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「鬼になるあいつは二等兵」(2009/09/02 (水) 16:10:12) の最新版変更点
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*鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s
北に顕在していた市街地郡、その東側。
そこはB‐6を中心にした大火災により、地獄と化していた。
炎の勢いは尚も止まらず、轟々と燃え続けている。
さらに、炎が建物を焼くことによって発生した煙で地獄の中の様子は、高い場所でも無い限りほとんど伺えない。
この中にいたとしたら、火炎に対する消火手段も防御手段も持たなければ、炎や煙によって命が危ないだろう。
それぐらいのことは、若きケロン軍の兵士・タママ二等兵もわかっている。
彼はケロロ・草壁サツキ・冬月コウゾウが無事に火災地帯から移動していることを祈り、そして一秒でも早く合流または救出のために、火災地帯を東に遠回りすることを決めた。
そして今、C-6の境界を抜けて、だいたいC‐7に入った辺りだ。
「ハァハァ……軍曹さん、サッキー、フッキー……!」
時間が過ぎる度にタママの心に焦りが募っていく。
仲間たちが無事であることを強くは信じているが、一瞬でも気を緩ませば最悪のケースが頭に浮かんでくる不安に押し潰されそうだ。
おまけに距離はそれなりに離れているとはいえ、火災地帯からの熱気がタママをイライラさせる。
ケロン人は体質的に湿気を好み、乾燥が天敵なのだ。
つまり、地球人以上に乾燥に敏感であり、乾燥に対するストレスも地球人より大きい。
僅かながらも熱気に曝されている現状は、タママのストレスを加速させるには十分だった。
「早く……早く!
はやぐうううぅぅぅ!!」
タママは不安からくるストレスに対し、足をできるだけ早く動かすことで発散させようとする。
不安を忘れるために眼を血走らせ、恐持ての顔で唸りをあげる。
結果、土煙をあげて地面を蹴れるほど走るスピードが速くなり、狂気じみた表情で走る彼はまるで走る獣のようだった。
それだけタママが必死であることを理解してほしい。
そして、走る彼がC‐7の真ん中ぐらいに差し掛かった辺りだろうか、タママが第三回放送を耳にしたのは。
『全員聞こえているかな? まずは君たちにおめでとうと言ってあげるよ――』
「放送……ゴクッ」
主催者・タツヲの声が流れる放送に、タママは心臓の鼓動が早くなり、唾を飲んだ。
今までは放送一つでこれほど緊張することはなかった。
最初の放送はケロロやサツキたちが目の届く距離にいたため、親しき者だけは死なない安心感があった。
二回目の放送は加持の一方的な折檻(本人いわく仲間のため)をしていて、聞いた後はともかく、聞く前はそれほどの実感もなかった。
三回目にあたるこの放送を聞くのは、今までと状況が違う。
仲間たちとは離ればなれになり、いまだに合流は果たされていない。
つまり、自分の眼の届かない内に仲間たちが死んでいる可能性は大いに有り得る。
仲間たちがいたと思わしき公民館とその周辺が火事になっているのが、タママの不安を誘う。
(いいや、軍曹さんたちはきっと無事ですぅ。
僕はそれを信じるだけですぅ)
不安も弱気も振り払い、ただ愚直に仲間の生存を信じてタママは走り続けることを選んだ。
悠長に記録している暇があるくらいなら、ケロロたちとできるだけ早く捜した方が良いと思い、メモは取らずに走りながら聞き耳を立てることにした。
禁止エリアは、F-5・D-3・E-6。
いずれも気にするほど近場にできるわけでもなく、市街地にいるハズの仲間たちが困るような配置でもないだろうと安堵する。
問題はここからだ。
禁止エリアの発表の次は、死者の発表になる。
タママの胸の高鳴りがいっそう速くなる。
(神様、仏様、ご先祖様……一生のお願いですぅ、軍曹さんやサッキーとフッキーが無事でいるようにお願いしますですぅ)
死者の名前が呼ばれ始める前にタママは不安に押し潰されないように強く神頼みをした。
そして、いよいよ死者の名前が発表される。
これが一生の中で最も長い数分間になりそうだと、タママは予感していた。
『朝比奈みくる』
――知らない、どうでも良い、他に死人がいるならとっとと言ってくれ。
それが面識の無い朝比奈女史への、タママの感想である。
『加持リョウジ』
「ターマタマタマタマ!
ざまぁみやがれですぅ!!」
加持の死はわかっていたため、放送を聞かなくとも知っている。
しかし、加持は気にいらない奴もといサツキを殺そうとした人物。
それが死んだという喜びを思い出し、口に出して笑いたくなったのだ。
本人にその笑いを抑える気はまったくなく、なおもケロン人独特の笑い声を発しながら笑い続けるが……
「ターマタマタマタマ――」
『草壁サツキ』
「――タマタマ……タマ?」
……サツキの名前が呼ばれた瞬間、タママから笑い声が消え失せ、足を動かすスピードは急減速し、やがてゼロになった。
一気に突き飛ばされたような感覚を覚え、思考が覚束なくなる。
放送は、そんなタママのことを尻目に続けている。
いちおうの仲間だった小砂、冬月が保護したいと言っていた碇シンジ、加持の手下であるアスカ、彼らが死んだことも知る。
他の名前も聞いたことが無い連中に関してはどうでもよかった。
呼ばれていない所からして、ケロロと冬月がまだ生きているのは僥倖である、僥倖ではあるのだが今のタママはそれを素直に喜べない。
最後にタツヲからの警告、要約するなら「自分たちに刃向かおうとして死んだ者がいたので、同じことはしないように」ということを言っていたが、ほとんどタママの耳に入ることはなかった。
それらのことよりも、もっと大きなショックによってタママは動けずにいるのだ。
放送が終わると同時に思考が回復して現状を理解できるようになったタママは、その場で両腕と両膝を地面につけ、嗚咽を漏らしだした。
「うわああぁああぁん!
なんで死んじゃったんですかサッキーーーッ!!」
付き合った時間は短けれど、確かにサツキはタママにとっての掛け替えの無い友達であった。
ケロロに関する嫉妬で一方的な暴力な奮った愚かな自分を許してくれた優しい少女だった。
心の強さと広さを兼ね備え、妹思いの良い女の子だった。
しかし、その少女に会うことはもう二度と、ない。
放送をデタラメだと思いたくとも、死んだ加持も放送された所からして、嘘でも無いようだ。
以上のことを頭では理解しつつも、若輩の兵士タママの心は友の喪失を受け入れきれるほど強くはなかった。
彼はただただ泣き喚いた。
「サッキーーーッ!!」
-----------
放送が終わって、泣きだしてからどれほど時間が経っただろう。
涙を流す度に体内の水分が失われていったため、身体がだいぶ乾いているのがわかる。
サツキ喪失のショックによるものか、今までの疲れがどっと押し寄せ、再び立ち上がる気力が湧かない。
知り合いの冬樹やガルルが死のうとも、たいした感情は抱かなかったが、ここにきて初めて『大切な友』を失ったがために大きな精神的ダメージを負った。
共に泣く者も慰める者も叱る者もいない中では、心の痛みを和らげることもできない。
そのように彼が弱っている中で突如、二つの聞き覚えのある声が聞こえてきた。
それらはうなだれるタママを嗤う。
『守りたかった女の子を守りきれなくて残念でした。トンだお笑い草ね、あははははははははは』
一つはアスカ。
放送で死を告げられたハズなのだが、何故かタママの耳には、彼女が気に障る言葉で嘲笑ってくるのがわかった。
『俺を引き離したからあの子は安全だとでも思ったか?
