彼のためだと言い張れば案外上手くいくかもしれない。
いっそ落ち込んだままでいてくれれば御しやすい。
そんな事を思いつつゼロスはスグルの所へと歩みを進める。
にっこりと、笑顔を浮かべて。
【E-4 森林地帯/一日目・夕方】
【ゼロス@スレイヤーズREVOLUTION】
【状態】絶好調
【持ち物】デイパック(支給品一式(地図一枚紛失))×2、草壁タツオの原稿@となりのトトロ
【思考】
0:首輪を手に入れ解析するとともに、解除に役立つ人材を探す
1:A.T.フィールドやLCLなどの言葉に詳しい人を見つけたい。
2:悪魔将軍の元へ行くか朝倉と合流するかをスグルと話し合う。
3:ゲンキとヴィヴィオとスグルの力に興味。
4:ヴィヴィオの力の詳細を知りたい。
5:セイギノミカタを増やす。
+ + +
ざっ、ざっ、ざっ
足音が聞こえる……
ゼロスが帰ってきたのだろうか。
死んでしまった少年など気にも留めず。
あろうことか少年を縛った男と交渉を始めおった……
少し冷たいところもあるが、根は心優しい。
それは私の勘違いだったのか。
……いや、私が言えることではない、のか……
少年を殺した、私が……
ヒトゴロシの、私が……
何度も
何度も
少年の断末魔が聞こえる
私を、恨んでいるのだろう。
私を、憎んでいるのだろう。
……スマナイ。
……スマナイ。
私が殺してしまった少年よ――
――どうか、許してくれ
【E-4 森林地帯/一日目・夕方】
【キン肉スグル@キン肉マン】
【状態】脇腹に小程度の傷(処置済み) 、強い罪悪感と精神的ショック
【持ち物】ディパック(支給品一式)×4、タリスマン@スレイヤーズREVOLUTION、
ホリィの短剣@モンスターファーム~円盤石の秘密~、金属バット@現実、100円玉@現実、不明支給品0~1
【思考】
0:私のせいで少年が……私が悪いんだ……許してくれ
1:シンジを埋葬してやる。
2:ゼロスと協力する。
3:学校へ行って朝倉とヴィヴィオと合流する。
4:ウォーズマンと再会したい
5:キン肉万太郎を探し出してとっちめる。
6:一般人を守り、悪魔将軍を倒す。
※砂ぼうずの名前をまだ知りません。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[saturated with fear]]|ゼロス|[[魔族は嘘をつきません]]|
|~|キン肉スグル|~|
|~|水野灌太(砂ぼうず)|[[学校の妖怪]]|
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