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「Fate/Zero(後編)」(2009/05/07 (木) 17:15:08) の最新版変更点
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*Fate/Zero(後編)◆h6KpN01cDg
さて、ここで一度物語は、青の少女へと移る。
一人暗闇で滾々と眠る、少女の現実は……
※
side Subaru~Knight speaks……~
頭が痛い。
金属で頭を殴られ続けているかのような、鈍痛。
苦しい。
首を真綿で絞められているような、息苦しさ。
生きてる?
私は、生きてるの?
そっと、手を伸ばす。
ああ、よかった―――右手は無事だ。
ちゃんと、私の体についている。
息を、する。
大丈夫だ、呼吸はできる。
私は、生きてる。
でも、瞳が開かない。
襲う疲労と眠気がそれを拒む。
まだ、いいかな。
もう少し休んでも、許されるかな?
音がする。
何をしているのかは分からない。
危ない人だったらどうしよう。
でも、ごめん―――
『スバル!』
―――スバルの頭を覚醒させたのは、聞き覚えのある女の声だった。
※
「……大丈夫か!?」
大きな腕に抱えられて、私は隠し部屋から出た。
歩けない……わけじゃない。ただ、全身が痛かったから優しさに甘えさせてもらった。
『……スバル……大丈夫です……?』
空曹長が、私のことを心配そうに見つめている。
まさか、空曹長が支給品としてここにいるとは思わなかった。はやてさんがいなかったからだろうか。
「平気です。……さすがに、ちょっときついですが、まだやれます」
「それにしても良かった。リインの仲間の命を救えて。もしリインがいなければ、私はお前を見つけることはできなかっただろう」
リイン後ろから、巨大なロボットの姿をした男の人が姿を現す。
今、私を助け出してくれた人だ。
ウォーズマンさんというらしい。
本当にありがたい。彼が来なければ、私は放送も聞き逃していたかもしれない。
「……本当に、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げる。
「……正義超人として当然のことをしたまでだ、礼を言うことはない。それに、礼なら彼女に言ってやるんだな」
「……ありがとうございます、空曹長」
『いえ、スバルが無事だったのならそれでいいのです!』
自分より小柄な上司にも頭を下げる。
空曹長は、にこにこと私に笑いかけていた。……なんだか気恥ずかしい。
初めに空曹長の声を聞いた時は驚いたけれど……でも、結果的によかった。
これで、機動六課を再編する夢にも一歩近づいているはず。
ウォーズマンさんも正義超人のようだし、彼と協力できればきっと―――
……え?
正義、超人?
『ウォーズマン』?
この人は、今そう言った?
「……あの、超人……って……もしかして……」
私は、超人と名のつく人物を二人知っている。
二人とも、私が戦った相手だ。
一人は、ガルル中尉の仇・オメガマン。
そして―――
「……貴方は……アシュラマンの知り合いなんですか……?」
アシュラマン。
もしかしたら、今もこの場で自分に協力してくれていたかもしれない、その可能性があった超人。
オメガマンに裏切られ殺された―――私が守れなかった、彼。
どうしてすぐに気付かなかったんだろう。
気絶していたからと言って、一瞬でも忘れていいことにはならないのに。
すぐに思いつくことはできたはずだ―――彼が、二人の知り合いなのではないか、と。
「アシュラマン!?君はあやつを知っているのか!?」
「……はい……」
やはり、そうだった。
ウォーズマンの反応は、明らかに普通ではなかった。
知っている。彼はアシュラマンの、知り合いなんだ。
「……知っています」
そうであれば、隠すことなど何もなかった。
それから私は、ウォーズマンさんに一連のリングでの出来事を話した。
アシュラマンが殺し合いに乗っていたこと。ガルル中尉とタッグマッチで戦ったこと。私たちに負けたアシュラマンはもう少しで私たちの言葉が届きそうだったのに、オメガマンにガルル中尉もろとも殺されたこと。
思い出すだけで心臓が痛むけれど、私は強く生き、闘うと決めた。こんなことで負けるものか。
そして、ウォーズマンさんからもいくつかの話を聞いた。
紫の髪の男が名前の分からない女の子を殺したこと。
朝倉涼子という女の子とキン肉スグル、キン肉万太郎という男性は殺し合いには載っていないということ。
そして、直前までギュオーとタママ二等兵とともに行動していたこと。
タママ、という名前は知っていた。ガルル中尉が言っていた、同じケロン人の軍人だ。
ウォーズマンさんとともに行動すれば、きっとタママに会うことができる。あの遺言を見せれば、きっと私のことを信用してくれるはずだ。
「……そうか……正義超人になったアシュラマンが殺し合いに乗っていたというのは奇妙な話だが……何にせよ、オメガマンがアシュラマンを殺したことは分かった」
ウォーズマンさんは、アシュラマンさんが人殺しをしようとしていたことに驚いていた。
話によると、昔はアシュラマンは私の言うように残虐非道だったが、昔更生して正義超人になったというのだ。
今更悪の心に目覚めたとは思えない、とも。
……どういうことだったの?確かにアシュラマンは最後には分かってくれそうだったけど、途中までは純粋に私達を殺そうとしていたし、何かに操られていた様子もなかった。
結果として残ったのは、アシュラマンが死んだという事実だけ。もう、アシュラマンにことの真意を聞き出すことはできない。それもウォーズマンさんは分かっているだろう。
「オメガマンめ……絶対に許さん!この正義超人、ウォーズマンが正義の名のもとにお前を倒す!」
ウォーズマンさんは、オメガマンに対してかなり怒っているみたいだった。
見た目では分からないけど、怒りはすごく伝わってくる。
この人は、私と同じ、殺し合いの打倒を願っている人だ。
騙されて―――なんかない。分かる。
心の奥から、この人の悲しみと怒りがしびれるように伝わってくる。
この人なら―――
新・機動六課に協力してくれるかもしれない。
眠りにつく直前、考えたこと。
自分の力で、この場に新たな機動六課を新生しよう、って。
多分、そううまくはいかないだろう。『彼』のように、私をだまして殺そうとする人間もいるだろうから。
でも―――それでも、
私は、あきらめない。
空曹長だって、ここにいるんだ。
そして、ウォーズマンさんの知り合いには、他にも殺し合いに乗っていない強者がたくさんいる。
この人となら、きっと―――
「……あの、ウォーズマンさん……」
だから私は、切り出した。
今、自分がどうしてこんな状況になっているのか。
そして今私が、何をしたいのか―――
「……貴方が、私と同じ目的を持つ人間と信じて、頼みがあります」
「―――一緒に、止めてほしい人がいるんです―――」
※
ウォーズマンさんは、私の言葉に二つ返事で同意してくれた。
そして、殺し合いに乗る奴らはすぐにでもとめれなければならない、と熱く語ってくれた。
出会ったのがこの人でよかった、と本当に思う。
運が、いい。
そして今、私をウォーズマンさんと空曹長はコテージを出て、辺りを捜索しているところだ。
あの二人がどこに行ったのかは分からない。でも、まだそう遠くにはいないはずだ。
あの二人も無傷じゃなかった。そこまでの力はないはずだ。
だから、まだ間に合うはずだ。
しかし、……一つ気になる。
「……空曹長……あの……何かいつもと違うところはありませんか……?」
『いえ?どこも変じゃないと思うですが……』
いや、なにか変だ。
私もどこ、とははっきり言えないんだけど……
強いて言うなら、体のバランスが……いつもと違う気がしてならないんですが。
しかし上司にそのようなことを言えるはずもないし。
……気のせい、だよね?
「……そ、それなら構わないのですが……」
すごく気になるけど、今はそれどころじゃない。
空曹長が怪我をしている様子もないので、気に留めないことにする。
「スバル、この周辺にはもういないようだ。どこを探す?」
離れたところから、ウォーズマンさんの声が聞こえてきた。
私も、彼と同じ意見だ。
「そうですね……」
あの二人が向かうとすればどこになる?
