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「憎らしさと切なさと心細さと」(2009/08/21 (金) 00:47:00) の最新版変更点
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*憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72
陽が傾く。
赤い光が湖面を反射し、青々とした周囲の植物を幻想的に照らす。
風に揺れる木々のざわめき。
わずかな水の流れる音。
何もかも忘れて、それらにだけ意識を集中することができればどれだけ気が楽だろう…と
湖上に設置されたリングの隅で座っていた古泉は思った。
リングから落ちたキン肉万太郎の姿は視認できないままである。
あれだけフラフラの状態で威力は低いとはいえヘッドビームの直撃を受けたのだ。
陸地に着いたか、あるいは溺れ死んだか分からない。
常識的に考えれば溺れ死んだ可能性のほうが高いだろう。
なにせ、あの『将軍』ですら死んだと思っているのだから。
周囲の景色からリング上へと目を向ける。
古泉とは対面のリングの隅で腰を下ろしロープに背中を預ける姿勢でいるジ・オメガマン。
今現在はとりあえずではあるが仲間という間柄である。
実力のほどは嫌というほど思い知らされた。
先程、少し会話をしてみたが話が分からない人物ではない。
しかし、一本筋の通った信念を感じれるような人物でもない。
信用しないに越したことはないだろう。
リングの審判兼実況兼観客の中トトロを抱えて撫でながら
市街地から上がる煙を見つめているのはノーヴェ。
直情的で男勝り、攻撃的。しかしその実、心優しい女性である。
ときおり風でなびく髪をかきあげたり押さえたりする仕草は年頃の古泉には美しいとすら思える。
戦闘能力も決して低くはない。
その分、最近の敗戦続きや『訓練』が堪えたのだろう。強さに対して貪欲である。
純粋ゆえにその貪欲さがどこに向くかはわからないが…
彼女の存在は古泉の『目的』にとって間違いなくキーマンとなるであろう。
夕陽を身に纏う鎧に反射させながらリングの外を見続ける悪魔将軍。
実力・知能ともに恐るべき人物。そして、古泉の殺意の対象。
最初は手を組むにはリスクこそ大きいがリターンも大きい相手だと思った。
そして、それは正しかった。
将軍は、古泉から大切なものを奪っていった。
無造作に。
無遠慮に。
結果、悪魔将軍を見ている今の古泉一樹は『涼宮ハルヒの望む古泉一樹』ではなくなった。
この付け入る隙のない要塞を陥落させるためなら泥でもすするような男へと変貌させた。
ガイバーの仮面の下でどのような表情をして悪魔将軍を見ているかは知る術はない。
陽が傾いていく。
「古泉」
ノーヴェが市街地から昇る煙を発見し、会話が途絶えてから十分以上経っただろうか。
岸のほうを見ていた悪魔将軍が、視線はそのままに突如口を開いた。
「…なんでしょうか?」
穏和な口調で古泉は返事をする。
常日頃から自分を殺した演技をしていた賜物か、殺意の類は微塵も感じさせない。
ピリピリしていた雰囲気も、敗戦のあとは鳴りを潜めていた。
「生身のノーヴェと違い、貴様はもう十分に動けるだろう」
「ええ」
座ったまま軽く左腕を挙げてみる。問題なく動く。
さすがに右腕はまだ完全ではないが…
しかし身体全体では疲労もダメージも随分と軽減されている。
相手次第では戦闘行動を行うにはもう支障はない。
「来客が来る気配は今のところない。
そこで、次の放送までに貴様にひとつ働いてもらう」
「分かりました、何をすればいいのでしょうか」
殺そうとしている相手の命令を聞くのは不本意ではあるが、仕方がない。
『来客が無い限り放送後南に向けて出発する』
と言っていたのだ。もう放送まで時間はないから大がかりなことではないだろう。
せいぜい、北から逃げてきた参加者がいないかの捜索や
南方向への斥候といったところだろう、そう踏んですぐに返事したのであったが。
悪魔将軍はノーヴェに目を向け、こう言った。
「ノーヴェの抱えているもののけを拷問しろ」
陽が赤暗くなっていく。
古泉も、ノーヴェも一瞬何を言っているのか分からなかった。
その戸惑っている様子を察したのだろう、悪魔将軍がさらに口を開く。
「お前達は、この悪魔将軍が
そんなもふもふした主催のまわし者をただで見逃すと思ったか?」
このリングをノーヴェとの特訓のために使用した際に
悪魔将軍が中トトロを尋問をしたということは古泉もノーヴェから聞いていた。
そして、そのときは大した情報を得られなかったことも。
ノーヴェの腕の中で中トトロがきゅっと身を固くする。
心なしか青ざめた顔で将軍と古泉の顔を交互に見た。
そんなことは意に介さず悪魔将軍は古泉を見続け、言葉を発するのを待つ。
今の古泉の力ならば中トトロを拷問や殺害することなんて造作もない。
『あの』長門有希の配下である獣を一匹殺すことなどに躊躇する理由なども微塵もない。
だというのに、なぜ将軍の命令に"YES"と即答できないのだろうか。
理由は分からない。いや、本当は理解している。
ノーヴェと一緒にいる中トトロを見て知ってしまったからだ。
憎むべき主催の部下であるこの獣は…古泉にとって不都合なことに心優しく、
手を出して良いような生物ではないということを。
目的のためなら手段を選らばないと決心したのはいつだったか。その決心に嘘偽りはない。
ただ、タッグマッチ戦前にノーヴェの言った通りだったということだろう。
『古泉一樹』はどこまでいっても所詮は『古泉一樹』なのだ。
少なくとも半日やそこらで『古泉一樹』は消えない。
身も心も『ガイバーⅢ』になるには時間が足りなさすぎる。
(だけど、俺は…ノーヴェさんがああ言おうとも…『古泉一樹』を捨てることはできなくても
目的を果たすまでは『ガイバーⅢ』でいたい。そのためには甘い心を捨てるべきでしょう。
たとえ、『古泉一樹』が心を痛めようとも…!)