殺し合いに乗ったのは俺一人とは限らないんだぜ?』
もう一つは加持。
間違い無く死んだ男だが、口調こそ涼しいが腹の中は真っ黒であり、タママを責めてくる。
それ以前に死人が語りかけてくるなどありえないことだが、今のタママには、そんな細かいことを気にしていられるほどの心の余裕はなかった。
「黙れ……黙りやがれですぅ」
『あはははははは』
『ハハハハハハハ』
普段から高い声であるタママにしては低い声で言葉を吐き出し、血走った眼を涙の染みた地面から二つの声がする方向へギロリと向ける。
彼の放つ言葉にも眼力にも、激しい怒りと憎悪が宿っている。
しかし、タママの怒りなど知ったことかと言わんばかりに、加持とアスカは嘲笑い続ける。
それが余計にタママのハラワタを煮え繰り返させ、虫酸を走らせる。
まず、怒りを叩きつけるようにタママは言い放った。
「おめーらのような奴らのせいでサッキーが死んだんですぅ!」
『それは違うんじゃないか?
俺らのような殺し合いに乗った奴らからサツキ君を守れなかったのは君のせいだろ?』
「僕は、サッキーを守ろうとしてたですぅ!!」
『言い訳がましく「自分は頑張ったから仕方ないんだ」みたいなことをほざいてんじゃないわよ』
「むぐっ……」
『せめて俺を連れ込むなら、例の部屋に何かしら仕掛けがあることぐらい調べておけばよかったのにな。
君がそれを怠ったから、仲間と離ればなれになっちまって、サツキは命を落としたんだ。
しかもその後の、正義の味方気取りでメイの仇討ちなんか考えているから、その間にサツキは死んだんだろうな』
「……うるさい」
加持たちが言ったことは、尤もかもしれない。
今さら、取り返しのつかないミスに自分の行動を正当化するようなことを言っても虚しいだけだ。
加持の企てに気づき、仲間から一時的に引き離して腹の中を暴こうとしたものの、部屋にどこかへワープする仕掛けがあることに気づけなかったために、サツキたちとは遠くに引き離された。
彼女を守る者が減った分、サツキの生存率を引き下げられたのだろう。
一方のタママは離れた後も合流を考えず、メイの仇捜しに時間を費やしてしまった。
見方によればタママの過失だろう。
それでも、タママは加持たちにだけはミスの指摘をされたくなかったのだ。
『守りたい者は守れない、守れなかったら過失を認めず言い訳をする惨めな奴。
君は所詮その程度だってことだ』
『本当よね~。
果たして、こんな奴にサツキの死の責任なんて取れるのかしら?』
「黙れって言ってるんですよ、聞こえねーんですかこのゴミめらども……!」
自分を笑う二つの声に対して、タママは立ち上がり、血が出るほど拳を握りしめ、顔中にマスクメロンばりのあおすじを作る。
『まったく、こんな情けない奴に殺されたのなら、俺を殺した責任も取ってほしいぐらいだぜ、なぁタママ君?』
プッチーン
加持の煽り文句が、とうとうタママの怒髪天をついてしまった。
タママの口から放たれる、大地を揺るがしそうな怒声。
『おめーみてぇなウジムシどもの命と、サッキーの命を同じにするんじゃねぇ!!
おめーらのような不愉快な奴らは全員地獄に落ちればいいんだよぉ!!
さっさと消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろぉぉぉーーーッ!!』
轟く重機関銃のように言葉が放たれるが、それだけでタママの気は納まらない。
加持たちの声がした方へトドメにタママインパクトまで放とうとする。
止めてくれる者はこの場に誰一人いない。
煮えたぎる憎悪共にタママインパクトが放たれようとした、その時。
ドォーーーーーン
空気を震わせるほどの爆音。
爆音による驚きが憎悪を上回ったタママは、その場で仰向けに倒れた。
「なんですぅ!? 何が起こったんですぅ!!?」
身を起こしたタママが周囲を確認すると、火災地帯の中のある場所が一際激しく黒煙を吐いて場所があるのを発見した。
位置関係的にはデパートの辺り、この場所である者たちが因縁に決着をつけようとしていたのだが、それはまた別の話。
ともかくとして、皮肉にもデパートの大爆発によってタママは我に返り、多少なりとも精神も安定してきた。
「ただのガス爆発ですかね?
それとも、あそこで殺し合いが……」
あそこで何が起きているのかを冷静に考えようとする。
事故なら気にすることも無いが、殺し合いが起きているのなら大変だ。
ケロロと冬月が巻き込まれている可能性があるからだ。
それを確かめるべく、中の様子を伺いたいのだが、かなりの距離がある上に炎と煙が邪魔でよく見えない。
しばらくすると、何かの飛翔体がタママの直上数10mを通っていった。
「流れ弾!?」
夜の暗さも手伝って、それをあまり視界に捉えられなかったタママは、飛翔体をただの流れ弾だと思うことにした。
実際は、ミサイルにディパックがぶら下がっているのだが、タママをそれらを確認しきれなかった。
例の飛翔体は湖の方へ飛んでいったことだけを確認して、タママは再び自分の置かれてる状況の確認に移る。
「……あれは幻だったんですか?」
先程まで語りかけてきた加持たちの声はいつの間にか消えていた。辺りに誰かがいる気配も無い。
常識的に考えれば、もう死んでいる二人が話し掛けてくること事態ありえない、死人に口なしだ。
「ハァ……何をやってんたんですかね僕は……」
幻に惑わされ、幻相手にトサカにきていたさっきの自分に馬鹿馬鹿しさを感じ、ため息を吐く。
おそらく、サツキを失ったショックと疲れで幻聴でも聞いたのだろう……タママはそう処理することにした。
あの声が幻聴だとわかるようになった点でも、タママは落ち着きを取り戻している証拠だろう。
しかし、落ち着きは取り戻せても、サツキを失った悲しみはどうにもならない。
「くぅ、サッキー……妹まで失った上にあの幼さで死んじゃうなんて、かわいそうに……」
前の放送を聞いて、妹が死んだことを知った彼女はどんなに悲しい顔をしたか。
死ぬ時はどんなに痛かっただろうか……
考えれば考えるほど、タママの胸が苦しくなってくる。
また涙を流したい気分になってきた……
そこへ(幻聴だったが)加持たちの言葉がのしかかってくる。
――守りたい者は守れない、守れなかったら過失を認めたがらず言い訳をする惨めな奴。
君は所詮その程度だってことだ
――こんな奴にサツキの死の責任なんて取れるのかしら?
「うう、奴らは勘に障るんですけど、サッキーを守れなかったのは事実だし、僕にサッキーを死なせてしまった責任を背負うことができるかと言うと何も言えないですぅ……」
加持たちの幻の前では強く否定したが、本当はサツキが死んだ可能性の一つとして自分のミスが絡んでいると思い、強く責任も感じている。
そして、自分がサツキが生存できるを可能性を大なり小なり殺したことに、必要以上の重圧を感じていた。
「僕のせいで……やっぱり僕のせいでサッキーはもう戻らない……うぐぐっ」
サツキの微笑む顔を、声をもう一度聞きたいと思っていた。
彼女が死んだ今、それはもはや叶わぬ。
……ふと、タママは思う。
それは本当に叶わないことなのか?
「いっそのこと、優勝を目指してみる?」
この殺し合いで優勝すれば、サツキを生き返すことができるかもしれない。
だが、その考えはすぐに切って捨てた。
「それは無理ですぅ、僕に愛する軍曹さんを殺せるわけがないですぅ……」
仮に、サツキと共にケロロが生き返る前提で殺し合いに乗るにしろ、タママにはケロロを殺せる自信・心構えはありはしない。
例え、自分が手を下さず、知らないどこかでケロロが死んでしまうことも、タママには許容できない。
さらに優勝者には願いを叶えると言った主催者の技術力も不確かな物であり、信頼できるかどうかは怪しいものだ。
よって、殺し合いに乗る意思は生まれなかった。
「……だけど、サッキーには生きて欲しかったですぅ。
もっともっとお話がしたかったですぅ……」
それでもまだ、サツキとの再開を諦められない、死を認めたくない。
なら、どうする?