殺し合いに乗っている人間なら、自分たちのような殺し合いをよしとしない人々が集まる場所に向かうだろうか?そう考えると向かう先は………
私はそこまで考えて、ウォーズマンさんの方向へ向きなおり―――
そして、『それ』を聞き取った。
『……す、スバル、これは……』
空曹長が、真剣な顔で私に囁く。
気のせいじゃ、ない。
「……くっ、なんだこれは!何の音なのだ!?」
「……何、この音……」
轟音が、聞こえた。
何か巨大な者が持ち上がるような―――
明らかに、普通じゃありえない音だ。
何か、近くでとんでもないことが起こっている。
私は、ウォーズマンさんを見た。
ウォーズマンさんは、それだけで分かってくれた。私に頷き返し、その音のした方向へと進路を変えた。私もそれに習う。空曹長も、その後ろをついてくる。
戦闘が起こっている可能性は、高い。
それならば、私とウォーズマンさんで止めなければ。
迷わなかった。
私は真っ直ぐに、ウォーズマンさんのあとを追う。
そして、やがて辿り着く。
その巨大な音の発生源へ。
「……っ!?」
そこには、『いた』。
思わず息を呑む。
その二人を、私は知っていた。
知っていた、なんてものじゃない。
私はあの二人と、闘っていたんだから。
「……貴方達は……!」
見つけた。
まだ、この近くにいてよかった。
止められなかった、二人。
「……お前……生きてたのか!?」
私をだまそうとした男の子が私に言う。驚いていた。
……私だって自分でびっくりしたんだ。あれだけの攻撃を受けて死なないなんて。
「……死に損ないが」
……そして、もう一人の蛇の姿をした男も。
心臓が、知らずきゅっと縮む思いがする。
当たり前だ、私はあの二人に―――負けた。
私が死んでいない以上、正確には負けたとは言えないのかもしれない。
でも、私はあの二人を止められなかった。止められなかった以上、これは『勝ち』じゃないんだ。
「……お前が先ほど言っていたのは、こいつらのことか?」
ウォーズマンさんの言葉に、私は小さく頷いた。
そう、何としても、止めなければならない相手―――それが、この二人なんだ。
「……ふん、まだ立てつくか、女―――お前が戦うなら、私もそれに応えてやってもいい。……お前が朽ちるまでな」
蛇の姿をした男が、そう冷酷な視線を向けたまま吐き捨てる。
私の負わせた怪我は回復していない。少なくとも調子がよいというわけではないのだろう。
反対に、もう一人の名前を知らない男の子は、無傷。……というより、傷が再生したと言った方が正しいんだと思う。
不思議な肉体だ。……普通の人間じゃないのは分かっていたけれど。
厄介だ。……さすがに内臓へのダメージは消えていないと思いたいんだけれど。
「……なるほど、な……よく分かった…………ん?これは……」
ウォーズマンさんは頷き、そして顔を上げ、二人の後ろにそびえたつ『それ』を見て明らかに態度を変えた。
どこか、驚いているような、慌てているような。
そして、私も、ウォーズマンさんの言葉で、ようやく『それ』に気づいた。
前の二人に注意を払い過ぎていて、気付かなかった。
「……な……」
それは、リングだった。
「……これはリング……この場にもあったというのか……!?」
忘れもしない―――私が6時間ほど前、尊敬する『上司』と共に戦ったあのリングと、形状、大きさともに同じものだった。
どうして、これがこんなところに?
リングは、この場にいくつも用意されているということなのだろうか?
そうすれば―――え?
待って。
それなら、中トトロは!?
私は、辺りに視線を巡らせる。
ここがリングならば―――そこには中トトロがいるのではないか?
次こそ、次こそ絶対に、守ってみせる。そう思った。
それなのに。
「……あれ……?」
「どうした、スバル?」
ウォーズマンさんに声をかけられたが、返事が返せない。
中トトロが、いない?
どうして?中トトロはリングの解説役だったはず―――
そのとき。
どろり、と私の脳内に一つのイメージがよぎった。
あの後―――私が長門有希から逃げられた後の、光景。
もし、もし―――長門が、『中トトロを許さなかったとしたら?』
リングの解説役という任を果たさず、自分と戯れていた中トトロを、長門がよしとしなかったとしたら、もしかして―――
「……っ」
違う!そんなことない!考えちゃだめだ!
首を振る。集中しなくちゃ。
考えたくない。きっとここにいないのは他のリングで仕事をしているからだ。私たちが戦ったリングを別の参加者が使っているのかもしれない。
そうだ、そうであってほしい。
中トトロが死んだなんて、考えたくない……!
「……よそ見をしている余裕があるのか?」
瞬間。
『彼』が放った攻撃が、私の顔面に迫っていた。
「……っ!?」
間一髪でかわし、避ける。全身が貫かれたように痛んだ。
「待て!今の行為は卑怯だ!戦うなら正々堂々リングで決着をつけてやる!」
ウォーズマンさんは、かなり怒っていた。
当然だと思う。ウォーズマンさんはオメガマンやアシュラマンと同じ世界の人間なのだから、リングにそれなりの愛着や親しみがあるだろうに、そのリングに立つ前に不意打ちで攻撃されたのだから。
「卑怯?はっ、隙見せといて卑怯も何もあるかよ、もともとお前はあそこで―――」
「お前は黙っていろ、下がれ」
悪びれない少年を、蛇の姿をした男が静止する。
先ほどもそうだったように、この二人は今回も協力し合うのだろう。
「……し、かしナーガ様……」
「黙れというのが聞こえないのか?」
それにしても、このナーガという男の態度はどこか威圧的だ。
これがカリスマ性、というものなのだろうか。その言い知れぬ雰囲気に気圧されたらしい男の子は、その場から一歩下がった。
うん、そうだ。……戦いは正々堂々やってもらうよ。
さっきみたいに、卑怯な手なんか使わせないから。
「……」
「……リング……馬鹿げた施設だな。お前の言葉によるとルールがあるようだが……ルールなど殺し合うには不必要だ。……とはいえ、お前たちが決まりに縛られて死ぬことを望むなら、私はそれでも構わないが」
それはつまり。
リングの上で、自分は私とウォーズマンさんを殺す、と言っているのと同義。
こいつは、強い。身にしみて分かっている。
この言葉は虚言でも妄想でもなんでもない、事実なんだ。
ウォーズマンさんが、拳を握り締めたのが分かった。
彼は、闘うつもりなんだ。
すぐに分かった。
それなら私も―――戦わない理由などない!
「……スバル、闘おう。そして二人を止めるのだ!」
「……はい!」
「……リイン、お前はそこで見ていろ。お前に無理はさせない」
ウォーズマンさんは、空曹長に言葉をかける。
空曹長は、とても何か言いにくそうな顔だった。
……もしかして空曹長、自分のことを話していないのだろうか?
まあ、空曹長の外見なら普通のマスコットで済むしなあ……と思わず失礼なことを考えてしまった。
『……し、しかし……スバル……あの……』
「大丈夫です、私に任せてください。……空曹長に何かあったら、はやてさんに顔向けできません」
普段の空曹長なら、心配する必要もないのかもしれない。
でも、空曹長は参加者じゃない。私でさえ能力を制限されているんだ、参加者じゃない『道具』扱いの空曹長は、最悪まともに戦えないかもしれない。
私が、やる。
やってみせる。
「……頼む」
ウォーズマンさんからもそう言われた空曹長は、迷いに迷ったあげく分かりました、と小さく呟いた。
『スバル……よろしくです……』
「ええ……信じてください」
小柄な空曹長の手を取り、私はリングに視線を移す。
よし、……行こう。
私はリングに向かって足を踏み出―――
せなかった。
「……え……?」
あれ、おかしいな。
右足を動かしたはずだったのに。
どうして動けないんだろう?
「……す、スバル……どうした……?」
ずきり、と脳にノイズが走る。
頬を、冷たいものが伝う。
もう一度、動かそうとする。
それでも、結果は一緒だった。
私は―――ただその場に立ち尽くしているままだった。
―――なんで?
―――なんで、私……怯えてるの?
「……あ……」
違う。違うだろスバル・ナカジマ。
戦わなきゃ。あの二人を止めて、殺し合いなんてやめさせなきゃ。
死んだフェイトさんなら、きっとそうするはずだ。
ここにまだいるなのはさんも、空曹長も、きっと―――
決めたのに。
決意、したのに。
「……どうして、どうして……どうして!」
足が動かない。
磔にでもあったかのように―――動いてくれない。
あの二人に何かをされた訳ではない。これは、自分だ。
今の私を引き止めているのは、スバル・ナカジマという私自身だ。
今のままで、勝てるはずがない。
走るのもやっと、眩暈もする。
全身が、もっと休め、闘うなと訴えている。
そう、私は―――死ぬかもしれないんだ。
確かにウォーズマンさんはいる。今度は私は一人じゃない。
でも、私は一度あの二人に負けている。
どうしよう、私―――
「……それなら、私一人でお前たち二人の相手をしよう!」
その時。
私が聞いたのは。
「スバル、お前は休んでいろ!無理はするな!!お前の意思を継ぎ、正義超人として私がこの二人を止める!」
何か巨大なものがリングに上る音と―――私の名前を呼ぶ声。
はっとして、リングに顔を向けると、
そこには、一人でリングに上り、二人と今にも戦おうとするウォーズマンさんの姿。
「……なっ……!」
『や、やめるのです、二対一なんて……!』
やめてください、私はそう言うことが、できない。
一人?