ひとつ大きく深呼吸をし、古泉は将軍を正面に見据えた。
「分かりました」
「なっ…古泉!?」
許諾したのが意外だったのだろう。
ノーヴェは素っ頓狂な声を上げ、古泉や悪魔将軍から隠すように中トトロを背に回した、が。
「クォクォクォ、誰もいないか確認もせずに隠すとは相変わらず大間抜けよ~~~」
いつのまにか背後に回り込んでいたオメガマンが
ひょいっと中トトロの首根っこをひっつかんだ。
慌てて『放して!』と書いた看板を掲げてジタバタする中トトロだったが
その程度で超人の拘束がはずれるはずもない。
「あ、このヤロ!」
「ほぅら、受け取れ~~~っ」
そして文句を言うノーヴェは無視して
オメガマンは中トトロを下手投げで古泉へと放り投げた。
古泉も難なくキャッチし抱きかかえる。
「待てよ、将軍、古泉!中トロに攻撃なんかしたら
あの銀髪ヤローみたいに主催にスープにされちまうかもしれないぞ!!」
「案ずるな、ノーヴェ。主催者に対して反抗の意を持っている者は多くいる。
その中に内情を知るかもしれない部下を送ればどうなるかは考えるまでもない。
これくらいは想定の範囲内だろう」
言われてみればそうなのだ。
今まで中トトロが襲われなかったのは運が良かっただけともいえる。
もっとも、一度オメガマンに蹴っ飛ばされているが情報を聞き出す目的ではなかった。
「そして私が主催者ならば…少なくともいきなり殺したりはしない。
警告もなしに殺すのは惜しいからな。というわけだ。古泉よ、遠慮なくやれ」
「………それで、何について聞けば…いや、どうすればよいでしょうか?」
古泉が将軍へと問いかけた。中トトロは露骨におびえた表情を見せる。
「そのぐらい自分で考えろ」
古泉のほうに身体を向けながら、ぶっきらぼうに将軍は言い放った。
早い話が、これらは古泉に対する追加課題のようなものなのだ。
何を聞くか、そしてどう聞き出すか、
これらの課題を通じて古泉が悪魔超人として成長するのを狙っているのだろう。
どうしたものかと思案しながら腕の中の中トトロを見る古泉。
目が合った。おびえている動物の潤んだ瞳を思いっきり見てしまった。
わずかにながら決心が揺らぎ、ひるんでしまう。
「迷いがあるようだな、古泉よ」
そんな心の機敏を感じ取り、悪魔将軍が古泉に歩み寄ってきた。
「いえ、そんなことは…」
「このもののけが参加者で、殺すべき相手だった場合はそれが命取りになりかねん。
お前はこの悪魔将軍の部下としての覚悟が足りないのではないか?」
悪魔将軍の言葉に古泉は強殖装甲の下で強く歯を噛みしめる。
否定したいが、できなかった。
一瞬とはいえ二度も躊躇したのは事実だ。
部下として、のくだりはともかくとして覚悟が足りていないといわれても仕方ない。
「将軍ッ!いきなり拷問しろっていってもできるわけないだろ!
それに中トロは真面目なヤツだ。拷問したって口を割らないよ!!」
「お前は黙っていろ、ノーヴェ。
そもそも口を割らない者から情報を得るために拷問をするのだ」
悪魔将軍のもっともな意見に「うっ…」と口ごもるノーヴェ。
「…なんなら、私に意見するほどに体力が回復したのなら、
お前に拷問をやらせてもよいのだぞ」
さらにこんなことを言われたのだからノーヴェは俯くしかなかった。
「いえ、俺がやります」
ノーヴェをかばうようにすぐに古泉が話に割って入ってきた。
中トトロも小さく震えながら健気に『僕は大丈夫!』と看板を掲げている。
ちなみにオメガマンはといえばまたリングの隅に座り込んで
つまらない茶番を見るかのように3人+1匹のやり取りを見ていた。
彼らの様子を、どこか満足げに眺めた後、悪魔将軍はこう言った。
「そうか、ならばお前が拷問をしろ、ノーヴェよ」
「なっ…!?」
これには古泉もノーヴェも絶句する。
「古泉は何か勘違いしているようだな。
なぜ、嫌がる事を自ら進んでやる?お前達には仲間がいる。
仲間とは利用するためにいるのだ。仲間をかばう、守るという考えは
敵に付け入る隙を与えるだけだ」
古泉は、反論したくなる気持ちを必死で抑えた。
反論したところで何も変わらないだろうということは理解している。
「これはノーヴェをかばった古泉に対する罰だ。古泉への罰はノーヴェ、お前が受けろ。
そしてノーヴェへの罰は古泉へと下す。
これから、お前達がこの悪魔将軍の部下として相応しくない行動をとれば
時と場合により懲罰を下す。心しておけ」
悪魔のルールを守ればその行動により自身の心が悪に染まっていき
悪魔のルールを守らなければその行動により苦しめられた相方は
憎しみから仲間を想う心を失っていく。
そのような魔の制約を悪魔将軍は二人に課した。
ノーヴェが不満ありありな目で将軍をにらむが心地よさげに受け流す。
「話が脱線したな。さぁ、ノーヴェよ。このもののけを拷問しろ」
古泉から中トトロをぶんどり、ノーヴェへと投げつける将軍。
反射的に「俺がやります」と再び主張しようとして、古泉は思いとどまった。
下手にかばうとどのようにノーヴェが罰せられるか分かったものではない。
陽が傾き影が彼らを長く不気味に投影する。
空中を舞う中トトロをノーヴェは優しくキャッチした。
さっき将軍が説明したルールによると、
ここで躊躇したりしたら古泉に嫌な思いをさせることになるのだろう。
実際に中トトロつかんでみて、さっきよりも震えが大きくなっていることがわかった。
だからといってノーヴェがどうこうできるわけはないのだが…
中トトロは看板を出すこともせずにただノーヴェを見ていた。
彼(?)も事情は十分に理解しているのだ。
腹を括ったような眼をしていた。
「いいか、中トロ。さっさと喋っちまったほうがお前の身のためだからな」
そう言って、ノーヴェは目を瞑り大きく深呼吸した。
そして意を決し目を開くと―――
―――そこにはいないはずの『彼女』がいた。
陽が傾き影が闇へと溶け込んでいく。
無表情な瞳が、直情的な少女の顔を映していた。
殺意も敵意も、何の感情も感じ取れないのに確かな息苦しさがノーヴェを襲っていた。
中トトロを抱えているノーヴェの目と鼻の先に『彼女』―――長門有希は現れた。
「お前はな、が…ッ!!?」
ノーヴェの言葉は最後まで紡がれなかった。
腹部に衝撃。視界が暗転し、天地の感覚がなくなる。背中に柔らかな衝撃を受け
そこでようやくノーヴェは自身がロープ際まで吹っ飛ばされたことに気がついた。
すぐさま長門のほうに目を遣る。
先程まで自身が抱えていたはずの中トトロはこの一瞬の間に奪取され
長門の腕の中に収まっていた。
その長門の背後に高速で迫る影があった。
古泉だ。
長門の死角から音もなく跳びかかり、その後頭部へと左の拳を伸ばす。
だが、長門はススッ…っとわずかに横に移動するだけでそれを回避。
古泉が横を通り過ぎる直前に
長門はサッカーのヒールキックをするように擦れ違いざまに古泉の脛を蹴り飛ばした。
高速で下半身を跳ね上げられ腰を中心にして回転し古泉は額からリングへと墜落する。