普通なら、死んだ以上、その者と生きて再開することは諦めざるおえないのだ……普通なら。
「ああーーーっ! 閃いたですぅ!!」
そうして悩んでいたタママは一つの答えを見つけ出したのだ。
「根暗カレー……じゃなくてクルル曹長の存在をポッキリ忘れていたですぅ」
急にケロン軍屈指の技術者・クルル曹長の名前を口にしだしたタママの目を輝いていた。
その理由とは、
「ケロボールとタイムマシンは作れないくせに、それ以外はどんなマシンでも作れる技術力を持っているクルル曹長なら、きっと死人を生き返らせるマシンだって作れるかもしれないですぅ!」
タママの言う通り、クルルは悪戯目的のアイテムから星一つをまとめて消せる大量破壊兵器まで作れるトンでもない技術者だ。
クルルの作った物を実際に何度も使ったことがあり、時にはそれらの犠牲になったケロロ小隊員だからこそわかる話である。
これで万能アイテム・ケロボールやタイムマシンまで作れたのなら、神の領域すら侵せる男になっているかもしれない。
だからこそ、夢の話のような死人を生き返らせるマシンが作れると言っても、驚異的なテクノロジーをもつクルルなら説得力があるのだ。
そして、タママはそれを思い至ったわけである。
「クルル曹長ならできるかもしれない……いや、できなくても『作らせる』!
そのためなら、カレー百年分を奢ってでも、半殺しにしてでも……!!」
サツキを生き返すためなら、多大な代価を支払っても、小隊の仲間に暴力を振るうことも厭わない。
それだけ、タママの想いと期待は強いのだ。
「サッキーだけじゃない、フッキーやメイちゃんも生き返すことができれば、軍曹もサッキーも泣いて喜んでくれるです、ふふふふふ」
まだクルルが死人を生き返す装置が作れるわけでも、ましてやその過程に必要な殺し合いからの脱出もしていないのにも関わらず、タママには、ケロロとサツキが大喜びで自分を褒めてくれる明るい未来が見えていた。
サツキを蘇生できる方法を見つけたタママは、その考えに酔い、既に先程までの自己嫌悪と責任の重圧から解放されていた。
「ついでにコサッチやフッキーⅡが大事にしていたシンジって子も生き返してやりますか。
カジオーのようなゴミはもう一度生き返して、殺すのも面白そうですねぇ……タマタマタマタマ」
やがて、タママの中では『死』の概念は永遠の別れというイメージが薄れつつあった。
生き返すことが前提ならば、サツキの死も一時の別れのように思えるからであろう。
その妄想自体が『捕らぬ狸の皮算用』かもしれない可能性もあるが、タママはそんなことを考えたくはなかった。
少なくとも幸いだったのは、そういった妄想で沈んでいた気持ちを持ち直せたという所か。
「おっとっと、考えだけにフケっている場合じゃない。
サッキーは生き返せる希望が見えてきたからともかく、これからどうするかも考えなきゃ!」
ようやく、脱出後の希望から、現状について考えることに頭を切り替え、ニヤついた顔は真剣なものへと変わる。
なんとかグラついていた気分は落ち着き、物事を冷静に考えられるようになった。
手始めに、放送から状況に関する考察を張り巡らす。
まず、死者に関して。
いちおう、サツキたち以外の、朝比奈みくるを初めとする面識も無い死者たちの名前も覚えていたが、特に思うところは無いだろうと、考えないことにした。
次にコサッチこと小砂もサツキ同様に死んでしまったらしい。
サツキと比べれば愛着も無く、同盟を組んだ当初はいずれ殺す気もあった。
サツキと会ったことで殺す予定は立ち消え、殺意もどこかへ失せたのかもしれない。
だからこそ死んでしまったことが、今となってはちょっとだけ可哀相に思えた。
ついでに彼女の頭に引っ付いていたネブラはどうなったのか?
こっちは個人的な恨みがあるとはいえ、やはり生死は気になる。
小砂と一緒に果てたか、それともどこかでまだ生きているのか……参加者では無いネブラは死んでも放送で呼ばれないため、直接会わない限りタママには知る由も無い。
……実はついさっき、そのネブラ知らぬ内にタママの頭上を通っていったのは、余談である。
続いてアスカ、(タママから見れば)加持の手先である彼女も死んだようだ。
放送こそ同時に言われたが、死ぬ前にサツキを殺した可能性は十分にある。
もしそうなら、先の考えで生き返した後にもう一度殺すくらいの憎しみをタママは抱いている。
何にせよ、加持の手先は死に絶え、自分やケロロたちに降り懸かる火の粉は一つでも消えたと考えれば良いニュースにも聞こえる。
次にサツキ。
ケロロの次か同じくらいに守りたかった少女。
もし彼女を殺した犯人がまだ生きているとしたら、メイを殺したマスクの男同様、必ず見つけだしてこの手で殺してやるつもりだ。
そしてサツキは絶対に生き返してやろうと強く望んでいる。
タママにとっては、仇討ちと蘇生こそ、サツキへの責任の取り方だと思っているようだ。
最後に、ケロロ軍曹と冬月コウゾウ、ウォーズマンとスバル、そしてギュオー。
放送で呼ばれていないということは現時点では彼らが無事である証拠。
ウォーズマンも無事にスバルを助けられたようだ。
特にケロロが生きていたことは、それだけでタママの心の救いになった。
「軍曹まで死んじゃってたら僕はどうなってたことか……サッキーを失った時のような思いはコリゴリだから早めに合流したいですぅ」
ケロロたちが生きているとはいえ、まだまだ予断は許せない。
詳しい場所がわからない今は、二人が火災から逃れたのを信じつつ、できるだけ早く捜し出す必要がある。
「それに軍曹さんには、サッキーたちを生き返せるかもしれない方法を教えなきゃならないですね。
きっと軍曹さんもそれを聞けば、喜んでこの聞いてくれると思うですぅ」
ケロロと合流できた暁には、自分が思いついた死者を助けられる可能性を教えるつもりだ。
それは単純にケロロに褒められたいだけではなく、サツキを失って落ち込んでるかもしれないケロロに希望を持たせようと、タママなりの気遣いもあるのだ。
「しかし、今回だけで10人も死人が出た。
殺し合いに乗った連中がかなりいるみたいなのが厄介ですねぇ……」
殺し合いに乗った者である加地とアスカは死んだが、それでもまだまだ殺戮者はいる。
「僕や軍曹さんたちが生き残るためには、やっぱり殺し合いに乗った奴らを叩いておく必要があるみたいですぅ。
でも……」
メイを殺したらしいマスクの男、湖にいた見るからに危なそうな連中、そういった者たちは一目で殺し合いに乗っているかわかるので対処のしようがある、しかし……
「カジオーの時はなんとか尻尾を掴めましたけど、また似たような奴に出会ったら厄介この上ないですぅ……」
全て殺戮者が、公に殺し合いに乗っていることを言い張ってるとは限らない。
中には加地のようにコソコソと人の中に紛れて、裏で何かを企んでいる者だっている。
これで厄介なのが、人を上手く騙して仲間からの信頼を勝ち得ている場合もあること。