そんなの、無茶だ。
『タッグ』マッチなんだ。いくらウォーズマンさんが私より強いとしても―――あの二人は強い。
ウォーズマンさんは確かまだ視力も完全回復していないって言っていたし、けがだってしていたのに―――絶対に一人で戦うなんて無理だ!
分かっている、分かっている、のに。
「う、ウォーズマンさん……!」
「2対1とは……舐められたものだ」
蛇の姿をした男が、ウォーズマンさんにそう言葉を投げかける。
その声には、本気の同情が見てとれた。
油断、ではない。自信、誇り……そう表現するに近いもの。
「構わん。……私は傷ついた女性を無理に戦わせたくはない。ここは私が一人引き受ける。その間にスバルはリインを連れて弱者を守るのだ」
「……あ……」
だめ。
ガルルの姿が思い浮かぶ。
アシュラマンの姿が脳裏をよぎる。
私と離れたくないと訴える、中トトロのことを考える。
もし、ここで戦わなければ?
ウォーズマンさんは、きっと殺される。
そして、もしかしたら参加者と勘違いされた空曹長も―――
フェイトさんだって死んだ。中尉も死んだ。実力なんて関係ないんだ。
もう。
もう、誰も―――失いたくない!
「……って」
待って。
まだ、行かないなんて言ってない。
私は―――戦う!
……一歩、踏み出した。
……ああ、歩けた。
私はちゃんと……動けている。
「スバル!?」
『スバル……!』
ウォーズマンさんの不安そうな声と、空曹長の喜んだ声が同時に聞こえてくる。
大丈夫。
私は、まだ戦える。
身体はどこまで動くか分からない。おそらく、かなり消耗しているのは間違いない。
でも、私は進む。
この、心が、魂が折れるまで。
散りゆく命を救うまで。
私は決して―――逃げない!
全身が悲鳴を上げる。
頭の中で、ガルル中尉が私に向かって叫んでいる。
「冷静に状況を判断しろ」と。
このまま戦い続けるなら、お前の命も危ないぞ、と。
―――それでも。
私はここで、あきらめるわけにはいかない。
リングに上がる。
まだ、恐怖はないと言えば嘘になる。
それでも、立つんだ。
『彼』と、目が合った。
とは言っても、どこが目なのかもよく分からないけれど。
彼は私の顔を見て、そして、聞いてきた。
「……名前」
「……え?」
「お前の名前、教えろよ。……自分が殺す相手の名前くらい知っておきたい」
貴方は―――何ということを言うのだろうか。
表情は分からない。でも、分かることはある。
この人と私は、絶対に相容れることはないって。
だまされたのに、不思議と憎しみは抱いていなかった。
むしろこの感情は―――何だろう、……『同情』?
こんな恰好でさえなければ、きっと年齢も近い男の子に思える。
本当は、こんな殺し合いをするような子じゃなかったのかもしれない、とさえ思えてくる。
それくらい、彼は『等身大』に思えて仕方がない。
この世界じゃなければ、友達になれたかもしれない。
でも―――だからこそ―――
「……スバル・ナカジマ」
残念だけど、私は貴方のようにはならない。
例えこの身が滅びても―――
大切な人が死んだとしても―――
私は、人を救うために戦い続ける。
「……貴方を、止める女の名前だよ。……貴方の名前は?」
殺し合いを、許さない。
その気持ちだけは、絶対に折らせはしない。
彼は、しばらく言葉を発さなかったが、やがて、笑いだした。
何がおかしいのか、しばらくくっと声を押し殺したように笑い、そして―――
「……キョン、だ……この……偽善者!」
そう、吐き捨てた。
その言葉を合図にして。
タッグバトル開始の―――ゴングが、鳴った。
※
そう、こうして戦いは始まった。
次の物語は、四人による血で血を洗う乱戦になるだろう。
でも、その前に一つだけ補足しておこう。
スバル・ナカジマという零の少女がリングに上る前。
ウォーズマンという機械超人が叫ぶよりも少し前。
哀れな少年と悪のカリスマの間で、交わされた会話とその想いを。
Side Kyon~Killer shuts……~
「……もしこの試合でお前が私の足を引っ張れば―――殺す」
冷や汗が流れた。
突然何を言っているんだ、と。
もしかして、俺が不意打ちであの女を殺そうとしていたことを怒っているのか?
おいおい……勘弁してくれよ。
今は、二人協力し合う時だろ……なんて、俺が言える立場じゃないのはよおく分かっちゃいるがな。
「お前を生かしている理由は、参加者を減らすのに役立つと判断したからにすぎない。だからもしお前が参加者を減らせないのなら―――お前に生きている価値などあるまい?」
またまた御冗談を、なんて言える雰囲気ではとてもなかった。
そのどこまでも冷たい視線が、ナーガのそれが本気であることの証拠だった。
2対2?冗談じゃない。
俺は実質上、3対1じゃないか。
孤立無援、孤軍奮闘……そんな言葉が頭をよぎる。
敵の敵は味方、なんてそう簡単にいくはずもないのか。
「屑のようなお前を育ててやろう、俺はそう思ってお前を今まで殺さなかった。……だが、私はお前の成長を待っていられるほど心が広くはないのだ。今回のリングで勝てなければ、その時こそ私はお前を見限る」
それは、文字通り首のかかったリストラ勧告だった。
そりゃないぜ、使えるようにしてやるって言ったじゃないか。
使えるようにするためにバトルしてもらう、無理なら死ね、ってどんな荒療治だよ。
だが悲しいかな―――ナーガは本気だ。
こいつは、今までも自分の仲間を切り捨ててきたんだろうと思えてしまう。
ナーガはそれだけ言うと、俺に背を向けてリングに上りやがった。
悔しい、悔しいが―――否定できるか?
できない。できるはずがない。
これで、俺が生き残る方法は、『2つ』。
一つは、ナーガのおっさんに役に立つ駒だと思わせること。
そのために必要なのは、二人―――あの女とウォーズマンを殺すこと。
最悪どちらか一人でも構わない。おっさんに俺が強いことを見せられれば十分だ。
そうすれば、ナーガのおっさんの中の俺に対する株は上がり、首の皮はつながるはずだ。
そしてもう一つは―――
『殺される前に、俺がナーガを殺すこと』。
……考えてみて、自分の馬鹿さに泣きそうになった。
無理だ。理解している。無理に決まっている。
もう二度も敗北した。
しかも一点差で惜しくも敗北、なんてレベルじゃない。10点差でノーヒットノーラン、コールド負けってとこだろう。
普通に戦えば、俺はナーガに勝てない。
未来はともかく、今は少なくとも、1ミリも勝てる要素は、ない。
認めたくないが、認めなきゃいけない。
……だが、待てよ、……本当にそうか?
冷静になれよ、俺。本当にそれでいいのか?
本当に、俺はナーガに勝てないと、そう言えるのか?
身の程知らずだと思われようと、そう言い切るにはまだ早いんじゃないか?
ここにいるのは、俺一人じゃない。
例の女とウォーズマンという、ナーガのおっさんにも勝ってしまえるかもしれない(ウォーズマンの実力は未知数だが、ナーガの反応からして相当の実力者なんだろう)『敵』がいる。
それならば、どうする。
『あいつら二人に、ナーガを殺してもらえばいい』んじゃないか?
女が、俺達を殺すつもりはなく、ただ止めるだけで済ませたいというのは一時間ほど前の戦闘で分かっている。ウォーズマンはどうか知らないが……あいつと組んでいる以上、スバルが殺人は許容しないだろう。とんだお人よしだ。
お前にスバルは全身ダメージを受けている。俺とナーガのW攻撃をくらったんだ、当たり前だろう。寧ろ生きていることがすごいくらいだな。
それなのに、こいつはリングに立った。俺とナーガを止めるために。
そしておそらくは―――長門達を倒し、日常に戻るために。
なんて馬鹿なんだろう。なんて愚かなんだろう。
そんなことをしても、意味なんてないじゃないか。
あいつは、誰も大切な人を亡くしていないのだろうか?