「足元がお留守」
二人を一瞬で倒したにも関わらず、息一つ乱さずに軽口を叩く。
「くっそ…!」
ノーヴェはロープに身体を預けすぐに起き上がろうとするが、
中腰ぐらいまでどうにか体勢を立て直したところで腰が抜けたように前のめりに倒れた。
頭を思い切りぶつけた古泉は額から落ちたため、またリング上だったこともあり
気絶するまでには至らなかったものの意識がはっきりせず立ち上がることもままならない。
長門は二人が動けなくなったのが手応えで分かっているのだろう。
一瞥すらすることなく残り二人の参加者へと目線を遣る。
オメガマンは明らかに動揺していたが、構えるだけで攻撃する様子はない。
悪魔将軍に至っては悠然と成り行きを見守っていた。
彼らを攻撃する必要はないと判断し本題へと移る。
「主催者への反逆は禁止事項。今回は警告のみ。
同様のことを行えば次回以降は制裁を下す可能性がある」
そうとだけ言い、長門は周囲を支配しつつある闇に溶けるように消え去った。
彼女が消えた後には、中トトロどころか毛の一本すら落ちていなかった。
オメガマンは距離をおいて一連のやり取りを観察していた。
そして、戦慄していた。
ほんの一瞬だけ現れた主催者の肩割れは目にも止まらぬ攻撃を連続で繰り出し
ガイバーⅢと小娘をねじ伏せた。
それだけならまだいいのだ。
体調次第ではその二人が相手ならオメガマンでもやってやれないことはない、と自負できる。
問題はといえば…
(一瞬で現れたり消えたりするなんて反則すぎるぜ~~~っ!?)
長門有希は高速で動いたのではない。文字通り、瞬間移動してこの場に現れそして去ったのだ。
元から優勝狙いのオメガマンではあったがこんなものを見せられては反抗する気も失せるというものだ。
(そして、あんな連中を殺そうとしている悪魔将軍にいつまでも付き合ってられんぜ~~~。
とばっちりを受けるようなことになったら困る、さっさと始末してしまわんとな~~~!!)
そのためには体力の回復が最優先。
放送まで残りわずかな時間ではあるが、オメガマンは休息に集中し始めた。
長門が消えるとほぼ同時に、ノーヴェはようやく腰に力が入るようになってきた。
ロープを掴みながらよろよろとどうにか起き上がる。
長門の攻撃を受けた腹部を触る。
あれだけ吹っ飛ぶほどの衝撃を防御することなくクリーンヒットしたのだ。
内出血どころか、内臓にダメージを受けていても何の不思議もない。
それなのに身体に残るようなダメージはほぼなかった。
理由は予想がつく。殺し合いの参加者に無駄なダメージを負わせたくなかったのだろう。
つまりは、長門にとってノーヴェは
『手加減をした攻撃』で『反撃する隙すら与えず』『あしらえる』相手でしかないのだ。
ギリリッ、とノーヴェの歯が鳴った。
たびたび口に出していた「主催者を蹴り飛ばしにいく」というのは、
今のノーヴェの実力では妄言以外の何物でもないということを噛み締める羽目になった。
(力が…欲しいッ!!)
そう願ったのは何度目だっただろうか。
この島に来た当初よりは確実に強くなっているはずだ。
でも、まだだ。まだ、全然足りない。
どうせすぐに別れる予定だったのだ、中トトロを失ったことによるショックはない。
ただ、それでも悔しさのみが心に渦巻く。
空いた両手を強く握りしめ、ノーヴェは拳をリング隅の柱へと叩きつけた。
古泉も、力が欲しいという想いは同じだった。
わざわざ宣言してやったのだ。自分が長門の命を狙っていることは彼女も十分に知っているだろう。
だというのにわざわざ姿を見せたのだ。
殺せるものなら殺してみろ、ということだろうか。
そして結果は見ての通り、自分から触ることすらさせてもらえなかった。
それどころか、長門は古泉の姿を見ることすらしなかった。
眼中にないというのを体現したかのような敗北である。
今も立つことすらままならず、地面に這いつくばっているのだ。
分かってはいたが、長門を前にして確信を深めた。やはり仲間が必要だ。
キョンのような者ではない。トトロのような者でもない。ましてや悪魔将軍のような者でもない。
主催者を叩き潰すという信念を同じくできる真の仲間が。
万太郎のような無駄に戦力を殺ぐ結果にならぬよう将軍とは逆方向へ―――北進したい。
市街地からの煙を見て、正義超人たちが集まっているかもしれない。
機をみて悪魔将軍から離れる、まずはそれが第一だ。
(もっとも…将軍を上手く出し抜いて別行動することができるかは未知数ですがね)
冷たく自嘲的に笑う古泉。底冷えするような空気が生まれたように感じる。
今はただ、機が熟すのを待つしかない。
中トトロへの拷問は失敗した。
突如現れた主催者に対し、傷をひとつ負わせることすらかなわなかった。
だが、悪魔将軍は動じない。
拷問を加えようとしてから主催者側が行動を起こすまでの時間。
この事態で長門有希自らが行動を起こしたこと。
長門有希の実力。
その他諸々。
この短時間で起きた出来事の全てが他では得難い貴重なデータだった。
悪魔将軍にとっては使い走りである中トトロを拷問して得られたであろう情報よりもよほど有用だ。
ただ、ひとつ気に食わない。
(主催者もそれらをわざわざこの悪魔将軍に見せつける行為が
どれほどの情報の損失になるか分かっていないわけではあるまい。
その程度は影響はないということか…その高慢な態度、高くつくぞ)
ほの暗い炎を胸の中で燃え上がらせながら悪魔将軍はリングの外を見る。
まもなく、陽が沈む。
【E-09 湖のリング/一日目・放送直前】
【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
ディパック(支給品一式、食料ゼロ)、朝比奈みくるの死体(一部)入りデイパック
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.古泉とノーヴェを立派な悪魔超人にする。
2.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
3.殺し合いに主催者達も混ぜ、更に発展させる。
4.強者であるなのはに興味
5.シンジがウォーズマンを連れてくるのを待つ
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(中)、ダメージ(中)
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、小説『k君とs君のkみそテクニック』、不明支給品0~2
【思考】
0.もっともっと強くなって脱出方法を探し、主催者を蹴っ飛ばしに行く。
1.ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
2.親友を裏切り、妹を殺そうとするキョンを蹴り飛ばしたい。
3.タイプゼロセカンドと会ったら蹴っ飛ばす。
4.強くなったらゼクトール、悪魔将軍も蹴っ飛ばす?