そのせいで、冬月に加持が怪しいことを告白しても、まともに取り合ってはもらえなかった。
「きっと今回死んだ人たちの中には、カジオーのような奴に騙されて殺された人だっているですぅ。
だからと言って、カジオーと同じく殺し合いに乗っている証拠を見つけられるとは限らないし……証拠が無かったら流石にやりづらいし……」
殺し合いに反対する集団の中に紛れ込み、チャンスがあれば襲いかかってくる。
さらに上手く立ち回られると、仕掛けられた罠により集団が一瞬で壊滅したり、疑心暗鬼を振り撒かれて仲間同士での争いに発展させられる危険がある。
その鱗片を味わったタママには、そういった『隠れた殺戮者』の怖さがわかる。
しかし、殺し合いに乗っていると証明できるものが無ければ、その者を殺せる大義名分が立たない。
何より、疑いだけが先行し、本当に殺し合いに乗ってなかった者を殺してしまったら眼も当てられない。
このように、積極的に殺し合いに乗っている者よりも、陰でコソコソやる者の方が遥かにやりづらいのだ。
そして、いくらなんでも直感などのような根拠の無い理由で殺戮者と決めつけるわけにもいかない。
されど、タママの結論は早かった。
「ま、いいや。
少しでも疑いのある奴は片っ端から叩いてしまえば良いですぅ」
……なんとも単純かつ短絡的な答えなのだろう。
ただ、タママとしても投げやりにこの答えを出したわけではない。
「ふっふっふ。
どうせ誤って殺し合いに乗ってない人を殺したとしても、根暗カレーが『生き返してくれる』、だからノープログレムですぅ。
それよりも大事に到る前に潰す、迷うぐらいなら斬るべきですぅ」
疑しきは皆殺し、中には殺し合いに乗ってなかった者が混じっていても後で生き返せば良い。
それが先の答えを出せた理由である。
確かに、合理的な面から見れば、疑いが少しでもある者は全て消した方が生き残る確率は高くなるだろう。
だが、脱出後に生き返すにしろ、罪の無い者まで巻き込み兼ねないこの考えは、人道面には大いに問題がある。
「僕は誰よりも早く、カジオーが悪い奴だと気づけたですぅ。
きっと僕の判断は間違えないハズですぅ、だから僕に疑われる方が悪いんですぅ」
タママは加持が殺し合いに乗っていたことを見抜けたことから、自分の判断に自信を持っていた。
それは過信と言ってもいいが、いちおうタママなりに、判断ミスを起こした時の対処は考えている。
「まぁ、仮に間違えちゃっても後で証拠をでっちあげちゃえば良いんですぅ。
大義名分さえ立てば、軍曹さんに言い訳ができるですぅ、ぬっふっふっふっふ」
一際、黒く笑うタママ。
自身の正義を証明できるものがあれば、誤殺も正義の行いになるのだ。
自分に不都合な事実は、揉み消して改竄でもしてしまえば良い。
それでもタママは仲間たちを守るため、脱出のため=正義と言い張れるのだろう。
その正義は限り無く黒かろうとも……
「僕は正しいんだ!
アイ アム ジャスティ~ス!」
ちなみに自分と同じ腹黒属性があるギュオーについてタママはこう語る。
「ギュギュッチも怪しいっちゃ怪しいですけど、カジオーの首輪を狙っていたところからして、どっちかっつーと脱出を目指してるかもしれないですね。
もちろん、警戒はするし殺し合いに乗ってたら叩くけど、そうでなければ戦いたくないなぁ」
同じ腹黒であり、気にいっているギュオーに関しては、できるだけ敵対したくないようである。
警戒は怠らない様子であるが、強まりもしていない。
簡潔に言うなら、ギュオーへの対応は今までと変わらないようだ。
以上でタママの行動方針はまとまった。
このゲームから脱出した後、クルルにサツキたちを生き返せる装置を作らせること。
脱出の過程で、障害になる者だけでなく疑いのある者もまとめて消すこと。
仮に罪無き者を誤殺しても、後で生き返らせる前提なので気にしてはならない。
それは別として、今やらなくてはならないことはケロロたちとの合流。
詳しい居場所はわからないので、火災地帯の周りを東に回り込んで捜し続けること、これは今まで通りである。
「よし、行くですぅ!」
考えがまとまった所で、タママは再び東へと駆け出した。
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走るタママの表情は、放送前や放送を聞いた直後よりも清々しいものになっている。
殺し合いが行われているこの場所においては不釣り合いなぐらいの輝く笑顔だ。
「なんだか身体がさっきよりも軽く感じるですぅー!」
放送によってケロロたちの生存が確認され、サツキと再開できる可能性を見つけたために、抱えていた緊張と悲壮感がほとんど抜け落ち、肩の荷が軽くなったのである。
「それになんだろう、心が高ぶってくる……」
死んだサツキを救えることへの希望によるものか、精神が高揚していくのがわかる。
さらに心は、サツキとケロロへの一途な思い、サツキを生き返すことへの使命感で胸が高鳴る。
「そうか、きっと――」
タママいわく、これすなわち。
「――この気持ち、まさしく 愛 ですぅ!!」
気持ち高ぶったタママは、どこぞのパイロットの如く『愛』を力強く叫んだのだった。
やがて、タママの視界にまだ火の手があまり回っていないB‐8が見えてきた。
タママはそこに仲間たちがいると信じて向かっていく。
胸の内に秘めた、サツキやケロロたちと笑いあえる明るい未来――理想を現実に近づけるために、悲しみから立ち上がったタママは走り続けるのだ。
-----------
しかし、彼は前だけしか見てないのではないか?
サツキを失った動揺と絶望の中で、慰める者も叱る者もいないまま、思いついた希望はいかほどのものか?
クルルに死者を蘇生させる装置を作らせ、道徳や倫理を無視すれば、それによって死者を救おうとする考えは、確かに良いことなのかもしれない。
だが実際にクルルがそんな装置を作ったところなどタママは見たことが無い。
つまり、タママが求める蘇生はできない可能性だってあるのだ。
子供のような甘えのためか、動揺がまだ残っているためか、タママはそこまで深く考えられない。
仮にそうなった時に、タママはどんなに悲しい思いをするだろうか……希望しか見たがらないタママは考えられない。
前を向いて進むことは大事だが、進むのに足元を見ないのは問題だ。
転べば大惨事になりかねない。
足元を注意してくれる者がいない今、未熟な兵士の先行きはとてつも無く不安だ……
【C-7 森林地帯(北東)/一日目・夜】
【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷、精神高揚
【持ち物】ディパック(水消費)、基本セット、グロック26(残弾0/11)と予備マガジン二つ@現実
【思考】
0、軍曹さんを守り、ゲームを止める。
妨害者及び殺し合いに乗っている疑いが少しでもある者を排除。
1、東回りに火事を避けて市街地に向かい、ケロロたちを捜す。
2、その後はギュオーやウォーズマンの下へ向かう?