もう二回も放送が流れた。もしあいつの知り合いが誰も死んでいないのだとしたら、俺はさすがに長門に抗議したい。
どうしてこんなに理不尽なんだ、ってな。
もし亡くしているのなら―――あいつは思わないのだろうか?
その人間に生きていてほしい、と。
俺は思う。ああ、思っている。今でも、これからも、優勝するまでずっと思い続ける。
あいつは、生きてほしいと願わないのか。
人を殺してでも、生きて欲しいと思えないのか。
そこまでして手を染めることを拒むのは―――ただの強情だ。ただの偽善だ。
プライド?理性?そんなもの、『生』に比べたらちっぽけなものじゃないか。
……そう、か。
これで、よおく分かったよ。
ああ、俺は―――生きたい。
俺は、確かに弱いかもしれない。
ただ子供が剣を振り回している程度の力しかないかもしれない。
ああ、認めるよ。認めてやる。
俺は、弱い。
ただな、ナーガ。ひとつだけ覚えておけ。
お前は日本のことわざなんて知らないだろうから、サービスで教えてやるよ。
『三寸の虫にも五分の魂』――-『窮鼠猫を噛む』、でもいいかもしれない。さあ、どれがいい?
お前は―――俺に火をつけた。
生きてやる。
どんな卑怯な手を使ったって。
どんなに手を染めたって。
どんなに仲間を殺したって。
俺は生きる。
絶対に―――ここで死ぬわけにはいかない。
もう、長門が何でこんなことをしたのかなんてどうでもいい。
理由なんて興味はない。
ただ、長門には皆を生き返らせてもらいさえすればいいんだ。
そうだ、俺はずるいんだ。卑怯なんだ。狡猾なんだ。せこい、弱者なんだ。
だがな。
俺はどこまでも最低だから―――これ以上堕ちることなんてできないんだ。
あとは、這い上がるだけしかない。
何かが、音を立てて吹っ切れた。
人は死ぬ間際まで追いつめられると、こんなに爽やかな気持ちになれるのかもしれない。
頭を使え。
考えろ、考えるんだ。
思考停止している場合じゃない。
どんな非情な、卑怯な、卑劣な手段でも構わない。
ただ―――俺は生きるんだ。
生きてやるんだ。
考えて、騙して、利用して、生きて―――
そして、俺は優勝する。優勝して、日常に戻るんだ。
なあ、長門―――
できないなんて、言うなよ?
だから、卑怯な俺は、あの女に教えてやる。
きっと、『自分の前で誰も殺させはしない』って思っているだろうあいつに。
もし―――
『自分のせいで俺が死ぬとしたら、あいつはどう思うだろうか?』
なんて、な。
俺も、ナーガについてリングに上がった。
そこには、ウォーズマンとか言うまっくろくろすけなロボットと、あの女が、いる。
あの女と、目が合った。
俺は思わず、反射的に口にしていた。
「……名前」
「……え?」
「お前の名前、教えろよ。……自分が殺す相手の名前くらい知っておきたい」
それは、本音だったわけではない。
別に名前なんてどうでもいい。
ただ、脳内でお前のことを蔑む時に、名前がないと不便だろう。
……それ以上の理由なんて、あるはずがない。
どうせこいつと俺は交わることなどないのだから。
「……スバル・ナカジマ」
昴、だと。
最も美しいと言われる星の一つだとさ。贅沢な名前しやがって。
「……貴方を、止める女の名前だよ。……貴方の名前は?」
…………おまけに、偉そうときた。
そうか、そう来たか。
じゃあ、止めてみろってんだ。
「……キョン、だ……この……偽善者!」
お前の信念なんざ―――この俺がぶち壊してやるよ。
どうせ俺は、どうしようもない男なのだから。
※
これにて、二人の零の二度目の出会いはいったん終わりになります。
この後?この後ですか……それは、まだ分かりません。
ただ、一つだけ確かなことは。
零に零をどれだけかけても、零にしかならないということ。
それでも意味が分からない?
それならば、次にまた会う時を楽しみにいたしましょうか。
もしかすれば―――零と零がかけて一になったり、マイナス一になったりする未来もあるかもしれないのですから。
【I-4 森のリング/一日目・夕方(湖のリング上での戦闘中)】
【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身に中度のダメージ ゼロスに対しての憎しみ サツキへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0~1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ
リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
【思考】
1:スバルと共に、目の前の二人(キョン、ナーガ)を倒す
2:1を終えたら神社に向かい、タママ達と合流する。
3:タママの仲間、特にサツキと合流したい。
4:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5:ゲンキとスエゾーとハムを見つけ次第保護。
6:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
7:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
9:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
10:紫の髪の男だけは許さない。
11:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。
【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※ギュオーのことは基本的に信用していますが、彼の発言を鵜呑みにはしていません
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)。
【装備】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【持ち物】 支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6
【思考】
0:二人を止める。決して逃げない。
1:機動六課を再編する。
2:何があっても、理想を貫く。
3:人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4:人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
5:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(キョンとナーガと雨蜘蛛)を止めたい。
6:中トトロを長門有希から取り戻す。
7:ノーヴェのことも気がかり。
【ナーガ@モンスターファーム~円盤石の秘密~】
【状態】ダメージ(大)、疲労大
【持ち物】 デイパック、基本セット
【思考】
0:目の前の二人(スバル、ウォーズマン)を殺す
1:キョンを自分の駒にふさわしい存在にする。この戦いで役に立たなければ処分する?
2:砂ぼうず(名前は知らない)を優先的に、殺す。
3:殺人劇を見せた男と接触する。
4:参加者を皆殺しにする(ホリィ、ゲンキたちの仲間を優先)
5:雨蜘蛛や、キョンなどのマーダーを殺すのは後回し。適当に対主催優先殺しの話を持ちかけるが、
通じるようでなければ殺す。(執着はしない)
6:キョンを襲撃する前に見た、飛んで行った影が気になる。
7:最終的には主催も気に食わないので殺す
※ホリィがガイア石を持ったまま参戦していると考えています
※雨蜘蛛の身体的特徴、人柄、実力の情報を入手しました。
※ギュオー(名前と人間の姿は知らない)が加持とメイを殺したと思っています。
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、0号ガイバー状態、精神的に不安定
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)、 SDカード@現実、 カードリーダー
大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、タムタムの木の種@キン肉マン
【思考】
0:生き残るためには手段を選ばない。何をしても優勝する。
1:目の前の二人(スバル、ウォーズマン)を殺す。可能ならばナーガもまとめて殺したいが……
2:ナーガを利用して殺害数を増やす
3:ナーガと一緒に殺人者と接触する
4:午後6時に、採掘場で古泉と合流?
5:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう
6:博物館方向にいる人物を警戒
※返り血は全て洗い流されています。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
*時系列順で読む
Back:[[贖罪]] Next:[[Another Age]]
*投下順で読む
Back:[[蜘蛛は何処に消えた?]] Next:[[この温泉には野生の参加者もはいってきます]]
|[[*嗚呼、素晴らしき人生哉! ]]|ナーガ|[[本当の敵]]|
|~|キョン|~|
|[[あたしが此処にいる理由]]|スバル・ナカジマ|~|
|[[巨人と、小人]]|ウォーズマン|~|
*Fate/Zero(後編)◆h6KpN01cDg
さて、ここで一度物語は、青の少女へと移る。
一人暗闇で滾々と眠る、少女の現実は……
※
side Subaru~Knight speaks……~
頭が痛い。
金属で頭を殴られ続けているかのような、鈍痛。
苦しい。
首を真綿で絞められているような、息苦しさ。
生きてる?
私は、生きてるの?
そっと、手を伸ばす。
ああ、よかった―――右手は無事だ。
ちゃんと、私の体についている。
息を、する。
大丈夫だ、呼吸はできる。
私は、生きてる。
でも、瞳が開かない。
襲う疲労と眠気がそれを拒む。
まだ、いいかな。
もう少し休んでも、許されるかな?