5.ジェットエッジが欲しい。
※参戦時期は原作の第18話~第21話の間と思われます。
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくない。
3.キン肉万太郎は……
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。そのために北進?
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.キョンの妹を捜す。
7.午後6時に、採掘所でキョンと合流。そして―――
8.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
※『超能力』は使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※古泉のノートパソコンのkskアクセスのキーワードは、ケロロ世界のものです。
【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1~3、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、夏子のメモ
【思考】
1:皆殺し。
2:今は悪魔将軍に従う。だが、いつか機を見つけて殺す。
3:完璧超人としての誇りを取り戻す。
4:スエゾーは必ず殺す。
5:スバルナカジマンにも雪辱する。
※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。
◇ ◇ ◇
「やぁ有希君。お疲れ様。何度も何度も会場に行ってもらって悪いね」
長門が『その空間』に戻るなり笑顔のタツオが迎えてくれた。
「こちらも放送の準備が忙しくてね。何が起こったかあまり把握してないんだ。
中トトロ君を抱えているところを見ると湖上のリングで何かあったのかい?」
本当に忙しいのか、実は分かって聞いているんじゃないかと疑わしくなるような
楽しげな様子でタツオは長門へと質問を投げかけた。
「中トトロへ危害を加えようとしていた参加者がいただけ。問題ない」
「おやおや、それは本当かい?中トトロ君、怖かっただろう?」
相も変わらず無表情を崩さない長門から中トトロを抱き上げ撫で撫でするタツオ。
中トトロはどことなく嫌そうである。
もしこれがネコであったならひっかいて逃亡しているだろう。
「制裁は加えたのかい?」
「一部に。連帯責任を全員に負わせることも思考したが放送時間が近いため帰還を優先した」
「そうか、御苦労さま。放送が終わればディナータイムも近いよ。
どんな晩御飯なのか楽しみだねぇ」
レストランに行く少年のようにタツオはご機嫌だ。
お子様ランチについてくるおもちゃは筋書きのない殺し合いといったところか。
「それじゃあ、いつでも放送できるように僕も準備するとしよう」
「そう」
タツオの言葉を会話の終了と受け止め、長門はすぐにパソコンへと向かう。
つれないなぁ、と言いつつもタツオも中トトロを抱えたまま部屋を後にした。
キーボードを叩く音だけが部屋に鳴ること十数秒。
タツオがふらっと戻ってきた。その腕の中から中トトロが消えている以外は何も変化はない。
「そうそう、次の放送だけどね。いつものことだけど有希君の放送草案は事務的すぎるよ。
今回もちょっとだけ僕のアレンジを加えてもいいかな?」
キーボードを叩く指を止めることなく長門は小さく肯いた。
「ありがとう有希君。それじゃあ今後もお互いを支え合い、ベストを尽くして頑張ろうね」
そうとだけ言って、タツオは部屋から出て行った。
通路から、意味深な笑い声が漏れてくる。
しばらくすると再びキーボードを叩く音のみが部屋を支配した。
「………関係ない」
カタカタという音に紛れて、そのような音が聞こえた気がした。
*時系列順で読む
Back:[[まずは相手を知る事から始めましょう]] Next:[[湯煙ボイン消失事件~砂漠の妖怪は泣いた~]]
*投下順で読む
Back:[[まずは相手を知る事から始めましょう]] Next:[[走る二等兵・待つ獣神将]]
|[[Nord Stream Pipeline -Disaster-]]|悪魔将軍|[[]]|
|~|ノーヴェ|~|
|~|古泉一樹|~|
|~|ジ・オメガマン|~|
|~|中トトロ|[[第三回放送]]|
|[[長門有希は草壁タツオを前に沈黙する]]|長門有紀|~|
|~|草壁タツオ|~|
*憎らしさと切なさと心細さと ◆321goTfE72
陽が傾く。
赤い光が湖面を反射し、青々とした周囲の植物を幻想的に照らす。
風に揺れる木々のざわめき。
わずかな水の流れる音。
何もかも忘れて、それらにだけ意識を集中することができればどれだけ気が楽だろう…と
湖上に設置されたリングの隅で座っていた古泉は思った。
リングから落ちたキン肉万太郎の姿は視認できないままである。
あれだけフラフラの状態で威力は低いとはいえヘッドビームの直撃を受けたのだ。