3、草壁メイ・草壁サツキの仇を探し出し、殺す。
4、ウォーズマン、ギュオーに一目置く。
5、ギュオーを気に入っているが、警戒を怠らない。
6、脱出の後、クルルに頼んでサツキや親しき者を生き返させる装置でも作らせる。
7、6の案をケロロに伝える。
※色々あってドロロの存在をすっかり忘れています(色々なくても忘れたかもしれません)。
※加持がサツキから盗んだものをグロック26だと思っています。
※ネブラ入りディパックのミサイルを流れ弾だと思っています。
※少しでも疑いのある者を殺す過程で、誤殺してしまっても、証拠の捏造・隠滅+クルルによって生き返せるハズなので、問題無いと考えています。
*時系列順で読む
Back:[[彼等彼女等の行動(裏)]] Next:[[炎のキン肉マン]]
*投下順で読む
Back:[[耐えきれる痛みなどありはしない]] Next:[[揺るぎない力と意志貫くように(前編)]]
|[[走る二等兵・待つ獣神将]]|タママ二等兵|[[他人の話はちゃんと最後まで聞きましょう]]|
*鬼になるあいつは二等兵 ◆igHRJuEN0s
北に顕在していた市街地郡、その東側。
そこはB‐6を中心にした大火災により、地獄と化していた。
炎の勢いは尚も止まらず、轟々と燃え続けている。
さらに、炎が建物を焼くことによって発生した煙で地獄の中の様子は、高い場所でも無い限りほとんど伺えない。
この中にいたとしたら、火炎に対する消火手段も防御手段も持たなければ、炎や煙によって命が危ないだろう。
それぐらいのことは、若きケロン軍の兵士・タママ二等兵もわかっている。
彼はケロロ・草壁サツキ・冬月コウゾウが無事に火災地帯から移動していることを祈り、そして一秒でも早く合流または救出のために、火災地帯を東に遠回りすることを決めた。
そして今、C-6の境界を抜けて、だいたいC‐7に入った辺りだ。
「ハァハァ……軍曹さん、サッキー、フッキー……!」
時間が過ぎる度にタママの心に焦りが募っていく。
仲間たちが無事であることを強くは信じているが、一瞬でも気を緩ませば最悪のケースが頭に浮かんでくる不安に押し潰されそうだ。
おまけに距離はそれなりに離れているとはいえ、火災地帯からの熱気がタママをイライラさせる。
ケロン人は体質的に湿気を好み、乾燥が天敵なのだ。
つまり、地球人以上に乾燥に敏感であり、乾燥に対するストレスも地球人より大きい。
僅かながらも熱気に曝されている現状は、タママのストレスを加速させるには十分だった。
「早く……早く!
はやぐうううぅぅぅ!!」
タママは不安からくるストレスに対し、足をできるだけ早く動かすことで発散させようとする。
不安を忘れるために眼を血走らせ、恐持ての顔で唸りをあげる。
結果、土煙をあげて地面を蹴れるほど走るスピードが速くなり、狂気じみた表情で走る彼はまるで走る獣のようだった。
それだけタママが必死であることを理解してほしい。
そして、走る彼がC‐7の真ん中ぐらいに差し掛かった辺りだろうか、タママが第三回放送を耳にしたのは。
『全員聞こえているかな? まずは君たちにおめでとうと言ってあげるよ――』
「放送……ゴクッ」
主催者・タツヲの声が流れる放送に、タママは心臓の鼓動が早くなり、唾を飲んだ。
今までは放送一つでこれほど緊張することはなかった。
最初の放送はケロロやサツキたちが目の届く距離にいたため、親しき者だけは死なない安心感があった。
二回目の放送は加持の一方的な折檻(本人いわく仲間のため)をしていて、聞いた後はともかく、聞く前はそれほどの実感もなかった。
三回目にあたるこの放送を聞くのは、今までと状況が違う。
仲間たちとは離ればなれになり、いまだに合流は果たされていない。
つまり、自分の眼の届かない内に仲間たちが死んでいる可能性は大いに有り得る。
仲間たちがいたと思わしき公民館とその周辺が火事になっているのが、タママの不安を誘う。
(いいや、軍曹さんたちはきっと無事ですぅ。
僕はそれを信じるだけですぅ)
不安も弱気も振り払い、ただ愚直に仲間の生存を信じてタママは走り続けることを選んだ。
悠長に記録している暇があるくらいなら、ケロロたちとできるだけ早く捜した方が良いと思い、メモは取らずに走りながら聞き耳を立てることにした。
禁止エリアは、F-5・D-3・E-6。
いずれも気にするほど近場にできるわけでもなく、市街地にいるハズの仲間たちが困るような配置でもないだろうと安堵する。
問題はここからだ。
禁止エリアの発表の次は、死者の発表になる。
タママの胸の高鳴りがいっそう速くなる。
(神様、仏様、ご先祖様……一生のお願いですぅ、軍曹さんやサッキーとフッキーが無事でいるようにお願いしますですぅ)
死者の名前が呼ばれ始める前にタママは不安に押し潰されないように強く神頼みをした。
そして、いよいよ死者の名前が発表される。
これが一生の中で最も長い数分間になりそうだと、タママは予感していた。
『朝比奈みくる』
――知らない、どうでも良い、他に死人がいるならとっとと言ってくれ。
それが面識の無い朝比奈女史への、タママの感想である。
『加持リョウジ』
「ターマタマタマタマ!
ざまぁみやがれですぅ!!」
加持の死はわかっていたため、放送を聞かなくとも知っている。
しかし、加持は気にいらない奴もといサツキを殺そうとした人物。
それが死んだという喜びを思い出し、口に出して笑いたくなったのだ。
本人にその笑いを抑える気はまったくなく、なおもケロン人独特の笑い声を発しながら笑い続けるが……
「ターマタマタマタマ――」
『草壁サツキ』
「――タマタマ……タマ?」
……サツキの名前が呼ばれた瞬間、タママから笑い声が消え失せ、足を動かすスピードは急減速し、やがてゼロになった。
一気に突き飛ばされたような感覚を覚え、思考が覚束なくなる。
放送は、そんなタママのことを尻目に続けている。
いちおうの仲間だった小砂、冬月が保護したいと言っていた碇シンジ、加持の手下であるアスカ、彼らが死んだことも知る。
他の名前も聞いたことが無い連中に関してはどうでもよかった。
呼ばれていない所からして、ケロロと冬月がまだ生きているのは僥倖である、僥倖ではあるのだが今のタママはそれを素直に喜べない。
最後にタツヲからの警告、要約するなら「自分たちに刃向かおうとして死んだ者がいたので、同じことはしないように」ということを言っていたが、ほとんどタママの耳に入ることはなかった。
それらのことよりも、もっと大きなショックによってタママは動けずにいるのだ。
放送が終わると同時に思考が回復して現状を理解できるようになったタママは、その場で両腕と両膝を地面につけ、嗚咽を漏らしだした。
「うわああぁああぁん!
なんで死んじゃったんですかサッキーーーッ!!」
付き合った時間は短けれど、確かにサツキはタママにとっての掛け替えの無い友達であった。
ケロロに関する嫉妬で一方的な暴力な奮った愚かな自分を許してくれた優しい少女だった。
心の強さと広さを兼ね備え、妹思いの良い女の子だった。
しかし、その少女に会うことはもう二度と、ない。
放送をデタラメだと思いたくとも、死んだ加持も放送された所からして、嘘でも無いようだ。
以上のことを頭では理解しつつも、若輩の兵士タママの心は友の喪失を受け入れきれるほど強くはなかった。
彼はただただ泣き喚いた。
「サッキーーーッ!!」
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放送が終わって、泣きだしてからどれほど時間が経っただろう。
涙を流す度に体内の水分が失われていったため、身体がだいぶ乾いているのがわかる。
サツキ喪失のショックによるものか、今までの疲れがどっと押し寄せ、再び立ち上がる気力が湧かない。
知り合いの冬樹やガルルが死のうとも、たいした感情は抱かなかったが、ここにきて初めて『大切な友』を失ったがために大きな精神的ダメージを負った。
共に泣く者も慰める者も叱る者もいない中では、心の痛みを和らげることもできない。
そのように彼が弱っている中で突如、二つの聞き覚えのある声が聞こえてきた。
それらはうなだれるタママを嗤う。
『守りたかった女の子を守りきれなくて残念でした。トンだお笑い草ね、あははははははははは』
一つはアスカ。
放送で死を告げられたハズなのだが、何故かタママの耳には、彼女が気に障る言葉で嘲笑ってくるのがわかった。
『俺を引き離したからあの子は安全だとでも思ったか?