音がする。
何をしているのかは分からない。
危ない人だったらどうしよう。
でも、ごめん―――
『スバル!』
―――スバルの頭を覚醒させたのは、聞き覚えのある女の声だった。
※
「……大丈夫か!?」
大きな腕に抱えられて、私は隠し部屋から出た。
歩けない……わけじゃない。ただ、全身が痛かったから優しさに甘えさせてもらった。
『……スバル……大丈夫です……?』
空曹長が、私のことを心配そうに見つめている。
まさか、空曹長が支給品としてここにいるとは思わなかった。はやてさんがいなかったからだろうか。
「平気です。……さすがに、ちょっときついですが、まだやれます」
「それにしても良かった。リインの仲間の命を救えて。もしリインがいなければ、私はお前を見つけることはできなかっただろう」
リイン後ろから、巨大なロボットの姿をした男の人が姿を現す。
今、私を助け出してくれた人だ。
ウォーズマンさんというらしい。
本当にありがたい。彼が来なければ、私は放送も聞き逃していたかもしれない。
「……本当に、ありがとうございました」
私は深々と頭を下げる。
「……正義超人として当然のことをしたまでだ、礼を言うことはない。それに、礼なら彼女に言ってやるんだな」
「……ありがとうございます、空曹長」
『いえ、スバルが無事だったのならそれでいいのです!』
自分より小柄な上司にも頭を下げる。
空曹長は、にこにこと私に笑いかけていた。……なんだか気恥ずかしい。
初めに空曹長の声を聞いた時は驚いたけれど……でも、結果的によかった。
これで、機動六課を再編する夢にも一歩近づいているはず。
ウォーズマンさんも正義超人のようだし、彼と協力できればきっと―――
……え?
正義、超人?
『ウォーズマン』?
この人は、今そう言った?
「……あの、超人……って……もしかして……」
私は、超人と名のつく人物を二人知っている。
二人とも、私が戦った相手だ。
一人は、ガルル中尉の仇・オメガマン。
そして―――
「……貴方は……アシュラマンの知り合いなんですか……?」
アシュラマン。
もしかしたら、今もこの場で自分に協力してくれていたかもしれない、その可能性があった超人。
オメガマンに裏切られ殺された―――私が守れなかった、彼。
どうしてすぐに気付かなかったんだろう。
気絶していたからと言って、一瞬でも忘れていいことにはならないのに。
すぐに思いつくことはできたはずだ―――彼が、二人の知り合いなのではないか、と。
「アシュラマン!?君はあやつを知っているのか!?」
「……はい……」
やはり、そうだった。
ウォーズマンの反応は、明らかに普通ではなかった。
知っている。彼はアシュラマンの、知り合いなんだ。
「……知っています」
そうであれば、隠すことなど何もなかった。
それから私は、ウォーズマンさんに一連のリングでの出来事を話した。
アシュラマンが殺し合いに乗っていたこと。ガルル中尉とタッグマッチで戦ったこと。私たちに負けたアシュラマンはもう少しで私たちの言葉が届きそうだったのに、オメガマンにガルル中尉もろとも殺されたこと。
思い出すだけで心臓が痛むけれど、私は強く生き、闘うと決めた。こんなことで負けるものか。
そして、ウォーズマンさんからもいくつかの話を聞いた。
紫の髪の男が名前の分からない女の子を殺したこと。
朝倉涼子という女の子とキン肉スグル、キン肉万太郎という男性は殺し合いには載っていないということ。
そして、直前までギュオーとタママ二等兵とともに行動していたこと。
タママ、という名前は知っていた。ガルル中尉が言っていた、同じケロン人の軍人だ。
ウォーズマンさんとともに行動すれば、きっとタママに会うことができる。あの遺言を見せれば、きっと私のことを信用してくれるはずだ。
「……そうか……正義超人になったアシュラマンが殺し合いに乗っていたというのは奇妙な話だが……何にせよ、オメガマンがアシュラマンを殺したことは分かった」
ウォーズマンさんは、アシュラマンさんが人殺しをしようとしていたことに驚いていた。
話によると、昔はアシュラマンは私の言うように残虐非道だったが、昔更生して正義超人になったというのだ。
今更悪の心に目覚めたとは思えない、とも。
……どういうことだったの?確かにアシュラマンは最後には分かってくれそうだったけど、途中までは純粋に私達を殺そうとしていたし、何かに操られていた様子もなかった。
結果として残ったのは、アシュラマンが死んだという事実だけ。もう、アシュラマンにことの真意を聞き出すことはできない。それもウォーズマンさんは分かっているだろう。
「オメガマンめ……絶対に許さん!この正義超人、ウォーズマンが正義の名のもとにお前を倒す!」
ウォーズマンさんは、オメガマンに対してかなり怒っているみたいだった。
見た目では分からないけど、怒りはすごく伝わってくる。
この人は、私と同じ、殺し合いの打倒を願っている人だ。
騙されて―――なんかない。分かる。
心の奥から、この人の悲しみと怒りがしびれるように伝わってくる。
この人なら―――
新・機動六課に協力してくれるかもしれない。
眠りにつく直前、考えたこと。
自分の力で、この場に新たな機動六課を新生しよう、って。
多分、そううまくはいかないだろう。『彼』のように、私をだまして殺そうとする人間もいるだろうから。
でも―――それでも、
私は、あきらめない。
空曹長だって、ここにいるんだ。
そして、ウォーズマンさんの知り合いには、他にも殺し合いに乗っていない強者がたくさんいる。
この人となら、きっと―――
「……あの、ウォーズマンさん……」
だから私は、切り出した。
今、自分がどうしてこんな状況になっているのか。
そして今私が、何をしたいのか―――
「……貴方が、私と同じ目的を持つ人間と信じて、頼みがあります」
「―――一緒に、止めてほしい人がいるんです―――」
※
ウォーズマンさんは、私の言葉に二つ返事で同意してくれた。
そして、殺し合いに乗る奴らはすぐにでもとめれなければならない、と熱く語ってくれた。
出会ったのがこの人でよかった、と本当に思う。
運が、いい。
そして今、私をウォーズマンさんと空曹長はコテージを出て、辺りを捜索しているところだ。
あの二人がどこに行ったのかは分からない。でも、まだそう遠くにはいないはずだ。
あの二人も無傷じゃなかった。そこまでの力はないはずだ。
だから、まだ間に合うはずだ。
しかし、……一つ気になる。
「……空曹長……あの……何かいつもと違うところはありませんか……?」
『いえ?どこも変じゃないと思うですが……』
いや、なにか変だ。
私もどこ、とははっきり言えないんだけど……
強いて言うなら、体のバランスが……いつもと違う気がしてならないんですが。
しかし上司にそのようなことを言えるはずもないし。
……気のせい、だよね?
「……そ、それなら構わないのですが……」
すごく気になるけど、今はそれどころじゃない。
空曹長が怪我をしている様子もないので、気に留めないことにする。
「スバル、この周辺にはもういないようだ。どこを探す?」
離れたところから、ウォーズマンさんの声が聞こえてきた。
私も、彼と同じ意見だ。
「そうですね……」
あの二人が向かうとすればどこになる?