陸地に着いたか、あるいは溺れ死んだか分からない。
常識的に考えれば溺れ死んだ可能性のほうが高いだろう。
なにせ、あの『将軍』ですら死んだと思っているのだから。
周囲の景色からリング上へと目を向ける。
古泉とは対面のリングの隅で腰を下ろしロープに背中を預ける姿勢でいるジ・オメガマン。
今現在はとりあえずではあるが仲間という間柄である。
実力のほどは嫌というほど思い知らされた。
先程、少し会話をしてみたが話が分からない人物ではない。
しかし、一本筋の通った信念を感じれるような人物でもない。
信用しないに越したことはないだろう。
リングの審判兼実況兼観客の中トトロを抱えて撫でながら
市街地から上がる煙を見つめているのはノーヴェ。
直情的で男勝り、攻撃的。しかしその実、心優しい女性である。
ときおり風でなびく髪をかきあげたり押さえたりする仕草は年頃の古泉には美しいとすら思える。
戦闘能力も決して低くはない。
その分、最近の敗戦続きや『訓練』が堪えたのだろう。強さに対して貪欲である。
純粋ゆえにその貪欲さがどこに向くかはわからないが…
彼女の存在は古泉の『目的』にとって間違いなくキーマンとなるであろう。
夕陽を身に纏う鎧に反射させながらリングの外を見続ける悪魔将軍。
実力・知能ともに恐るべき人物。そして、古泉の殺意の対象。
最初は手を組むにはリスクこそ大きいがリターンも大きい相手だと思った。
そして、それは正しかった。
将軍は、古泉から大切なものを奪っていった。
無造作に。
無遠慮に。
結果、悪魔将軍を見ている今の古泉一樹は『涼宮ハルヒの望む古泉一樹』ではなくなった。
この付け入る隙のない要塞を陥落させるためなら泥でもすするような男へと変貌させた。
ガイバーの仮面の下でどのような表情をして悪魔将軍を見ているかは知る術はない。
陽が傾いていく。
「古泉」
ノーヴェが市街地から昇る煙を発見し、会話が途絶えてから十分以上経っただろうか。
岸のほうを見ていた悪魔将軍が、視線はそのままに突如口を開いた。
「…なんでしょうか?」
穏和な口調で古泉は返事をする。
常日頃から自分を殺した演技をしていた賜物か、殺意の類は微塵も感じさせない。
ピリピリしていた雰囲気も、敗戦のあとは鳴りを潜めていた。
「生身のノーヴェと違い、貴様はもう十分に動けるだろう」
「ええ」
座ったまま軽く左腕を挙げてみる。問題なく動く。
さすがに右腕はまだ完全ではないが…
しかし身体全体では疲労もダメージも随分と軽減されている。
相手次第では戦闘行動を行うにはもう支障はない。
「来客が来る気配は今のところない。
そこで、次の放送までに貴様にひとつ働いてもらう」
「分かりました、何をすればいいのでしょうか」
殺そうとしている相手の命令を聞くのは不本意ではあるが、仕方がない。
『来客が無い限り放送後南に向けて出発する』
と言っていたのだ。もう放送まで時間はないから大がかりなことではないだろう。
せいぜい、北から逃げてきた参加者がいないかの捜索や
南方向への斥候といったところだろう、そう踏んですぐに返事したのであったが。
悪魔将軍はノーヴェに目を向け、こう言った。
「ノーヴェの抱えているもののけを拷問しろ」
陽が赤暗くなっていく。
古泉も、ノーヴェも一瞬何を言っているのか分からなかった。
その戸惑っている様子を察したのだろう、悪魔将軍がさらに口を開く。
「お前達は、この悪魔将軍が
そんなもふもふした主催のまわし者をただで見逃すと思ったか?」
このリングをノーヴェとの特訓のために使用した際に
悪魔将軍が中トトロを尋問をしたということは古泉もノーヴェから聞いていた。
そして、そのときは大した情報を得られなかったことも。
ノーヴェの腕の中で中トトロがきゅっと身を固くする。
心なしか青ざめた顔で将軍と古泉の顔を交互に見た。
そんなことは意に介さず悪魔将軍は古泉を見続け、言葉を発するのを待つ。
今の古泉の力ならば中トトロを拷問や殺害することなんて造作もない。
『あの』長門有希の配下である獣を一匹殺すことなどに躊躇する理由なども微塵もない。
だというのに、なぜ将軍の命令に"YES"と即答できないのだろうか。
理由は分からない。いや、本当は理解している。
ノーヴェと一緒にいる中トトロを見て知ってしまったからだ。
憎むべき主催の部下であるこの獣は…古泉にとって不都合なことに心優しく、
手を出して良いような生物ではないということを。
目的のためなら手段を選らばないと決心したのはいつだったか。その決心に嘘偽りはない。
ただ、タッグマッチ戦前にノーヴェの言った通りだったということだろう。
『古泉一樹』はどこまでいっても所詮は『古泉一樹』なのだ。
少なくとも半日やそこらで『古泉一樹』は消えない。
身も心も『ガイバーⅢ』になるには時間が足りなさすぎる。
(だけど、俺は…ノーヴェさんがああ言おうとも…『古泉一樹』を捨てることはできなくても
目的を果たすまでは『ガイバーⅢ』でいたい。そのためには甘い心を捨てるべきでしょう。
たとえ、『古泉一樹』が心を痛めようとも…!)