殺し合いに乗ったのは俺一人とは限らないんだぜ?』
もう一つは加持。
間違い無く死んだ男だが、口調こそ涼しいが腹の中は真っ黒であり、タママを責めてくる。
それ以前に死人が語りかけてくるなどありえないことだが、今のタママには、そんな細かいことを気にしていられるほどの心の余裕はなかった。
「黙れ……黙りやがれですぅ」
『あはははははは』
『ハハハハハハハ』
普段から高い声であるタママにしては低い声で言葉を吐き出し、血走った眼を涙の染みた地面から二つの声がする方向へギロリと向ける。
彼の放つ言葉にも眼力にも、激しい怒りと憎悪が宿っている。
しかし、タママの怒りなど知ったことかと言わんばかりに、加持とアスカは嘲笑い続ける。
それが余計にタママのハラワタを煮え繰り返させ、虫酸を走らせる。
まず、怒りを叩きつけるようにタママは言い放った。
「おめーらのような奴らのせいでサッキーが死んだんですぅ!」
『それは違うんじゃないか?
俺らのような殺し合いに乗った奴らからサツキ君を守れなかったのは君のせいだろ?』
「僕は、サッキーを守ろうとしてたですぅ!!」
『言い訳がましく「自分は頑張ったから仕方ないんだ」みたいなことをほざいてんじゃないわよ』
「むぐっ……」
『せめて俺を連れ込むなら、例の部屋に何かしら仕掛けがあることぐらい調べておけばよかったのにな。
君がそれを怠ったから、仲間と離ればなれになっちまって、サツキは命を落としたんだ。
しかもその後の、正義の味方気取りでメイの仇討ちなんか考えているから、その間にサツキは死んだんだろうな』
「……うるさい」
加持たちが言ったことは、尤もかもしれない。
今さら、取り返しのつかないミスに自分の行動を正当化するようなことを言っても虚しいだけだ。
加持の企てに気づき、仲間から一時的に引き離して腹の中を暴こうとしたものの、部屋にどこかへワープする仕掛けがあることに気づけなかったために、サツキたちとは遠くに引き離された。
彼女を守る者が減った分、サツキの生存率を引き下げられたのだろう。
一方のタママは離れた後も合流を考えず、メイの仇捜しに時間を費やしてしまった。
見方によればタママの過失だろう。
それでも、タママは加持たちにだけはミスの指摘をされたくなかったのだ。
『守りたい者は守れない、守れなかったら過失を認めず言い訳をする惨めな奴。
君は所詮その程度だってことだ』
『本当よね~。
果たして、こんな奴にサツキの死の責任なんて取れるのかしら?』
「黙れって言ってるんですよ、聞こえねーんですかこのゴミめらども……!」
自分を笑う二つの声に対して、タママは立ち上がり、血が出るほど拳を握りしめ、顔中にマスクメロンばりのあおすじを作る。
『まったく、こんな情けない奴に殺されたのなら、俺を殺した責任も取ってほしいぐらいだぜ、なぁタママ君?』
プッチーン
加持の煽り文句が、とうとうタママの怒髪天をついてしまった。
タママの口から放たれる、大地を揺るがしそうな怒声。
『おめーみてぇなウジムシどもの命と、サッキーの命を同じにするんじゃねぇ!!
おめーらのような不愉快な奴らは全員地獄に落ちればいいんだよぉ!!
さっさと消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ、消えろぉぉぉーーーッ!!』
轟く重機関銃のように言葉が放たれるが、それだけでタママの気は納まらない。
加持たちの声がした方へトドメにタママインパクトまで放とうとする。
止めてくれる者はこの場に誰一人いない。
煮えたぎる憎悪共にタママインパクトが放たれようとした、その時。
ドォーーーーーン
空気を震わせるほどの爆音。
爆音による驚きが憎悪を上回ったタママは、その場で仰向けに倒れた。
「なんですぅ!? 何が起こったんですぅ!!?」
身を起こしたタママが周囲を確認すると、火災地帯の中のある場所が一際激しく黒煙を吐いて場所があるのを発見した。
位置関係的にはデパートの辺り、この場所である者たちが因縁に決着をつけようとしていたのだが、それはまた別の話。
ともかくとして、皮肉にもデパートの大爆発によってタママは我に返り、多少なりとも精神も安定してきた。
「ただのガス爆発ですかね?
それとも、あそこで殺し合いが……」
あそこで何が起きているのかを冷静に考えようとする。
事故なら気にすることも無いが、殺し合いが起きているのなら大変だ。
ケロロと冬月が巻き込まれている可能性があるからだ。
それを確かめるべく、中の様子を伺いたいのだが、かなりの距離がある上に炎と煙が邪魔でよく見えない。
しばらくすると、何かの飛翔体がタママの直上数10mを通っていった。
「流れ弾!?」
夜の暗さも手伝って、それをあまり視界に捉えられなかったタママは、飛翔体をただの流れ弾だと思うことにした。
実際は、ミサイルにディパックがぶら下がっているのだが、タママをそれらを確認しきれなかった。
例の飛翔体は湖の方へ飛んでいったことだけを確認して、タママは再び自分の置かれてる状況の確認に移る。
「……あれは幻だったんですか?」
先程まで語りかけてきた加持たちの声はいつの間にか消えていた。辺りに誰かがいる気配も無い。
常識的に考えれば、もう死んでいる二人が話し掛けてくること事態ありえない、死人に口なしだ。
「ハァ……何をやってんたんですかね僕は……」
幻に惑わされ、幻相手にトサカにきていたさっきの自分に馬鹿馬鹿しさを感じ、ため息を吐く。
おそらく、サツキを失ったショックと疲れで幻聴でも聞いたのだろう……タママはそう処理することにした。
あの声が幻聴だとわかるようになった点でも、タママは落ち着きを取り戻している証拠だろう。
しかし、落ち着きは取り戻せても、サツキを失った悲しみはどうにもならない。
「くぅ、サッキー……妹まで失った上にあの幼さで死んじゃうなんて、かわいそうに……」
前の放送を聞いて、妹が死んだことを知った彼女はどんなに悲しい顔をしたか。
死ぬ時はどんなに痛かっただろうか……
考えれば考えるほど、タママの胸が苦しくなってくる。
また涙を流したい気分になってきた……
そこへ(幻聴だったが)加持たちの言葉がのしかかってくる。
――守りたい者は守れない、守れなかったら過失を認めたがらず言い訳をする惨めな奴。
君は所詮その程度だってことだ
――こんな奴にサツキの死の責任なんて取れるのかしら?
「うう、奴らは勘に障るんですけど、サッキーを守れなかったのは事実だし、僕にサッキーを死なせてしまった責任を背負うことができるかと言うと何も言えないですぅ……」
加持たちの幻の前では強く否定したが、本当はサツキが死んだ可能性の一つとして自分のミスが絡んでいると思い、強く責任も感じている。
そして、自分がサツキが生存できるを可能性を大なり小なり殺したことに、必要以上の重圧を感じていた。
「僕のせいで……やっぱり僕のせいでサッキーはもう戻らない……うぐぐっ」
サツキの微笑む顔を、声をもう一度聞きたいと思っていた。
彼女が死んだ今、それはもはや叶わぬ。
……ふと、タママは思う。
それは本当に叶わないことなのか?