殺し合いに乗っている人間なら、自分たちのような殺し合いをよしとしない人々が集まる場所に向かうだろうか?そう考えると向かう先は………
私はそこまで考えて、ウォーズマンさんの方向へ向きなおり―――
そして、『それ』を聞き取った。
『……す、スバル、これは……』
空曹長が、真剣な顔で私に囁く。
気のせいじゃ、ない。
「……くっ、なんだこれは!何の音なのだ!?」
「……何、この音……」
轟音が、聞こえた。
何か巨大な者が持ち上がるような―――
明らかに、普通じゃありえない音だ。
何か、近くでとんでもないことが起こっている。
私は、ウォーズマンさんを見た。
ウォーズマンさんは、それだけで分かってくれた。私に頷き返し、その音のした方向へと進路を変えた。私もそれに習う。空曹長も、その後ろをついてくる。
戦闘が起こっている可能性は、高い。
それならば、私とウォーズマンさんで止めなければ。
迷わなかった。
私は真っ直ぐに、ウォーズマンさんのあとを追う。
そして、やがて辿り着く。
その巨大な音の発生源へ。
「……っ!?」
そこには、『いた』。
思わず息を呑む。
その二人を、私は知っていた。
知っていた、なんてものじゃない。
私はあの二人と、闘っていたんだから。
「……貴方達は……!」
見つけた。
まだ、この近くにいてよかった。
止められなかった、二人。
「……お前……生きてたのか!?」
私をだまそうとした男の子が私に言う。驚いていた。
……私だって自分でびっくりしたんだ。あれだけの攻撃を受けて死なないなんて。
「……死に損ないが」
……そして、もう一人の蛇の姿をした男も。
心臓が、知らずきゅっと縮む思いがする。
当たり前だ、私はあの二人に―――負けた。
私が死んでいない以上、正確には負けたとは言えないのかもしれない。
でも、私はあの二人を止められなかった。止められなかった以上、これは『勝ち』じゃないんだ。
「……お前が先ほど言っていたのは、こいつらのことか?」
ウォーズマンさんの言葉に、私は小さく頷いた。
そう、何としても、止めなければならない相手―――それが、この二人なんだ。
「……ふん、まだ立てつくか、女―――お前が戦うなら、私もそれに応えてやってもいい。……お前が朽ちるまでな」
蛇の姿をした男が、そう冷酷な視線を向けたまま吐き捨てる。
私の負わせた怪我は回復していない。少なくとも調子がよいというわけではないのだろう。
反対に、もう一人の名前を知らない男の子は、無傷。……というより、傷が再生したと言った方が正しいんだと思う。
不思議な肉体だ。……普通の人間じゃないのは分かっていたけれど。
厄介だ。……さすがに内臓へのダメージは消えていないと思いたいんだけれど。
「……なるほど、な……よく分かった…………ん?これは……」
ウォーズマンさんは頷き、そして顔を上げ、二人の後ろにそびえたつ『それ』を見て明らかに態度を変えた。
どこか、驚いているような、慌てているような。
そして、私も、ウォーズマンさんの言葉で、ようやく『それ』に気づいた。
前の二人に注意を払い過ぎていて、気付かなかった。
「……な……」
それは、リングだった。
「……これはリング……この場にもあったというのか……!?」
忘れもしない―――私が6時間ほど前、尊敬する『上司』と共に戦ったあのリングと、形状、大きさともに同じものだった。
どうして、これがこんなところに?
リングは、この場にいくつも用意されているということなのだろうか?
そうすれば―――え?
待って。
それなら、中トトロは!?
私は、辺りに視線を巡らせる。
ここがリングならば―――そこには中トトロがいるのではないか?
次こそ、次こそ絶対に、守ってみせる。そう思った。
それなのに。
「……あれ……?」
「どうした、スバル?」
ウォーズマンさんに声をかけられたが、返事が返せない。
中トトロが、いない?
どうして?中トトロはリングの解説役だったはず―――
そのとき。
どろり、と私の脳内に一つのイメージがよぎった。
あの後―――私が長門有希から逃げられた後の、光景。
もし、もし―――長門が、『中トトロを許さなかったとしたら?』
リングの解説役という任を果たさず、自分と戯れていた中トトロを、長門がよしとしなかったとしたら、もしかして―――
「……っ」
違う!そんなことない!考えちゃだめだ!
首を振る。集中しなくちゃ。
考えたくない。きっとここにいないのは他のリングで仕事をしているからだ。私たちが戦ったリングを別の参加者が使っているのかもしれない。
そうだ、そうであってほしい。
中トトロが死んだなんて、考えたくない……!
「……よそ見をしている余裕があるのか?」
瞬間。
『彼』が放った攻撃が、私の顔面に迫っていた。
「……っ!?」
間一髪でかわし、避ける。全身が貫かれたように痛んだ。
「待て!今の行為は卑怯だ!戦うなら正々堂々リングで決着をつけてやる!」
ウォーズマンさんは、かなり怒っていた。
当然だと思う。ウォーズマンさんはオメガマンやアシュラマンと同じ世界の人間なのだから、リングにそれなりの愛着や親しみがあるだろうに、そのリングに立つ前に不意打ちで攻撃されたのだから。
「卑怯?はっ、隙見せといて卑怯も何もあるかよ、もともとお前はあそこで―――」
「お前は黙っていろ、下がれ」
悪びれない少年を、蛇の姿をした男が静止する。
先ほどもそうだったように、この二人は今回も協力し合うのだろう。
「……し、かしナーガ様……」
「黙れというのが聞こえないのか?」
それにしても、このナーガという男の態度はどこか威圧的だ。
これがカリスマ性、というものなのだろうか。その言い知れぬ雰囲気に気圧されたらしい男の子は、その場から一歩下がった。
うん、そうだ。……戦いは正々堂々やってもらうよ。
さっきみたいに、卑怯な手なんか使わせないから。
「……」
「……リング……馬鹿げた施設だな。お前の言葉によるとルールがあるようだが……ルールなど殺し合うには不必要だ。……とはいえ、お前たちが決まりに縛られて死ぬことを望むなら、私はそれでも構わないが」
それはつまり。
リングの上で、自分は私とウォーズマンさんを殺す、と言っているのと同義。
こいつは、強い。身にしみて分かっている。
この言葉は虚言でも妄想でもなんでもない、事実なんだ。
ウォーズマンさんが、拳を握り締めたのが分かった。
彼は、闘うつもりなんだ。
すぐに分かった。
それなら私も―――戦わない理由などない!
「……スバル、闘おう。そして二人を止めるのだ!」
「……はい!」
「……リイン、お前はそこで見ていろ。お前に無理はさせない」
ウォーズマンさんは、空曹長に言葉をかける。
空曹長は、とても何か言いにくそうな顔だった。
……もしかして空曹長、自分のことを話していないのだろうか?
まあ、空曹長の外見なら普通のマスコットで済むしなあ……と思わず失礼なことを考えてしまった。
『……し、しかし……スバル……あの……』
「大丈夫です、私に任せてください。……空曹長に何かあったら、はやてさんに顔向けできません」
普段の空曹長なら、心配する必要もないのかもしれない。
でも、空曹長は参加者じゃない。私でさえ能力を制限されているんだ、参加者じゃない『道具』扱いの空曹長は、最悪まともに戦えないかもしれない。
私が、やる。
やってみせる。
「……頼む」
ウォーズマンさんからもそう言われた空曹長は、迷いに迷ったあげく分かりました、と小さく呟いた。
『スバル……よろしくです……』
「ええ……信じてください」
小柄な空曹長の手を取り、私はリングに視線を移す。
よし、……行こう。
私はリングに向かって足を踏み出―――
せなかった。
「……え……?」
あれ、おかしいな。
右足を動かしたはずだったのに。
どうして動けないんだろう?
「……す、スバル……どうした……?」
ずきり、と脳にノイズが走る。
頬を、冷たいものが伝う。
もう一度、動かそうとする。
それでも、結果は一緒だった。
私は―――ただその場に立ち尽くしているままだった。
―――なんで?
―――なんで、私……怯えてるの?
「……あ……」
違う。違うだろスバル・ナカジマ。
戦わなきゃ。あの二人を止めて、殺し合いなんてやめさせなきゃ。
死んだフェイトさんなら、きっとそうするはずだ。
ここにまだいるなのはさんも、空曹長も、きっと―――
決めたのに。
決意、したのに。
「……どうして、どうして……どうして!」
足が動かない。
磔にでもあったかのように―――動いてくれない。
あの二人に何かをされた訳ではない。これは、自分だ。
今の私を引き止めているのは、スバル・ナカジマという私自身だ。
今のままで、勝てるはずがない。
走るのもやっと、眩暈もする。
全身が、もっと休め、闘うなと訴えている。
そう、私は―――死ぬかもしれないんだ。
確かにウォーズマンさんはいる。今度は私は一人じゃない。
でも、私は一度あの二人に負けている。
どうしよう、私―――
「……それなら、私一人でお前たち二人の相手をしよう!」
その時。
私が聞いたのは。
「スバル、お前は休んでいろ!無理はするな!!お前の意思を継ぎ、正義超人として私がこの二人を止める!」
何か巨大なものがリングに上る音と―――私の名前を呼ぶ声。
はっとして、リングに顔を向けると、
そこには、一人でリングに上り、二人と今にも戦おうとするウォーズマンさんの姿。
「……なっ……!」
『や、やめるのです、二対一なんて……!』
やめてください、私はそう言うことが、できない。
一人?
そんなの、無茶だ。
『タッグ』マッチなんだ。いくらウォーズマンさんが私より強いとしても―――あの二人は強い。
ウォーズマンさんは確かまだ視力も完全回復していないって言っていたし、けがだってしていたのに―――絶対に一人で戦うなんて無理だ!