ひとつ大きく深呼吸をし、古泉は将軍を正面に見据えた。
「分かりました」
「なっ…古泉!?」
許諾したのが意外だったのだろう。
ノーヴェは素っ頓狂な声を上げ、古泉や悪魔将軍から隠すように中トトロを背に回した、が。
「クォクォクォ、誰もいないか確認もせずに隠すとは相変わらず大間抜けよ~~~」
いつのまにか背後に回り込んでいたオメガマンが
ひょいっと中トトロの首根っこをひっつかんだ。
慌てて『放して!』と書いた看板を掲げてジタバタする中トトロだったが
その程度で超人の拘束がはずれるはずもない。
「あ、このヤロ!」
「ほぅら、受け取れ~~~っ」
そして文句を言うノーヴェは無視して
オメガマンは中トトロを下手投げで古泉へと放り投げた。
古泉も難なくキャッチし抱きかかえる。
「待てよ、将軍、古泉!中トロに攻撃なんかしたら
あの銀髪ヤローみたいに主催にスープにされちまうかもしれないぞ!!」
「案ずるな、ノーヴェ。主催者に対して反抗の意を持っている者は多くいる。
その中に内情を知るかもしれない部下を送ればどうなるかは考えるまでもない。
これくらいは想定の範囲内だろう」
言われてみればそうなのだ。
今まで中トトロが襲われなかったのは運が良かっただけともいえる。
もっとも、一度オメガマンに蹴っ飛ばされているが情報を聞き出す目的ではなかった。
「そして私が主催者ならば…少なくともいきなり殺したりはしない。
警告もなしに殺すのは惜しいからな。というわけだ。古泉よ、遠慮なくやれ」
「………それで、何について聞けば…いや、どうすればよいでしょうか?」
古泉が将軍へと問いかけた。中トトロは露骨におびえた表情を見せる。
「そのぐらい自分で考えろ」
古泉のほうに身体を向けながら、ぶっきらぼうに将軍は言い放った。
早い話が、これらは古泉に対する追加課題のようなものなのだ。
何を聞くか、そしてどう聞き出すか、
これらの課題を通じて古泉が悪魔超人として成長するのを狙っているのだろう。
どうしたものかと思案しながら腕の中の中トトロを見る古泉。
目が合った。おびえている動物の潤んだ瞳を思いっきり見てしまった。
わずかにながら決心が揺らぎ、ひるんでしまう。
「迷いがあるようだな、古泉よ」
そんな心の機敏を感じ取り、悪魔将軍が古泉に歩み寄ってきた。
「いえ、そんなことは…」
「このもののけが参加者で、殺すべき相手だった場合はそれが命取りになりかねん。
お前はこの悪魔将軍の部下としての覚悟が足りないのではないか?」
悪魔将軍の言葉に古泉は強殖装甲の下で強く歯を噛みしめる。
否定したいが、できなかった。
一瞬とはいえ二度も躊躇したのは事実だ。
部下として、のくだりはともかくとして覚悟が足りていないといわれても仕方ない。
「将軍ッ!いきなり拷問しろっていってもできるわけないだろ!
それに中トロは真面目なヤツだ。拷問したって口を割らないよ!!」
「お前は黙っていろ、ノーヴェ。
そもそも口を割らない者から情報を得るために拷問をするのだ」
悪魔将軍のもっともな意見に「うっ…」と口ごもるノーヴェ。
「…なんなら、私に意見するほどに体力が回復したのなら、
お前に拷問をやらせてもよいのだぞ」
さらにこんなことを言われたのだからノーヴェは俯くしかなかった。
「いえ、俺がやります」
ノーヴェをかばうようにすぐに古泉が話に割って入ってきた。
中トトロも小さく震えながら健気に『僕は大丈夫!』と看板を掲げている。
ちなみにオメガマンはといえばまたリングの隅に座り込んで
つまらない茶番を見るかのように3人+1匹のやり取りを見ていた。
彼らの様子を、どこか満足げに眺めた後、悪魔将軍はこう言った。
「そうか、ならばお前が拷問をしろ、ノーヴェよ」
「なっ…!?」
これには古泉もノーヴェも絶句する。
「古泉は何か勘違いしているようだな。
なぜ、嫌がる事を自ら進んでやる?お前達には仲間がいる。
仲間とは利用するためにいるのだ。仲間をかばう、守るという考えは
敵に付け入る隙を与えるだけだ」
古泉は、反論したくなる気持ちを必死で抑えた。
反論したところで何も変わらないだろうということは理解している。
「これはノーヴェをかばった古泉に対する罰だ。古泉への罰はノーヴェ、お前が受けろ。
そしてノーヴェへの罰は古泉へと下す。
これから、お前達がこの悪魔将軍の部下として相応しくない行動をとれば
時と場合により懲罰を下す。心しておけ」
悪魔のルールを守ればその行動により自身の心が悪に染まっていき
悪魔のルールを守らなければその行動により苦しめられた相方は
憎しみから仲間を想う心を失っていく。
そのような魔の制約を悪魔将軍は二人に課した。
ノーヴェが不満ありありな目で将軍をにらむが心地よさげに受け流す。
「話が脱線したな。さぁ、ノーヴェよ。このもののけを拷問しろ」
古泉から中トトロをぶんどり、ノーヴェへと投げつける将軍。
反射的に「俺がやります」と再び主張しようとして、古泉は思いとどまった。
下手にかばうとどのようにノーヴェが罰せられるか分かったものではない。
陽が傾き影が彼らを長く不気味に投影する。
空中を舞う中トトロをノーヴェは優しくキャッチした。
さっき将軍が説明したルールによると、
ここで躊躇したりしたら古泉に嫌な思いをさせることになるのだろう。
実際に中トトロつかんでみて、さっきよりも震えが大きくなっていることがわかった。
だからといってノーヴェがどうこうできるわけはないのだが…
中トトロは看板を出すこともせずにただノーヴェを見ていた。
彼(?)も事情は十分に理解しているのだ。
腹を括ったような眼をしていた。
「いいか、中トロ。さっさと喋っちまったほうがお前の身のためだからな」
そう言って、ノーヴェは目を瞑り大きく深呼吸した。
そして意を決し目を開くと―――
―――そこにはいないはずの『彼女』がいた。
陽が傾き影が闇へと溶け込んでいく。
無表情な瞳が、直情的な少女の顔を映していた。
殺意も敵意も、何の感情も感じ取れないのに確かな息苦しさがノーヴェを襲っていた。
中トトロを抱えているノーヴェの目と鼻の先に『彼女』―――長門有希は現れた。
「お前はな、が…ッ!!?」
ノーヴェの言葉は最後まで紡がれなかった。
腹部に衝撃。視界が暗転し、天地の感覚がなくなる。背中に柔らかな衝撃を受け
そこでようやくノーヴェは自身がロープ際まで吹っ飛ばされたことに気がついた。
すぐさま長門のほうに目を遣る。
先程まで自身が抱えていたはずの中トトロはこの一瞬の間に奪取され
長門の腕の中に収まっていた。
その長門の背後に高速で迫る影があった。
古泉だ。
長門の死角から音もなく跳びかかり、その後頭部へと左の拳を伸ばす。
だが、長門はススッ…っとわずかに横に移動するだけでそれを回避。
古泉が横を通り過ぎる直前に
長門はサッカーのヒールキックをするように擦れ違いざまに古泉の脛を蹴り飛ばした。
高速で下半身を跳ね上げられ腰を中心にして回転し古泉は額からリングへと墜落する。
「足元がお留守」
二人を一瞬で倒したにも関わらず、息一つ乱さずに軽口を叩く。
「くっそ…!」
ノーヴェはロープに身体を預けすぐに起き上がろうとするが、
中腰ぐらいまでどうにか体勢を立て直したところで腰が抜けたように前のめりに倒れた。
頭を思い切りぶつけた古泉は額から落ちたため、またリング上だったこともあり
気絶するまでには至らなかったものの意識がはっきりせず立ち上がることもままならない。
長門は二人が動けなくなったのが手応えで分かっているのだろう。
一瞥すらすることなく残り二人の参加者へと目線を遣る。
オメガマンは明らかに動揺していたが、構えるだけで攻撃する様子はない。
悪魔将軍に至っては悠然と成り行きを見守っていた。
彼らを攻撃する必要はないと判断し本題へと移る。
「主催者への反逆は禁止事項。今回は警告のみ。
同様のことを行えば次回以降は制裁を下す可能性がある」
そうとだけ言い、長門は周囲を支配しつつある闇に溶けるように消え去った。
彼女が消えた後には、中トトロどころか毛の一本すら落ちていなかった。
オメガマンは距離をおいて一連のやり取りを観察していた。
そして、戦慄していた。
ほんの一瞬だけ現れた主催者の肩割れは目にも止まらぬ攻撃を連続で繰り出し
ガイバーⅢと小娘をねじ伏せた。
それだけならまだいいのだ。
体調次第ではその二人が相手ならオメガマンでもやってやれないことはない、と自負できる。
問題はといえば…
(一瞬で現れたり消えたりするなんて反則すぎるぜ~~~っ!?)