「いっそのこと、優勝を目指してみる?」
この殺し合いで優勝すれば、サツキを生き返すことができるかもしれない。
だが、その考えはすぐに切って捨てた。
「それは無理ですぅ、僕に愛する軍曹さんを殺せるわけがないですぅ……」
仮に、サツキと共にケロロが生き返る前提で殺し合いに乗るにしろ、タママにはケロロを殺せる自信・心構えはありはしない。
例え、自分が手を下さず、知らないどこかでケロロが死んでしまうことも、タママには許容できない。
さらに優勝者には願いを叶えると言った主催者の技術力も不確かな物であり、信頼できるかどうかは怪しいものだ。
よって、殺し合いに乗る意思は生まれなかった。
「……だけど、サッキーには生きて欲しかったですぅ。
もっともっとお話がしたかったですぅ……」
それでもまだ、サツキとの再開を諦められない、死を認めたくない。
なら、どうする?
普通なら、死んだ以上、その者と生きて再開することは諦めざるおえないのだ……普通なら。
「ああーーーっ! 閃いたですぅ!!」
そうして悩んでいたタママは一つの答えを見つけ出したのだ。
「根暗カレー……じゃなくてクルル曹長の存在をポッキリ忘れていたですぅ」
急にケロン軍屈指の技術者・クルル曹長の名前を口にしだしたタママの目を輝いていた。
その理由とは、
「ケロボールとタイムマシンは作れないくせに、それ以外はどんなマシンでも作れる技術力を持っているクルル曹長なら、きっと死人を生き返らせるマシンだって作れるかもしれないですぅ!」
タママの言う通り、クルルは悪戯目的のアイテムから星一つをまとめて消せる大量破壊兵器まで作れるトンでもない技術者だ。
クルルの作った物を実際に何度も使ったことがあり、時にはそれらの犠牲になったケロロ小隊員だからこそわかる話である。
これで万能アイテム・ケロボールやタイムマシンまで作れたのなら、神の領域すら侵せる男になっているかもしれない。
だからこそ、夢の話のような死人を生き返らせるマシンが作れると言っても、驚異的なテクノロジーをもつクルルなら説得力があるのだ。
そして、タママはそれを思い至ったわけである。
「クルル曹長ならできるかもしれない……いや、できなくても『作らせる』!
そのためなら、カレー百年分を奢ってでも、半殺しにしてでも……!!」
サツキを生き返すためなら、多大な代価を支払っても、小隊の仲間に暴力を振るうことも厭わない。
それだけ、タママの想いと期待は強いのだ。
「サッキーだけじゃない、フッキーやメイちゃんも生き返すことができれば、軍曹もサッキーも泣いて喜んでくれるです、ふふふふふ」
まだクルルが死人を生き返す装置が作れるわけでも、ましてやその過程に必要な殺し合いからの脱出もしていないのにも関わらず、タママには、ケロロとサツキが大喜びで自分を褒めてくれる明るい未来が見えていた。
サツキを蘇生できる方法を見つけたタママは、その考えに酔い、既に先程までの自己嫌悪と責任の重圧から解放されていた。
「ついでにコサッチやフッキーⅡが大事にしていたシンジって子も生き返してやりますか。
カジオーのようなゴミはもう一度生き返して、殺すのも面白そうですねぇ……タマタマタマタマ」
やがて、タママの中では『死』の概念は永遠の別れというイメージが薄れつつあった。
生き返すことが前提ならば、サツキの死も一時の別れのように思えるからであろう。
その妄想自体が『捕らぬ狸の皮算用』かもしれない可能性もあるが、タママはそんなことを考えたくはなかった。
少なくとも幸いだったのは、そういった妄想で沈んでいた気持ちを持ち直せたという所か。
「おっとっと、考えだけにフケっている場合じゃない。
サッキーは生き返せる希望が見えてきたからともかく、これからどうするかも考えなきゃ!」
ようやく、脱出後の希望から、現状について考えることに頭を切り替え、ニヤついた顔は真剣なものへと変わる。
なんとかグラついていた気分は落ち着き、物事を冷静に考えられるようになった。
手始めに、放送から状況に関する考察を張り巡らす。
まず、死者に関して。
いちおう、サツキたち以外の、朝比奈みくるを初めとする面識も無い死者たちの名前も覚えていたが、特に思うところは無いだろうと、考えないことにした。
次にコサッチこと小砂もサツキ同様に死んでしまったらしい。
サツキと比べれば愛着も無く、同盟を組んだ当初はいずれ殺す気もあった。
サツキと会ったことで殺す予定は立ち消え、殺意もどこかへ失せたのかもしれない。
だからこそ死んでしまったことが、今となってはちょっとだけ可哀相に思えた。
ついでに彼女の頭に引っ付いていたネブラはどうなったのか?
こっちは個人的な恨みがあるとはいえ、やはり生死は気になる。
小砂と一緒に果てたか、それともどこかでまだ生きているのか……参加者では無いネブラは死んでも放送で呼ばれないため、直接会わない限りタママには知る由も無い。
……実はついさっき、そのネブラ知らぬ内にタママの頭上を通っていったのは、余談である。
続いてアスカ、(タママから見れば)加持の手先である彼女も死んだようだ。
放送こそ同時に言われたが、死ぬ前にサツキを殺した可能性は十分にある。
もしそうなら、先の考えで生き返した後にもう一度殺すくらいの憎しみをタママは抱いている。
何にせよ、加持の手先は死に絶え、自分やケロロたちに降り懸かる火の粉は一つでも消えたと考えれば良いニュースにも聞こえる。
次にサツキ。
ケロロの次か同じくらいに守りたかった少女。
もし彼女を殺した犯人がまだ生きているとしたら、メイを殺したマスクの男同様、必ず見つけだしてこの手で殺してやるつもりだ。
そしてサツキは絶対に生き返してやろうと強く望んでいる。
タママにとっては、仇討ちと蘇生こそ、サツキへの責任の取り方だと思っているようだ。
最後に、ケロロ軍曹と冬月コウゾウ、ウォーズマンとスバル、そしてギュオー。
放送で呼ばれていないということは現時点では彼らが無事である証拠。
ウォーズマンも無事にスバルを助けられたようだ。
特にケロロが生きていたことは、それだけでタママの心の救いになった。
「軍曹まで死んじゃってたら僕はどうなってたことか……サッキーを失った時のような思いはコリゴリだから早めに合流したいですぅ」
ケロロたちが生きているとはいえ、まだまだ予断は許せない。
詳しい場所がわからない今は、二人が火災から逃れたのを信じつつ、できるだけ早く捜し出す必要がある。
「それに軍曹さんには、サッキーたちを生き返せるかもしれない方法を教えなきゃならないですね。
きっと軍曹さんもそれを聞けば、喜んでこの聞いてくれると思うですぅ」
ケロロと合流できた暁には、自分が思いついた死者を助けられる可能性を教えるつもりだ。
それは単純にケロロに褒められたいだけではなく、サツキを失って落ち込んでるかもしれないケロロに希望を持たせようと、タママなりの気遣いもあるのだ。
「しかし、今回だけで10人も死人が出た。
殺し合いに乗った連中がかなりいるみたいなのが厄介ですねぇ……」
殺し合いに乗った者である加地とアスカは死んだが、それでもまだまだ殺戮者はいる。
「僕や軍曹さんたちが生き残るためには、やっぱり殺し合いに乗った奴らを叩いておく必要があるみたいですぅ。
でも……」
メイを殺したらしいマスクの男、湖にいた見るからに危なそうな連中、そういった者たちは一目で殺し合いに乗っているかわかるので対処のしようがある、しかし……
「カジオーの時はなんとか尻尾を掴めましたけど、また似たような奴に出会ったら厄介この上ないですぅ……」
全て殺戮者が、公に殺し合いに乗っていることを言い張ってるとは限らない。
中には加地のようにコソコソと人の中に紛れて、裏で何かを企んでいる者だっている。
これで厄介なのが、人を上手く騙して仲間からの信頼を勝ち得ている場合もあること。
そのせいで、冬月に加持が怪しいことを告白しても、まともに取り合ってはもらえなかった。