分かっている、分かっている、のに。
「う、ウォーズマンさん……!」
「2対1とは……舐められたものだ」
蛇の姿をした男が、ウォーズマンさんにそう言葉を投げかける。
その声には、本気の同情が見てとれた。
油断、ではない。自信、誇り……そう表現するに近いもの。
「構わん。……私は傷ついた女性を無理に戦わせたくはない。ここは私が一人引き受ける。その間にスバルはリインを連れて弱者を守るのだ」
「……あ……」
だめ。
ガルルの姿が思い浮かぶ。
アシュラマンの姿が脳裏をよぎる。
私と離れたくないと訴える、中トトロのことを考える。
もし、ここで戦わなければ?
ウォーズマンさんは、きっと殺される。
そして、もしかしたら参加者と勘違いされた空曹長も―――
フェイトさんだって死んだ。中尉も死んだ。実力なんて関係ないんだ。
もう。
もう、誰も―――失いたくない!
「……って」
待って。
まだ、行かないなんて言ってない。
私は―――戦う!
……一歩、踏み出した。
……ああ、歩けた。
私はちゃんと……動けている。
「スバル!?」
『スバル……!』
ウォーズマンさんの不安そうな声と、空曹長の喜んだ声が同時に聞こえてくる。
大丈夫。
私は、まだ戦える。
身体はどこまで動くか分からない。おそらく、かなり消耗しているのは間違いない。
でも、私は進む。
この、心が、魂が折れるまで。
散りゆく命を救うまで。
私は決して―――逃げない!
全身が悲鳴を上げる。
頭の中で、ガルル中尉が私に向かって叫んでいる。
「冷静に状況を判断しろ」と。
このまま戦い続けるなら、お前の命も危ないぞ、と。
―――それでも。
私はここで、あきらめるわけにはいかない。
リングに上がる。
まだ、恐怖はないと言えば嘘になる。
それでも、立つんだ。
『彼』と、目が合った。
とは言っても、どこが目なのかもよく分からないけれど。
彼は私の顔を見て、そして、聞いてきた。
「……名前」
「……え?」
「お前の名前、教えろよ。……自分が殺す相手の名前くらい知っておきたい」
貴方は―――何ということを言うのだろうか。
表情は分からない。でも、分かることはある。
この人と私は、絶対に相容れることはないって。
だまされたのに、不思議と憎しみは抱いていなかった。
むしろこの感情は―――何だろう、……『同情』?
こんな恰好でさえなければ、きっと年齢も近い男の子に思える。
本当は、こんな殺し合いをするような子じゃなかったのかもしれない、とさえ思えてくる。
それくらい、彼は『等身大』に思えて仕方がない。
この世界じゃなければ、友達になれたかもしれない。
でも―――だからこそ―――
「……スバル・ナカジマ」
残念だけど、私は貴方のようにはならない。
例えこの身が滅びても―――
大切な人が死んだとしても―――
私は、人を救うために戦い続ける。
「……貴方を、止める女の名前だよ。……貴方の名前は?」
殺し合いを、許さない。
その気持ちだけは、絶対に折らせはしない。
彼は、しばらく言葉を発さなかったが、やがて、笑いだした。
何がおかしいのか、しばらくくっと声を押し殺したように笑い、そして―――
「……キョン、だ……この……偽善者!」
そう、吐き捨てた。
その言葉を合図にして。
タッグバトル開始の―――ゴングが、鳴った。
※
そう、こうして戦いは始まった。
次の物語は、四人による血で血を洗う乱戦になるだろう。
でも、その前に一つだけ補足しておこう。
スバル・ナカジマという零の少女がリングに上る前。
ウォーズマンという機械超人が叫ぶよりも少し前。
哀れな少年と悪のカリスマの間で、交わされた会話とその想いを。
Side Kyon~Killer shuts……~
「……もしこの試合でお前が私の足を引っ張れば―――殺す」
冷や汗が流れた。
突然何を言っているんだ、と。
もしかして、俺が不意打ちであの女を殺そうとしていたことを怒っているのか?
おいおい……勘弁してくれよ。
今は、二人協力し合う時だろ……なんて、俺が言える立場じゃないのはよおく分かっちゃいるがな。
「お前を生かしている理由は、参加者を減らすのに役立つと判断したからにすぎない。だからもしお前が参加者を減らせないのなら―――お前に生きている価値などあるまい?」
またまた御冗談を、なんて言える雰囲気ではとてもなかった。
そのどこまでも冷たい視線が、ナーガのそれが本気であることの証拠だった。
2対2?冗談じゃない。
俺は実質上、3対1じゃないか。
孤立無援、孤軍奮闘……そんな言葉が頭をよぎる。
敵の敵は味方、なんてそう簡単にいくはずもないのか。
「屑のようなお前を育ててやろう、俺はそう思ってお前を今まで殺さなかった。……だが、私はお前の成長を待っていられるほど心が広くはないのだ。今回のリングで勝てなければ、その時こそ私はお前を見限る」
それは、文字通り首のかかったリストラ勧告だった。
そりゃないぜ、使えるようにしてやるって言ったじゃないか。
使えるようにするためにバトルしてもらう、無理なら死ね、ってどんな荒療治だよ。
だが悲しいかな―――ナーガは本気だ。
こいつは、今までも自分の仲間を切り捨ててきたんだろうと思えてしまう。
ナーガはそれだけ言うと、俺に背を向けてリングに上りやがった。
悔しい、悔しいが―――否定できるか?
できない。できるはずがない。
これで、俺が生き残る方法は、『2つ』。
一つは、ナーガのおっさんに役に立つ駒だと思わせること。
そのために必要なのは、二人―――あの女とウォーズマンを殺すこと。
最悪どちらか一人でも構わない。おっさんに俺が強いことを見せられれば十分だ。
そうすれば、ナーガのおっさんの中の俺に対する株は上がり、首の皮はつながるはずだ。
そしてもう一つは―――
『殺される前に、俺がナーガを殺すこと』。
……考えてみて、自分の馬鹿さに泣きそうになった。
無理だ。理解している。無理に決まっている。
もう二度も敗北した。
しかも一点差で惜しくも敗北、なんてレベルじゃない。10点差でノーヒットノーラン、コールド負けってとこだろう。
普通に戦えば、俺はナーガに勝てない。
未来はともかく、今は少なくとも、1ミリも勝てる要素は、ない。
認めたくないが、認めなきゃいけない。
……だが、待てよ、……本当にそうか?
冷静になれよ、俺。本当にそれでいいのか?
本当に、俺はナーガに勝てないと、そう言えるのか?
身の程知らずだと思われようと、そう言い切るにはまだ早いんじゃないか?
ここにいるのは、俺一人じゃない。
例の女とウォーズマンという、ナーガのおっさんにも勝ってしまえるかもしれない(ウォーズマンの実力は未知数だが、ナーガの反応からして相当の実力者なんだろう)『敵』がいる。
それならば、どうする。
『あいつら二人に、ナーガを殺してもらえばいい』んじゃないか?
女が、俺達を殺すつもりはなく、ただ止めるだけで済ませたいというのは一時間ほど前の戦闘で分かっている。ウォーズマンはどうか知らないが……あいつと組んでいる以上、スバルが殺人は許容しないだろう。とんだお人よしだ。
お前にスバルは全身ダメージを受けている。俺とナーガのW攻撃をくらったんだ、当たり前だろう。寧ろ生きていることがすごいくらいだな。
それなのに、こいつはリングに立った。俺とナーガを止めるために。
そしておそらくは―――長門達を倒し、日常に戻るために。
なんて馬鹿なんだろう。なんて愚かなんだろう。
そんなことをしても、意味なんてないじゃないか。
あいつは、誰も大切な人を亡くしていないのだろうか?
もう二回も放送が流れた。もしあいつの知り合いが誰も死んでいないのだとしたら、俺はさすがに長門に抗議したい。
どうしてこんなに理不尽なんだ、ってな。
もし亡くしているのなら―――あいつは思わないのだろうか?
その人間に生きていてほしい、と。
俺は思う。ああ、思っている。今でも、これからも、優勝するまでずっと思い続ける。
あいつは、生きてほしいと願わないのか。
人を殺してでも、生きて欲しいと思えないのか。
そこまでして手を染めることを拒むのは―――ただの強情だ。ただの偽善だ。
プライド?理性?そんなもの、『生』に比べたらちっぽけなものじゃないか。
……そう、か。
これで、よおく分かったよ。
ああ、俺は―――生きたい。
俺は、確かに弱いかもしれない。
ただ子供が剣を振り回している程度の力しかないかもしれない。
ああ、認めるよ。認めてやる。
俺は、弱い。
ただな、ナーガ。ひとつだけ覚えておけ。
お前は日本のことわざなんて知らないだろうから、サービスで教えてやるよ。
『三寸の虫にも五分の魂』――-『窮鼠猫を噛む』、でもいいかもしれない。さあ、どれがいい?