長門有希は高速で動いたのではない。文字通り、瞬間移動してこの場に現れそして去ったのだ。
元から優勝狙いのオメガマンではあったがこんなものを見せられては反抗する気も失せるというものだ。
(そして、あんな連中を殺そうとしている悪魔将軍にいつまでも付き合ってられんぜ~~~。
とばっちりを受けるようなことになったら困る、さっさと始末してしまわんとな~~~!!)
そのためには体力の回復が最優先。
放送まで残りわずかな時間ではあるが、オメガマンは休息に集中し始めた。
長門が消えるとほぼ同時に、ノーヴェはようやく腰に力が入るようになってきた。
ロープを掴みながらよろよろとどうにか起き上がる。
長門の攻撃を受けた腹部を触る。
あれだけ吹っ飛ぶほどの衝撃を防御することなくクリーンヒットしたのだ。
内出血どころか、内臓にダメージを受けていても何の不思議もない。
それなのに身体に残るようなダメージはほぼなかった。
理由は予想がつく。殺し合いの参加者に無駄なダメージを負わせたくなかったのだろう。
つまりは、長門にとってノーヴェは
『手加減をした攻撃』で『反撃する隙すら与えず』『あしらえる』相手でしかないのだ。
ギリリッ、とノーヴェの歯が鳴った。
たびたび口に出していた「主催者を蹴り飛ばしにいく」というのは、
今のノーヴェの実力では妄言以外の何物でもないということを噛み締める羽目になった。
(力が…欲しいッ!!)
そう願ったのは何度目だっただろうか。
この島に来た当初よりは確実に強くなっているはずだ。
でも、まだだ。まだ、全然足りない。
どうせすぐに別れる予定だったのだ、中トトロを失ったことによるショックはない。
ただ、それでも悔しさのみが心に渦巻く。
空いた両手を強く握りしめ、ノーヴェは拳をリング隅の柱へと叩きつけた。
古泉も、力が欲しいという想いは同じだった。
わざわざ宣言してやったのだ。自分が長門の命を狙っていることは彼女も十分に知っているだろう。
だというのにわざわざ姿を見せたのだ。
殺せるものなら殺してみろ、ということだろうか。
そして結果は見ての通り、自分から触ることすらさせてもらえなかった。
それどころか、長門は古泉の姿を見ることすらしなかった。
眼中にないというのを体現したかのような敗北である。
今も立つことすらままならず、地面に這いつくばっているのだ。
分かってはいたが、長門を前にして確信を深めた。やはり仲間が必要だ。
キョンのような者ではない。トトロのような者でもない。ましてや悪魔将軍のような者でもない。
主催者を叩き潰すという信念を同じくできる真の仲間が。
万太郎のような無駄に戦力を殺ぐ結果にならぬよう将軍とは逆方向へ―――北進したい。
市街地からの煙を見て、正義超人たちが集まっているかもしれない。
機をみて悪魔将軍から離れる、まずはそれが第一だ。
(もっとも…将軍を上手く出し抜いて別行動することができるかは未知数ですがね)
冷たく自嘲的に笑う古泉。底冷えするような空気が生まれたように感じる。
今はただ、機が熟すのを待つしかない。
中トトロへの拷問は失敗した。
突如現れた主催者に対し、傷をひとつ負わせることすらかなわなかった。
だが、悪魔将軍は動じない。
拷問を加えようとしてから主催者側が行動を起こすまでの時間。
この事態で長門有希自らが行動を起こしたこと。
長門有希の実力。
その他諸々。
この短時間で起きた出来事の全てが他では得難い貴重なデータだった。
悪魔将軍にとっては使い走りである中トトロを拷問して得られたであろう情報よりもよほど有用だ。
ただ、ひとつ気に食わない。
(主催者もそれらをわざわざこの悪魔将軍に見せつける行為が
どれほどの情報の損失になるか分かっていないわけではあるまい。
その程度は影響はないということか…その高慢な態度、高くつくぞ)
ほの暗い炎を胸の中で燃え上がらせながら悪魔将軍はリングの外を見る。
まもなく、陽が沈む。
【E-09 湖のリング/一日目・放送直前】
【悪魔将軍@キン肉マン】
【状態】健康
【持ち物】 ユニット・リムーバー@強殖装甲ガイバー、ワルサーWA2000(6/6)、ワルサーWA2000用箱型弾倉×3、
ディパック(支給品一式、食料ゼロ)、朝比奈みくるの死体(一部)入りデイパック
【思考】
0.他の「マップに記載されていない施設・特設リング・仕掛け」を探しに、主に島の南側を中心に回ってみる。
1.古泉とノーヴェを立派な悪魔超人にする。
2.強い奴は利用(市街地等に誘導)、弱い奴は殺害、正義超人は自分の手で殺す(キン肉マンは特に念入りに殺す)、但し主催者に迫る者は殺すとは限らない。
3.殺し合いに主催者達も混ぜ、更に発展させる。
4.強者であるなのはに興味
5.シンジがウォーズマンを連れてくるのを待つ
【ノーヴェ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】 疲労(中)、ダメージ(中)
【持ち物】 ディパック(支給品一式)、小説『k君とs君のkみそテクニック』、不明支給品0~2
【思考】
0.もっともっと強くなって脱出方法を探し、主催者を蹴っ飛ばしに行く。
1.ヴィヴィオは見つけたら捕まえる。
2.親友を裏切り、妹を殺そうとするキョンを蹴り飛ばしたい。
3.タイプゼロセカンドと会ったら蹴っ飛ばす。
4.強くなったらゼクトール、悪魔将軍も蹴っ飛ばす?