「きっと今回死んだ人たちの中には、カジオーのような奴に騙されて殺された人だっているですぅ。
だからと言って、カジオーと同じく殺し合いに乗っている証拠を見つけられるとは限らないし……証拠が無かったら流石にやりづらいし……」
殺し合いに反対する集団の中に紛れ込み、チャンスがあれば襲いかかってくる。
さらに上手く立ち回られると、仕掛けられた罠により集団が一瞬で壊滅したり、疑心暗鬼を振り撒かれて仲間同士での争いに発展させられる危険がある。
その鱗片を味わったタママには、そういった『隠れた殺戮者』の怖さがわかる。
しかし、殺し合いに乗っていると証明できるものが無ければ、その者を殺せる大義名分が立たない。
何より、疑いだけが先行し、本当に殺し合いに乗ってなかった者を殺してしまったら眼も当てられない。
このように、積極的に殺し合いに乗っている者よりも、陰でコソコソやる者の方が遥かにやりづらいのだ。
そして、いくらなんでも直感などのような根拠の無い理由で殺戮者と決めつけるわけにもいかない。
されど、タママの結論は早かった。
「ま、いいや。
少しでも疑いのある奴は片っ端から叩いてしまえば良いですぅ」
……なんとも単純かつ短絡的な答えなのだろう。
ただ、タママとしても投げやりにこの答えを出したわけではない。
「ふっふっふ。
どうせ誤って殺し合いに乗ってない人を殺したとしても、根暗カレーが『生き返してくれる』、だからノープログレムですぅ。
それよりも大事に到る前に潰す、迷うぐらいなら斬るべきですぅ」
疑しきは皆殺し、中には殺し合いに乗ってなかった者が混じっていても後で生き返せば良い。
それが先の答えを出せた理由である。
確かに、合理的な面から見れば、疑いが少しでもある者は全て消した方が生き残る確率は高くなるだろう。
だが、脱出後に生き返すにしろ、罪の無い者まで巻き込み兼ねないこの考えは、人道面には大いに問題がある。
「僕は誰よりも早く、カジオーが悪い奴だと気づけたですぅ。
きっと僕の判断は間違えないハズですぅ、だから僕に疑われる方が悪いんですぅ」
タママは加持が殺し合いに乗っていたことを見抜けたことから、自分の判断に自信を持っていた。
それは過信と言ってもいいが、いちおうタママなりに、判断ミスを起こした時の対処は考えている。
「まぁ、仮に間違えちゃっても後で証拠をでっちあげちゃえば良いんですぅ。
大義名分さえ立てば、軍曹さんに言い訳ができるですぅ、ぬっふっふっふっふ」
一際、黒く笑うタママ。
自身の正義を証明できるものがあれば、誤殺も正義の行いになるのだ。
自分に不都合な事実は、揉み消して改竄でもしてしまえば良い。
それでもタママは仲間たちを守るため、脱出のため=正義と言い張れるのだろう。
その正義は限り無く黒かろうとも……
「僕は正しいんだ!
アイ アム ジャスティ~ス!」
ちなみに自分と同じ腹黒属性があるギュオーについてタママはこう語る。
「ギュギュッチも怪しいっちゃ怪しいですけど、カジオーの首輪を狙っていたところからして、どっちかっつーと脱出を目指してるかもしれないですね。
もちろん、警戒はするし殺し合いに乗ってたら叩くけど、そうでなければ戦いたくないなぁ」
同じ腹黒であり、気にいっているギュオーに関しては、できるだけ敵対したくないようである。
警戒は怠らない様子であるが、強まりもしていない。
簡潔に言うなら、ギュオーへの対応は今までと変わらないようだ。
以上でタママの行動方針はまとまった。
このゲームから脱出した後、クルルにサツキたちを生き返せる装置を作らせること。
脱出の過程で、障害になる者だけでなく疑いのある者もまとめて消すこと。
仮に罪無き者を誤殺しても、後で生き返らせる前提なので気にしてはならない。
それは別として、今やらなくてはならないことはケロロたちとの合流。
詳しい居場所はわからないので、火災地帯の周りを東に回り込んで捜し続けること、これは今まで通りである。
「よし、行くですぅ!」
考えがまとまった所で、タママは再び東へと駆け出した。
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走るタママの表情は、放送前や放送を聞いた直後よりも清々しいものになっている。
殺し合いが行われているこの場所においては不釣り合いなぐらいの輝く笑顔だ。
「なんだか身体がさっきよりも軽く感じるですぅー!」
放送によってケロロたちの生存が確認され、サツキと再開できる可能性を見つけたために、抱えていた緊張と悲壮感がほとんど抜け落ち、肩の荷が軽くなったのである。
「それになんだろう、心が高ぶってくる……」
死んだサツキを救えることへの希望によるものか、精神が高揚していくのがわかる。
さらに心は、サツキとケロロへの一途な思い、サツキを生き返すことへの使命感で胸が高鳴る。
「そうか、きっと――」
タママいわく、これすなわち。
「――この気持ち、まさしく 愛 ですぅ!!」
気持ち高ぶったタママは、どこぞのパイロットの如く『愛』を力強く叫んだのだった。
やがて、タママの視界にまだ火の手があまり回っていないB‐8が見えてきた。
タママはそこに仲間たちがいると信じて向かっていく。
胸の内に秘めた、サツキやケロロたちと笑いあえる明るい未来――理想を現実に近づけるために、悲しみから立ち上がったタママは走り続けるのだ。
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しかし、彼は前だけしか見てないのではないか?
サツキを失った動揺と絶望の中で、慰める者も叱る者もいないまま、思いついた希望はいかほどのものか?
クルルに死者を蘇生させる装置を作らせ、道徳や倫理を無視すれば、それによって死者を救おうとする考えは、確かに良いことなのかもしれない。
だが実際にクルルがそんな装置を作ったところなどタママは見たことが無い。
つまり、タママが求める蘇生はできない可能性だってあるのだ。
子供のような甘えのためか、動揺がまだ残っているためか、タママはそこまで深く考えられない。
仮にそうなった時に、タママはどんなに悲しい思いをするだろうか……希望しか見たがらないタママは考えられない。
前を向いて進むことは大事だが、進むのに足元を見ないのは問題だ。
転べば大惨事になりかねない。
足元を注意してくれる者がいない今、未熟な兵士の先行きはとてつも無く不安だ……
【C-7 森林地帯(北東)/一日目・夜】
【タママ二等兵@ケロロ軍曹】
【状態】疲労(大)、全身裂傷(処置済み)、肩に引っ掻き傷、頬に擦り傷、精神高揚
【持ち物】ディパック(水消費)、基本セット、グロック26(残弾0/11)と予備マガジン二つ@現実
【思考】
0、軍曹さんを守り、ゲームを止める。
妨害者及び殺し合いに乗っている疑いが少しでもある者を排除。
1、東回りに火事を避けて市街地に向かい、ケロロたちを捜す。
2、その後はギュオーやウォーズマンの下へ向かう?
3、草壁メイ・草壁サツキの仇を探し出し、殺す。
4、ウォーズマン、ギュオーに一目置く。
5、ギュオーを気に入っているが、警戒を怠らない。
6、脱出の後、クルルに頼んでサツキや親しき者を生き返させる装置でも作らせる。
7、6の案をケロロに伝える。
※色々あってドロロの存在をすっかり忘れています(色々なくても忘れたかもしれません)。
※加持がサツキから盗んだものをグロック26だと思っています。
※ネブラ入りディパックのミサイルを流れ弾だと思っています。
※少しでも疑いのある者を殺す過程で、誤殺してしまっても、証拠の捏造・隠滅+クルルによって生き返せるハズなので、問題無いと考えています。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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