お前は―――俺に火をつけた。
生きてやる。
どんな卑怯な手を使ったって。
どんなに手を染めたって。
どんなに仲間を殺したって。
俺は生きる。
絶対に―――ここで死ぬわけにはいかない。
もう、長門が何でこんなことをしたのかなんてどうでもいい。
理由なんて興味はない。
ただ、長門には皆を生き返らせてもらいさえすればいいんだ。
そうだ、俺はずるいんだ。卑怯なんだ。狡猾なんだ。せこい、弱者なんだ。
だがな。
俺はどこまでも最低だから―――これ以上堕ちることなんてできないんだ。
あとは、這い上がるだけしかない。
何かが、音を立てて吹っ切れた。
人は死ぬ間際まで追いつめられると、こんなに爽やかな気持ちになれるのかもしれない。
頭を使え。
考えろ、考えるんだ。
思考停止している場合じゃない。
どんな非情な、卑怯な、卑劣な手段でも構わない。
ただ―――俺は生きるんだ。
生きてやるんだ。
考えて、騙して、利用して、生きて―――
そして、俺は優勝する。優勝して、日常に戻るんだ。
なあ、長門―――
できないなんて、言うなよ?
だから、卑怯な俺は、あの女に教えてやる。
きっと、『自分の前で誰も殺させはしない』って思っているだろうあいつに。
もし―――
『自分のせいで俺が死ぬとしたら、あいつはどう思うだろうか?』
なんて、な。
俺も、ナーガについてリングに上がった。
そこには、ウォーズマンとか言うまっくろくろすけなロボットと、あの女が、いる。
あの女と、目が合った。
俺は思わず、反射的に口にしていた。
「……名前」
「……え?」
「お前の名前、教えろよ。……自分が殺す相手の名前くらい知っておきたい」
それは、本音だったわけではない。
別に名前なんてどうでもいい。
ただ、脳内でお前のことを蔑む時に、名前がないと不便だろう。
……それ以上の理由なんて、あるはずがない。
どうせこいつと俺は交わることなどないのだから。
「……スバル・ナカジマ」
昴、だと。
最も美しいと言われる星の一つだとさ。贅沢な名前しやがって。
「……貴方を、止める女の名前だよ。……貴方の名前は?」
…………おまけに、偉そうときた。
そうか、そう来たか。
じゃあ、止めてみろってんだ。
「……キョン、だ……この……偽善者!」
お前の信念なんざ―――この俺がぶち壊してやるよ。
どうせ俺は、どうしようもない男なのだから。
※
これにて、二人の零の二度目の出会いはいったん終わりになります。
この後?この後ですか……それは、まだ分かりません。
ただ、一つだけ確かなことは。
零に零をどれだけかけても、零にしかならないということ。
それでも意味が分からない?
それならば、次にまた会う時を楽しみにいたしましょうか。
もしかすれば―――零と零がかけて一になったり、マイナス一になったりする未来もあるかもしれないのですから。
【I-4 森のリング/一日目・夕方(湖のリング上での戦闘中)】
【名前】ウォーズマン @キン肉マンシリーズ
【状態】全身に中度のダメージ ゼロスに対しての憎しみ サツキへの罪悪感
【持ち物】デイパック(支給品一式、不明支給品0~1) ジュエルシード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
クロエ変身用黒い布、詳細参加者名簿・加持リョウジのページ
リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、日向ママDNAスナック×12@ケロロ軍曹
【思考】
1:スバルと共に、目の前の二人(キョン、ナーガ)を倒す
2:1を終えたら神社に向かい、タママ達と合流する。
3:タママの仲間、特にサツキと合流したい。
4:もし雨蜘蛛(名前は知らない)がいた場合、倒す。
5:ゲンキとスエゾーとハムを見つけ次第保護。
6:正義超人ウォーズマンとして、一人でも多くの人間を守り、悪行超人とそれに類する輩を打倒する。
7:超人トレーナーまっくろクロエとして、場合によっては超人でない者も鍛え、力を付けさせる。
8:機会があれば、レストラン西側の海を調査したい
9:加持が主催者の手下だったことは他言しない。
10:紫の髪の男だけは許さない。
11:最終的には殺し合いの首謀者たちも打倒、日本に帰りケビンマスク対キン肉万太郎の試合を見届ける。
【備考】
※ゲンキとスエゾーとハムの情報(名前のみ)を知りました
※サツキ、ケロロ、冬月、小砂、アスカの情報を知りました
※ゼロス(容姿のみ記憶)を危険視しています
※ギュオーのことは基本的に信用していますが、彼の発言を鵜呑みにはしていません
※加持リョウジを主催者側のスパイだったと思っています。
※状況に応じてまっくろクロエに変身できるようになりました(制限時間なし)。
※タママ達とある程度情報交換をしました。
※DNAスナックのうち一つが、封が開いた状態になってます。
※リインフォースⅡは、相手が信用できるまで自分のことを話す気はありません。
※リインフォースⅡの胸が大きくなってます。
本人が気付いてるか、大きさがどれぐらいかなどは次の書き手に任せます。
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(大)、疲労(大)、魔力消費(大)。
【装備】メリケンサック@キン肉マン、レイジングハート・エクセリオン(中ダメージ・修復中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【持ち物】 支給品一式×2、 砂漠アイテムセットA(砂漠マント)@砂ぼうず、ガルルの遺文、スリングショットの弾×6
【思考】
0:二人を止める。決して逃げない。
1:機動六課を再編する。
2:何があっても、理想を貫く。
3:人殺しはしない。なのは、ヴィヴィオと合流する。
4:人を探しつつ北の市街地のホテルへ向かう (ケロン人優先)。
5:オメガマンやレストランにいたであろう危険人物(キョンとナーガと雨蜘蛛)を止めたい。
6:中トトロを長門有希から取り戻す。
7:ノーヴェのことも気がかり。
【ナーガ@モンスターファーム~円盤石の秘密~】
【状態】ダメージ(大)、疲労大
【持ち物】 デイパック、基本セット
【思考】
0:目の前の二人(スバル、ウォーズマン)を殺す
1:キョンを自分の駒にふさわしい存在にする。この戦いで役に立たなければ処分する?
2:砂ぼうず(名前は知らない)を優先的に、殺す。
3:殺人劇を見せた男と接触する。
4:参加者を皆殺しにする(ホリィ、ゲンキたちの仲間を優先)
5:雨蜘蛛や、キョンなどのマーダーを殺すのは後回し。適当に対主催優先殺しの話を持ちかけるが、
通じるようでなければ殺す。(執着はしない)
6:キョンを襲撃する前に見た、飛んで行った影が気になる。
7:最終的には主催も気に食わないので殺す
※ホリィがガイア石を持ったまま参戦していると考えています
※雨蜘蛛の身体的特徴、人柄、実力の情報を入手しました。
※ギュオー(名前と人間の姿は知らない)が加持とメイを殺したと思っています。
【名前】キョン@涼宮ハルヒの憂鬱
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、0号ガイバー状態、精神的に不安定
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)、 SDカード@現実、 カードリーダー
大キナ物カラ小サナ物マデ銃(残り7回)@ケロロ軍曹、タムタムの木の種@キン肉マン
【思考】
0:生き残るためには手段を選ばない。何をしても優勝する。
1:目の前の二人(スバル、ウォーズマン)を殺す。可能ならばナーガもまとめて殺したいが……
2:ナーガを利用して殺害数を増やす
3:ナーガと一緒に殺人者と接触する
4:午後6時に、採掘場で古泉と合流?
5:妹やハルヒ達の記憶は長門に消してもらう
6:博物館方向にいる人物を警戒
※返り血は全て洗い流されています。
※大キナ物カラ小サナ物マデ銃で巨大化したとしても魔力の総量は変化しない様です(威力は上がるが消耗は激しい)
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|[[嗚呼、素晴らしき人生哉!]]|ナーガ|[[本当の敵]]|
|~|キョン|~|
|[[あたしが此処にいる理由]]|スバル・ナカジマ|~|
|[[巨人と、小人]]|ウォーズマン|~|
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