5.ジェットエッジが欲しい。
※参戦時期は原作の第18話~第21話の間と思われます。
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)、右腕欠損(再生中)、悪魔の精神、キョンに対する激しい怒り
【装備】 ガイバーユニットⅢ
【持ち物】ロビンマスクの仮面(歪んでいる)@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、デジタルカメラ@涼宮ハルヒの憂鬱(壊れている?)、ケーブル10本セット@現実、
ハルヒのギター@涼宮ハルヒの憂鬱、デイパック、基本セット一式、考察を書き記したメモ用紙
基本セット(食料を三人分消費) 、スタームルガー レッドホーク(4/6)@砂ぼうず、.44マグナム弾30発、
コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、七色煙玉セット@砂ぼうず(赤・黄・青消費、残り四個)
高性能指向性マイク@現実、みくるの首輪、ノートパソコン@現実?
【思考】
0.復讐のために、生きる。
1.悪魔将軍と長門を殺す。手段は選ばない。目的を妨げるなら、他の人物を殺すことも厭わない。
2.時が来るまで悪魔将軍に叛意を悟られなくない。
3.キン肉万太郎は……
4.使える仲間を増やす。特にキン肉スグル、朝倉涼子を優先。そのために北進?
5.地図中央部分に主催につながる「何か」があるのではないかと推測。機を見て探索したい。
6.キョンの妹を捜す。
7.午後6時に、採掘所でキョンと合流。そして―――
8.デジタルカメラの中身をよく確かめたい。
※『超能力』は使用するごとに、精神的に疲労を感じます。
※メモ用紙には地図から読み取れる「中央に近づけたくない意志」についてのみ記されています。
禁止エリアについてとそこから発展した長門の意思に関する考察は書かれていません。
※古泉のノートパソコンのkskアクセスのキーワードは、ケロロ世界のものです。
【ジ・オメガマン@キン肉マンシリーズ】
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、アシュラマンの顔を指に蒐集
【持ち物】デイパック(支給品一式入り)×3、不明支給品1~3、5.56mm NATO弾x60、マシンガンの予備弾倉×3、夏子のメモ
【思考】
1:皆殺し。
2:今は悪魔将軍に従う。だが、いつか機を見つけて殺す。
3:完璧超人としての誇りを取り戻す。
4:スエゾーは必ず殺す。
5:スバルナカジマンにも雪辱する。
※バトルロワイアルを、自分にきた依頼と勘違いしています。 皆殺しをした後は報酬をもらうつもりでいます。
※Ωメタモルフォーゼは首輪の制限により参加者には効きません。
◇ ◇ ◇
「やぁ有希君。お疲れ様。何度も何度も会場に行ってもらって悪いね」
長門が『その空間』に戻るなり笑顔のタツオが迎えてくれた。
「こちらも放送の準備が忙しくてね。何が起こったかあまり把握してないんだ。
中トトロ君を抱えているところを見ると湖上のリングで何かあったのかい?」
本当に忙しいのか、実は分かって聞いているんじゃないかと疑わしくなるような
楽しげな様子でタツオは長門へと質問を投げかけた。
「中トトロへ危害を加えようとしていた参加者がいただけ。問題ない」
「おやおや、それは本当かい?中トトロ君、怖かっただろう?」
相も変わらず無表情を崩さない長門から中トトロを抱き上げ撫で撫でするタツオ。
中トトロはどことなく嫌そうである。
もしこれがネコであったならひっかいて逃亡しているだろう。
「制裁は加えたのかい?」
「一部に。連帯責任を全員に負わせることも思考したが放送時間が近いため帰還を優先した」
「そうか、御苦労さま。放送が終わればディナータイムも近いよ。
どんな晩御飯なのか楽しみだねぇ」
レストランに行く少年のようにタツオはご機嫌だ。
お子様ランチについてくるおもちゃは筋書きのない殺し合いといったところか。
「それじゃあ、いつでも放送できるように僕も準備するとしよう」
「そう」
タツオの言葉を会話の終了と受け止め、長門はすぐにパソコンへと向かう。
つれないなぁ、と言いつつもタツオも中トトロを抱えたまま部屋を後にした。
キーボードを叩く音だけが部屋に鳴ること十数秒。
タツオがふらっと戻ってきた。その腕の中から中トトロが消えている以外は何も変化はない。
「そうそう、次の放送だけどね。いつものことだけど有希君の放送草案は事務的すぎるよ。
今回もちょっとだけ僕のアレンジを加えてもいいかな?」
キーボードを叩く指を止めることなく長門は小さく肯いた。
「ありがとう有希君。それじゃあ今後もお互いを支え合い、ベストを尽くして頑張ろうね」
そうとだけ言って、タツオは部屋から出て行った。
通路から、意味深な笑い声が漏れてくる。
しばらくすると再びキーボードを叩く音のみが部屋を支配した。
「………関係ない」
カタカタという音に紛れて、そのような音が聞こえた気がした。
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|~|ジ・オメガマン|~|
|~|中トトロ|[[第三回放送]]|
|[[長門有希は草壁タツオを前に沈黙する]]|長門有紀|~|
|~|草壁タツオ|~|
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